説明

アルミナ多孔体の製造方法

【課題】マイクロメートルサイズの気孔を有し、気孔率が60%を越える多孔体で、耐火物としての使用に耐えうる少なくとも数MPaの圧縮強度を有するアルミナ多孔体を製造する。
【解決手段】平板状アルミナ粒子に焼結助剤および造孔材を混ぜ合わせて金型にいれて成形し、その成形体を加熱して出発アルミナ多孔体を製造する。その後、得られたアルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液、あるいは硝酸マグネシウム水溶液に真空下で十分に浸漬させる。アルミナ多孔体を引き上げて乾燥後、再度その多孔体試料を高温焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ多孔体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアルミナ多孔体は、異方性を有しないアルミナ粒子あるいは金属アルコキシドなどのアルミナ源を加熱することで、高い気孔率を有するアルミナ多孔体が製造されてきた。しかし気孔径がナノオーダーで小さい場合、高温の耐火物として使用すると気孔が消失しやすいことや、多孔体の強度を補うために不純物を比較的多く含む場合、高温(熱間)強度が低下して使用できなくなるといった問題点があった。そのため現在までに高い耐熱性のある断熱アルミナ多孔体の製造までには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−058818号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Hashimoto and A. Yamaguchi, “Synthesis of α-Al2O3Platelets Using Sodium Sulfate Flux,” J. Mater. Res., 14 [12] 4667-4672 (1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、耐熱性が高く(不純物を出来るだけ含まず)、空気を介する伝熱でその断熱性に効果があるとされるマイクロメートルサイズの大きさの気孔を出来るだけ多く(目標は気孔率60%以上)有する高気孔率多孔体の製造が求められている。しかしながら、通常の異方性を有しないアルミナ粒子を用いた場合、経験的に数MPaの強度を有し60%以上の気孔率を有するアルミナ多孔体の製造は極めて難しいとされている。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みたもので、高い気孔率を有し、しかも高い強度を有するアルミナ多孔体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、異方性アルミナ粒子に焼結助剤および造孔材を混ぜ合わせて金型にいれて成形し、その成形体を加熱して出発アルミナ多孔体を製造する工程と、得られたアルミナ多孔体を溶液に浸漬させる工程と、溶液からアルミナ多孔体を引き上げて乾燥後、再度そのアルミナ多孔体を焼成する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
異方性アルミナ粒子を用いた高気孔率アルミナ多孔体の作製と、その後の溶液浸漬処理および再加熱により、高気孔率かつ高強度のアルミナ多孔体を製造することができる。例えば、マイクロメートルサイズの気孔を有し、気孔率が60%を越える多孔体で、耐火物としての使用に耐えうる少なくとも数MPaの圧縮強度を有するアルミナ多孔体を製造することができる。
【0009】
なお、請求項1に記載のアルミナ多孔体を溶液に浸漬させる工程は、請求項2に記載の発明のように、アルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液あるいは硝酸マグネシウム水溶液に浸漬させる工程とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】平板状アルミナ粒子のSEM観察写真である。
【図2】アルミナ多孔体の相対密度と圧縮強度の測定結果を示す図である。
【図3】アルミナ多孔体に対する溶液処理再加熱のフローシートを示す図である。
【図4】アルミニウムイソプロポキシド溶液処理したアルミナ多孔体の相対密度と圧縮強度の測定結果を示す図である。
【図5】硝酸マグネシウム溶液処理したアルミナ多孔体の相対密度と圧縮強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、使用した平板状アルミナ粒子の概観の図面代用写真を示す。このアルミナ粒子は特許文献1および非特許文献2に関連する方法によって自作した。異方性アルミナ粒子の形状は板状でその直径5-10マイクロメートル、アスペクト比(直径/厚み)は5-10である。
【0012】
特許文献1:板状Al2O3粒およびその製造方法(特開2001−058818号公報)
非特許文献1:S. Hashimoto and A. Yamaguchi, “Synthesis of α-Al2O3Platelets Using Sodium Sulfate Flux,” J. Mater. Res., 14 [12] 4667-4672 (1999).
次に、図1の平板状アルミナ粒子:85mass%に対し、焼結助剤として10mass%のサブミクロン粒子径のアルミナ、および造孔材として平均径が10マイクロメートル前後のコーンスターチを5mass%加えてよく混合し、その混合粉末を金型に詰め1-3MPaの加圧力で成形体とした。その成形体を電気炉にて1400 ℃で1時間加熱することで出発アルミナ多孔体を得た。
【0013】
図2に、上記で得られたアルミナ多孔体の相対密度と圧縮強度を測定した結果を示す。金型を用いた成形加圧力が1 MPaの場合、その後の焼成で気孔率が75 %のアルミナ多孔体を得ることができた。その場合の多孔体の圧縮強度は0.8 MPaである。加圧力の増加と共に、相対密度および圧縮強度は増加した。加圧力が3 MPaの場合、アルミア多孔体の気孔率は64.5 %で、その圧縮強度は4.3 MPaであった。以後の実験では、加圧力を1MPaとし気孔率が75 %で、圧縮強度が0.8 MPaであるアルミナ多孔体を使用した。
【0014】
この後、得られたアルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液、あるいは硝酸マグネシウム水溶液に浸漬させ、水溶液からアルミナ多孔体を引き上げて乾燥後、再度そのアルミナ多孔体を焼成する。図3に、そのフローシートを示す。
【0015】
アルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液に浸漬させる場合、水酸化アルミニウムゲル溶液の作製のために、アルミニウムイソプロポキシドを温水に溶解し、硝酸を用いてpH2の環境に保持した。アルミニウムイソプロポキシドを温水に溶かす場合に種々の濃度となるように溶液を調製し、溶液毎に真空脱気しながらアルミナ多孔体を浸漬した。0.5時間浸漬後、多孔体を引き上げ、24時間の室温乾燥を行った。乾燥後、1400 ℃で1時間の再加熱を行った。
【0016】
図4に、上記で得られた多孔体の相対密度と圧縮強度の測定結果を示す。アルミニウムイソプロポキシドの濃度が増すと、圧縮強度が徐々に増加し、濃度が0.5mol/lの場合には、未溶液処理の場合の0.8 MPaから1.5 MPaに増加した。その場合の相対密度の増加は1%程度であり、わずかの相対密度の上昇で圧縮強度は2倍近くになった。
【0017】
また、アルミナ多孔体を硝酸マグネシウム水溶液に浸漬させる場合には、硝酸マグネシウム水和物を水に溶かし種々の濃度に調製した溶液に、アルミナ多孔体を真空脱気しながら30分間浸漬し、引き上げて後、上記と同様に乾燥、再加熱を行った。得られた多孔体の相対密度と圧縮強度を調べた。
【0018】
図5に、上記で得られた多孔体の相対密度と圧縮強度の測定結果を示す。硝酸マグネシウム溶液の濃度が0.1mol/lの場合に、圧縮強度は1.6 MPa強となり、未処理のアルミナ多孔体と比較した場合、強度は2倍を超えた。この場合の相対密度の増加は1.3%であり、硝酸マグネシウム水溶液処理の場合でも、相対密度を高めることなく強度を強化できた。ただし、濃度が0.1mol/l以降の場合、例えば0.25mol/lでは、0.1mol/lの場合とほとんど変わらなかった。効果には飽和値がある。
【0019】
以上述べたように、上記実施例では、平板状アルミナ粒子に焼結助剤および造孔材を混ぜ合わせて金型にいれて成形し、その成形体を加熱して出発アルミナ多孔体を製造する。その後、得られたアルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液、あるいは硝酸マグネシウム水溶液に真空下で十分に浸漬させる。アルミナ多孔体を引き上げて乾燥後、再度その多孔体試料を高温焼成する。このことで、気孔率をほとんど変えずに初期破壊強度が溶液浸漬処理加熱前の2倍の値を持つアルミナ多孔体を製造できる。換言すれば、平板状アルミナ粒子(広義には異方性アルミナ粒子)を用いることでこれまで達成が困難であった気孔径が数マイクロメートルの大きさで高い気孔率を有し、しかも高い強度を有する多孔体を製造できる。高気孔率かつ高強度を有し、そして高温耐火性に優れるアルミナ多孔体は、製鋼用のキャスタブル耐火物の断熱骨材として使用できる。
【0020】
なお、本発明で用いる平板状アルミナ粒子は、アルミナ粒子の粒子形態に異方性(平板状形態)があればよく、市販の板状アルミナ粒子を用いてもかまわない。また、水溶液も上記実施例に制限されるものではなく、溶液処理によりその後の加熱でアルミナと強固な化合物を形成することにより粒子間の結合が強化されるという趣旨を逸脱しない範囲で処理溶液を適宜変更して適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性アルミナ粒子に焼結助剤および造孔材を混ぜ合わせて金型にいれて成形し、その成形体を加熱して出発アルミナ多孔体を製造する工程と、
得られたアルミナ多孔体を溶液に浸漬させる工程と、
溶液からアルミナ多孔体を引き上げて乾燥後、再度そのアルミナ多孔体を焼成する工程と、を有することを特徴とするアルミナ多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ多孔体を溶液に浸漬させる工程は、前記アルミナ多孔体を水酸化アルミニウムゲル水溶液、あるいは硝酸マグネシウム水溶液に浸漬させる工程であることを特徴とする請求項1に記載のアルミナ多孔体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−57525(P2011−57525A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211708(P2009−211708)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】