説明

アルミニウムろう付け用組成物

【課題】 水系アルミニウムろう付け用組成物において、少ないバインダの使用量でもアルミニウム部材への密着性を良好に確保する。
【解決手段】 (a)メタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物と、(b)非反応性フラックスと、(c)アルコールとを含有するアルミニウムろう付け用組成物において、上記成分(a)と(b)の合計量に対する成分(a)の含有量(固形分換算)が2重量%以上で10重量%未満であり、上記成分(a)の重合体がメタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルと不飽和カルボン酸などとの共重合体であり、そのガラス転移温度(Tg)が50℃以上で105℃以下であるアルミニウムろう付け用組成物である。バインダのTgを従来より高めに設計することで、少ないバインダの使用量でも密着性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系のアルミニウムろう付け用組成物に関して、少ないバインダの使用量でもアルミニウム部材への密着性を良好に向上できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車両に搭載されるエバポレータ、コンデンサ等によって代表される自動車用アルミニウム熱交換器に用いられるアルミニウム又はアルミニウム合金製の部材をろう付けする際には、ろう付け用のフラックス又はフラックスとろう材に加え、さらに接合部に均一に付着させるためのバインダを混合し、ろう付け部に塗布した後、組み付け加工し、加熱下にてろう付け作業が行われていた。
【0003】
フラックスとバインダとアルコールの混合物を水で希釈した水系のアルミニウムろう付け用組成物の従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
ガラス転移温度(Tg)が−30℃〜60℃、酸価(乾燥時)が20〜80のメタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物(バインダ)と、フラックスと、水溶性で揮発性を有するアルコール或はさらにろう材とを含み、水の希釈で固形分濃度を10〜50重量%とした水系アルミニウムろう付け用組成物が開示されている(請求項1〜3)。
上記組成物の調製例としては、バインダ10部とフラックス90部(又はフラックス60部とろう材30部)の混合物に、所定のアルコールを10〜20部添加したろう付け用組成物が記載されている(段落42、表1)。
特に、比較例2には、Tg=80℃のメタクリル酸エステル系共重合体よりなるバインダが開示され(段落38、表1)、バインダとフラックスの含有率はバインダ:フラックス=10重量部:90重量部である。
【0004】
(2)特許文献2
Tgが0℃を越えて100℃以下であるメタクリル酸エステル系共重合体からなるバインダを含有するろう付け用組成物が開示されている(請求項1〜4)。
特に、実施例5〜6には、Tg=55℃又は79℃のバインダが開示され(段落30〜31)、バインダ(固形分)とフラックスの含有率はバインダ:フラックス=100重量部:10重量部である(段落26)。
【0005】
(3)特許文献3
水分散性のカチオン性ポリマー微粒子とフラックスを水に分散させたアルミニウムろう付け用組成物が開示されている(請求項1と5)。この組成物はその製造工程を見ても(段落40)、アルコールを含まず濡れ性が悪い。
上記カチオン性ポリマー微粒子は重合性モノマー(メタクリル酸エステル系モノマーを単独、或はアクリル酸エステル系モノマーやスチレン系モノマーを混合して用いることが好ましい)を乳化重合させて得られ(段落25〜27)、当該微粒子のガラス転移温度は−50℃〜100℃程度であることが記載されている(段落28)。
但し、カチオン性ポリマー微粒子の製造例では、Tgは19℃又は0.4℃であり(段落37〜38)、ろう付け用組成物の実施例では、バインダ(固形分)とフラックスの含有率はバインダ:フラックス(重量比)=1:5又は1:9である(段落40と段落42)。
【0006】
(4)特許文献4
フラックスとポリビニルブチラール樹脂(ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドの反応生成物;段落16)のバインダと有機溶剤とを混合したろう付け用組成物、或は、上記フラックスとバインダを混合したのち剪断してフラックス粒子の均一分散物となし、有機溶剤を添加したろう付け用組成物が開示されている(請求項1、段落10〜11)。
望ましい有機溶剤として、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコールが例示される(段落17)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−153393号公報
【特許文献2】特開2005−28400号公報
【特許文献3】特開2007−175746号公報
【特許文献4】特表2005−523163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、アルミニウム部材への密着性を充分に確保するためには、ろう付け用組成物中のバインダの使用量を高める必要がある。
例えば、上記特許文献1ではバインダ10部とフラックス90部の混合物にアルコールを添加してろう付け用組成物を調製しており(段落42)、特許文献2ではフラックス10重量部にバインダ100重量部を配合し(段落26)、さらに特許文献3ではバインダとフラックスの含有比率はバインダ:フラックス(重量比)=1:5又は1:9である(段落40〜42)。
以上の点から明らかなように、バインダとフラックスとの合計に占めるバインダの割合は少なくとも10重量%、或はそれ以上の配合量となっている。
しかしながら、バインダの配合量を上げると密着性は増すが、これに伴ってろう付け後の残渣や黒変が生じてろう付け性が低下する問題がある。
特に近年、例えば、車両用熱交換器の軽量化や小型化が進み、より複雑な構造をとる場合にも、ろう付け用組成物の懸濁液をアルミニウム部材の表面に均一塗布して、ろう付け性を向上することが求められる状況下では、バインダの配合量とアルミニウム部材への密着性という2律背反する課題を克服することが強く要請される。
【0009】
本発明は、水系アルミニウムろう付け用組成物において、少ないバインダの使用量でもアルミニウム部材への密着性を良好に確保することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、先に、特願2007−324063号で、メタクリル酸エステル系重合体(バインダ)と、フラックスと、アルコールやケトンなどの有機溶剤とを含有し、有機溶剤の含有量を特定化し、且つ、バインダを所定量以下に低く抑えたアルミニウムろう付け用組成物を提案した(以下、先願技術という)。
本発明者らは、上記先願技術を参考にしながら、バインダとなるメタクリル酸エステル系重合体の性状とこのバインダを含むろう付け用組成物の密着性との関係を鋭意研究した結果、従来では、密着性の見地からメタクリル酸エステル系重合体のガラス転移温度は常温を含む低めの温度域に設計することが多かったが、これとは逆に、50℃以上の相対的に高い所定の温度域にガラス転移温度を設計すると、少ないバインダの使用量でもアルミニウム部材への密着性を良好に確保できるという予想外の成果を見い出し、また、バインダの相手方のフラックスの粒子径を20μm以下に微細化すると、上記要件を満たすバインダとの相乗効果で密着性がさらに向上することを見い出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、(a)メタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物と、
(b)非反応性フラックスと、
(c)アルコールとを含有するアルミニウムろう付け用組成物において、
上記成分(a)と(b)の合計量に対する成分(a)の含有量(固形分換算)が2重量%以上で10重量%未満であり、
上記成分(a)の重合体がメタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルと不飽和カルボン酸或はさらに水酸基含有メタクリル酸エステルとの共重合体であって、そのガラス転移温度が50℃以上で105℃以下であることを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、非反応性フラックス(b)がフッ化物系フラックスであり、その平均粒子径が1〜20μmであることを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物である。
【発明の効果】
【0013】
従来のアルミニウムろう付け用組成物では、アルミニウム部材への密着性を確保するために、フラックスとメタクリル酸エステル系重合体(バインダ)の合計量に対してバインダを10重量%以上含有する必要があったが、含有量が増すとろう付け後の残渣や黒変が生じてろう付け性が低下する問題が合った。
本発明では、バインダのガラス転移温度(Tg)を従来より高めに設計することで、少ないバインダの使用量でもアルミニウム部材への密着性を確保し、ろう付け部材の加工に際して剥離や割れを防止して、優れたろう付け性を実現できる。
また、バインダのTgの特定化に加えて、フラックスの粒子径を20μm以下に微細化すると、アルミニウム部材への密着性はさらに強固になり、ろう付け性をより向上できる。
しかも、本発明は水溶性ケン化物をバインダに使用した水系ろう付け用組成物であるため、有機溶剤に溶解するタイプのバインダ樹脂を用いた場合に比べて、使用時の引火や爆発の危険、或は労働衛生上の問題を排除できるうえ、アルコールを含有する水系組成物であるため、アルミニウム部材への濡れ性を向上して均一に塗布でき、この面からもろう付け性に優れる。
【0014】
尚、本発明の水系ろう付け用組成物にあっては、オープン空間でのろう付けに使用できることは勿論であるが、閉鎖空間でのろう付けに用いた場合には、バインダの使用量の低減により、ろう付け時に悪影響を及ぼすバインダの分解ガスの発生量をより少なく抑制できるため、その分、ろう付け性を良好に促進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、(a)メタクリル酸エステル系重合体の水性ケン化物と、(b)非反応性フラックスと、(c)アルコールとを含有する水系アルミニウムろう付け用組成物であって、上記バインダ成分(a)を所定の構成モノマーからなる共重合体として、そのTgを50℃以上の高めの温度範囲に設計するとともに、バインダとフラックスの全量に対するバインダの含有量を10重量%より少ない所定範囲に抑制したものである。
本発明のアルミニウムはアルミニウムの純粋物、アルミニウム合金の両方を包含する概念である。
【0016】
上記メタクリル酸エステル系重合体(a)はフラックスをアルミニウム部材に付着する役目のバインダ成分であり、水溶性ケン化物の形態で使用される。
上記メタクリル酸エステル系重合体は、メタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルと不飽和カルボン酸或はさらに水酸基含有メタクリル酸エステルとの共重合体である。
上記メタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルとしては、下記の一般式(1)で表されるモノマー成分を少なくとも一種使用できる。炭素数が12を越える長鎖アルキルエステルになると、メタクリル酸エステル系共重合体の水溶性が低下し、ひいてはろう付け性に悪影響を及ぼす。
CH2=C(CH3)COOR …(1)
(式(1)中、Rは炭素数1から12のアルキル基である。)
当該メタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリルn−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ウラリルなどが挙げられる。
上記不飽和カルボン酸は水溶性を保持する見地から使用され、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)シトラコン酸、或はこれらの塩などを単用又は併用できる。
【0017】
また、上記メタクリル酸エステル系重合体は、アルミニウム部材への密着性を増す見地から、上記モノマー成分以外に、さらに水酸基含有メタクリル酸エステルを構成モノマーに含むことができる。水酸基含有メタクリル酸エステルとしては、下記の一般式(2)〜(4)で表される水酸基含有モノマーが挙げられ、これらを少なくとも1成分以上使用することができる。
CH2=C(CH3)COO(CH2)nOH …(2)
(式(2)中、nは2以上4以下の整数である。)
CH2=C(CH3)COO(C24O)nH …(3)
(式(3)中、nは2以上12以下の整数である。)
CH2=C(CH3)COO(C36O)nH …(4)
(式(4)中、nは2以上12以下の整数である。)
水酸基含有メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリコールエステル(上記一般式(3)のn=2〜12)などが挙げられる。
また、メタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルのホモポリマーは脆くてアルミニウム部材への密着性が低いため、本発明のバインダ成分(a)から当該ホモポリマーは排除され、成分(a)はメタクリル酸エステル系共重合体を必須とする。
【0018】
本発明では、バインダの含有量を抑制する見地から、メタクリル酸エステル系共重合体のTgは50℃以上で105℃以下に調整することが必要であり、好ましくは60℃を越えて100℃以下、さらに好ましくは80℃以上で100℃以下であって、このTgを高めに設計することが第一の大きな特徴となっている。
Tgが50℃より低くなると密着性が低下し、少ないバインダ量ではろう付け性に支障が出る。また、Tgが105℃を越えるとバインダ樹脂の製造が困難になるうえ、固く脆い物性になり易く、保存安定性にも問題が生じる(後述の試験結果参照)。
【0019】
上記メタクリル酸エステル系共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などの公知の重合法により、ラジカル重合させることにより得られる。
特に、アルコールを溶剤とする溶液重合法により、種々の重合体を得ることが好ましい。
また、上記メタクリル酸エステル系重合体は水溶液中でカチオン性を示す化合物によってケン化して水溶性にする。
上記カチオン性を示す化合物としては、アンモニア、ジエチルアミン又はトリエチルアミンなどが挙げられるが、揮発性のアミノアルコール類が適する。
メタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物としたバインダ(a)の固形分濃度は5〜80重量%程度が好ましく、より好ましくは10〜55重量%である。
【0020】
本発明の非反応性フラックス(b)はフッ化物系フラックスを主成分とし、この範囲内で制限なく任意のものが使用できる。
非反応性フラックスの具体例としては、フルオロアルミン酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、又はフルオロアルミン酸カリウム−セシウム錯体やフルオロアルミン酸セシウムなどが挙げられ、フルオロアルミン酸カリウムが好ましい。従って、フルオロ亜鉛酸カリウムやフルオロ亜鉛酸セシウムなどの反応性の亜鉛置換フラックスは本発明のフラックスから排除される。
非反応性フラックスの市販品には、Solvay社製のNocolok Flux(フルオロアルミン酸カリウム)、Nocolok Cs Flux(セシウム系フラックス)などがある。
【0021】
本発明の水系アルミニウムろう付け用組成物においては、組成物中に水溶性かつ揮発性を有するアルコール(c)を添加することにより、塗料の表面張力を低下させて、アルミニウム部材への塗料の濡れ性を向上させ、水のハジキ現象を抑制して均一に塗布することができる。
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが一般的に使用できる。
しかしながら、これらのアルコールの引火点は30℃未満であって、引火や爆発等の危険を抑制する見地に立てば、引火点が30℃以上のアルコールの使用が好ましい。引火点が高いアルコールには、少量の添加で塗膜の表面張力をより低下させる利点もある。
【0022】
引火点が30℃以上のアルコールの具体例としては、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、1,3ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどが挙げられる。
【0023】
本発明の水系アルミニウムろう付け用組成物の第二の大きな特徴は、上記バインダのTgを高めに特定化することでバインダ(a)の使用量を低めに調整した点にある。
即ち、本発明のろう付け用組成物にあっては、バインダ(a)とフラックス(b)の合計量に対するバインダ(a)の含有量(固形分換算)は2重量%以上で10重量%未満の低濃度に抑制される。
好ましいバインダ(a)の含有量は5重量%以上で9重量%以下であり、さらに好ましくは6重量%以上で9重量%以下である。
バインダ(a)の含有量が2重量%より少ないと密着性が悪くなり、10重量%以上であるとバインダの残渣リスクが増してろう付け性が悪化する。
従って、バインダ(a)とフラックス(b)の全量に対するフラックス(b)の含有量は90重量%以上で98重量%未満である。組成物全体でのフラックス(b)の含有量は30〜60重量部が適しており、好ましくは40〜50重量部である。また、組成物全体でのアルコール(c)の含有量は30〜60重量部が適しており、好ましくは35〜55重量部である。
【0024】
上述の通り、本発明はバインダの使用量を低減しながらろう付け用組成物の密着性を良好に確保することを目的とし、この目的の達成にはバインダのTgを高めに設計することが重要であるが、これに加えてバインダの相手方であるフラックスの粒子径も密着性の向上に大きく影響する。
即ち、本発明2に示すように、フラックスの平均粒子径を1〜20μm(即ち、1μm以上で20μm以下)に微細化すると、バインダの使用量が少ない場合でも、バインダのTgの特定化との相乗効果で、アルミニウム部材への密着性をより強固に促進させることができる。フラックスの好ましい平均粒子径は3〜18μm、さらに好ましくは5〜10μmである。
ちなみに、このフラックスの平均粒子径については、ろう付け性に照らして微細であるほど密着性に寄与すると思われるが、生産コストを勘案する必要があるため、粒子径1〜20μmをもって適正範囲とした。
本発明のろう付け用組成物にあっては、前述の通り、フラックス、バインダ及びアルコールを含有した後、水を適宜添加して固形分濃度並びに粘度を所定範囲に調整する。
水の希釈による組成物全体の固形分濃度は25〜80重量%が適しており、好ましくは35〜55重量%である。
【0025】
また、本発明の水系アルミニウムろう付け用組成物にあっては、フラックス、バインダ及びアルコールの必須成分の外に、ろう材を含有できることは言うまでもない。
上記ろう材としては、金属ケイ素粉末、ケイ素−アルミニウム合金、或はこれらに少量のマグネシウム、銅、ゲルマニウム等を含む合金などが挙げられる。フラックスとろう材の混合物の市販品には、Solvay社製のNocolok Sil Fiux(フルオロアルミン酸カリウムと金属ケイ素粉末の混合物)がある。
【0026】
本発明の水系ろう付け用組成物を用いたろう付けにあっては、アルミニウム部材にろう付け用組成物を塗布して、フラックス(又はフラックスとろう材)を供給し、上記アルミニウム部材を所定構造に組み立て、ろう付け温度に加熱することを基本原理とする。
本発明のろう付け用組成物の塗布方法に特に制限はなく、ロールコート法、浸漬法、スプレー法などを初め、任意の方法を適用することができる。
但し、上記浸漬法は、フラックスの沈殿に起因して、一定組成比のろう付け用組成物を高速で塗布することが困難になる恐れがあり、スプレー法は塗着効率があまり良くなく、スプレーガンが目詰まりするなどの問題もあるため、ロールコーターで水系ろう付け用組成物をアルミニウム部材に塗布するロールコート方式が好ましい。
上記ロールコート方式にあっては、予め部材を任意の構造に組み立てる前段階で(つまり部材が板状或は平面状態の時に)、本発明の水系ろう付け用組成物をアルミニウム部材の表面に対して必要な量で必要とされる部位に均一且つ効率よく供給することでろう付けできるため、このプレコート方式の採用によって生産性が高まるという利点がある。
【0027】
本発明の水系ろう付け用組成物の塗布に当たっては、ろう付け性と塗布安定性のバランスから、当該組成物の付着量(乾燥重量)は3〜100g/m2が適しており、好ましくは5〜20g/m2である。
上記ろう付け方法においては、アルミニウム部材を所定構造に組み立てた後、窒素雰囲気下でろう付け温度まで加熱してろう付けを行うが、本発明では、バインダにメタクリル酸エステル系共重合体を使用するため、通常のろう付け温度(600℃程度)より低い温度で、当該重合体が短時間で解重合して揮発性の単量体となるため、ろう付け時にはバインダが消失し、ろう付けの箇所にバインダやその炭化物が残存することが少なく、安定したろう付けを行うことができる。
また、アルミニウム部材の組み立てに際しては、フラックスとバインダを含む本発明のろう付け用組成物を塗布した一方のアルミニウム部材と、相手方のアルミニウム部材(ろう材をクラッドしたブレージングシート)とを組み付けてろう付けすることになる。但し、ろう付け用組成物がさらにろう材を含む場合には、相手材はろう材なしのアルミニウム部材(ベア材)となる。
【実施例】
【0028】
以下、メタクリル酸エステル系共重合体(バインダ)の合成例、合成例で得られた共重合体を用いた本発明の水系アルミニウムろう付け用組成物の実施例、実施例で得られた水系ろう付け用組成物の密着性、保存安定性、ろう付け性などの各種評価試験例を順次説明する。実施例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0029】
《メタクリル酸エステル系共重合体の合成例》
下記のメタクリル酸エステル系重合体A〜Fのうち、本発明のTgと構成モノマーの要件を満たすものは共重合体B〜Dであり、共重合体BはTgが本発明の最も好ましい範囲内の例であり、共重合体DはTgが本発明の適正範囲の下限の例である。
一方、共重合体AはTgが本発明の適正範囲の上限を越える例である。共重合体Eは上記共重合体Dと同じ構成モノマーを用いて、Tgが本発明の適正範囲の下限より低いポリマーを得た例である。また、重合体Fはメタクリル酸のC4アルキルエステルのホモポリマー(Tgは本発明の適正範囲内)であり、メタクリル酸エステルの外に少なくとも不飽和カルボン酸を構成モノマーに含む共重合体でない点で、本発明の重合体の要件から外れる例である。
【0030】
(1)メタクリル酸エステル系共重合体Aの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、358重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル66重量部、メタクリル酸2重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが107℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール25重量部で希釈し、固形分15%のメタクリル酸エステル系共重合体の水溶性ケン化物を得た。
【0031】
(2)メタクリル酸エステル系共重合体Bの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、355重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル45重量部、メタクリル酸5重量部、メタクリル酸イソブチル18重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが96℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール27重量部で希釈し、固形分が15%のメタクリル酸エステル系共重合体の水溶性ケン化物を得た。
【0032】
(3)メタクリル酸エステル系共重合体Cの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、268重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル3重量部、メタクリル酸6重量部、メタクリル酸イソブチル54重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル4重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが67℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール113重量部で希釈し、固形分が15%のメタクリル酸エステル系共重合体の水溶性ケン化物を得た。
【0033】
(4)メタクリル酸エステル系共重合体Dの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、302重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル3重量部、メタクリル酸5重量部、メタクリル酸イソブチル43重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル16重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが50℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール75重量部で希釈し、固形分が15%のメタクリル酸エステル系共重合体の水溶性ケン化物を得た。
【0034】
(5)メタクリル酸エステル系共重合体Eの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、304重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル3重量部、メタクリル酸5重量部、メタクリル酸イソブチル32重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル24重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが40℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール78重量部で希釈し、固形分が15%のメタクリル酸エステル系共重合体の水溶性ケン化物を得た。
【0035】
(6)メタクリル酸エステル重合体Fの合成例
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、358重量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が80℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸イソブチル69重量部および過酸化ベンゾイル4重量部の混合溶液を約3時間かけて系内に滴下し、さらに10時間同温度に保って重合を完結させ、Tgが67℃の樹脂溶液を得た。
その後、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール27重量部で希釈し、固形分が15%のメタクリル酸エステルのホモポリマーの水溶性ケン化物を得た。
【0036】
そこで、上記合成例で得られた各メタクリル酸エステル系重合体(バインダ)A〜Fを用いて、本発明の水系アルミニウムろう付け用組成物を製造した。
《水系アルミニウムろう付け用組成物の実施例》
下記の実施例1〜33のうち、実施例1〜12はバインダのTgが本発明の最も好ましい範囲内にある例、実施例13〜23は同Tgが本発明のより好ましい範囲にある例、実施例24〜33は同Tgが本発明の適正範囲の下限の例である。実施例4、7、10、15、18、21、26、29はバインダの含有量が本発明の適正範囲の下限に近い例、実施例1、5、8、11、13、16、19、22、24、27、30、32はバインダの含有量が本発明の適正範囲の上限に近い例である。実施例11〜12、22〜23、32〜33はフラックスの粒子径が22μmの例、それ以外の実施例はすべて同粒子径が20μm以下の例である。
一方、比較例1〜20のうち、比較例1〜9はバインダのTgが本発明の適正範囲の上限を越える例、比較例13〜16はバインダのTgが本発明の適正範囲の下限より低い例である。比較例10と12はバインダの含有量が本発明の適正範囲の上限を越える例、比較例11はバインダの含有量が本発明の適正範囲より低い例である。実施例17〜20はバインダがメタクリル酸エステルのホモポリマーの例である。
尚、図1〜図2の上寄り欄〜中央欄には水系アルミニウムろう付け用組成物の組成をまとめた。但し、図1は実施例1〜33、図2は比較例1〜20の各組成である。
【0037】
(1)実施例1
水4部と、ジエタノールアミン0.3部と、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール33部と、Tgが96℃のバインダB(3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの15%溶液)を9部(固形分換算)と、6μmの平均粒子径を有するフラックス(No.1、フルオロアルミン酸カリウムを成分とする)を91部(固形分換算)とを混合し、固形分濃度が53%の水系アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0038】
(2)実施例2〜12
上記実施例1を基本として、バインダBの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1〜No.4)を図1に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
尚、上述のように、フラックスはいずれもフルオロアルミン酸カリウムであって、平均粒子径の異なる4種類を使用した。フラックスNo.1の平均粒子径は6μm、同じくNo.2は10μm、No.3は18μm、No.4は22μmである。
【0039】
(3)実施例13〜23
上記実施例1を基本として、バインダの種類をバインダCに変更するとともに、バインダCの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1〜No.4)を図1に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0040】
(4)実施例24〜33
上記実施例1を基本として、バインダの種類をバインダDに変更するとともに、バインダDの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1〜No.4)を図1に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0041】
(5)比較例1〜9
上記実施例1を基本として、バインダの種類をバインダAに変更するとともに、バインダAの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1、No.3〜No.4)を図2に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0042】
(6)比較例10〜12
上記実施例1を基本として、バインダBの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1とNo.4)を図2に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0043】
(7)比較例13〜16
上記実施例1を基本として、バインダの種類をバインダEに変更するとともに、バインダEの含有量、フラックスの含有量と種類(No.1とNo.3)を図2に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0044】
(8)比較例17〜20
上記実施例1を基本として、バインダの種類をバインダFに変更するとともに、バインダFの含有量、フラックスの含有量と種類(No.3〜No.4)を図2に示す通りに変更し、それ以外の条件を実施例1と同様に処理して、水系アルミニウムろう付け用組成物を夫々得た。
【0045】
《水系アルミニウムろう付け用組成物の性能評価試験例》
そこで、上記実施例1〜33及び比較例1〜20で得られた各ろう付け用組成物について、下記の各種評価試験に供した。
(1)密着性
ろう付け用組成物をロールコータ(望月機工製作所社製)を用いて、塗布量が10±1g/m2となるようにアルミニウム部材(JIS-A3003合金)に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた後、JIS(K5600-5-4)に準拠して鉛筆硬度試験を実施した。
尚、鉛筆硬度はH→F→HB→Bの順に軟らかくなり、Bに付記した番号は大きいほうが軟らかい。
【0046】
(2)保存安定性
200ccのガラス瓶にろう付け用組成物を200g入れて、23℃にて2ヶ月間保存し、初期状態からの変化を目視観察して、次の基準で優劣を評価した。
○:初期状態に比べて若干の相分離が発生したが、かき混ぜると初期状態に戻った。
△:初期状態に比べて分離が激しいが、かき混ぜると初期状態に戻った。
×:初期状態に比べて分離が激しく、かき混ぜても初期状態に全く戻らなかった。
【0047】
(3)ろう付け性
先ず、各ろう付け用組成物をアルミニウム部材に塗布することにより、ろう付け評価用の試験片を作成した。
即ち、各ろう付け用組成物が塗布されたアルミニウム部材を水平材(JIS-A3003合金、60mm×25mm×0.3mm)とするとともに、マンガン1.2%及び亜鉛2.5%を含むアルミニウム合金にケイ素−アルミニウム合金(ろう材)をクラッドしたブレージングシートよりなる垂直材(55mm×25mm×1.0mm)を前記水平材に逆T字型に組み付けて、ステンレスワイヤーで固定し、ろう付け評価用の試験片を作成した。
次いで、上記試験片をろう付け炉(箱型電気炉、ノリタケTCF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて605℃で加熱してろう付け試験を行った。
【0048】
そして、ろう付け後のフィレットの形成状態を目視観察し、次の基準でろう付け性(A)及び外観(B)の優劣を評価した。
(A)ろう付け性
○:強固に接合され、手で外力を加えても接合部位は外れなかった。
△:手で外力を加えると接合部位は容易に外れた。
×:接合されていなかった。
(B)ろう付け後の外観
○:外観上に問題なく片側2mm以上のフィレットが形成されていた。
△:外観上の問題に拘わらず、片側1mm以上で2mm未満のフィレットしか形成されていなかった。
×:外観上変色が見られ、フィレットが1mm未満若しくは形成されなかった。
【0049】
(4)総合評価
密着性とろう付け性を主眼として次の基準で総合評価した。
×:密着性が3B以下の場合(3B以上に軟らかい場合)を×とみなし、密着性、ろう付け性、外観及び保存安定性の4つの評価項目の一つ以上が×であった。
△:密着性が2Bの場合を△とみなし、上記4つの評価項目の一つ以上が△であり、すべての項目で×の評価はなかった。
○:すべての評価項目が○であった。
【0050】
図1の下寄り欄は実施例1〜33の試験結果、図2の下寄り欄は比較例1〜20の試験結果である。
バインダのTgが本発明の適正範囲(50〜105℃)を越える比較例1〜9(Tg=107℃)では、バインダの含有量が3%と低い場合の密着性は5B〜6Bの評価であり、同9%の場合でもB〜4Bの評価であって、従来より少ないバインダ使用量の下では、なによりもアルミニウム部材への密着性が劣ることが確認できた。逆に、バインダのTgが本発明の適正範囲(50〜105℃)より低い比較例13〜16(Tg=40℃)では、やはり密着性は3B〜6Bの評価であり、従来より少ないバインダ使用量の下では同様に密着性が劣ることが確認できた。
尚、比較例1〜9では概ね保存安定性が悪かった。
【0051】
また、バインダのTgは本発明の適正範囲にあるが、バインダの使用量が本発明の適正範囲(2%以上で10%未満)を越える比較例10(15%)では、密着性に問題はなかったが、ろう付け性及びろう付け後の外観が劣った。バインダの含有量が10%の比較例12では、密着性の評価は2Bであり、ろう付け性や外観の評価は△であった。逆に、バインダのTgが本発明の適正範囲であるが、バインダの使用量が本発明の適正範囲(2%以上で10%未満)より少ない比較例11(1%)では、当然に密着性に問題があった(6Bの評価)。
【0052】
これに対して、バインダのTgが本発明の適正範囲(50〜105℃)にあり、バインダの含有量が従来より少ない10%未満の実施例1〜33では、ろう付け性やろう付け後の外観に優れるとともに、密着性にも優れ、総合評価は概ね○であった。
従って、実施例1〜33を比較例1〜16に対比すると、従来よりバインダの少ない使用量の下で密着性を良好に確保するには、バインダのTgを特定範囲に適正化することの重要性が裏付けられた。
【0053】
バインダ樹脂がメタクリル酸エステルのホモポリマー(重合体E)である比較例17〜20では、バインダのTgは本発明の適正範囲にあるが、少ないバインダの使用量では密着性の確保ができないことが明らかになった(5B〜6Bの評価)。
従って、バインダの少ない使用量の下で密着性を確保するには、バインダ樹脂がメタクリル酸エステル系重合体であるだけでは充分でなく、メタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルと不飽和カルボン酸或はさらに水酸基含有メタクリル酸エステルとの共重合体であることが必要で、メタクリル酸エステルのホモポリマーの使用はできないことが裏付けられた。
【0054】
そこで、実施例1〜33の試験結果を詳細に検討する。
バインダの含有量が共通する実施例を対比すると、バインダのTgが96℃である実施例(例えば実施例1と13、実施例2と実施例25)では、Tgが本発明の最も好ましい範囲にある方が概ね密着性が良いことが分かる。
また、バインダの含有量が共通する実施例(例えば実施例1と5、実施例2と9)では、フラックスの平均粒子径が微細なほど概ね密着性が良いことが分かる。これにより、バインダのTgの適正化に加えて、フラックスの平均粒子径を微細化すると、密着性の向上により良く寄与することが確認できた。
また、バインダの種類が共通であって含有量が異なる実施例を見ると、例えば実施例1〜4、実施例5〜7或は実施例13〜15では、バインダの含有量が10%に近い場合には優れた密着性を示すことは勿論であるが、バインダの含有量が従来よりかなり減少しても、密着性は実用のレベルを確保できていることが分かる。従って、バインダの含有量が3%の実施例では総合評価は△であったが、これらの実施例と、バインダのTgは異なるが含有量が3%より多い比較例とを対比すると、実施例の有効性は明らかである。例えば、実施例10と比較例5、実施例4と比較例13(これらはフラックスの粒子径も共通である)を対比すると、密着性は実施例の方が大きく改善していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1〜33の水系アルミニウムろう付け用組成物の組成、並びに密着性やろう付け性などの各種評価試験結果をまとめた図表である。
【図2】比較例1〜20についての図1の相当図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)メタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物と、
(b)非反応性フラックスと、
(c)アルコールとを含有するアルミニウムろう付け用組成物において、
上記成分(a)と(b)の合計量に対する成分(a)の含有量(固形分換算)が2重量%以上で10重量%未満であり、
上記成分(a)の重合体がメタクリル酸のC1〜C12アルキルエステルと不飽和カルボン酸或はさらに水酸基含有メタクリル酸エステルとの共重合体であって、そのガラス転移温度が50℃以上で105℃以下である事を特徴とするアルミニウムろう付け用組成物。
【請求項2】
非反応性フラックス(b)がフッ化物系フラックスであり、その平均粒子径が1〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムろう付け用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−208129(P2009−208129A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54988(P2008−54988)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)