説明

アルミニウム合金の表面処理方法

【課題】 封孔処理による陽極酸化皮膜の微細孔の大きさを適切にコントロールすることにより、良好な塗膜密着性が安定して得られ、アルミニウム合金製品の品質向上が図れるアルミニウム合金の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成するアルマイト処理と、陽極酸化皮膜に形成されている微細孔を半封する封孔処理と、封孔処理された陽極酸化皮膜上にクリア塗装を行う塗装処理とを含むアルミニウム合金の表面処理方法において、封孔処理により、陽極酸化皮膜の微細孔を、直径10nm〜30nmに封孔する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウム合金という)の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、軽量で加工性及び耐食性に優れており、また、金属調の光沢や光輝性といった意匠性も持たせることができることから、例えば自動車の外装部品等、幅広い分野で用いられている。
【0003】
従来、アルミニウム合金に金属光沢を持たせて意匠性を向上させるいわゆる光輝アルマイト表面処理方法としては、例えば、アルミニウム合金をアルマイト処理して表面に陽極酸化皮膜を形成した後、中和処理して陽極酸化皮膜に形成されている微細孔を洗浄し、次に、水洗してから湯洗処理して陽極酸化皮膜の微細孔を適度に封孔(半封孔)し、その後、乾燥処理して陽極酸化皮膜を強制乾燥させてから、塗装処理でクリア塗装するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示の表面処理方法では、アルマイト処理後に中和処理を行うことにより、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した電解液である硫酸等の酸を除去し、また、クリア塗装の前に乾燥処理を行うことにより、陽極酸化皮膜の表面のみならず微細孔に残留した水分をも除去することで、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した酸や水分が分解・蒸発することで生じる塗膜の曇りや白濁及び塗膜の界面剥離を防止するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−3295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に開示の表面処理方法では、湯洗処理については、温度70〜90℃のイオン交換水を用いて、陽極酸化皮膜の膜厚1μm当たり0.5〜2.5minの時間で行っている。
【0007】
しかしながら、本発明者らによる種々の実験検討によると、上記の特許文献1に開示の封孔処理では、クリア塗装の塗膜密着性にばらつきが生じて、十分な性能が得られない場合があることが判明した。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記の原因について鋭意検討したところ、塗膜密着性は、封孔処理による陽極酸化皮膜の微細孔の大きさに関係し、封孔処理が過剰になると、微細孔が塞がって塗膜に対するアンカー効果が低下し、これにより塗膜密着性が低下することをつきとめた。
【0009】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、封孔処理による陽極酸化皮膜の微細孔の大きさを適切にコントロールすることにより、良好な塗膜密着性が安定して得られ、アルミニウム合金製品の品質向上が図れるアルミニウム合金の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する請求項1に記載のアルミニウム合金の表面処理方法の発明は、アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成するアルマイト処理と、上記陽極酸化皮膜に形成されている微細孔を半封する封孔処理と、封孔処理された上記陽極酸化皮膜上にクリア塗装を行う塗装処理とを含むアルミニウム合金の表面処理方法において、上記封孔処理により、上記陽極酸化皮膜の微細孔を、直径10nm〜30nmに封孔することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアルミニウム合金の表面処理方法において、上記封孔処理は、温度70℃以上80℃未満の高圧蒸気または熱湯による20minの湯洗処理を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によると、クリア塗装による塗膜のアンカー効果が十分に発現されて良好な塗膜密着性が安定して得られ、アルミニウム合金製品の品質向上が図れる。
【0013】
請求項2の発明によると、陽極酸化皮膜の微細孔を、直径10nm〜30nmに簡単に、しかも確実に封孔することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるアルミニウム合金の表面処理方法の実施の形態について説明する。
【0015】
本実施の形態では、先ず、アルミニウム合金を公知の方法によりアルマイト処理して、その表面に多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、その後、封孔処理して陽極酸化皮膜に形成されている微細孔の孔径(直径)を10nm〜30nmに封孔する。次に、塗装処理により陽極酸化皮膜上にクリア塗装を行った後、必要に応じて焼付け処理を行って、陽極酸化皮膜と塗装との複合皮膜を形成する。
【0016】
ここで、封孔処理は、湯洗処理のみでも良いし、湯洗処理以外の他の封孔処理でも良い。また、封孔処理後、塗装処理に先立って陽極酸化皮膜を強制乾燥させる乾燥処理を行ってもよい。
【0017】
本実施の形態では、封孔処理に湯洗処理を含むものとし、この湯洗処理を、温度70℃〜80℃の高圧蒸気または熱湯により20min行うことで、陽極酸化皮膜に形成されている微細孔の孔径を10nm〜30nmに封孔する。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して具体的に説明する。
【0019】
アルミニウム合金A6063−T5(JIS)の押出形材(55mm×200mm×2mm)を、公知の方法で脱脂、アルカリエッチング及び酸洗等の前処理を行った後、150〜200g/lの硫酸水溶液を用い、電流密度100A/m でアルマイト処理を行うことにより、膜厚5μm〜10μmの陽極酸化皮膜を形成した。
【0020】
その後、中和処理及び封孔処理としての湯洗処理を行った。中和処理は、pH6.5、浴温度20℃、電導度2mS/cm、1.5g/lの酢酸アンモニウム水溶液を使用した。湯洗処理は、中和処理後、1分間の水洗を行ってから、イオン交換水(電導度20μS/cm以下)の高圧蒸気または熱湯を用いて行った。
【0021】
封孔処理後は、温風を吹き付ける乾燥処理を行って強制乾燥し、その後、熱硬化型アクリル樹脂クリア塗料を膜厚が20〜25μmとなるようにスプレー塗装を行い、140℃で30minの焼付処理をした。
【0022】
このときの湯洗処理の条件及び封孔処理後の微細孔の孔径を表1に示す。また、表1に示す各実施例及び比較例の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面の顕微鏡写真を図1乃至図5に示す。なお、顕微鏡写真は、走査電子顕微鏡(JSM−7400F(商品名;日本電子(株)製))を用いて取得した。
【0023】
このようにしてアルミニウム合金の表面に形成された陽極酸化皮膜と塗膜との複合皮膜の密着性を評価した。密着性は、温度40℃のイオン交換水に240時間浸漬後、JIS K 5400の碁盤目テープ法(1mm×1mm×100)に準じた付着性を試験した。
【0024】
この密着性の試験結果を、塗膜剥離なしをOK、塗膜剥離ありをNGとして、表1に併せて示す。また、OKの場合の表面状態の写真を図6に、NGの場合の表面状態の写真を図7にそれぞれ示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、湯洗処理時間を20minとする場合には、使用するイオン交換水の温度を、実施例1、2のように70℃或いは75℃とすると、図1、図2に示すように、陽極酸化皮膜の表面全体に亘って微細孔の孔径が10〜30nmとなり、図6に示すように良好な密着性が得られることが確認できた。これは、陽極酸化皮膜の表面全体に亘って微細孔の孔径が10〜30nmとなることから、陽極酸化皮膜の表面全体に亘って塗膜に対するアンカー効果を良好に発現できるためと考えられる。
【0027】
これに対し、使用するイオン交換水の温度を、比較例3〜5のように80℃以上とすると、図3〜図5に示すように、陽極酸化皮膜表面の微細孔の孔径が5〜10nmと全体的に小さくなり、一部では完全に塞がってバラツキが生じ、図7に示すように密着性がNGとなる。この密着性低下の原因は、微細孔が塞がることで、塗膜に対するアンカー効果が低下したためと考えられる。
【0028】
なお、本発明は上記実施例に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施例1、2では、湯洗温度を70℃、75℃としたが、湯洗処理時間が20minの場合には、湯洗温度を70℃以上80℃未満とすれば、陽極酸化皮膜の表面全体に亘って微細孔を、孔径10〜30nmに封孔することができ、良好な塗膜密着性を得ることができる。
【0029】
また、湯洗処理時間は20minに限らず、任意に設定でき、その湯洗処理時間に応じて、陽極酸化皮膜の表面全体に亘って微細孔が孔径10〜30nmに封孔される湯洗温度を設定すれば良い。更に、上記実施例のように、中和処理を行う場合には、最終的に微細孔が孔径10〜30nmに封孔される中和処理条件および湯洗処理条件を設定すれば良い。また、封孔処理は、上述した湯洗処理を行う場合に限らず、他の方法で行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面を示す顕微鏡写真である。
【図2】実施例2の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面を示す顕微鏡写真である。
【図3】比較例3の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面を示す顕微鏡写真である。
【図4】比較例4の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面を示す顕微鏡写真である。
【図5】比較例5の封孔処理後の陽極酸化皮膜表面を示す顕微鏡写真である。
【図6】密着性試験による塗膜剥離のない表面状態を示す写真である。
【図7】密着性試験による塗膜剥離のある表面状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成するアルマイト処理と、上記陽極酸化皮膜に形成されている微細孔を半封する封孔処理と、封孔処理された上記陽極酸化皮膜上にクリア塗装を行う塗装処理とを含むアルミニウム合金の表面処理方法において、
上記封孔処理により、上記陽極酸化皮膜の微細孔を、直径10nm〜30nmに封孔することを特徴とするアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
上記封孔処理は、温度70℃以上80℃未満の高圧蒸気または熱湯による20minの湯洗処理を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金の表面処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−111894(P2006−111894A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297856(P2004−297856)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)