説明

アルミニウム基複合材用溶湯の製造方法

【課題】本発明は、ぬれ性に優れ、且つ母材中に強化材を均一に分散させることが可能なアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法を提供する課題とする。
【解決手段】窒素ガスと、Mgと、微粉化させたセラミックスと、溶融アルミニウムとを準備する工程と、窒素ガス(N)を所定温度に加熱する工程と、この高温の窒素ガスをMgに接触させて窒化マグネシウムガス(Mg)を生成する工程と、この窒化マグネシウムガス(Mg)をセラミック粉末(Al)に接触させ、セラミック粉末(Al)の表面を活性化させる工程と、活性化させたセラミック粉末(Al)を溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融アルミニウムにセラミック粉末を混合させてなるアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
母材としての溶融アルミニウムに、強化材としてのセラミック粉末を混合させてなるアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法において、溶融アルミニウムにセラミック粉末を混合する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−45670公報(図2)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は従来の技術の基本構成を説明する図であり、粒子混合装置100は、坩堝103と、この坩堝103の内側に設けられる撹拌用のインペラ104と、このインペラ104を支持するインペラベース105と、このインペラベース105に上方から回動可能に垂下させるとともに前記インペラ104に連結されるインペラ軸106と、強化材108を溜める強化材供給源112とを主な構成要素とする。インペラ軸106の内側には、強化材108の供給路となる内部通路111が形成される。図中、113は真空容器、114は加熱用コイルである。
【0004】
そして、坩堝103に母材115としての溶解アルミニウム113を注ぎ、強化材108を強化材供給源112から内部通路111を経て坩堝103内に供給し、インペラ104を回動し、母材115と強化材108とを混合する。この混合により得たアルミニウム基複合材を次図で説明する。
【0005】
図7は図6により得たアルミニウム基複合材の拡大断面図(イメージ図)である。
(a)は、強化材108が母材115に分散されている状態を示す。この母材115を分割したところ、(b)の様になった。すなわち、母材115から強化材108が剥離し脱落した。
【0006】
強化材108が脱落する理由は、強化材108が母材115に十分に接着していなかったからである。この接着不良は、母材115に対する強化材108のぬれ性が低いためと考えられる。そこで、ぬれ性に優れ、母材中に強化材を均一に分散させることが可能なアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ぬれ性に優れ、且つ母材中に強化材を均一に分散させることが可能なアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法を提供する課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、窒素ガスと、Mgと、酸化セラミックス粉末・窒化セラミックス粉末又は炭化セラミックス粉末から選択されるセラミック粉末と、溶融アルミニウムとを準備する工程と、窒素ガスを少なくとも600℃に加熱する工程と、この高温の窒素ガスをMgに接触させて窒化マグネシウムガスを生成する工程と、この窒化マグネシウムガスをセラミック粉末に接触させ、セラミック粉末の表面を活性化させる工程と、活性化させたセラミック粉末を溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
窒素ガスが600℃以下の場合、Mgと窒素が反応し窒化マグネシウムとなる反応が十分に進まず、窒化マグネシウムガスが十分に発生しない。その結果、セラミックスの表面を活性化させるために時間を要する。
【0010】
請求項2に係る発明では、セラミック粉末は、平均粒径が80μmを超えないようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、アルミニウム基複合材用溶湯の製造方法には、セラミック粉末の表面を活性化させる工程と、活性化させたセラミック粉末を溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程とが設けられているので、セラミック粉末の表面が活性化され、表面のぬれ性を向上させることができる。セラミック粉末のぬれ性が向上するため、できあがったアルミニウム基複合材を加工する場合などにおいて、アルミニウムからセラミック粉末が剥離して脱落するという不具合を解消することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、セラミック粉末は、平均粒径が80μmを超えないようにすることで、セラミック粉末の各粒子を軽くすることができる。セラミック粉末の各粒子を軽くすることで、セラミック粉末を溶解アルミニウム中に浮遊させることができる。
この結果、アルミニウムにセラミックスが均一に分散したアルミニウム基複合材用溶湯を製造することができる。
加えて、セラミック粉末を平均粒径が80μmを超えないようにすることで、均一な分散が得られ、所定の品質をもつアルミニウム基複合材用溶湯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きにみるものとする。
図1は本発明に係るアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法を説明する図であり、アルミニウム基複合材用溶湯の製造装置10は、母材としての溶融アルミニウムを撹拌する溶湯撹拌装置11と、この溶湯撹拌装置11に活性化ガス及び強化材としてのセラミック粉末を供給するガス・強化材供給装置12とからなる。
【0014】
溶湯撹拌装置11は、溶融アルミニウム14を撹拌する撹拌容器15と、この撹拌容器を加熱するヒータ16と、撹拌容器15内の溶融アルミニウム14を撹拌する撹拌機構17とからなる。撹拌機構17は回転翼部材18を有する。
【0015】
ガス・強化材供給装置12は、窒素ガス(N)を貯蔵する貯蔵手段21と、この貯蔵手段21から撹拌容器15まで延ばされた第1配管22及び第2配管23と、これらの第1配管22及び第2配管23に介設され窒素ガスを所定温度に加熱する加熱ユニット25と、前記第1配管22の途中に設け窒素ガスの流量を調整するレギュレータ26と、第2配管23へMg供給口27を介してMgを供給するMg貯蔵手段28と、前記Mg供給口27の下流側に連結される強化材供給口31を介して第2配管23へ強化材を供給する強化材貯蔵手段32とを主要な構成要素とする。本実施例において、強化材はセラミック粉末である。
【0016】
加熱ユニット25は、加熱器33と加熱させた窒素ガスの温度を検出する温度センサ34と温度制御をするコントローラ35と加熱器33の出力を調整するドライバ36とからなり、第2配管23には温度センサ34が設けられ、この温度センサ34にはコントローラ35が接続され、このコントローラ35にはドライバ36が接続され、加熱した窒素ガスを600℃以上の所定値に制御する。
【0017】
図中、37はMgの流量調整をする流量調整弁、38はセラミック粉末の流量調整をする流量調整弁、39は面ヒータ、41は面ヒータの周囲に配置される断熱材、42は活性化したセラミック粉末及び窒素ガスの流量調整をする流量調整弁である。
【0018】
以下、本発明に係る製造装置10の要部の作用を説明する。
図2は図1の要部における作用説明図である。
Mg供給口27では、(a)に示すように、第2配管23に矢印pのように所定温度に加熱された窒素ガス(N)を流し、第2配管23にMg供給口27から矢印gのようにMgを供給し、NとMgとを反応させ窒化マグネシウムガス(Mg)を生成させる。
【0019】
強化材供給口31では、(b)に示すように、第2配管23に矢印rのように窒化マグネシウムガス(Mg)を流し、第2配管23に強化材供給口31から矢印sのように微粉化されたセラミックス(例えば、Al粉末)43・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)を供給する。(b)のb部拡大図である(c)に示すように、セラミックス43は、窒化マグネシウム固体44で覆われた中間生成物45が、生成される。中間生成物45は窒化マグネシウムガス(Mg)で包まれている。
【0020】
図3は図1の要部の更なる作用説明図であり、第2配管23を流れてきた中間生成物45は、(a)のb部拡大図である(b)に示すとおりに、窒化マグネシウムによる還元作用が進行している。すなわち、窒化マグネシウムによる強力な還元作用により、セラミックス43に結合している酸素が除かれ、表面に活性アルミニウム47・・・が出現する。この活性アルミニウム47・・・は窒化マグネシウムに包まれているために、酸化する心配はない。
【0021】
この形態で、(a)に示すように、溶融アルミニウム14に吹き込まれる。溶融アルミニウム14中では、(a)のC部拡大図である(c)に示すように、セラミックス43は、撹拌機構17が有する回転翼部材18により分散するが、このときに、セラミックス43の表面に活性アルミニウム47・・・が存在するため、溶融アルミニウム14に対するセラミックス43のぬれ性は良好となる。
【0022】
撹拌機構17は、実施例において、回転翼部材18によって機械的に撹拌するものである。この攪拌機構18に代えて、電磁的に撹拌する電磁撹拌機構を利用しても良い。
【0023】
電磁撹拌機構によれば、窒化珪素などのような凝集し易い複合材を用いる場合に、溶湯を対流により均一に撹拌できる。一方、回転翼部材を用いる機械的な撹拌では、撹拌機構の近傍においてのみの撹拌となる場合がある。この点、電磁撹拌機構を利用すれば、容易、且つ均一に溶湯中に複合材を分散させることが可能となる。
【0024】
なお、微粉化されたセラミックス(例えば、Al粉末)の代用として、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)などの窒化物系セラミックス又は炭化珪素(SiC)などの炭化物系セラミックスとすることは差し支えない。
【0025】
窒化物系セラミックスは、通常、その最表層には酸化物層が形成されており、本発明に係る方法によって、ぬれ性を向上させることができる。同様に、炭化物系セラミックスについても、通常、最表層には酸化物層が形成されており、本発明に係る方法によって、ぬれ性を向上させることができる。一方、酸化を防止する処理がなされた炭化物系セラミックスについては、ぬれ性を向上させることは難しい。
【0026】
ところで、図3(a)の中間生成物45を溶融アルミニウム14に吹き込み、撹拌機構(図1の符号17)によって撹拌させ、分散させる場合において、セラミックス43の粒径が大きいと、セラミックス43が撹拌容器15の底に沈降する現象がみられた。そこで、セラミック43の粒径と沈降との関係を検証する必要が生じた。この検証の詳細を次に説明する。
【0027】
図4はセラミックの粒径と沈降との関係を調べる実験の原理図である。
(a)において、溶融アルミニウム14を入れた撹拌容器15Bと、セラミックス43・・・とを準備し、撹拌容器15Bにセラミックス43・・・を供給し、(b)において、撹拌容器15B内の溶融アルミニウム14とセラミックス43・・・とからなる混合物を撹拌し、30分間放置した。
【0028】
セラミックス43の粒径が大きいと、(c)に示すように、撹拌容器15Bの底にセラミックス43が沈降した。セラミックス43の粒径が小さいと、30分が経過しても沈殿は認められなかった。
そこで、セラミックス43の粒径を種々変更して、沈殿の有無及びその程度を調べた。
30分経過時点で、沈殿があるときには、沈降した部分の高さ(h)を測定する。そして、全体の高さ(H)に対する高さ(h)の比率を分離度(S)とした。すなわち、分離度は、S=(h/H)×100の算式で求める。種々の実験における分離度(S)を次図で示す。
【0029】
図5は分離度と平均粒径との関係を説明する図であり、縦軸は分離度、横軸はセラミックス43の平均粒径を示す。
平均粒径Dが10μm以下では、分離は僅かであった。平均粒径Dが80μmでは、分離は約20%であった。平均粒径Dが100μmでは、分離は約60%に急増した。
このグラフから、セラミックス43の平均粒径は80μm以下にすることが望ましいことが確認できた。
【0030】
セラミック粉末は、平均粒径が80μmを超えないようにすることで、セラミック粉末の各粒子を軽くすることができる。セラミック粉末の各粒子を軽くすることで、セラミック粉末を溶解アルミニウム中に浮遊させることができる。
この結果、アルミニウムにセラミックスが均一に分散したアルミニウム基複合材用溶湯を製造することができる。
【0031】
図1に戻って、貯蔵手段21に窒素ガス(N)を準備し、Mg貯蔵手段28にMgを準備し、強化材貯蔵手段32にセラミック粉末としての微粉化させたセラミックス(Al)を準備するとともに撹拌容器15に溶融アルミニウム14を準備する工程を設け、次に、加熱ユニット25により、窒素ガスを少なくとも600℃に加熱する工程を設け、この高温の窒素ガスをMgに接触させて窒化マグネシウムガス(Mg)を生成する工程を設け、この窒化マグネシウムガスをセラミック粉末(Al)に接触させ、このセラミック粉末の表面を活性化させる工程を設け、最後に、活性化させたセラミック粉末(Al)を溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程を設けた。
【0032】
窒化マグネシウムガス(Mg)をセラミックス(Al)43・・・の表面に当て、これら表面を活性化させる工程が設けられているので、セラミックス43・・・の表面が活性化され、これら表面のぬれ性を向上させることができる。セラミックス43・・・のぬれ性が向上するため、できあがったアルミニウム基複合材を加工する場合などにおいて、アルミニウムからセラミックス43・・・が剥離し脱落する不具合を解消することができる。
【0033】
活性化させたセラミックスの粉末44・・・を溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程において、セラミック粉末は、平均粒径が80μmを超えないようにした。平均粒径が80μmを超えないようにしたので、セラミック粉末の各粒子を軽くでき、セラミック粉末を溶解アルミニウム中に浮遊させることができる。
この結果、アルミニウムにセラミックスが均一に分散したアルミニウム基複合材用溶湯を製造することができる。
【0034】
尚、本実施例において、セラミック粉末として、微粉化させたアルミナ(Al)を利用したが、この他の酸化セラミック粉末でも良い。この他、窒化アルミニウム、窒化珪素をはじめとする窒化セラミック粉末、又は炭化物セラミック粉末でも良いものとする。
【0035】
具体的には、本発明に係る製造方法によって得られたアルミニウム基複合材は、アルミニウムと酸化アルミニウムからなる複合材であり、高硬度、耐摩耗性などで優れた特性を有し、例えば、スリーブ、ブレーキなどの車両部品に適用すると好適である。
【0036】
この他のタイプのアルミニウム基複合材として、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)又は窒化珪素(Si)を添加したアルミニウム基複合材があり、各々の材料特性は異なる。そこで、表1において、各複合材の特性及びこれら複合材に好適な車両部品の例を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜4において、異なる添加物を有するアルミニウム・セラミックス複合材は、各々異なる特性を有しており、添加したセラミックスによってアルミニウム・セラミックス複合材の硬度、熱伝導率、線膨張率などの材料特性は異なる。
例えば、アルミニウムと炭化珪素(SiC)からなる複合材は、高硬度、高剛性及び高熱伝導率を有しており、例えば、エンジンのピストンなどに適用すると好適である。
アルミニウムと窒化アルミニウム(AlN)からなる複合材は、高熱伝導率及び低熱膨張率を有しており、例えば、ヒートシンクなどの部品に適用すると好適である。
アルミニウムと窒化珪素(Si)からなる複合材は、高靱性及び低熱膨張率を有しており、例えば、サスペンションアームなどの部品に適用すると好適である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、アルミニウム基複合材用溶湯の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法を説明する図である。
【図2】図1の要部における作用説明図である。
【図3】図1の要部の更なる作用説明図である。
【図4】セラミックの粒径と沈降との関係を調べる実験の原理図である。
【図5】分離度と平均粒径との関係を説明する図である。
【図6】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【図7】図6で混合し冷却して得たアルミニウム基複合材の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
14…溶融アルミニウム、43…セラミック粉末、46…活性アルミニウム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガスと、Mgと、酸化セラミックス粉末・窒化セラミックス粉末又は炭化セラミックス粉末から選択されるセラミック粉末と、溶融アルミニウムとを準備する工程と、
前記窒素ガスを少なくとも600℃に加熱する工程と、
この高温の窒素ガスを前記Mgに接触させて窒化マグネシウムガスを生成する工程と、
この窒化マグネシウムガスを前記セラミック粉末に接触させ、セラミック粉末の表面を活性化させる工程と、
活性化させたセラミック粉末を前記溶融アルミニウムへ吹き込み、分散させる工程と、
からなることを特徴とするアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック粉末は、平均粒径が80μmを超えないようにしたことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム基複合材用溶湯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−38239(P2008−38239A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218308(P2006−218308)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】