説明

アルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法

【課題】 原子力関連施設で発生したアルミニウム金属廃棄物を効率よく酸化することができる処理を目的とする。
【解決手段】 原子力関連の施設で発生した固形状のアルミニウムまたはアルミニウム合金を炉に装入して加熱溶融し、さらに酸化性雰囲気下でその溶湯を900℃以上の高温に保持して、アルミニウムまたはアルミニウム合金を酸化して酸化物凝集体に転化し、つぎにこの凝集体を機械的に粉砕したのち、この粉体を酸化性雰囲気下で900℃以上の高温で焼成することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力関連施設で発生した固形状のアルミニウム系金属廃棄物を安定な酸化物に転換処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設で発生した固形状のアルミニウム系金属廃棄物を最終的に処理する方策として、アルカリ性溶液で水酸化アルミニウムに転換させる方法が知られている(特許文献1参照)。この種アルミニウム系金属、すなわちアルミニウムやその合金をそのまま廃棄処分すると、下水等の存在下で加水反応により水素ガスの発生を見ることがあって、環境上よくないから、そのような対策が提案されている。
【0003】
この種アルミニウム系金属の原子力廃棄物ではないが、金属アルミニウムの工業的生産の現場で必然的に発生するアルミニウムドロス残灰、すなわち金属アルミニウムとその酸化物、窒化物、塩化物等を、ロータリーキルン内でバーナーにより加熱処理して残留金属アルミニウムを積極的に酸化し、同時にこれらを粉砕して廃棄処理しやすくする方法が提案されている(特許文献2参照)。すなわち、
この提案は、アルミニウム系廃棄物の安全な処理策として、本発明の参考にすることができるようである。
【特許文献1】特開平10−221493
【特許文献2】特開平9−206727
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力関連の諸施設で発生した大量のアルミニウム系金属の廃棄物を安全かつ経済的に始末処理しなければならないのは当然ながら、この要求に十分こたえられる方策はまだ確立されていない。上記特許文献1はその可能性を秘めてはいるが、金属アルミニウムをアルカリ溶液で水酸化処理する、いわば湿式法のため低温処理とあいまって反応速度もそれほどはやくない。
【0005】
また上記特許文献2は、原子力関連の諸施設で発生する廃棄物を対象とするアルミニウム系金属の処理技術ではないが、同金属を酸化処理して廃棄物化する点で応用の可能性がないわけではないものの、酸化アルニウムと金属アルミニウムが混合したアルミニウムドロス残灰の酸化処理技術であり、金属アルミニウムやその合金を酸化処理するプロセスではなく、酸化処理の効率や減容率という面で、単純に転用できないものである。
【0006】
本発明は、原子力関連の施設で発生した固体状のアルミニウム系金属を酸化して最終的に廃棄物化するにあたり、高効率で酸化反応を行わせ、十分に安定性のある酸化生成物を得ることができ、しかも高減容率にて確実に廃棄処分に付すことのできる処理法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
(1)原子力関連の施設で発生した固形状のアルミニウムまたはアルミニウ合
金を炉に装入して加熱溶融し、さらに酸化性気体雰囲気下でその溶湯を900℃以上の高温に保持して、アルミニウムまたはアルミニウム合金を酸化して塊状の酸化物凝集体に転化し、つぎにこの凝集体を機械的に粉砕したのち、この粉体を酸化性雰囲気下で900℃以上の高温で焼成することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(2) 上記(1)の方法において、アルミニウムまたはアルミニウム合金を炉内で機械的に攪拌しながら加熱溶融し、酸化処理するアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(3 )上記(1)または(2)の方法において、アルミニウムまたはアルミニウム合金を炉内で900〜1200℃の高温に保持するアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(4) 上記(1)(2)または(3)の方法において、酸素とアルゴンとの混合ガスを酸化性雰囲気に使用するアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(5) 上記(1)(2)(3)または(4)の方法において、アルミナまたはマグネシア製のるつぼを炉として使用するアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(6) 上記(1)(2)(3)(4)または(5)の方法において、酸化性雰囲気ガスをアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯に吹き付けまたは吹き込むアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
(7) 上記(1)(2)(3)(4)(5)または(6)の方法において、酸化物凝集体の粉体
を大気下で酸化焼成するアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法、
を提案するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上述したように、アルミニウム系金属原子力廃棄物を固形物の状態から出発して溶融状態のもとで、酸化物へ転化させるという発想にもとずく処理法であって、具体的には、アルミニウム系金属廃棄物を単に加熱溶融するだけではなく、少なくとも900℃ の、アルミニウムの融点をはるかに超える高温に加熱し、その高温下で酸化反応を遂行する方法であるから、アルミニウム系金属は高温溶融の液相下で酸化が進行し、その処理効率は非常に高い。しかも本発明は、その処理を終えた一次酸化処理物を粉砕してから、さらに攪拌しながら酸化性ガスのもとで焼成して再度酸化処理に付すので、一次酸化での残留未反応アルミニウム系金属は完全に酸化して、最終的には金属アルミニウムや合金類はすべて酸化物となり、信頼性の高い、しかも高減容率にて廃棄処分ができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
原子力関連の諸施設で発生するアルミニウム系金属は、大小軽重いろいろ雑多であり、これらを本発明法で処理するにあたっては、使用する炉の容量容積を考えて適当な大きさに裁断等の事前調整をする。なお、この種廃棄物のうちアルミニウム合金とは、MgやSi等を含有するタイプで、これらの合金元素は酸化してマグネシア、シリカに転化する。
【0010】
事前調整したアルミニウム系金属の固形体の溶融に使用する炉には、高温に十分耐えられるアルミナまたはマグネシア製のるつぼタイプが適している。また、高温加熱用として、誘導加熱、抵抗加熱またはアーク加熱装置が実用的である。
さらに、炉には酸化性雰囲気ガスを導入するので、真空チャンバーのような、大気と隔離できる密閉構造の設備がよい。もし、酸化性雰囲気ガスを積極的に炉内に吹き込んだり、吹き付けたりする場合は、ガス導入用配管を付設した炉を使用する。
【0011】
本発明の方法を実施する第一段階は、事前調整した所定のアルミニウムまたはアルミニウム合金の固形物を炉に装入し、それらの融点である一般に600〜660℃あたりまで昇温加熱して溶融する工程である。ただし、溶融以前の段階からアルミニウムの酸化がはじまり、その表面に酸化物の層を形成すると、それ以上の本格的な酸化を抑制するおそれがあるので、適当な対策を講ずるとよい。たとえば、不活性ガスあるいは還元性ガス雰囲気としておき、溶融後に酸化性ガス雰囲気に置換する方法などである。
【0012】
つづいて本発明の方法は、第二段階として炉の温度を900℃以上まで継続的に上昇し、酸化性雰囲気ガスの存在下でアルミニウムを、その溶融状態を維持しつつ酸化させる。アルミニウム系金属に対する酸化性ガスとしては、酸素、空気、水蒸気等が考えられるが、安全性や窒化物生成(後日の廃棄時に加水して臭気のもとになるアンモニアを発生する)等の点を考慮すると、酸素と不活性ガス・アルゴンとの混合ガスがよい。不活性ガスを併用する場合、その酸素に対する混合比率は10〜50%が適当である。
【0013】
この第二段階で、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、酸素等の酸化性ガスによって酸化し、酸化アルミニウムおよび合金元素はMgOやSiO2等に転化する。この場合、アルミニウム系金属を,その融点をはるかに超えて900℃以上もの高温状態に保持して酸化反応を遂行させるのが本発明の大きな特徴である。前記特許文献2は、アルミニウムドロス残灰を1000℃の高温で酸化する技術を示すが、それは気中での固体の処理であるのに対して、本発明はアルミニウム系金属が完全に溶融状態にあって酸化処理される点で著しく相異する。本法の方が前者よりもはるかに効率よくアルミニウム素材が酸化する。すなわち、高温の溶融状態での保持時間が同じの場合、900〜1200℃の温度範囲で高温になるほど、アルミニウムの被酸化性が飛躍的に向上することを発明者は確認した(下記実施例参照)。因みに、この温度がアルミニウム融点660℃を超えて、
800℃程度の高温に上げても、最終的には溶湯の下半分程度は酸化に至っていないことを確認している。実際は1100〜1200℃がとくに有効である。
【0014】
なお、この第二段階を実施する際、酸化性ガスの使用あるいは供給方法はいろいろで、るつぼを用いる場合は、るつぼの周辺を被う程度でもよいが、前述の配管付き設備を採用して、酸化性ガスを直接に溶融金属浴の表面に吹き付け、または浴中に吹き込むと、酸化反応に関与する酸化性ガスの移動速度を向上し、反応面積も増大して、酸化反応速度を向上するのに有効である。
【0015】
また、酸化反応によって生成する酸化物は、皮膜状となって後続すべき酸化反応を阻害するおそれがあるが、溶融物の加熱温度が900℃以上もの高温下では、
皮膜状酸化物はもろくなって容易に壊れるため、効果的に酸化反応が持続する。
また、回転式あるいは上下動式のセラミック製の攪拌器を炉にセットした設備を用いて、アルミニウム溶湯を機械的に攪拌、揺動しながら酸化処理すると、上記の酸化物凝集体は継続的に破壊されて皮膜を形成するには至らない。
【0016】
つぎに、本発明は、第二段階を終えて生成した酸化物凝集体を粉砕後、焼成して、その酸化物凝集体中に残存する未酸化のアルミニウム金属を完全に酸化させ、無害の最終廃棄物にする。第二段階の高温酸化工程で、限りなく金属分を酸化することは不可能でないにしても、必ずしも経済的でない。従って、その酸化処理を下記条件を考慮して終了し、第三工程に移行する。
【0017】
(1)未酸化アルミニウム分がおよそ50%以下になったとき、
(2)溶湯温度が900℃以上に到達したとき。
【0018】
なお、第二段階で残留している未反応のアルミニウムは金属的延性があって、その量が多いほど、酸化物凝集体全体の破砕粉砕性を阻害するが、第二段階での酸化処理温度が900℃以上の高温であれば、残留金属分が低減できるから、延性による悪影響はきわめて少ないことを確認している。
【0019】
第二段階で大部分が酸化処理されてできた酸化物凝集体は塊状にて炉内にたまっているので、そのまま炉内で、もしくは炉から排出して別の設備、たとえば粉砕機を用いて、粒径1mm以下の微粉に粉砕する。ついで、この微粉の酸化物凝集体を、ロータリーキルンのような焼成設備を用いて、酸化性雰囲気ガスの存在下で焼成する。酸化性ガスは大気が実用的で、焼成温度は900−1500℃がよい。なお、焼成時間は加熱温度によるが、目標温度に到達後30分〜5時間の保持が適当である。
【0020】
かくして、アルミニウム系金属原子力廃棄物は、十分に酸化物に転化して保証に耐えられ、しかも十分に減容した粉状の最終廃棄物となる。
【0021】
(実施例)
500grのアルミニウムを処理するために、高周波電源出力25kw,周波数5000〜6000Hzの真空チャンバー式の真空誘導溶解設備を準備し、その高周波コイル内の黒鉛製スリーブ内にアルミナ製のるつぼを装填した。
【0022】
るつぼ内に5cm程度のアルミニウム砕片を装入し、Ar+21%O2の混合気を導入して雰囲気を保持した状態のもとで加熱してアルミニウムを溶解し、酸素ガスによる酸化処理を行った。この処理は、比較例を加えて4種類とし、加熱温度がそれぞれ800、900、1000、1200℃になってから、4時間づつ温度保持した。その後、常温に冷却してからるつぼより酸化物凝集体を排出した。
【0023】
この4種のうち、800℃どまりで加熱溶融処理したものは、見かけでも明らかに、下半身はほとんど未反応の金属アルミニウムがそのまま残っているのが確認できた。これに対して、900℃以上の3種は、いずれもほぼ全体が酸化物凝集体に転化している様子が肉眼で確認された。
【0024】
さらに、各酸化物凝集体試片につきX線回析による同定を行った。800℃のは残留アルミニウム金属の量が驚くべきことに90%もあったが、900℃のは約50%,1000℃のは約40%そして1200℃のは約20%で、明確な有意差のある事実を確認した。
【0025】
つぎに、900℃に加熱し酸化処理を実施した上例の一種を選んで、これを
粉砕機により、1mm以下の細粒に粉砕したのち、加熱炉に入れ、大気下で1500℃まで加熱し、2時間保持して焼成した。図1および図2のX線回折結果が示すように、焼成後のは金属アルミニウム成分を示すピークが消滅し、実質的にすべて酸化していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アルミニウム溶湯を高温で酸化処理した酸化物凝集体のX線回折結果。
【図2】図1の酸化物凝集体を粉砕し、さらに高温焼成した最終処理物のX線回折結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力関連の施設で発生した固形状のアルミニウムまたはアルミニウム合金を炉に装入して加熱溶融し、さらに酸化性雰囲気下でその溶湯を900℃以上の高温に保持して、アルミニウムまたはアルミニウム合金を酸化して酸化物凝集体に転化し、つぎにこの凝集体を機械的に粉砕したのち、この粉体を酸化性雰囲気下で900℃以上の高温で焼成することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項2】
請求項1の方法において、アルミニウムまたはアルミニウム合金を機械的に攪拌しながら、加熱溶融および酸化処理することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項3】
請求項1または2の方法において、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を900〜1200℃の高温に保持して酸化処理することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項4】
請求項1、2または3の方法において、酸素とアルゴンの混合ガスを酸化性雰囲気ガスに使用することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項5】
請求項1、2、3または4の方法において、アルミナまたはマグネシア製のるつぼを炉に使用することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項6】
請求項1、2、3,4または5の方法において、酸化性雰囲気ガスをアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯に吹き付けまたは吹き込むことを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6の方法において、酸化物凝集体の粉体を大気下において酸化焼成することを特徴とするアルミニウム系金属原子力廃棄物の酸化処理法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−98116(P2006−98116A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281949(P2004−281949)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)