説明

アルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法

【課題】 偏平チューブ1とチューブプレート3との付根部における補修方法または補強方法であって、補修後に耐水性、耐熱性、耐寒性を有するとともに、隙間充填性がよくシール性を有し、且つ、冷熱繰返し試験で耐久性を有する補修方法または補強方法の提供。
【解決手段】 硬化後にゴム弾性を有する液状のシリコン系充填剤を、熱交換器コア5aの幅方向一方側の縁に塗布し、その一方側から他方側に充填剤が達するように充填した後に、その充填剤を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の偏平チューブとフィンとが交互に並列されると共に、各チューブの端部がチューブプレートの挿通孔に挿通され、その挿通部がろう付け固定されたアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法に関し、特に偏平チューブの付根とチューブプレートの挿通部における漏れを充填剤で塞ぐ補修方法または補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製熱交換器に生じる漏れの大半は、偏平チューブの付根とチューブプレートのチューブ挿通孔との間で生じる。アルミニウム製熱交換器は、その材料が比較的低融点であるため、補修部分をバーナ等によりハンダ付け修理することが不可能である。そのため従来はエポキシ系接着剤を偏平チューブの付根に充填して、穴あきを防ぐ修理方法が一般的に行われていた。
これは液状接着剤で、その接着剤を塗布後加熱することにより硬化するものである。その硬化後は硬い補修層が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エポキシ系の充填剤は加熱硬化型であり、硬化後に硬い補修層を作る。チューブの付根とチューブプレートのチューブ挿通孔との隙間が0.1ミリ以下の場合には有効であるが、それ以上の隙間の場合に、適用するとその補修層は衝撃や熱応力によって亀裂を生じるおそれがある。特に、建設機械用の熱交換器の如く、大型の熱交換器の場合には、上記隙間が大きくなりがちであり、それに対応できなかった。また、大型熱交換器は、チューブの長さが長く(一例として1m)熱応力が大きくなり、使用中に漏れを起こすことがしばしば生じた。
そこで、本発明はかかる欠点を解決する補修または補強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の本発明は、多数の並列された偏平チューブ(1) とフィン(2) と、多数のチューブ挿通孔(3a)が並列されると共に、その挿通孔(3a)の孔縁部がタンク本体(4)側にバーリング加工された細長いチューブプレート(3)とを具備し、それぞれの偏平チューブ(1) の端部が、前記チューブ挿通孔(3a)に挿通され、その挿通部がろう付け固定されて熱交換器コア(5a)を構成するアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法において、
前記熱交換器コア(5a)の幅方向の一方側の縁に、硬化後にゴム弾性を有する液状のシリコン系充填剤(6)を塗布し、その一方側から他方側に充填剤が達するように充填した後に、その充填剤を硬化させることを特徴とするアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法である。
【0005】
請求項2に記載の本発明は、請求項1において、
前記一方側の縁に、液状のシリコン系充填剤(6)を塗布し、その熱交換器コア(5a)を前記他方側に傾けて充填剤(6)を一方側から他方側に移動充填する初期工程と、
前記傾斜により、前記一方の縁の充填剤の量が減少した後に、再度、前記一方の縁にその充填剤(6)を塗布して、前記同様に傾け、その液状のシリコン系充填剤(6)が前記他方の縁に達する迄、繰り返す後工程と、
その後、熱交換器コア(5a)を垂直に位置して充填剤を硬化させる工程と、を有することを特徴とするアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法は、熱交換器コア5aの幅方向の一方側の縁にシリコン系充填剤6を塗布し、その一方側から他方側に充填剤が達するように充填した後に、その充填剤を硬化させ、硬化後にゴム弾性を有する充填剤がチューブプレート3全面を覆うように形成されるから、多数の偏平チューブ1の付根部とチューブ挿通孔3aとを同時に気密に保持し、信頼性の高い補修または補強を行うことができる。特に、チューブとチューブプレートのチューブ挿通孔との隙間が大きく(0.1〜0.8ミリの隙間にも有効であることが確認された)ても、その気密性、液密性を永続的に保つことができる信頼性の高いものとなる。
【0007】
上記構成において、シリコン系充填剤6を一方側の縁に塗布し、熱交換器コア5aを他方側に傾けてシリコン系充填剤6を一方側から他方側に移動充填する初期工程と、再度一方の縁全体にシリコン系充填剤6を塗布して同様に傾け、シリコン系充填剤6が他方の縁に達するまで繰返し行う後工程と、その後、熱交換器コア5aを垂直に維持して充填剤を硬化させる工程と、をとることにより、シリコン系充填剤6をチューブプレート3全面に渡って確実に充填すると共に、その硬化中にシリコン系充填剤6を水平にして、均一な補修面を形成することができる。それにより、より信頼性の高い補修または補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のアルミニウム製熱交換器5の補修方法または補強方法の第1工程を示す。
【図2】図1のII−II矢視断面図。
【図3】図2におけるシリコン系充填剤6を熱交換器5の一方側から他方側に移動充填するときの熱交換器5の傾斜状態を示す説明図。
【図4】シリコン系充填剤6を再充填する説明図。
【図5】再度熱交換器5を傾斜させてシリコン系充填剤6を移動させる説明図。
【図6】シリコン系充填剤6の充填の完了状態を示す説明図であると共に、シリコン系充填剤6の硬化工程を示す説明図。
【図7】図6のVII−VII矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
この補修の対象となるアルミニウム製熱交換器は、図1に示すごとく、多数の並列された偏平チューブ1とフィン2と、チューブプレート3とにより熱交換器コア5aを構成する。そのチューブプレート3は、全体が細長い平面形状を有し、多数のチューブ挿通孔3aが長手方向に互いに離間して並列され、そのチューブ挿通孔3aの孔縁部はタンク本体4側にバーリング加工されている。それと共に、この例ではチューブプレート3の周縁部に環状凸部8が形成され、その環状凸部8の内面側は環状溝に形成されている。そして、その環状溝にOリング9を介してタンク本体4の裾部が嵌着され、Oリング9を押圧した状態でチューブプレート3の縁部がカシメ固定されたものである。
【0010】
この例におけるフィン2はコルゲート型のものであり、その端部は図7に示すごとく、チューブプレート3から所定距離離間している。また、タンク本体4は樹脂製のものであるが、それをアルミニウム製のものとし、タンク本体4とチューブプレート3との間を一体的にろう付け固定することもできる。
【0011】
(検証例1)
本発明に用いる充填剤は、シリコン系充填剤であり、有機ポリシロキサン混合物(これはSiと酸素を骨格とする化合物であり、一般式:RSiO‐(RSiO)‐SiRであらわされる。)であり、一例として、信越化学製の充填剤のKE−441−Tを用いることができる。これは硬化後ゴム弾性を有する。そして初期剥離強度を202.2N(ただし剥離面積25mm×15mm)とする。
【0012】
この充填剤はアルミニウム製熱交換器のチューブプレートとチューブとの付根に使用した(付根部の補修すべき隙間が0.1ミリ〜0.8ミリ)とき、熱交換器で使用されうる耐水性、耐熱性、耐寒性を有することが分かった。それと共に、隙間充填性(シール性)を有する。さらには冷熱繰返し試験(条件:高温の流体温度90℃,低温の流体温度10℃を用意し、チューブ内に両流体を交互に流通させる。その1サイクルを120秒とする)を行った。本発明の熱交換器の補修品と、未補修の正常な熱交換器を比較したところ、補修品は未補修品に比べて5倍以上の冷熱繰返し試験に耐えることが分かった。
【0013】
この結果、本発明の方法は、漏れの生じた熱交換器の補修のみならず、漏れのない正常な熱交換器の補強に役立つことが分かった。そこで、本発明の方法は、熱交換器の補修方法または補強方法を対象とする。なお、上記に使用した充填剤は室温にて硬化するものであり、一液性のもので簡易な取り扱いが可能なものである。
また、熱交換器のろう付けには、通常フラックスを使用するが、そのフラックスがろう付け後に残渣として熱交換器表面に付着する。その残渣が付着した状態でも、本発明の方法に用いるシリコン系充填剤は、充分なる補修および補強効果があることが実験により確かめられた。
【0014】
(補修方法または補強方法)
このようなシリコン系充填剤を、まず図1および図2に示すごとく、熱交換器コア5aの幅方向の一方側の縁のチューブ付根部、あるいは一方側の縁全体に、環状凸部8の内側へ塗布する。この例では充填剤容器7からシリコン系充填剤6を押出し、縁全体に均一に塗布する。この充填剤は一定の粘度を有するが流動性を有し、斜面を所定時間かけて流動する。このとき、環状凸部8の存在により充填剤が外側に流出することはない。
【0015】
そこで、図3のごとく熱交換器5を他方側に傾斜させる。すると、シリコン系充填剤6は一方側から他方側に流動する。そして、その分だけ他方側のシリコン系充填剤6の高さが低くなる。そこで、図4に示すごとく再度、第2回目のシリコン系充填剤6を熱交換器コア5aの幅方向一方側に充填する。次に、前記同様図5のごとく、熱交換器5を傾斜させる。このような充填作業を繰返すと、補修材6はチューブプレート3の幅方向の一方側から他方側まで達する。そこで、その他方側に達したことを確認したうえで、図6のごとく熱交換器5のチューブプレート3を水平に維持し、室内での自然乾燥を行う。すなわち室温硬化させる。なお、充填剤の深さは、チューブプレート3の基準面から3mm程度が好ましい。その充填剤は、図7に示す如く、チューブプレート3の基準面上のみならず、バーリング加工部3bの凹陥した内部にも進入している。
【0016】
(検証例2)
このような補修の結果、偏平チューブ1の付根部に漏れの存在した熱交換器において、減圧試験を行ったところ、147kPaの圧力に耐え、補修部の漏れが存在しなかった。次に、正圧破壊試験を行ったところ350kPa前後でタンクのカシメ部に漏れが発生したが補修部の漏れは存在しなかった。
次にインパルス試験(条件:雰囲気温度を80℃とし、圧力を0から140kPaGまで加圧し、1サイクルを2.5秒で実施する)を、およそ36000回行ったところ、タンクのカシメ部に漏れが生じた。しかしながら補修部には漏れは生じなかった。
【符号の説明】
【0017】
1 偏平チューブ
2 フィン
3 チューブプレート
3a チューブ挿通孔
3b バーリング加工部
4 タンク本体
【0018】
5 熱交換器
5a 熱交換器コア
6 シリコン系充填剤
7 充填剤容器
8 環状凸部
9 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の並列された偏平チューブ(1) とフィン(2) と、多数のチューブ挿通孔(3a)が並列されると共に、その挿通孔(3a)の孔縁部がタンク本体(4)側にバーリング加工された細長いチューブプレート(3)とを具備し、それぞれの偏平チューブ(1) の端部が、前記チューブ挿通孔(3a)に挿通され、その挿通部がろう付け固定されて熱交換器コア(5a)を構成するアルミニウム製熱交換器の補修方法において、
前記熱交換器コア(5a)の幅方向の一方側の縁に、硬化後にゴム弾性を有する液状のシリコン系充填剤(6)を塗布し、その一方側から他方側に充填剤が達するように充填した後に、その充填剤を硬化させることを特徴とするアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記一方側の縁に、液状のシリコン系充填剤(6)を塗布し、その熱交換器コア(5a)を前記他方側に傾けて充填剤(6)を一方側から他方側に移動充填する初期工程と、
前記傾斜により、前記一方の縁の充填剤の量が減少した後に、再度、前記一方の縁にその充填剤(6)を塗布して、前記同様に傾け、その液状のシリコン系充填剤(6)が前記他方の縁に達する迄、繰り返す後工程と、
その後、熱交換器コア(5a)を垂直に位置して充填剤を硬化させる工程とを有することを特徴とするアルミニウム製熱交換器の補修方法または補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−269413(P2010−269413A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124013(P2009−124013)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)