説明

アンチロックブレーキ装置

【目的】 マスタシリンダ及び車輪ブレーキ間を結ぶ主流路に入口弁及びオリフィスを介装した還流式アンチロックブレーキ装置において、通常制動時の初期には入口弁及びオリフィスに抵抗されずにスムーズな制動を可能にする。
【構成】 マスタシリンダM及び車輪ブレーキB間を結ぶ主流路2に入口弁3及びオリフィス4を介装した還流式アンチロックブレーキ装置において、入口弁3及びオリフィス4を迂回するバイパス13に、その上流油圧が所定値以上に上昇すると閉弁する常開型の油圧応動弁14を設ける。
【効果】 油圧応動弁のための特別なパイロット油路が不要。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車、自動二輪車等の車両に適用されるアンチロックブレーキ装置に関し、特に、マスタシリンダ及び車輪ブレーキ間を結ぶ主流路に入口弁を介装し、この入口弁を迂回して主流路に接続される還流路に出口弁と、この出口弁を通過した油を主流路の上流側へ圧送する油圧ポンプとを介装したアンチロックブレーキ装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】この種ブレーキ装置は、例えば実開平2−26967号公報に開示されているように、既に知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一般に、この種ブレーキ装置では、アンチロック制御中の増圧時には、出口弁を閉じると共に入口弁を開き、マスタシリンダの出力油圧及び油圧ポンプの吐出油圧を車輪ブレーキに供給する。その際、上記油圧の供給速度を適度に調整すべく入口弁に一定の絞り抵抗を与えたり、一定の絞り抵抗をもつオリフィスを主流路に設けることが行われているが、このようにすると、通常制動時に、マスタシリンダの出力油圧の車輪ブレーキへの伝達が入口弁又はオリフィスの絞り抵抗により多少とも遅れるという弊害を伴う。
【0004】そのような弊害を解消するために、前記公報に開示されたものでは、入口弁を迂回して主流路に接続されるバイパスに、油圧ポンプの所定値以上の吐出圧を受けて閉じる常開型の圧力応動弁を設けて、通常ブレーキ時には、マスタシリンダの出力油圧を主として抵抗の少ないバイパスを通して車輪ブレーキにスムーズに供給するようにしている。しかしながら、そのものでは、上記のバイパスの他に、油圧ポンプの吐出圧を圧力応動弁に伝達するパイロット油路を設ける必要があり、油圧回路が複雑であってコスト高となるを免れない。
【0005】本発明は、かゝる事情に鑑みてなされたもので、簡単な油圧回路により前記弊害を解消し得るアンチロックブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、入口弁を迂回するバイパスを主流路に接続し、このバイパスに、その上流油圧が所定値以上になると閉弁する常開型の圧力応動弁を介装したことを第1の特徴とする。
【0007】また本発明は、上記特徴に加えて、主流路の、バイパスに迂回される部分にオリフィスを入口弁と直列に設けたことを第2の特徴とする。
【0008】
【作用】本発明の第1の特徴において、マスタシリンダの作動初期には、バイパスの油圧応動弁は開き状態にあるから、マスタシリンダの出力油圧はバイパスを通して車輪ブレーキにスムーズに伝達し、入口弁の流路抵抗を受けない。そして、マスタシリンダの出力油圧が所定値を超えると、油圧応動弁は閉じ状態となるので、油圧ポンプが作動するアンチロック制御時には、入口弁及び出口弁の切換作動の繰返しにより、車輪ブレーキの減・増圧を支障なく行うことができる。
【0009】而して、油圧応動弁はバイパスの上流油圧に応動するものであるから、特別なパイロット油路を必要としない。
【0010】また本発明の第2の特徴において、アンチロック制御時における増圧制御を、主流路のオリフィスにより緩徐に行い、急激な増圧を抑えることができる。しかも、通常の制動初期には、上記オリフィスに邪魔されることなく、マスタシリンダの出力油圧をバイパスを通して車輪ブレーキにスムーズに伝達することができる。
【0011】
【実施例】以下、図面により本発明の一実施例について説明する。
【0012】先ず自動車の制動油圧回路を示す図1において、操縦者によりブレーキペダル1を介して操作されるマスタシリンダMと、車輪Wを制動する車輪ブレーキBとを結ぶ主流路2に常開型の電磁弁からなる入口弁3とオリフィス4とが直列に介装され、これら入口弁3及びオリフィス4を迂回するように還流路5が主流路2に接続される。この還流路5には、車輪ブレーキB側から常閉型の電磁弁からなる出口弁6、電動式の油圧ポンプ7、油圧ダンパ8及びオリフィス9が順次介装されると共に、出口弁6及び油圧ポンプ7間にリザーバ10が接続される。
【0013】油圧ポンプ7は出口弁6を通過した油を油圧ダンパ8側へ圧送するもので、その吸入側に吸入弁11、吐出側に吐出弁12を備えている。油圧ダンパ8及びオリフィス9は協働して油圧ポンプ7の吐出圧の脈動を減衰するものである。
【0014】車輪Wの近傍には、その回転速度を検出する車輪速度センサ28が配設され、その検出信号はアンチロック制御ユニット29に送られる。アンチロック制御ユニット29は、上記検出信号等から車輪Wがロック傾向にあると判定すると、入口弁3及び出口弁6に切換え信号を、また油圧ポンプ7に作動信号を送るようになっている。
【0015】また主流路2には、還流路5とは別に入口弁3及びオリフィス4を迂回するバイパス13が接続され、このバイパス13を開閉制御する油圧応動弁14が介装される。
【0016】図2に示すように、油圧応動弁14は、バイパス13を形成したハウジング15に嵌装される弁函16と、この弁函16の弁座17と協働する弁体18とを備える。弁函16には、バイパス13の上流側(マスタシリンダM)側に連なる大径の入口室19と、この入口室19をバイパス13の下流側(車輪ブレーキB側)に連通する小径の出口室20と、両室19,20の境界部に形成される弁座17と同軸の案内孔21とが設けられる。一方、弁体18は、傘部22と、この一端面から延出する弁杆23とからポペット形に形成され、傘部22を弁座17に対向させ、弁杆23を案内孔21に摺動自在に嵌合させている。また出口室20には弁体18を開き方向、即ち弁座17からの離間方向へ付勢する弁ばね24が収容される。こうして圧力応動弁14は、入口室19の油圧が所定値以上に上昇することにより閉弁する常開型に構成される。
【0017】弁体18の開弁位置は、傘部22の上面に設けられた複数の突起25と、入口室19の内周壁に係止されたストッパ板26との当接により規制される。
【0018】次に、この実施例の作用について説明する。平時、入口弁3は開き状態、出口弁6は閉じ状態になっており、また油圧応動弁14は開き状態(図2参照)になっているから、マスタシリンダMを作動すれば、当初、その出力油圧は主として抵抗の少ないバイパス13を通って車輪ブレーキBにスムーズに伝達することができ、したがって主流路2の入口弁3及びオリフィス4の抵抗の影響を受けることなく車輪ブレーキBを迅速に作動させ、車輪Wを制動することができる。そして、油圧応動弁14において、入口室19の油圧、即ちマスタシリンダMの出力油圧が所定値以上に上昇すると、図3に示すように、弁体18が弁ばね24のセット荷重に抗し移動して弁座17に着座し、閉弁状態となり、バイパス13を遮断するので、その後のマスタシリンダMの出力油圧は、主流路2のみを通して、即ちオリフィス4及び入口弁3を通して比較的緩速で車輪ブレーキBに供給される。
【0019】この制動中、車輪Wがロックしそうになると、アンチロック制御ユニット29が入口弁3を閉弁状態に、出口弁6を開弁状態に切換えると共に、油圧ポンプ7を作動させる。
【0020】而して、マスタシリンダMの所定値以上の出力油圧により油圧応動弁14は閉弁状態を持続しているから、入口弁3の閉弁により主流路2が遮断されると、マスタシリンダMの出力油圧の車輪ブレーキBへの伝達は直ちに阻止される。一方、出口弁6の開弁及び油圧ポンプ7の作動により車輪ブレーキWの油圧は還流路5へ放出させ、リザーバ10に吸収されたり、マスタシリンダMへ戻される。その結果、車輪ブレーキBが減圧し、制動力が減少して車輪Wのロック傾向が無くなると、アンチロック制御ユニット29は、制動力を回復すべく、油圧ポンプ7を作動状態にしたまゝで、入口弁3及び出口弁6を通常状態に復帰させる。
【0021】一方、油圧応動弁14は、このような状態でもマスタシリンダMの出力油圧により閉弁状態を保持し続けているので、マスタシリンダMの出力油圧及び油圧ポンプ7の吐出圧は、主流路2を通して車輪ブレーキBに供給される。その際、その供給速度は、主流路2中のオリフィス4により比較的緩やかに制御されるため、車輪ブレーキBの急激な増圧を回避して、制動力を的確に回復することができる。そして、このような作動が高速で繰返されることにより、車輪Wを効率的に制動することができる。
【0022】ところで、油圧応動弁14は、これが設けられるバイパス13の上流油圧に応動するものであるから、特別なパイロット油路が不要であり、油圧回路の簡素化を図ることができる。
【0023】尚、上記実施例においては、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の設計変更が可能である。
【0024】
【発明の効果】以上のように本発明の第1の特徴によれば、入口弁を迂回するバイパスを主流路に接続し、このバイパスに、その上流油圧が所定値以上になると閉弁する常開型の圧力応動弁を介装したので、油圧応動弁のための特別なパイロット油路を設けずとも、油圧応動弁をマスタシリンダの出力油圧に応動させることができ、したがって簡単な油圧回路をもって制動初期にはマスタシリンダの出力油圧をバイパスを通して車輪ブレーキにスムーズに伝達することができ、またアンチロック制御時にはバイパスを遮断して車輪ブレーキの減・増圧を支障なく行うことができる。
【0025】また本発明の第2の特徴によれば、主流路の、バイパスに迂回される部分にオリフィスを入口弁と直列に設けたので、アンチロック制御時、オリフィスにより車輪ブレーキの急激な増圧を抑えることができ、しかも通常の制動初期には、該オリフィスに邪魔されることなくマスタシリンダ油圧の車輪ブレーキへの供給をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る自動車用アンチロックブレーキ装置の油圧回路図
【図2】上記ブレーキ装置中の油圧応動弁を開弁状態で示す縦断側面図
【図3】上記油圧応動弁を閉弁状態で示す縦断側面図
【符号の説明】
B 車輪ブレーキ
M マスタシリンダ
2 主流路
3 入口弁
4 オリフィス
5 還流路
6 出口弁
7 油圧ポンプ
13 バイパス
14 油圧応動弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 マスタシリンダ(M)及び車輪ブレーキ(B)間を結ぶ主流路(2)に入口弁(3)を介装し、この入口弁(3)を迂回して主流路(2)に接続される還流路(5)に出口弁(6)と、この出口弁(6)を通過した油を主流路(2)の上流側へ圧送する油圧ポンプ(7)とを介装したアンチロックブレーキ装置において、入口弁(3)を迂回するバイパス(13)を主流路(2)に接続し、このバイパス(13)に、その上流油圧が所定値以上になると閉弁する常開型の圧力応動弁(14)を介装したことを特徴とする、アンチロックブレーキ装置。
【請求項2】 請求項1記載のものにおいて、主流路(2)の、バイパス(4)に迂回される部分にオリフィス(9)を入口弁(3)と直列に設けたことを特徴とする、アンチロックブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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