説明

アンテナ装置及びレーダ装置

【課題】サイドローブを低減する小型のアンテナ装置及びレーダ装置を提供する。
提供する。
【解決手段】アンテナ装置100は、複数の素子を一方向に配列した送信単位121を複数個備え、複数個のうち一部の前記送信単位121−1〜121−Lは、連続して前記一方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置され、残りの前記送信単位121−L+1〜121−2Lは、連続して前記一方向と逆方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射したミリ波に対するターゲット(目標物)からの反射波を用いてターゲットの検出を行うアンテナ装置及びレーダ装置に関する。特に、DBF(Digital Beam Forming;ディジタルビームフォーミング)レーダ装置に備えるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行の安全性を確保するために、進行方向(前方)の障害物や先行車などのターゲットを検出するための前方監視用車載レーダ装置が開発されている。車載レーダ装置には、複数の受信アンテナを備え、各受信アンテナからの受信信号を移相し合成する処理(DBF方式)を採用するものがある。車載レーダ装置が高精度でターゲットを検出するためには、DBF方式を実行する際に放射する電波のビーム幅及び反射波の受信特性を細くすることが望ましい。
【0003】
一般に、DBF方式を実行して得られる信号についてのアンテナの指向特性において、ターゲットの方向からの成分が主となる。この方向への指向特性を主ビーム(main beam)という。それ以外の方向に放射される信号の指向特性をサイドローブ(siderobe)といい、サイドローブは完全にゼロにならない。一般には、アンテナの素子数を増し、これに加えて素子をずらして配置することによりサイドローブを低減できることが知られている。
例えば、特許文献1記載のアンテナ装置では、多数の素子によって構成されるアレーが複数個のサブアレーに分割され、各サブアレーが一方向、例えばX軸方向にずらされ、Y軸方向に対して段差状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3283589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のアンテナ装置は、多数の素子からなるサブアレーが一方向にずらされているため、ずれ方向への幅が著しく増加してしまう。従って、特許文献1記載のアンテナ装置では、小型化することが求められる車載レーダアンテナとして実用的ではないという問題点がある。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、サイドローブを低減する小型のアンテナ装置及びレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、複数の素子を一方向に配列した送信単位を複数個備え、複数個のうち一部の前記送信単位は、連続して前記一方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置され、残りの前記送信単位は、連続して前記一方向と逆方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置されること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0008】
(2)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記一部の送信単位の配置と前記残りの送信単位の配置は、前記一方向と垂直な方向に鏡像対称であること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0009】
(3)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記一部の送信単位の前記一方向への送信単位間のずれ量が等しいこと、又は前記残りの送信単位の前記一方向と逆方向への送信単位間のずれ量が等しいこと、を特徴とするアンテナ装置である。
【0010】
(4)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記送信単位間のずれ量が前記送信単位に備えられた素子間間隔よりも短いこと、を特徴とするアンテナ装置である。
【0011】
(5)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、複数の素子を前記一方向に配列した受信単位を複数個備えること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0012】
(6)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記送信単位の配置による第1ヌル点が、前記受信単位による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点の中間となる、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数、前記送信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0013】
(7)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記送信単位の配置による第1ヌル点と前記受信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0014】
(8)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記送信単位の配置による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記送信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0015】
(9)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置であって、前記受信単位による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数及び前記送信単位が備える素子数との関係を有すること、を特徴とするアンテナ装置である。
【0016】
(10)本発明の一態様は、上述のアンテナ装置を備えるレーダ装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の一部の送信単位が一方向に連続してずれて配置され、残りの送信単位が逆方向に連続してずれて配置されるため、一方向への幅が著しく増加せず、サイドローブを低減する小型のアンテナ装置及びレーダ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアンテナ装置100の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るアンテナ装置100による指向特性の一例を示す図である。
【図3】本実施形態に係る送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布の一例を示す図である。
【図4】本実施形態によらない送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布の一例を示す図である。
【図5】本実施形態に係る送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ配置によるヌル点θnsの分布の一例を示す図である。
【図6】本実施形態のその他の例であるアンテナ装置200の構成を示す概略図である。
【図7】従来のアンテナ装置の一例であるアンテナ装置300の構成を示す概略図である。
【図8】従来のアンテナ装置の一例であるアンテナ装置300による指向特性の一例を示す図である。
【図9】従来のアンテナ装置のその他の例であるアンテナ装置400の構成を示す概略図である。
【図10】従来のアンテナ装置のその他の例であるアンテナ装置400による指向特性の一例を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置600の構成を示す概略図である。
【図12】本実施形態に係る信号処理部20の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第1の実施形態に係るアンテナ装置100について説明する。図1は、本実施形態に係るアンテナ装置100の構成を示す概略図である。アンテナ装置100は、例えば車載用DBFレーダ装置である。アンテナ装置100は、正面パネル110、送信部120、受信部130(130−1〜130−N;Nは1以上の自然数)及びボルト穴140(140−1〜140−4)を含んで構成される。
【0020】
正面パネル110は、略長方形の平板からなり、その表面に送信部120及びN個の受信部130(130−1〜130−N)を装着する。
ボルト穴140−1〜140−4は、それぞれ正面パネル110の四隅に配置される。即ち、アンテナ装置100は正面パネル110上に、放射素子が配置されない空きスペースにボルト穴140−1〜140−4を配置することができ、限られたスペースを有効利用できる。
ボルト穴140−1〜140−4は、各々ボルトが挿入され、正面パネル110をレーダ装置の筐体に圧着させる。このようにボルト穴140−1〜140−4の位置を、正面パネル110の四隅にすることで、外部からの振動に対する機械的強度を確保できる。
レーダ装置の筐体は、その寸法を正面パネル110、即ちアンテナ装置100の最外寸法に合わせるようにすることでレーダ装置が占有する面積を必要最小限とすることができる。
【0021】
送信部120は、2L個(Lは2又は2より大きい自然数、例えば6)の送信単位121−1〜121−2Lを備える。送信単位の数2Lの半値Lをずれ配列数と呼ぶ。各送信単位121−n(1≦n≦2L)は、それぞれI個(Iは2又は2より大きい自然数、例えば2)の放射素子122を備え、I個の放射素子は図1においてX方向(左右方向)に素子間間隔Qで配置される。従って、各送信単位において、左端の放射素子と右端の放射素子のX方向の距離は(I−1)Qとなり、各送信単位のX方向の長さは概ねI・Qとなる。
アンテナ装置100が良好な指向特性を得るためには、放射素子を密に配置するほうが望ましい。しかし、素子間間隔Qが小さすぎると、放射素子間での相互結合が生じるため性能が低下する。適度な素子間間隔Qは、例えば約0.9λ(波長)である。
【0022】
各送信単位121−1〜121−2Lは、X方向に素子間間隔Qよりも狭いずれ量Sで、X方向とは垂直なY方向(奥行方向)に(ずれ量は素子間間隔Q)順次隣接するように配置される。ここで、各送信単位121−1〜121−2Lの配置は、Y方向に対してその中心座標c(図1では、送信単位121−Lと121−L+1の中間)を通過し、X方向に平行な線を対称軸lとして線対称(鏡像対称)となるようにする。従って、送信単位121−1〜121−LのX座標と、線対称な位置に配置されている送信単位121−2L〜121−L+1のX座標は等しい。また、送信単位121−1〜121−L−1にY方向に対して各々隣接する送信単位121−2〜121−LとのX方向へのずれ量は各々Sである。これに対し、送信単位121−L+1〜121−2L−1にY方向に対して各々隣接する送信単位121−L+2〜121−2LとのX方向へのずれ量は各々−Sと正負反転、即ちずれ方向が逆方向になる。
【0023】
各受信部130−k(1≦k≦N)は、各々2L個の受信単位131−k−1〜131−k−2Lを備え、正面パネル110上においてX方向に順次隣接して配置(間隔はP)されている。各受信部130−kに含まれる、2L個の受信単位131−k−1〜131−k−2Lは、X方向の座標を同一とし、Y方向に間隔Qで順次隣接される。各受信単位131−k−n(1≦n≦2L)は、それぞれJ個(Jは2又は2よりも大きい自然数、例えば2)の放射素子132を備え、J個の放射素子132は図1においてX方向(左右方向)に素子間間隔Qで配置される。従って、各受信単位において、左端の放射素子と右端の放射素子のX方向の距離は(J−1)Qとなり、各受信単位のX方向の長さは概ねJ・Qとなる。
【0024】
但し、アンテナ装置100では、受信単位131−1−1及び131−1−2Lは放射素子をそれぞれ1個のみ備え、左端のX座標を隣接する受信単位131−1−2及び131−1−2L−1と揃えるように配置される。これにより、送信部120の左端が受信部130の右端よりも左側に配置される。
また、受信単位131−N−1及び131−N−2Lも放射素子をそれぞれ1個のみ備え、右側のX座標を隣接する受信単位131−N−2及び131−N−2L−1と揃えるように配置される。これにより、ボルト穴140−1及び140−3の右端が、受信部の左側よりも右側に配置される。
これにより、アンテナ装置100の左右の幅が過大になることが回避され、アンテナ装置100をより小型化できる。
【0025】
なお、アンテナ装置100を車載レーダに用いる場合、互いに隣接する受信部130−k間の間隔を2λ前後(車載ミリ波レーダに用いられる76GHz帯では、約3.9mm)とすることが妥当と考えられている。素子間間隔Qを約0.9λとすると、Jを2とすることに相当する。これは、分解能を確保するために受信部の個数を多くし受信部間の間隔を広げるほど走査ビーム幅を細くする利点と、受信部の増加や受信部間の間隔の増加に伴いハードウェア規模が過大になる欠点を避けることとの均衡を図ったものである。
【0026】
一般に複数の放射素子からなるアレーアンテナの指向特性A(θ)は、次式で与えられる。
【0027】
【数1】

【0028】
θは、正面方向(放射面から垂直方向)からの離角である。F(θ)は、放射素子132の配置による効果を示すアレー効果である。I(θ)は、放射素子自体の指向特性である。例えば、放射素子132が半波長ダイポールであるとき、その電界面の指向性は素子に平行な方向(θ=0)で最大、素子に垂直な方向(θ=π/2)で零となる。
I個の放射素子が一方向(例えばX方向に)等間隔Qで配列され、すべて等電力、同一位相で電力が供給されているアレーについて、アレー効果F(θ)は、次式で示される。
【0029】
【数2】

【0030】
ここで、λは波長である。式(2)より、F(θ)は、sin(θ)を変数とするフーリエ級数で示されており、λ/Qを周期とする周期関数となる。また、F(θ)をゼロとするθ、即ち送信単位によるヌル点θntは近似的に次式で示される。
【0031】
【数3】

【0032】
iは、1からI−1までの自然数である。つまり、送信単位によるヌル点θntはI−1個存在する。このように複数の素子を各々空間的に分散配置させて得られる特性F(θ)をアレー効果と呼ぶ。
従って、X方向に等間隔Qで配列されたI個の放射素子を含んで構成される送信単位121の各々のアレー効果は、F(θ)となる。
【0033】
図1の送信部120は、送信単位121−1〜121−2Lのように、各送信単位がX方向に各々ずれ量Sずつずれ、X方向へのずれ個数がL個のアレーとみることができる。送信単位のずれ配置によるアレー効果F(θ)は、次式で示される。
【0034】
【数4】

【0035】
また、ずれ配置によるヌル点θnsは近似的に次式で示される。
【0036】
【数5】

【0037】
lは、1からL−1までの自然数である。即ち、ずれ配置によるヌル点θnsがL−1個存在する。
また、X方向に等間隔Qで配列されたJ個の放射素子を含んで構成される受信単位131−1−1〜131−N−2Lによるアレー効果F(θ)は、次式で示される。
【0038】
【数6】

【0039】
また、受信単位によるヌル点θnrは近似的に次式で示される。
【0040】
【数7】

【0041】
jは、1からJ−1までの自然数である。即ち、受信単位によるヌル点θnrがJ−1個存在する。
従って、アンテナ装置100の送受信間のアレー効果は、Fq(θ)Fs(θ)Fr(θ)となる。
式(2)、(4)及び(6)は、I(各送信単位の放射素子数)、L(ずれ配列数)、J(各受信単位の放射素子数)が多いほど、θ=0以外の領域におけるアレー効果、即ちサイドローブを低減できることを示す。しかし、その場合、放射素子の数の増加に伴って増加する演算量や、アンテナ装置100の面積の増加を招くため、現実的ではない。
【0042】
そこで、送信単位によるヌル点θnt、ずれ配置によるヌル点θns及び受信単位によるθnrができるだけ広い角度範囲で分散するように、I、L、J、Q(素子間間隔)及びS(送信単位間のずれ量)の関係を決定すれば、サイドローブを低減することができる。具体的には、送信単位と受信単位との関係において、送信単位による第1ヌル点(θnt=λ/(I・Q))と受信単位による第1ヌル点(θnr=λ/(J・Q))のうち一方が他方の整数倍となることを避けるようにI、J及びQとの関係を定める。この2種類のヌル点においてλが共通の乗数となるので、送信単位の放射素子数と素子間間隔の積(送信単位のX方向への長さ)の逆数1/(I・Q)と受信単位の放射素子数と素子間間隔の積(受信単位のX方向への長さ)の逆数1/(J・Q)のうち一方が他方の整数倍ではないようにすればよい。つまり、(J・Q)/(I・Q)又は(I・Q)/(J・Q)が、整数値になることを避ける。上記の実施態様では、送信単位と受信単位とで素子間間隔はQと共通であるため、J/I又はI/Jが整数値にならなければよい。これにより、送信単位によるヌル点θntと受信単位によるθnrの重複を少なくすることができる。例えば、I=3、J=2とする。
【0043】
ここで、I=3、J=2の場合における送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布を図3に示す。図3は、本実施形態に係る送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布の一例を示す図である。図3において横軸は角度(単位はラジアン)である。また、図3において送信単位によるヌル点θntを○、受信単位によるヌル点θnrを×で示す。このとき、送信単位による第1ヌル点はλ/(J・Q)はλ/2Qと、受信単位による第1ヌル点λ/(I・Q)つまりλ/3Qの1.5倍と整数倍にはならない。送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrが重複する角度θはλ/Q、2λ/Q…となり、送信単位によるヌル点θntのうち受信単位によるヌル点θnrと重複するヌル点は一部に過ぎず、その他の送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrが分散する。
【0044】
次に、本実施形態によらずI=4、J=2とした場合における送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布を示す図4に示す。図4は、本実施形態によらない送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrの分布の一例を示す図である。図4において横軸は角度(単位はラジアン)である。また、図4において送信単位によるθntを○、受信単位によるθnrを×で示す。このとき、送信単位による第1ヌル点λ/(J・Q)はλ/2Qと、受信単位による第1ヌル点λ/(I・Q)つまりλ/4Qの2倍と整数倍になる。送信単位によるヌル点θntと受信単位によるヌル点θnrが重複する角度θはλ/2Q、λ/Q、…、と受信単位によるヌル点θnr全てが送信単位によるヌル点θntと重複してしまう。この場合、図3の場合よりも多くの放射素子数を用いるにも関わらずヌル点の重複が著しくなる。
【0045】
送信単位によるヌル点θnt、ずれ配置によるヌル点θns及び受信単位によるヌル点θnrを広い角度範囲で分散させるためには、送信単位並びに受信単位とずれ配置との関係において、ずれ配置による第1ヌル点(θns=λ/(L・S))が送信単位による第1ヌル点(θnt=λ/(I・Q))と受信単位による第1ヌル点(θnr=λ/(J・Q))の間の値、好ましくは平均値となるように、I、J、L、Q及びSの関係を定める。これらのヌル点においてλが共通の乗数となるので、ずれ配列数Lとずれ間隔Sの積(送信単位の総ずれ量)の逆数1/(L・S)が、送信単位における放射素子数と素子間間隔の積(送信単位のX方向への長さ)の逆数1/(I・Q)と受信単位における放射素子数と素子間間隔の積(受信単位のX方向への長さ)の逆数1/(J・Q)の間の値、好ましくは中間値、となるようにする(式(8)参照)。このとき、ずれ配置によるヌル点θnsは、送信単位によるヌル点θnt及び受信単位によるヌル点θnrとの重複を少なくすることができる。
【0046】
【数8】

【0047】
さらに好ましくは、ずれ配置と送信単位との関係において、ずれ配置による第1ヌル点(θns=λ/(L・S))と送信単位による第1ヌル点(θnt=λ/(I・Q))のうち一方が他方の整数倍となることを避けるようにI、L、S及びQとの関係を定める。即ち、ずれ配列数Lとずれ間隔Sの積の逆数1/(L・S)と送信単位における放射素子数と素子間間隔の積の逆数1/(I・Q)のうち一方が他方の整数倍ではないようにする。これにより、ずれ配置によるヌル点θnsと送信単位によるヌル点θntとの重複を少なくすることができる。
【0048】
また、ずれ配置と受信単位との関係において、ずれ配置による第1ヌル点(θns=λ/(L・S))と受信単位による第1ヌル点(θnr=λ/(J・Q))のうち一方が他方の整数倍となることを避けるようにJ、L、S及びQとの関係を定める。即ち、ずれ配列数Lとずれ間隔Sの積の逆数1/(L・S)と受信単位における放射素子数と素子間間隔の積の逆数1/(J・Q)のうち一方が他方の整数倍ではないようにする。これにより、ずれ配置によるヌル点θnsは、受信単位によるヌル点θnrとの重複が最小限となる。
【0049】
例えば、I=3、J=2、L=6の場合、式(8)によりS=0.4Qとなる。このときの送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ配置によるヌル点θnsの分布を図5に示す。図5は、本実施形態に係る送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ配置によるヌル点θnsの分布の一例を示す図である。図5において横軸は角度(単位はラジアン)である。また、図5において、送信単位によるθntを○、受信単位によるヌル点θnrを×、ずれ配置によるヌル点θnsを△、で示す。これにより、ずれ配置によるヌル点θnsと、送信単位によるヌル点θntや受信単位によるヌル点θnrとの重複が回避される。
【0050】
次に本実施形態のその他の例であるアンテナ装置200について説明する。図6は、本実施形態のその他の例であるアンテナ装置200の構成を示す概略図である。アンテナ装置200は、図6に示すように各送信単位221−1〜221−2L−1が隣接する送信単位221−2〜221−2LをX方向にずらして配置される方向が、図1に示すアンテナ装置100とは逆転している点が異なる。即ち、各送信単位221−1〜221−L−1は、Xの負方向にずれ量SでY方向に隣接する送信単位221−2〜221−Lを順次配置され、対称軸lを越え、各送信単位221−L+1〜221−2L−1は、Xの正方向にずれ量SでY方向に隣接する送信単位221−L+2〜221−2Lが順次配置されている。
但し、図6に示すアンテナ装置200のその他の構成及び機能は、図1に示すアンテナ装置100と同様である。
【0051】
これにより、アンテナ装置200のアレー効果も、アンテナ装置100と同様にFq(θ)Fs(θ)Fr(θ)となり、その送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるθnr及びずれ配置によるθnsも同様となる。従って、送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ配置によるθnsが分散され、サイドローブが低減する。
【0052】
アンテナ装置200は、正面パネル210の対称軸l上の左端及び右端にボルト穴240−1及び240−2を備える。即ち、アンテナ装置200も正面パネル210上に、放射素子が配置されない空きスペースにボルト穴240−1、240−2を配置することができる。限られたスペースを有効利用して寸法が過大になることを避けられる。
但し、アンテナ装置200では、受信単位231−N−L及び231−N−L+1は放射素子をそれぞれ1個のみ備え、右端のX座標を受信単位231−N−L−1及び231−N−L+2と揃えるように配置される。これにより、ボルト穴240−1の右端を受信部230の左端よりも右側に配置される。
また、受信単位231−1−L及び231−1−L+1も放射素子をそれぞれ1個のみ備え、左側のX座標を受信単位231−1−L−1及び231−1−L+2と揃えるように配置される。これにより、送信部220の左端を受信部230の右端よりも左側に配置される。
よって、アンテナ装置200の左右の幅が過大になることが避けられ、アンテナ装置200をより小型化できる。
【0053】
なお、上述のアンテナ装置100及び200における送信単位121及び221の数が2Lと偶数である場合を示したが、本実施形態では2L−1(Lは2又は2よりも大きい自然数)と奇数であってもよい。その場合、送信単位121−1〜121−L−1と121−L+1〜121−2L−1が送信単位121−Lの上を通る中心軸lに対して線対称に配置されていればよい。このとき、送信単位121−Lに含まれる放射素子からの信号が他の放射素子の2倍になるように電力を供給すれば、アンテナ装置100と同様なアレー効果Fq(θ)Fs(θ)Fr(θ)、ヌル点θnt、θnr及びθnsが得られる。従って、本実施形態によれば多数の送信単位、受信単位を備えなくとも、送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ構造によるθnsが分散され、サイドローブが低減する。
【0054】
上述のアンテナ装置100及び200における互いに隣接する送信単位121、221間のずれ量Sを一定であるが、本実施形態では、ずれ量Sが互いに隣接する送信単位121、221間ごとに異なってもよい。
また、上述のアンテナ装置100及び200における送信単位121、221及び受信単位131、231を各々構成する全ての放射素子へ供給する電力を等しいものとしたが、放射素子ごとに供給する電力が異なってもよい。
このようにしても、本実施形態によれば多数の送信単位、受信単位を備えなくとも、送信単位によるヌル点θnt、受信単位によるヌル点θnr及びずれ構造によるθnsを分散させることで、サイドローブを低減することができる。
【0055】
比較のために、従来のアンテナ装置300の構成について図7を用いて説明する。図7は、従来のアンテナ装置の一例であるアンテナ装置300の構成を示す概略図である。アンテナ装置300は、図7に示すように受信部330の構成は受信部130と同様であるが、送信部320を構成する送信単位321は、X方向にずらされずにY方向に対し順次配置されている。
そこで、アンテナ装置300による指向特性について図8を用いて説明する。図8は、アンテナ装置300による指向特性の一例を示す図である。図8において、横軸は離角θ、縦軸はθ=0のときの値を0dBとする相対レベルである。図8では、送信部320の指向特性を2点破線で、受信部330の指向特性を1点破線で、アンテナ装置(レーダ送受)300の指向特性を実線で示す。
【0056】
図8によれば、送信部320の指向特性は、θ=32°のとき極大値−12dBを、θ=54°のとき極大値−13dBをとる。
アンテナ装置300の指向特性は、θ=26°のとき極大値−26dBを、θ=39°のとき極大値−29dBを、θ=60°のとき極大値−23dBをとる。
【0057】
従来のアンテナ装置のその他の例であるアンテナ装置400の構成について図9を用いて説明する。図9は、従来のアンテナ装置のその他の例であるアンテナ装置400の構成を示す概略図である。アンテナ装置400は、図9に示すように受信部430の構成は受信部430と同様であるが、送信部420を構成する送信単位421は、列ごとにX方向へのずれ方向を逆転させY方向に順次隣接されている。
そこで、アンテナ装置400による指向特性について図10を用いて説明する。図10は、アンテナ装置400による指向特性の一例を示す図である。図10において、横軸は離角θ、縦軸はθ=0のときの値を0dBとする相対レベルである。図10では、送信部420の指向特性を2点破線で、受信部430の指向特性を1点破線で、アンテナ装置(レーダ送受)400の指向特性を実線で示す。
【0058】
図10によれば、送信部420の指向特性は、θ=31°のとき極大値−15dBを、θ=58°のとき極大値−25dBをとる。
アンテナ装置400の指向特性は、θ=26°のとき極大値−29dBを、θ=39°のとき極大値−35dBを、θ=57°のとき極大値−34dBをとる。
【0059】
他方、本実施形態に係るアンテナ装置100による指向特性を図2に示す。図2は、アンテナ装置100による指向特性の一例を示す。図2において、横軸は離角θ、縦軸はθ=0のときの値を0dBとする相対レベルとする。また、図2では、送信部120の指向特性を2点破線で、受信部130の指向特性を1点破線で、アンテナ装置100の指向特性を実線で示す。
図2によれば、送信部120の指向特性は、θ=24°のとき極大値−37dBを、θ=36°のとき極大値−26dBを、θ=54°のとき極大値−34dBを、θ=76°において極大値−38dBをとる。
また、受信部130の指向特性は、θ=55°のとき極大値−9dBをとる。
アンテナ装置100の指向特性は、θ=38°のとき極大値−42dBを、θ=54°のとき極大値−43dBをとる。また、アンテナ装置100の指向特性は、θが20°以上の領域では、相対レベルが−42dB未満となり、サイドローブが十分に低減していることを示す。
【0060】
このように、本実施形態によれば、送受信に用いる素子数等のハードウェア規模の増大を回避しながらサイドローブを低減させることができる。
【0061】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について説明する。図11は、本実施形態に係るレーダ装置600の構成を示す概略図である。レーダ装置600は、アンテナ装置100、ミキサ2−1〜2−N、分配器4、チャネルフィルタ5−1〜5−N、SW(SWitch;スイッチ)6、ADC(A/D Converter;A/D コンバータ)、制御部8、三角波生成部9、VCO(Voltage Controlled Oscillator;電圧制御発信器)及び信号処理部20を含んで構成される。図11では、アンテナ装置100の構成要素のうち受信部130−1〜130−N及び送信単位121−1〜121−2Lを示す。
【0062】
受信部130−1〜130−Nは、送信波がターゲットにて反射し、このターゲットから到来する反射波を受信して受信信号に変換し、変換された受信信号を、増幅器を介してミキサ2−1〜2−Nに出力する。各受信部では、各受信単位を構成する放射素子が受信した反射波をそれぞれ受信信号に変換し、各受信単位では変換された受信信号を加算し、加算された受信信号をさらに受信単位間で加算して増幅器に出力する。
ミキサ2−1〜2−Nは、増幅器を通じて送信単位121−1〜121−2Lから送信される送信波と、受信部130−1〜130−Nそれぞれにおいて受信された受信波が増幅器により増幅された信号とを混合して、それぞれの周波数差に対応したビート信号(チャネルCh1〜ChN)を生成する。ミキサ2−1〜2−Nは、生成したビート信号をフィルタ5−1〜5−Nに出力する。
【0063】
フィルタ5−1〜5−Nは、それぞれミキサ2−1〜2−Nから入力されたビート信号に対して帯域制限を行い、SW6へ帯域制限されたビート信号を出力する。
SW6は、制御部8から入力されたサンプリング信号に対応して、フィルタ5−1〜5−Nにおいて帯域制限されたビート信号を、そのチャネルCh1〜ChNを順次切り替えながら増幅器を介してADC7に出力する。
ADC7は、制御部8から入力されたサンプリング信号に同期して、SW6から入力されたビート信号を、A/D(Analog−to−Digital;アナログ・ディジタル)変換してディジタル信号を生成し、信号処理部20におけるメモリ21の波形記憶領域に順次記憶させる。
【0064】
制御部8は、マイクロコンピュータやCPU(Central Processing Unit;中央処理装置)などにより構成されており、ROM(図示しない)などに格納された制御プログラムに基づき、レーダ装置600全体の制御を行う。制御部8は、例えば、SW6、ADC7及び三角波生成部8にサンプリング信号を出力する。
三角波生成部9は、制御部8から入力されたサンプリング信号と同期して三角波信号を生成し、生成した三角波信号を、増幅器を介してVCO10に出力する。
VCO10は、増幅器を介して三角波生成部9から入力された三角波信号を周波数変調して送信信号を生成し、生成した送信信号を分配器4に出力する。
【0065】
分配器4は、VCO10から入力された送信信号を、増幅器を介してミキサ2−1〜2−N及び送信単位121−1〜121−2Lに分配する。
送信単位121−1〜121−2Lは、分配器から出力され増幅器を介して入力された送信信号を、ターゲットに対して送信波として送信する。ここで、各送信単位を構成する各放射素子は、入力された送信信号を各々送信波として放射する。
【0066】
次に、本実施形態に係る信号処理部20の構成及び処理について図を用いて説明する。図12は、本実施形態に係る信号処理部20の構成を示す概略図である。
信号処理部20は、メモリ21、周波数分解処理部22、ピーク検知部23、ピーク組合せ部24、距離検出部25、速度検出部26、ペア確定部27、方位検出部30及びDBF(Digital Beam Forming;ディジタルビームフォーミング)処理部40を含んで構成される。
【0067】
<信号処理部20における受信波に対する信号処理>
次に、メモリ21は、ADC7から入力されたディジタル信号を波形記憶領域に記憶している。記憶されたディジタル信号は、例えば、受信部130−1〜130−Nに各々対応したチャネルCh1〜ChNの時系列データ(上昇部分及び下降部分)である。例えば、メモリ21の波形記憶領域は、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて256個のデータをサンプリングした場合、2×256個×受信部の数2Nのデータを記憶する。
【0068】
周波数分解処理部22は、メモリ21から各チャネルの時系列データを読出し、読み出した各チャネルの時系列データを予め設定された分解能で周波数成分データに変換し、変換した周波数成分データを方位検出部30及びDBF処理部40に出力する。周波数成分データに変換するための処理は、例えばフーリエ変換である。ここで、周波数分解処理部22は、各チャネル毎に上昇部分及び下降部分それぞれが256個のサンプリングデータを、各128個の周波数成分データ(複素数)(2(上昇部分、下降部分)×128個×受信部の数2Nのデータ)となる。
ここで、受信部毎の周波数成分データには、受信部の位置に依存した位相差がみられるが、それぞれのデータの絶対値(受信強度あるいは振幅など)はほぼ等しくなる。
【0069】
DBF処理部40は、入力される各チャネル(受信部)に対応した周波数成分データを、受信部130−1〜130−Nの配列方向にフーリエ変換(即ち空間軸フーリエ変換)し、空間軸データを生成する。
DBF処理部40は、生成した空間軸データに基づき、予め設定された角度分解能で量子化された角度チャネル毎の空間周波数成分データ(複素数)を算出し、周波数毎にピーク検知部23に対して出力する。
なお、DBF処理部40は、上述した周波数成分データ及び空間周波数成分データともに三角波の上昇領域及び下降領域の各々について算出する。
【0070】
DBF処理部40から出力される角度チャネル毎の空間周波数成分データが示すスペクトルは、ビーム走査分解能による受信波の到来方向推定に依存したものとなる。従って、レーダ装置600は、サイドローブが低減されたアンテナ装置100を用いて信号の送信及び受信を行うため、チャネル数を増大させることなく受信波の到来方向を高精度に推定することができる。
また、受信部の配列方向へのフーリエ変換により、角度チャネル間で周波数成分データが加算されるため、S/N比が改善される。従って、後述するピーク値の検出精度を向上させることが可能となる。
【0071】
ピーク検知部23は、DBF処理部40から入力された角度チャネル毎の空間周波数成分データに基づき、角度チャネル毎に三角波の上昇領域及び下降領域それぞれ強度(または振幅)のピークを検出する。ピーク検知部23は、検出したピークから予め設定された数値を超えるピーク値を有するビート周波数を検出し、検出したビート周波数をターゲット周波数として選択する。
したがって、ピーク検知部23は、いずれかのアンテナにおける周波数成分データ又は、全アンテナにわたる周波数成分データの加算値の周波数スペクトルに基づき、スペクトルがピークをとるビート周波数をもって、距離に依存したターゲットの存在を検出する。また、全アンテナにわたる周波数成分データの加算により、ノイズ成分が平均化されてS/N比が向上する。ピーク検知部23は、検出された各チャネルのピーク値とそのビート周波数を、ピーク組合せ部24へ角度チャネル毎に出力する。ここで、角度周波数がA個(例えば16個)の空間軸フーリエ変換の場合、角度チャネルの数はA−1個(例えば15個)となる。
【0072】
ピーク組合せ部24は、ピーク検知部23から入力されたビート周波数とそのピーク値について、上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組み合わせ、すなわち上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数を全て組み合わせ、順次、ビート周波数とそのピーク値の組み合わせを距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。即ち、ピーク組合せ部24は、上昇領域におけるピーク値とそのビート周波数と下降領域におけるピーク値とそのビート周波数を組み合わせ、距離検出部25、速度検出部26及びペア確定部27へ、その組み合わせを角度チャネル毎に出力する。
【0073】
距離検出部25は、ピーク組合せ部24から入力される上昇領域のビート周波数fuと、下降領域のビート周波数fdとから、次式により距離rを算出する。距離検出部25は、算出した距離rをペア確定部27に出力する。
【0074】
【数9】

【0075】
ここで、Cは光速、Δfは三角波の周波数変調幅、Tは上昇領域又は下降領域における変調時間を示す。
速度検出部26は、ピーク組合せ部24から入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数の差分に基づきターゲットとの相対速度vを算出する。速度検出部26は、算出した相対速度vをペア確定部27に出力する。
相対速度vを算出するには、例えば、次式により、上昇領域のビート周波数fuと、下降領域のビート周波数fdとから算出する。
【0076】
【数10】

【0077】
ここで、f0は三角波の中心周波数である。
ペア確定部27は、距離検出部25から入力された距離r及び速度検出部26から入力された相対速度vと、ピーク組合せ部24から入力された上昇領域のピーク値及び下降領域のピーク値とを、上昇領域のピークと下降領域のピークとの組み合わせごとに記録したテーブルを角度チャネル毎に生成する。
【0078】
ペア確定部24は、生成したテーブルから各ターゲットに対応した上昇領域のピークと下降領域のピークの適切な組み合わせを選択し、各ターゲットに対応して選択された組み合わせの距離r、相対速度v及びピーク値をとる周波数を周波数分解処理部22に出力する。
ここで、ペア確定部24は、例えば、上昇領域のビート周波数fuと、下降領域のビート周波数fdの差分が予め定められた値以下である組み合わせ、又は上昇領域のピーク値と囲う領域のピーク値が予め定められた値以下である組み合わせを、適切な組み合わせとして角度チャネルごとに選択する。DBFの分解能では、1つのターゲットが複数の角度チャネルに跨ったピークを示すことがあることを鑑み、ペア確定部24では、隣接する角度チャネルにおける、距離r、相対速度v又はピーク値との差分が各々一定値以下であること、つまり近似性も考慮して、上昇領域のピーク及び下降領域のピークの適切な組み合わせを選択してもよい。
【0079】
方位検出部30は、周波数分解処理部22から入力された周波数成分データに基づき例えば高分解能アルゴリズムであるAR(Auto−Regression;自己回帰)スペクトル推定法やMUSIC(Multiple Signal Classification;多重信号分類)法を用いてスペクトル推定処理を行い、推定されたスペクトルに基づいて対応するターゲットの方位を決定する。
方位検出部30が、ARスペクトル推定法を用いる場合の構成例について示す。
方位検出部30は、正規方程式生成部301、AR係数算出部302、判定部303及びパワースペクトル算出部304を含んで構成される。
【0080】
正規方程式生成部301は、周波数分解処理部22から入力された周波数成分データに基づき正規方程式を生成する。ここで、正規方程式生成部301は、周波数(上昇領域と下降領域のいずれか又は両方)ごとの周波数成分データの各々から相関行列を生成し、生成された相関行列に基づいて正規方程式を生成する。正規方程式生成部301は、生成した正規方程式をAR係数算出部302に出力する。なお、正規方程式生成部301は、複数通りの次数について正規方程式を生成及び出力する。
AR係数算出部302は、正規方程式生成部301から入力された正規方程式を解いてAR係数及び白色雑音の分散σを算出し、判定部303に出力する。
判定部303は、AR係数算出部302からAR係数及び白色雑音の分散σを入力される。判定部303は、次数の異なる正規方程式からそれぞれ算出されたAR係数と、白色雑音の分散σに基づいて、参照すべき次数を判定する。また、判定部303は、パワースペクトル算出部304へ、判定した次数に対応するAR係数と白色雑音の分散σを出力する。
パワースペクトル算出部304は、判定部303から入力されたAR係数と白色雑音の分散σに基づいてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルに基づいて受信波の到来方向を算出する。
【0081】
上述のように、DBF処理部40は、周波数分解処理部22から入力された周波数成分データに基づいて、受信波を受信する方向の受信感度を向上させるDBF法を用いてターゲットの存在及び方位を検出する。これにより、方位検出部30は自己が行う高精度の方位検出に先立ち、分解能は低いが安定したビームスペクトルが得られるDBF法を行うことにより、推定精度を向上させることができる。
また、DBF処理部40は、検出したターゲットごとの方位情報を方位検出部30に出力し、方位検出部30は自己が推定した方位情報とDBF処理部40から入力された方位情報との論理積を用いて、方位情報を推定してもよい。これにより、推定精度や信頼性の向上を図ることができる。
【0082】
このように、本実施形態によれば、送受信に係るチャネル数等のハードウェア規模の増大を回避しながらターゲットの方向推定精度の向上を図ることができる。
【0083】
なお、上述した実施形態におけるレーダ装置600の一部、例えば、制御部8又は信号処理部20をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、レーダ装置に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
また、上述した実施形態におけるレーダ装置の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現しても良い。レーダ装置の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化しても良い。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いても良い。
【0084】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0085】
100、200、300、400…アンテナ装置、
110、210、310、410…正面パネル、
120、220、320、420…送信部、
121(121−1〜121−2L)、221(221−1〜221−2L)、321、421…送信単位、
122、222、322、422…放射素子、
130(130−1〜130−N)、230(230−1〜230−N)、330(330−1〜330−N)、430(430−1〜430−N)…受信部、
131(131−1−1〜131−N−2L)、231(231−1−1〜231−N−2L)、331、431…送信単位、
132、232、332、432…放射素子、
140(140−1〜140−4)、240(240−1、240−2)、340(340−1〜340−4)、440(440−1〜440−4)…ボルト穴、
600…レーダ装置、2(2−1〜2−N)…ミキサ、4…分配器、
5(5−1〜5−N)…フィルタ、6…SW、7…ADC、8…制御部、
9…三角波生成部、10…VCO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子を一方向に配列した送信単位を複数個備え、
複数個のうち一部の前記送信単位は、連続して前記一方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置され、残りの前記送信単位は、連続して前記一方向と逆方向にずらされ、前記一方向と垂直な方向に順次隣接して配置されること、
を特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記一部の送信単位の配置と前記残りの送信単位の配置は、前記一方向と垂直な方向に鏡像対称であること、
を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記一部の送信単位の前記一方向への送信単位間のずれ量が等しいこと、又は前記残りの送信単位の前記一方向と逆方向への送信単位間のずれ量が等しいこと、
を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記送信単位間のずれ量が前記送信単位に備えられた素子間間隔よりも短いこと、
を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
複数の素子を前記一方向に配列した受信単位を複数個備えること、
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記送信単位の配置による第1ヌル点が、前記受信単位による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点の中間となる、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数、前記送信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること
を特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記送信単位の配置による第1ヌル点と前記受信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること
を特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記送信単位の配置による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記送信単位間のずれ量、前記素子間間隔、前記送信単位が備える素子数及び送信単位のずれ配列数との関係を有すること
を特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記受信単位による第1ヌル点と前記送信単位による第1ヌル点のうち一方が他方の整数倍ではない、前記素子間間隔、前記受信単位が備える素子数及び前記送信単位が備える素子数との関係を有すること
を特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のうちいずれか1項に記載のアンテナ装置を備えるレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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