説明

アンテナ装置

【課題】1つのアンテナ素子に対する複数の給電部間におけるアイソレーションを確保し、同時に放射効率を確保すること。
【解決手段】一つのループ状エレメント9のある一点に、このエレメントの全電気長を一波長とする第1の電気信号で電流結合する第1の給電部11を配置し励振する。すると、ループ状エレメント9に定在波が形成され、給電部から1/4波長離れた位置では電流定在波20の節21となり、給電部から1/2波長離れた位置では電流定在波20の腹22となっている。このため、節21に電流結合する第2の給電部12を配置しても電流定在波20と結合することはない。同じく第2の給電部12で励振された電流定在波は、第1の給電部11と結合しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのアンテナ素子で複数の通信システムに対応できるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、PDA(Personal Data Assistance)等の小型無線装置を内蔵する無線通信装置に搭載されるアンテナ装置は、搭載される通信システムの増加にともないその数量も増加したり、一つのアンテナ素子で複数の通信システムに対応したりする等の進化を遂げている。近年の無線通信装置は、GPS(Global Positioning System)、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)等の複数の通信システムに対応する必要もある。例えば、特許文献1、特許文献2には、複数の通信システムに対応することができるアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−198245号公報
【特許文献2】特開2008−92491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、無線通信装置の小型化の要請から、無線通信装置の内部にアンテナ素子を収納するための十分なスペースを確保することが困難になってきている。このため、無線通信装置が複数の通信システムを有する場合、通信システム毎にそれぞれアンテナ素子を設けるよりも、複数の通信システムの通信機能を1つのアンテナ素子で実現できることが好ましい。また、無線通信装置が複数の通信システムを有する場合、各通信システムに対応するアンテナ装置間の干渉がないことが必要である。
【0005】
特に、周波数帯が同一又は周波数帯が近接した通信システムに対応した複数のアンテナ装置を同一の無線通信装置に搭載すると、一方の通信システムのアンテナ装置から放射された電波は他方の通信システムのアンテナ装置により受信されることがある。その結果、空間への電波の放射が減少することに加え、他方の通信システムを妨害するおそれもある。そこで、各アンテナ装置が互いに干渉しないように、それぞれのアンテナ装置、より具体的には複数の給電部の間でアイソレーションが得られていることが必要になる。
【0006】
特許文献1のアンテナは、通信システム毎にアンテナ素子を設け、互いの干渉を抑えるものである。しかし、特許文献1のアンテナは、複数のアンテナ素子を用いるため、複数の通信システムの通信機能を一つのアンテナ素子で実現する場合には適用できない。特許文献2のMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナは、ループ状エレメントを用いて0.5波長の間隔で給電部が設けられている。しかし、特許文献2のMIMOアンテナは、単一ループ素子に0.5波長の間隔を設けて3個の給電部を配置している。この場合、ループ1周の長さは1.5波長となる。1周で1.5波長の長さのループ状エレメントは、共振して定在波を形成することはできない。その結果、特許文献2のMIMOアンテナは、アイソレーションの確保と放射効率の確保との両立は困難である。
【0007】
一般的に知られている方法として略正方形のパッチアンテナにおいてその偏波を縦、横別々に独立して使用する方法もあるが1辺が0.5波長となり周長は2波長と、大変大きい。
【0008】
本発明は、異なる通信システムや異なる信号系統の通信機能を1つのエレメントで実現する場合に、1つの小型アンテナ素子に対する複数の給電部間におけるアイソレーションを確保しつつ、放射効率を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための手段は、少なくとも波長λの電波を放射する、m×λの電気長を有するループ状エレメントと、前記電波を放射するための第1の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第1の給電部と、前記第1の給電部を腹として形成される、前記第1の電気信号に基づく定在波の節となる部分で、前記第1の給電部と同種の結合方式により、波長がλ/(2×p−1)となる電波を放射するための第2の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第2の給電部と、を含むことを特徴とするアンテナ装置である。ここで、m、pは自然数。
【0010】
例えば、m=p=1として、一つの周回するループ状エレメント(アンテナ素子)の全電気長を一波長とする電気信号で、第1の給電部から前記ループ状エレメントの一点に給電して前記ループ状エレメントを励振する。第1の給電部において、前記ループ状エレメントを電流励振した場合、第1の給電部及び第1の給電部から1/2波長離れた位置(すなわち、第1の給電部の反対側)で、それぞれ電流が最大(電流の定在波の腹)かつ電圧がゼロ(電圧の定在波の節)となる定在波が発生する。そして、第1の給電部から1/4波長離れた位置では、電圧が最大(電圧の定在波の腹)かつ電流がゼロ(電流の定在波の節)となる。そのため、電流励振、すなわち、第1の給電部と同種の結合方式によりループ状エレメントを励振する第2の給電部を第1の給電部から1/4波長離れたところに設けた場合、この第2の給電部は第1の給電部から励振された電流定在波の節に相当する。このため、第2の給電部は、第1の給電部から励振された電気信号によって発生する定在波と結合することはない。また、第2の給電部から励振された電気信号によって発生する定在波と第1の給電部とが結合することもない。このため、第1の給電部と第2の給電部とは互いに結合しない。給電方法が両方とも電圧励振である場合も同様である。
【0011】
また、このアンテナ装置は、第1の給電部及び第2の給電部から電流(又は電圧)励振されることにより発生したそれぞれの定在波は、いずれもループ状エレメントで共振するため、放射効率を確保できる。その結果、このアンテナ装置は、異なる通信システムや異なる信号系統の通信機能を1つのエレメントで実現する場合に、1つのアンテナ素子に対する複数の給電部間におけるアイソレーションを確保し、同時に放射効率を確保できる。なお、定在波とは、波長、周期、振幅及び速さが同じである進行方向が互いに逆向きの2つの波が重なり合うことによって生じる、波形が進行せずその場に留まって振動しているように見える波である。定在波は、最大振幅をしている部分が腹、振動をしていない部分が節と呼ばれる。
【0012】
上述した関係は、一方の給電部が励振した定在波が他方の給電部において節となっていればよい。したがって、一方の給電部における励振周波数が他方の給電部における励振周波数の奇数倍の場合にも成立する。すなわち、一方の給電部における励振周波数に対応する波長が、他方の給電部における励振周波数に対応する波長の1/奇数の場合にも成立する。例えば、ループ状エレメントの全周を1波長とする定在波Aと、ループ状エレメントの全周を3波長とする定在波Bとを第1の給電部から電流結合により給電して発生させる。定在波Aにおいて、第1の給電部から1/4波長の位置(すなわち、定在波Bにおいては第1の給電部から3/4波長の位置)は、定在波A、定在波Bともに電流定在波の節となる。この位置に第2の給電部を設けるとともにループ状エレメントと電流結合させて、第2の給電部からループ状エレメントを前記定在波A、定在波Bと同様の周波数で電流励振する。第1の給電部が励振した2つの定在波A、定在波Bは、いずれも第2の給電部と結合することはない。同様に、第2の給電部から電流結合により給電することによって発生した定在波と第1の給電部とが結合することもない。このため、第1給電部と第2給電部とは、いずれの周波数においても独立している。このように、本手段に係るアンテナ装置は、複数の周波数の電気信号をループ状エレメントに給電した場合でも、それぞれの給電部は互いに干渉せず、アイソレーションが確保された2つのアンテナ装置として機能することができる。
【0013】
前記手段において前記第1の給電部及び第2の給電部は一方が電流給電なら他方も電流給電、一方が電圧給電なら他方も電圧給電と必ず同種である。
【0014】
前記給電部に電圧給電を用いる場合、前記ループ状エレメントに対向して配置された容量結合電極を有し、前記容量結合電極の中央部から給電されることが好ましい。このようにすることで、他方の電極から励振され前記容量結合電極の近傍で電流の腹となっている定在波により励起される信号を打ち消すことができる。
【0015】
上述した課題を解決するためのもう一つの手段は、少なくとも波長λの電波を放射する、m×λの電気長を有するループ状エレメントと、前記電波を放射するための第1の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第1の給電部と、前記第1の給電部を腹として形成される、前記第1の電気信号に基づく定在波の腹となる部分で、前記第1の給電部とは異種の結合方式により、波長がλ/qとなる電波を放射するための第2の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第2の給電部と、を含むことを特徴とするアンテナ装置である。ここで、m、qは自然数。
【0016】
例えば、m=q=1として、一つの周回するループ状のエレメント(アンテナ素子)の全電気長を一波長とする電気信号で、第1の給電部から前記ループ状エレメントの一点に給電してこれを励振する。前記ループ状エレメントを電流励振した場合、第1の給電部及び第1の給電部から1/2波長離れた位置(すなわち、第1の反対側)で、それぞれ電流が最大(電流の定在波の腹)かつ電圧がゼロ(電圧の定在波の節)となる定在波が発生する。そして、電圧励振、すなわち、第1の給電部とは異種の結合方式でループ状エレメントを励振する第2の給電部を第1の給電部からゼロ又は1/2波長離れた位置に設けると、この第2の給電部は第1の給電部から電流励振することにより発生する電圧定在波の節に相当する。このため、第2の給電部は、第1の給電部から電流励振した信号と結合することはない。また、第2の給電部から電圧励振したことにより発生する定在波と第1の給電部とが結合することもない。このため、第1の給電部と第2の給電部とは互いに結合しない。第1の給電部の給電方式と第2の給電部の給電方式とが上記とは反対、すなわち、第1の給電部が電圧励振であり、第2の給電部が電流励振の場合も同様である。
【0017】
また、このアンテナ装置は、第1の給電部から電流(又は電圧)励振されることにより発生した定在波と、第2の給電部から電圧(又は電流)励振されることにより発生した定在波は、それぞれいずれもループ状エレメントで共振するため、放射効率を確保できる。その結果、このアンテナ装置は、異なる通信システムの通信機能を1つのエレメントで実現する場合に、1つのアンテナ素子に対する複数の給電部間におけるアイソレーションを確保し、同時にアンテナ装置としての放射効率を確保できる。
【0018】
なお、上述した関係は、一方の給電部が電流(電圧)励振することにより発生した電流(電圧)定在波が、他方の給電部で電圧(電流)定在波の節となっていればよい。このため、一方の給電部における励振周波数が他方の給電部における励振周波数の自然数倍の場合にも成立する。すなわち、一方の給電部における励振周波数に対応する波長が、他方の給電部における励振周波数に対応する波長の1/自然数の場合にも成立する。
【0019】
例えば、ループ状エレメントの全周を1波長とする定在波Aと、ループ状エレメントの全周を3波長とする定在波Bとを第1の給電部から電流結合により給電して発生させる。第1の給電部が設けられている位置又は定在波Aにおいて第1の給電部から1/2波長の位置(すなわち、定在波Bにおいては第1の給電部から3/2波長の位置)では、定在波A、定在波Bともに電流定在波の腹(すなわち、電圧定在波の節)となる。この位置に第2の給電部を設けるとともにループ状エレメントと電圧結合させて、第2の給電部からループ状エレメントを前記定在波A、定在波Bと同様の周波数で電圧励振する。第1の給電部が励振した2つの定在波A、定在波Bは、いずれも第2の給電部と結合することはない。同様に、第2の給電部から定在波A又は定在波Bと同じ周波数の電気信号を電圧結合により給電して発生した定在波は、第1の給電部と結合することもない。このため、第1給電部と第2給電部とは、いずれの周波数においても独立している。このように、本手段に係るアンテナ装置は、複数の周波数の電気信号をループ状エレメントに給電した場合でも、それぞれの給電部は互いに干渉せず、アイソレーションが確保された2つのアンテナ装置として機能することができる。
【0020】
前記手段において、前記第1の給電部と第2の給電部とが異種の結合方式で同一の位置に設置される際は、前記ループ状エレメントを挟み、互いに反対側に設置されることが好ましい。このようにすることで、互いに隔離されより確実にアイソレーションを確保できる。
【0021】
前記手段において、電圧給電している方の給電部は、前記ループ状エレメントに対向して配置された容量結合電極を有し、前記容量結合電極の中央部から給電されることが好ましい。このようにすることで、他方の電極から励振され前記容量結合電極の近傍で電流の腹となっている定在波により励起される信号を打ち消すことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、異なる通信システムの通信機能を1つのエレメントで実現する場合に、1つの小型アンテナ素子に対する複数の給電部間におけるアイソレーションを確保しつつ、放射効率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1−1】図1−1は、実施形態1に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
【図1−2】図1−2は、実施形態2に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
【図2−1】図2−1は、実施例1に係るアンテナ装置の外観図である。
【図2−2】図2−2は、実施例1に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。
【図2−3】図2−3は、実施例1に係るアンテナ装置の電気特性図である。
【図3】図3は、実施例2に係るアンテナ装置の電気特性図である。
【図4−1】図4−1は、実施例3に係るアンテナ装置の外観図である。
【図4−2】図4−2は、実施例3に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。
【図4−3】図4−3は、実施例3に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。
【図5】図5は、実施例3に係るアンテナ装置の電気特性図である。
【図6−1】図6−1は、実施例4に係るアンテナ装置の外観図である。
【図6−2】図6−2は、実施例4に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。
【図7】図7は、実施例4に係るアンテナ装置の電気特性図である。
【図8−1】図8−1は、実施例5に係るアンテナ装置の外観図である。
【図8−2】図8−2は、実施例5に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。
【図9】図9は、実施例5に係るアンテナ装置の電気特性図である。
【図10−1】図10−1は、本実施形態に係るアンテナ装置と従来例に係るアンテナとの電気特性を示す図である。
【図10−2】図10−2は、本実施形態に係るアンテナ装置と従来例に係るアンテナとの電気特性を示す図である。
【図11−1】図11−1は、従来例に係るアンテナの最小構成を示す概観形状図である。
【図11−2】図11−2は、従来例にならって本例に係るアンテナ装置をモデル化した場合の最小構成を示す概観形状図である。
【図12−1】図12−1は、従来例のループ状エレメントの配置例を示す斜視図である。
【図12−2】図12−2は、従来例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図12−3】図12−3は、従来例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図12−4】図12−4は、従来例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図13−1】図13−1は、本例のループ状エレメントの配置例を示す斜視図である。
【図13−2】図13−2は、本例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図13−3】図13−3は、本例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図13−4】図13−4は、本例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。
【図14−1】図14−1は、従来例の給電部角度ずれ時の電気特性(アイソレーション)を示す比較図である。
【図14−2】図14−2は、本例の給電部角度ずれ時の電気特性(アイソレーション)を示す比較図である。
【図14−3】図14−3は、従来例と本例との給電部角度ずれ時の電気特性(放射効率)を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
(実施形態1)
図1−1は、実施形態1に係るアンテナ装置を示す斜視図である。アンテナ装置1は、例えば、エレメント(アンテナ素子)が携帯電話等の無線通信携帯端末に内蔵又は前記無線通信携帯端末の筐体の表面に実装される。アンテナ装置1は、アンテナ素子として、一つの周回するループ状エレメント9を有する。また、アンテナ装置1は、ループ状エレメント9に給電するための第1の給電部11と、第2の給電部12とを有する。本実施形態において、ループ状エレメント9は、平面視が矩形であるが、ループ状エレメント9の形状はこれに限定されるものではない。例えば、ループ状エレメント9は、平面視が円形、楕円形、多角形等であってもよい。また、平面視が多角形のループ状エレメント9とする場合、角部は曲率を有していてもよい。
【0026】
アンテナ装置1は、少なくとも波長λの電波を放射する。ループ状エレメント9は、波長λのm倍(mは自然数)の電気長を有する。ループ状エレメント9の電気長をLとすると、波長λは、L/mになる。第1の給電部11は、ループ状エレメント9の一箇所に設けられて電流結合又は電圧結合する。そして、第1の給電部11は、波長λの電波を放射するための第1の電気信号S1で、ループ状エレメント9を励振する。すると、ループ状エレメント9には、m=1の場合は定在波20、40が発生する。この定在波の波長はλである。第1の給電部11から電流結合した場合定在波20はループ状エレメント9の電流変化の分布であり、定在波40はループ状エレメント9の電圧変化の分布である。以下においては、必要に応じて電流定在波20、電圧定在波40という。なお、定在波20、40は、極性を表すため、ループ状エレメント9を基準として片側のみ示してある。
【0027】
ループ状エレメント9の第1の給電部11からλ/4離れた位置においては、電流定在波20は節21となる。ループ状エレメント9の第1の給電部11及び第1の給電部11からλ/2離れた位置(すなわち、m=1の場合は第1の給電部11の反対側)においては、電流定在波20は腹22となる。また、ループ状エレメント9の第1の給電部11からλ/4離れた位置においては、電圧定在波40は腹42となる。ループ状エレメント9の第1の給電部11及び第1の給電部11からλ/2離れた位置(すなわち、m=1の場合は第1の給電部11の反対側)においては、電圧定在波40は節41となる。
【0028】
第2の給電部12は、第1の給電部11を腹として形成される、第1の電気信号S1に基づく定在波20の節となる部分で、第1の給電部11と同種の結合方式により、波長がλ/(2×p−1)(pは自然数)となる電波を放射するための第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。すなわち、第1の電気信号S1に基づく定在波が電流定在波20である場合、第2の給電部12は、第1の給電部11からλ/4離れた位置に設けられる。そして、第2の給電部12は、第1の給電部11と同種、すなわち、第1の給電部11が電流結合である場合は電流結合、電圧結合である場合は電圧結合し、第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。
【0029】
このようにすることで、第1の給電部11からの励振によって生成される電流定在波20の節21となっている部分に、ループ状エレメント9と電流結合する第2の給電部12が配置される。このため、第2の給電部12は、第1の給電部11によって生成される電流定在波20と結合することはない。さらに、ループ状エレメント9と電流結合又は電圧結合する第1の給電部11及び第2の給電部12がループ状エレメント9を励振することにより発生したそれぞれの定在波は、いずれもループ状エレメント9で共振するため、放射効率が確保される。これらの作用により、アンテナ装置1は、異なる通信システムや異なる信号系統の通信機能を1つのループ状エレメント9で実現する場合に、1つのループ状エレメント9に対する複数の給電部の間(本実施形態では第1の給電部11と第2の給電部12との間)におけるアイソレーションを確保しつつ、放射効率を確保できる。
【0030】
ループ状エレメント9の電気長Lは、m×λ±0.1×λの範囲であることが好ましく、m×λ±0.05×λであることがより好ましい。この範囲であれば、複数の給電部の間におけるアイソレーション及び放射効率を確実に確保できる。また、第1の給電部11と第2の給電部12との距離をXとすると、Xは、(2×n−1)×λ/4±αの範囲であればよい(nは自然数)。αは、0.1×λが好ましく、0.05×λがより好ましい。この範囲であれば、複数の給電部の間におけるアイソレーション及び放射効率を確実に確保できる。また、本実施形態において、ループ状エレメント9を励振する給電部の数は2に限定されるものではないが、前記給電部の数が2であれば、2つの給電部の間におけるアイソレーションを確実に確保できる。
【0031】
第1の給電部11及び/又は第2の給電部12がループ状エレメント9との間に静電容量を介して電圧結合する場合ループ状エレメント9に対向して設置される容量結合電極の中央部に給電されていることが好ましい。このようにすることで、相手の電極により励振され、電流の腹となっている定在波により励起される相手の信号を打ち消すことができる。
【0032】
第2の給電部12は、波長がλ/(2×p−1)(pは自然数)となる電波を放射するための第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。すなわち、第2の電気信号S2の周波数は、波長がλの電波、すなわち、第1の給電部11がループ状エレメント9を励振することにより発生する電波の2×p−1倍である。p=1のとき、アンテナ装置1は、同じ周波数(帯)の複数(本実施形態では2つ)の電波を放射する。p≧2である場合、アンテナ装置1は、異なる周波数(帯)の複数(本実施形態では2つ)の電波を放射する。いずれの場合でも、アンテナ装置1は、複数の給電部の間(本実施形態では2つの給電部の間)におけるアイソレーションを確保し、同時に放射効率を確保できる。このように、アンテナ装置1は、一つのループ状エレメント9で複数の同じ又は異なる周波数帯を取り扱う場合においても、互いの干渉を回避できる。
【0033】
(実施形態2)
図1−2は、実施形態2に係るアンテナ装置を示す斜視図である。実施形態2は、実施形態1と同様であるが、第2の給電部は、第1の給電部を腹として形成される、第1の電気信号に基づく定在波の腹となる部分で、第1の給電部とは異種の結合方式により、波長がλ/q(qは自然数)となる電波を放射するための第2の電気信号でループ状エレメントを励振する点が異なる。実施形態2の他の構成は実施形態1と同様である。
【0034】
アンテナ装置1aは、少なくとも波長λの電波を放射する。ループ状エレメント9は、波長λのm倍(mは自然数)の電気長を有する。ループ状エレメント9の電気長をLとすると、波長λは、L/mになる。第1の給電部11は、ループ状エレメント9の一箇所に設けられて電流結合又は電圧結合する。そして、第1の給電部11は、波長λの電波を放射するための第1の電気信号S1で、ループ状エレメント9を励振する。すると、ループ状エレメント9には、m=1の場合は定在波20、40が発生する。この定在波の波長はλである。第1の給電部11から電流結合した場合定在波20はループ状エレメント9の電流変化の分布であり、定在波40はループ状エレメント9の電圧変化の分布である。なお、定在波20、40は、極性を表すため、ループ状エレメント9を基準として片側のみ示してある。
【0035】
ループ状エレメント9の第1の給電部11からλ/4離れた位置においては、電流定在波20は節21となる。ループ状エレメント9の第1の給電部11及び第1の給電部11からλ/2離れた位置(すなわち、m=1の場合は第1の給電部11の反対側)においては、電流定在波20は腹22となる。また、ループ状エレメント9の第1の給電部11からλ/4離れた位置においては、電圧定在波40は腹42となる。ループ状エレメント9の第1の給電部11及び第1の給電部11からλ/2離れた位置(すなわち、m=1の場合は第1の給電部11の反対側)においては、電圧定在波40は節41となる。
【0036】
第2の給電部12は、第1の給電部11を腹として形成される、第1の電気信号S1に基づく定在波20の腹となる部分で、第1の給電部11と異種の結合方式により、波長がλ/q(qは自然数)となる電波を放射するための第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。すなわち、第1の電気信号S1に基づく定在波が電流定在波20である場合、第2の給電部12は、第1の給電部11及び第1の給電部11からλ/2離れた位置(すなわち、m=1の場合は第1の給電部11の反対側)に設けられる。そして、第2の給電部12は、第1の給電部11と異種、すなわち、第1の給電部11が電流結合である場合は電圧結合、電圧結合である場合は電流結合し、第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。
【0037】
このようにすることで、第1の給電部11からの励振によって生成される電流定在波20の腹22となっている部分、すなわち電圧定在波40の節41に、ループ状エレメント9と電圧結合する第2の給電部12が配置される。このため、第2の給電部12は、第1の給電部11によって生成される電流定在波20と結合することはない。すなわち、第1の給電部11からの励振によって生成される電圧定在波40の節41となっている部分に、ループ状エレメント9と電圧結合する第2の給電部12を配置した場合も、第2の給電部12は、第1の給電部11によって生成される電圧定在波40と結合することはない。さらに、ループ状エレメント9と電流結合又は電圧結合する第1の給電部11及び第2の給電部12がループ状エレメント9を励振することにより発生したそれぞれの定在波は、いずれもループ状エレメント9で共振するため、放射効率が確保される。これらの作用により、アンテナ装置1は、異なる通信システムや異なる信号系統の通信機能を1つのループ状エレメント9で実現する場合に、1つのループ状エレメント9に対する複数の給電部の間(本実施形態では第1の給電部11と第2の給電部12との間)におけるアイソレーションを確保しつつ、放射効率を確保できる。
【0038】
ループ状エレメント9の電気長Lは、m×λ±0.1×λの範囲であることが好ましく、m×λ±0.05×λであることがより好ましい。この範囲であれば、複数の給電部の間におけるアイソレーション及び放射効率を確実に確保できる。また、第1の給電部11と第2の給電部12との距離をXとすると、Xは、(n−1)×λ/2±αの範囲であればよい(nは自然数)。αは、0.1×λが好ましく、0.05×λがより好ましい。この範囲であれば、複数の給電部の間におけるアイソレーション及び放射効率を確実に確保できる。また、本実施形態において、ループ状エレメント9を励振する給電部の数は2に限定されるものではないが、前記給電部の数が2であれば、2つの給電部の間におけるアイソレーションを確実に確保できる。
【0039】
電流結合又は電圧結合する第1の給電部と電圧結合又は電流結合する第2の給電部が同一の位置に設置される場合はループ状エレメント9を挟み互いに反対側に設置されていることも望ましい。この様にすることにより2つの給電部はより隔離されてアイソレーションを確保しやすくなる。
【0040】
第1の給電部11及び/又は第2の給電部12がループ状エレメント9との間に静電容量を介して電圧結合する場合ループ状エレメント9に対向して設置される容量結合電極の中央部に給電されていることが好ましい。このようにすることで、相手の電極により励振され、電流の腹となっている定在波により励起される相手の信号を打ち消すことができる。
【0041】
第2の給電部12は、波長がλ/q(qは自然数)となる電波を放射するための第2の電気信号S2でループ状エレメント9を励振する。すなわち、第2の電気信号S2の周波数は、波長がλの電波、すなわち、第1の給電部11がループ状エレメント9を励振することにより発生する電波のq倍である。q=1のとき、アンテナ装置1は、同じ周波数(帯)の複数(本実施形態では2つ)の電波を放射する。q≧2である場合、アンテナ装置1は、異なる周波数(帯)の複数(本実施形態では2つ)の電波を放射する。いずれの場合でも、アンテナ装置1は、複数の給電部の間(本実施形態では2つの給電部の間)におけるアイソレーションを確保し、同時に放射効率を確保できる。このように、アンテナ装置1は、一つのループ状エレメント9で複数の同じ又は異なる周波数帯を取り扱う場合においても、互いの干渉を回避できる。
【0042】
また、アンテナ装置1aは、第1の給電部11と第2の給電部12とは、異種の給電方式でループ状エレメント9に給電する。
【実施例1】
【0043】
上述したアンテナ装置1、1aの実施例を説明する。実施例1では、アンテナ装置1をコンピュータシミュレーションにより評価した。具体的には、コンピュータで取り扱うことのできる、アンテナ装置100のシミュレーションモデルを作成し、コンピュータを用いて前記シミュレーションモデルを解析して、電気特性を評価した。シミュレーションモデルは、簡略化のためループ状エレメント9を平面視で正方形としたが、実際の携帯無線通信端末等において略長方形であったり、さらには正方形又は長方形等の角の部分が丸められていたりする。また、ループ状エレメント9は、携帯無線通信端末の筐体の極近傍又は前記筐体に密着して設けられるので、前記筐体の構造や誘電率に応じて電気長は実際の物理長よりも長くなることが普通である。以下の実施例においては、物理長ではなく電気長を用いて評価する。ループ状エレメント9の全周がλ長又はm×λ(λはアンテナ装置100が放射する少なくとも1つの電波の波長、mは自然数)であり、互いの給電部間は、相互に結合しない電流定在波の節又は電圧定在波の節の位置である。
【0044】
図2−1は、実施例1に係るアンテナ装置の外観図である。図2−2は、実施例1に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。実施例1は、上述した実施形態1に相当する。実施例1では、次に示す仕様のアンテナ装置100のシミュレーションモデルを作成し、作成されたシミュレーションモデルをコンピュータで解析した。評価を簡略化するため、アンテナ装置100は、平面視を正方形とした携帯通信端末の実装基板を模した評価基板(80mm×80mm)110の周囲に、幅0.5mmのループ状エレメント9を作成した。ループ状エレメント9は、全周の長さが物理長で約320mmである。ループ状エレメント9を評価基板110の表面(基板面)から高さ5mmの位置に設置した。
【0045】
評価基板110の1辺の中央部において、評価基板110の導体を10mm×3mmに渡り除去して、ここにループ状エレメント9と電流結合させるための誘導結合電極15を設置しこれを第1の給電部11とした。さらに、第1の給電部11から、ループ状エレメント9の全周長さの1/4(約80mm:物理長)離れた位置に、ループ状エレメント9と電流結合させるための給電部として、第2の給電部12を設置した。第1の給電部11及び第2の給電部12は、アンテナ装置100の外部から測定すると50Ωに合致していない。このため、図2−2に示すように第1及び第2の給電部11の誘導結合電極15とGND13との間を1.7pFのコンデンサ61で接続し、さらに第1及び第2の給電部11の誘導結合電極15と信号源との間に0.9pFのコンデンサ62を設け、これを介して両者を結合し整合した。
【0046】
実施例1の評価条件を次に示す。第1の給電部、及び第2の給電部からループ状エレメント9に波長0.6から0.2m(周波数0.5から1.5GHz)の掃引信号を与えて、それぞれの給電部の反射、及び通過応答を測定した。ループ状エレメント9の物理長は約320mmで、電気長もこれに近いと想定される。物理長=電気長ならループ状エレメント9の電気長Lを1波長λとする信号は約0.94GHzとなる。
【0047】
図2−3は、実施例1に係るアンテナ装置の電気特性図である。図2−3には、上述の方法によって得られた第1の給電部11から見た反射特性(実線51a)と、通過特性(実線52b)と、更に給電部11から給電した電波の放射効率(実線53c)、及び比較のため給電部が1つの場合の放射効率(実線53d)とが示されている。アンテナとして動作している周波数は上記0.94GHzをピークとして10%程度の帯域幅を有していて本例の場合電気長≒物理長である事が解る。通過特性(実線52b)から、2つの給電部の間、すなわち第1の給電部11と第2の給電部12との間で−20dB程度のアイソレーションが確保できていることが解る。また、第1の給電部11からの放射効率(実線53c)も、アンテナが1つの場合(実線53d)に比べて殆ど変化がないことが解る。なお、実施例1及び後述するそれぞれの実施例におけるアイソレーション特性カーブは、後述する従来例との比較で用いたシミュレーションモデルとは異なり、評価基板110の形状がループ状エレメント9の外周と同程度しかない。このため、実施例1及び後述するそれぞれの実施例の帯域外の特性は、後述する従来例との比較で用いたシミュレーションモデルとは異なっている。
【実施例2】
【0048】
図2−1、図2−2は実施例2にかかわるアンテナ装置をも示している。実施例2は、上述した実施形態1において、異なる周波数を放射する例である。実施例2に係るアンテナ装置100(図2−1参照)は、実施例1と同一の構造であるが、図2−1に示す第2の給電部12は高次モードで整合させる。高次モードとは、ループ状エレメント9の全周に、1波長が、第1の給電部11から給電される電気信号により励振されて放射される電波の例えば1/3波長分の定在波が発生している状態である。このため、実施例1に係るアンテナ装置100に対して、整合素子の定数を変更した。具体的には、図2−2に示すように、第1の給電部11において第1の給電部の誘導結合電極15とGND13との間を1.5pFのコンデンサ68で接続し、更に信号源との間に1.2pFのコンデンサ69を置いて結合し整合した。第2の給電部12においては、図2−2に示すように、第2の給電部12の誘導結合電極15とGNDとの間に0.44pFのコンデンサ71、更に信号源へ12nHのインダクタ70、を設けて結合し整合した。
【0049】
実施例2の評価条件を次に示す。第1の給電部、及び第2の給電部からループ状エレメント9に波長0.6から0.0857m(周波数0.5から3.5GHz)の掃引信号を与えて、それぞれの給電部の反射、及び通過応答を測定した。ループ状エレメント9の物理長は約320mmで、電気長もこれに近いと想定される。ループ状エレメント9の電気長Lを1波長λとする信号は約0.94GHz、ループ状エレメント9の電気長Lを3波長3λとする信号は約2.81GHzとなる。
【0050】
図3は、実施例2に係るアンテナ装置の電気特性図である。図3には、こうして得られた第1の給電部11から見た反射特性(実線51a)と、第2の給電部12から見た反射特性(実線51b)と、通過特性(実線52c)とが示されている。第1の給電部11は1GHz弱、第2の給電部12は3GHz弱と2つの周波数に対応する。そして、図3の実線52cが示すように、第1の給電部11と第2の給電部12との間では、少なくとも−25dB程度以上のアイソレーションが確保できていることが判る。
【実施例3】
【0051】
図4−1は、実施例3に係るアンテナ装置の外観図である。図4−2、図4−3は、実施例3に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。実施例3は、上述した実施形態2に相当する。実施例3に係るアンテナ装置101は、簡略化のため、正方形とした携帯電話の実装基板を模した評価基板(80mm×80mm)110の周囲に、幅0.5mmのループ状エレメント9(全周の長さは物理長で約320mm)を作成し、これを基板面から高さ5mmの位置に設置した。図4−2に示すように、1辺の中央部において、評価基板110の導体を10mm×3mmに渡り除去し、ここに電流結合させるための誘導結合電極15を設置し、これを第1の給電部11とした。
【0052】
図4−3に示すように、第1の給電部11からループ状エレメント9の全周の1/2波長離れた位置に、同じく第2の給電部32を設置した。第2の給電部32は、電圧結合による給電部である。第1の給電部11及び第2の給電部32を外部から測定すると、50Ωに合致していないため、第1の給電部11の誘導結合電極15と信号源との間を3.5pFのコンデンサ63で接続し、更に信号源とGNDとの間に9pFのコンデンサ64を置いて結合した。また、図4−3に示すように、第2の給電部32の容量結合電極35からは伝送線14を介しGNDへ8nHのインダクタ65を接続し、信号源へ5pFのコンデンサ66を接続し、更に信号源とGNDとの間に8.4pFのコンデンサ67を接続して整合した。
【0053】
実施例3の評価条件を次に示す。第1の給電部、及び第2の給電部からループ状エレメント9に波長0.6から0.2m(周波数0.5から1.5GHz)の掃引信号を与えて、それぞれの給電部の反射、及び通過応答を測定した。ループ状エレメント9の物理長は約320mmで、電気長もこれに近いと想定される。ループ状エレメント9の電気長Lを1波長λとする信号は約0.94GHzとなる。
【0054】
図5は、実施例3に係るアンテナ装置の電気特性図である。図5には、こうして得られた第1の給電部11から見た反射特性(実線51a)と、通過特性(実線52b)とが示される。図5の実線52bに示すように、第1の給電部11と第2の給電部32との間では、少なくとも−15dB程度弱のアイソレーションが確保できていることが判る。
【実施例4】
【0055】
図6−1は、実施例4に係るアンテナ装置の外観図である。図6−2は、実施例4に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。実施例1〜実施例3においては、すべて簡略化のためシミュレーションモデルを正方形とした。実施例4においては、図6−1に示すアンテナ装置102のように、より実際の携帯端末に近い場合を想定して、長方形のシミュレーションモデルで確認した。携帯端末の基板を模した平面視が長方形形状の評価基板111(100mm×60mm)の周囲に幅0.5mmのループ状エレメント10(全周の長さは物理長で約320mm)を作成し、これを基板面から高さ5mmの位置に設置した。長方形短辺の中央部に電流結合する第1の給電部11を、その側面の長方形長辺の中央部に、同じく電流結合する第2の給電部12を設置してある。上述した実施例2と同様に、2つの周波数に対応させるべく、図6−2に示すように第1の給電部11の誘導結合電極35とGND13との間を1.2pFのコンデンサ72で接続し、更に信号源との間に1.5pFのコンデンサ73を置いて結合し整合した。また、図6−2に示すように、第2の給電部12の誘導結合電極15とGND13との間を0.45pFのコンデンサ75で接続し、更に信号源との間に11nHのインダクタ74を置いて整合した。
【0056】
実施例4の評価条件を次に示す。第1の給電部、及び第2の給電部からループ状エレメント9に波長0.6から0.0857m(周波数0.5から3.5GHz)の掃引信号を与えて、それぞれの給電部の反射、及び通過応答を測定した。ループ状エレメント9の物理長は約320mmで、電気長もこれに近いと想定される。ループ状エレメント9の電気長Lを1波長λとする信号は約0.94GHz、ループ状エレメント9の電気長Lを3波長3λとする信号は約2.81GHzとなる。
【0057】
図7は、実施例4に係るアンテナ装置の電気特性図である。図7には、このようにして得られた第1の給電部11から見た反射特性(実線51a)と、第2の給電部12から見た反射特性(実線51b)と、通過特性(実線52c)とが示されている。実施例4は、実施例2とほぼ同等に、第1の給電部11が1GHz弱、第2の給電部12が3GHz弱と2つの周波数に対応する。図7の実線52に示すように、第1第1の給電部11と第2第2の給電部12との間では、−20dB以上のアイソレーションが確保できていることが判る。
【実施例5】
【0058】
図8−1は、実施例5に係るアンテナ装置の外観図である。図8−2は、実施例5に係るアンテナ装置の詳細を示す図である。実施例1〜実施例4においては、第1の給電部11と第2の給電部12とが異なる位置に配置されていた。実施例5は、同一の位置に第1の給電部11及び第2の給電部32が配置されている。アンテナ装置103は、図8−1に示すように、携帯端末の基板を模した評価基板112(80mm×80mm)の周囲に幅0.5mmのループ状エレメント9(全周で約320mm)を作成し、これを基板面から高さ5mmの位置に設置した。図8−2に示すように、1辺の中央部において、評価基板112の導体を10mm×6mmに渡り除去して、ここに電流結合させるための誘導結合電極15を設置し、これを第1の給電部11とした。第1の給電部11は、ループ状エレメント9と電流結合する。さらに容量結合する容量結合電極35を、ループ状エレメント9に対して第1の給電部11とは反対側に配置し、これに信号を給電する伝送線14を接続し、これを第2の給電部32とした。第2の給電部32は、ループ状エレメント9と電圧結合する。
【0059】
実施例5において電圧結合(容量結合)する伝送線は、次の(1)、(2)のような特徴を有する。
(1)電圧結合(容量結合)する給電部32の容量結合電極35は、電流結合する誘導結合電極15とループ状エレメント9とを挟んで反対側に設置される。
(2)電圧結合(容量結合)する伝送線14は、容量結合電極35の略中央部で給電されている。
(1)の理由は、電圧結合する第2の給電部32の発する電界が、電流結合する第1の給電部11に届きにくくするためである。(2)の理由は、電流結合する第1の給電部11が発した磁界により容量結合電極35に励起される電流が打ち消し合うことにより、電圧結合する第2の給電部32の伝送線14に入って行かないようにするためである。このようにすることで、アンテナ装置103は、静電容量を介して結合している方の給電部、すなわち、第2の給電部32が、ループ状エレメント9に対向して配置された容量結合する容量結合電極35を有し、前記容量結合電極35の中央部から給電される。
【0060】
図8−2に示すように、整合を得るため第1の給電部11の誘導結合電極15とGNDとの間を3.2pFのコンデンサ76で接続し、更に信号源との間に14nHのインダクタ77を置いて結合し整合した、また、第2の給電部32の伝送線14からGNDへ0.5pFのコンデンサ78を接続し、さらに信号源へ35nHのインダクタ79を接続して整合した。
【0061】
実施例5の評価条件を次に示す。第1の給電部、及び第2の給電部からループ状エレメント9に波長0.6から0.2m(周波数0.5から1.5GHz)の掃引信号を与えて、それぞれの給電部の反射、及び通過応答と放射効率を測定した。ループ状エレメント9の物理長は約320mmで、電気長もこれに近いと想定される。ループ状エレメント9の電気長Lを1波長λとする信号は約0.94GHzとなる。
【0062】
図9は、実施例5に係るアンテナ装置の電気特性図である。図9には、このようにして得られた第1の給電部11から見た反射特性(実線51a)と、第2の給電部32から見た反射特性(実線51b)と、通過特性(実線52c)と、第1の給電部11及び第2の給電部32から給電したそれぞれの放射効率(実線53a、実線53b)が示されている。図9の実線52cに示すように、第1の給電部11と第2の給電部32との間では、−23dB程度のアイソレーションが確保できていて、放射効率についても同形状の実施例1と同等の値を示し、劣化がないことが判る。
【0063】
以上、実施例1〜実施例5に基づいてアンテナ装置100〜103を説明した。いずれの場合においても1つのループ状エレメント9、10に対し2つの給電部(第1の給電部11及び第2の給電部12、32)を有し、前記2つの給電部から給電された同一のループ状エレメント9、10において個別に定在波を形成し得る。そして、第1の給電部11と第2の給電部12、32とは、電流定在波又は電圧定在波の節となる部分に互いに位置しているので、一方の給電部から励振された定在波は他方の給電部で結合することはない。なお、実施例1〜実施例5のうち、任意の2以上の実施例を組み合わせることが可能である。また、同一又は異なる周波数で実施例1〜実施例5に係る構成が成立可能であること、例えば実施例4を変形させると基板の長辺に給電部を2個設置できること等は当業者には理解されるところである。
【0064】
(従来例との比較)
本実施形態に係るアンテナ装置と、上述した先行技術文献2に記載されたアンテナとを同一条件かつ同一周波数に合わせてモデル化し、シミュレーションにより評価した。本実施形態に係るアンテナ装置は、100mm×50mm×8mmのFR4の基板上(底面にはGNDの導体あり)に、幅3mmのループ状エレメントを設置した。ループ状エレメントの直径は、本実施形態に係るアンテナ装置では27mm、従来例では40mmとした。
【0065】
図10−1、図10−2は、本実施形態に係るアンテナ装置と従来例に係るアンテナとの電気特性を示す図である。図10−1の実線52eは、従来例に係るアンテナの評価結果(以下、従来例という)であり、実線52fは、本実施形態に係るアンテナ装置の評価結果(以下、本例という)である。図10−1に示すように、従来例は、アイソレーションは確保できるものの本例よりも劣る。また、従来例のアンテナとしての放射性能は、図11−2の実線53eに示すように、本例の結果(実線53f)と比較して劣っていることが判る。
【0066】
図11−1は、従来例に係るアンテナの最小構成を示す概観形状図である。図11−2は、従来例にならって本例に係るアンテナ装置をモデル化した場合の最小構成を示す概観形状図である。図11−1に示すように、従来例に係るアンテナの形状は、最小構成であってもループ状エレメント202の周長は最低1.5λもの長さが必要である。図11−2に示すように、本例に係るアンテナ装置を従来例にならってモデル化すると、ループ状エレメント9の周長は、従来例よりも短くなる。次に、給電部の角度がずれた場合について比較する。
【0067】
図12−1は、従来例のループ状エレメントの配置例を示す斜視図である。図12−2〜図12−4は、従来例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。図13−1は、本例のループ状エレメントの配置例を示す斜視図である。図13−2〜図13−4は、本例の給電部角度ずれ検討モデルを示す概観形状図である。携帯端末の内部においては、樹脂基板上にループ状エレメントのみを配置することは大きなスペースを必要とし、実用的ではない。このため、図12−1、図13−1に示すように、ループ状エレメント202、9は空中に設置した。実際には部分的に樹脂部品等で支える。
【0068】
図12−1、図13−1に示すアンテナ装置は、50mm×50mm×0.035mmのGNDの基板上に、幅1mmのループ状エレメント202、9を基板から高さ8mmの位置に設置した。ループ状エレメント202、9の大きさは、本実施形態、従来例いずれも使用周波数が3.55GHz〜3.6GHzとなるように調整された。ループ状エレメント202、9の直径は、従来例では40mm、本実施形態に係るアンテナ装置では27mmとした。
【0069】
図12−2に示すように、従来例のアンテナのモデルにおいては、ループ状エレメント202に対する給電部203、204の間隔は120度が基準となる。このため、図12−3、図12−4に示すように、120度のモデルを中心として、±5度のモデルをそれぞれ作成した。図13−2に示すように、本例のアンテナ装置のモデルにおいては、ループ状エレメント9に対する第1の給電部11と第2の給電部12との間隔は90度が基準となる。このため、図13−3、図13−4に示すように、90度のモデルを中心として、±5度のモデルをそれぞれ作成した。
【0070】
図14−1は、従来例の給電部角度ずれ時の電気特性(アイソレーション)を示す比較図である。図14−2は、本例の給電部角度ずれ時の電気特性(アイソレーション)を示す比較図である。図14−3は、従来例と本例との給電部角度ずれ時の電気特性(放射効率)を示す比較図である。図14−1に示ように、角度が120度の場合、実線52120に示すようにアイソレーションは安定して−15dB程度を示している。しかし、角度を5度変化させて115度とした場合は線52115に示すように帯域の高周波側で、また、125度とした場合は線52125に示すように帯域の低周波側でアイソレーションが大きく劣化して−10dBを割り込んでいる。これに対し本例は、図14−2に示すように、85度(実線5285)、90度(実線5290)、95度(実線5295)いずれの場合においても、−15dB以上のアイソレーションが確保されている。
【0071】
本例の放射特性は、図14−3の実線5385、実線5390、実線5395に示すように、給電部の角度を90度から5度ずらしても、特性に殆ど差異は見られない。これに対し従来例は、図14−3の実線53115、実線53120、実線53125に示すように、基準となる120度の場合、ピークの放射効率は本例の90度、95度、85度における結果に近いが、本例よりも低い。そして、従来例は、給電部間の角度が5度ずれると1dB近く放射効率が低下する。また、いずれの角度も本例の放射効率と比較して帯域幅は狭い。このように、本例は、従来例と比較して、アイソレーション及び放射効率が高くなる。また、本例は、従来例と比較して、給電部間の角度がずれた場合にも、そのずれによるアイソレーション及び放射効率の低下が小さくなる。
【符号の説明】
【0072】
1、1a、100、101、102、103 アンテナ装置
110、111、112 評価基板
9、10、202 ループ状エレメント
11 第1の給電部
12、32 第2の給電部
14 伝送線
15 誘導結合電極
35 容量結合電極
20 電流定在波(定在波)
21 節
22 腹
40 電圧定在波(定在波)
41 節
42 腹

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも波長λの電波を放射する、m×λの電気長を有するループ状エレメントと、
前記電波を放射するための第1の電気信号で前記ループ状エレメントを電圧又は電流結合することにより励振する第1の給電部と、
前記第1の給電部を腹として形成される、前記第1の電気信号に基づく定在波の節となる部分で、前記第1の給電部と同種の結合方式により、波長がλ/(2×p−1)となる電波を放射するための第2の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第2の給電部と、
を含むことを特徴とするアンテナ装置。
ここで、m、pは自然数。
【請求項2】
前記第1の給電部及び前記第2の給電部の電圧結合する給電部は、前記ループ状エレメントに対向して配置された容量結合電極を有し、前記容量結合電極の中央部から給電されている請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
少なくとも波長λの電波を放射する、m×λの電気長を有するループ状エレメントと、
前記電波を放射するための第1の電気信号で前記ループ状エレメントを電圧又は電流結合することにより励振する第1の給電部と、
前記第1の給電部を腹として形成される、前記第1の電気信号に基づく定在波の腹となる部分で、前記第1の給電部とは異種の結合方式により、波長がλ/qとなる電波を放射するための第2の電気信号で前記ループ状エレメントを励振する第2の給電部と、
を含むことを特徴とするアンテナ装置。
ここで、m、qは自然数。
【請求項4】
前記第1の給電部と第2の給電部とを構成する電極は、前記ループ状エレメントを挟み、互いに反対側に設置されている請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1の給電部または前記第2の給電部のいずれかで、電圧結合する給電部は、前記ループ状エレメントに対向して配置された容量結合電極を有し、前記容量結合電極の中央部から給電されている請求項3に記載のアンテナ装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図13−4】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【公開番号】特開2012−182584(P2012−182584A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43029(P2011−43029)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)