説明

アンテナ遅延特定方法

【課題】 アンテナ電気長を算出するためのアンテナの遅延時間を簡単に特定する方法を提供する。
【解決手段】 パッチアンテナ10,20のモデルを2個作成して対向配置し、電磁界シミュレーションにより該両アンテナ10,20の入力ポート14と出力ポート24の間の透過特性S21を求め、該透過特性S21から前記入力ポート14と出力ポート24の間の遅延時間t1を求め、得られた遅延時間t1から前記両アンテナモデルの対向する自由空間の伝播遅延時間t0を差し引いた値を1/2にしてアンテナの遅延時間t2を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置におけるアンテナ遅延を特定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置を使用した測距システムでは、目標物までの距離測定精度が重要であるところから、測定値を校正することが行われている。このために、ダブルエコー方式、校正用モジュールをアンテナに装備させる方式、特別な校正装置を設ける方式等が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】実開平5−43089号公報
【特許文献2】特開2000−98025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、これらは比較的長距離の測定値を校正するためのものであり、数cm〜数mのような短距離を測定するレーダ装置には適用できなかった。
【0004】
このような短距離測距では、送受信器からアンテナまでの信号伝播用のケーブルの電気長、アンテナの電気長等のようにハードウエア上発生してしまうオフセット誤差が大きく影響するので、その測定値からこのオフセット誤差を差し引くことが必要となる。ケーブルの電気長については、その物理長から求めることが可能であるが、アンテナの電気長に関しては、アンテナ方式によって異なり、物理長をそのまま使用することはできない。したがって、アンテナ電気長の特定が必要となる。
【0005】
そこで、従来では、アンテナ電気長の測定をその都度行って、測定値からケーブル電気長とともに差し引く作業を行っていたが、手間ががかかっていた。本発明の目的は、アンテナ電気長を算出するためのアンテナの遅延時間を簡単に特定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1にかかる発明のアンテナ遅延特定方法は、作成しようとするアンテナに対応した同一のアンテナモデルを2個作成して対向配置し、電磁界シミュレーションにより該両アンテナモデルの入力ポートと出力ポートの間の透過特性S21を求め、該透過特性S21から前記入力ポートと出力ポートの間の遅延時間を求め、得られた遅延時間から前記両アンテナモデルの対向する自由空間の伝播遅延時間を差し引いた値を1/2にしてアンテナの遅延時間を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁界シミュレーションによってアンテナモデルの透過特性S21を求めてアンテナ遅延時間を求めるので、レーダ装置の実際の測距時のオフセット誤差として扱うアンテナ電気長を簡単に求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本実施例では、図1に示すような同一構成のパッチアンテナ10,20を対向させたアンテナモデルをシミュレータ上で作成する。パッチアンテナ10は、誘電体基板11の裏面に接地導体12が、表面にパッチ導体13が配置され、裏面のポート14からパッチ導体13に給電が行われる。また、パッチアンテナ20は、誘電体基板21の裏面に接地導体22が、表面にパッチ導体23が配置され、裏面のポート24からパッチ導体23に給電が行われる。
【0009】
このパッチアンテナ10,20をパッチ導体13,23が所定距離Lだけ離れて対向するように配置し、FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて、電磁界シミュレーションにより、パッチアンテナ10のポート14から高周波電力を給電して他方のパッチアンテナ20のポート24から出力されるまでの電磁界を解析する。これにより、両ポート14,24間の各周波数における透過特性S21を得て、その透過特性S21から振幅と位相を得て群遅延特性を算出し、その遅延時間からパッチアンテナ10,20間の自由空間伝搬時間を差し引くことにより、パッチアンテナ10,20の内部遅延を算出する。
【0010】
FDTD法とは、次式(1)に示すマクスウエルの方程式を時間、空間で差分化し、解析空間の電磁界を時間的に更新して、出力点の時間応答を得る方法である。Eは電界強度、Hは磁界強度、Dは電束密度、Bは磁束密度、Jは電流密度である。

【0011】
このFDTD法によれば、過度解あるいは周波数応答を直接求めることができる。また、アルゴリズムが簡単であること、優れた精度を持つこと、複雑な物質の解析や材料定数の異なる物質の解析にも適していること等が知られている。特に誘電体の解析では誘電率や単位計算時間間隔などの定数を変えるだけでよく、比較的簡単に解析できる。アンテナの解析法としては、解析時間がかかるが、計算機の進化に伴って近年注目されている方法である。
【0012】
FDTD法では、解析空間の全体を複数のセル(直交格子)に分割し、各々のセル上の格子点に電界、磁界の計算点を離散的に設定し、時間についても単位計算時間間隔の離散時間上で計算を行う。マクスウエルの方程式に含まれる時間、空間に関する微分を各計算点上の電界、磁界で差分近似すると、ある時刻での電界は1計算単位時間前の電界と計算点を取り囲む位置の磁界の差分を用いて表現できる。同様に、ある時刻での磁界は1計算時間前の磁界と計算点を取り囲む位置の電界の差分により表現できる。よって、ある時刻において全部の解析空間中の電界・磁界が定まっていれば、1計算時間後の電界、磁界をマクスウエル方程式を満足するように定めることができる。
【0013】
このようにFDTD法では、全空間中の電界、磁界を時間の進行とともに逐次的に計算していく。アンテナに解析では、初期条件として、給電点の励振電界以外の空間では電磁界が零として計算を開始する。なお、このFDTD法では、計算領域とその外側との境界が仮想的な反射面として作用するため、不要な反射が計算結果に影響を及ぼすので、吸収境界条件を設定する。これにより、マルチパス等の影響を考慮する必要がなくなる。前記のように対向させた2個のパッチアンテナ10,20では、その周囲6面を吸収境界条件とする。
【0014】
以上のようなFDTD法によって対向したパッチアンテナ10,20を解析するとき、周波数掃引を行うことにより、ポート14,24間について、各周波数についてのSパラメータの通過特性S21を得ることができる。このS21は、
S21=Re(S21)+Im(S21) (2)
のように実数部と虚数部で表されるので、振幅|A|と位相φは、
|A|=(Re(S21)2+Im(S21)21/2 (3)
φ=tan Im(S21)/Re(S21) (4)
で求めることができる。
【0015】
図2は周波数−位相特性の一例を示す特性図である。このような特性を得ることによって、周波数foにおける遅延時間t1を、
t1=dφ/df=(φ2−φ1)/(f2−f1) (5)
によって求めることができ、これを各周波数について求めることにより群遅延特性を得ることができる。
【0016】
図1のアンテナ10,20の対向する間の距離Lの自由空間の伝播時間をt0とすれば、パッチアンテナ10,20のそれぞれの遅延時間t2は、
t2=(t1−t0)/2 (6)
となる。
【0017】
よって、パッチアンテナ10,20のそれぞれの電気長Dは、両アンテナ10,20の伝播速度をv(誘電体基板の比誘電率で決まる。)とすれば、
D=t2×v (7)
によって得ることができる。
【実施例】
【0018】
図3はパッチアンテナの電気長特定の実施例の処理のフローチャートである。まず、上記したようなパッチアンテナ10,20を作成する(ステップS1)。このとき、両パッチアンテナ10,20間の距離Lを把握しておく。また、ポート14,24を設定しておく(ステップS2)。次に、パッチアンテナ10,20の諸特性を設定する(ステップS3)。諸特性としては、誘電体基板11,21の寸法、誘電率、透磁率、誘電正接、パッチ導体13,23の寸法等がある。次に、FDTD法による解析条件を設定する(ステップS4)。解析条件としては、セル寸法、セル数、入力信号条件、吸収境界条件等がある。次に、FDTD法による解析を行う(ステップS5)。この解析が完了したところで、解析結果の1つであるSパラメータの透過特性S21を抽出する(ステップS6)。そして、この透過特性S21に基づいて前記したようにアンテナ遅延、アンテナ電気長を得る(ステップS7)。
【0019】
なお、以上の説明ではアンテナ解析の手法としてFDTD法を使用する場合について説明したが、これに限られるものではなく、モーメント法、伝送線路行列(TLM)法、有限要素法、その他を使用することができることは勿論であり、これらによって対向させたアンテナの透過特性S21を得れば良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】パッチアンテナの説明図である。
【図2】アンテナの周波数−位相特性の一例の特性図である。
【図3】実施例の処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
10,20:パッチアンテナ、11,21:誘電体基板、12,22:接地導体、13,23:パッチ導体、14,24:ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作成しようとするアンテナに対応した同一のアンテナモデルを2個作成して対向配置し、電磁界シミュレーションにより該両アンテナモデルの入力ポートと出力ポートの間の透過特性S21を求め、該透過特性S21から前記入力ポートと出力ポートの間の遅延時間を求め、得られた遅延時間から前記両アンテナモデルの対向する自由空間の伝播遅延時間を差し引いた値を1/2にしてアンテナの遅延時間を求めることを特徴とするアンテナ遅延特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−33095(P2007−33095A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213637(P2005−213637)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)