説明

アントシアニンの分析方法

【課題】アントシアニンのHPLCによる分析において移動相としてアセトニトリルに代わる有機溶媒を用いることによりアントシアニンの定量ができる方法を提供する。
【解決手段】分析試料中に含まれるアントシアニンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、定量する方法であって、移動相がエタノール及び/又は水であることを特徴とする方法。例えば、HPLCに使用するカラムとしてシリカゲル担体にオクタデシル基が化学結合した充填剤(ODS)を有するものを用い、アントシアニンンの検出波長を520nmとし、試料中に含まれるデルフィニジン−3−O−グルコシド、デルフィニジン−3−O−ルチノシド、シアニジン−3−O−グルコシド、シアニジン−3−O−ルチノシドなどのアントシアニンを簡単に定量分析できる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHPLCを用いたアントシアニンの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニン(anthocyanin)とは、アントシアニジン(anthocyanidin)がアグリコンとして糖と結合した配糖体成分のことである。アントシアニジンとしては、例えば、下記の式(I)に示されるような化学構造を有する、デルフィニジン(Delphinidin)、シアニジン(Cyanidin)、マルビジン(Malvidin)、ペラルゴニジン(Pelargonidin)、ペオニジン(Peonidin)、ペチュニジン(Petunidin)などがある。また、アントシアニンは例えば、前記アントシアニジンにグルコースが配糖体として結合している場合にはアントシアニジングルコシドと呼ぶ。また、アントシアニンに見出される糖としては単糖類であるグルコース以外に、ガラクトース、アラビノースや2糖類であるルチノース、ソフォロースなどがある。そのなかで、カシス(英名 Black currant, 和名 黒スグリ)由来のアントシアニンをカシスアントシアニンと呼ぶ。カシスアントシアニンには視覚改善機能、血液流動性改善機能や血圧低下機能などの有用な効能が知られている(特許文献1)。
【化1】

【0003】
従来知られているアントシアニンの分析方法としては高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による方法が知られている(非特許文献1と2)。非特許文献1と2の方法では、オクタデシルシリル化シリカ(ODS)充填カラムを用いる逆相HPLCであり、移動相としてアセトニトリル/水の溶媒を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2001/01798号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arapitsasら、タランタ(Talanta) 2008年 第74巻 1218-1223頁
【非特許文献2】松本ら、ジャーナル オブ アグリカルチュアル アンド フード ケミストリー(J. Agricultual and Food Chemistry) 2001年3月発行 第49巻 第3号 1541-1545頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年自動車業界の不況によりアクリロニトリルの副生成物であるアセトニトリルの供給が不足しており、その代替品が求められている。本発明の目的は、アントシアニンのHPLCによる分析において移動相としてアセトニトリルに代わる有機溶媒を用いてもアントシアニンの定量を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、以下に示す分析方法を提供することによって課題を解決できることを見出した。すなわち、
(1)分析試料中に含まれるアントシアニンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、定量する方法であって、移動相がエタノール及び/又は水であることを特徴とする方法。
(2)移動相の水にリン酸を添加することを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)HPLCに使用するカラムがシリカゲル担体にオクタデシル基が化学結合した充填剤(ODS)を有するカラムであることを特徴とする(1)または(2)に記載の方法。
(4)アントシアニンの検出波長が520nmであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の方法。
(5)アントシアニンがデルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)の群から選択される1種以上の物質であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)分析試料がカシスアントシアニンを含む飲料であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
HPLCの移動相としてアセトニトリルの代替品としてエタノールを用いる本発明の方法により、アセトニトリルの供給不足の影響を受けずにアントシアニンを含む組成物中に含まれるアントシアニンの定量分析をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1によるHPLCの分析方法により分離したアントシアニンのクロマトグラム。
【図2】比較例1によるHPLCの分析方法により分離したアントシアニンのクロマトグラム。
【図3】比較例1による分析方法と実施例1による分析方法が相関関係にあることを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の方法により定量される物質は、アントシアニンであるが、アントシアニン(AC)としてはデルフィニジン(Delphinidin)、シアニジン(Cyanidin)、マルビジン(Malvidin)、ペラルゴニジン(Pelargonidin)、ペオニジン(Peonidin)、ペチュニジン(Petunidin)などのアントシアニジンに、グルコース、ルチノース、ガラクトース、アラビノース、ソフォロースなどの糖が3位、5位または両方の位置に結合した配糖体であり、好ましくは、デルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)など(化2)が挙げられる。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の方法が対象とする分析試料は、天然物(くわの実、クランベリー、カシス、ブドウの皮、ムラサキイモの皮など)及びそれらのエキスなど、飲食物、医薬品、及び化粧品など、アントシアニンを含むと予測される任意の試料である。試料が液体である場合には、アントシアニンの全成分の合計が10〜100mg/100gになるように0.1N塩酸で希釈して測定すればよい。 また、固体の場合には適切な溶媒を用いて抽出して分析試料とする。本発明の方法が対象とする好ましい分析試料はカシスアントシアニンを含む飲料である。
【0013】
本発明の方法は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でアントシアニンを分離定量する。分析に用いるカラムは逆相系カラムが好ましく、逆相系カラムがシリカゲル担体にオクタデシル基が化学結合した充填剤(ODS)、ブチル基が化学結合した充填剤(C4)、オクチル基が化学結合した充填剤(CS)、フェニル基が化学結合した充填剤(Ph)、C30のアルキル鎖が化学結合した充填剤(C30)、オクタデシル基が合成ポリマーに結合した(ODP)又は逆相系合成ポリマー担体、アミド結合型逆相担体を用いることができる。
【0014】
HPLC分析の移動相として、水と水に可溶の極性有機溶媒を用いることが可能で、エタノール、メタノールなどを用いることができるが、特にエタノールが好ましい。水との混合比率は0〜100%で用いることができる。移動相は酸性にするほうが分離及び分析する成分の安定性のために好ましく、トリフルオロ酢酸(TFA)、リン酸、蟻酸、酢酸、トリクロロ酢酸(TCA)、過塩素酸などを0.001%〜5%混合してもよい。好ましくは0.01%〜1.0%のリン酸を用いる。
【0015】
具体的には、ODSカラム(Zorbax SB-C18:4.6mmx150mm、Agillent 社)を用い、A溶液には0.5%リン酸水溶液、B溶液にはエタノールを用い、流速0.8ml/分で、B溶液10%→B溶液13%(20分)、B溶液13%→B溶液13%(3分)、B溶液13%→B溶液80%(0.01分)、次いでB溶液80%→B溶液80%(4.99分)のグラジエント溶出を行い、カラム温度は40℃、アントシアニンの検出は520nmにおける吸光度の測定により行い、それぞれの物質のピークの面積値からアントシアニンを定量することができる。デルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)は8.9分、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)は10.2分、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)は12.6分、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)は14.9分に溶出した。しかし、この分析条件に限定しているわけではなく、定量可能なすべての条件を用いることができる。
【0016】
以下、実施例を示してより詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1
カシスアントシアニンを含有した飲料(サンプル1〜5)をアントシアニンの全成分の合計が10〜100mg/100gになるように0.1N塩酸で希釈し、下記の条件のHPLCで分析を行った。
【0018】
分析条件は、カラムとしてZorbax SB-C18(4.6mmx150mm、Agillent 社)を用い、A溶液には0.5%リン酸水溶液、B溶液にはエタノールを用い、流速0.8ml/分で、B溶液10%→B溶液13%(20分)、B溶液13%→B溶液13%(3分)、B溶液13%→B溶液80%(0.01分)、次いでB溶液80%→B溶液80%(4.99分)のグラジエント溶出を行った。カラム温度は40℃、アントシアニンの検出は520nmにおける吸光度の測定により行い、それぞれの物質のピークの面積値からアントシアニンを定量した。HPLCはマルチステーションLC-8020 Model IIを用いたHPLCシステム(東ソー株式会社)を用いた。
【0019】
本条件で、デルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)は8.9分、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)は10.2分、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)は12.6分、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)は14.9分に溶出し良好な分離をした(図1)。
【0020】
また、D3G、D3R、C3G、C3Rは松本らの方法(松本らJ. Agricultual and Food Chemistry 2001年3月発行 第49巻 第3号 1541-1545頁)に従ってカシス濃縮果汁から精製して得られたものを標品として用い、検量線を作成して各サンプルのアントシアニンの前記4成分を定量した。
【0021】
比較例1
溶出液のB溶液をアセトニトリルにする以外は、実施例1と同じ条件で実施例1に記載のサンプル1〜5について、アントシアニンのD3G、D3R、C3G、C3Rの4成分について定量分析を行った。
本条件で、D3G、D3R、C3G、C3Rはそれぞれ、7.9分、9.2分、11.7分、13.8分に溶出して分離した(図2)。
【0022】
試験例1
実施例1及び比較例1で用いられたサンプル1〜5についてD3G、D3R、C3G、C3Rの4成分のアントシアニンの含有量とその4成分の総量を比較例1または実施例1の方法で定量した結果を表1に示した。
【表1】

アントシアニン4成分の各成分の量および4成分の総量について、横軸を比較例1による方法で得られた量とそれに対応する実施例1による方法によって得られた量を縦軸になるようにプロットしたグラフが図3である。そのグラフから相関係数を求めると1.00となった。
従って、HPLCでのカシスアントシアニン分析方法において移動相としてアセトニトリルの代わりにエタノールを使用しても定量分析は可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によりアセトニトリルをHPLC分析の移動相として使用しているアントシアニンの分析においてエタノールをアセトニトリルの代替品として使用することができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析試料中に含まれるアントシアニンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、定量する方法であって、移動相がエタノール及び/又は水であることを特徴とする方法。
【請求項2】
移動相の水にリン酸を添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HPLCに使用するカラムがシリカゲル担体にオクタデシル基が化学結合した充填剤(ODS)を有するカラムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アントシアニンの検出波長が520nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アントシアニンがデルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)の群から選択される1種以上の物質であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
分析試料がカシスアントシアニンを含む飲料であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−236905(P2010−236905A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82557(P2009−82557)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)