説明

アントシアニン高含量根菜の作出方法

【課題】 胚軸または根部にアントシアニンを高い割合で含む根菜(アカダイコン、アカカブなど)およびその種子を作出する方法を提供する。
【解決手段】 下記の工程(1)〜(5)を行う:
(1)胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜の種子、または下記の工程(4)で採取した種子を播種し発芽させ、生育させる工程、
(2)工程(1)で得られる根菜の胚軸または根の一部を切り取り、その切片中に含まれるアントシアニン量を測定する工程、
(3)アントシアニン含量の高い切片に由来する根菜を選択し、これを再び生育させて、開花期まで生長させる工程、
(4)工程(3)で得られる開花した根菜を、異なる個体同士で交配させ、種子を採取する工程、および
(5)工程(4)で得られた種子を回収するか、または上記工程(1)に供する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントシアニン含有量の高い根菜の作出方法に関する。具体的には、胚軸および根部中に含まれるアントシアニンの量が多いアカダイコンやアカカブの作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンは、食品などの着色に広く使用される赤色系の天然色素である。しかし最近では、単に着色機能だけではなく、抗酸化作用、抗変異原性、血圧降下作用、視覚改善作用、肝機能障害軽減作用、抗糖尿病作用などが知られるようになり、生体調節機能食品素材として注目されるようになっている。
【0003】
アントシアニンは、シソ、サツマイモ(紫イモ)、赤キャベツ、赤カブ、有色ジャガイモ、アカダイコン、ブドウ、ベリー類などのシダ植物以上の高等植物に広く分布している。一般にアントシアニンは、酸性領域では鮮やかな赤色を呈しているが、弱酸性〜中性〜弱アルカリ性とpHが上昇するにつれて徐々に青みを帯びてくる。しかしながら、アカダイコンに含まれているアントシアニンによると、中性〜弱酸性領域でも鮮明な赤色を維持することができるため(特許文献1)、これらの植物に由来するアントシアニンは赤色色素(アカダイコン色素)として重宝されており、その効率的な製造が求められている。
【0004】
天然色素を効率的に取得する方法として、当該色素を高い割合で含有する植物を作出するという方法が考えられる。
【0005】
従来、色素含有量が高い植物を得るための方法としては、高クロロフィル及び高カロチノイド含有性のクロレラ変異株を得る方法が知られている。この方法は、具体的には、親株のクロレラを、50μg/mlのニトロソグアニジンの存在下で60分間、30℃で緩やかに振盪して変異処理し、得られた変異株の中から肉眼で緑色の濃いものを選抜するというものである(特許文献2)。
【0006】
しかし、アントシアニン含有量の高い植物、特に根菜を取得する方法は知られていない。
【特許文献1】特開平09−154532号公報
【特許文献2】特開平11−75823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アントシアニン含有量の高い、例えばアカダイコンやアカカブ等の根菜、およびその種子の作出方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、かかる方法で作出される根菜およびその種子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
根菜に属するアカダイコンの胚軸および根部(以下、これを総じて単に「根」ともいう)のアントシアニン含有量は表面と内部とでは異なり、根表面の含有量は高くても内部の含有量は低い個体も高頻繁に存在する。それにもかかわらず、従来のアントシアニン高含量のアカダイコンの選抜は、根表面の赤色の濃淡にのみ着目して、圃場で肉眼観察によって行われているのが通例である。この実情に鑑み、本発明者らは、アカダイコン根の表面色の濃淡ではなく、内部のアントシアニン含有量を直接指標として、より正確にアントシアニン含有量の高いアカダイコンを選抜する方法を開発すべく研究していたところ、根の一部を欠失したアカダイコンを用いても生育、交配および採種を正常通り行うことが可能であることを見出した。この知見により、根から切り取ったアカダイコン切片のアントシアニン含有量を実際に測定することによってアントシアニン含有量の高いアカダイコンを選抜し、選抜したアカダイコンを交配していくことによって、根にアントシアニンを高い割合で含むアカダイコンを作出することができることを確認した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を含むものである;
項1.下記の工程(1)〜(5)を行うことを特徴とするアントシアニン高含量の根菜の種子を作出する方法:
(1)胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜の種子、または下記の工程(4)で採取した種子を播種し発芽させ、生育させる工程、
(2)工程(1)で得られる根菜の胚軸または根部の一部を切り取り、その切片中に含まれるアントシアニン量を測定する工程、
(3)アントシアニン含量の高い切片に由来する根菜を選択し、これを再び生育させて、開花期まで生長させる工程、
(4)工程(3)で得られる開花した根菜を、異なる個体同士で交配もしくは受粉させ、種子を採取する工程、および
(5)工程(4)で得られた種子を回収するか、または上記工程(1)に供する工程。
【0010】
項2.工程(3)で選択する根菜が、胚軸または根部の切片1cm中にアントアニンを6mg/cm3以上の割合で含有するものである、項1記載の方法。
項3.根菜が、アカダイコンまたはアカカブである項1または2に記載する方法。
項4.項1ないし3のいずれかに記載する方法によって作出されるアントシアニン高含量の根菜の種子。
【0011】
項5.項4に記載する種子を播種し発芽生育させる工程を有する、アントシアニン高含量の根菜の作出方法。
項6.項5に記載する方法によって作出されるアントシアニン高含量の根菜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の表面色調による選抜交配法と比較して、アントシアニン含有量の高い、特に単位体積あたりのアントシアニン含有量の高い根菜(例えばアカダイコンやアカカブ等)およびその種子を、精度よく効率的に取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。
I.アントシアニン高含量の根菜の種子を作出する方法
本発明は、胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜であって、アントシアニンを高い割合で含む根菜の種子を作出する方法を提供する。
【0014】
ここで、胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜としては、アカダイコンおよびアカカブを挙げることができる。
【0015】
アカダイコンは、アブラナ科ダイコン属(Raphanus sativus L.)に属するダイコンの一品種である。本発明が対象とするアカダイコンは、胚軸または/および根部にアントシアニンを含むものであり、その限りにおいて制限はされないが、具体的には紅心ダイコン、心里美、岩国赤等を好適に例示することができる。
【0016】
アカカブは、アブラナ科アブラナ属(Brassica Rapa L.)に属するカブの一品種である。本発明が対象とするアカカブは、胚軸または/および根部にアントシアニンを含むものであり、その限りにおいて制限はされないが、具体的には伊予緋カブ、ヒノナ、本紅丸かぶ等を好適に例示することができる。
【0017】
本発明の方法は、下記の工程(1)〜(5)を行うことによって実施することができる。
【0018】
a.工程(1)
工程(1)では、胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜の種子を播種して発芽させて生育させる。
【0019】
ここで、根菜の種子は、上記アカダイコンやアカカブなど、胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜の種子であればよい。具体的には、前述する各種のアカダイコンやアカカブの種子を好適に用いることができる。
【0020】
種子は通常土壌に播種される。播種、発芽及び生育までの栽培は、通常の根菜の栽培と同様にして行うことができる。制限はされないが、具体的には、9月中旬に土壌に種子を播種した後、株間20cm程度、畝幅140cm程度、条間40cm程度の2条植えとして栽培するといった栽培方法を例示することができる。
【0021】
生育は、根菜の胚軸または根部が少なくとも20cmの体積になるまで行えばよいが、通常は、土中から突出した胚軸または根部がそれ以上肥大しなくなるまで行う。
【0022】
通常、土中から突出した胚軸または根部がそれ以上肥大しなくなるまで生育するのに要する期間として播種から70〜100日間程度を挙げることができる。具体的には、上記するように例えば9月中旬に土壌に種子を播種した場合は、12月初旬〜下旬まで生育させることができる。
【0023】
次いで、この段階で一旦生育を中断させて、下記の工程(2)を行う。なお、当該工程(1)の操作は、後述する工程(4)で採取された種子についても同様に行うことができ、同様に下記工程(2)に供される。
【0024】
b.工程(2)
工程(2)では、上記工程(1)で得られる根菜の胚軸または根部の一部を切り取り、その切片中に含まれるアントシアニン量を測定する。
【0025】
根菜の胚軸または根部の一部の切り取り方法およびその量は、胚軸または根部の切除によってその後の生育、開花、交配(受粉)および結実に支障が生じないかぎり、特に制限されない。根菜の根に含まれるアントシアニンの量をより正確に測定するためには、胚軸または根部の中心部から表面までが均一に含まれるように切り取ることが好ましい。根菜の例としてアカダイコンを挙げると、より好ましい切り取り方としては、図1に示すように、根を円錐と考えた場合、その頂部の横断面の円を、中心を交わる線で複数に分割し、その分割した一区画をそのまま頂部から下部にかけて切断して、略三角立方形態の切片(図2)を切り出す方法を挙げることができる。
【0026】
切り出す切片の重量および大きさは特に制限されないが、少なくとも5g、好ましくは7〜10gの切片を切り出すことが望ましい。この限りにおいて、切り出す切片の容積は特に制限されないが、例えば土中から突出した胚軸または根部がそれ以上肥大しなくなるまで生育させた根菜の場合、胚軸及び根部を合わせた全体積の5〜10容量%、好ましくは6〜9容量%に相当する体積の切片を切り出す。通常、上記の切り出し方法で切片を切除する場合、横断面の円の分割数として最大16分割を挙げることができる。すなわち、中心部から周辺まで均一に含むように、胚軸及び根部を合わせた全体積の少なくとも1/16を切り出すことになる。なお、上記のように分割する場合、切り出す大きさの限度としては8分割程度、すなわち胚軸及び根部を合わせた全体積の約1/8であり、上記のように分割した1/8を切り出してもその後の交配及び結実に影響しないことが確認されている。
【0027】
切片中に含まれるアントシアニン量の測定は、特に制限されないが、通常、切り出した切片からアントシアニンを抽出し、得られたアントシアニン抽出液に含まれるアントシアニン量を例えばHPLC等の常套手段を用いて測定する方法を挙げることができる。なお、根菜切片からのアントシアニンの抽出は、制限されないが、例えば切り出した切片をさらに細かく裁断し、これを4倍重量の0.5%硫酸水溶液に浸漬して、12時間暗所に放置する方法を挙げることができる。HPLCによるアントシアニンの定量は、具体的には実施例に挙げる方法を例示することができるが、アントシアニンを定量できる方法であれば、これに限らない。
【0028】
c.工程(3)
工程(3)では、上記工程(2)におけるアントシアニン含量の測定結果から、アントシアニン含量の高い切片に由来する根菜を選択し、これを再び生育させて、開花期まで生長させる。
【0029】
ここでアントシアニン含量の高い切片とは、基本的にはスクリーニング対象とする複数の根菜切片間での相対的評価において、スクリーニング対象群における他者よりアントシアニン含量が高い切片を意味する。好ましくは、絶対的評価において、切片1cm中に含まれるアントシアニン量が6mg/cm以上のものを挙げることができる。好ましいアントシアニン量は、切片1cmあたり7mg/cm以上、より好ましくは9mg/cm以上である。
【0030】
かかる指標のもとアントシアニン含量の高い切片に由来する根菜を選択し、これを再び土壌に植えて、開花期まで生育を継続させる。なお、このときの生育条件も、工程(1)で説明した条件を同様に用いることができる。
【0031】
d.工程(4)
工程(4)では、上記工程(3)で得られる開花した根菜を、異なる個体同士で交配(受粉)させ、結実後、種子を採取する。なお、交配(受粉)はできるだけ多くの個体間で行うことが好ましい。交配(受粉)は人工的に行うこともできるが、虫を媒介して行うこともできる。虫媒の場合、できるだけ多くの個体間で交配(受粉)するように、交配(受粉)させる複数の個体一帯にネットを張りその中でミツバチを放つ方法を挙げることができる。
【0032】
e.工程(5)
工程(5)は上記工程(4)で得られた種子を回収する工程である。回収された種子は、そのままアントシアニン高含量の根菜の種子として、商業的に、または根菜の栽培に利用することができる。
【0033】
また当該種子は、再び上記工程(1)に供することもできる。再び上記工程(1)に供し、(1)〜(4)を1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3〜4回繰り返すことによって、最終的に、より好ましいアントシアニン高含量の根菜の種子を選抜作出することができる。なお、工程(1)〜(4)を複数回繰り返す場合、アントシアニン含量が高い切片であるかの判断は、交配前の親の個体中アントシアニン量が指標となり、その含量と比較することによって行われる。
【0034】
斯くして本発明の方法で得られた種子は、アントシアニン高含量の根菜の種子、好ましくはアントシアニン高含量のアカダイコン、またはアカカブの種子として、これらの根菜の栽培に有効に利用することができる。
【0035】
アントシアニン高含量の根菜の栽培および取得は、上記本発明の方法で作出した種子を、定法に従って播種し、発芽生育させることによって行うことができる。
【0036】
斯くして得られる根菜、特にアカダイコン、またはアカカブは、その胚軸または根部にアントシアニンを高含量で含んでいる。高含量の割合としては、特に制限されないが、好ましくはその胚軸または根部中のアントシアニン含量が6mg/cm3以上、好ましくは7mg/cm3以上、より好ましくは9mg/cm3以上のものである。
【0037】
かかる根菜は、それ自体が食品(野菜)として有用であるほか、色素や生体調節機能食品素材であるアントシアニンを採取する原料として、また生体調節機能食品の加工原料として有効に利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の構成ならびに効果をより明確にするために、実施例、比較例及び実験例を記載する。但し、本発明は、これらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
1.選抜
下記工程に供する種子として、中国雲南省より日本に導入されたアカダイコン(中国雲南省在来種)の種子(以下「無選抜集団」と記す)、および無選抜集団から表皮の色調と大きさだけに基づいて圃場での3回の選抜を行って採種した種子(以下「3回選抜集団」と記す)を用いた。
【0040】
(1)工程1
上記種子(無選抜集団、3回選抜集団)を、9月中旬に大阪大学薬用植物園内圃場に播種した。株間20cm、畝幅140cm、条間40cmの2条植えとして栽培し、土中から突出した胚軸または根部がそれ以上肥大しなくなるのを確認した後、12月中旬に収穫した。
【0041】
(2)工程2
収穫したアカダイコンの胚軸および根部から、図1に示すように、表面から中心部までを含むように個体容積の約1/16に相当する切片(図2)を切り出した。なお、胚軸および根部の一部(切片)を切り出した個体は、切り出しから1時間以内に圃場に戻し、再び土壌に移植した。
【0042】
上記切片を約5mm角に切り刻み、切り出した重量の4倍量の0.5%硫酸水溶液に浸して、12時間暗所に静置した。静置後、浸漬液を濾過して回収し、アントシアニン抽出液中に含まれるアントシアニン量をHPLCにより分析測定した。HPLC分析は、各種のユニット〔ポンプ(PU2080)2個、高圧グラディエントユニット(MX-2080-32)、オートサンプラー(AS2057)、カラムオーブン(CO2060)、フォトダイオードアレー検出器(MD2010)、3チャンネル溶媒デガッサ(DG-2080-53)、クロマトグラムデータの記録装置(JASCO Bowin software)〕から構成されるHPLC system Borwin (JASCO)を用いて、下記の条件に従って行った。
【0043】
<HPLC条件>
カラム: Develosil C30 UG-5 (4.6 i.d. x 250 mm, Nomura Chemical Co., Ltd.)
移動相:A:0.1% TFA-CH3CN、B:水 (Aの割合を0 min→25min→65minにかけて0%→20%→30%にグラジェント増加させる)
流速: 1.0 mL/min
カラム温度: 30 ℃
検出波長: 515 nm
サンプル注入量:20 μL。
【0044】
アントシアニン量の測定(定量)は、HPLCのピーク面積をもとに絶対検量線法により行った。得られた結果から、アカダイコンの単位体積あたりに含まれるアントシアニン含量と、アカダイコン1個体あたりに含まれるアントシアニン含量の両方を算出した。
【0045】
なお、標準検量線は、アカダイコンのアントシアニン混合物を5、25、50、100、及び200 ngの割合で、上記分析条件のHPLCに供して作成した。ここで、アカダイコンのアントシアニン混合物は、VEGETA RED AD 3 mL(三栄源エフ・エフ・アイ(株))を0.1% TFA水溶液12mLで希釈した後、DIAION HP-20カラム38 cm3に吸着させ、0.1% TFA水溶液、10% MeOH-0.1% TFA水溶液、及び100% MeOH-0.1% TFAで順次溶出した後、得られた100% MeOH-0.1% TFAでの溶出液を濃縮して調製したものを使用した。
【0046】
(3)工程3
上記分析結果に基づいて、各集団(無選抜集団、3回選抜集団)から単位体積あたりのアントシアニン含量(mg/cm3)が高含量であった上位2個体、および1個体あたりのアントシアニン含量(g/個体)が高含量であった上位2個体をそれぞれ選抜した。圃場に再移植しておいた個体(胚軸および根部の一部を切り出した個体)の中から、上記各集団から選抜した個体(高含量選抜個体/単位体積、高含量選抜個体/個体)を圃場の土を詰めたポットに移し、ビニルハウス内で栽培し、翌年の春期に開花させた。
【0047】
なお、コントロール用に、各集団(無選抜集団、3回選抜集団)から単位体積あたりのアントシアニン含量(mg/cm3)が平均的であった2個体(コントロール個体/単位体積)、および1個体あたりのアントシアニン含量(g/個体)が平均的であった2個体(コントロール個体/個体)についてもそれぞれ選抜し、上記と同様にして栽培して、翌年の春期に開花させた。
【0048】
(4)工程4
各集団について、上記工程3で開花させた各選抜2個体間(高含量選抜個体/単位体積、高含量選抜個体/個体、コントロール個体/単位体積、コントロール個体/個体)で交配を行った。交配は細筆を用いて人工的に行った。
【0049】
(5)工程5
上記工程4で交配した各個体(高含量選抜個体/単位体積、高含量選抜個体/個体、コントロール個体/単位体積、コントロール個体/個体)から、結実後、種子を採種した。種子は莢果ごと収穫した後に、莢果を手で砕いて取り出した。
【0050】
2.交配個体に含まれるアントシアニン含量の測定
上記工程5で採種した各交配個体(高含量選抜個体/単位体積、高含量選抜個体/個体、コントロール個体/単位体積、コントロール個体/個体)の種子を、上記(1)工程1に記載するように、大阪大学薬用植物園内圃場に播種し、株間20cm、畝幅140cm、条間40cmの2条植えとして栽培し、土中から突出した胚軸または根部がそれ以上肥大しなくなるのを確認した後、収穫した。収穫したアカダイコンについて、上記(2)工程2に記載する方法に従って、胚軸および根部に含まれるアントシアニン含量をHPLCにより測定し、アカダイコンの単位体積あたりに含まれるアントシアニン含量と、アカダイコン1個体あたりに含まれるアントシアニン含量の両方を算出した。
【0051】
2.結果
無選抜集団について選抜して得られた交配個体のアントシアニン含量〔単位体積あたりの含量(mg/cm3)、個体あたりの含量(g/個体)〕を表1に示す。なお、表中、「交配個体1」とは無選抜集団中の単位体積あたりでのアントシアニン高含有個体(高含量選抜個体/単位体積)間の交配により得られた個体を意味し、「交配個体2」とは無選抜集団中の個体あたりでのアントシアニン高含有個体(高含量選抜個体/個体)間の交配により得られた個体を意味する。
【0052】
比較のため、平均的なアントシアニン含量の個体(コントロール個体/単位体積、コントロール個体/個体)間の交配により得られた個体(表中「コントロール」と表示)、および無選抜集団(種子)から任意に選択した種子を栽培して得られた個体(表中「元集団」と表示)について、それぞれ単位体積あたりおよび1個体あたりのアントシアニン含量を併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
3回選抜集団について選抜して得られた交配個体のアントシアニン含量〔単位体積あたりの含量(mg/cm3)、個体あたりの含量(g/個体)〕を表2に示す。なお、表中、「交配個体3」とは3回選抜集団中の単位体積あたりでのアントシアニン高含有個体(高含量選抜個体/単位体積)間の交配により得られた個体を意味し、「交配個体4」とは3回選抜集団中の個体あたりでのアントシアニン高含有個体(高含量選抜個体/個体)間の交配により得られた個体を意味する。
【0055】
比較のため、3回選抜集団の中から平均的なアントシアニン含量の個体(コントロール個体/単位体積、コントロール個体/個体)間の交配により得られた個体(表中「コントロール」と表示)、および3回選抜集団(種子)から任意に選択した種子を栽培して得られた個体(表中「元集団」と表示)について、それぞれ単位体積あたりおよび1個体あたりのアントシアニン含量を併せて示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表1及び表2に示すように、アントシアニン含量は、単位体積あたりと個体あたりいずれについても、選抜個体間の交配によって得られた個体では、コントロール個体間の交配によって得られた個体、あるいは元集団の平均値よりも高い値を示した。また、交配個体のアントシアニン含量は、コントロールより高い値であり、交配個体のアントシアニン高産生能は次世代に維持されることが示された(表1)。さらに、元集団と比較して、交配個体のアントシアニン含量は、無選抜集団では単位体積あたり2.0倍、個体あたり1.7倍となり(表1)、3回選抜集団では単位体積あたり1.4倍、個体あたり1.9倍となった(表2)。
【0058】
これらの結果から、アントシアニン抽出に用いる部位として、根を切り出すことによりアントシアニン高含有個体を選抜して交配する本願発明の方法は、従来の表面色調による選抜交配法と比較して、単位体積あたりのアントシアニン含有量は飛躍的に向上することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】アカダイコンの胚軸および根部から、アントシアニン含量測定用の切片を、表面から中心部までを含むように切り出す一方法を示す図である。ここでは、一例として個体容積の約1/16に相当する切片の切り出し方を示す。
【図2】上記で切り出した個体容積の約1/16に相当する切片を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)〜(5)を行うことを特徴とするアントシアニン高含量の根菜の種子を作出する方法:
(1)胚軸または根部にアントシアニンを含む根菜の種子、または下記の工程(4)で採取した種子を播種し発芽させ、生育させる工程、
(2)工程(1)で得られる根菜の胚軸または根部の一部を切り取り、その切片中に含まれるアントシアニン量を測定する工程、
(3)アントシアニン含量の高い切片に由来する根菜を選択し、これを再び生育させて、開花期まで生長させる工程、
(4)工程(3)で得られる開花した根菜を、異なる個体同士で交配もしくは受粉させ、種子を採取する工程、および
(5)工程(4)で得られた種子を回収するか、または上記工程(1)に供する工程。
【請求項2】
工程(3)で選択する根菜が、胚軸または根部の切片1cm中にアントシアニンを6mg/cm3以上の割合で含有するものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
根菜が、アカダイコンまたはアカカブである請求項1または2に記載する方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載する方法によって作出されるアントシアニン高含量の根菜の種子。
【請求項5】
請求項4に記載する種子を播種し発芽生育させる工程を有する、アントシアニン高含量の根菜の作出方法。
【請求項6】
請求項5に記載する方法によって作出されるアントシアニン高含量の根菜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−60992(P2007−60992A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251323(P2005−251323)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年4月27日 日本食品化学学会事務局発行の「日本食品化学学会第11回総会・学術大会講演要旨集」に発表
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】