説明

アンモニア精製システムおよび精製方法

【課題】 高純度アンモニアの連続供給を可能とし、簡便な機能を用いることによって、保守を軽減し高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムおよび精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 粗アンモニアから高純度アンモニアを精製するシステムであって、原料となる粗液体アンモニアを収容する貯蔵手段4と、液状アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の低い重質不純物を除去する第一精留手段1と、気体状アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の高い軽質不純物を除去する第二精留手段2と、を含む複数の精留手段と、前記第一精留手段1と第二精留手段2の中間に、気体状アンモニアから微量残留分を除去する少なくとも1つの吸着手段3と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗アンモニアを精製するシステムおよび精製方法に関するもので、詳細には、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などに多用される高純度アンモニア精製プロセスにおいて利用されるアンモニア精製システムおよび精製方法に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などにおいては、窒化物皮膜の作製など各種処理剤などとして、高純度のアンモニアが利用されていた。通常、こうした高純度アンモニアの供給には、粗アンモニアを精製し不純物を除去する方法が採られている。具体的には、精製対象となる物質と除去対象となる物質の沸点の差、さらに具体的には所定の圧力条件での蒸気圧の差を利用して行う方法と、特定素材に対する物理的あるいは化学的吸着能力の差を利用する方法が用いられていた。通常は、同方法の多段処理が一般的であるが、微量の不純物の除去は、これらを組み合わせる方法も幾つか提案され、一部実用化されている。
【0003】
例えば、一般的な高純度化学物質の精製装置としては、図3に示すように、液体化学物質を収容する貯蔵槽101と、前記貯蔵槽101から液状で化学物質を受けるために接続された、そこで化学物質が、汚染された重質液体留分と、精製された軽質蒸気留分とに分留されるカラム109と、そこから精製された軽質蒸気留分を除去するために、前記カラム109に接続された導管102とを具備するシステムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
あるいは粗アンモニアを高純度アンモニアに精製する装置としては、例えば、図4に示すように、酸化バリウム系水分除去剤を充填した実質的に室温下の脱水塔(203)に粗アンモニアガスを導入して該ガス中に含まれる水分を反応除去し、蒸留塔(204)の中央空間部還流部(242)に前記工程Aにより水分が除去されたアンモニアガスを導入して上部凝縮冷却部(241)でアンモニアガスを液化すると共に低沸点不純物を分離しながら液化物を下部貯留部(243)まで流下させて実質的に高純度のアンモニアとなし、さらに、貯留された液体に含まれる微量不純物を最下部沸騰加熱部(244)で沸騰により追い出す方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、図5に示すように、不純液化(アンモニア)ガスを第一吸収手段(414)に通してその中の液相から不純物を除去して第一精製流体を生成する工程、第一精製流体を蒸発手段(422)に通してその中の不純物を除去して第二精製ガスを生成する工程、及び第二精製ガスを第二吸収手段(426)に通してその中の蒸気相から不純物を除去して高純度ガスを生成する工程からなることを構成要件とする方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−028264号公報
【特許文献2】特開2003−183021号公報
【特許文献3】特開2002−255542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の半導体の高密度化・高精度化の要請から、アンモニアに対しても益々高純度化あるいは不純物処理の要求が高まってきている。従来の方法では、こうした要求への十分な対応が困難であった。
【0007】
具体的には、図4に示す例にあっては、比較的純度の高い原料をさらに高純度に精製することを目的としており、原料に含まれる不純物が多い場合には、カラムのみでは最終製品の純度を十分に確保することはできない。また、本方法によれば、軽質分を先に除去し、重質分を後に除去することから、製品は気体に限定されるため、液化製品が要求されるアンモニアの精製に適用するには、別途液化装置を設けるなど不適切となる場合がある。
【0008】
また、図5に示す例にあっては、粗アンモニア用液体容器(貯槽)からガスでアンモニアを取り出しているため、水分が液相に残り、気相中の水分は少なくなるが、使用している内に液体容器内の水分が濃縮して来るので、残液を残さないと水分除去塔の負担が増えることになる。その結果、長期的には、蒸留塔への水分の混入に伴う最終製品における純度の低下にも結び付くおそれが生じることになる。また、水分除去塔が再生できない方式であり、設定量の処理を行うと除去剤を交換する必要があり、保守の煩雑化および費用負担となる。
【0009】
さらに、図6に示す例にあっては、最終製品の純度が蒸気相吸着床の特性に依存することから、所定の再生機能が必要となり、常設している水分分析計(FTIR)を含め、保守点検の煩雑化および装置の費用負担を招くことになる。
【0010】
本発明の目的は、高純度アンモニアの連続供給、さらには、半導体製造工場あるいは液晶製造工場などに多用される高純度アンモニアの連続供給を可能とし、簡便な機能を用いることによって、保守を軽減し高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムおよび精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すアンモニア精製システムおよび精製方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、粗アンモニアから高純度アンモニアを精製するシステムであって、(1)原料となる粗アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の低い重質不純物を除去する第一精留手段と、気体状アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の高い軽質不純物を除去する第二精留手段と、を含む複数の精留手段と、(2)前記第一精留手段と第二精留手段の中間に、気体状アンモニアから微量残留分を除去する少なくとも1つの固定床吸着手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、アンモニアより蒸気圧の低い重質不純物と、アンモニアより蒸気圧の高い軽質不純物を含む粗アンモニアを精製する方法であって、原料となる粗アンモニアを第一精留手段に導入して重質不純物の大部分を除去し、重質不純物が除去されたアンモニアガスを固定床吸着手段に導入して微量残留分を除去した後、第二精留手段に導入して軽質不純物を除去することによって、高純度アンモニアを得ることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る精製システムまたは精製方法における微量の不純物の除去は、複数の精留手段と1以上の吸着手段から構成され、蒸気圧の低い不純物(以下「重質不純物」という。)から順次、蒸気圧の高い不純物(以下「軽質不純物」という。)へと精製を進めていくもので、各々独立的な機能を発揮するとともに相互に補完し合うことができるという優れた特徴を有するものである。
【0015】
具体的には、不純物の種類が多く、かつ微量で除去しにくい不純物が種々存在することから非常に分離が困難であった、アンモニア(NH)の精製を、(1)重質不純物を除去する第一精留分離、(2)重質および軽質不純物を除去する吸着分離、(3)軽質不純物を除去する第二精留分離という3つ(あるいはそれ以上)の手段を組合せるとともに、各手段に導入する試料の性状・温度・圧力などの条件を制御することによって、効果的に分離を図るものである。
【0016】
例えば、粗アンモニアを液状で、第一精製手段に導入することによって、貯蔵手段内における水分の濃縮などによる本システムの精製能力の不安定要因を排除することができる。つまり、貯蔵手段の液相から原料を採取し、第一精留手段で殆どの水分を除去するので安定的に運転が可能となる。また、第1精留手段で除去できなかった僅かな水分等も、固定床吸着手段(吸着器)によって除去可能であり、さらに、再生可能な吸着器を使用することによって保守性の改善を図ることができる。
【0017】
このように、本発明によれば、高純度アンモニアの連続供給を可能とし、簡便な機能を用いることによって保守を軽減し、高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムおよび精製方法を提供することが可能となる。
【0018】
本発明は、上記アンモニア精製システムであって、原料となる粗液体アンモニアが、貯槽またはバルク輸送槽から供給されることを特徴とする。
【0019】
上記のように、近年高純度アンモニアに対しては、短期量産化傾向の高まりによって、高純度化とともに量的にも多量のアンモニア供給が可能となるシステムの要望が強くなってきている。従って、従来のような複数のボンベによる供給システムでは十分対応できず、これらの数倍あるいは数十倍の容量を有するバルク輸送槽が好ましい。また、設置場所や取替えの必要性からもバルク輸送槽が好ましい。本システムはこうした要請に対応可能な構成を有することによって、多量の高純度アンモニアの連続供給を可能とし保守を軽減し、高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムを提供することが可能となる。また、上記のように、粗アンモニアを液状で、第一精製手段に導入することによって、貯蔵手段内における水分の濃縮などによる本システムの精製能力の不安定要因を排除することができることから、貯蔵手段の液相から原料を採取し、第一精留手段で殆どの水分を除去するので安定的な運転が可能となる。
【0020】
本発明は、上記アンモニア精製システムであって、原料となる粗アンモニアが、アンモニア製造プラントから供給されることを特徴とする。
【0021】
上記のように、近年高純度アンモニアに対しては、短期量産化傾向の高まりによって、高純度化とともに、量的にも従来の供給量の数十倍あるいは連続的なアンモニア供給が可能となるシステムの要望が強くなってきている。本システムは比較的純度の低いアンモニアを原料として高純度アンモニアの供給が可能であることから、こうした要請に十分対応可能な構成を有しているおり、具体的には、アンモニア製造プラントから供給される多量の粗アンモニアから高純度アンモニアの連続供給を可能としたものである。既存の設備との結合など、汎用性の高いシステムの形成が可能であり、保守を軽減し、高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムを提供することが可能となる。また、粗アンモニアを連続的に第一精製手段に導入することができることから、貯蔵手段内における水分の濃縮などの不安定要因を排除することができ、安定的な運転が可能となる。
【0022】
本発明は、上記アンモニア精製システムであって、前記吸着手段が、合成ゼオライト3Aを充填することを特徴とする。
【0023】
本システムにおいて、吸着手段は、第一精留手段からの残留重質不純物の除去し第一精留手段の補完的役割を果たすとともに、第二精留手段における軽質不純物除去の補完的役割を果たしている。従って、精製アンモニアの純度は吸着手段に依存するところが大きい一方、目的とする不純物を特定して吸着除去することは、システム構成上の種々の制約から事実上難しい。本発明者は、第一精留手段および第二精留手段における各種不純物およびこれらの混合成分についての挙動を解析した結果、物理的吸着を利用するとともに、アンモニア分子の大きさを基準として選択した合成ゼオライト3Aが、本システムにおける最適な吸着剤であることを見出したものである。これによって、本システムを構成する精留手段を効果的に補完する機能を有することができ、多量の高純度アンモニアの連続供給が可能となった。
【0024】
本発明は、上記アンモニア精製方法であって、前記粗アンモニアが、純度99.9wt%程度の工業用アンモニアであることを特徴とする。
【0025】
上記のように、本発明の課題は、非常に高純度のアンモニアを多量に安定的に供給することである一方、要求される純度が高まるにつれその精製技術は格段の困難さを伴うものとなる。また、原料となるアンモニアの純度が高ければ高いほど比較的容易に精製可能である一方、原料の純度によって、そのコスト及び原料の入手容易性も大きく異なる。従って、一般的に多く利用されている純度の工業用アンモニアが利用できれば、安定した組成の原料を多量に使用することができ、その実用的価値は非常に高いものとなる。
【0026】
ここで、本発明に係るアンモニア精製方法は、第一精留分離、吸着分離、および第二精留分離という3つ以上の手段を組合せ、各手段に導入する試料の性状・温度・圧力などの条件を制御することによって、相互の機能を補完しあって効果的に不純物の分離を図るものであることから、不純物の許容範囲が他方法に比べて広く、工業用アンモニアでも十分精製可能であることが判った。従って、比較的安価でかつ安定的に入手可能な原料を用いて多量の高純度アンモニアの連続供給が可能となった。
【0027】
本発明は、上記アンモニア精製方法であって、前記高純度アンモニアが、純度99.999wt%以上であることを特徴とする。
【0028】
上記のように、本発明においては、第一精留分離、吸着分離、および第二精留分離という3つ以上の手段を組合せたアンモニア精製方法を用い、各手段相互の機能を補完しあうことによって、多量の高純度アンモニアの連続供給ができることとなった。具体的には、純度99.9wt%程度の工業用アンモニアを原料とした場合にあっては、純度99.999wt%以上の高純度アンモニアを製品として連続的にかつ効率的に供給することが可能となった。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明によれば、高純度アンモニアの連続供給を可能とし、簡便な機能を用いることによって保守を軽減し、高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムおよび精製方法を提供することが可能となる。
【0030】
特に、高純度アンモニアを製品として連続的に供給することが可能となったことから、本システムを使用地点の近くに設置し、高純度アンモニアをパイピングで配送することも可能となる。
【0031】
また、原料供給についても、工業用アンモニアを一般的なローリやバルク輸送槽を使用して行うことができることから、汎用性の高い使用方法が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
<高純度アンモニア精製装置の基本形態例>
図1に本発明に基づく高純度アンモニア精製装置の一例のフローシートを示す。
1は第一精製手段である第一精留塔、2は第二精製手段である第二精留塔、3は吸着手段である固定床吸着器、4は貯蔵手段である貯蔵槽を表し、粗アンモニア供給手段としてローリ5を用いた場合を例示している。また、本システムの安定な稼動を確保するために、所定の位置に、温度計T・・Tnや圧力計G・・Gnおよび液面計Lなどの測定手段、冷却流体や加熱流体および圧力調整器D・・Dnを適宜配設し、これらの出力および機能を制御手段(図示せず)によって管理・制御している。さらに、吸着手段3として再生可能な吸着剤を用いた場合には、再生用のパージ流体の供給手段Rを設け、定期的あるいは本システムの稼働時間に応じて、その作動を管理・制御する。このとき、上記各手段及び付帯する配管及び弁などの試料流路を構成する部材は断熱構造を形成し、所定の温度に保持されることが好ましい。
【0034】
原料から製品および廃液あるいは廃ガス生成までの流れを概略的に述べる。
(1)ローリ5から供給された液状の粗アンモニアは、貯蔵槽4に蓄積され、蓄積された粗アンモニアは、貯蔵槽4の底部から第一精留塔1の中央空間部M1に導入される。
(2)第一精留塔1においては、一次精製された気体状のアンモニアが塔頂から供出され、塔底からは濃縮され液化された不純物が廃液として供出される。一次精製されたアンモニアは、固定床吸着器3の底部に導入される。
(3)固定床吸着器3においては、内部に配設された吸着剤によって不純物が吸着され、2次精製された気体状のアンモニアが上部から供出される。二次精製されたアンモニアは、第二精留塔2の中央空間部M2に導入される。
(4)第二精留塔2においては、三次精製された液状のアンモニアが塔底から供出され、塔頂からは濃縮された不純物が廃ガスとして供出される。三次精製された液体高純度アンモニアは、製品として供出される。
【0035】
<本システムの基本となる各手段の機能・概要>
(1)貯蔵手段
貯蔵槽4としては、基本的に供給量に対応可能な容量の耐圧・耐蝕性の保温容器であれば特に制限されない。例えば、ステンレス製で内部に断熱層を有するタンクやバルク輸送槽など各種の容器を用いることが可能であるが、連続的な原料の供給が可能であり、かつ設置場所をとらずに取替えが容易であることを考慮すると、バルク輸送槽が好ましい。具体的には、約5〜30mの容量を有する容器が好ましい。
貯蔵槽4においては、液体アンモニアの温度及び圧力が略一定条件となるように制御されるとともに、常に必要量の供給を確保するように液面計Lによって液面の位置を管理し制御することが好ましい。
【0036】
また、図1のように、貯蔵槽4の内部液の一部を取り出し、加圧蒸発器6を介して貯蔵槽1に戻すことが好ましい。貯蔵槽4内部の液体アンモニアの温度及び圧力が略一定条件とすることによって、安定した液体アンモニアの供給が可能となる。
【0037】
(2)第一精留手段
第一精留塔1は下から順に底部空間部U1、下部精留部A1、中央空間部M1、上部精留部B1、上部空間部T1を形成し、底部空間部U1にはリボイラE1が設置され、上部空間部T1にはコンデンサC1が設置されている。リボイラE1には外部から例えば加熱水などの加熱媒体が供給されて試料のリボイルをサポートし、コンデンサC1には外部から例えば冷却水などの冷媒が供給されて試料の凝縮をサポートしている。
【0038】
第一精留塔1の中央空間部M1に導入された粗アンモニア液は、下部精留部A1を上昇するアンモニアガスと気液接触しながら底部空間部U1に移動する。そこでリボイルされて気化したアンモニアガスが、流下する溶液と気液接触をしながら、下部精留部A1、中央空間部M1および上部精留部B1を経由して精製される。
【0039】
このとき、軽質不純物および微量の重質不純物を含むアンモニアガスは、上部空間部T1に到達した後、コンデンサC1によって冷却処理されて搭頂から供出される。一方、重質不純物は、2つの精留部において試料中から分離され底部空間部U1に流下して濃縮液となり、搭底から定期的あるいは連続的に廃液として排出される。
【0040】
(3)吸着手段
吸着手段(固定床吸着器)3としては、アンモニアの吸着が少なく、特に微量の水分のようにアンモニアよりも低沸点の不純物などの被精製物質を均等に吸着できれば、特に限定されるものではない。通常、再生処理が可能な物理吸着を利用することが好ましく、例えば、アルミナやシリカゲル、あるいは合成ゼオライトなどの吸着剤を用いることが好ましい。特に、合成ゼオライトは、細孔の大きさが均一であり、アンモニアの吸着が少なく他の成分に対する吸着能力が安定で、かつ再生可能で化学的にも機械的にも耐性があり、成形および入手が容易であることから、本システムへの適用は好適である。また、本システムにおいては、精留手段では微量成分の除去が困難な、水分に対する吸着能力が必要とされ、実験的にも合成ゼオライト3Aが最適であるとの知見を得た。
【0041】
こうした吸着剤を内部に配設した固定床吸着器3を用いて、底部から試料を導入することによって、不純物を均等に吸着することができる。
【0042】
なお、吸着剤を再生するために、例えば窒素などを用いてパージすることが好ましく、具体的には、図1のように、窒素の供給手段Rとして高圧ガスの供給ラインとそのラインの一部を加熱する手段を配設し、窒素ガスを加熱してパージに使用することによって再生効果を高めている。
【0043】
また、図3に例示するように、固定床吸着器3を2つ並列的に配し、一方(A側)を試料の吸着に用い、他方(B側)を再生するようにとともに、その作動を定期的あるいは本システムの稼働時間に応じて切り換えて管理・制御することが好ましい。常に高い吸着能力を有する吸着手段を確保することによって、多量のアンモニアを連続的に処理することが可能となる。例えば、図2に示すような構成の場合において、表1に示すようなバルブV1〜V8の動作を制御することによって、2つの固定床吸着器3AおよびBのいずれか一方を作動すると同時に他方をパージするようにすることができる。なお、固定床吸着器3は必ずしも2つではなく、3以上の手段を並列に配して切り換えることも可能である。
【0044】
【表1】

【0045】
(4)第二精留塔2
第二精留塔2は第一精留塔1と同様の構造を有し、底部空間部U2、下部精留部A2、中央空間部M2、上部精留部B2、上部空間部T2を形成し、リボイラE2およびコンデンサC2が設置されている。
【0046】
第二精留塔2の中央空間部M2に導入されたアンモニアガスは、上部精留部B2を上昇し、流下する還流液と気液接触して精留される。つまり、上昇する気相中に含有するアンモニアは上記還流液中に溶解液化し、還流液中に溶解しているアンモニアより低沸点の窒素、酸素等は気化される。
【0047】
このとき、軽質不純物を除去し凝縮精製された高純度アンモニアは、底部空間部U2に流下した後、上部精留部Bの上部へ還流される一部を除き、搭底から定期的あるいは連続的に最終製品として供出される。一方、軽質不純物は、2つの精留部において試料中から分離され上部空間部T2に上昇して濃縮ガスとなり、コンデンサC1によって冷却処理されて連続的に廃ガスとして排出される。
【0048】
<高純度アンモニアの精製プロセス>
以下、例えば、表2に例示するような条件を基に、上記各手段を構成要素とするシステムを用いた高純度アンモニア精製プロセスの一例について説明する。以下、流体の条件として、温度(℃)/圧力(MPa)として表示する。
【0049】
【表2】

【0050】
(1)まず、原料の粗アンモニアは、通常入手容易な工業用アンモニアを用い、ローリ5から貯蔵槽4に常温の液として貯蔵する。貯蔵量は、使用する高純度液化アンモニアの量に対応させることが好ましい。未使用の原料の長期間の貯蔵は、水分などの不純物の底部での濃縮などが生じやすくなるため好ましくない。主成分としてアンモニア約99.9wt%を含有し、不純物として、水分(HO)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)、オイル等を含有している。各成分は、表1のような組成となる場合を挙げることができる。このうち、水分やオイルなどが上記にいう重質不純物であり、その他水素、酸素や窒素などが軽質不純物に該当する。
【0051】
(2)プロセスを稼動した状態において、液体状の粗アンモニアを貯蔵槽4の槽底から液の加圧蒸発器を利用し所定の圧力条件に調節されて、精製原料として第一精留槽1に導入する(約10℃/約0.6MPa)。導入量は、使用する高純度液化アンモニアの量に依存するが、通常、約10〜200Kg/hr程度が処理される。第一精留槽1の内部においては、重質不純物とアンモニアの分離を目的として、精留搭の圧力条件および温度条件が設定されている。
【0052】
つまり、第一精留塔1の中央空間部M1に導入された粗アンモニア液は、上部精留部B1から降下する還流液と混合し、下部精留部A1において上昇する気流と気液接触し、アンモニアおよび軽質不純物を気化するとともに、重質不純物を吸収しながら底部空間部U1に移動する。底部空間部U1で約10〜15℃にリボイルされて上昇した気相は、約10〜15℃の下部精留部A1において、中央空間部M1に導入された粗アンモニア液および上部精留部B1からの凝縮液と気液接触をして不純物を溶液中に溶解させ、約9〜10℃の上部精留部B1において凝縮液と気液接触をすることによって精製される。つまり、アンモニアよりも蒸気圧の低い(つまり沸点の高い)成分である重質不純物は、2つの精留部において試料中から分離し底部空間部U1の液体に濃縮された状態になる。濃縮廃液は、定期的あるいは連続的に排出される。
【0053】
このとき、例えば、第一精留塔1の搭頂から供出されるアンモニアガスは、約9.5℃/約0.6MPa、流量約120Kg/hrであり、不純物としては、表2に示すような軽質不純物と、重質不純物の一部として、水分が約0.1wtppm以下残留する。また、搭底から排出される廃液は、例えば、約14℃/約0.6MPa、流量約1〜10Kg/hrであり、重質不純物である水分やオイルが約数十倍〜百倍程度に濃縮されている。
【0054】
(3)第一精留塔1から供出されたアンモニアガスを、固定床吸着器3に導入する。固定床吸着器3の内部においては、固定床に配設された例えば合成ゼオライトなどの吸着剤の内部を均等にガスが流れることによって、上記の水分などの重質不純物を効率よく除去することができる。吸着剤として合成ゼオライト3Aを用いた場合には、重質不純物だけでなく、その細孔径に応じた軽質不純物の除去も可能となる。
【0055】
例えば、固定床吸着器3を用い、不純物を含むアンモニアガスを処理した場合、固定床吸着器3の出口から供出されるアンモニアガスの不純物としては、表2に示すような軽質不純物が含まれるが、重質不純物である水分やオイルなどについては、測定不可レベル(例えば、0.1wtppm以下)まで除去される。
【0056】
(4)次に、固定床吸着器3から供出されたアンモニアガスを、所定の圧力または流量条件に調節して、第二精留塔2に導入する(約9℃/約0.6MPa、流量約120Kg/hr)。第二精留塔2の内部においては、軽質不純物とアンモニアの分離を目的として、精留搭の圧力条件および温度条件が設定される。
【0057】
つまり、第二精留塔2の中央空間部M2に導入された気体状の試料は、約4〜9℃の上部精留部B2を上昇し、そこで約4〜5℃に冷却されるとともに、流下する純度の高い還流液化アンモニアと気液接触することによって、試料中のアンモニア成分は還流液中に溶液化されて一緒に流下する。流下したアンモニア成分は、さらに約9〜10℃の下部精留部A2を経由して下部空間部U2に移動し精製される。下部精留部A2では残留する軽質不純物が下部空間部U2においてリボイルされた微量の軽質不純物を含むガスと気液接触することでさらにアンモニアの純度を上げて下部空間部U2に移動する。濃縮された高純度アンモニア溶液は、定期的あるいは連続的に塔底から供出される。
【0058】
一方、軽質不純物は、下部精留部A2から上昇してきた成分とともに上部精留部B2を通過して上部空間部T2に移動し、さらに約0〜2℃に冷却されて上部空間部T2に移動する。つまり、アンモニアよりも蒸気圧の高い(つまり沸点の低い)成分である軽質不純物は、2つの精留部において試料中から分離し上部空間部T2の気体に濃縮された状態になり、塔頂から連続的に排出される。
【0059】
このとき、例えば、第二精留塔2の搭底から供出される液化アンモニアは、濃度99.999wt%、約9℃/約0.6MPa、流量約115〜117Kg/hrであり、不純物としては、表2に示すように殆んど検出不可である。また、搭頂から排出される廃ガスは、例えば、約2℃/約0.6MPa、流量約5〜3Kg/hrであり、表2に示すように軽質不純物である空気成分、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素などが数十倍に濃縮されて排出される。
【0060】
(5)以上のように、本発明においては、
(a)第一精留塔1においては、主として重質不純物の除去とアンモニアの気化
(b)固定床吸着器においては、主として重質不純物および一部軽質不純物の除去
(c)第二精留塔2においては、主として軽質不純物の除去とアンモニアの液化
を行うことによって、
第一精留手段だけでは十分処理ができなかった重質不純物の処理、および第二精留手段だけでは十分処理ができなかった軽質不純物の処理を吸着手段によって補完することができる。と同時に、両精留手段の条件を特定範囲に設定することによって、吸着力の強いアンモニアを、吸着手段における吸着ロスの少ない条件で処理ができる。つまり、両精留手段は、吸着手段を補完する役割を果たしている。
【0061】
また、一般に吸着は加圧状態ほど能力が向上することから高圧が好ましく、2つの精留手段の中間に配置することで、圧力条件を確保している。精留手段においても、温度とともに圧力変化による分離効率の向上を図り、順次不純物の沸点に対応した分離手段を用いることによって、各手段の圧力処理の負荷が大幅に軽減でき、除去効率が非常に高くなるという技術的な効果をえることができる。
【0062】
さらに、本発明は、2つの精留手段の中間に吸着手段を独立的に設けていることを特徴とする。つまり、
(a)常圧で吸着手段に導入した場合に比べ、第一精留塔後の加圧状態で吸着手段に導入した場合には、大きな吸着機能を発揮できる。
(b)吸着手段に別途加熱部を介した窒素を流すことで簡単に再生が可能となり、パージ冷却あるいは加熱機能を保持するために必要となる部材が不要となる。
(c)除去成分である原料中の不純物の組成変動がある場合であっても、第一精留塔が重質不純物を緩衝するため、主に重質不純物の除去を担当する吸着手段の効率を損なうことがない。
(d)原料中に少量のオイル等が含まれていた場合であっても、殆どが第一精留塔で除去されるため、吸着手段の吸着剤の能力を低下させることが殆どない。
【0063】
このように、各手段が補完し合うことによって、従来困難であった粗アンモニアからの高純度アンモニアの連続供給が可能となった。
【0064】
<その他の発明の実施の形態>
(1)上記の実施の形態においては、原料である粗アンモニアを貯留手段から精留手段に供給する場合を中心に述べたが、粗アンモニアの連続供給の面からは、アンモニア製造プラントから供給されることが好ましい。本発明に係るアンモニア精製システムあるいは精製方法によれば、比較的純度の低い多量のアンモニアを原料としても十分精製可能な構成を有していることから、アンモニア製造プラントからの原料供給は、高純度アンモニアを連続的に供給することを可能とする点においても有用である。特に、既存の設備との結合も可能であり、アンモニア製造プラントの活用を図り、汎用性の高いシステムの形成が可能となる。また、貯留量の管理などの保守も不要となり、システムの簡便化を図ることも可能となる。さらに、粗アンモニアを連続的に第一精製手段に導入することができることから、水分の濃縮などの不安定要因を排除することができ、安定的な運転が可能となる。以上のように、高純度アンモニアの連続供給を含め、優れた技術的効果を有する、高性能かつ信頼性の高いアンモニア精製システムを提供することが可能となる。
【0065】
(2)上記精留塔の上部凝縮用コンデンサC1とC2の冷熱導入のための冷媒として冷却水を利用する場合について述べたが、液化アンモニア、液化炭酸、フレオン、液化エタン、液化プロパン等であってもよい。また、上記では、コンデンサC1とC2あるいはリボイラE1とE2は、精留塔1および2の内部に設置されているが、精留塔1および2の外部に設置することもできる。リボイラの加熱にスチームや電気ヒータなどを使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る高純度アンモニア精製装置の構成例を示す説明図。
【図2】本発明に係る吸着手段の構成例を示す説明図。
【図3】従来技術に係るアンモニア精製装置の構成例を示す説明図。
【図4】従来技術に係るアンモニア精製装置の他の構成例の1を示す説明図。
【図5】従来技術に係るアンモニア精製装置の他の構成例の2を示す説明図。
【符号の説明】
【0067】
1 第一精留手段(第一精留塔)
2 第二精留手段(第二精留塔)
3 吸着手段(固定床吸着器)
4 貯蔵手段(貯蔵槽)
5 ローリ
A1、A2 下部精留部
B1、B2 上部精留部
C1、C2 コンデンサ
E1、E2 リボイラ
M1、M2 中央空間部
T1、T2 上部空間部
U1、U2 底部空間部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗アンモニアを精製するシステムであって、
原料となる粗アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の低い重質不純物を除去する第一精留手段と、気体状アンモニアから主にアンモニアより蒸気圧の高い軽質不純物を除去する第二精留手段と、を含む複数の精留手段と、
前記第一精留手段と第二精留手段の中間に、気体状アンモニアから微量残留分を除去する少なくとも1つの吸着手段と、
を有することを特徴とするアンモニア精製システム。
【請求項2】
原料となる粗液体アンモニアが、貯槽またはバルク輸送槽から供給されることを特徴とする請求項1記載のアンモニア精製システム。
【請求項3】
原料となる粗アンモニアが、アンモニア製造プラントから供給されることを特徴とする請求項1記載のアンモニア精製システム。
【請求項4】
前記吸着手段が、合成ゼオライト3Aを充填することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニア精製システム。
【請求項5】
アンモニアより蒸気圧の低い重質不純物と、アンモニアより蒸気圧の高い軽質不純物を含む粗アンモニアを精製する方法であって、
原料となる粗アンモニアを第一精留手段に導入して重質不純物の大部分を除去し、重質不純物が除去されたアンモニアガスを吸着手段に導入して微量残留分を除去した後、第二精留手段に導入して軽質不純物を除去することによって、高純度アンモニアを得ることを特徴とするアンモニア精製方法。
【請求項6】
前記粗アンモニアが、純度99.9wt%程度の工業用アンモニアであることを特徴とする請求項5記載のアンモニア精製方法。
【請求項7】
前記高純度アンモニアが、純度99.999wt%以上であることを特徴とする請求項5または6記載のアンモニア精製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−206410(P2006−206410A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23558(P2005−23558)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)