説明

アーク溶接時のスライド式保護具

【課題】 従来、アーク溶接時に発生する有害光や飛散物から眼、顔面を守る為の遮光面があり、片手で顔面にあてがう物は、その為に作業に片手が使えない嫌いがあり、頭部に被るものは視界が狭く煩わしい。又、気温の高い環境で面を被っての作業は辛いものである。 他に溶接ホルダーに遮光板等を取り付けた物は大きくて嵩張る。又、作業姿勢に無理がある。
【解決手段】 ホルダーで掴んだ溶接棒に沿いてホルダーから繰り出したスライド軸先端に耐熱遮光フィルターを設け、溶接地点に近接させてフィルターを透して溶接状態を確認する。 放射状に広がるアーク光は小さな遮光フィルターの後方に大きな本影、半影を作り、その影内に顔面が収まるようにする事で有害なアークの直接光及び飛散物から顔面を保護することが出来、繰り上げや繰り下げが簡単に出来る遮光フィルターは軽く嵩張らず、視界良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接棒を使ったアーク溶接時のアーク光及び飛散物から眼、及び顔面を保護する為のものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接の段階として、視認しながら溶接棒先端を溶接箇所に接触させ、アークが発生したら、遮光板を組み込んだ遮光面を片手で顔にあてがい、遮光板を透かして減光したアーク溶接部を視認することにより、有害なアーク光から顔面を守ることができる。
【0003】
又、遮光面を頭部に装着してアーク発生時に可動式の遮光部を片手で繰り下げ、アーク停止時は同じく手で繰り上げる物があって、遮光部の上げ下げの時以外は片手が自由である。
【0004】
遮光部の上げ下げに片手を使う手間を省く為に自動遮光面がある。例として(商品名 ラピットグラス IS−RG)等があり、視認の為の紫外線不透過液晶フィルターがアーク光の発生と瞬時に遮光フィルターになり、強烈なアーク閃光を減光し、眼を守ると共に、顔面を覆うマスクで紫外線等から顔面を守る事が出来る。
【0005】
名称、溶接ホルダー(特開平7−68381)は保護プレートをホルダーに取り付けたもので、溶接棒ホルダーと、顔面等を溶接光から保護する保護面とを片手で持てる。
【0006】
名称、有害光線遮蔽性透過板付溶接ホルダー(実開昭57−44682)は有害光線遮蔽性透過板をホルダーに取り付けたもので、有害光線遮蔽性透過板はホルダーに沿って平行に前後移動、及び旋回できるようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記、自動遮光面は顔面を保護することでは極めて有効であるが、通常でも面を被る事は煩わしいが、気温の高い環境での作業は辛いものである。又、視界が狭いという課題もある。
【0008】
前記、溶接ホルダー(特開平7−68381)で作業すると、アーク溶接点と保護プレートの延長線上に顔がなければならない。 真正面で、体の前面に対して直角に溶接棒を使用することになり、作業姿勢に無理がある。
【0009】
名称、有害光線遮蔽性透過板付溶接ホルダー(実開昭57−44682)の1図の状態で透過版が縦向きになっている。人の目が横に並んでいることを考えると不合理である。透過板を90度旋回させて横向きにするとホルダーが影になり溶接棒が見えなくなるのでホルダーを傾けて透過板を透して見える位置で溶接することになるが、その場合ホルダーに対して平行に取り付けられた透過板は斜めに傾いた状態でアーク光を見ることになる。依って有害光線遮蔽面積は減少する。又、有害光線遮蔽性透過板付溶接ホルダー(実開昭57−44682)の有害光線遮蔽効果は顔面を保護するには面積が足りず、まして溶接作業中のホルダーが動くことで透過板も振れ動く、その状態で面積の小さい透過板で目を保護することは難しい。
【課題を解決する為の手段】
【0010】
本発明は、溶接ホルダーを基点に四角形で棒状のスライド軸を溶接棒に沿って配し、先端に取り付けた円盤状の保護フィルターをアーク溶接位置にスライド、近接させたものである。
【0011】
耐熱性で、有害光遮蔽の保護フィルターは外周の淡い暗部と中心部に濃い暗部を設ける。
【発明の効果】
【0012】
保護フィルターをアーク溶接位置に近接させる為、放射状に発するアーク光はフィルター後方に本影、及び半影の大きな影を作り、その影内に顔面が収まるようにすることで有害なアークの直接光、飛散物から顔面、眼を守ることが出来る。
【0013】
アーク溶接位置に近接させる保護フィルターは少面積で効果がある為に軽量で嵩張らない。
【0014】
保護フィルターの外周の淡い暗部を透して溶接部分を確認、アーク光が発生したら溶接棒の傾きを少し変え、もしくは顔の位置をずらして、保護フィルターの内円の濃い暗部で閃光を抑えて溶接状態及び周囲の確認でき、点溶接から一気に最後まで中断せずに溶接することができる。
【0015】
又、スライド軸の繰り上げ、繰り下げが簡単にでき、溶接棒のアークによる消耗に応じて保護フィルターを繰り上げて間隔を保つことが出来る。
【0016】
ホルダーで溶接棒を掴む角度は幾つかあり、溶接棒に沿う形のスライド軸を回転させて溶接棒に平行に合わせることができ、(図2の前方向は構造上スライド出来ない)右利き左利きにも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0018】
図1は溶接ホルダーに、取り付け金具1aによるスライド式保護フィルターの取り付け状態を示したものである。
【0019】
図2は、スライド式保護フィルター一式をホルダーに取り付けた平面図である。
【0020】
図3は、図2を正面から見た図である。
【0021】
図4は、図3の主要断面図で、 取り付け金具1aを溶接ホルダー4の前方から形に合わせてスライド装着する。
【0022】
図5は、図2の左側面図でスライド軸2aを外した状態である。
【0023】
図6は、図5の主要断面図で、取り付け金具1aを溶接ホルダーの前方から形に合わせてスライド装着後、六角穴付ボルト1iをレンチで締めて基体1bを溶接ホルダー4に固定する。
【0024】
図7はスライド軸2aとストッパー1dを示すものである。
【0025】
図8は、図7のA−A′断面図である。
【0026】
図9は、取り付け金具1aを基体1bに下方から留めネジ1aaでの取り付けを示した図である。
【0027】
図10は、基体1bの断面図で同心円の二つの径の異なる穴が空いている。
【0028】
図11は、ストッパー1dで、L字に曲げた丸棒に円盤状のバネ受け皿1daを取り付けたものである。
【0029】
図12は外管1hで円筒形の両端にスライド軸2aが楽に通る穴1haが空いている。
【0030】
図13は、回転軸1cの断面図で、円盤状の低板部と同心円の二つの径の異なる穴が空いている筒部からなり、両端にスライド軸が楽に通る穴1caが空いていて、上部に外ネジが切ってある。
【0031】
図14は、ネジ蓋1fである。
【0032】
図15は、バネ1gで、ストッパー1dを押し下げるためのものである。
【0033】
図16は内管1eで、ストッパー1dの遊動幅を制限するものである。
【0034】
図3及び図4で使用方法を説明する。 ホルダーで掴んだ溶接棒5の方向にスライド軸2aを合わせ、回転軸1c上部のネジにネジ蓋1fを締めこんで、外管を圧迫することで方向を固定する。 その場合外管1hと、スライド軸2aの間に隙間が在る為にスライド軸の動きを妨げることは無い。
【0035】
スライド軸2aの先端の耐熱保護フィルター3aを溶接棒先端にスライド近接させ、耐熱保護フィルター3aを透して溶接状態を確認しながら作業する。 溶接棒の消耗に伴い、保護フィルター3aは間隔を保つ為に、数回の繰り上げを行う。
【0036】
スライド軸2aの上面は図7で示すように鋸状の掛かり2abがあり、常にバネ1gで押し下げられているストッパー1dはスライド軸2aの繰り下げにはロックが掛かり、繰り上げに対してはフリーとなる。 依ってスライド軸2aの繰り上げはスライド軸2aを掴んで行う、もしくは、保護球2bに指を掛けて叩くようにすると段階的に繰り上がる。
【0037】
スライド軸の繰り下げは、ストッパー1d上部の鉤部に指を掛けてバネ1gに逆らって持ち上げるとスライド軸は繰り下げ方向にもフリーになるので、ホルダーを傾けると保護フィルター3aの重みで繰り下がる。
【0038】
保護フィルター3aは保持具3bと一体を成し、スライド軸2a先端部の調節ネジ2cに差込みに任意の角度に固定することが出来る。
【0039】
紫外線不透過の保護フィルター3aは、アーク光を減光するために全面を遮光暗部に、あるいは中心部を濃い暗部とし、周辺部を淡い暗部にすることで、視認が良好の淡い暗部を透かして溶接作業を始め、アークが発生したら手元を少し振る、もしくは顔を移動させて、フィルターの中心部の濃い暗部を透して作業箇所の明確な状態確認が出来る。
【符号の説明】
【0040】
1a 取り付け金具
1aa 留めネジ
1b 基体
1c 回転軸
1ca 開口
1d ストッパー
1da バネ受け板
1e 内管
1f ネジ蓋
1g バネ
1h 外管
1ha 開口
1i 六角穴付ボルト
1j 固定ナット
2a スライド軸
2ab 掛り
2b 保護球
2c 調節ネジ
3a 保護フィルター
3b 支持具
4 ホルダー
5 溶接棒
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接棒を使うアーク溶接時に、既成のホルダーに取り付けた可動式の軸の片方に取り付けた耐熱性の紫外線不透過フィルターを溶接棒に沿いてスライドさせて、溶接棒先端に近接させ、溶接時に於いて放射状に発生するアーク光は近接させた小さなフィルターの後方に大きな本影及び半影を作り、その影内に顔面を収め、フィルターを透して溶接箇所見るために眼炎を防げると共に顔面への直射も大幅に軽減することができ、紫外線不透過フィルターの暗部で減光されたアーク溶接部の状態確認が出来る為、煩わしい防具を身に付ける必要が無い、視界良好のスライド式アーク溶接保護具。

【公開番号】特開2008−221332(P2008−221332A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106533(P2007−106533)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(599162174)