説明

アーク溶接用ガス流量制御器

【課題】ガスシールドアーク溶接において、溶接開始時に発生するシールドガスの突流を低減するアーク溶接用ガス流量制御器を提供する。
【解決手段】アーク溶接装置のガスバルブ51の近傍にガス流量制御器6を設ける。ガス流量制御器6は、その軸中心部に貫通穴61aを設け、貫通穴61aに同軸にロッド部63aが挿入されている。貫通穴61aの内面とロッド部63aの外面との間の微少すき間に環状ガス通路70を形成し、シールドガスが環状ガス通路70を通過するときの圧力損失により、溶接開始時における突流を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接に使用するアーク溶接用ガス流量制御器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接装置の従来例を図2に示す。溶接トーチ1がワイヤ送給装置50に接続され、シールドガス供給源54とワイヤ送給装置50との間は配管52で接続されている。シールドガス供給源54は一般にガスボンベが使用されるが大きく重いため、溶接作業範囲を広くして作業性をよくするために、配管52を3m〜20m、あるいはそれ以上に長くしている。シールドガス供給源54にはガス圧力調整器及び流量調整器53が直結されており、溶接トーチ1から溶接部に放出するするシールドガスの流量を設定している。ワイヤ送給装置50には、ガスバルブ51が備えられており、溶接トーチ1のトーチスイッチの信号と連動してガスバルブ51が開閉するようになっている。
【0003】
溶接作業中のガス通路内の圧力は圧力損失を伴うため、下流側の圧力が低くなっており、図2のA点、B点、C点における圧力をそれぞれPA、PB、PCとすると、PA>PB>PCとなっている。溶接作業が終了して、ガスバルブ51が閉じられると、B点の圧力PBがPAまで上昇する。このため、次に溶接作業を開始するためガスバルブ51を開くと、配管52にたまった圧力PAのシールドガスが定常時の圧力PBとなるまで過渡的に突流となって溶接トーチから放出される。図3はノズルから放出されるシールドガス流量の変化をグラフにしたものであり、溶接開始時はL1のように設定流量より過大のガスが流れるため、ガスが無駄になるという問題があった。このため、特許文献1や特許文献2のような装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−224078号公報
【特許文献2】特開2006−326677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ガス圧力調整器及び流量調整器5とは別に、図2のB点の位置にガス圧力調整器を追加するというものである。この方法では、装置が高価になるという問題があった。
【0006】
特許文献2では、シールドガス通路内にシールドガスの流量を絞るオリフィスを構成するチューブを設けるというものである。この方法では、オリフィスの内径に対してオリフィスの長さが長くなり、穴加工が難しいため製作費が高価になるという問題があった。
【0007】
作業性をよくするために溶接作業範囲を広げようとすると、配管52の長さを長くする必要があるが、溶接開始前に配管52に蓄積されるシールドガスの体積が増すため、突流による無駄なガスの消費が増えるという問題があった。
【0008】
溶接開始時に突流が発生すると、ノズル41から放出されるガスの流速が増すため、乱流となって空気の巻き込みが発生して溶接欠陥を発生するという問題も発生する。
【0009】
本発明は、ガスシールドアーク溶接の溶接開始時におけるシールドガスの突流を低減させるアーク溶接用ガス流量制御器を提供することを目的としている。
【0010】
第1の発明は、
アーク溶接装置のシールドガス配管の途中に設けられた、シールドガスの突流を抑制するためのアーク溶接用ガス流量制御器において、
前記ガス流量制御器は、前記シールドガス流れと平行な貫通穴が、前記シールドガス配管の上流側が接続された側に形成された制御器本体と、
前記貫通穴に同軸に挿入されたロッド部を備えたガス流制御子と、を備えて、
前記貫通穴の内面と前記ロッド部の外面との間に環状ガス通路を形成したことを特徴とするアーク溶接用ガス流量制御器である。
【0011】
第2の発明は、
前記制御器本体は、基端側に前記シールドガス配管の上流側が接続され、基端側に前記貫通穴が形成された第1の配管接続部材と、
基端側に前記第1の配管接続部材の先端側が接続されて、先端側に前記シールドガス配管の下流側が接続される第2の配管接続部材と、を備え、
前記ガス流制御子は、基端側に形成された前記ロッド部が前記貫通穴に同軸に挿入され、先端側にフランジ部を形成し、前記フランジ部に基端側から先端側に貫通するオリフィスを備え、前記フランジ部が前記第1の配管接続部材と前記第2の配管接続部材との間に固定されたことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接用ガス流量制御器である。
【0012】
第3の発明は、
前記環状ガス通路は、溶接開始時におけるシールドガスの突流を抑制するシールドガスの粘性を発生するように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のアーク溶接用ガス流量制御器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアーク溶接用ガス流量制御器は、ガスシールドアーク溶接の溶接開始時におけるシールドガスの突流を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1のアーク溶接用ガス流量制御器の部分断面図である。
【図2】シールドガス流量の変化を示すグラフである。
【図3】従来のシールドガスアーク溶接装置の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態1のアーク溶接用ガス流量制御器の部分断面図である。実施の形態1では、本発明のアーク溶接用ガス流量制御器6を配管52とガスバルブ51との間(図3のB点)に取り付ける実施例を示すが、ガスバルブ51と溶接トーチ1との間(図3のC点)又は溶接トーチ1内部のガス通路中に取り付けることも可能である。図1では、シールドガス供給源54方向をX1方向、溶接トーチ1方向をX2方向としている。
【0016】
第1の配管部材61の基端側(X1方向)外周面には、配管52の内径に応じた配管接続口61bが形成されて、配管52が接続されている。第1の配管部材61の先端側(X2方向)外周面には、雄ねじが形成されて、後述する第2の配管部材62がねじ込まれている。第1の配管部材61の基端側(X1方向)軸中心部には円筒状穴であるガス導入路61cが形成され、第1の配管部材61の中央軸中心部に、ガス導入路61cに連通する貫通穴61aが形成され、第1の配管部材61の先端側(X2方向)に形成された円筒状のチャンバ部に連通している。チャンバ部の先端側(X2方向)にはチャンバ部より内径の大きい収納穴が形成されて、収納穴の基端側(X1方向)に段部を形成している。
【0017】
ガス流制御子63は、基端側(X1方向)にロッド部63aを備え、先端側(X2方向)にフランジ部63cを形成している。ロッド部63aの外径は貫通穴61aの内径より大きく形成され、ロッド部63aが貫通穴61aに挿入されて、ロッド部63aの外周面と貫通穴61aの内周面との間に環状ガス通路70を形成している。環状ガス通路70の断面積は、溶接作業中の定常時の圧力において所定のシールドガス流量を確保できる断面積であり、ロッド部63a外径と貫通穴61a内径との間の距離は、溶接開始時における突流を抑制する微少すき間に設定されている。フランジ部63cの外径は第1の配管部材61の収納穴の内径と同じに形成され、フランジ部63cが収納穴に挿入されて、フランジ部63cの基端側(X1方向)端面が収納穴の段部に押し当てられている。フランジ部63cの外周面とロッド部63a外周面とを通って、フランジ部63cの基端側端面(X1方向)から先端側端面(X2方向)に向けて貫通したオリフィス63bが形成されている。
【0018】
第2の配管部材62の基端側(X1方向)軸中心には、第1の配管部材61の雄ねじに対応する雌ねじが形成されて、第1の配管部材61にねじ込まれている。第1の配管部材61と第2の配管部材62との嵌合部には、適宜Oリングなどのシール部材を挿入して、ガスの気密が保たれている。第2の配管部材62の先端側(X2方向)軸中心に雌ねじより径の小さいガス通路62aが形成され、ガス通路62aと雌ねじとの間の軸直角面に内壁が形成されて、この内壁がガス流制御子63の先端側(X2方向)端面に押し当てられている。内壁がガス流制御子63のオリフィス63bを塞がないようにガス通路62aの内径を設定するか、又は図1に示すようにガス通路62aの基端部を拡径して、オリフィス63bがガス通路62aに連通している。第2の配管部材62の先端側(X2方向)外周面には、配管52の内径に応じた配管接続口が形成されて、配管52が接続されている。
【0019】
シールドガス供給源54から送られるシールドガスは、配管52を通ってガス流量制御器6のガス導入路61cに入り、環状ガス通路70、チャンバ部71d、オリフィス63b、ガス通路62aを通って溶接トーチ1方向に送られる。
【0020】
以下、動作を説明する。溶接作業を開始するためガスバルブ51を開くと、配管52にたまった圧力PAのシールドガスが突流となって溶接トーチ1方向(X2方向)に流れようとする。環状ガス通路70はロッド部63a外径と貫通穴61a内径との間の距離が突流を抑制する微少すき間に設定されており、シールドガスが環状ガス通路70を通過すると圧力損失により突流が低減される。
【0021】
配管52のB点の圧力がPBまで下がると、定常流れとなる。環状ガス通路70の断面積は、定常時の圧力において所定のシールドガス流量を確保できる断面積であるため、設定流量のシールドガスが、ガス流量制御器6を通って、溶接トーチ1方向に送られる。
【0022】
上記のように、本発明によるガス流量制御器6は、環状ガス通路70が微少すき間を形成しているため、溶接開始時における突流が低減されて、無駄なシールドガスの消費を抑制できるという効果を奏する。
【0023】
本発明による溶接トーチは、突流を低減するための高価な圧力調整器を備えていない溶接装置にも使用でき、安価に突流を低減することができるという効果を奏する。
【0024】
本発明によるガス流量制御器6の環状ガス通路70は、ロッド部63a外径と貫通穴61a内径との間のすき間により形成されるため、貫通穴61aの内径を精度良く低価格で加工しやすい大きさに設定し、この内径に応じた寸法にロッド部63aの外径を製作すればよいので、製作費を低減できるという効果を奏する。
【0025】
本発明によるガス流量制御器6の環状ガス通路70は、ロッド部63a外径と貫通穴61a内径との間のすき間により形成される。貫通穴61aの内径を十分大きくすることで、溶接作業中の定常時の圧力において所定のシールドガス流量を流す断面積を確保しながら、ロッド部63a外径と貫通穴61a内径との間に微少すき間を形成することができる。このため、溶接開始時におけるシールドガスの突流を抑制するシールドガスの粘性を発生させることができ、無駄なシールドガスの消費を抑制できるという効果を奏する。
【0026】
溶接開始時の突流を低減するので、溶接トーチのノズル41から放出されるシールドガスが乱流となりにくく空気の巻き込みを押さえて、溶接欠陥の発生を防止できるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0027】
1 溶接トーチ
5 流量調整器
6 ガス流量制御器
41 ノズル
50 ワイヤ送給装置
51 ガスバルブ
52 配管
53 流量調整器
54 シールドガス供給源
61 配管部材
61a 貫通穴
61c ガス導入路
62 配管部材
62a ガス通路
63 ガス流制御子
63a ロッド部
63b オリフィス
63c フランジ部
63d オリフィス
70 環状ガス通路
71d チャンバ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接装置のシールドガス配管の途中に設けられた、シールドガスの突流を抑制するためのアーク溶接用ガス流量制御器において、
前記ガス流量制御器は、前記シールドガス流れと平行な貫通穴が、前記シールドガス配管の上流側が接続された側に形成された制御器本体と、
前記貫通穴に同軸に挿入されたロッド部を備えたガス流制御子と、を備えて、
前記貫通穴の内面と前記ロッド部の外面との間に環状ガス通路を形成したことを特徴とするアーク溶接用ガス流量制御器。
【請求項2】
前記制御器本体は、基端側に前記シールドガス配管の上流側が接続され、基端側に前記貫通穴が形成された第1の配管接続部材と、
基端側に前記第1の配管接続部材の先端側が接続されて、先端側に前記シールドガス配管の下流側が接続される第2の配管接続部材と、を備え、
前記ガス流制御子は、基端側に形成された前記ロッド部が前記貫通穴に同軸に挿入され、先端側にフランジ部を形成し、前記フランジ部に基端側から先端側に貫通するオリフィスを備え、前記フランジ部が前記第1の配管接続部材と前記第2の配管接続部材との間に固定されたことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接用ガス流量制御器。
【請求項3】
前記環状ガス通路は、溶接開始時におけるシールドガスの突流を抑制するシールドガスの粘性を発生するように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のアーク溶接用ガス流量制御器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−91211(P2012−91211A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241785(P2010−241785)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】