説明

アームチェア型単層カーボンナノチューブによる金属型炭素素材

【課題】アームチェア型カーボンナノチューブを多く含む溶液及び薄膜を提供する。
【解決手段】遠心チューブ内にコール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウムを混合させた溶液をiodixanol分子により濃度勾配をかけて配置し、一方、デオキシコール酸ナトリウムを界面活性剤として用いてカーボンナノチューブを分散させ、その分散液からコール酸ナトリウム・ドデシル硫酸ナトリウム・iodixanol分子混合水溶液を作製し、前記遠心チューブに挿入し、この遠心チューブを遠心分離機にかけ、アームチェア型カーボンナノチューブを30%以上含む溶液及び薄膜、或いはカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブが90%以上含まれる容液及び薄膜が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アームチェア型単層カーボンナノチューブを用いた材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWCNTとも言う)は、1991年(非特許文献1)に発表されて以来、1次元細線、触媒など種々の潜在的な応用が期待される新しい材料として積極的に開発が進められてきた。
SWCNTはそのグラフェンシートの巻き方によって、金属型・半導体型を示す。
金属型のSWCNTにおいても、アームチェア型及びカイラル型の二種類に分類することが出来る(非特許文献2、3)。カイラル型は、フェルミ面において数十〜数meVのギャップが開いており(非特許文献4)、フェルミ面においてギャップが閉じて完全に金属型の振る舞いを示すのはアームチェア型のみである。また、カイラル角が30度(アームチェア型)になるほどギャップは小さくなる傾向があることが予想されている(非特許文献3)。フェルミ面でのギャップは、導電性や安定性を悪くする方向に働く為、SWCNTの導電性を利用した応用、例えば透明導電性薄膜においては、カイラル角が広角(30度付近)にある金属型SWCNTを揃える必要がある。
【0003】
SWCNTの作製時において、金属型・半導体型、及びアームチェア型・カイラル型は全て混在した状況にある。金属型カーボンナノチューブの導電性に着目し、金属型SWCNTの分離精製を行い、薄膜や溶液を作製した研究例は数多く報告されている。
しかしながらその金属型SWCNTに含まれるアームチェア型SWCNTを選択的に分離し、その含有量を正しく評価を行い、薄膜や溶液を作製した報告例は無い。過去において、アームチェア型SWCNTのみを作製したという報告例(非特許文献5)はあったが、現在では誤っていることが指摘されている(非特許文献6、7)。
【0004】
金属型・半導体型CNTの分離精製はCNT応用において重要と考えられ、様々な分離法が提案されている。特に、密度勾配遠心分離法によって、金属型・半導体型CNT分離が可能であることが知られている(非特許文献8)。本発明者らも、密度勾配遠心法による金属型・半導体型CNTの分離の改良を行い、発表を行っている(非特許文献9、特許文献1、2)。
【非特許文献1】S. Iijima, Nature vol. 354, pp. 56-58, (1991)
【非特許文献2】N. Hamada, et al., Phys. Rev. Lett. vol. 68, pp. 1579-1581, (1992).
【非特許文献3】J.X. Cao et al., J. Phys. Soc. Jpn. vol. 71, pp 1339-1345, (2002).
【非特許文献4】M. Ouyang, Science, Vol 292, pp. 702-705, (2001).
【非特許文献5】Tess et al., Science Vol. 273, pp. 483-487,(1996).
【非特許文献6】Rao et al, Science Vol. 275, pp. 187-191, (1997)
【非特許文献7】Dresslhaus et al, J. Phys. Chem. C Vol. 111, 17887-17893, (2007)
【非特許文献8】Arnold et al., Nature nanotechnology Vol. 1, pp. 60-65, (2006)
【非特許文献9】Yanagi et al., Appl. Phys. Express Vol. 1, pp 034003-034005. (2008)
【特許文献1】特願2007−81630
【特許文献2】特願2007−160649
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来より、金属型・半導体型CNTの分離は行われているが、アームチェア型CNTに着目し、同カイラル角を備えるCNTを選択的に分離精製し、構造を特定して報告した例はこれまでにない。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、アームチェア型SWCNTもしくは高カイラル角金属型SWCNTを多く含まれる薄膜及び溶液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究し、アームチェア型単層カーボンナノチューブが多く含まれる金属型炭素膜又は金属型炭素溶液の作製法、及びカイラル角が20度以上の金属型カーボナノチューブが多く含まれる金属型炭素膜又は金属型炭素溶液の作製法を見いだして本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明者らは、ioixanolを密度調整剤として用いる遠心分離法において、分散・添加剤としてこれまで使用されていなかったデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を用い、これを含む水溶液にCNTを分散させることにより、アームチェア型単層カーボンナノチューブが30%以上含まれる金属型炭素膜又は金属型炭素溶液、或いは、カイラル角が20度以上の金属型カーボナノチューブが90%以上含まれる金属型炭素膜又は金属型炭素溶液を得ることができることを見いだした。
【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]アームチェア型単層カーボンナノチューブが30%以上含まれる金属型炭素膜。
[2]アームチェア型単層カーボンナノチューブが30%以上含まれる金属型炭素溶液。
[3]カイラル角が20度以上の金属型単層カーボンナノチューブが90%以上含まれる金属型炭素膜。
[4]カイラル角が20度以上の金属型単層カーボンナノチューブが90%以上含まれる金属型炭素溶液。
【発明の効果】
【0008】
本発明において、アームチェア型SWCNT或いはカイラル角が20度以上のSWCNTを選択的に含まれる溶液又は薄膜が得られたことにより、導電性及び安定性に優れたSWCNTの溶液及び薄膜を提供することができ、透明電極膜など高い導電性が必要とされる分野への応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
カーボンナノチューブには、そのグラフェンシートの巻き方によって、金属及び半導体カーボンナノチューブが存在する。デバイスに応用するには、異なる性質(金属カーボンナノチューブ及び半導体カーボンナノチューブの混合された状態による)を備えるチューブの混合は絶対に避けなければならない。
また、金属型SWCNTの中にはアームチェア型・カイラル型が存在するが、フェルミ面においてギャップが開いていない完全な金属型はアームチェア型のみとなるため、SWCNTの導電性を利用した応用において、アームチェア型を選択的に分離することは非常に重要である。また、カイラル角が30度(アームチェア)に近い金属型カーボンナノチューブほど、ギャップは小さくなる為、高いカイラル角の金属型カーボンナノチューブを揃えることは重要である。
【0010】
カーボンナノチューブの製造においては、生成物からカーボンナノチューブを取り出す他に、金属(アームチェア・カイラル型)及び半導体カーボンナノチューブが混在してしまう結果、アームチェア型SWCNTを選択的に分離することが必要となる。この分離には磁気的手段の利用が考えられるが、処理操作が安定して行うことができる遠心分離により分離することが有効である。
【0011】
遠心分離機を用いて分離しようとするには、濃度調製を行った遠心チューブ内に、試料となるカーボンナノチューブを均一に分散させた水溶液を導入し、遠心分離操作を行う状態に保持し、この遠心チューブを遠心分離機にかけて行う。遠心分離には25万G程度の遠心力を発揮する遠心分離機を用いる。
遠心分離操作の後に、遠心チューブ内に、アームチェア型SWCNTが他のカイラル指数を持つカーボンナノチューブより多く存在する部分にわけることができる。
【0012】
従来の遠心分離機を用いた金属型・半導体型SWCNTの分離法は、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を混合させた溶液にiodixanol分子を用いて精密に密度勾配をかけた遠心チューブを用意し、カーボンナノチューブを分散した水溶液を得た後、前記遠心チューブに挿入し、この遠心チューブを遠心分離機にかけて、遠心チューブ内に金属カーボンナノチューブと半導体カーボンナノチューブが存在する割合を変化させる偏りを形成させて、金属カーボンナノチューブと半導体カーボンナノチューブの分離を行ってきた。しかしながら得られた金属型SWCNTにはアームチェア型・カイラル型が混合している為、アームチェア型を選択的に取ることが出来てはいなかった。
【0013】
本発明では、CUT分散液として、デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を含む水溶液にCNTを分散させたものを用い、濃度調整に、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を混合させた溶液にiodixanol分子を用いることを特徴とするものであり、具体的な作製方法は以下の(A)ないし(C)のとおりである。
【0014】
(A)デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を含む界面活性剤水溶液にCNTを分散させて得られるCNT分散水溶液に、iodixanol分子含有水溶液を混合して得られるCNT混合液、並びにiodixanol分子含有水溶液を含む遠心分離混合水溶液を遠心分離用チューブ内に配置し、iodixanol分子含有水溶液により濃度を調整して遠心分離を行い、前記界面活性剤の吸着量の差に応じて、アームチェア型SWCNT、或いはカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブを選択的に分離する。
(B)デオキシコール酸ナトリウム(DOC)、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる界面活性剤水溶液にCNTを分散させて得られるCNT分散水溶液、並びにiodixanol分子含有水溶液、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる遠心分離混合水溶液を遠心分離用チューブ内に配置し、iodixanol分子含有水溶液により濃度を調整して遠心分離を行い、前記遠心分離用チューブ内に、アームチェア型SWCNTが存在する部分と他のSWCNTが存在する部分を形成することにより、カイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブを選択的に分離する。
(C)デオキシコール酸ナトリウム(DOC)、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる水溶液にCNTを分散させて得られるCNT分散水溶液にiodixanol分子含有水溶液を混合して得られるCNT混合液、並びにiodixanol分子含有水溶液、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる遠心分離混合水溶液を遠心分離用チューブ内に配置し、iodixanol分子含有水溶液により濃度を調整して遠心分離を行い、前記遠心分離用チューブ内に、アームチェア型SWCNTが存在する部分と他のCNTが存在する部分を形成することにより、カイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブを選択的に分離する。
【0015】
すなわち、前記CNT分散水溶液は、デオキシコール酸ナトリウム(10重量%未満)、或いはこれにコール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウム(10重量%未満)を添加してなるものであり、前記CNT混合液は、該CNT分散液とiodixanol分子含有水溶液(50濃度%以内)からなるものであり、前記CNT分散水溶液又は前記CNT混合液を用いることにより、アームチェア型単層SWCNT、或いはカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブの選択的に分離が可能になった。
【0016】
また、前記(A)から(C)に記載のiodixanol分子含有水溶液、コール酸ナトリウム(SC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる遠心分離混合水溶液において、iodixanol分子含有水溶液が濃度調整されていることによりアームチェア型単層SWCNT、或いはカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブの選択的に分離が可能になるが、前記iodixanol分子含有水溶液による濃度調整は、濃度勾配(0を超えて50%までの範囲)を設けるか、又は一定濃度(0を超えて50%までの範囲)にして行われる。
【0017】
評価法は次の通りである。
前記(A)から(C)のいずれによって得られたアームチェア型SWCNT溶液は、透過型電子顕微鏡観察によってアームチェア型SWCNTが50%以上含まれていることが分かった。またその薄膜は約100Ω/Sq付近の良好な導電性を備えていた。
また、同様に前記(A)から(C)のいずれによって得られたカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブ溶液は、透過型電子顕微鏡観察によってカイラル角が20度以上の金属型カーボンナノチューブが90%以上含まれていることが分かった。またその薄膜は約100Ω/Sq付近の良好な導電性を備えていた。
【0018】
本発明において、試料となるカーボンナノチューブを均一に分散させた水溶液を調整するには、好ましくは、界面活性剤としてデオキシコール酸ナトリウム(DOC)1%を用いて、カーボンナノチューブを分散した水溶液を、更にSC及びSDSをそれぞれ1%になるように混ぜ合わせ、iodixanol分子を用いて密度を変え、前記遠心チューブに挿入する。
【0019】
カーボンナノチューブの分散方法は以下による。
単層カーボンナノチューブ(30mg)を含む30ml水溶液(界面活性剤としてDOC1%)に超音波を4時間から20時間かける。その後、その溶液に対して28万G、1時間の遠心操作を行い、上積み液を取り出すことで分散液を得る。
【0020】
この分散液に対して、界面活性剤[ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)]および密度勾配剤(iodixanol分子)を加え、DOC・SDS・SC・iodixanolの濃度を調整したCNT溶液を作成する。同CNT溶液を、SDS・SC・iodixanol分子を用いて密度勾配を作成した遠心チューブに挿入し、この遠心チューブを遠心分離機にかける。その結果、この遠心チューブ内にアームチェア型SWCNTが多く存在し、他のカイラル指数を持つカーボンナノチューブを少なく存在する部分が形成され、アームチェア型SWCNTを分離することができる。
【0021】
前記に用いられる遠心チューブの好ましい構造は以下のとおりである。
遠心チューブ内にコール酸ナトリウム溶液にドデシル硫酸ナトリウムを混合させた溶液を、iodixanol分子を用いて濃度勾配をかけて配置し、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム及びドデシル硫酸ナトリウムを界面活性剤として含むカーボンナノチューブを分散させた水溶液、あるいはその水溶液にiodixanol分子も含む混合液、を挿入するように構成されている遠心チューブである。
この溶液を用いることにより、iodixanol分子を濃度調整に用いた遠心分離機を使用した金属・半導体カーボンナノチューブの分離能の改善に際し、有効に使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
〈SWCNT溶液の密度勾配遠心分離前の前処理〉
SWCNTをデオキシコール酸ナトリウム水溶液(DOC)1%水溶液に超音波(4時間から20時間)をかける。この分散液を28万Gで1時間遠心を行い、その上澄み液を得る。純度が良い試料の場合は、同上澄み液を用いて下記の手順で密度勾配遠心分離に使用する。純度が悪い場合は、再度28万Gで18時間遠心を行い、その結果得られた上澄み液は取り除き、チューブの底に溜まったペレットを回収する。このペレットを再度DOC1%水溶液中に超音波分散させ、この分散液を密度勾配遠心分離に使用した。
【0023】
(実施例1)
〈デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を分散・添加剤として用いた遠心分離機を使用したアームチェア型SWCNTの分離方法(ここで得られたアームチェア型SWCNTを多く含まれるSWCNT溶液をArmchair1と呼ぶ)〉
(1)遠心チューブ内に、コール酸ナトリウム(SC)(1.5%)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(1.5%)を混合させた溶液を、iodixanol分子を用いて濃度勾配(20−40%)をかけて配置した。
(2)前処理によって得られたSWCNT・DOC1%分散液を用いて、カーボンナノチューブ混合液(カーボンナノチューブ(レーザー蒸発法、平均直径1.4 nm)、DOC 0.5%、SC 1%、SDS 1%、iodixanol 30%)を作成し、遠心チューブに挿入した。
(3)前記(2)の遠心チューブを遠心分離機(28万G、20時間の遠心分離操作。遠心分離機:ベックマン社製、ローター:SW41、または:日立工機、ローター:P40ST)にかけた。
(4)その結果、前記この遠心チューブ内に、アームチェア型カーボンナノチューブが多く存在させ、また他のカイラル指数を備えるカーボンナノチューブを少なく存在させる部分を形成することにより、アームチェア型カーボンナノチューブの選択分離(Armchair1)を行うことができた。
【0024】
図1は、アームチェア型カーボンナノチューブの選択分離を行った結果を撮影した写真であり、実線で囲まれた箇所にアームチェア型CNTが多く含まれている。
図3に得られた溶液の吸収スペクトルを示す。上図は、分離精製前のスペクトルであり、金属型(アームチェア・カイラル)、半導体型CNTが混合した吸収スペクトルとなっている。下図は、分離精製後のアームチェア型カーボンナノチューブが多く含まれる溶液(Armchair1)の吸収スペクトルである。
なお、このArmchair1の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた確認方法及び結果に関しては以下に記載する。
【0025】
(実施例2)
〈デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を分散・添加剤として用いた遠心分離機を使用したアームチェア型SWCNTの分離方法(この方法によって得られたアームチェア型SWCNTを多く含まれる溶液をArmchair2と呼ぶ。SWCNTの直径がArmchair1と異なる。)〉
(1)遠心チューブ内に、コール酸ナトリウム(SC)(1.5%)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(1。5%)を混合させた溶液を、iodixanol分子を用いて濃度勾配(20−40%)をかけて配置した。
(2)前記前処理によって得られたカーボンナノチューブ分散液を用いて、カーボンナノチューブ混合液(カーボンナノチューブ(CoMoCAT法、平均直径0.8nm)、DOC 0.33%、SC 1%、SDS 1%、iodixanol 40%)を作成し、遠心チューブに挿入した。
(3)前記(2)の遠心チューブを遠心分離機(28万G、20時間の遠心分離操作。遠心分離機:ベックマン社製、ローター:SW41、または:日立工機、ローター:P40ST)にかけた。
(4)その結果、前記この遠心チューブ内にアームチェア型カーボンナノチューブが多く存在させ、他のカイラル指数を備えるカーボンナノチューブを少なく存在させる部分を形成することにより、アームチェア型カーボンナノチューブの選択分離(Armchair2)を行うことができた。
【0026】
図2は、アームチェア型カーボンナノチューブの選択分離を行った結果を撮影した写真であり、点線で囲まれた箇所にアームチェア型CNTが多く含まれている。
図4に得られた溶液の吸収スペクトルを示す。上図は、分離精製前のスペクトルであり、金属型(アームチェア・カイラル)、半導体型CNTが混合した吸収スペクトルとなっている。下図は、分離精製後のアームチェア型カーボンナノチューブが多く含まれる溶液(Armchair2)の吸収スペクトルである。
なお、このArmchair2の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた確認方法及び結果に関しては以下に記載する。
【0027】
〈透過型電子顕微鏡を用いたカーボンナノチューブのカイラル指数の決定方法〉
密度勾配遠心分離の結果、分離されたアームチェア型SWCNTを多く含まれる溶液には界面活性剤やiodixanol分子が不純物として含まれる。これら不純物を、限外濾過(ミリポア社、アミコン 30kDa)、メタノール・塩酸洗浄を行い、最終的にメタノール中に分散させる。この分散液を用いてTEM測定を行った。TEM(JEOL Co. Ltd., JEM−2010F)は球面収差補正(CEOS GmbH)を行ったものを利用し、加速電圧は80kVにおいて行った。
SWCNTが孤立しているものに対して、詳細な観測を行った。単一のSWCNTのモアレパターンを形成させ、その高速フーリエ変換を行い、アングル角を見積もった。直径とそのアングル角からカイラル指数を決定した。
【0028】
実施例1及び実施例2について、透過型電子顕微鏡写真を用いて得られた試料のカイラル指数を決定した結果を、ぞれぞれ図5、6に示す。
図5において、aは、試料のTEM像およびそのフーリエ変換像であり、bは、(10,10)および(11,8)SWCNTの構造の概略図であり、cは、bのモデルから得られるTEM像およびそのFFT像である。
また、図6において、aは、Armchair2試料に見られた(6,6)SWCNTのTEM像であり、bは、TEM像に観察される(6,6)SWCNT構造の照射電子ビームに対する角度依存性(概略図)であり、cは、bのモデルから得られるTEM像である。
なお、図5,6に記載のスケールバーは1nmである。
【0029】
図7は、前述の透過型電子線顕微鏡観察によってあきらかにしたアームチェア型SWCNTを多く含まれる溶液のカイラリティ分布を示す図であり、参考として、実施例1で得られた半導体型カーボンナノチューブ(semiconducting)のカイラリティ分布を示した。
表1に、その分布結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
Armchair1及びArmchair2は、異なる平均直径を備えたカーボンナノチューブにおいて、前述の分離精製を行い、アームチェア型カーボンナノチューブを選択分離した結果となっている。
すなわち、アームチェア型カーボンナノチューブを選択的に含む溶液では、アームチェア型は30%以上含まれ、またカイラル角が20度以上のものは90%以上含まれていることがわかる。他の溶液(Semiconducting)だと、それぞれ、6.8%、30%となっており、前記溶液がアームチェア型・高カイラル型金属カーボンナノチューブを選択的に含んでいることがわかる。
【0032】
<得られた試料を用いた薄膜作成及び面抵抗の測定>
得られた分離溶液の薄膜は次のように作成した。
限外濾過を用いてTriton 1%水溶液に溶媒を置換した。減圧フィルターユニットを用いて、ニトロセルロースフィルター(メンブレンフィルター:孔径0.22ミクロン)上にSWCNT薄膜をフィルター上に作成した。フィルターをアセトン溶液を用いて溶かし、ガラス基板上に転写することで薄膜を作成した。その後、加熱処理を行い、残留のアセトンを取り除き、4探針測定器(三菱化学、低抵抗率計:MCP-T360 LORESTA-ED)を用いて面抵抗を明らかにした。
得られた薄膜の典型的な写真を図8に示す。
Armchair1に関しては最高で65Ω sq−1、Armchair2に関しては1kΩ・sq−1を示した。膜の形状に抵抗の値は変化し、本発明で得られるアームチェア型SWCNTは100Ω sq−1付近の値をおよそ持つと見積もった。以上のように得られた薄膜は良好な導電性を示していた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】遠心分離機を使用したアームチェア型カーボンナノチューブの選択分離を行った結果の写真(Armchair1)。
【図2】遠心分離機を使用したアームチェア型カーボンナノチューブの選択分離を行った結果の写真(Armchair2)。
【図3】実施例1の溶液の吸収スペクトルであり、上図は分離精製前のもの、下図は、分離精製後のものである。
【図4】実施例2の溶液の吸収スペクトルであり、上図は分離精製前のもの、下図は分離精製後のものである。
【図5】実施例1について、透過型電子顕微鏡写真を用いて得られた試料のカイラル指数を決定した結果を示す図。
【図6】実施例2について、透過型電子顕微鏡写真を用いて得られた試料のカイラル指数を決定した結果を示す図。
【図7】透過型電子線顕微鏡観察によってあきらかにしたアームチェア型SWCNTを多く含まれる溶液のカイラリティ分布を示す図。
【図8】実施例1のArmchair1、及び実施例2のArmchair2から作成した薄膜の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームチェア型単層カーボンナノチューブが30%以上含まれる金属型炭素膜。
【請求項2】
アームチェア型単層カーボンナノチューブが30%以上含まれる金属型炭素溶液。
【請求項3】
カイラル角が20度以上の金属型単層カーボンナノチューブが90%以上含まれる金属型炭素膜。
【請求項4】
カイラル角が20度以上の金属型単層カーボンナノチューブが90%以上含まれる金属型炭素溶液。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−1161(P2010−1161A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158718(P2008−158718)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構「第二世代カーボンナノチューブ創製による不代替デバイス開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】