イオントフォレシス用電極組成物
【課題】皮膚への密着性が高く、大量の薬剤を担持し、その担持された薬剤を皮下に充分に徐放することが可能なイオントフォレシス用電極組成物、及びそのイオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極、並びに前記イオントフォレシス用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアニオン性の水溶性多糖類、及びカチオン性薬剤を含む、イオントフォレシス用電極組成物13によって解決することができる。また、イオントフォレシス用電極組成物は、交流電流14と組み合わせることにより、長時間の通電が可能である。更に、イオントフォレシス用電極組成物は、凍結乾燥することにより保存や輸送が容易になる。
【解決手段】ポリアニオン性の水溶性多糖類、及びカチオン性薬剤を含む、イオントフォレシス用電極組成物13によって解決することができる。また、イオントフォレシス用電極組成物は、交流電流14と組み合わせることにより、長時間の通電が可能である。更に、イオントフォレシス用電極組成物は、凍結乾燥することにより保存や輸送が容易になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレシス用電極組成物、イオントフォレシス用電極、及びイオントフォレシス用電極の製造方法に関する。本発明によれば、多量の薬剤を長時間にわたって皮膚から吸収させることができる。
【背景技術】
【0002】
薬剤を皮膚から吸収させる投与方法として、例えば、局所麻酔剤を粘着剤層に含有させ、皮膚や粘膜から投与する貼付製剤が開発されてきている(特許文献1)。この方法は、皮膚に局所麻酔剤を担持させた粘着性の貼付製剤を貼付し、経皮で局所麻酔剤を皮下に浸透させるため、注射等の苦痛を伴わず麻酔することができる。しかしながら、この方法では比較的長い時間、貼付製剤を貼付しなければ、局所麻酔の効果を得ることができない。
【0003】
一方、イオン電気導入法(イオントフォレシス:イオン化した薬剤などを電流によって体組織に入れる方法)により、局所麻酔薬などの経皮的な吸収を増加させる方法が知られており(特許文献2)、実際に米国のIomed社、及びvyteris社から、局所麻酔薬の経皮導入用電極が発売されている。このイオントフォレシスでは、麻酔薬を担持させた薬物保持層を皮膚に貼付し、電圧をかけることで皮下に麻酔薬を浸透させることができ、前記の貼付製剤と比較すると、電流の作用により、すばやく皮下に麻酔薬を浸透させることが可能である。
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の薬物保持層は、不織布又はナイロンメンブレン等の多孔質材を用いており、これらの多孔質材を用いた薬物保持層は、薬剤担持量が充分ではない。
また、不織布又はナイロンメンブレンを薬物保持層として用いた場合は、シールや包帯等で、不織布又はナイロンメンブレンを固定する必要がある。この場合、薬物保持層自体には、接着性がないため、シール等で固定しても皮膚と薬物保持層との密着性が低く、薬剤の皮下への浸透効率を低下させることになる。
更に、従来の方法では、イオントフォレシスに直流電流を用いていたため、通電を行うと電極の温度が上昇するため、長時間の通電ができず、薬物を充分に皮膚や粘膜に浸透させることができないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143052号公報
【特許文献2】特開平9−201420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、皮膚への密着性が高く、大量の薬剤を担持し、その担持された薬剤を皮下に充分に徐放することが可能なイオントフォレシス用電極組成物、イオントフォレシス用電極、及びイオントフォレシス用電極の製造方法を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ポリアニオン性の水溶性多糖類を、イオントフォレシス用電極組成物に含有させることにより、大量の薬剤を、イオントフォレシス用電極組成物に担持させることが可能であることを見出した。また、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含有するイオントフォレシス用電極組成物は皮膚、又は粘膜に密着させることが可能であり、従ってシールなどによる固定なしに、前記イオントフォレシス用電極を皮膚へ貼付することができる。更に、前記電極は、皮膚、又は粘膜への密着性が優れていることから、大量の薬剤を皮下へ効率よく浸透させることができる。更に、前記電極と交流電流を組み合わせることによって、薬物の浸透効率を低下させることなく、イオントフォレシスを長時間にわたり、継続させることが可能である。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明の課題は、皮膚への密着性が高く、大量の薬剤を担持し、その担持された薬剤を、皮下に充分に徐放することが可能であるイオントフォレシス用電極組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含む、イオントフォレシス用電極組成物に関する。
本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、更にカチオン性薬剤を含む。また、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、ポリアニオン性の水溶性多糖類が、アルギン酸塩であり、特にはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである。また、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、前記イオントフォレシス用電極組成物が、凍結乾燥されている。更に、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、交流電流用である。
また、本発明は、前記イオントフォレシス用電極組成物及び導電体を含むイオントフォレシス用電極にも関する。
更に、本発明は、前記イオントフォレシス用電極に交流電流を通電することを特徴とする、イオン電気導入法にも関する。
【0009】
本発明は、正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
また、本発明は(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
更に、本発明は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
【0010】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法の好ましい実施態様においては、前記導電体が、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、及びタンタル合金からなる群から選択される金属である。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法の別の好ましい実施態様においては、前記ポリアニオン性水溶性多糖類がアルギン酸塩であり、特には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイオントフォレシス用電極によれば、多量の薬剤を電極に担持させることが可能である。更に、前記電極のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むことにより、電極が皮膚又は粘膜に密着することが可能であり、効率よく薬剤を皮下に移送させることができる。従って、本発明の電極は、カチオン性麻酔薬を放出させることで、苦痛を伴わず、短時間での麻酔に効果的である。
更に、本発明のイオントフォレシス用電極と交流電流を組み合わせることにより、皮膚と電極の間の分極作用を抑えることが可能である。すなわち、従来の直流電流を用いた方法では、通電時間が長くなるにつれて、皮膚と電極の間において電極分極が形成される。従って薬物の浸透効率が低下する。また、そのような状況で長時間通電を行うと、電極の温度が上昇し、電極が溶解し、やけどを起こすこともある。しかしながら、本発明のイオントフォレシス用電極と交流電流の組み合わせによれば、電極分極形成が起きにくく、長時間にわたり通電が可能である。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法によって製造されたイオントフォレシス用電極は、導電体とポリアニオン性水溶性多糖類のゲルとの密着性が優れており、薬剤をイオントフォレシスによって浸透させる場合に、導電体からポリアニオン性水溶性多糖類のゲルが離脱することがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のイオントフォレシス用電極を用いたイオン電気導入法による薬剤の皮膚への投与を示す模式図である。
【図2】ポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤との電流の印加による、カチオン性薬剤の皮膚への投与を説明した図である。
【図3】1%のアルギン酸ナトリウムを用いたイオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図4】1%のアルギン酸ナトリウム、及びアルミニウムを用いた、イオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図5】リドカインを含んだイオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図6】カチオン性薬剤のイオントフォレシス用電極組成物を測定する実験システムの模式図である。
【図7】電圧を印加した場合と電圧を印加しない場合の、イオントフォレシス用電極組成物からのリドカインの放出の違いを示したグラフである。
【図8】本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法に用いるポリスチレン製のセルの模式図(A)である。(B)は、用いた導電体(電極)のサイズを示したものである。
【図9】電流密度3.0mA/cm2で、60秒(A)、120秒(B)、300秒(C)、又は600秒(D)通電した後のアルミニウム電極の外観を示した写真である。
【図10】電流密度0.5mA/cm2で60秒、120秒、300秒、又は600秒通電した後の乾燥させたアルミニウム電極表面のFT−IRスペクトルを示した図である。
【図11】通電時間及び電流密度の増加によるアルミニウム電極へのアルギン酸堆積量の変化を示したグラフである。
【図12】電流密度0.5mA/cm2で60秒、120秒、300秒、又は600秒通電したアルミニウム電極の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]イオントフォレシス用電極組成物及びそれを用いたイオントフォレシス用電極
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むことができる。ポリアニオン性の水溶性多糖類としては、カチオン性の薬剤を静電相互作用により保持することのできる水溶性多糖類であれば、特に限定されるものではないが、例えばアルギン酸塩、ゲラン、ゲランガム、キサンタンキトサン、及びカラゲナンを挙げることができ、特には、アルギン酸塩が好ましい。前記アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムを挙げることができるが、特にはアルギン酸ナトリウムが好ましい。ポリアニオン性の水溶性多糖類のうちでも、アルギン酸塩は、カルシウムなどの金属イオンで架橋し、ゲル化することが可能であり、架橋することにより、通電により電極の温度が上昇しても溶解することがない。一方、金属イオン以外の架橋剤を用いて架橋し、ゲル化しなければいけない基材において使用される架橋剤としては、グルタールアルデヒドやビスマレイミドなどを挙げることができるが、このような架橋剤は、皮膚刺激や毒性のあるものも多い。従って、アルギン酸塩は、金属イオンによりゲル化する点からも、ポリアニオン性の水溶性多糖類として好ましい。
【0014】
イオントフォレシス用電極組成物は、ゲル化し、カチオン性の薬剤を保持したゲル組成物として、イオントフォレシスに用いることができる。ゲル化は常法により行うことができるが、例えば、アルギン酸ナトリウムの場合は、アルギン酸ナトリウムの水溶液に塩化カルシウムを添加することによってゲル化させることができる。ゲル化したイオントフォレシス用電極組成物は、基材であるポリアニオン性の水溶性多糖類と溶媒とを含む。溶媒としては、例えば、アセトン若しくはエチルメチルケトンなどのケトン類、エタノール若しくはメタノールなどのアルコール類、又は水、あるいはそれらの混合物を挙げることができるが、特には水が好ましい。
【0015】
ゲル組成物中のポリアニオン性の水溶性多糖類の含量は、0.1〜10重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましい。0.1重量%未満ではイオントフォレシス用電極組成物の皮膚への密着性が悪くなることがあり、10重量%を超えると皮膚への追従性が低下することがある。
また、ゲル組成物を乾燥させた乾燥重量において、カチオン性の薬剤を除いたポリアニオン性の水溶性多糖類の含量は、50〜100重量%が好ましく、80〜100重量%が好ましい。
【0016】
イオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類との静電相互作用によりカチオン性の薬剤を含むことができる。カチオン性の薬剤とは、カチオン化することのできる薬剤であり、カチオン化された状態でイオントフォレシス用電極組成物に含有することのできる薬剤であれば、特に限定されるものではないが、例えば、モルヒネ、ブプレノルフィン、硝酸イソソルバイト、プロプラノロール、プロカイン、リドカイン、フェンタニル、スコポラミン、ピロカルピン、バソプレッシン、デスモプレッシン、スコポラミン、ヒスタミン、インシュリン、デキサメサゾン、ハイドロコーチゾン、ゲンタマイシン、又はエストロジェン等を挙げることができる。
【0017】
ゲル組成物中のカチオン性の薬剤の含量は、薬剤の種類、薬剤を使用する疾患、患者の年齢、症状などにより適当な量を選択することが可能であるが、好ましくは0.01〜90重量%、より好ましくは0.01〜10重量%の範囲で用いることができる。
【0018】
前記カチオン性の薬剤のイオントフォレシス用電極組成物への保持は、組成物をゲル化する前に混合し、ゲル化することによって行うこともでき、またゲル化した後に、カチオン性の薬剤を含む溶液にゲル化組成物を浸漬することによっても可能である。
【0019】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、電極としての皮膚又は粘膜への密着性、薬剤の担持量、及び通電性を損なわない範囲で、ポリアニオン性の水溶性多糖類以外の添加剤を含むことが可能である。このような添加剤としては、酸、塩基、又は緩衝液などのpH調整剤、メチルパラオキシ安息香酸エチル、又は塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤、亜硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸などの抗酸化剤、電気的酸化防止剤、Tween80などの界面活性剤、並びにキノン、又は硝酸などの酸化剤を挙げることができる。このような添加剤は、用いるポリアニオン性の水溶性多糖類の種類、又はカチオン性の薬剤の種類、あるいはその組み合わせに応じて、pHを調整し、細菌やカビなどの繁殖を防ぐために、適宜選択することが可能であるが、電極分極を形成しにくいものが好ましく、薬剤の浸透を損なわないために、浸透させる薬剤のイオンと競合しないものが好ましい。すなわち、イオンが解離し、カチオン性の薬剤のイオンと競合するものは、薬剤の皮膚への浸透を妨げることがあり、好ましくない。
従って、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、実質的にカチオン性の薬剤のイオンと競合するイオンを解離する添加剤を含まないものが好ましい。ここで「実質的にカチオン性の薬剤のイオンと競合するイオンを解離する添加剤を含まない」とは、過度の電極分極を起こさず、長時間通電(好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上)を妨げない程度の、カチオン性の薬剤のイオンと競合する添加剤を含んでもよいことを意味する。
【0020】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、導電体と組み合わせてイオントフォレシス用電極として用いることができる。導電体は通電可能なものであれば、限定されるものではないが、金属が好ましく、例えば、Al、Pt、Au、Ag−AgCl、ステンレス合金、又はTiなどを挙げることができ、特にはAg−AgCl、又はPtが好ましい。本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むため、導電体、特には金属との密着性にも優れている。金属は、イオントフォレシス用電極組成物の表面に密着させ、電極とすることも可能であるが、イオントフォレシス用電極組成物をゲル化するときに、組成物中に挿入することも可能である。
【0021】
イオントフォレシス用電極を構成するイオントフォレシス用電極組成物のゲルの厚さは、電極として皮膚に貼付することができる厚さであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05mm〜5cm、より好ましくは0.1mm〜1cm、最も好ましくは、0.2mm〜5mmである。また、皮膚又は粘膜に貼付する接触面の形状も、薬剤を吸収させる皮膚の領域に合わせて、適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、円形、楕円形、正方形、又は長方形などの形状を挙げることができる。まだ、接触面の断面積も薬剤を吸収させる皮膚の領域に合わせて、適宜決定することが可能であるが、好ましくは0.5cm2〜150cm2であり、より好ましくは1cm2〜50cm2である。
【0022】
イオントフォレシス用電極組成物は、凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、凍結乾燥機を用い、常法により行うことができる。凍結乾燥することによって、長期保存が可能になり、また輸送が容易になる。凍結乾燥は、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物でも、カチオン性の薬剤を含まない状態のイオントフォレシス用電極組成物でも行うことができるが、ゲルに戻した場合に、薬剤を浸透させることなく使用できることから、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物を凍結乾燥することが、好ましい。
カチオン性の薬剤を含んだイオントフォレシス用電極組成物の場合は、凍結乾燥した組成物に水を供給し、ゲル状の組成物に戻し、そのままイオントフォレシス用電極として使用することができる。また、カチオン性の薬剤を含まないイオントフォレシス用電極組成物の場合は、凍結乾燥した組成物に水を供給し、ゲル状の組成物に戻した後、カチオン性の薬剤を含む溶液にゲル化組成物を浸漬することによって、カチオン性薬剤を保持させ、イオントフォレシス用電極として使用することができる。
また、例えば、口腔内などの唾液などの水分が存在する粘膜に貼付する場合は、水分を供給することなく、そのまま口腔内に貼付することもできる。すなわち、イオントフォレシス用電極組成物が唾液などの水分を吸収し、ゲルの状態となり、イオントフォレシス用電極として用いることも可能である。
【0023】
本発明のイオン電気導入法(イオントフォレシス)の1つの実施態様を、図1の模式図を用いて説明するが、本発明のイオン電気導入法は、図1の記載及び実施態様に限定されるものではない。本発明のイオントフォレシス用電極(11)と、薬剤を含有しない電極、例えば、金属電極(15)とを電源(14)に接続する。イオントフォレシス用電極(11)のイオントフォレシス用電極組成物側を、薬剤を浸透させる皮膚又は粘膜に接触させ、薬剤を含有しない電極も皮膚等に接触させる。この状態で金属(12)に電流を印加することにより、イオントフォレシス用電極組成物(13)からカチオン性薬剤が放出され、皮膚から吸収される。具体的には、図2に示すように、イオントフォレシス用電極組成物中のポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤は、静電相互作用により結合しており、この電極に電流が印加されることにより、電場が形成され、ポリアニオン性の水溶性多糖類からカチオン性薬剤が離脱する。そして離脱したカチオン性薬剤が、イオントフォレシス用電極組成物から放出され、皮膚から吸収される。本発明のイオントフォレシス用電極組成物において、ポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤とが、静電相互作用により結合しているために、多量のカチオン性薬剤を担持することが可能になる。
【0024】
薬剤を含有しない電極としては、前記金属電極以外に、薬剤を含有していない本発明のイオントフォレシス用電極組成物を用いることもできる。また、アクリル酸−アクリルアミド共重合体、アクリルアミド重合体、寒天、ゼラチン、カラヤガム、トラガントガム、又はポリビニルアルコール等と、導電体からなる電極を用いることもできる。
【0025】
イオントフォレシスでは、通常、電極をシール等で皮膚に固定する。本発明のイオントフォレシス用電極(1)及び薬剤を含有しない電極は、従来のようにシール等で皮膚に固定してもよいが、本発明のイオントフォレシス用電極は、高い密着性を有するため、シール等での固定を行わずに、使用することができる。すなわち、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、皮膚へ密着し、関節等の可変部においても皮膚の動きに追従する貼付性を示し、そのような可変部においてもシール等での固定なしに使用することが可能である。換言すると、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、薬剤の担持をするとともに、皮膚又は粘膜への密着性が高いことから、貼付シールとしての役割も果たすことができる。
【0026】
本発明のイオン電気導入法においては、電流として、連続直流電流、又はパルス直流電流などの直流電流、又は交流電流を用いることができるが、長時間の電流の印加ができることから交流電流が好ましい。
交流電流の電流密度としては、約0.01から1.0mA/cm2が好ましく、0.1から0.5mA/cm2がより好ましい。周波数は、好ましくは1Hz〜100kHz、より好ましくは、100Hz〜10kHz、最も好ましくは500Hz〜5kHzである。通電は双方向性形波通電が好ましく、矩形波のデューティサイクルは50〜95%が好ましく、60〜95%より好ましく、60〜90%がもっと好ましい。
【0027】
本発明のイオン電気導入法の対象動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ラット、又はマウスなどの哺乳動物を挙げることができる。イオン電気導入法により、これらの対象動物の皮膚、又は粘膜(例えば、口腔内粘膜)からカチオン性の薬剤を体内に導入することができる。
【0028】
[2]イオントフォレシス用電極の製造方法
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記イオントフォレシス用電極を製造する方法の1つの好ましい態様であり、イオントフォレシス用電極組成物に含まれるポリアニオン性水溶性多糖類、及び酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を用いて製造することができる。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む。なお、堆積したポリアニオン性水溶性多糖類は、イオン結合及び水素結合によりゲル化している。
【0029】
本発明の製造方法においては、導電体として、酸化物による不動態被膜を形成することのできる導電体を用いる。導電体、特に金属には、酸化環境において酸化物により金属の表面に薄い不動態被膜を形成することのできるものが存在しており、前記不動態被膜が形成されることにより、金属は耐食性が付与され、腐食しにくくなる。酸化物による不動態被膜が形成されることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類との結合が強固になることができる。
前記導電体の具体例としては、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、又はタンタル合金を挙げることができ、特にはアルミニウム、又はアルミニウム合金が好ましい。
【0030】
前記酸化物による不動態被膜として、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金の場合は、薄いAl2O3の膜が金属の表面に形成され、不動態被膜となる。また、クロム又はクロム合金の場合は薄いCr2O3の膜が形成され、チタン又はチタン合金の場合は、薄いTiO2の膜が形成され、鉄及び鉄合金の場合は薄いFe2O3の膜が金属の表面に形成される。
【0031】
前記アルミニウム合金、クロム合金、チタン合金、鉄合金、ニオブ合金、又はタンタル合金は、それぞれの金属が40%以上含まれているものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。それぞれの金属に混合するそれ以外の金属としては、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、アルミニウム、クロム、チタン、又は鉄、或いはそれらの2つ以上の組み合わせを挙げることができる。例えば、アルミニウム合金としては、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、又はAl−Zn−Mg−Cu系合金を挙げることができる。また、鉄合金としては、ステンレス鋼を挙げることができる。
【0032】
一方、後述の比較例で示したように、貴金属、例えばプラチナ及び銀は、酸化物による不動態被膜を形成しにくいため、ポリアニオン性水溶性多糖類が、その表面に強固に結合することができず、本発明の製造方法における導電体としては、好ましくない。しかしながら、前記本発明のイオントフォレシス用電極における、導電体として、通常の方法でイオントフォレスト用電極組成物と結合させて使用することは、可能である。
【0033】
前記導電体のサイズは、特に限定されるものではなく、本発明の製造方法において製造されるイオントフォレスト用電極の用途に応じて、適宜選択されることができる。また、導電体の厚さも特に限定されるものではなく、例えば、0.001mm〜1mmの厚さの導電体を用いることができるが、イオントフォレスト用電極を皮膚に密着させて使用する場合、皮膚に沿って可動できるものが好ましいため、厚さが薄いほうが好ましく、例えば0.006〜0.05mmが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法においては、前記導電体を正極に接続し、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液中で、電気分解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積させ、強固に結合させることができる。
【0035】
電気分解に用いる電解槽(電解セル)は、用途に合わせて、適宜選択して用いることができ、例えば、ポリスチレン製の電解セルを用いて、電気分解を行うことができる。正極にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積させる導電体をアノードとして接続し、陰極にカソードを接続する。カソードの導電体は、電気分解を行うことのできるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、白金電極を用いることができる。電源も、通常の電気分解に用いるものを、適宜選択して使用することができる。また、電気分解の溶液の量も、導電体のサイズ等に応じて、調整することができる。
【0036】
電気分解の電解時間が長くなることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積量が増加するため、目的の堆積量を得るために電解時間を適宜調整することができる。例えば、通常10秒〜60分であり、好ましくは60秒〜10分である。
また、電気分解の電流密度が大きくなることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積量が増加するため、目的の堆積量を得るために電流密度を適宜調製することができる。例えば、通常0.1〜100mA/cm2であり、好ましくは0.1〜20mA/cm2である。ポリアニオン性水溶性多糖類堆積物の厚さとしては、好ましくは0.05mm〜5cm、より好ましくは0.1mm〜1cm、最も好ましくは、0.2mm〜5mmである。
【0037】
ポリアニオン性水溶性多糖類の溶液中の濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜5%であり、より好ましくは0.01〜3%であり、最も好ましくは、0.1〜3%である。
【0038】
本発明の製造方法に用いることのできるポリアニオン性水溶性多糖類としては、前記酸化物による不動態被膜に結合することのできるものであり、例えばアルギン酸塩、ゲラン、ゲランガム、キサンタンキトサン、及びカラゲナンを挙げることができるが、特にはカルボキシル基を有するものが好ましく、例えばアルギン酸塩を挙げることができる。前記アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、又はアルギン酸カルシウム、を挙げることができるが、特にはアルギン酸ナトリウムが好ましい。
アルギン酸塩は、その分子内にカルボキシル基を有しており、後述のように、カルボキシル基を有していることにより、酸化物による不動態被膜との強固な結合を形成することが可能であり、またアルギン酸塩自体のゲル化にも有利であると考えられる。更に、ポリアニオン性の水溶性多糖類のうちでも、アルギン酸塩は、カルシウムなどの金属イオンで架橋し、ゲル化することが可能であり、架橋することにより、通電により電極の温度が上昇しても溶解することがない。
アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸(Mブロック)、及びそのC−5エピマーであるα−L−グルロン酸(Gブロック)が(1−4)結合した直鎖状のポリマーである。カルボキシル基が脱プロトン化したCOO−が酸化物とイオン結合することにより、導電体と強固な結合を形成する。また、アルギン酸同士は、カルボキシル基(COOH)の水素結合により結合し、ゲル化すると考えられる。
【0039】
前記ポリアニオン性水溶性多糖類を溶解する溶媒としては、例えば、アセトン若しくはエチルメチルケトンなどのケトン類、エタノール若しくはメタノールなどのアルコール類、又は水、あるいはそれらの混合物を挙げることができるが、特には水にポリアニオン性水溶性多糖類を溶解した水溶液が好ましい。
【0040】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記のポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程に加えて、導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程を含むことができる。すなわち、前記製造方法は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、を含むことができる。前記架橋工程(b)により、ポリアニオン性水溶性多糖類を、更に強固にゲル化することができる。
【0041】
前記架橋工程(b)においては、導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖を、金属イオンを用いて架橋する。金属イオンとしては、2価のカチオンが好ましく、例えばCa++を用いることができる。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mブロック)、及びそのC−5エピマーであるα−L−グルロン酸(Gブロック)が(1−4)結合した直鎖状のポリマーであり、6残基以上からなるGブロックが二価カチオン(例えば、Ca++)と安定な複合体を形成し、3次元のゲルを形成することができる。
具体的には、ポリアニオン性水溶性多糖の堆積したゲルを、二価カチオンの水溶液、例えば塩化カルシウム溶液に浸漬することによって、架橋することができる。
【0042】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記のポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程(a)、及び架橋工程(b)に加えて、前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程を含むことができる。すなわち、前記製造方法は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程を含むことができる。
【0043】
前記カチオン性薬剤の結合工程(c)は、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程(a)と同時に行うことは困難であるが、前記架橋工程(b)の前、同時、又は後に行うことができる。本結合工程(c)においては、カチオン性薬剤を静電相互作用によって、ポリアニオン性水溶性多糖類に結合させる。
例えば、前記架橋工程(b)の前に、結合工程(c)を行う場合は、堆積工程(a)において、ゲル化したポリアニオン性水溶性多糖類を、カチオン性の薬剤を含む溶液に浸漬することによっても結合させることができる。また、前記堆積工程(a)の後に、電解槽にカチオン性の薬剤を添加し、アノードとカソードとを逆転させ、ゲル化したポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させることもできる。
また、前記架橋工程(b)と同時に、結合工程(c)を行う場合は、二価カチオンの溶液に、カチオン性の薬剤を混合することによって、金属イオンによる架橋と同時に、カチオン性の薬剤をポリアニオン性水溶性多糖類のゲルに結合させることができる。
更に、前記架橋工程(b)の後に、結合工程(c)を行う場合は、前記架橋工程(b)において得られた金属架橋ゲルを、カチオン性の薬剤を含む溶液に浸漬することによって結合させることができる。
【0044】
更に、本発明の製造方法によって得られた、イオントフォレシス用電極は、凍結乾燥できる。凍結乾燥は、凍結乾燥機を用い、常法により行うことができる。凍結乾燥することによって、長期保存が可能になり、また輸送が容易になる。凍結乾燥は、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物でも、カチオン性の薬剤を含まない状態のイオントフォレシス用電極組成物でも行うことができるが、ゲルに戻した場合に、薬剤を浸透させることなく使用できることから、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物を凍結乾燥することが、好ましい。
【0045】
《導電体とゲルとの密着性について》
本発明の製造方法によって、導電体とポリアニオン性水溶性多糖類とが、強固に結合することのできる機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。
本発明の製造方法に用いる導電体は、その表面に酸化物の不動態被膜を形成することのできるものである。前記酸化物は、弱酸性下でプラスに荷電しており、これにポリアニオン性水溶性多糖類のマイナスに荷電した基、例えばCOO−がイオン結合で結合していると考えられる。すなわち、前記のイオン結合によって、伝導体とポリアニオン性水溶性多糖類との界面が制御され、強固な結合を形成するものと考えられる。
一方、ポリアニオン性水溶性多糖類のゲルは、ポリアニオン性水溶性多糖類のプロトン化した基、例えばCOOHが水素結合することによって、形成されると考えられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し本発明の具体的な説明を行うが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
《実施例1》
本実施例1では、ポリアニオン性多糖類として、アルギン酸ナトリウムを用いて、イオントフォレシス用電極組成物を作製した。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、1%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液2gに、1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、長方形の型に流し込み、フィルム状にゲル化させた。得られたイオントフォレシス用電極ゲル組成物は、厚さが約0.5mmで、縦2.5cm×横4cmであった。このゲル組成物を超純水で十分に洗浄し、余分なカルシウム溶液を取り除いた。作製したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を図3に示す。密着性を調べるため、ヒトの皮膚に貼付した。このゲル組成物は、皮膚に対して充分な密着性を示した。関節部に貼付した場合も、関節の動きに追従し、皮膚への十分な密着性が得られた。
【0048】
《実施例2》
本実施例2では、ポリアニオン性多糖類としてアルギン酸ナトリウムを、金属電極としてアルミニウムを用いた、イオントフォレシス用電極を作製した。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、1%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液2gに、約1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、アルミ電極と一緒に、長方形の型に流し込み、フィルム状にゲル化させた。得られたイオントフォレシス用電極ゲル組成物は、厚さが約0.5mmで、縦2.5cm×横4cmであった。このイオントフォレシス用電極におけるゲル組成物を超純水で十分に洗浄し、余分なカルシウム溶液を取り除いた。作製したイオントフォレシス用電極を図4に示す。密着性を調べるため、ヒトの皮膚に貼付した。このゲル組成物は、皮膚に対して充分な密着性を示した。関節部に貼付した場合も、関節の動きに追従し、皮膚への十分な密着性が得られた。
【0049】
《実施例3》
本実施例3では、実施例1の手順に従って作製したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を、凍結乾燥し、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を作製した。
実施例1の手順により得られた、イオントフォレシス用電極ゲル組成物を、ディープフリーザーを用いて、−20℃で凍結した。凍結したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を、凍結乾燥機(VirTis社製)にセットし、12時間で凍結乾燥を行い、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を得た。
【0050】
《実施例4》
本実施例4では、ブタの口腔粘膜における本発明のイオントフォレシス用電極組成物、及び凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物の密着性を検討した。
アルギン酸ナトリウムの水溶液の濃度を1%から、0.5%又は2%に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、0.5%イオントフォレシス用電極組成物及び2%イオントフォレシス用電極組成物を得た。また、アルギン酸ナトリウムの水溶液の濃度を1%から、0.5%又は2%に変更したことを除いては、実施例3の操作を繰り返し、0.5%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物及び2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を得た。
【0051】
前記4種類のイオントフォレシス用電極組成物を、ブタの口腔内粘膜に貼付し、密着性を観察した。ブタを麻酔し、0.5%イオントフォレシス用電極組成物、2%イオントフォレシス用電極組成物、0.5%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物、及び2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物をブタの口腔内に貼付した。2つの凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物は、特に水分を供給することなく、凍結乾燥した状態で貼付した。貼付直後、1時間後、及び2時間後の密着性を内視鏡を用いて観察した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、いずれの濃度のゲル組成物も、貼付直後及び1時間後においては、良好な密着性を示した。貼付2時間後においては、0.5、又は2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を除いては、良好な密着性を示した。0.5、又は2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物は2時間後において、やや密着性が悪くなった。これは、乾燥した高濃度のイオントフォレシス用電極組成物では、口腔内の唾液のみでは充分にゲルにならなかったものと考えられる。従って、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物では、使用前に水分を供給することが望ましいと考えられる。
【0054】
《実施例5》
本実施例5では、アルギン酸ナトリウムを用いたイオントフォレシス用電極組成物からの、リドカインの放出を、図6に記載の実験用セル(木下らの論文に記載:T.Kinoshita,T.Shibaji and M.Umino,J.Med.Dent.Sci.,50,71(2003))を用いて調べた。
まず、ポリアニオン性多糖類としてアルギン酸ナトリウムを、カチオン性薬剤としてリドカイン塩酸塩を用いて、薬剤を含むイオントフォレシス用電極組成物を作製した。アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、0.3%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液に、1%濃度となるようにリドカイン塩酸塩を溶解させた。リドカイン塩酸塩含有アルギン酸水溶液8gに、1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、直径20mm、高さ10mmの円柱状長方形の型に流し込み、ゲル化させた(図5)。得られた円柱状ゲルは、超純水で充分洗浄し、余剰のカルシウム溶液を取り除いた後、1%のリドカイン塩酸塩水溶液中で保存した。得られたリドカイン含有イオントフォレシス用電極組成物は、図6に示すように、実験用システムのガラスセル(25)のドナー側(23)にセットした。ガラスセルのアクセプター側(24)に、3mLの超純水を入れ、その間には皮膚のモデルとしてセロファンフィルム(21)を配置した。試験電圧は、交流20V、デューティサイクル80%の矩形波で、60分間通電した。アクセプター側の超純水中のリドカイン塩酸塩濃度は、10分ごとに、20μLの液を採取し、超純水を用いて40倍に希釈した後、紫外可視分光光度計を用いて262nmの吸光度を測定し、濃度を算出した。対照として、電圧を印加しない場合の、アクセプター側へのリドカインの自然拡散による放出を測定した。結果を図7に示す。アクセプター側へのリドカインの放出は、電圧を印加しない自然拡散の場合と比較して、ほぼ2倍となった。
【0055】
《実施例6》
本実施例6では、導電体としてアルミニウムを用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。ポリスチレン製のセル(図8)を用いて、陽極のアルミニウムにアルギン酸を堆積させた。
まず、アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度80〜120mPa・s)を超純水に溶解させ、0.5%の水溶液を調製した。次に、ポリスチレン製のセルに、調製したアルギン酸ナトリウム水溶液20mLを加えた。陽極に厚さ0.1mmのアルミニウム(ニラコ株式会社製)を用い、陰極に厚さ0.1mmの白金(ニラコ株式会社製)をセットした。電極間距離は10mmとし、電源には直流安定化電源(松定プレシジョン株式会社製、P4K−80)を用いた。電流密度を、0.5、1、1.5、又は3.0mA/cm2に設定し、それぞれ60、120、300、又は600秒間通電した。通電後の電極は、超純水で洗浄し、37℃に設定された乾燥機中で24時間乾燥した。
【0056】
《比較例1》
本比較例1では、導電体として白金を用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。
具体的には、陽極にアルミニウムに代えて、白金を用いたことを除いては、実施例6の操作を繰り返した。
【0057】
《比較例2》
本比較例1では、導電体として銀を用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。
具体的には、陽極にアルミニウムに代えて、銀を用いたことを除いては、実施例6の操作を繰り返した。
【0058】
前記実施例6のアルミニウム、比較例1の白金、及び比較例2の銀を導電体とした場合、前記の通電条件においては、通電後すべての金属(陽極)に堆積物を確認することができた。しかし、アルミニウムでは、アルギン酸の堆積物がアルミニウムに強固に結合していたが、白金及び銀では、超純水による洗浄によって堆積物が容易に剥離した。従って、以下の、堆積物の物性の解析は、実施例6のアルミニウムを用いたイオントフォレシス用電極について行った。
【0059】
〔アルミニウムを導電体として用いた場合の堆積物の特性〕
図9には、電流密度3.0mA/cm2で60、120、300、又は600秒間通電した後の、アルミニウムを用いた電極の外観を示す。通電によって、アルミ陽極電極に堆積物が確認され、その堆積量は通電時間に伴い増加した。
【0060】
図10には、電流密度0.5mA/cm2で60、120、300、又は600秒間通電し、アルギン酸を堆積させ、通電後に乾燥させた陽極表面のFT−IRスペクトルを示す。乾燥後の陽極表面は、赤外分光光度計(FT−IR:日本分光株式会社製、FT/IR−4100N)を用い、正反射法(入射角60度)によって反射スペクトルを測定した。
1600cm−1付近にカルボキシル基の非対称伸縮振動が検出されたことから、堆積物はアルギン酸であることが明らかとなった。通電時間の増加に伴い、1730cm−1付近にカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークが検出され、強度が増加した。これは、水の電気分解によって陽極でプロトンが生じたため局所的にpHが減少し、アルギン酸のカルボキシル基がプロトン化されたことを示す。プロトン化されたカルボキシル基は水素結合を形成し、アルギン酸が電極表面でゲル化したと考えられる。
【0061】
図11には、通電時間に対するアルミニウム電極へのアルギン酸堆積量を示す。アルギン酸の堆積量は、乾燥後の電極の重量を測定し、通電前後の重量変化によって算出した。通電時間が長くなるに従い、アルギン酸の堆積量は増加した。また、電流密度の増加に伴い、アルギン酸堆積量は増加した。
【0062】
図12には、電流密度0.5mA/cm2でアルギン酸を堆積したアルミニウム断面のSEM写真を示す。走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製、JSM−5310)を用いて、乾燥後の電極の断面を観察した。アルギン酸層の厚さは、60秒で3〜5μm、120秒で8〜10μm、300秒で18〜20μm、そして600秒で20〜22μm、であり、電解時間が増加するに従って厚くなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、局所麻酔薬を皮膚に効率よく吸収させることができ、手術における局所麻酔に用いることができる。また、インシュリンを含有させたイオントフォレシス用電極組成物は、糖尿病の治療に用いることができ、針を用いず薬剤を体内へ導入することができる。
【符号の説明】
【0064】
11・・・イオントフォレシス用電極;
12・・・金属;
13・・・イオントフォレシス用電極組成物;
14・・・電源;
15・・・金属電極;
21・・・セロファンフィルム;
22・・・ボルト;
23・・・ガラスセルのドナー側;
24・・・ガラスセルのアクセプター側;
25・・・ガラスセル;
26・・・白金プレート電極;
27・・・ウォーターバス;
28・・・アクリルプレート。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレシス用電極組成物、イオントフォレシス用電極、及びイオントフォレシス用電極の製造方法に関する。本発明によれば、多量の薬剤を長時間にわたって皮膚から吸収させることができる。
【背景技術】
【0002】
薬剤を皮膚から吸収させる投与方法として、例えば、局所麻酔剤を粘着剤層に含有させ、皮膚や粘膜から投与する貼付製剤が開発されてきている(特許文献1)。この方法は、皮膚に局所麻酔剤を担持させた粘着性の貼付製剤を貼付し、経皮で局所麻酔剤を皮下に浸透させるため、注射等の苦痛を伴わず麻酔することができる。しかしながら、この方法では比較的長い時間、貼付製剤を貼付しなければ、局所麻酔の効果を得ることができない。
【0003】
一方、イオン電気導入法(イオントフォレシス:イオン化した薬剤などを電流によって体組織に入れる方法)により、局所麻酔薬などの経皮的な吸収を増加させる方法が知られており(特許文献2)、実際に米国のIomed社、及びvyteris社から、局所麻酔薬の経皮導入用電極が発売されている。このイオントフォレシスでは、麻酔薬を担持させた薬物保持層を皮膚に貼付し、電圧をかけることで皮下に麻酔薬を浸透させることができ、前記の貼付製剤と比較すると、電流の作用により、すばやく皮下に麻酔薬を浸透させることが可能である。
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の薬物保持層は、不織布又はナイロンメンブレン等の多孔質材を用いており、これらの多孔質材を用いた薬物保持層は、薬剤担持量が充分ではない。
また、不織布又はナイロンメンブレンを薬物保持層として用いた場合は、シールや包帯等で、不織布又はナイロンメンブレンを固定する必要がある。この場合、薬物保持層自体には、接着性がないため、シール等で固定しても皮膚と薬物保持層との密着性が低く、薬剤の皮下への浸透効率を低下させることになる。
更に、従来の方法では、イオントフォレシスに直流電流を用いていたため、通電を行うと電極の温度が上昇するため、長時間の通電ができず、薬物を充分に皮膚や粘膜に浸透させることができないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143052号公報
【特許文献2】特開平9−201420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、皮膚への密着性が高く、大量の薬剤を担持し、その担持された薬剤を皮下に充分に徐放することが可能なイオントフォレシス用電極組成物、イオントフォレシス用電極、及びイオントフォレシス用電極の製造方法を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ポリアニオン性の水溶性多糖類を、イオントフォレシス用電極組成物に含有させることにより、大量の薬剤を、イオントフォレシス用電極組成物に担持させることが可能であることを見出した。また、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含有するイオントフォレシス用電極組成物は皮膚、又は粘膜に密着させることが可能であり、従ってシールなどによる固定なしに、前記イオントフォレシス用電極を皮膚へ貼付することができる。更に、前記電極は、皮膚、又は粘膜への密着性が優れていることから、大量の薬剤を皮下へ効率よく浸透させることができる。更に、前記電極と交流電流を組み合わせることによって、薬物の浸透効率を低下させることなく、イオントフォレシスを長時間にわたり、継続させることが可能である。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明の課題は、皮膚への密着性が高く、大量の薬剤を担持し、その担持された薬剤を、皮下に充分に徐放することが可能であるイオントフォレシス用電極組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含む、イオントフォレシス用電極組成物に関する。
本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、更にカチオン性薬剤を含む。また、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、ポリアニオン性の水溶性多糖類が、アルギン酸塩であり、特にはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである。また、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、前記イオントフォレシス用電極組成物が、凍結乾燥されている。更に、本発明によるイオントフォレシス用電極組成物の好ましい態様においては、交流電流用である。
また、本発明は、前記イオントフォレシス用電極組成物及び導電体を含むイオントフォレシス用電極にも関する。
更に、本発明は、前記イオントフォレシス用電極に交流電流を通電することを特徴とする、イオン電気導入法にも関する。
【0009】
本発明は、正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
また、本発明は(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
更に、本発明は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法に関する。
【0010】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法の好ましい実施態様においては、前記導電体が、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、及びタンタル合金からなる群から選択される金属である。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法の別の好ましい実施態様においては、前記ポリアニオン性水溶性多糖類がアルギン酸塩であり、特には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイオントフォレシス用電極によれば、多量の薬剤を電極に担持させることが可能である。更に、前記電極のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むことにより、電極が皮膚又は粘膜に密着することが可能であり、効率よく薬剤を皮下に移送させることができる。従って、本発明の電極は、カチオン性麻酔薬を放出させることで、苦痛を伴わず、短時間での麻酔に効果的である。
更に、本発明のイオントフォレシス用電極と交流電流を組み合わせることにより、皮膚と電極の間の分極作用を抑えることが可能である。すなわち、従来の直流電流を用いた方法では、通電時間が長くなるにつれて、皮膚と電極の間において電極分極が形成される。従って薬物の浸透効率が低下する。また、そのような状況で長時間通電を行うと、電極の温度が上昇し、電極が溶解し、やけどを起こすこともある。しかしながら、本発明のイオントフォレシス用電極と交流電流の組み合わせによれば、電極分極形成が起きにくく、長時間にわたり通電が可能である。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法によって製造されたイオントフォレシス用電極は、導電体とポリアニオン性水溶性多糖類のゲルとの密着性が優れており、薬剤をイオントフォレシスによって浸透させる場合に、導電体からポリアニオン性水溶性多糖類のゲルが離脱することがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のイオントフォレシス用電極を用いたイオン電気導入法による薬剤の皮膚への投与を示す模式図である。
【図2】ポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤との電流の印加による、カチオン性薬剤の皮膚への投与を説明した図である。
【図3】1%のアルギン酸ナトリウムを用いたイオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図4】1%のアルギン酸ナトリウム、及びアルミニウムを用いた、イオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図5】リドカインを含んだイオントフォレシス用電極組成物の写真である。
【図6】カチオン性薬剤のイオントフォレシス用電極組成物を測定する実験システムの模式図である。
【図7】電圧を印加した場合と電圧を印加しない場合の、イオントフォレシス用電極組成物からのリドカインの放出の違いを示したグラフである。
【図8】本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法に用いるポリスチレン製のセルの模式図(A)である。(B)は、用いた導電体(電極)のサイズを示したものである。
【図9】電流密度3.0mA/cm2で、60秒(A)、120秒(B)、300秒(C)、又は600秒(D)通電した後のアルミニウム電極の外観を示した写真である。
【図10】電流密度0.5mA/cm2で60秒、120秒、300秒、又は600秒通電した後の乾燥させたアルミニウム電極表面のFT−IRスペクトルを示した図である。
【図11】通電時間及び電流密度の増加によるアルミニウム電極へのアルギン酸堆積量の変化を示したグラフである。
【図12】電流密度0.5mA/cm2で60秒、120秒、300秒、又は600秒通電したアルミニウム電極の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]イオントフォレシス用電極組成物及びそれを用いたイオントフォレシス用電極
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むことができる。ポリアニオン性の水溶性多糖類としては、カチオン性の薬剤を静電相互作用により保持することのできる水溶性多糖類であれば、特に限定されるものではないが、例えばアルギン酸塩、ゲラン、ゲランガム、キサンタンキトサン、及びカラゲナンを挙げることができ、特には、アルギン酸塩が好ましい。前記アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムを挙げることができるが、特にはアルギン酸ナトリウムが好ましい。ポリアニオン性の水溶性多糖類のうちでも、アルギン酸塩は、カルシウムなどの金属イオンで架橋し、ゲル化することが可能であり、架橋することにより、通電により電極の温度が上昇しても溶解することがない。一方、金属イオン以外の架橋剤を用いて架橋し、ゲル化しなければいけない基材において使用される架橋剤としては、グルタールアルデヒドやビスマレイミドなどを挙げることができるが、このような架橋剤は、皮膚刺激や毒性のあるものも多い。従って、アルギン酸塩は、金属イオンによりゲル化する点からも、ポリアニオン性の水溶性多糖類として好ましい。
【0014】
イオントフォレシス用電極組成物は、ゲル化し、カチオン性の薬剤を保持したゲル組成物として、イオントフォレシスに用いることができる。ゲル化は常法により行うことができるが、例えば、アルギン酸ナトリウムの場合は、アルギン酸ナトリウムの水溶液に塩化カルシウムを添加することによってゲル化させることができる。ゲル化したイオントフォレシス用電極組成物は、基材であるポリアニオン性の水溶性多糖類と溶媒とを含む。溶媒としては、例えば、アセトン若しくはエチルメチルケトンなどのケトン類、エタノール若しくはメタノールなどのアルコール類、又は水、あるいはそれらの混合物を挙げることができるが、特には水が好ましい。
【0015】
ゲル組成物中のポリアニオン性の水溶性多糖類の含量は、0.1〜10重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましい。0.1重量%未満ではイオントフォレシス用電極組成物の皮膚への密着性が悪くなることがあり、10重量%を超えると皮膚への追従性が低下することがある。
また、ゲル組成物を乾燥させた乾燥重量において、カチオン性の薬剤を除いたポリアニオン性の水溶性多糖類の含量は、50〜100重量%が好ましく、80〜100重量%が好ましい。
【0016】
イオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類との静電相互作用によりカチオン性の薬剤を含むことができる。カチオン性の薬剤とは、カチオン化することのできる薬剤であり、カチオン化された状態でイオントフォレシス用電極組成物に含有することのできる薬剤であれば、特に限定されるものではないが、例えば、モルヒネ、ブプレノルフィン、硝酸イソソルバイト、プロプラノロール、プロカイン、リドカイン、フェンタニル、スコポラミン、ピロカルピン、バソプレッシン、デスモプレッシン、スコポラミン、ヒスタミン、インシュリン、デキサメサゾン、ハイドロコーチゾン、ゲンタマイシン、又はエストロジェン等を挙げることができる。
【0017】
ゲル組成物中のカチオン性の薬剤の含量は、薬剤の種類、薬剤を使用する疾患、患者の年齢、症状などにより適当な量を選択することが可能であるが、好ましくは0.01〜90重量%、より好ましくは0.01〜10重量%の範囲で用いることができる。
【0018】
前記カチオン性の薬剤のイオントフォレシス用電極組成物への保持は、組成物をゲル化する前に混合し、ゲル化することによって行うこともでき、またゲル化した後に、カチオン性の薬剤を含む溶液にゲル化組成物を浸漬することによっても可能である。
【0019】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、電極としての皮膚又は粘膜への密着性、薬剤の担持量、及び通電性を損なわない範囲で、ポリアニオン性の水溶性多糖類以外の添加剤を含むことが可能である。このような添加剤としては、酸、塩基、又は緩衝液などのpH調整剤、メチルパラオキシ安息香酸エチル、又は塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤、亜硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸などの抗酸化剤、電気的酸化防止剤、Tween80などの界面活性剤、並びにキノン、又は硝酸などの酸化剤を挙げることができる。このような添加剤は、用いるポリアニオン性の水溶性多糖類の種類、又はカチオン性の薬剤の種類、あるいはその組み合わせに応じて、pHを調整し、細菌やカビなどの繁殖を防ぐために、適宜選択することが可能であるが、電極分極を形成しにくいものが好ましく、薬剤の浸透を損なわないために、浸透させる薬剤のイオンと競合しないものが好ましい。すなわち、イオンが解離し、カチオン性の薬剤のイオンと競合するものは、薬剤の皮膚への浸透を妨げることがあり、好ましくない。
従って、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、実質的にカチオン性の薬剤のイオンと競合するイオンを解離する添加剤を含まないものが好ましい。ここで「実質的にカチオン性の薬剤のイオンと競合するイオンを解離する添加剤を含まない」とは、過度の電極分極を起こさず、長時間通電(好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上)を妨げない程度の、カチオン性の薬剤のイオンと競合する添加剤を含んでもよいことを意味する。
【0020】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、導電体と組み合わせてイオントフォレシス用電極として用いることができる。導電体は通電可能なものであれば、限定されるものではないが、金属が好ましく、例えば、Al、Pt、Au、Ag−AgCl、ステンレス合金、又はTiなどを挙げることができ、特にはAg−AgCl、又はPtが好ましい。本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、ポリアニオン性の水溶性多糖類を含むため、導電体、特には金属との密着性にも優れている。金属は、イオントフォレシス用電極組成物の表面に密着させ、電極とすることも可能であるが、イオントフォレシス用電極組成物をゲル化するときに、組成物中に挿入することも可能である。
【0021】
イオントフォレシス用電極を構成するイオントフォレシス用電極組成物のゲルの厚さは、電極として皮膚に貼付することができる厚さであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05mm〜5cm、より好ましくは0.1mm〜1cm、最も好ましくは、0.2mm〜5mmである。また、皮膚又は粘膜に貼付する接触面の形状も、薬剤を吸収させる皮膚の領域に合わせて、適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、円形、楕円形、正方形、又は長方形などの形状を挙げることができる。まだ、接触面の断面積も薬剤を吸収させる皮膚の領域に合わせて、適宜決定することが可能であるが、好ましくは0.5cm2〜150cm2であり、より好ましくは1cm2〜50cm2である。
【0022】
イオントフォレシス用電極組成物は、凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、凍結乾燥機を用い、常法により行うことができる。凍結乾燥することによって、長期保存が可能になり、また輸送が容易になる。凍結乾燥は、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物でも、カチオン性の薬剤を含まない状態のイオントフォレシス用電極組成物でも行うことができるが、ゲルに戻した場合に、薬剤を浸透させることなく使用できることから、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物を凍結乾燥することが、好ましい。
カチオン性の薬剤を含んだイオントフォレシス用電極組成物の場合は、凍結乾燥した組成物に水を供給し、ゲル状の組成物に戻し、そのままイオントフォレシス用電極として使用することができる。また、カチオン性の薬剤を含まないイオントフォレシス用電極組成物の場合は、凍結乾燥した組成物に水を供給し、ゲル状の組成物に戻した後、カチオン性の薬剤を含む溶液にゲル化組成物を浸漬することによって、カチオン性薬剤を保持させ、イオントフォレシス用電極として使用することができる。
また、例えば、口腔内などの唾液などの水分が存在する粘膜に貼付する場合は、水分を供給することなく、そのまま口腔内に貼付することもできる。すなわち、イオントフォレシス用電極組成物が唾液などの水分を吸収し、ゲルの状態となり、イオントフォレシス用電極として用いることも可能である。
【0023】
本発明のイオン電気導入法(イオントフォレシス)の1つの実施態様を、図1の模式図を用いて説明するが、本発明のイオン電気導入法は、図1の記載及び実施態様に限定されるものではない。本発明のイオントフォレシス用電極(11)と、薬剤を含有しない電極、例えば、金属電極(15)とを電源(14)に接続する。イオントフォレシス用電極(11)のイオントフォレシス用電極組成物側を、薬剤を浸透させる皮膚又は粘膜に接触させ、薬剤を含有しない電極も皮膚等に接触させる。この状態で金属(12)に電流を印加することにより、イオントフォレシス用電極組成物(13)からカチオン性薬剤が放出され、皮膚から吸収される。具体的には、図2に示すように、イオントフォレシス用電極組成物中のポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤は、静電相互作用により結合しており、この電極に電流が印加されることにより、電場が形成され、ポリアニオン性の水溶性多糖類からカチオン性薬剤が離脱する。そして離脱したカチオン性薬剤が、イオントフォレシス用電極組成物から放出され、皮膚から吸収される。本発明のイオントフォレシス用電極組成物において、ポリアニオン性の水溶性多糖類とカチオン性薬剤とが、静電相互作用により結合しているために、多量のカチオン性薬剤を担持することが可能になる。
【0024】
薬剤を含有しない電極としては、前記金属電極以外に、薬剤を含有していない本発明のイオントフォレシス用電極組成物を用いることもできる。また、アクリル酸−アクリルアミド共重合体、アクリルアミド重合体、寒天、ゼラチン、カラヤガム、トラガントガム、又はポリビニルアルコール等と、導電体からなる電極を用いることもできる。
【0025】
イオントフォレシスでは、通常、電極をシール等で皮膚に固定する。本発明のイオントフォレシス用電極(1)及び薬剤を含有しない電極は、従来のようにシール等で皮膚に固定してもよいが、本発明のイオントフォレシス用電極は、高い密着性を有するため、シール等での固定を行わずに、使用することができる。すなわち、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、皮膚へ密着し、関節等の可変部においても皮膚の動きに追従する貼付性を示し、そのような可変部においてもシール等での固定なしに使用することが可能である。換言すると、本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、薬剤の担持をするとともに、皮膚又は粘膜への密着性が高いことから、貼付シールとしての役割も果たすことができる。
【0026】
本発明のイオン電気導入法においては、電流として、連続直流電流、又はパルス直流電流などの直流電流、又は交流電流を用いることができるが、長時間の電流の印加ができることから交流電流が好ましい。
交流電流の電流密度としては、約0.01から1.0mA/cm2が好ましく、0.1から0.5mA/cm2がより好ましい。周波数は、好ましくは1Hz〜100kHz、より好ましくは、100Hz〜10kHz、最も好ましくは500Hz〜5kHzである。通電は双方向性形波通電が好ましく、矩形波のデューティサイクルは50〜95%が好ましく、60〜95%より好ましく、60〜90%がもっと好ましい。
【0027】
本発明のイオン電気導入法の対象動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ラット、又はマウスなどの哺乳動物を挙げることができる。イオン電気導入法により、これらの対象動物の皮膚、又は粘膜(例えば、口腔内粘膜)からカチオン性の薬剤を体内に導入することができる。
【0028】
[2]イオントフォレシス用電極の製造方法
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記イオントフォレシス用電極を製造する方法の1つの好ましい態様であり、イオントフォレシス用電極組成物に含まれるポリアニオン性水溶性多糖類、及び酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を用いて製造することができる。
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む。なお、堆積したポリアニオン性水溶性多糖類は、イオン結合及び水素結合によりゲル化している。
【0029】
本発明の製造方法においては、導電体として、酸化物による不動態被膜を形成することのできる導電体を用いる。導電体、特に金属には、酸化環境において酸化物により金属の表面に薄い不動態被膜を形成することのできるものが存在しており、前記不動態被膜が形成されることにより、金属は耐食性が付与され、腐食しにくくなる。酸化物による不動態被膜が形成されることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類との結合が強固になることができる。
前記導電体の具体例としては、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、又はタンタル合金を挙げることができ、特にはアルミニウム、又はアルミニウム合金が好ましい。
【0030】
前記酸化物による不動態被膜として、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金の場合は、薄いAl2O3の膜が金属の表面に形成され、不動態被膜となる。また、クロム又はクロム合金の場合は薄いCr2O3の膜が形成され、チタン又はチタン合金の場合は、薄いTiO2の膜が形成され、鉄及び鉄合金の場合は薄いFe2O3の膜が金属の表面に形成される。
【0031】
前記アルミニウム合金、クロム合金、チタン合金、鉄合金、ニオブ合金、又はタンタル合金は、それぞれの金属が40%以上含まれているものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。それぞれの金属に混合するそれ以外の金属としては、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、アルミニウム、クロム、チタン、又は鉄、或いはそれらの2つ以上の組み合わせを挙げることができる。例えば、アルミニウム合金としては、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、又はAl−Zn−Mg−Cu系合金を挙げることができる。また、鉄合金としては、ステンレス鋼を挙げることができる。
【0032】
一方、後述の比較例で示したように、貴金属、例えばプラチナ及び銀は、酸化物による不動態被膜を形成しにくいため、ポリアニオン性水溶性多糖類が、その表面に強固に結合することができず、本発明の製造方法における導電体としては、好ましくない。しかしながら、前記本発明のイオントフォレシス用電極における、導電体として、通常の方法でイオントフォレスト用電極組成物と結合させて使用することは、可能である。
【0033】
前記導電体のサイズは、特に限定されるものではなく、本発明の製造方法において製造されるイオントフォレスト用電極の用途に応じて、適宜選択されることができる。また、導電体の厚さも特に限定されるものではなく、例えば、0.001mm〜1mmの厚さの導電体を用いることができるが、イオントフォレスト用電極を皮膚に密着させて使用する場合、皮膚に沿って可動できるものが好ましいため、厚さが薄いほうが好ましく、例えば0.006〜0.05mmが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法においては、前記導電体を正極に接続し、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液中で、電気分解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積させ、強固に結合させることができる。
【0035】
電気分解に用いる電解槽(電解セル)は、用途に合わせて、適宜選択して用いることができ、例えば、ポリスチレン製の電解セルを用いて、電気分解を行うことができる。正極にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積させる導電体をアノードとして接続し、陰極にカソードを接続する。カソードの導電体は、電気分解を行うことのできるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、白金電極を用いることができる。電源も、通常の電気分解に用いるものを、適宜選択して使用することができる。また、電気分解の溶液の量も、導電体のサイズ等に応じて、調整することができる。
【0036】
電気分解の電解時間が長くなることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積量が増加するため、目的の堆積量を得るために電解時間を適宜調整することができる。例えば、通常10秒〜60分であり、好ましくは60秒〜10分である。
また、電気分解の電流密度が大きくなることにより、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積量が増加するため、目的の堆積量を得るために電流密度を適宜調製することができる。例えば、通常0.1〜100mA/cm2であり、好ましくは0.1〜20mA/cm2である。ポリアニオン性水溶性多糖類堆積物の厚さとしては、好ましくは0.05mm〜5cm、より好ましくは0.1mm〜1cm、最も好ましくは、0.2mm〜5mmである。
【0037】
ポリアニオン性水溶性多糖類の溶液中の濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜5%であり、より好ましくは0.01〜3%であり、最も好ましくは、0.1〜3%である。
【0038】
本発明の製造方法に用いることのできるポリアニオン性水溶性多糖類としては、前記酸化物による不動態被膜に結合することのできるものであり、例えばアルギン酸塩、ゲラン、ゲランガム、キサンタンキトサン、及びカラゲナンを挙げることができるが、特にはカルボキシル基を有するものが好ましく、例えばアルギン酸塩を挙げることができる。前記アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、又はアルギン酸カルシウム、を挙げることができるが、特にはアルギン酸ナトリウムが好ましい。
アルギン酸塩は、その分子内にカルボキシル基を有しており、後述のように、カルボキシル基を有していることにより、酸化物による不動態被膜との強固な結合を形成することが可能であり、またアルギン酸塩自体のゲル化にも有利であると考えられる。更に、ポリアニオン性の水溶性多糖類のうちでも、アルギン酸塩は、カルシウムなどの金属イオンで架橋し、ゲル化することが可能であり、架橋することにより、通電により電極の温度が上昇しても溶解することがない。
アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸(Mブロック)、及びそのC−5エピマーであるα−L−グルロン酸(Gブロック)が(1−4)結合した直鎖状のポリマーである。カルボキシル基が脱プロトン化したCOO−が酸化物とイオン結合することにより、導電体と強固な結合を形成する。また、アルギン酸同士は、カルボキシル基(COOH)の水素結合により結合し、ゲル化すると考えられる。
【0039】
前記ポリアニオン性水溶性多糖類を溶解する溶媒としては、例えば、アセトン若しくはエチルメチルケトンなどのケトン類、エタノール若しくはメタノールなどのアルコール類、又は水、あるいはそれらの混合物を挙げることができるが、特には水にポリアニオン性水溶性多糖類を溶解した水溶液が好ましい。
【0040】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記のポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程に加えて、導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程を含むことができる。すなわち、前記製造方法は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、を含むことができる。前記架橋工程(b)により、ポリアニオン性水溶性多糖類を、更に強固にゲル化することができる。
【0041】
前記架橋工程(b)においては、導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖を、金属イオンを用いて架橋する。金属イオンとしては、2価のカチオンが好ましく、例えばCa++を用いることができる。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mブロック)、及びそのC−5エピマーであるα−L−グルロン酸(Gブロック)が(1−4)結合した直鎖状のポリマーであり、6残基以上からなるGブロックが二価カチオン(例えば、Ca++)と安定な複合体を形成し、3次元のゲルを形成することができる。
具体的には、ポリアニオン性水溶性多糖の堆積したゲルを、二価カチオンの水溶液、例えば塩化カルシウム溶液に浸漬することによって、架橋することができる。
【0042】
本発明のイオントフォレシス用電極の製造方法は、前記のポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程(a)、及び架橋工程(b)に加えて、前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程を含むことができる。すなわち、前記製造方法は、(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程を含むことができる。
【0043】
前記カチオン性薬剤の結合工程(c)は、ポリアニオン性水溶性多糖類の堆積工程(a)と同時に行うことは困難であるが、前記架橋工程(b)の前、同時、又は後に行うことができる。本結合工程(c)においては、カチオン性薬剤を静電相互作用によって、ポリアニオン性水溶性多糖類に結合させる。
例えば、前記架橋工程(b)の前に、結合工程(c)を行う場合は、堆積工程(a)において、ゲル化したポリアニオン性水溶性多糖類を、カチオン性の薬剤を含む溶液に浸漬することによっても結合させることができる。また、前記堆積工程(a)の後に、電解槽にカチオン性の薬剤を添加し、アノードとカソードとを逆転させ、ゲル化したポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させることもできる。
また、前記架橋工程(b)と同時に、結合工程(c)を行う場合は、二価カチオンの溶液に、カチオン性の薬剤を混合することによって、金属イオンによる架橋と同時に、カチオン性の薬剤をポリアニオン性水溶性多糖類のゲルに結合させることができる。
更に、前記架橋工程(b)の後に、結合工程(c)を行う場合は、前記架橋工程(b)において得られた金属架橋ゲルを、カチオン性の薬剤を含む溶液に浸漬することによって結合させることができる。
【0044】
更に、本発明の製造方法によって得られた、イオントフォレシス用電極は、凍結乾燥できる。凍結乾燥は、凍結乾燥機を用い、常法により行うことができる。凍結乾燥することによって、長期保存が可能になり、また輸送が容易になる。凍結乾燥は、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物でも、カチオン性の薬剤を含まない状態のイオントフォレシス用電極組成物でも行うことができるが、ゲルに戻した場合に、薬剤を浸透させることなく使用できることから、カチオン性の薬剤を含んだ状態のイオントフォレシス用電極組成物を凍結乾燥することが、好ましい。
【0045】
《導電体とゲルとの密着性について》
本発明の製造方法によって、導電体とポリアニオン性水溶性多糖類とが、強固に結合することのできる機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。
本発明の製造方法に用いる導電体は、その表面に酸化物の不動態被膜を形成することのできるものである。前記酸化物は、弱酸性下でプラスに荷電しており、これにポリアニオン性水溶性多糖類のマイナスに荷電した基、例えばCOO−がイオン結合で結合していると考えられる。すなわち、前記のイオン結合によって、伝導体とポリアニオン性水溶性多糖類との界面が制御され、強固な結合を形成するものと考えられる。
一方、ポリアニオン性水溶性多糖類のゲルは、ポリアニオン性水溶性多糖類のプロトン化した基、例えばCOOHが水素結合することによって、形成されると考えられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し本発明の具体的な説明を行うが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
《実施例1》
本実施例1では、ポリアニオン性多糖類として、アルギン酸ナトリウムを用いて、イオントフォレシス用電極組成物を作製した。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、1%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液2gに、1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、長方形の型に流し込み、フィルム状にゲル化させた。得られたイオントフォレシス用電極ゲル組成物は、厚さが約0.5mmで、縦2.5cm×横4cmであった。このゲル組成物を超純水で十分に洗浄し、余分なカルシウム溶液を取り除いた。作製したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を図3に示す。密着性を調べるため、ヒトの皮膚に貼付した。このゲル組成物は、皮膚に対して充分な密着性を示した。関節部に貼付した場合も、関節の動きに追従し、皮膚への十分な密着性が得られた。
【0048】
《実施例2》
本実施例2では、ポリアニオン性多糖類としてアルギン酸ナトリウムを、金属電極としてアルミニウムを用いた、イオントフォレシス用電極を作製した。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、1%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液2gに、約1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、アルミ電極と一緒に、長方形の型に流し込み、フィルム状にゲル化させた。得られたイオントフォレシス用電極ゲル組成物は、厚さが約0.5mmで、縦2.5cm×横4cmであった。このイオントフォレシス用電極におけるゲル組成物を超純水で十分に洗浄し、余分なカルシウム溶液を取り除いた。作製したイオントフォレシス用電極を図4に示す。密着性を調べるため、ヒトの皮膚に貼付した。このゲル組成物は、皮膚に対して充分な密着性を示した。関節部に貼付した場合も、関節の動きに追従し、皮膚への十分な密着性が得られた。
【0049】
《実施例3》
本実施例3では、実施例1の手順に従って作製したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を、凍結乾燥し、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を作製した。
実施例1の手順により得られた、イオントフォレシス用電極ゲル組成物を、ディープフリーザーを用いて、−20℃で凍結した。凍結したイオントフォレシス用電極ゲル組成物を、凍結乾燥機(VirTis社製)にセットし、12時間で凍結乾燥を行い、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を得た。
【0050】
《実施例4》
本実施例4では、ブタの口腔粘膜における本発明のイオントフォレシス用電極組成物、及び凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物の密着性を検討した。
アルギン酸ナトリウムの水溶液の濃度を1%から、0.5%又は2%に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、0.5%イオントフォレシス用電極組成物及び2%イオントフォレシス用電極組成物を得た。また、アルギン酸ナトリウムの水溶液の濃度を1%から、0.5%又は2%に変更したことを除いては、実施例3の操作を繰り返し、0.5%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物及び2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を得た。
【0051】
前記4種類のイオントフォレシス用電極組成物を、ブタの口腔内粘膜に貼付し、密着性を観察した。ブタを麻酔し、0.5%イオントフォレシス用電極組成物、2%イオントフォレシス用電極組成物、0.5%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物、及び2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物をブタの口腔内に貼付した。2つの凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物は、特に水分を供給することなく、凍結乾燥した状態で貼付した。貼付直後、1時間後、及び2時間後の密着性を内視鏡を用いて観察した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、いずれの濃度のゲル組成物も、貼付直後及び1時間後においては、良好な密着性を示した。貼付2時間後においては、0.5、又は2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物を除いては、良好な密着性を示した。0.5、又は2%凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物は2時間後において、やや密着性が悪くなった。これは、乾燥した高濃度のイオントフォレシス用電極組成物では、口腔内の唾液のみでは充分にゲルにならなかったものと考えられる。従って、凍結乾燥イオントフォレシス用電極組成物では、使用前に水分を供給することが望ましいと考えられる。
【0054】
《実施例5》
本実施例5では、アルギン酸ナトリウムを用いたイオントフォレシス用電極組成物からの、リドカインの放出を、図6に記載の実験用セル(木下らの論文に記載:T.Kinoshita,T.Shibaji and M.Umino,J.Med.Dent.Sci.,50,71(2003))を用いて調べた。
まず、ポリアニオン性多糖類としてアルギン酸ナトリウムを、カチオン性薬剤としてリドカイン塩酸塩を用いて、薬剤を含むイオントフォレシス用電極組成物を作製した。アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度300〜400mPa・s)を、超純水に溶解させ、0.3%の水溶液を調製した。このアルギン酸ナトリウム水溶液に、1%濃度となるようにリドカイン塩酸塩を溶解させた。リドカイン塩酸塩含有アルギン酸水溶液8gに、1mol/Lの塩化カルシウム水溶液20mLを添加し、直径20mm、高さ10mmの円柱状長方形の型に流し込み、ゲル化させた(図5)。得られた円柱状ゲルは、超純水で充分洗浄し、余剰のカルシウム溶液を取り除いた後、1%のリドカイン塩酸塩水溶液中で保存した。得られたリドカイン含有イオントフォレシス用電極組成物は、図6に示すように、実験用システムのガラスセル(25)のドナー側(23)にセットした。ガラスセルのアクセプター側(24)に、3mLの超純水を入れ、その間には皮膚のモデルとしてセロファンフィルム(21)を配置した。試験電圧は、交流20V、デューティサイクル80%の矩形波で、60分間通電した。アクセプター側の超純水中のリドカイン塩酸塩濃度は、10分ごとに、20μLの液を採取し、超純水を用いて40倍に希釈した後、紫外可視分光光度計を用いて262nmの吸光度を測定し、濃度を算出した。対照として、電圧を印加しない場合の、アクセプター側へのリドカインの自然拡散による放出を測定した。結果を図7に示す。アクセプター側へのリドカインの放出は、電圧を印加しない自然拡散の場合と比較して、ほぼ2倍となった。
【0055】
《実施例6》
本実施例6では、導電体としてアルミニウムを用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。ポリスチレン製のセル(図8)を用いて、陽極のアルミニウムにアルギン酸を堆積させた。
まず、アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、粘度80〜120mPa・s)を超純水に溶解させ、0.5%の水溶液を調製した。次に、ポリスチレン製のセルに、調製したアルギン酸ナトリウム水溶液20mLを加えた。陽極に厚さ0.1mmのアルミニウム(ニラコ株式会社製)を用い、陰極に厚さ0.1mmの白金(ニラコ株式会社製)をセットした。電極間距離は10mmとし、電源には直流安定化電源(松定プレシジョン株式会社製、P4K−80)を用いた。電流密度を、0.5、1、1.5、又は3.0mA/cm2に設定し、それぞれ60、120、300、又は600秒間通電した。通電後の電極は、超純水で洗浄し、37℃に設定された乾燥機中で24時間乾燥した。
【0056】
《比較例1》
本比較例1では、導電体として白金を用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。
具体的には、陽極にアルミニウムに代えて、白金を用いたことを除いては、実施例6の操作を繰り返した。
【0057】
《比較例2》
本比較例1では、導電体として銀を用いて、イオントフォレシス用電極組成物を含むイオントフォレシス用電極を製造した。
具体的には、陽極にアルミニウムに代えて、銀を用いたことを除いては、実施例6の操作を繰り返した。
【0058】
前記実施例6のアルミニウム、比較例1の白金、及び比較例2の銀を導電体とした場合、前記の通電条件においては、通電後すべての金属(陽極)に堆積物を確認することができた。しかし、アルミニウムでは、アルギン酸の堆積物がアルミニウムに強固に結合していたが、白金及び銀では、超純水による洗浄によって堆積物が容易に剥離した。従って、以下の、堆積物の物性の解析は、実施例6のアルミニウムを用いたイオントフォレシス用電極について行った。
【0059】
〔アルミニウムを導電体として用いた場合の堆積物の特性〕
図9には、電流密度3.0mA/cm2で60、120、300、又は600秒間通電した後の、アルミニウムを用いた電極の外観を示す。通電によって、アルミ陽極電極に堆積物が確認され、その堆積量は通電時間に伴い増加した。
【0060】
図10には、電流密度0.5mA/cm2で60、120、300、又は600秒間通電し、アルギン酸を堆積させ、通電後に乾燥させた陽極表面のFT−IRスペクトルを示す。乾燥後の陽極表面は、赤外分光光度計(FT−IR:日本分光株式会社製、FT/IR−4100N)を用い、正反射法(入射角60度)によって反射スペクトルを測定した。
1600cm−1付近にカルボキシル基の非対称伸縮振動が検出されたことから、堆積物はアルギン酸であることが明らかとなった。通電時間の増加に伴い、1730cm−1付近にカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークが検出され、強度が増加した。これは、水の電気分解によって陽極でプロトンが生じたため局所的にpHが減少し、アルギン酸のカルボキシル基がプロトン化されたことを示す。プロトン化されたカルボキシル基は水素結合を形成し、アルギン酸が電極表面でゲル化したと考えられる。
【0061】
図11には、通電時間に対するアルミニウム電極へのアルギン酸堆積量を示す。アルギン酸の堆積量は、乾燥後の電極の重量を測定し、通電前後の重量変化によって算出した。通電時間が長くなるに従い、アルギン酸の堆積量は増加した。また、電流密度の増加に伴い、アルギン酸堆積量は増加した。
【0062】
図12には、電流密度0.5mA/cm2でアルギン酸を堆積したアルミニウム断面のSEM写真を示す。走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製、JSM−5310)を用いて、乾燥後の電極の断面を観察した。アルギン酸層の厚さは、60秒で3〜5μm、120秒で8〜10μm、300秒で18〜20μm、そして600秒で20〜22μm、であり、電解時間が増加するに従って厚くなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のイオントフォレシス用電極組成物は、局所麻酔薬を皮膚に効率よく吸収させることができ、手術における局所麻酔に用いることができる。また、インシュリンを含有させたイオントフォレシス用電極組成物は、糖尿病の治療に用いることができ、針を用いず薬剤を体内へ導入することができる。
【符号の説明】
【0064】
11・・・イオントフォレシス用電極;
12・・・金属;
13・・・イオントフォレシス用電極組成物;
14・・・電源;
15・・・金属電極;
21・・・セロファンフィルム;
22・・・ボルト;
23・・・ガラスセルのドナー側;
24・・・ガラスセルのアクセプター側;
25・・・ガラスセル;
26・・・白金プレート電極;
27・・・ウォーターバス;
28・・・アクリルプレート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオン性の水溶性多糖類を含む、イオントフォレシス用電極組成物。
【請求項2】
更にカチオン性薬剤を含む、請求項1に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項3】
ポリアニオン性の水溶性多糖類が、アルギン酸塩である、請求項1又は2に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項4】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである、請求項3に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項5】
凍結乾燥された、請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項6】
交流電流用である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物及び導電体を含むイオントフォレシス用電極。
【請求項8】
請求項7に記載のイオントフォレシス用電極に交流電流を通電することを特徴とする、イオン電気導入法。
【請求項9】
正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項10】
(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び
(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項11】
(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、
(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び
(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項12】
前記導電体が、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、及びタンタル合金からなる群から選択される金属である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアニオン性水溶性多糖類がアルギン酸塩である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項14】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである、請求項9〜13のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項1】
ポリアニオン性の水溶性多糖類を含む、イオントフォレシス用電極組成物。
【請求項2】
更にカチオン性薬剤を含む、請求項1に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項3】
ポリアニオン性の水溶性多糖類が、アルギン酸塩である、請求項1又は2に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項4】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである、請求項3に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項5】
凍結乾燥された、請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項6】
交流電流用である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオントフォレシス用電極組成物及び導電体を含むイオントフォレシス用電極。
【請求項8】
請求項7に記載のイオントフォレシス用電極に交流電流を通電することを特徴とする、イオン電気導入法。
【請求項9】
正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項10】
(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、及び
(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項11】
(a)正極に接続した、酸化物の不動態被膜を形成することのできる導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液に浸漬させ、そして電解することにより、導電体にポリアニオン性水溶性多糖類を堆積する工程、
(b)前記導電体に堆積したポリアニオン性水溶性多糖類を、金属イオンを用いて架橋する工程、及び
(c)前記ポリアニオン性水溶性多糖類にカチオン性薬剤を結合させる工程、
を含む、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項12】
前記導電体が、アルミニウム、アルミニウム合金、クロム、クロム合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、及びタンタル合金からなる群から選択される金属である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアニオン性水溶性多糖類がアルギン酸塩である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【請求項14】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムである、請求項9〜13のいずれか一項に記載の、イオントフォレシス用電極の製造方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図12】
【図2】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図12】
【公開番号】特開2010−137048(P2010−137048A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260161(P2009−260161)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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