説明

イオントフォレーシス装置

【課題】皮膚とイオン選択性膜の密着性を高めて、薬物イオンの皮膚への送達量を多くする。
【解決手段】直流電源12と、この直流電源の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体20及び他方に接続された非作用側電極構造体40とから構成され、前記作用側電極構造体に保持される薬物イオンを、前記直流電源からの電圧によって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置10であって、前記作用側電極構造体は、前記薬物イオンと同種の極性の、前記陽極又は陰極に接続された作用側電極24と、この作用側電極と電気的に接続され、前記薬物イオンとなる薬物を保持する薬液保持部30と、前記薬液保持部と電気的に接続され、前記薬物イオンと同種のイオンを選択的に通過させる作用側イオン選択性膜32と、を少なくとも有してなるイオントフォレーシス装置を生体の皮膚に装着する際に、前記作用側イオン選択性膜と皮膚の間に、粘性液体70を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物イオンを、電圧を印加することによって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置にかかり、特に、生体の皮膚とイオントフォレーシス装置のイオン選択性膜の密着性を高めて、薬物イオンをむらなく送達することが可能なイオントフォレーシス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物イオンを、電圧を印加することによって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置としては、特許文献1に記載されるように、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を有し、作用側電極構造体のイオン交換膜から薬液イオンを、皮膚や粘膜に投与させるものがある。
【0003】
この特許文献1に記載されるイオントフォレーシス装置における作用側電極構造体は、皮膚や粘膜との接触側から、イオン交換膜、薬液保持部、イオン交換膜、電解液保持部、作用側電極を、この順で積層して構成されている。
【0004】
又、非作用側電極構造体は、皮膚や粘膜との接触側から、イオン交換膜、電解液保持部、イオン交換膜、電解液保持部及び非作用側電極を、この順で積層して構成されている。
【0005】
この特許文献1記載のイオントフォレーシス装置では、生体の皮膚とイオン交換膜は密着させるもので、間に物が入らない方が良いとされていたが、特に皮膚の凹凸が大きい場合には、イオン交換膜と皮膚に隙間が生じて密着が十分でなく、イオン交換膜の性能を十分に発揮できず、薬物イオンを十分に皮膚に送達することができないという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】WO03037425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、イオン交換膜等のイオン選択性膜と皮膚の隙間を無くして密着性を高め、薬物イオンの皮膚への送達量を多くさせることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、直流電源と、この直流電源の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体及び他方に接続された非作用側電極構造体とから構成され、前記作用側電極構造体に保持される薬物イオンを、前記直流電源からの電圧によって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置であって、前記作用側電極構造体は、前記薬物イオンと同種の極性の、前記陽極又は陰極に接続された作用側電極と、この作用側電極と電気的に接続され、前記薬物イオンとなる薬物を保持する薬液保持部と、前記薬液保持部と電気的に接続され、前記薬物イオンと同種のイオンを選択的に通過させる作用側イオン選択性膜と、を少なくとも有してなり、前記作用側イオン選択性膜の生体側に、粘性液体が保持された生体接触部を設けることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明は、又、直流電源と、この直流電源の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体及び他方に接続された非作用側電極構造体とから構成され、前記作用側電極構造体に保持される薬物イオンを、前記直流電源からの電圧によって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置であって、前記非作用側電極構造体は、前記薬物イオンと反対の極性の、前記陽極又は陰極に接続された非作用側電極と、この作用側電極と電気的に接続され、電解液を保持する電解液保持部と、この電解液保持部と電気的に接続され、前記薬物イオンと反対のイオンを選択的に通過させる非作用側イオン選択性膜と、を少なくとも有してなり、前記非作用側イオン選択性膜の生体側に、粘性液体が保持された生体接触部を設けることにより、同じく上記課題を解決したものである。
【0010】
前記生体接触部を、リリースライナーによって被覆して、取扱を容易とすることができる。
【0011】
前記粘性液体は、水に水溶性高分子を混合したものとすることができる。
【0012】
又、前記粘性液体に、薬液保持部の薬物と同じ薬物又は電解液保持部の電解液と同じ電解液を含めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、イオン選択性膜と皮膚の間に粘性液体を介在させるようにしたので、イオン選択性膜と皮膚の密着性を高めて、薬物イオンの皮膚へ送達量を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図1〜図4を参照して、本発明の実施の形態の例に係るイオントフォレーシス装置10について詳細に説明する。
【0015】
本発明の第1実施形態に係るイオントフォレーシス装置10は、直流電源12と、この直流電源12の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体20及び他方に接続された非作用側電極構造体40とから構成され、作用側電極構造体20に保持される薬物イオンを、直流電源12からの電圧によって生体に投与するものである。
【0016】
このイオントフォレーシス装置10において、作用側電極構造体20及び非作用側電極構造体40は、薬液保持部等の構成部材を、重ね合わせた、いずれも樹脂シートからなる基端支持体14と中間支持体16との間に挟持し、あるいは中間支持体16及び先端支持体18に形成される貫通孔に収納して構成されている。基端支持体14と中間支持体16とは同一の大きさとされ、又、先端支持体18はこれらより大きく形成されている。
【0017】
基端支持体14、中間支持体16及び先端支持体18は、いずれも図4において下側面に粘着層14A、16A、18Aが設けられていて、相互に粘着されるとともに、先端支持体18の粘着層18Aは、皮膚又は粘膜に粘着するようにされている。
【0018】
ここで、中間支持体16は、作用側電極構造体20の一部、及び、非作用側電極構造体40の一部を構成する一枚のシート状部材とされている。
【0019】
同様に、先端支持体18は、作用側電極構造体20の一部、及び、非作用側電極構造体40の一部を構成する一枚のシート状部材とされている。
【0020】
作用側電極構造体20は、直流電源12における薬物イオンと同種の極性の、陽極又は陰極に接続された作用側電極24と、この作用側電極24の前面に配置されたセパレータ26と、このセパレータ26の前面に配置され、薬物イオンと反対符号のイオンを選択的に通過させる中間イオン選択性膜28と、この中間イオン選択性膜28の前面に配置され、薬物イオンとなる薬物を保持する薬液保持部30と、薬液保持部30の前面に配置され、薬物イオンと同種のイオンを選択的に通過させる作用側イオン選択性膜32とを、この順で積層して構成されている。
【0021】
作用側電極24は、直流電源12に接続され、且つ、樹脂シート36の前面に印刷により形成された膜状の炭素を含む材料からなる作用側集電体24Aと、この作用側集電体24Aの前面に電気的に接続して配置された作用側分極性電極24Bとから構成されている。
【0022】
なお、「電気的に接続」とは、直接接続している場合のみでなく、導電体、例えば導電性接着剤等を介して接続する場合も含むものである(以下同じ)。
【0023】
中間支持体16は、作用側分極性電極24Bとほぼ等しい厚さの樹脂材料からなり、且つ、この作用側分極性電極24Bの平面形状における外形とほぼ同一形状の作用側中間貫通孔21Aを有し、作用側分極性電極24Bは、作用側中間貫通孔21A内に収納されている。
【0024】
又、先端支持体18は、薬液保持部30とほぼ等しい厚さの樹脂材料からなり、作用側分極性電極24Bの平面形状における外形とほぼ同一形状の作用側先端貫通孔22Aを有し、この作用側先端貫通孔22A内に、薬液保持部30が収納されている。
【0025】
非作用側電極構造体40は、基端支持体14側から、直流電源12における、薬物イオンと反対の極性の、陽極又は陰極に接続された非作用側電極44と、この非作用側電極44の前面に配置され、電解液を保持する電極側電解液保持部46と、同様の電解液を保持する先端側電解液保持部48と、薬物イオンと反対符号のイオンを選択的に通過させる非作用側イオン選択性膜50とを、この順で積層して構成されている。
【0026】
非作用側電極44は、樹脂シート36の前面に、作用側電極24の作用側集電体24Aと離間して膜状に印刷された炭素を含む材料からなる非作用側集電体44Aと、この非作用側集電体44Aの前面に電気的に接続して配置された非作用側分極性電極44Bとから構成されている。
【0027】
非作用側分極性電極44Bは、中間支持体16と等しい厚さとされ、これに形成された非作用側中間貫通孔41Aに収納されている。又、先端側電解液保持部48は、先端支持体18と等しい厚さとされ、先端支持体18に形成された非作用側先端貫通孔42Aに収納されている。
【0028】
この実施例において、貫通孔22A、21A、41A、42Aはいずれも円形とされ、更に、作用側電極24、セパレータ26、中間イオン選択性膜28、薬液保持部30及び作用側イオン選択性膜32も、円形膜状あるいはシート状とされている。
【0029】
同様に、非作用側電極44、電極側電解液保持部46、先端側電解液保持部48及び非作用側イオン選択性膜50も、円形の膜あるいはシート状とされている。
【0030】
図2、図3に拡大して示されるように、樹脂シート36には、作用側電極24における作用側集電体24A及び非作用側電極44における非作用側集電体44Aに、連続的に膜状に印刷して形成された炭素を含む材料からなる作用側導線19A及び非作用側導線19Bがそれぞれ接続されている。
【0031】
これらの作用側導線19A及び非作用側導線19Bは、その先端においてコネクタ19Cを介して直流電源12に接続されている。又、作用側導線19A及び非作用側導線19Bの樹脂シート36と反対側面には、例えばポリイミドフィルムからなる絶縁フィルム19Dが粘着されている。この絶縁フィルム19Dは、作用側導線19A及び非作用側導線19Bの、樹脂シート36と接触する範囲及び樹脂シート36からの突出部分の一定範囲を覆う長さとされている。
【0032】
この実施形態においては、図1、図4に示されるように、円形の各部材を作用側電極構造体20と非作用側電極構造体40のそれぞれにおいて厚さ方向に重ねて配置し、図5に示されるように一体的にして、イオントフォレーシス装置10が構成されている。
【0033】
図4の符号56は接着剤を示し、この接着剤56は、絶縁フィルム19Dにおける作用側及び非作用側集電体24A、44Aの間の中間部分を横断して配置され、絶縁フィルム19Dと中間支持体16を接着し、絶縁フィルム19Dと中間支持体16との間を作用側と非作用側とに隔絶させるものである。
【0034】
又、図1の符号58は作用側イオン選択性膜32及び非作用側イオン選択性膜50を覆って先端支持体18の前面に剥離可能に取り付けられたリリースライナーを示す。
【0035】
次に、上記各構成要素の材料、成分等について説明する。
【0036】
この実施形態において、薬液保持部30は、PP(ポリプロピレン)不織布に薬物を含む粘性液体を含浸させて構成されている。又、薬液保持部30に含浸された薬物は、水等の溶媒に溶解するなどにより薬効成分が陽又は陰のイオン(薬物イオンに解離する薬剤(薬剤の前駆体を含む))を含有し、薬効成分が陽のイオンに解離する薬剤としては、麻酔薬である塩酸リドカイン、麻酔薬である塩酸モルヒネ等を例示することができ、薬効成分が陰イオンに解離する薬剤としては、ビタミン剤であるアスコルビン酸等を例示することができる。
【0037】
又、上記の他に、ホルモン、DNA、RNA、蛋白質、アミノ酸、ミネラル類、リポソームも含むものとする。
【0038】
非作用側電極構造体40における電極側電解液保持部46は、PP不織布に電解液(詳細後述)を含む粘性液体を含浸させたものである。又、先端側電解液保持部48も、PP不織布に同様の電解液を含む粘性液体を含浸させたものである。
【0039】
電極側電解液保持部46及び先端側電解液保持部48に用いられる電解液は電解質を主成分とし、この電解質は、水の電解反応(陽極での酸化及び陰極での還元)よりも酸化又は還元され易い電解質、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)やアスコルビン酸ナトリウム等の医薬剤、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸等の有機酸及び/又はその塩を使用することが特に好ましく、これにより酸素ガスや水素ガスの発生を抑制することが可能であり、又、溶媒に溶解した際に緩衝電解液となる組合せの複数種の電解質を配合することにより、通電中におけるpHの変動を抑制することができる。
【0040】
ここで、薬液を含有する粘性液体は、薬液、水及び水溶性高分子を含有するものであり、電解液を含有する粘性液体は、電解液、水及び水溶性高分子を含有するものである。
【0041】
水溶性高分子は増粘剤として機能するものである。水溶性高分子を適量配合して上記電解液又は薬液の粘度を調整する。
【0042】
ここで用いる水溶性高分子としては、水に溶解する高分子であれば特に制限されない。水溶性高分子は、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子に分類することができ、いずれであってもよい。
【0043】
また、水溶性高分子は、電気的性質に応じて、アニオン性の水溶性高分子、カチオン性の水溶性高分子、非イオン性の高分子に層別することもできる。pHが変化することによるゲル化を防止する上では、非イオン性の水溶性高分子の使用が好ましい。
【0044】
水溶性高分子の具体例としては、セルロース系高分子、多糖類系高分子、水溶性タンパク質、デンプン系高分子、アルギン酸系高分子、アクリル系高分子、ビニル系高分子、及びグリコール系高分子等が挙げられる。本発明においては、これらの水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0045】
セルロース系高分子としては、メチルセルロース(非イオン性)、エチルセルロース(非イオン性)、カルボキシメチルセルロース(アニオン性)、ヒドロキシエチルセルロース(非イオン性)、ヒドロキシプロピルセルロース(非イオン性)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(非イオン性)、ニトロセルロース(非イオン性)、カチオン化セルロース(カチオン性)等が挙げられる。
【0046】
多糖類系高分子としては、アラビアガム(アニオン性)、カラギーナン(アニオン性)、グアガム(非イオン性)、ローカストビーンガム(非イオン性)、ペクチン(非イオン性)、トラガント、トウモロコシデンプン(非イオン性)、キサンタンガム(アニオン性)、デキストリン(非イオン性)、カチオン化グアガム(カチオン性)、ヒアルロン酸ナトリウム(アニオン性)、コンドロイチン硫酸ナトリウムA、コンドロイチン硫酸ナトリウムB、コンドロイチン硫酸ナトリウムC(いずれもアニオン性)、キトサン、キトサン誘導体、キチン、キチン誘導体等が挙げられる。
【0047】
水溶性タンパク質としては、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン、BSA等が挙げられる。
【0048】
デンプン系高分子としては、リン酸化デンプン等が挙げられる。
【0049】
アルギン酸系高分子としては、アルギン酸ナトリウム(アニオン性)、アルギン酸プロピレングリコール(非イオン性)等が挙げられる。
【0050】
アクリル系高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウム(アニオン性)、カルボキシビニルポリマー(非イオン性)、ポリアクリル酸アミド(非イオン性)、アクリルアミド・アクリレート共重合体(アニオン性)等が挙げられる。
【0051】
ビニル系高分子としては、ポリビニルピロリドン(非イオン性)、ポリビニルアルコール(非イオン性)、ビニルピロリドンビニル酢酸共重合体(PVP/VA共重合体)(非イオン性)等が挙げられる。
【0052】
また、グリコール系高分子としては、ポリエチレングリコール(分子量が2万〜500万のもの)(いずれも非イオン性)、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの共重合体(PEO−PPO−PEO、Pluronic、Proxamer)等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、セルロース系高分子の少なくとも一種を用いるのがより好ましく、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロースを用いるのが特に好ましい。
【0054】
ヒドロキシアルキルセルロースは、公知の方法、例えば、アルカリセルロースに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを反応させることにより製造することができる。また、市販品として入手したものをそのまま使用することもできる。
【0055】
水溶性高分子の使用量は、用いる水溶性高分子が水に均一に溶解する範囲であれば、特に制限されない。水溶性高分子の使用量を、用いる水溶性高分子が水に均一に溶解する範囲内において増減することにより、得られる粘性液体の粘度を所望の値にすることができる。水溶性高分子の使用量は、粘性液体全体に対して、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%である。得られる粘性液体の粘度は、通常0.05Pa・s以上である。
【0056】
作用側電極24における作用側分極性電極24B及び非作用側電極44における非作用側分極性電極44Bは、共に、活性炭、好ましくは炭素繊維又は炭素繊維紙により形成されている導電性基材を主成分として構成されている。作用側及び非作用側分極性電極24B、44Bとして、活性炭繊維のみを用いる場合は、活性炭繊維からなる布及びフェルトを組み合わせて層を形成すると良い。又、導電性基材に対して、例えばバインダーポリマー中に活性炭を分散させた層を積層させても良い。上記活性炭は比表面積が10m/g以上のものを用いてもよい。
【0057】
作用側分極性電極24Bには、薬液保持部30に保持されている薬物と同一の薬物を含む粘性液体が含浸され、又、非作用側分極性電極44Bには、電極側電解液保持部46に保持される電解液と同一の電解液を含む粘性液体が含浸されている。
【0058】
作用側電極24における作用側集電体24A及び非作用側電極44における非作用側集電体44Aは、共に、PET(ポリエチレンテレフタレート)素材に炭素と接着剤とを混ぜたものを印刷して形成されている。
【0059】
なお、作用側集電体24A、非作用側集電体44Aの材料としては導電性を有するものであればよく、炭素以外に、金、白金、銀、銅、亜鉛等の導電性の金属を用いても良い。又、印刷によることなく、炭素、金等の導電性素材そのものを集電体としても良い。又、作用側導線19A、非作用側導線19Bの材料についても同様である。
【0060】
セパレータ26は、PP不織布に、薬液保持部30に保持された薬物と同一の薬物を含有する粘性液体を含浸させたものであり、作用側分極性電極24Bと中間イオン選択性膜28との間に介在させることによって、両者の物理的な接触を防止するものである。
【0061】
作用側イオン選択性膜32は、薬物イオンと同一符号のイオンを選択的に通過させるようにイオン交換基が導入されたイオン交換樹脂を含んで構成されている。即ち、作用側選択性膜32は、薬液保持部30の薬液がカチオンに解離するときは陽イオン交換樹脂を含み、アニオンに解離するときは陰イオン交換樹脂を含んでいる。
【0062】
中間イオン選択性膜28は、薬物イオンと反対符号のイオンを選択的に通過させるようにイオン交換基が導入されたイオン交換樹脂を含有して構成されている。即ち、中間イオン選択性膜28は、薬液保持部30の薬液がカチオンに解離するときは、陰イオン交換樹脂を含み、アニオンに解離するときは陽イオン交換樹脂を含んでいる。
【0063】
非作用側イオン選択性膜50は、中間イオン選択性膜28と同様に、薬物イオンと反対符号のイオンを選択的に通過させるようにイオン交換基が導入されたイオン交換樹脂を含んで構成されている。即ち、非作用側イオン選択性膜50は、薬液保持部30の薬液がカチオンに解離するときは陰イオン交換樹脂を含み、アニオンに解離するときは陽イオン交換樹脂を含んでいる。
【0064】
上記陽イオン交換樹脂としては、ポリスチレン樹脂やアクリル酸系樹脂等の炭化水素系樹脂やパーフルオロカーボン骨格を有するフッ素系樹脂等の3次元的な網目構造を持つ高分子に、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等の陽イオン交換基(対イオンが陽イオンである交換基)が導入されたイオン交換樹脂が制限無く使用することができる。
【0065】
又、上記陰イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂と同様の3次元的な網目構造を持つ高分子に、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピルジル基、イミダゾール基、4級ピリジウム基、4級イミダゾリウム基等の陽イオン交換基(対イオンが陰イオンである交換基)が導入されたイオン交換樹脂が制限無く使用できる。
【0066】
直流電源12としては、ボタン電池、あるいは、例えば特開平11−067236号公報、米国特許公開公報2004/0185667A1号公報、米国特許第6855441号公報等に開示される薄型の電池を使用することができ、本実施形態の構造に限定されるものでない。
【0067】
次に、イオントフォレーシスによって投与すべき薬物を塩酸リドカインとした場合のイオントフォレーシス装置10における各構成部分の具体例について説明する。
【0068】
基端支持体14、中間支持体16、先端支持体18は、それぞれ厚さ約1mmの発泡ポリウレタンシートを用いた。
【0069】
作用側集電体24A及び非作用側集電体44AはPET素材に炭素と接着剤を混ぜたものを印刷した印刷電極とした。又、直径17mmの円形で、厚さ1.0mmの活性炭繊維からなる活性炭繊維層を構成した。この活性炭繊維層に水とHPC(ヒドロキシプロピルセルロース、例えば日本曹達(株)のH−Type)及び塩酸リドカインを混合した粘性液体を含浸させて作用側分極性電極24Bとした。この際、HPCは2質量%以上混合した。又、活性炭繊維層に、水とHPC及びNaClを混合した粘性液体を含浸させて非作用側分極性電極44Bを構成した。各々の重量は120〜125mgとした。
【0070】
セパレータ26は、直径18mm、厚さ0.1mmのPP不織布から構成して、水にHPC及び塩酸リドカインを混合した粘性液体を含浸させた。中間イオン選択性膜28は、直径21mm、厚さ30μmのアニオン交換膜とした。
【0071】
薬液保持部30は、厚さ1.0mm、直径17mmのPP不織布に水とHPC及び塩酸リドカインを混合した粘性液体を含浸させたものであり、重量は250〜320mgとした。
【0072】
作用側イオン選択性膜32は、厚さ30μm、直径19mmのカチオン交換膜とした。この作用側イオン選択性膜32の面積は、電流値を考慮して決定する。例えば電流値が1mAの場合は、直径19mmで、電流密度が0.35mA/cmとなる。ここでは、薬効のあるカチオン(リドカイン)をイオン交換基に置換しておく。
【0073】
非作用側電極構造体40における電極側電解液保持部46は、非作用側分極性電極44Bで用いたと同一のNaClを含有する粘性液体をPP不織布に含浸した構成とし、直径18mm、厚さ100μmとした。又、先端側電解液保持部48は、直径が17mm、厚さ1mmのPP不織布に前記と同様の粘性液体を含浸させたものであり、重量は250〜320mgとした。又、非作用側イオン選択性膜50は、厚さ30μm、直径21mmとし、塩化物イオンをイオン交換基に置換されたアニオン交換膜とした。
【0074】
イオントフォレーシス装置10を生体の皮膚に装着する際には、リリースライナー58をはがしてイオン選択性膜32、50を露出させた後、イオントフォレーシス装置10側及び/又は皮膚側に粘性液体70を直接塗布する。この粘性液体70は、水(イオン交換水)に、上述した水溶性高分子を均一に溶解させたものである。
【0075】
この粘性液体70により皮膚とイオン選択性膜32、50の隙間が無くなって密着性が向上し、イオン選択性膜の性能を発揮でき、薬物保持部30中の薬物イオンの皮膚への送達量を多くすることができる。
【0076】
本実施形態によれば、装着直前に粘性液体を塗布するだけなので、イオントフォレーシス装置10の構成が簡略である。
【0077】
次に、皮膚との間に介在させる粘性液体をイオントフォレーシス装置10に持たせて、皮膚への装着を容易とした本発明の第2実施形態について説明する。
【0078】
この第2実施形態は、第1実施形態の同様のイオントフォレーシス装置10において、図7(図1に対応)、図8(図4に対応)及び図9(図5に対応)に示す如く、作用側及び非作用側のイオン選択性膜32、50とリリースライナー58の間に、水に水溶性高分子を均一に溶解させた粘性液体70でなる作用側及び非作用側の生体接触部34、52を、それぞれ設けたものである。
【0079】
作用側生体接触部34は、粘性液体70を作用側イオン選択性膜32の前面に塗布して構成されている。又、非作用側生体接触部52は、粘性液体70を非作用側イオン選択性膜50の前面に塗布して構成されている。なお、これらの塗布された粘性液体の上に、リリースライナー58を貼り付けることによって、粘性液体が拡がってしまうことを抑制するため、塗布量は各々7μL−25μL好ましくは7μLと少な目にするのが良い。
【0080】
イオントフォレーシス装置10を生体の皮膚に装着する際には、リリースライナー58をはがすことによって、図6に示した如く、イオン選択性膜32、50に塗布された粘性液体70でなる生体接触部34、52を、イオン選択性膜32、50と皮膚の間に介在させる。
【0081】
第2実施形態においては、作用側及び非作用側生体接触部34、52の粘性液体70をリリースライナー58によって被覆しており、粘性液体70が外部に露出していないので、保存中に乾燥したり、必要のない所に付着したりせず、取扱が容易である。
【0082】
次に、本発明の第3実施形態について説明する、本実施形態は、第1又は第2実施形態において、皮膚との接触用の粘性液体70に、薬液保持部30に含まれる薬液(作用側生体接触部34の場合)や、電解液保持部46、48に含まれる電解液(非作用側生体接触部52の場合)を含ませたものである。
【0083】
ここで、作用側生体接触部34を構成する粘性液体は、薬液、水及び水溶性高分子を含有し、非作用側生体接触部52を構成する粘性液体は、電解液、水及び水溶性高分子を含有する。
【0084】
本実施形態によれば、薬物や電解液を一層効率良く皮膚と接触させることができる。
【0085】
なお、上記第1〜第3実施形態においては、粘性液体をそのままイオン選択性膜32、50に塗布する構成について説明したが、粘性液体を皮膚とイオン選択性膜との間に介在させる方法はかかる構成に限定されず、例えば、粘性液体を多孔質体に含浸させてもよい。この多孔質体としては、繊維材料、発泡性材料、およびセラミック製多孔質体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好適である。より具体的には、ビニロン、PP(ポリプロピレン)不織布であることが好ましい。
【0086】
なお、前記実施形態においては、いずれも、上記作用側電極構造体20において、セパレータ26が設けられているが、これは、作用側分極性電極24Bと中間イオン選択性膜28との直接的な接触を防止し、通電時に中間イオン選択性膜28の近傍において塩素ガスなどの気泡が発生し、これにより電極構造体内における通電性が損なわれることを防止するためのものであり、他の手段によって直接接触を防止できる場合は不要である。また、作用側分極性電極24Bと中間イオン選択性膜28とが直接的に接触したとしても、通電時に中間イオン選択性膜28の近傍において塩素ガスなどの気泡が発生しない場合には、セパレータ26などの両者の直接接触を防止するための手段は不要である。
【0087】
又、電極側電解液保持部46と先端側電解液保持部48とは、PP不織布に、電解液を含む粘性液体を含浸させた構成において共通であるので、一体的に構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態に係るイオントフォレーシス装置を示す分解斜視図
【図2】同イオントフォレーシス装置における作用側電極及び非作用側電極部分を拡大して示す平面図
【図3】図2のIII−III線に沿う拡大断面図
【図4】同イオントフォレーシス装置を示す分解断面図
【図5】同イオントフォレーシス装置の組立状態を示す断面図
【図6】同イオントフォレーシス装置の装着状態を示す断面図
【図7】本発明の第2実施形態に係るイオントフォレーシス装置を示す分解斜視図
【図8】同イオントフォレーシス装置を示す分解断面図
【図9】同イオントフォレーシス装置の組立状態を示す断面図
【符号の説明】
【0089】
10…イオントフォレーシス装置
12…直流電源
20…作用側電極構造体
24…作用側電極
30…薬液保持部
32…作用側イオン選択性膜
34…作用側生体接触部
40…非作用側電極構造体
44…非作用側電極
46…電極側電解液保持部
48…先端側電解液保持部
50…非作用側イオン選択性膜
52…非作用側生体接触部
56…接着剤
58…リリースライナー
70…粘性液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、この直流電源の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体及び他方に接続された非作用側電極構造体とから構成され、前記作用側電極構造体に保持される薬物イオンを、前記直流電源からの電圧によって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置であって、
前記作用側電極構造体は、
前記薬物イオンと同種の極性の、前記陽極又は陰極に接続された作用側電極と、
この作用側電極と電気的に接続され、前記薬物イオンとなる薬物を保持する薬液保持部と、
前記薬液保持部と電気的に接続され、前記薬物イオンと同種のイオンを選択的に通過させる作用側イオン選択性膜と、
を少なくとも有してなり、
前記作用側イオン選択性膜の生体側に、粘性液体が保持された生体接触部が設けられていることを特徴とするイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
直流電源と、この直流電源の陽極及び陰極の一方に接続された作用側電極構造体及び他方に接続された非作用側電極構造体とから構成され、前記作用側電極構造体に保持される薬物イオンを、前記直流電源からの電圧によって生体に投与するためのイオントフォレーシス装置であって、
前記非作用側電極構造体は、前記薬物イオンと反対の極性の、前記陽極又は陰極に接続された非作用側電極と、
この作用側電極と電気的に接続され、電解液を保持する電解液保持部と、
この電解液保持部と電気的に接続され、前記薬物イオンと反対のイオンを選択的に通過させる非作用側イオン選択性膜と、
を少なくとも有してなり、
前記非作用側イオン選択性膜の生体側に、粘性液体が保持された生体接触部が設けられていることを特徴とするイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
前記生体接触部が、リリースライナーによって被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項4】
前記粘性液体が、水に水溶性高分子を混合したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項5】
前記粘性液体に、薬液保持部の薬物と同じ薬物又は電解液保持部の電解液と同じ電解液が含められていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−282900(P2007−282900A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114554(P2006−114554)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】