イオントフォレーシス装置
【課題】切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがないものを提供する。
【解決手段】イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体20と、作用側電極構造体20を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体40とを備え、支持体40はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置が提供される。
【解決手段】イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体20と、作用側電極構造体20を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体40とを備え、支持体40はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシス装置に関する。特に本発明は、薬物イオンをイオントフォレーシスにより経皮的に投与するイオントフォレーシス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間または動物の身体の所望部位における皮膚または粘膜などの生体表面に対して、薬物イオンをイオントフォレーシスにより経皮的に投与するイオントフォレーシス装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。なお、イオントフォレーシス(iontophoresis)は、イオントフォレーゼ、イオン導入法、イオン浸透療法などと呼ばれることもある。
【特許文献1】特再2003−037425号公報(国際公開番号 WO2003/037425)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されているイオントフォレーシス装置において、イオントフォレーシス電極部(作用側電極部)およびグランド電極部(非作用側電極部)の各々の構成部材である電極板、電解液保持部、カチオン交換膜およびアニオン交換膜などを支持する支持体は、例えば樹脂などの安価かつ汎用性に優れた材料をダイロールまたはトムソン刃などを用いて打ち抜くなどの方法で成型したものを用いるのが一般的である。ところで、上記支持体は、少なくともイオントフォレーシス装置を使用するときに皮膚と当接する側の面に、皮膚との接着状態を安定させるために粘着層が形成されることが好ましい。上記支持体を成形した後に、粘着層を当該支持体に形成するのは難しいので、粘着層は、支持体に供される材料の一方の面に予め塗布されていることが望ましい。
【0004】
しかしながら、粘着層が塗布された材料を打ち抜いて成型した場合、打ち抜きに用いたダイロールまたはトムソン刃などに粘着層の一部などのカスが付着する場合がある。このようなカスは、異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極部または非作用側電極部に混入すると当該装置の機能を損なうおそれがある。また、トムソン刃等における刃先に粘着剤が付着して、切れ難くなるという不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、電解液を保持する非作用側電極構造体と、作用側電極構造体および非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体とを備え、支持体はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置が提供される。このようなイオントフォレーシス装置によれば、当該支持体の加工時における切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体を非接触で加工するので、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。
【0006】
上記のイオントフォレーシス装置において、支持体は板状であって、粘着層を介して複数積層されてもよい。この場合、上記のように支持体はレーザーにより切断加工されているので、複数の支持体が積層された場合でもそれぞれの支持体の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入するのを防ぐことができる。
【0007】
本発明の第2の形態においては、イオン化した薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、電解液を保持する非作用側電極構造体と、作用側電極構造体および非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体とを備えるイオントフォレーシス装置の製造方法であって、支持体をレーザーにより切断加工するイオントフォレーシス装置の製造方法が提供される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【0009】
また、本明細書における「薬物」は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効または薬理作用を有し、病気の治療、回復または予防、健康の増進または維持、病状または健康状態などの診断、あるいは美容の増進または維持などの目的で生体に投与される物質を意味する。
【0010】
また、本明細書における「薬物イオン」は、薬物がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬効または薬理作用を担うイオンを意味する。薬物の薬物イオンへの解離は、薬物を水、アルコール類、酸、またはアルカリなどの溶媒に溶解させることにより生じるものであってもよく、さらに電圧の印加またはイオン化剤の添加等により生じるものであってもよい。
【0011】
また、本明細書における「薬液」は、薬物イオンを含む流動物をいい、薬物を溶媒に溶解させた溶液、および、薬物が液状である場合における原液などの液体状態のものだけでなく、薬物の少なくとも一部が薬物イオンに解離する限り、薬物を溶媒等に懸濁または乳濁させたもの、および、軟膏状またはペースト状に調製されたものなど種々の状態のものを含む。
【0012】
また、本明細書における「第1導電型」は、プラスまたはマイナスの電気極性を意味し、「第2導電型」は、第1導電型と反対の導電型(マイナスまたはプラス)を意味する。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明のイオントフォレーシス装置によれば、支持体の加工時における切断カスの発生が抑えられるので、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体を非接触で加工するので、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。また、支持体を板状として、粘着層を介して複数積層した場合に、複数の支持体が積層された場合でもそれぞれの支持体の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、イオントフォレーシス装置10の上面図である。図2は、図1のa−a断面における概略断面図である。図1および図2に示すように、イオントフォレーシス装置10は、支持体40と、電極部材50と、作用側電極構造体20と、非作用側電極構造体30と、電源56とを備える。
【0016】
支持体40は、例えば発泡ポリウレタンなどの柔軟な素材で形成された板状の第一支持体41、第二支持体42、および第三支持体43から成り、これらが積層して接着される。第二支持体42および第三支持体43には、所定形状(本実施形態では円形)の2つの開口が形成され、これら2つの開口の一方には作用側電極構造体20の構成部品が、他方には非作用側電極構造体30の構成部品がそれぞれ配される。支持体40の詳細な構成および加工方法については以下において別途説明する。
【0017】
電極部材50は、基体51、一対の電極部52、53および一対の給電部54、55を有する。一対の電極部52、53および一対の給電部54、55は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムから成りシート状で可撓性を有する基体51上に、例えば銀および塩化銀またはカーボンなどの導電性を有する導電材料を含有する導電塗料により形成される。給電部54の一端は電極部52と、他端は電源56の第1導電型の端子と、それぞれ電気的に接続する。また、給電部55の一端は電極部53と、他端は電源56の第2導電型の端子と、それぞれ電気的に接続する。電極部材50は、電極部52、53をイオントフォレーシス装置10における皮膚との当接面45の側に向けて、第一支持体41と第二支持体42との間に挟持される。
【0018】
作用側電極構造体20は、第一支持体41の側から当接面45の側に向かって、第1電解液保持部21、第2導電型のイオン選択性膜22、薬液保持部24、および、第1導電型のイオン選択性膜25をこの順に有する。非作用側電極構造体30は、第一支持体41の側から当接面45の側に向かって、第2電解液保持部31、第1導電型のイオン選択性膜32、第3電解液保持部34、および、第2導電型のイオン選択性膜35をこの順に有する。電極部材50の電極部52は、作用側電極構造体20の第1電解液保持部21と当接し、また、電極部53は、非作用側電極構造体30の第2電解液保持部31と当接する。
【0019】
作用側電極構造体20において、第1電解液保持部21は、例えば天然繊維、人工繊維の織布または不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体であり、電解液を保持する。この電解液は、水の電気分解反応(水の酸化および還元反応)と比較して水の酸化還元電位より低い酸化還元電位を有する酸化および還元しやすい化合物が溶解した溶液が用いられる。第2導電型のイオン選択性膜22は、第1電解液保持部21の当接面45の側に設けられ、第2導電型のイオンを選択的に透過する。薬液保持部24は、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を、例えば天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体に含浸させて保持する。第1導電型のイオン選択性膜25は、薬液保持部24の当接面45の側に設けられ、第1導電型のイオンを選択的に透過する。
【0020】
非作用側電極構造体30において、第2電解液保持部31および第3電解液保持部34は、例えば天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体であり、電解液を保持する。第1導電型のイオン選択性膜32は、第2電解液保持部31の当接面45の側に設けられ、第1導電型のイオンを選択的に透過する。第3電解液保持部34は、第1導電型のイオン選択性膜32の当接面45の側に設けられる。第2導電型のイオン選択性膜35は、第3電解液保持部34の当接面45の側に設けられ、第2導電型のイオンを選択的に透過する。なお、第2電解液保持部31、および第3電解液保持部34が保持する電解液は、作用側電極構造体20の第1電解液保持部21が保持する電解液と同様に、水の電気分解反応(水の酸化および還元反応)と比較して水の酸化還元電位より低い酸化還元電位を有する酸化および還元しやすい化合物が溶解した溶液が用いられる。
【0021】
イオントフォレーシス装置10は、支持体40の当接面45、第1導電型のイオン選択性膜25および第2導電型のイオン選択性膜35が皮膚に当接した状態で、電源56から作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に対してイオントフォレーシスを適用するための電力が供給される(電圧がかけられる)と、作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30の間に皮膚を介して電流が流れて使用状態となる。このとき、上記のように支持体40が柔軟な素材で形成されているので、イオントフォレーシス装置10を凹凸のある皮膚表面へも容易に当接保持することができ、また、使用者が動いた場合でも当接面45が皮膚から離れにくい。イオントフォレーシス装置10は、上記使用状態において、薬液保持部24に保持された薬物イオンを使用者に対して経皮的に投与する。
【0022】
以下において、本実施形態のイオントフォレーシス装置10に用いる支持体40の構成および加工方法について説明する。図3は、支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図4は、シート部材64の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0023】
図3に示すように、帯状のシート部材64は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。図4に示すように、シート部材64は、基材シート67の一方の面に均一に粘着層71が形成されており、粘着層71における基材シート67と反対側に剥離ライナー75が配される。シート部材64は、基材シート67側を上にしてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。図4において、粘着層71の厚みを強調して示したが、粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。
【0024】
図3に示すように、シート部材64は、レーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれて、レーザーにより切断加工される。すなわち、テーブル93上に導かれたシート部材64は、レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92によって切り込み61が形成される。このとき、レーザービーム92のエネルギーを調整することにより、切り込み61は、基材シート67および粘着層71に形成されて、剥離ライナー75には形成されない。したがって、切り込み61は、シート部材64を貫通しないので、切り込み61で切り込まれた部分が直ちにシート部材64から外れてしまうことがない。切り込み61が形成されたシート部材64は、後工程において不要な部分が除去されて支持体40に加工される。
【0025】
このように、イオントフォレーシス装置10に用いる支持体40をレーザーにより切断加工することで、支持体40を機械加工した場合に発生する可能性のある切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。また、上記のように支持体40を同じ厚さの複数の部材を積層して形成することで、イオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30の容積や形状などを変更したい場合、加工する形状および積層枚数を変更するだけで支持体40の大きさおよび形状を変更することができる。このとき、積層する部材の各々は上記のようにレーザーにより切断加工されているので、複数の部材が積層された場合でもそれぞれの部材の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20または非作用側電極構造体30に混入するのを防ぐことができる。
【0026】
図3に示すレーザービームカッティング装置90は、照射ヘッド91をシート部材64の面方向に移動させながらシート部材64の所望の位置に切り込み61を形成することができる。したがって、上記の第一支持体41、第二支持体42および第三支持体43を含む支持体40を始めとしてシート部材64から種々の形状の部材を切断加工することができる。レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92の光源は、例えば炭酸ガスレーザーなど一般的なレーザーによる熱加工に利用されるレーザーを用いることができる。
【0027】
図5は、他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図6は、シート部材65の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0028】
図5に示すように、帯状の基材シート67は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。このとき、基材シート67は、レーザービームカッティング装置90の手前で、粘着剤塗布装置70により接着剤などの粘着材料が塗布される。これにより、基材シート67は、図6に示すように、その一方の面である上面に均一に粘着層71が塗布されてシート部材65が形成される。図6において、粘着層71の厚みを強調して示したが、実際には粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。
【0029】
図5に示すように、シート部材65は、レーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれて、レーザーにより切断加工される。すなわち、テーブル93上に導かれたシート部材65は、レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92によって切り込み62が形成される。切り込み62が形成されたシート部材65は、後工程において不要な部分が除去されて支持体40に加工される。
【0030】
このような加工方法によれば、上記と同様に、支持体40を機械加工した場合に発生する可能性のある切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。
【0031】
図5に示すレーザービームカッティング装置90は、照射ヘッド91をシート部材65の面方向に移動させながらシート部材65の所望の位置に切り込み62を形成することができる。したがって、上記の第一支持体41、第二支持体42および第三支持体43を含む支持体40を始めとしてシート部材65から種々の形状の部材を切断加工することができる。レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92の光源は、例えば炭酸ガスレーザーなど一般的なレーザーによる熱加工に利用されるレーザーを用いることができる。
【0032】
図7は、さらに他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図8は、シート部材66の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0033】
図7に示すように、帯状の基材シート67は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれて冷却トンネル85に導かれる。このとき、基材シート67は、冷却トンネル85の手前で、粘着剤塗布装置70によりその一方の面(上面)に接着剤などの粘着材料が塗布される。さらに、基材シート67における粘着材料が塗布された面と同じ面上に水膜形成装置80により水が塗布される。粘着材料および水が塗布された基材シート67は、冷却トンネル85の内部を通過する間に表面が冷却される。これにより、図8に示すように、基材シート67の一方の面に均一な粘着層71および氷結層86を基材シート67の側からこの順に有するシート部材66が形成される。
【0034】
図8において、粘着層71および氷結層86の層の厚みを強調して示したが、実際には、粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。また、氷結層86は粘着層71における基材シート67の側と反対側の面全体を覆う程度に薄く形成されることが好ましい。
【0035】
図9から図12は、打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。図9に示すように、打ち抜きカッティング装置95は、ストッパー96、押し型97およびテーブル99を備える。ストッパー96および押し型97は、シート部材66を挟んでテーブル99と対向して配される。押し型97は、テーブル99と対向する面に、トムソン刃98を備える。図8に示すシート部材66は、打ち抜きカッティング装置95のテーブル99上に導かれて、打ち抜きカッティング装置95のトムソン刃98により切断加工される。
【0036】
図10に示すように、テーブル99上に導かれたシート部材66は、まず、ストッパー96によってテーブル99上に押し付けられて固定される。次に、図11に示すように、トムソン刃98を備えた押し型97がテーブル99上のシート部材66に押し付けられて、シート部材66が切り込まれる。これにより、図12に示すように、シート部材66には切り込み63が形成される。
【0037】
図13は、打ち抜きカッティング装置95により切り込み63が形成されたシート部材66の上面図である。図13に示すように、切り込み63は、シート部材66に不連続に形成されており、複数の切り込み63の間には、複数の切り残し69が設けられている。このように切り残し69を設けることにより、打ち抜きカッティング装置95のトムソン刃98がシート部材66を切り込んで(図11)から再び持ち上がるとき(図12)に、シート部材66の一部がトムソン刃98に付着したまま持ち上がるのを防ぐことができる。切り込み63が形成されたシート部材66は、後工程において切り残し69が切り取られて不要な部分が除去されることにより支持体40に加工される。
【0038】
このように、イオントフォレーシス装置10に用いる支持体40を、表面に氷結層86が形成されたシート部材66からトムソン刃98により打抜加工することで、トムソン刃98に粘着層71の一部などが付着するのを抑えることができる。したがって、このようなトムソン刃98への付着物が異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。
【0039】
上記シート部材66において、氷結層86に代えて、粘着層71を形成する粘着材料に不要である溶液(粘着材料が水に対して不溶であれば水でもよい)を薄く塗布してもよい。また、水膜形成装置80による塗布に代えて水または上記溶液をスプレーにより粘着層71上に吹き付けてもよい。
【0040】
以上、本実施形態によれば、支持体40の切断時における切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体40を非接触で加工する場合は、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。さらに、支持体40を打抜加工する場合でも、表面に氷結層86または溶液層が形成されたシート部材66からトムソン刃98により打抜加工することで、トムソン刃98に粘着層71の一部などが付着するのを抑えることができる。
【0041】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】イオントフォレーシス装置10の上面図である。
【図2】図1のa−a断面における概略断面図である。
【図3】支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図4】シート部材64の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図5】他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】シート部材65の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図7】さらに他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図8】シート部材66の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図9】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図10】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図11】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図12】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図13】打ち抜きカッティング装置95により切り込み63が形成されたシート部材66の上面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 イオントフォレーシス装置、20 作用側電極構造体、21 第1電解液保持部、22 第2導電型のイオン選択性膜、24 薬液保持部、25 第1導電型のイオン選択性膜、30 非作用側電極構造体、31 第2電解液保持部、32 第1導電型のイオン選択性膜、34 第3電解液保持部、35 第2導電型のイオン選択性膜、40 支持体、41 第一支持体、42 第二支持体、43 第三支持体、45 当接面、50 電極部材、51 基体、52、53 電極部、54、55 給電部、56 電源、60 保持ロール、61、62、63 切り込み、64、65、66 シート部材、67 基材シート、69 切り残し、70 粘着剤塗布装置、71 粘着層、75 剥離ライナー、80 水膜形成装置、85 冷却トンネル、86 氷結層、90 レーザービームカッティング装置、91 照射ヘッド、92 レーザービーム、93 テーブル、95 打ち抜きカッティング装置、96 ストッパー、97 押し型、98 トムソン刃、99 テーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシス装置に関する。特に本発明は、薬物イオンをイオントフォレーシスにより経皮的に投与するイオントフォレーシス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間または動物の身体の所望部位における皮膚または粘膜などの生体表面に対して、薬物イオンをイオントフォレーシスにより経皮的に投与するイオントフォレーシス装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。なお、イオントフォレーシス(iontophoresis)は、イオントフォレーゼ、イオン導入法、イオン浸透療法などと呼ばれることもある。
【特許文献1】特再2003−037425号公報(国際公開番号 WO2003/037425)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に開示されているイオントフォレーシス装置において、イオントフォレーシス電極部(作用側電極部)およびグランド電極部(非作用側電極部)の各々の構成部材である電極板、電解液保持部、カチオン交換膜およびアニオン交換膜などを支持する支持体は、例えば樹脂などの安価かつ汎用性に優れた材料をダイロールまたはトムソン刃などを用いて打ち抜くなどの方法で成型したものを用いるのが一般的である。ところで、上記支持体は、少なくともイオントフォレーシス装置を使用するときに皮膚と当接する側の面に、皮膚との接着状態を安定させるために粘着層が形成されることが好ましい。上記支持体を成形した後に、粘着層を当該支持体に形成するのは難しいので、粘着層は、支持体に供される材料の一方の面に予め塗布されていることが望ましい。
【0004】
しかしながら、粘着層が塗布された材料を打ち抜いて成型した場合、打ち抜きに用いたダイロールまたはトムソン刃などに粘着層の一部などのカスが付着する場合がある。このようなカスは、異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極部または非作用側電極部に混入すると当該装置の機能を損なうおそれがある。また、トムソン刃等における刃先に粘着剤が付着して、切れ難くなるという不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、電解液を保持する非作用側電極構造体と、作用側電極構造体および非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体とを備え、支持体はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置が提供される。このようなイオントフォレーシス装置によれば、当該支持体の加工時における切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体を非接触で加工するので、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。
【0006】
上記のイオントフォレーシス装置において、支持体は板状であって、粘着層を介して複数積層されてもよい。この場合、上記のように支持体はレーザーにより切断加工されているので、複数の支持体が積層された場合でもそれぞれの支持体の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入するのを防ぐことができる。
【0007】
本発明の第2の形態においては、イオン化した薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、電解液を保持する非作用側電極構造体と、作用側電極構造体および非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体とを備えるイオントフォレーシス装置の製造方法であって、支持体をレーザーにより切断加工するイオントフォレーシス装置の製造方法が提供される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【0009】
また、本明細書における「薬物」は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効または薬理作用を有し、病気の治療、回復または予防、健康の増進または維持、病状または健康状態などの診断、あるいは美容の増進または維持などの目的で生体に投与される物質を意味する。
【0010】
また、本明細書における「薬物イオン」は、薬物がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬効または薬理作用を担うイオンを意味する。薬物の薬物イオンへの解離は、薬物を水、アルコール類、酸、またはアルカリなどの溶媒に溶解させることにより生じるものであってもよく、さらに電圧の印加またはイオン化剤の添加等により生じるものであってもよい。
【0011】
また、本明細書における「薬液」は、薬物イオンを含む流動物をいい、薬物を溶媒に溶解させた溶液、および、薬物が液状である場合における原液などの液体状態のものだけでなく、薬物の少なくとも一部が薬物イオンに解離する限り、薬物を溶媒等に懸濁または乳濁させたもの、および、軟膏状またはペースト状に調製されたものなど種々の状態のものを含む。
【0012】
また、本明細書における「第1導電型」は、プラスまたはマイナスの電気極性を意味し、「第2導電型」は、第1導電型と反対の導電型(マイナスまたはプラス)を意味する。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明のイオントフォレーシス装置によれば、支持体の加工時における切断カスの発生が抑えられるので、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体を非接触で加工するので、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。また、支持体を板状として、粘着層を介して複数積層した場合に、複数の支持体が積層された場合でもそれぞれの支持体の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体および非作用側電極構造体に混入するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、イオントフォレーシス装置10の上面図である。図2は、図1のa−a断面における概略断面図である。図1および図2に示すように、イオントフォレーシス装置10は、支持体40と、電極部材50と、作用側電極構造体20と、非作用側電極構造体30と、電源56とを備える。
【0016】
支持体40は、例えば発泡ポリウレタンなどの柔軟な素材で形成された板状の第一支持体41、第二支持体42、および第三支持体43から成り、これらが積層して接着される。第二支持体42および第三支持体43には、所定形状(本実施形態では円形)の2つの開口が形成され、これら2つの開口の一方には作用側電極構造体20の構成部品が、他方には非作用側電極構造体30の構成部品がそれぞれ配される。支持体40の詳細な構成および加工方法については以下において別途説明する。
【0017】
電極部材50は、基体51、一対の電極部52、53および一対の給電部54、55を有する。一対の電極部52、53および一対の給電部54、55は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムから成りシート状で可撓性を有する基体51上に、例えば銀および塩化銀またはカーボンなどの導電性を有する導電材料を含有する導電塗料により形成される。給電部54の一端は電極部52と、他端は電源56の第1導電型の端子と、それぞれ電気的に接続する。また、給電部55の一端は電極部53と、他端は電源56の第2導電型の端子と、それぞれ電気的に接続する。電極部材50は、電極部52、53をイオントフォレーシス装置10における皮膚との当接面45の側に向けて、第一支持体41と第二支持体42との間に挟持される。
【0018】
作用側電極構造体20は、第一支持体41の側から当接面45の側に向かって、第1電解液保持部21、第2導電型のイオン選択性膜22、薬液保持部24、および、第1導電型のイオン選択性膜25をこの順に有する。非作用側電極構造体30は、第一支持体41の側から当接面45の側に向かって、第2電解液保持部31、第1導電型のイオン選択性膜32、第3電解液保持部34、および、第2導電型のイオン選択性膜35をこの順に有する。電極部材50の電極部52は、作用側電極構造体20の第1電解液保持部21と当接し、また、電極部53は、非作用側電極構造体30の第2電解液保持部31と当接する。
【0019】
作用側電極構造体20において、第1電解液保持部21は、例えば天然繊維、人工繊維の織布または不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体であり、電解液を保持する。この電解液は、水の電気分解反応(水の酸化および還元反応)と比較して水の酸化還元電位より低い酸化還元電位を有する酸化および還元しやすい化合物が溶解した溶液が用いられる。第2導電型のイオン選択性膜22は、第1電解液保持部21の当接面45の側に設けられ、第2導電型のイオンを選択的に透過する。薬液保持部24は、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を、例えば天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体に含浸させて保持する。第1導電型のイオン選択性膜25は、薬液保持部24の当接面45の側に設けられ、第1導電型のイオンを選択的に透過する。
【0020】
非作用側電極構造体30において、第2電解液保持部31および第3電解液保持部34は、例えば天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、あるいはゲルなどの適当な吸収性をもつ担体であり、電解液を保持する。第1導電型のイオン選択性膜32は、第2電解液保持部31の当接面45の側に設けられ、第1導電型のイオンを選択的に透過する。第3電解液保持部34は、第1導電型のイオン選択性膜32の当接面45の側に設けられる。第2導電型のイオン選択性膜35は、第3電解液保持部34の当接面45の側に設けられ、第2導電型のイオンを選択的に透過する。なお、第2電解液保持部31、および第3電解液保持部34が保持する電解液は、作用側電極構造体20の第1電解液保持部21が保持する電解液と同様に、水の電気分解反応(水の酸化および還元反応)と比較して水の酸化還元電位より低い酸化還元電位を有する酸化および還元しやすい化合物が溶解した溶液が用いられる。
【0021】
イオントフォレーシス装置10は、支持体40の当接面45、第1導電型のイオン選択性膜25および第2導電型のイオン選択性膜35が皮膚に当接した状態で、電源56から作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に対してイオントフォレーシスを適用するための電力が供給される(電圧がかけられる)と、作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30の間に皮膚を介して電流が流れて使用状態となる。このとき、上記のように支持体40が柔軟な素材で形成されているので、イオントフォレーシス装置10を凹凸のある皮膚表面へも容易に当接保持することができ、また、使用者が動いた場合でも当接面45が皮膚から離れにくい。イオントフォレーシス装置10は、上記使用状態において、薬液保持部24に保持された薬物イオンを使用者に対して経皮的に投与する。
【0022】
以下において、本実施形態のイオントフォレーシス装置10に用いる支持体40の構成および加工方法について説明する。図3は、支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図4は、シート部材64の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0023】
図3に示すように、帯状のシート部材64は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。図4に示すように、シート部材64は、基材シート67の一方の面に均一に粘着層71が形成されており、粘着層71における基材シート67と反対側に剥離ライナー75が配される。シート部材64は、基材シート67側を上にしてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。図4において、粘着層71の厚みを強調して示したが、粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。
【0024】
図3に示すように、シート部材64は、レーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれて、レーザーにより切断加工される。すなわち、テーブル93上に導かれたシート部材64は、レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92によって切り込み61が形成される。このとき、レーザービーム92のエネルギーを調整することにより、切り込み61は、基材シート67および粘着層71に形成されて、剥離ライナー75には形成されない。したがって、切り込み61は、シート部材64を貫通しないので、切り込み61で切り込まれた部分が直ちにシート部材64から外れてしまうことがない。切り込み61が形成されたシート部材64は、後工程において不要な部分が除去されて支持体40に加工される。
【0025】
このように、イオントフォレーシス装置10に用いる支持体40をレーザーにより切断加工することで、支持体40を機械加工した場合に発生する可能性のある切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。また、上記のように支持体40を同じ厚さの複数の部材を積層して形成することで、イオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30の容積や形状などを変更したい場合、加工する形状および積層枚数を変更するだけで支持体40の大きさおよび形状を変更することができる。このとき、積層する部材の各々は上記のようにレーザーにより切断加工されているので、複数の部材が積層された場合でもそれぞれの部材の加工時に生じた切断カスが累積的にイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20または非作用側電極構造体30に混入するのを防ぐことができる。
【0026】
図3に示すレーザービームカッティング装置90は、照射ヘッド91をシート部材64の面方向に移動させながらシート部材64の所望の位置に切り込み61を形成することができる。したがって、上記の第一支持体41、第二支持体42および第三支持体43を含む支持体40を始めとしてシート部材64から種々の形状の部材を切断加工することができる。レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92の光源は、例えば炭酸ガスレーザーなど一般的なレーザーによる熱加工に利用されるレーザーを用いることができる。
【0027】
図5は、他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図6は、シート部材65の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0028】
図5に示すように、帯状の基材シート67は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれてレーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれる。このとき、基材シート67は、レーザービームカッティング装置90の手前で、粘着剤塗布装置70により接着剤などの粘着材料が塗布される。これにより、基材シート67は、図6に示すように、その一方の面である上面に均一に粘着層71が塗布されてシート部材65が形成される。図6において、粘着層71の厚みを強調して示したが、実際には粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。
【0029】
図5に示すように、シート部材65は、レーザービームカッティング装置90のテーブル93上に導かれて、レーザーにより切断加工される。すなわち、テーブル93上に導かれたシート部材65は、レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92によって切り込み62が形成される。切り込み62が形成されたシート部材65は、後工程において不要な部分が除去されて支持体40に加工される。
【0030】
このような加工方法によれば、上記と同様に、支持体40を機械加工した場合に発生する可能性のある切断カスの発生が抑えられる。したがって、このような切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。
【0031】
図5に示すレーザービームカッティング装置90は、照射ヘッド91をシート部材65の面方向に移動させながらシート部材65の所望の位置に切り込み62を形成することができる。したがって、上記の第一支持体41、第二支持体42および第三支持体43を含む支持体40を始めとしてシート部材65から種々の形状の部材を切断加工することができる。レーザービームカッティング装置90の照射ヘッド91から照射されるレーザービーム92の光源は、例えば炭酸ガスレーザーなど一般的なレーザーによる熱加工に利用されるレーザーを用いることができる。
【0032】
図7は、さらに他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図8は、シート部材66の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【0033】
図7に示すように、帯状の基材シート67は、保持ロール60にロール状に保持されており、その一端が解きほどかれて冷却トンネル85に導かれる。このとき、基材シート67は、冷却トンネル85の手前で、粘着剤塗布装置70によりその一方の面(上面)に接着剤などの粘着材料が塗布される。さらに、基材シート67における粘着材料が塗布された面と同じ面上に水膜形成装置80により水が塗布される。粘着材料および水が塗布された基材シート67は、冷却トンネル85の内部を通過する間に表面が冷却される。これにより、図8に示すように、基材シート67の一方の面に均一な粘着層71および氷結層86を基材シート67の側からこの順に有するシート部材66が形成される。
【0034】
図8において、粘着層71および氷結層86の層の厚みを強調して示したが、実際には、粘着層71は基材シート67の上面に粘着力が十分確保できる程度に非常に薄く形成されることが望ましい。また、氷結層86は粘着層71における基材シート67の側と反対側の面全体を覆う程度に薄く形成されることが好ましい。
【0035】
図9から図12は、打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。図9に示すように、打ち抜きカッティング装置95は、ストッパー96、押し型97およびテーブル99を備える。ストッパー96および押し型97は、シート部材66を挟んでテーブル99と対向して配される。押し型97は、テーブル99と対向する面に、トムソン刃98を備える。図8に示すシート部材66は、打ち抜きカッティング装置95のテーブル99上に導かれて、打ち抜きカッティング装置95のトムソン刃98により切断加工される。
【0036】
図10に示すように、テーブル99上に導かれたシート部材66は、まず、ストッパー96によってテーブル99上に押し付けられて固定される。次に、図11に示すように、トムソン刃98を備えた押し型97がテーブル99上のシート部材66に押し付けられて、シート部材66が切り込まれる。これにより、図12に示すように、シート部材66には切り込み63が形成される。
【0037】
図13は、打ち抜きカッティング装置95により切り込み63が形成されたシート部材66の上面図である。図13に示すように、切り込み63は、シート部材66に不連続に形成されており、複数の切り込み63の間には、複数の切り残し69が設けられている。このように切り残し69を設けることにより、打ち抜きカッティング装置95のトムソン刃98がシート部材66を切り込んで(図11)から再び持ち上がるとき(図12)に、シート部材66の一部がトムソン刃98に付着したまま持ち上がるのを防ぐことができる。切り込み63が形成されたシート部材66は、後工程において切り残し69が切り取られて不要な部分が除去されることにより支持体40に加工される。
【0038】
このように、イオントフォレーシス装置10に用いる支持体40を、表面に氷結層86が形成されたシート部材66からトムソン刃98により打抜加工することで、トムソン刃98に粘着層71の一部などが付着するのを抑えることができる。したがって、このようなトムソン刃98への付着物が異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することによりイオントフォレーシス装置10の機能が損なわれることがない。
【0039】
上記シート部材66において、氷結層86に代えて、粘着層71を形成する粘着材料に不要である溶液(粘着材料が水に対して不溶であれば水でもよい)を薄く塗布してもよい。また、水膜形成装置80による塗布に代えて水または上記溶液をスプレーにより粘着層71上に吹き付けてもよい。
【0040】
以上、本実施形態によれば、支持体40の切断時における切断カスが異物としてイオントフォレーシス装置10の作用側電極構造体20および非作用側電極構造体30に混入することにより当該装置の機能が損なわれることがない。また、支持体40を非接触で加工する場合は、粘着剤の付着による切れ難さは生じない。さらに、支持体40を打抜加工する場合でも、表面に氷結層86または溶液層が形成されたシート部材66からトムソン刃98により打抜加工することで、トムソン刃98に粘着層71の一部などが付着するのを抑えることができる。
【0041】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】イオントフォレーシス装置10の上面図である。
【図2】図1のa−a断面における概略断面図である。
【図3】支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図4】シート部材64の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図5】他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】シート部材65の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図7】さらに他の実施形態に係る支持体40の製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図8】シート部材66の厚み方向の断面を拡大した概略断面図である。
【図9】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図10】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図11】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図12】打ち抜きカッティング装置95におけるシート部材66の切断手順を模式的に示す概略断面図である。
【図13】打ち抜きカッティング装置95により切り込み63が形成されたシート部材66の上面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 イオントフォレーシス装置、20 作用側電極構造体、21 第1電解液保持部、22 第2導電型のイオン選択性膜、24 薬液保持部、25 第1導電型のイオン選択性膜、30 非作用側電極構造体、31 第2電解液保持部、32 第1導電型のイオン選択性膜、34 第3電解液保持部、35 第2導電型のイオン選択性膜、40 支持体、41 第一支持体、42 第二支持体、43 第三支持体、45 当接面、50 電極部材、51 基体、52、53 電極部、54、55 給電部、56 電源、60 保持ロール、61、62、63 切り込み、64、65、66 シート部材、67 基材シート、69 切り残し、70 粘着剤塗布装置、71 粘着層、75 剥離ライナー、80 水膜形成装置、85 冷却トンネル、86 氷結層、90 レーザービームカッティング装置、91 照射ヘッド、92 レーザービーム、93 テーブル、95 打ち抜きカッティング装置、96 ストッパー、97 押し型、98 トムソン刃、99 テーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、
前記薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、
電解液を保持する非作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体および前記非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体と
を備え、
前記支持体はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記支持体は板状であって、前記粘着層を介して複数積層された請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
イオン化した薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、
電解液を保持する非作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体および前記非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体と
を備えるイオントフォレーシス装置の製造方法であって、
前記支持体をレーザーにより切断加工するイオントフォレーシス装置の製造方法。
【請求項1】
イオン化した薬物を投与するイオントフォレーシス装置であって、
前記薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、
電解液を保持する非作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体および前記非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体と
を備え、
前記支持体はレーザーにより切断加工されているイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記支持体は板状であって、前記粘着層を介して複数積層された請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
イオン化した薬物を含む薬液を保持する作用側電極構造体と、
電解液を保持する非作用側電極構造体と、
前記作用側電極構造体および前記非作用側電極構造体の少なくとも一方を支持し、一方の面に粘着層を有する支持体と
を備えるイオントフォレーシス装置の製造方法であって、
前記支持体をレーザーにより切断加工するイオントフォレーシス装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−543(P2008−543A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175662(P2006−175662)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】
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