説明

イオントフォレーシス装置

【課題】従来のゲル状の薬物組成物を用いるイオントフォレーシス装置に比して、より簡便に製造することができるイオントフォレーシス装置を提供する。
【解決手段】第1の電極11と、薬物イオン、水および水溶性高分子を含有する粘性液体を、多孔質体に含浸させた含浸物を保持する薬液保持部12とを有する作用側電極構造体10、第2の電極21と、電解液を保持する電解液保持部22とを有する非作用側電極構造体20、並びに、給電線31,32を介して、第1の電極11と第2の電極21に両端を接続された電源30とを備えるイオントフォレーシス装置1A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシス(iontophoresis)により各種のイオン性薬剤を経皮的に投与するときに使用する装置(イオントフォレーシス装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントフォレーシスは、プラス又はマイナスのイオンに解離した薬物(薬物イオン)を電圧により駆動して経皮的に生体内に移行させる技術であり、患者に対する負担が少なく、薬物の投与量の制御性に優れる等の利点を有している。
【0003】
本発明に関連して、特許文献1には、特定の分子構造を有するペプチド化合物及び水を含む、イオントフォレーシスによる経皮又は経粘膜投与のための医薬組成物が開示されている。
【0004】
またこの文献の実施例においては、カルボキシビニルポリマー(CVP)をイオン交換水に分散・溶解させ、さらにトリエチルアミンを加えて中和・ゲル化させて得られるポリマーゲルを用いてイオントフォレーシスを行う例が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−61973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなポリマーゲルを得るには中和・ゲル化する操作が必要になることから、製造工程が複雑になる。
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、簡略な製造工程により製造可能なイオントフォレーシス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、第1の電極と、薬物組成物を保持する薬液保持部とを有する作用側電極構造体、第2の電極と、電解液を保持する電解液保持部とを有する非作用側電極構造体、並びに、給電線を介して、第1の電極と第2の電極に両端を接続された電源とを備えるイオントフォレーシス装置において、薬物イオン、水及び水溶性高分子を含有する粘性液体を多孔質体に含浸させた含浸物を前記薬液保持部に保持させることにより、従来のゲル状の薬物組成物を用いる方法に比して、より簡便にイオントフォレーシス装置を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(6)のイオントフォレーシス装置が提供される。
(1)第1の電極と、薬物イオン、水および水溶性高分子を含有する粘性液体を多孔質体に含浸させた含浸物を保持する薬液保持部とを有する作用側電極構造体、第2の電極と、電解液を保持する電解液保持部とを有する非作用側電極構造体、並びに、給電線を介して、第1の電極と第2の電極に両端を接続された電源とを備えるイオントフォレーシス装置。
(2)前記粘性液体中の水溶性高分子の含有量が、粘性液体に対して0.1〜50重量%である(1)に記載のイオントフォレーシス装置。
(3)前記水溶性高分子が、セルロース系高分子、多糖類系高分子、水溶性タンパク質、デンプン系高分子、アルギン酸系高分子、アクリル系高分子、ビニル系高分子、およびグリコール系高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)又は(2)に記載のイオントフォレーシス装置。
【0009】
(4)前記多孔質体が、繊維材料、発泡性材料、およびセラミック製多孔質体からなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)〜(3)のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
(5)前記作用側電極構造体が、前記第1の電極と薬液保持部との間に、前記薬物イオンと逆符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる(1)〜(4)のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
(6)前記作用側電極構造体が、前記薬液保持部の前面に、前記薬物イオンと同符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる(1)〜(5)のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
(7)前記非作用側電極構造体が、前記電解液保持部の前面に、前記薬物イオンと逆符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる(1)〜(6)のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のゲル状の薬物組成物を用いるイオントフォレーシス装置に比して、より簡便にイオントフォレーシス装置を製造することができる。また、薬物イオン、水及び水溶性高分子を含有する粘性液体多孔質体に含浸させた含浸物を薬液保持部に保持させるものであるので、薬物イオンの保持性が向上している。従って、本発明のイオントフォレーシス装置は、優れた品質を有し、取り扱い性及び生産性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のイオントフォレーシス装置を詳細に説明する。
本発明のイオントフォレーシス装置は、第1の電極と、薬物イオン、水および水溶性高分子を含有する粘性液体を多孔質体に含浸させた含浸物を保持する薬液保持部とを有する作用側電極構造体、第2の電極と、電解液を保持する電解液保持部とを有する非作用側電極構造体、並びに、給電線を介して、第1の電極と第2の電極に両端を接続された電源とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置1の構成図を図1に示す。
図1に示すように、イオントフォレーシス装置1Aは、主として作用側電極構造体10、非作用側電極構造体20及び電源30から構成されている。
【0013】
作用側電極構造体10は、電源30の一方の極に給電線31を介して接続される第1の電極11と、第1の電極11の前面側に配置される薬液保持部12とを備えており、その全体は容器13に収容されている。
【0014】
一方、非作用側電極構造体20は、電源30の他方の極に給電線32を介して接続される第2の電極21及び電極21に接触する電解液を保持する電解液保持部22を備えており、その全体は容器14に収容されている。
【0015】
図1に示すイオントフォレーシス装置1Aは、薬液保持部12及び電解液保持部22を生体皮膚に接触させた状態で、第1の電極11に薬物イオンと同一極性の電圧を、電極21にその反対極性の電圧を印加することにより薬物イオンを生体に投与するものである。
【0016】
第1の電極11には、任意の導電性材料を特段の制限無しに使用することが可能であるが、銀/塩化銀電極等の水よりも酸化還元電位の低い導電性材料を用いた電極を使用することで、水の電気分解による酸素ガス、水素ガス、塩素ガス等のガス、或いは水素イオン、水酸基イオン、次亜塩素酸等の有害なイオンの発生を抑止することができる。
【0017】
また薬液保持部12に保持される薬液によって水の電気分解によるガスの発生やイオンの生成を防止できる場合、或いは通電量が小さい等のために作用側電極構造体10における電極反応が問題とならない場合等には、金、白金、ステンレス、カーボン等の不活性電極を使用することも可能である。
【0018】
薬液保持部12には、プラス又はマイナスの薬物イオン、水及び水溶性高分子を含有する粘性液体を、多孔質体に含浸させた含浸物が保持されている。
【0019】
前記粘性液体は、薬物イオン及び水溶性高分子が水に均一に溶解してなる粘性を有する溶液である。
水溶性高分子は増粘剤として機能するものである。水溶性高分子を適量配合して上記電解液又は薬液の粘度を調整することにより、第1の電極11内における粘性液体の保持性を向上させることが可能であり、これにより、第1の電極11の取扱性や装置の組立の容易性を高めることができる。
【0020】
用いる水溶性高分子としては、水に溶解する高分子であれば特に制限されない。水溶性高分子は、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子に分類することができ、いずれであってもよい。
【0021】
また、水溶性高分子は、電気的性質に応じて、アニオン性の水溶性高分子、カチオン性の水溶性高分子、非イオン性の高分子に層別することもできる。pHが変化することによるゲル化を防止する上では、非イオン性の水溶性高分子の使用が好ましい。
【0022】
水溶性高分子の具体例としては、セルロース系高分子、多糖類系高分子、水溶性タンパク質、デンプン系高分子、アルギン酸系高分子、アクリル系高分子、ビニル系高分子、及びグリコール系高分子等が挙げられる。本発明においては、これらの水溶性高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0023】
セルロース系高分子としては、メチルセルロース(非イオン性)、エチルセルロース(非イオン性)、カルボキシメチルセルロース(アニオン性)、ヒドロキシエチルセルロース(非イオン性)、ヒドロキシプロピルセルロース(非イオン性)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(非イオン性)、ニトロセルロース(非イオン性)、カチオン化セルロース(カチオン性)等が挙げられる。
【0024】
多糖類系高分子としては、アラビアガム(アニオン性)、カラギーナン(アニオン性)、グアガム(非イオン性)、ローカストビーンガム(非イオン性)、ペクチン(非イオン性)、トラガント、トウモロコシデンプン(非イオン性)、キサンタンガム(アニオン性)、デキストリン(非イオン性)、カチオン化グアガム(カチオン性)、ヒアルロン酸ナトリウム(アニオン性)、コンドロイチン硫酸ナトリウムA、コンドロイチン硫酸ナトリウムB、コンドロイチン硫酸ナトリウムC(いずれもアニオン性)、キトサン、キトサン誘導体、キチン、キチン誘導体等が挙げられる。
【0025】
水溶性タンパク質としては、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン、BSA等が挙げられる。
デンプン系高分子としては、リン酸化デンプン等が挙げられる。
アルギン酸系高分子としては、アルギン酸ナトリウム(アニオン性)、アルギン酸プロピレングリコール(非イオン性)等が挙げられる。
【0026】
アクリル系高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウム(アニオン性)、カルボキシビニルポリマー(非イオン性)、ポリアクリル酸アミド(非イオン性)、アクリルアミド・アクリレート共重合体(アニオン性)等が挙げられる。
ビニル系高分子としては、ポリビニルピロリドン(非イオン性)、ポリビニルアルコール(非イオン性)、ビニルピロリドンビニル酢酸共重合体(PVP/VA共重合体)(非イオン性)等が挙げられる。
また、グリコール系高分子としては、ポリエチレングリコール(分子量が2万〜500万のもの)(いずれも非イオン性)、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの共重合体(PEO−PPO−PEO、Pluronic、Proxamer)等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、セルロース系高分子の少なくとも一種を用いるのがより好ましく、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロースを用いるのが特に好ましい。
【0028】
ヒドロキシアルキルセルロースは、公知の方法、例えば、アルカリセルロースに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを反応させることにより製造することができる。また、市販品として入手したものをそのまま使用することもできる。
【0029】
水溶性高分子の使用量は、用いる水溶性高分子が水に均一に溶解する範囲であれば、特に制限されない。水溶性高分子の使用量を、用いる水溶性高分子が水に均一に溶解する範囲内において増減することにより、得られる粘性液体の粘度を所望の値にすることができる。水溶性高分子の使用量は、粘性液体全体に対して、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%である。得られる粘性液体の粘度は、通常0.05Pa・s以上である。
【0030】
本発明に用いる薬物は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効又は薬理作用を有し、病気の治療、回復又は予防、健康の増進又は維持、病状や健康状態等の診断、或いは美容の増進又は維持等の目的で生体に投与される物質である。
【0031】
本発明に用いる薬物としては、イオントフォレーシスにより経皮的に投与できるものであれば、特に限定されない。例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗高脂血症剤、循環器用薬、血管収縮薬、抗血小板薬、抗腫瘍剤、解熱、鎮痛、消炎剤、鎮咳去たん剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗てんかん剤、抗潰瘍剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、強心剤、不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗凝固剤、止血剤、抗結核剤、ホルモン剤、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、血管新生阻害剤、局所麻酔薬、交感神経興奮薬、昇圧薬、生理活性ペプチド類とその誘導体等が挙げられる。
【0032】
本発明に用いる粘性液体は、これらの薬物をプラス又はマイナスの薬物イオンの形で含有してなる。なお、前記粘性液体中における薬物は必ずしも全てが薬物イオンに解離している必要はなく、薬物の一部のみが薬物イオンに解離しているものであってもよい。
【0033】
薬物をイオン化する方法としては、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。例えば、薬物が塩基性物質の場合には、薬物の水溶液に酸を加えることにより、薬物が酸性物質の場合には、薬物の水溶液に塩基を加えることにより、薬物イオンを含有する水溶液を得ることができる。
【0034】
薬物イオンを得るために用いる酸としては、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;が挙げられる。また、用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;等が挙げられる。
【0035】
薬物イオンとして、より具体的には、薬物が塩基性物質であり、プラスの薬物イオンに解離する例としては、クエン酸リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸モルヒネ等が挙げられる。また、薬物が酸性物質であり、マイナスの薬物イオンに解離する例としては、アスコルビン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
薬物の配合量は、用いる薬剤の種類に応じて適宜決定することができるが、粘性液体全体に対して、通常1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%程度である。
【0037】
本発明に用いる粘性液体には、上記薬物イオン、水及び水溶性高分子のほかに、医薬組成物の製造に通常用いられる製剤用添加物を適宜配合することができる。その種類は特に限定されないが、例えば、防腐剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤、アルコール等の有機溶媒等が挙げられる。これら添加物の配合量は、特に制限されないが、粘性液体全体に対して、通常、0.001〜2重量%の範囲である。
【0038】
粘性液体を得るために用いる水としては、不純物の少ないものが好ましく、例えば、蒸留水、脱イオン水、RO膜ろ過水等が挙げられる。
【0039】
粘性液体は、薬物イオンを含有する水溶液に、水溶性高分子を添加することにより調製することができる。より具体的には、薬物イオン及び所望により製剤用添加剤を含む水溶液に、所定量の水溶性高分子を添加して均一に混合すればよい。
【0040】
図1に示すイオントフォレーシス装置1Aにおいて、薬液保持部12には、粘性液体が多孔質体に含浸させた含浸物として保持される。粘性液体を多孔質体に含浸させた含浸物とすることで、より効率よく、より高品質なイオントフォレーシス装置を高い生産性で得ることができる。
【0041】
粘性液体を含浸させるのに用いる多孔質体としては、粘性液体が含浸可能な多孔性のものであれば、特に制限されない。本発明に好適な多孔質体としては、繊維材料、発泡性材料、およびセラミック製多孔質体から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0042】
繊維材料としては、粘性液体が含浸可能な多孔性の繊維材料ものであれば、特に制限されない。本発明に好適な多孔性の繊維材料としては、0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmの平均孔径(バブルポイント法(JIS K3832−1990)に準拠して測定される平均流孔径)の多数の小孔が、20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%の空隙率で形成された5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmの膜厚を有するものである。
【0043】
このような多孔性の繊維材料の具体例としては、天然繊維、再生繊維、不織布、混抄体および紙類からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0044】
前記天然繊維としては、パルプ繊維、コットン繊維、シルク繊維、ウール繊維、麻繊維等が挙げられる。再生繊維としては、レーヨン、キュプラ、溶剤系レーヨン等が挙げられる。また、これらの繊維の二種類以上を混合したものを繊維材料として使用することもできる。
【0045】
不織布は紡績、製織、編組によることなく、繊維集合体を化学的手段や、機械的・化学的作用あるいは適当な水分と熱のもとで処理して、繊維相互間を結合したものである。
不織布は、接着剤不織布、機械接合型不織布、紡糸型不織布(スパボンド式不織布)等の乾式不織布や、湿潤状態でウェブの形成が行われる湿式不織布が挙げられる。
【0046】
不織布の材料としては、ポリプロピレン繊維;ポリエチレン繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、共重合ポリエステル等のポリエステル繊維;ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、又はポリエステル繊維等を親水化処理した親水性繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維;レーヨン、コットン等のセルロース系繊維;等が挙げられる。これらの繊維は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
混抄体は、2種以上の繊維材料を混抄して得られる材料である。混抄体を得るために用いる繊維材料としては、天然繊維、再生繊維、人工繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0048】
混抄体の製造に用いる天然繊維、再生繊維の具体例としては、上述したものと同様のものが挙げられる。人工繊維としては、ポリプロピレン繊維;ポリエチレン繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、共重合ポリエステル等のポリエステル繊維;ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、又はポリエステル繊維等を親水化処理した親水性繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維;ポリアクリロニトリル系繊維;ポリスチレン系繊維;ポリフッ化エチレン系繊維;等が挙げられる。ガラス繊維としては、短繊維と長繊維が挙げられる。
紙類としては、粘性液体を含浸することができるものであれば,特に制限されない。
【0049】
発泡材料としては、合成樹脂に発泡剤を含有させておき、発泡剤によりガスを発生させて、連続気泡や独立気泡を形成した発泡樹脂や、イソシアネート基を有するプレポリマーと活性水素化合物との反応によって得られる発泡性ポリウレタン等が挙げられる。
【0050】
セラミック製多孔質体としては、特に制約されず、従来公知のものが使用できる。例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、及びこれら二種以上の組み合わせからなる多孔質体等が挙げられる。
【0051】
多孔質体の形態としては、本発明のイオントフォレーシス装置の薬液保持部内に、粘性液体を含浸した含浸物として保持できる形態であれば、特に制限されない。例えば、シート状物(薄膜状物)、直方体状物、円柱状物、円盤状物等が挙げられる。
【0052】
図1に示すイオントフォレーシス装置において、薬液保持部12に粘性液体を多孔質体に含浸させる方法としては、特に制限されず、例えば、多孔質体上に粘性液体を注ぐ方法が挙げられる。また、薬液保持部12に粘性液体を多孔質体に含浸させる別の方法として、未含浸の多孔質体を液体保持部内に配置しておき、使用に際して多孔質体の近傍に粘性液体を注入してもよく、あるいは、薬液保持部を薄膜状の多孔質体で形成し、薬物を乾燥状態で多孔質体の全体に亘り保持させておき、使用に際して多孔質体の近傍に水溶性高分子の水溶液を注入してもよい。
粘性液体又は水溶性高分子の水溶液の注入は、例えば、滴下、注入、含浸、塗布、スプレー等の方法により行なうことができる。
【0053】
第2の電極21には、任意の導電性材料を特段の制限無しに使用することが可能であるが、銀/塩化銀電極等の水よりも酸化還元電位の低い導電性材料を用いた電極を使用することで、水の電気分解による酸素ガス、水素ガス、塩素ガス等のガス、或いは水素イオン、水酸基イオン、次亜塩素酸等の有害なイオンの発生を抑止することができる。
【0054】
また電解液保持部22に保持される電解液を適切に選択する等によって水の電気分解によるガスの発生やイオンの生成を防止できる場合、或いは通電量が小さい等のために非作用側電極構造体20における電極反応が問題とならない場合等には、金、白金、ステンレス、カーボン等の不活性電極を使用することも可能である。
【0055】
電解液保持部22は、第2の電極21から生体皮膚への通電性を確保することができる任意の電解質を溶解した電解液を保持することができる。なかでも、水よりも酸化還元電位の低い電解質を使用し、あるいは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液とするのが、通電の際における水の電気分解によるガスの発生やイオンの生成、或いはこれによるpH変化を抑制することができるため好ましい。
【0056】
上記の目的を達成することができる電解液としては、例えば、0.5Mのフマル酸ナトリウムと0.5Mのポリアクリル酸の5:1混合液を例示することができる。
【0057】
電解液保持部22は、電解液を液体状で保持することもできるし、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、あるいはゲル等の適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
【0058】
また、図2に示すイオントフォレーシス装置1Bのように、電解液保持部22の前面側には、任意的な部材として、イオン選択膜27を配置することが可能である。これにより、皮膚界面におけるイオンバランスの安定性を高めることができる。
【0059】
イオン選択膜は、電荷に基づいて上記イオンの通過の許容及び遮断を行う電荷選択膜の形態を取ることができ、イオンの分子量やサイズ、或いは立体的形状に基づいて上記イオンの通過の許容及び遮断を行う半透膜の形態を取ることができる。
【0060】
ここで、「イオンの通過の遮断」は、必ずしも一切のイオンを通過させないことを意味するのではなく、例えば、ある特定のイオンの通過速度又は通過量が他の特定のイオンよりも十分に小さいがために、当該イオン選択膜又はイオン交換膜に求められる機能が十全に発揮される場合を含む。同様に、「イオンの通過の許容」は、イオンの通過に一切の制約が生じないことを意味するのではなく、例えば、イオンの通過がある程度制約される場合であっても、当該イオン選択膜又はイオン交換膜に求められる機能が十全に発揮される程度のイオンの通過速度又は通過量が確保される場合を含む。
【0061】
この場合に使用されるイオン選択膜は、薬液保持部12中の薬物イオンと同符号のイオンを選択することが好ましい。即ち、当該薬物イオンがプラスイオンである場合にはイオン選択膜としてアニオン交換膜を好ましく使用することができ、薬物イオンがマイナスイオンである場合には、イオン選択膜としてカチオン交換膜を好ましく使用することができる。
【0062】
イオン交換膜としては、イオン交換樹脂を膜状に形成したものの他、イオン交換樹脂をバインダーポリマー中に分散させ、これを加熱成型等により製膜することで得られる不均質イオン交換膜や、イオン交換基を導入可能な単量体、架橋性単量体、重合開始剤等からなる組成物、又はイオン交換基を導入可能な官能基を有する樹脂を溶媒に溶解させたものを、布や網、或いは多孔質フィルム等の基材に含浸充填させ、重合又は溶媒除去を行った後にイオン交換基の導入処理を行うことにより得られる均質イオン交換膜等各種のイオン交換膜が知られているが、本発明においては、これらのイオン交換膜を特段の制限無く使用することができる。
【0063】
本発明に用いるイオン交換膜には、多孔質フィルム中にイオン交換樹脂が充填されたタイプのイオン交換膜を特に好ましく使用することができる。具体的には、0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmの平均孔径(バブルポイント法(JIS K3832−1990)に準拠して測定される平均流孔径)の多数の小孔が、20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%の空隙率で形成された5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmの膜厚を有する多孔質フィルムを使用し、5〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、特に好ましくは20〜60重量%の充填率でイオン交換樹脂を充填させたイオン交換膜を使用することができる。
【0064】
カチオン交換膜の具体例としては、(株)トクヤマ製ネオセプタCM−1、CM−2、CMX、CMS、CMB等の陽イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができる。また、アニオン交換膜の具体例としては、(株)トクヤマ製ネオセプタAM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACS等の陰イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができる。
【0065】
作用側電極構造体10及び非作用側電極構造体20の容器13、14は、内部に上述の各要素を収容できる空間が形成され、下面が開放されたプラスチック等の任意の素材から形成される部材である。容器13、14は、好ましくは内部からの水分の蒸発や外部からの異物の侵入を防ぐことができ、生体の動きや皮膚の凹凸に追随できる柔軟な素材から形成することができる。
【0066】
容器13、14の下面には、イオントフォレーシス装置の保存中における水分の蒸発や異物の混入を防ぐことができる適宜の材料からなり、使用に際して取り外されるライナー(不図示)を貼付することができ、更には、容器13、14の下面の外周縁等に生体皮膚との密着性を向上させるための粘着剤層を設けることも可能である。
【0067】
電源30としては、電池、定電圧装置、定電流装置、定電圧・定電流装置等を使用することができるが、本実施形態では、0.01〜1.0mA/cm、好ましくは、0.01〜0.5mA/cmの範囲で電流調整が可能であり、50V以下、好ましくは、30V以下の安全な電圧条件で動作する定電流装置が使用される。
【0068】
図1、2に示すイオントフォレーシス装置1A、1Bでは、薬液保持部12及び電解液保持部22(イオン選択膜を備える場合は該イオン選択膜)を生体皮膚に当接させた状態で、電源30から第1の電極11及び第2の電極21に、それぞれ薬液保持部12の薬物イオンと同一極性の電圧及び反対極性の電圧を印加することにより、薬液保持部12中の薬物イオンが生体に投与される。
【0069】
図1、2に示すイオントフォレーシス装置1A、1Bにおいては、電極構造体10、20中において通電の際に種々の電極反応が生じるという問題がある。この問題を解決すべく、第1の電極を、電極の表面での電気2重層の形成により電解液への通電を生じる性質を有する電極である分極性電極(電気2重層容量キャパシタ(EDLC)とも呼ばれる)とすることも好ましい(特願2005−229984号明細書等参照)。
【0070】
例えば、図3に示すように、電極構造体210を、基体211と、給電線231を介して不図示の電源からの通電を受ける集電体212と、集電体212の前面側に配置され、電極の表面での電気2重層の形成により電解液への通電を生じる性質を有する電極である分極性電極213と、この分極性電極213の前面側に配置された溶液保持部214とを有する構造とすることができる。
【0071】
分極性電極213には、単位体積当たりの静電容量が100mF/g以上の導電体、又は比表面積が1m/g以上の導電体、又は活性炭を含有する板状ないし膜状の部材を使用することができる。
【0072】
好ましい分極性電極213の構成としては、比表面積100m/g程度の活性炭粉末97〜80重量部に対してポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンフロライドなどのバインダーポリマー3〜20重量部を配合した組成物を膜状に成形したものを例示することができる。
【0073】
更に好ましい分極性電極213の構成としては、活性炭繊維の織布又は不織布、或いはこれにポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンフロライドなどのバインダーポリマーを3〜20重量部程度含浸させたものを例示することができる。
【0074】
この場合の活性炭繊維としては、極めて高い比表面積(例えば1000〜2500m/g)と高い引張強度(例えば300〜400N/mm)を有し、柔軟性にも優れるノボロイド繊維を炭化、賦活することで得られる活性炭繊維を特に好ましく使用できる。ノボロイド繊維を炭化、賦活することで得られる活性炭繊維は、例えば「カイノール活性炭繊維」の商品名で日本カイノール社から入手することができる。
【0075】
分極性電極213には電解質の溶液(電解質液)を含浸させて保持することが可能であり、これにより、分極性電極213から電解質液への通電性を良好なものとすることができる。この場合の電解質液としては、薬液保持部の薬液と同一組成の薬液を使用することが特に好ましく、これにより、薬液の混合による装置特性の経時的変化を防止することが可能となる。
【0076】
また、増粘剤を配合して上記電解液又は薬液の粘度を調整することにより、分極性電極213内における電解液又は薬液の保持性を向上させることが可能である。これにより、分極性電極213の取扱性や装置の組立の容易性を高めることができる。この場合に使用できる特に好ましい増粘剤としてはHPC(ヒドロキシプロピルセルロース)を例示することができる。HPCの適切な配合量の範囲は、1〜5重量%程度である。
【0077】
分極性電極213に電解液又は薬液を保持する場合には、これらに対する浸透性に優れる活性炭又は活性炭繊維を含有する分極性電極を使用することが好ましい。
【0078】
電極構造体210において、溶液保持部214に生体に投与すべき薬物イオンを含む粘性液体を保持した場合には、電極構造体210は、図1、2に示すイオントフォレーシス装置1A、1Bにおける作用側電極構造体10として使用することができ、溶液保持部213に電解液を保持した場合には、電極構造体210はイオントフォレーシス装置1における非作用側電極構造体20として使用することができる。
【0079】
また、図示を省略しているが、図3に示す電極構造体210において、図2に示すイオントフォレーシス装置1Bの非作用側電極構造体20のごとく、電解液保持部22の前面側に、イオン選択膜を配置して、非作用側電極構造体として使用することも可能である。これにより、皮膚界面におけるイオンバランスの安定性を高めることができる。
【0080】
このように、電極構造体210を、分極性電極213の表面での電気2重層を形成することにより、分極性電極213から電解液(又は薬液)への通電を生じるため、従来のイオントフォレーシス装置における電極反応による問題を軽減又は解消することができる。
【0081】
本発明のイオントフォレーシス装置においては、図1、2に示すイオントフォレーシス装置1A、1Bにおいて、作用側電極構造体10が、図4(A)〜(C)に示すごとく、他の態様の作用側電極構造体10a〜10cであってもよい。
【0082】
図4(A)に示されるように、作用側電極構造体10aは、作用側電極構造体10と同様の第1の電極11及び薬液保持部12を備えることに加え、薬液保持部12の前面側に生体対イオンの通過を遮断するとともに、薬液保持部12の薬物イオンの通過を許容する特性を有するイオン選択膜15aを備えている。
【0083】
イオン選択膜15aは、電荷に基づいて薬物イオンの通過を許容し、生体対イオンの通過を遮断する電荷選択膜の形態を取ることができ、イオンの分子量やサイズ、或いは立体的形状に基づいて薬物イオンの通過を許容し、生体対イオンの通過を遮断する半透膜の形態を取ることができる。
【0084】
特に好ましくは、イオン選択膜15aとして、薬物イオンと同符号のイオンを選択するイオン交換膜を使用することができる。即ち、薬物イオンがプラスイオンである場合にはイオン選択膜15aとしてカチオン交換膜を好ましく使用することができ、薬物イオンがマイナスイオンである場合には、イオン選択膜15aとしてアニオン交換膜を好ましく使用することができる。
【0085】
イオン選択膜15aとしてイオン交換膜が使用される場合には、作用側電極構造体10aは、第1の電極11と当該イオン交換膜の接触を防止するための隔離手段を備えることが好ましく、これにより当該イオン交換膜の近傍における気泡の発生を防止することができる。
【0086】
この隔離手段として、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、吸収性ゲル等よりなる隔離膜Sを薬液保持部12中に配置することができる。この隔離膜Sは、薬液を担持するための担体の役割を兼ねるものとすることもできる。
【0087】
隔離膜Sの厚み寸法は、図示のように薬液保持部12の厚み寸法と同程度にしても良く、これより小さくしても構わない。図面では、薬液保持部12において隔離膜Sの周辺にスペースが形成されている様子が模式的に示されているが、このようなスペースは存在しても良く、存在しなくても構わない。このようなスペースが存在する場合には、第1の電極11からイオン交換膜15aへの通電性を高めるために、そのスペースは薬液により満たされていることが好ましい。
【0088】
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置では、作用側電極構造体10を備えるイオントフォレーシス装置1A、1Bと同様の効果が達成されることに加え、生体対イオンの薬液保持部12への移行がイオン選択膜15aにより遮断されるために、薬物イオンの投与効率(輸率)を上昇させることができる。
【0089】
図4(B)に示す作用側電極構造体10bは、作用側電極構造体10と同様の第1の電極11及び薬液保持部12を備えることに加え、第1の電極11と薬液保持部12の間に電解液保持部16及びイオン選択膜15bを更に備えている。
【0090】
このイオン選択膜15bには、薬液保持部12から第1の電極11側への薬物対イオンの通過を許容し、第1の電極11側から薬液保持部12への薬液保持部12中の薬物イオンと同一極性のイオンの通過を遮断する特性を有する膜部材が使用される。
【0091】
イオン選択膜15bは、電荷に基づいて上記イオンの通過及び遮断を行う電荷選択膜の形態を取ることができ、イオンの分子量やサイズ、或いは立体的形状に基づいて上記イオンの通過及び遮断を行う半透膜の形態を取ることができる。
【0092】
特に好ましくは、イオン選択膜15bとして、薬液保持部12の薬物イオンと逆符号のイオンを選択するイオン交換膜を使用することができる。即ち、薬物イオンがプラスイオンである場合にはイオン選択膜15bとしてアニオン交換膜を好ましく使用することができ、薬物イオンがマイナスイオンである場合には、イオン選択膜15bとしてカチオン交換膜を好ましく使用することができる。
【0093】
電解液保持部16は、図1に示すイオントフォレーシス装置1Aの電解液保持部22と同様の電解液を保持させることも可能であるが、薬物イオンを含む粘性液体を保持させることも可能である。特に、電解液保持部16において薬液保持部12の薬液と同一組成の粘性液体を保持させた場合には、薬液の混合による装置特性の経時的変化を防止することができる。
【0094】
電解液保持部16は、電解液又は粘性液体を液体状態で保持することができ、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、吸収性ゲル等の適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
【0095】
イオン選択膜15bとしてイオン交換膜が使用される場合には、作用側電極構造体10bは、第1の電極11とイオン選択膜15bとの接触を防止するための隔離手段を備えることが好ましい。これにより、通電中におけるイオン選択膜15bの前面側での気泡の発生を防止することができる。この隔離手段として、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、吸収性ゲル等よりなる隔離膜Sを電解液保持部16中に配置することができる。この隔離膜Sは、電解液(又は薬液)を担持するための担体の役割を兼ねるものとすることもできる。隔離膜Sの厚み寸法等は前記と同様である。
【0096】
作用側電極構造体10bを備えるイオントフォレーシス装置では、作用側電極構造体10を備えるイオントフォレーシス装置1と同様の効果が達成されることに加え、第1の電極11において水素イオンや水酸基イオン、次亜塩素酸等の好ましくないイオンが生成され、或いは薬物イオンの変質を生じたとしても、これらの好ましくないイオンや変質した薬物イオンの薬液保持部12への移行をイオン選択膜15bにより遮断でき、従って、薬物イオンの投与の安全性が向上するという追加的な効果が達成される。
【0097】
図4(C)に示す作用側電極構造体10cは、作用側電極構造体10bと同様の第1の電極11、電解液保持部16、イオン選択膜15c及び薬液保持部12を備えることに加え、薬液保持部12の前面側に作用側電極構造体10aと同様のイオン選択膜15dを備えている。
【0098】
従って、作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置では、作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置及び作用側電極構造体10bを備えるイオントフォレーシス装置の効果が併せ奏される。
【0099】
本発明の更に他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置3を図5に示す。図5(A)は平面図であり、図5(B)はそのA−A断面図である。このイオントフォレーシス装置3は、図2に示すごとき分極性電極を有する作用側電極構造体を有する例である。
【0100】
イオントフォレーシス装置3は、図2に示すイオントフォレーシス装置1Bと同様の部材から構成される、作用側電極構造体部分10eと非作用側電極構造体20eを有している。イオントフォレーシス装置3では、各部材の寸法、形状等を適切に選択することで、組み立ての容易性やハンドリング性の向上が実現されている。
【0101】
即ち、イオントフォレーシス装置3は、第一支持体19a及びそれぞれ所定形状(例えば円形)の2つの開口が形成された第二支持体19b、第三支持体19cを有しており、第二支持体19bの開口には分極性電極13e及び23eが、第三支持体19cの開口には薬液保持部16e及び電解液保持部26eがそれぞれ装填され、第一支持体19aと第二支持体19bの間には、前面側に集電体12e及び22eが形成された基体11eが挟持されるようになっている。
【0102】
薬液保持部16eには、図2に示すイオントフォレーシス装置の薬液保持部12と同様に、薬物のイオン、水及び水溶性高分子を含有する粘性液体を多孔質体に含浸させた含浸物が保持されている。電解液保持部26eには、図2に示すイオントフォレーシス装置の電解液保持部22と同様に、生理的食塩水及び水溶性高分子を含有する粘性液体が保持されている。
【0103】
また、前記基体11e、集電体12e、分極性電極13e及び薬液保持部16eは、図3に示す電極構造体210における基体211、集電体212、分極性電極213及び薬液保持部214と同様の構成を有する。また、基体11e、集電体22e、分極性電極23e及び電解液保持部26eも同様に、前記図3に示す電極構造体210における基体211、集電体212、分極性電極213及び電解液保持部214と同様の構成を有している。
【0104】
従って、イオントフォレーシス装置3では、
(1)第一支持体19a
(2)集電体12e及び22eが形成された基体11e
(3)分極性電極13e、23eが装填された第二支持体19b
(4)薬液保持部16e、電解液保持部26eが装填された第三支持体19c
の4つのシート状の部材を重ね合わせて張り合わせるという簡便な手法により作用側電極構造体部分10e及び非作用側電極構造体部分20eを同時に組み立てることが可能である。このため、イオントフォレーシス装置3では、製造の容易化、製造コストの低減、歩留まりの向上等の効果を達成することができる。
【0105】
また、イオントフォレーシス装置3は、図示のように装置の薄型化が容易であり、第一支持体19a、第二支持体19b、及び第三支持体19c等に発砲ポリウレタン等の柔軟な素材を使用することで、皮膚の凹凸や動きへの追随性を向上させることが可能である。
【0106】
さらに、イオントフォレーシス装置3は、薬液保持部16eの前面側にHPC等の増粘剤により粘度が調整された薬液の層18eを、電解液保持部26eの前面側にHPC等の増粘剤により粘度が調整された電解液の層28eを備える。これにより、皮膚との密着性向上による薬物イオンの投与効率の向上を図ることができる。これらの層18e、28eにおける薬液や電解液は、天然繊維、人工繊維の織布や不織布、多孔質膜、或いはゲル等の適当な吸収性の担体に含浸させて保持することも可能である。また、電解液保持部26eの前面側に、図2に示すイオントフォレーシス装置1Bのイオン選択膜27と同様のイオン選択膜27eを配置している。これにより、皮膚界面のイオンバランスを良好に保つことができる。
【0107】
イオントフォレーシス装置3では、第三支持体19cの前面側に、皮膚との密着性を高めるための粘着剤層を形成することが可能であり、更にその前面側に、装置の保管中における異物の混入や乾燥を防止するための剥離可能なライナーを貼付することが可能である。
【0108】
イオントフォレーシス装置3における給電は、集電体12e、22eから延長された給電線31e、32eの先端に不図示の電源を接続することにより行うことができる。給電線31e、32eは、集電体12e、22eと同一の導電塗料の塗膜により形成することが可能であり、集電体12e、22eと、給電線31e、32eを1回の塗布工程で形成することで、更なる製造コストの低減を図ることができる。
【0109】
図6(A)は、本発明の更に他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置4を示す平面図であり、図6(B)はそのA−A断面図である。
【0110】
このイオントフォレーシス装置4は、イオントフォレーシス装置3と同様の構成に加え、以下の追加的部材を備えている。
【0111】
即ち、分極性電極13eと薬液保持部16eの間には電解液又は薬液を含浸させた隔離膜S及びイオン選択膜15eが挟持され、薬液保持部16eの前面側にはイオン選択膜17eが薬液保持部16eの薬液の粘着力により貼着されている。また分極性電極23eと電解液保持部26eの間にはスペーサーBが挟持され、電解液保持部26eの前面側にはイオン選択膜27eが電解液保持部26eの電解液の粘着力により貼着されている。
【0112】
従って、イオントフォレーシス装置4は、作用側電極構造体10cについて上記した効果と、非作用側電極構造体20dについて上記した効果を併せ奏することができる。
【0113】
更にイオントフォレーシス装置4では、イオントフォレーシス装置3について上記した(1)〜(4)のシート状の部材とともに、隔離膜S、スペーサーB、イオン選択膜15e、17e、27eを重ね合わせて張り合わせるという簡便な手法により作用側電極構造体部分10e及び非作用側電極構造体部分20eを同時に組み立てることが可能である。従って、イオントフォレーシス装置4では、製造の容易化、製造コストの低減、歩留まりの向上等の効果を達成することができる。
【0114】
また、イオントフォレーシス装置4は、イオントフォレーシス装置3と同様、第一支持体19a、第二支持体19b及び第三支持体19c等に発砲ポリウレタン等の柔軟な素材を使用することで、皮膚の凹凸や動きへの追随性を向上させることが可能である。
【0115】
なお、上記隔離膜S、イオン選択膜15e、17e、27eは、イオントフォレーシス装置における作用側電極構造体部分10a、10bの隔離膜S、イオン選択膜15b、15aと同様の構成とすることができる。また、スペーサーBは、作用側電極構造体部分10eと非作用側電極構造体部分20eに大きな段差が生じないようにするための部材であり、隔離膜S及びイオン選択膜15eの厚みと同程度の厚みを有し、電解液を含浸させた不織布等が使用される。
【0116】
イオントフォレーシス装置4においては、追加的な部材として、イオン選択膜17e、27eの前面側にイオントフォレーシス装置3と同様の薬液の層18e及び電解液の層28eを備えることが可能であり、これにより、イオントフォレーシス装置3について上記したと同様の効果を達成することができる。
【0117】
以上、いくつかの実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の改変が可能である。
【0118】
例えば、上記実施形態においては、非作用側電極構造体が電解液保持部を備える場合について説明したが、電解液保持部を省略し、非作用側電極構造体の電極を直接皮膚に接触させて薬物イオンの投与を行うようにすることも可能である。あるいは、イオントフォレーシス装置そのものには非作用側電極構造体を設けずに、例えば、生体皮膚に本発明に従う作用側電極構造体を当接させ、アースとなる部材にその生体の一部を当接させた状態で作用側電極構造体に電圧を印加して薬物の投与を行うようにすることもできる。
【0119】
また上記実施形態では、単一の作用側電極構造体と単一の非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬物が保持されるイオントフォレーシス装置や、電源のそれぞれの極に複数の作用側電極構造体及び/又は非作用側電極構造体が接続されるイオントフォレーシス装置にも本発明を適用することができる。
【0120】
後者の場合、それらの作用側電極構造体及び非作用側電極構造体のうちの少なくとも一つを本発明に従う電極構造体とすることができ、その全ての電極構造体を本発明に従う電極構造体とすることが好ましい。
【0121】
上記実施形態おける各部材の形状、寸法、材質等は単なる例として記述したものであり、本発明はこれらの記述により限定されるるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す図である。
【図3】本発明のイオントフォレーシス装置において使用することができる他の態様の電極構造体の構成を示す図である。
【図4】(A)〜(C)は、本発明のイオントフォレーシス装置において使用することができる他の態様の作用側電極構造体の構成を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1〜4・・・イオントフォレーシス装置
10、10a〜10d・・・作用側電極構造体
10e・・・作用側電極構造体部分
11・・・第1の電極
11e、21d、211・・・基体
12、16d、16e・・・薬液保持部
12e、22d、22e、212・・・集電体
13e、23d、23e、213・・・分極性電極
16、14e、22、26d、26e・・・電解液保持部
15a〜15e・・・イオン選択膜
13、14、19d、29d・・・容器
19a・・・第一支持体
19b・・・第二支持体
19c・・・第三支持体
20、20d・・・非作用側電極構造体
20e・・・非作用側電極構造体部分
21・・・第2の電極
30、30d・・・電源
31、31d、31e、32、32d、32e・・・給電線
S・・・隔離膜
B・・・スペーサー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、薬物イオン、水および水溶性高分子を含有する粘性液体を、多孔質体に含浸させた含浸物を保持する薬液保持部とを有する作用側電極構造体、第2の電極と、電解液を保持する電解液保持部とを有する非作用側電極構造体、並びに、給電線を介して、第1の電極と第2の電極に両端を接続された電源とを備えるイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記粘性液体中の水溶性高分子の含有量が、粘性液体に対して0.1〜50重量%である請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、セルロース系高分子、多糖類系高分子、水溶性タンパク質、デンプン系高分子、アルギン酸系高分子、アクリル系高分子、ビニル系高分子、およびグリコール系高分子からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項4】
前記多孔質体が、繊維材料、発泡性材料、およびセラミック製多孔質体からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項5】
前記作用側電極構造体が、前記第1の電極と薬液保持部との間に、前記薬物イオンと逆符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる請求項1〜4のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項6】
前記作用側電極構造体が、前記薬液保持部の前面に、前記薬物イオンと同符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる請求項1〜5のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項7】
前記非作用側電極構造体が、前記電解液保持部の前面に、前記薬物イオンと逆符号のイオンを選択するイオン選択膜をさらに配置してなる請求項1〜6のいずれかに記載のイオントフォレーシス装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34118(P2009−34118A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65964(P2006−65964)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】