イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法、及び、ヘモグロビン類の分離、定量方法
【課題】カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供する。また、本発明は、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法を提供する。
【解決手段】カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【解決手段】カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法に関する。また、本発明は、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換液体クロマトグラフィーは糖化ヘモグロビンの分析をはじめ、各種生体関連資料の定量および分離、精製に適した方法であり、多くの移動相が水を媒体としたものであるため、生物活性を失活させずに目的成分を分離できる等利点が多い。
【0003】
液体クロマトグラフィーはカラム温度に依存して成分の溶出挙動が変化することが知られている。例えば、カラム充填剤と溶質成分間の電荷の違いを利用して分離を行うイオン交換クロマトグラフィーでは、カラム温度が上昇すると、移動相粘度が減少するとともに溶質成分の拡散が増すことでカラム充填剤と溶質成分との相互作用が弱まり、保持時間が短くなる。また、溶質成分の疎水性の違いを利用して分離を行う疎水性クロマトグラフィーや逆相クロマトグラフィーではカラム温度が上昇すると溶質成分とカラム充填剤間の疎水性相互作用が強まり、保持時間が長くなる。従って、液体クロマトグラフィーは適切なカラム温度に設定することで分離能を向上させることが可能な反面、カラム温度を精密に管理しなければ溶出挙動が変化してしまうという問題があった。
【0004】
溶出挙動が変化する問題を解決する方法として、特許文献1、2にはカラムの精密な温度制御を行う方法が開示されている。近年の液体クロマトグラフィーのカラムオーブンは高い精度で温度制御が可能となり、測定の安定性向上に貢献しているが、その分複雑かつ高価となるといった問題があった。
【特許文献1】実開平6−010861号公報
【特許文献2】特開平8−233793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、高価なカラムオーブンを必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
一般的に蛋白質はpHが低いほど疎水性が増すことが知られている。
移動相が低いpH、高い塩濃度条件にある場合、多数のカウンターイオンが固定相のイオン交換基に吸着することでイオン交換作用が弱められるとともに、蛋白質の荷電を抑えて疎水性を高めることで固定相と蛋白質との疎水性相互作用を強める。このため、疎水性クロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィーと同様にカラム温度を上昇させることで保持が強まるといった溶出挙動の温度依存性を示すこととなる。即ち、移動相が低いpH、高い塩濃度条件にある場合には、保持時間は蛋白質と固定相との疎水性相互作用によって決まる。疎水性相互作用が支配的である場合には、保持時間は温度が高いほど長くなる傾向にある。
【0008】
一方、移動相が高いpH、低い塩濃度条件にある場合、蛋白質を適度に荷電させつつ固定相のカウンターイオンとなる塩濃度を減らすことで固定相のイオン交換基と蛋白質とのイオン交換作用を強め、イオン交換クロマトグラフィーと同様にカラム温度を上昇させることで保持が弱まるといった溶出挙動の温度依存性を示すこととなる。即ち、移動相が高いpH、低い塩濃度条件にある場合には、保持時間は蛋白質と固定相とのイオン交換作用によって決まる。イオン交換作用が支配的である場合には、保持時間は温度が高いほど短くなる傾向にある。
【0009】
本発明者らは、イオン交換液体クロマトグラフィーにおいて、相反する溶出挙動の温度依存性を持つ疎水性相互作用の温度依存性とイオン交換作用の温度依存性とを利用することで、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量といった蛋白質の分析ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法は、固定相と蛋白質との疎水性相互作用とイオン交換作用とがつり合うことでカラム温度変化による保持の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出し、上記移動相を用いて分離操作を行う工程を有する。
上記移動相を用いることで、厳密なカラム温度の制御を必要とせずとも保持時間及び測定値のばらつきが少なくなり、精度の高い分離、定量を行うことが可能となり、糖尿病診断に用いられる糖化ヘモグロビン測定装置等では複雑かつ高価なカラムオーブンを使用する必要がなくなるため、コストダウンが可能となる。
【0011】
上記移動相に用いる溶離液は、イオン交換液体クロマトグラフィー用として用いられる緩衝液を用いた溶離液であれば特に限定されない。
【0012】
上記緩衝液を調製する緩衝試薬は特に限定されず、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、ホウ酸、リン酸等の酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等の塩基、クエン酸ナトリウム、クエン酸リチウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等の塩が挙げられる。
【0013】
上記塩濃度は特に限定されないが、好ましい上限は500mmol/Lである。上記塩濃度が500mmol/Lを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。上記塩濃度のより好ましい上限は200mmol/Lである。
【0014】
上記pHは特に限定されないが、好ましい下限は3、好ましい上限は9である。上記pHがこの範囲外であると、蛋白質を大きく変性させ、測定の再現性が低下したり、カラム充填剤の劣化を早めたりすることがある。上記pHのより好ましい下限は5、より好ましい上限は8である。
【0015】
上記溶離液は、更に、pH調整剤、安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0016】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法で用いる固定相の充填剤粒子は、イオン交換液体クロマトグラフィー用として用いられる充填剤粒子であれば特に限定されず、無機系粒子や有機系粒子が挙げられる。上記無機系粒子は特に限定されず、例えば、シリカ、ジルコニア等が挙げられる。上記有機系粒子は特に限定されず、例えば、セルロース、ポリアミノ酸、キトサン等の天然高分子粒子や、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル等の合成高分子粒子等が挙げられる。なかでも、イオン交換基導入前の表面疎水性が高い粒子を用いることが望ましい。上記イオン交換基は陽イオン交換基であってもよいし、陰イオン交換基であってもよい。
【0017】
上記陽イオン交換基は特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。上記陰イオン交換基は特に限定されず、例えば、3級もしくは4級アミノ基等が挙げられる。
【0018】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法において、目的とする蛋白質の等電点としては特に限定されないが、好ましい下限は3、好ましい上限は11である。上記等電点が3未満もしくは11を越えると、疎水性相互作用もしくはイオン交換作用のどちらかが強く反映されてしまいつり合いが取りにくくなることがある。上記等電点のより好ましい下限は5、より好ましい上限は10である。
【0019】
上記蛋白質としては特に限定されず、例えば、ヘモグロビン類(ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF、ヘモグロビンA、ヘモグロビンA2、ヘモグロビンE、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC等)、アルブミン類、フィブリノーゲン、グロブリン類、インシュリン、ハプトグロビン等が挙げられる。
【0020】
カラム温度変化による保持の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出する手順を以下に示すが、本発明はこの手順に制限されない。
【0021】
(1)まず、低いpH、高い塩濃度条件にある疎水性相互作用が支配的となる移動相Aと、高いpH、低い塩濃度条件にあるイオン交換作用が支配的となる移動相Bとを調製し、これらの移動相を用いて、対象とする蛋白質の種々の温度における保持時間を測定する。
(2)次いで、得られた保持時間の対数値をとり、保持時間の対数値の温度依存性を直線近似する。得られた2つの直線の交点を求め、2つの直線について、交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差を算出し、それらの比を求める。
(3)得られた比の逆比となるpH及び塩濃度条件を算出し、このpH及び塩濃度条件となる液を調製することで、疎水性相互作用とイオン交換作用とがつり合い、カラム温度変化による保持時間の変化が小さくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を調製することができる。
【0022】
更に、上記(3)で得られた移動相のカラム温度変化と保持時間の関係を基に移動相条件を微修正することで、カラム温度変化による保持時間の変化がほぼなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を調製することができる。上記移動相条件の微修正は、複数回行ってもよい。
【0023】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0026】
(実施例1)
(1)保持時間の測定
グリコヘモグロビンコントロールレベル2(シスメックス社製)を200μLの注射用水で溶解した後、希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相1(60mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.4))又は移動相2(40mmol/Lリン酸緩衝液(過塩素酸ナトリウムを含まない)(pH6.3))にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンA1cの測定を行った。
【0027】
(2)移動相条件の導出
移動相1、2を用いたクロマトグラムを図1、2に、A1cの保持時間と保持時間の対数値を表1に示した。また、移動相1及び2におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化したものを図3に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
図1、2より、移動相1では温度上昇につれてA1cの保持時間が遅延しており、逆に、移動相2では温度上昇につれてA1cの保持時間が早まっていることがわかる。これらの結果から、移動相1では疎水性相互作用、移動相2ではイオン交換作用が強く反映されていると考えられる。
図3において、移動相1で溶出したA1cと移動相2で溶出したA1cの保持時間の対数値の近似直線をとり、近似直線の交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差の比はほぼ1:1であった。これより、カラム温度変化によるA1cの保持時間の変化がなくなる移動相のpHは5.85、塩濃度は30mmol/Lであると考えられた。
【0030】
(3)導出した移動相による分離
得られたpH及び塩濃度条件となる移動相4(30mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.85))を調製した。
グリコヘモグロビンコントロールレベル2(シスメックス社製)を200μLの注射用水で溶解した後、希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相4にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンA1cの測定を行った。このクロマトグラムを図4に、A1cの保持時間と保持時間の対数値を表2に示した。また、移動相1、2、及び、4におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化したものを図5に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
図5より、移動相4を用いた場合、移動相1、移動相2と比べて温度変化に対するA1cの保持時間が安定した。
【0033】
(実施例2)
(1)保持時間の測定
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相5(170mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.4))又は移動相6(30mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2))にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンC(HbC)の測定を行った。
【0034】
(2)移動相条件の導出
移動相5、6を用いたクロマトグラムを図6、7に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表3に示した。また、移動相5及び6におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化したものを図8に示した。
【0035】
【表3】
【0036】
図6、7より、移動相5では温度上昇につれてHbCの保持時間が遅延しており、逆に、移動相6では温度上昇につれてHbCの保持時間が早まっていることがわかる。これらの結果から、移動相5では疎水性相互作用、移動相6ではイオン交換作用が強く反映されていると考えられる。
図8において、移動相5で溶出したHbCと移動相6で溶出したHbCの保持時間の対数値の近似直線をとり、近似直線の交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差の比はほぼ22:67であった。これより、カラム温度変化による保持時間の変化がなくなる移動相のpHは6.7、塩濃度は65mmol/Lであると考えられた。
【0037】
(3)導出した移動相による分離
得られたpH及び塩濃度条件となる移動相7(65mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.7))を調製した。
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相7にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してHbCの測定を行った。このクロマトグラムを図9に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表4に示した。また、移動相5、6、及び、7におけるHbCの保持時間の対数値をグラフ化したものを図10に示した。
【0038】
【表4】
【0039】
(実施例3)
移動相7の結果を基に移動相条件を微修正し、カラム温度変化によるHbCの保持時間の変化がなくなる移動相のpHは6.2、塩濃度は110mmol/Lであると考えられた。このpH及び塩濃度条件となる移動相8(110mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.2))を調製した。
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相8にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してHbCの測定を行った。このクロマトグラムを図11に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表5に示した。また、移動相5、6、7、及び、8におけるHbCの保持時間の対数値をグラフ化したものを図12に示した。
【0040】
【表5】
【0041】
図11より、移動相条件を微修正した移動相8を用いた場合、移動相7と比べてカラム温度変化に対するHbCの保持時間が安定した。
【0042】
本発明による、イオン交換作用の温度依存性と疎水性相互作用の温度依存性の特性がつり合う条件組成となる移動相を用いることで、温度変化によって溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーの分析を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】移動相1を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図2】移動相2を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図3】移動相1及び2におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図4】移動相4を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図5】移動相1、2、及び、4におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図6】移動相5を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図7】移動相6を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図8】移動相5及び6におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図9】移動相7を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図10】移動相5、6、及び、7におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図11】移動相8を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図12】移動相5、6、7、及び、8におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法に関する。また、本発明は、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換液体クロマトグラフィーは糖化ヘモグロビンの分析をはじめ、各種生体関連資料の定量および分離、精製に適した方法であり、多くの移動相が水を媒体としたものであるため、生物活性を失活させずに目的成分を分離できる等利点が多い。
【0003】
液体クロマトグラフィーはカラム温度に依存して成分の溶出挙動が変化することが知られている。例えば、カラム充填剤と溶質成分間の電荷の違いを利用して分離を行うイオン交換クロマトグラフィーでは、カラム温度が上昇すると、移動相粘度が減少するとともに溶質成分の拡散が増すことでカラム充填剤と溶質成分との相互作用が弱まり、保持時間が短くなる。また、溶質成分の疎水性の違いを利用して分離を行う疎水性クロマトグラフィーや逆相クロマトグラフィーではカラム温度が上昇すると溶質成分とカラム充填剤間の疎水性相互作用が強まり、保持時間が長くなる。従って、液体クロマトグラフィーは適切なカラム温度に設定することで分離能を向上させることが可能な反面、カラム温度を精密に管理しなければ溶出挙動が変化してしまうという問題があった。
【0004】
溶出挙動が変化する問題を解決する方法として、特許文献1、2にはカラムの精密な温度制御を行う方法が開示されている。近年の液体クロマトグラフィーのカラムオーブンは高い精度で温度制御が可能となり、測定の安定性向上に貢献しているが、その分複雑かつ高価となるといった問題があった。
【特許文献1】実開平6−010861号公報
【特許文献2】特開平8−233793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、高価なカラムオーブンを必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
一般的に蛋白質はpHが低いほど疎水性が増すことが知られている。
移動相が低いpH、高い塩濃度条件にある場合、多数のカウンターイオンが固定相のイオン交換基に吸着することでイオン交換作用が弱められるとともに、蛋白質の荷電を抑えて疎水性を高めることで固定相と蛋白質との疎水性相互作用を強める。このため、疎水性クロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィーと同様にカラム温度を上昇させることで保持が強まるといった溶出挙動の温度依存性を示すこととなる。即ち、移動相が低いpH、高い塩濃度条件にある場合には、保持時間は蛋白質と固定相との疎水性相互作用によって決まる。疎水性相互作用が支配的である場合には、保持時間は温度が高いほど長くなる傾向にある。
【0008】
一方、移動相が高いpH、低い塩濃度条件にある場合、蛋白質を適度に荷電させつつ固定相のカウンターイオンとなる塩濃度を減らすことで固定相のイオン交換基と蛋白質とのイオン交換作用を強め、イオン交換クロマトグラフィーと同様にカラム温度を上昇させることで保持が弱まるといった溶出挙動の温度依存性を示すこととなる。即ち、移動相が高いpH、低い塩濃度条件にある場合には、保持時間は蛋白質と固定相とのイオン交換作用によって決まる。イオン交換作用が支配的である場合には、保持時間は温度が高いほど短くなる傾向にある。
【0009】
本発明者らは、イオン交換液体クロマトグラフィーにおいて、相反する溶出挙動の温度依存性を持つ疎水性相互作用の温度依存性とイオン交換作用の温度依存性とを利用することで、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量といった蛋白質の分析ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法は、固定相と蛋白質との疎水性相互作用とイオン交換作用とがつり合うことでカラム温度変化による保持の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出し、上記移動相を用いて分離操作を行う工程を有する。
上記移動相を用いることで、厳密なカラム温度の制御を必要とせずとも保持時間及び測定値のばらつきが少なくなり、精度の高い分離、定量を行うことが可能となり、糖尿病診断に用いられる糖化ヘモグロビン測定装置等では複雑かつ高価なカラムオーブンを使用する必要がなくなるため、コストダウンが可能となる。
【0011】
上記移動相に用いる溶離液は、イオン交換液体クロマトグラフィー用として用いられる緩衝液を用いた溶離液であれば特に限定されない。
【0012】
上記緩衝液を調製する緩衝試薬は特に限定されず、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、ホウ酸、リン酸等の酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等の塩基、クエン酸ナトリウム、クエン酸リチウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等の塩が挙げられる。
【0013】
上記塩濃度は特に限定されないが、好ましい上限は500mmol/Lである。上記塩濃度が500mmol/Lを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。上記塩濃度のより好ましい上限は200mmol/Lである。
【0014】
上記pHは特に限定されないが、好ましい下限は3、好ましい上限は9である。上記pHがこの範囲外であると、蛋白質を大きく変性させ、測定の再現性が低下したり、カラム充填剤の劣化を早めたりすることがある。上記pHのより好ましい下限は5、より好ましい上限は8である。
【0015】
上記溶離液は、更に、pH調整剤、安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0016】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法で用いる固定相の充填剤粒子は、イオン交換液体クロマトグラフィー用として用いられる充填剤粒子であれば特に限定されず、無機系粒子や有機系粒子が挙げられる。上記無機系粒子は特に限定されず、例えば、シリカ、ジルコニア等が挙げられる。上記有機系粒子は特に限定されず、例えば、セルロース、ポリアミノ酸、キトサン等の天然高分子粒子や、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル等の合成高分子粒子等が挙げられる。なかでも、イオン交換基導入前の表面疎水性が高い粒子を用いることが望ましい。上記イオン交換基は陽イオン交換基であってもよいし、陰イオン交換基であってもよい。
【0017】
上記陽イオン交換基は特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。上記陰イオン交換基は特に限定されず、例えば、3級もしくは4級アミノ基等が挙げられる。
【0018】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法において、目的とする蛋白質の等電点としては特に限定されないが、好ましい下限は3、好ましい上限は11である。上記等電点が3未満もしくは11を越えると、疎水性相互作用もしくはイオン交換作用のどちらかが強く反映されてしまいつり合いが取りにくくなることがある。上記等電点のより好ましい下限は5、より好ましい上限は10である。
【0019】
上記蛋白質としては特に限定されず、例えば、ヘモグロビン類(ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF、ヘモグロビンA、ヘモグロビンA2、ヘモグロビンE、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC等)、アルブミン類、フィブリノーゲン、グロブリン類、インシュリン、ハプトグロビン等が挙げられる。
【0020】
カラム温度変化による保持の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出する手順を以下に示すが、本発明はこの手順に制限されない。
【0021】
(1)まず、低いpH、高い塩濃度条件にある疎水性相互作用が支配的となる移動相Aと、高いpH、低い塩濃度条件にあるイオン交換作用が支配的となる移動相Bとを調製し、これらの移動相を用いて、対象とする蛋白質の種々の温度における保持時間を測定する。
(2)次いで、得られた保持時間の対数値をとり、保持時間の対数値の温度依存性を直線近似する。得られた2つの直線の交点を求め、2つの直線について、交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差を算出し、それらの比を求める。
(3)得られた比の逆比となるpH及び塩濃度条件を算出し、このpH及び塩濃度条件となる液を調製することで、疎水性相互作用とイオン交換作用とがつり合い、カラム温度変化による保持時間の変化が小さくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を調製することができる。
【0022】
更に、上記(3)で得られた移動相のカラム温度変化と保持時間の関係を基に移動相条件を微修正することで、カラム温度変化による保持時間の変化がほぼなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を調製することができる。上記移動相条件の微修正は、複数回行ってもよい。
【0023】
本発明のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0026】
(実施例1)
(1)保持時間の測定
グリコヘモグロビンコントロールレベル2(シスメックス社製)を200μLの注射用水で溶解した後、希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相1(60mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.4))又は移動相2(40mmol/Lリン酸緩衝液(過塩素酸ナトリウムを含まない)(pH6.3))にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンA1cの測定を行った。
【0027】
(2)移動相条件の導出
移動相1、2を用いたクロマトグラムを図1、2に、A1cの保持時間と保持時間の対数値を表1に示した。また、移動相1及び2におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化したものを図3に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
図1、2より、移動相1では温度上昇につれてA1cの保持時間が遅延しており、逆に、移動相2では温度上昇につれてA1cの保持時間が早まっていることがわかる。これらの結果から、移動相1では疎水性相互作用、移動相2ではイオン交換作用が強く反映されていると考えられる。
図3において、移動相1で溶出したA1cと移動相2で溶出したA1cの保持時間の対数値の近似直線をとり、近似直線の交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差の比はほぼ1:1であった。これより、カラム温度変化によるA1cの保持時間の変化がなくなる移動相のpHは5.85、塩濃度は30mmol/Lであると考えられた。
【0030】
(3)導出した移動相による分離
得られたpH及び塩濃度条件となる移動相4(30mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.85))を調製した。
グリコヘモグロビンコントロールレベル2(シスメックス社製)を200μLの注射用水で溶解した後、希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相4にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンA1cの測定を行った。このクロマトグラムを図4に、A1cの保持時間と保持時間の対数値を表2に示した。また、移動相1、2、及び、4におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化したものを図5に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
図5より、移動相4を用いた場合、移動相1、移動相2と比べて温度変化に対するA1cの保持時間が安定した。
【0033】
(実施例2)
(1)保持時間の測定
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相5(170mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.4))又は移動相6(30mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2))にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してヘモグロビンC(HbC)の測定を行った。
【0034】
(2)移動相条件の導出
移動相5、6を用いたクロマトグラムを図6、7に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表3に示した。また、移動相5及び6におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化したものを図8に示した。
【0035】
【表3】
【0036】
図6、7より、移動相5では温度上昇につれてHbCの保持時間が遅延しており、逆に、移動相6では温度上昇につれてHbCの保持時間が早まっていることがわかる。これらの結果から、移動相5では疎水性相互作用、移動相6ではイオン交換作用が強く反映されていると考えられる。
図8において、移動相5で溶出したHbCと移動相6で溶出したHbCの保持時間の対数値の近似直線をとり、近似直線の交点の温度以外の任意の温度における保持時間の対数値と交点における保持時間の対数値との差の比はほぼ22:67であった。これより、カラム温度変化による保持時間の変化がなくなる移動相のpHは6.7、塩濃度は65mmol/Lであると考えられた。
【0037】
(3)導出した移動相による分離
得られたpH及び塩濃度条件となる移動相7(65mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.7))を調製した。
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相7にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してHbCの測定を行った。このクロマトグラムを図9に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表4に示した。また、移動相5、6、及び、7におけるHbCの保持時間の対数値をグラフ化したものを図10に示した。
【0038】
【表4】
【0039】
(実施例3)
移動相7の結果を基に移動相条件を微修正し、カラム温度変化によるHbCの保持時間の変化がなくなる移動相のpHは6.2、塩濃度は110mmol/Lであると考えられた。このpH及び塩濃度条件となる移動相8(110mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.2))を調製した。
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で100倍に希釈したものを測定試料とした。
イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜1.5分は移動相8にて溶出し、1.5分を超え2.2分までは移動相3(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.0))にて溶出してHbCの測定を行った。このクロマトグラムを図11に、HbCの保持時間と保持時間の対数値を表5に示した。また、移動相5、6、7、及び、8におけるHbCの保持時間の対数値をグラフ化したものを図12に示した。
【0040】
【表5】
【0041】
図11より、移動相条件を微修正した移動相8を用いた場合、移動相7と比べてカラム温度変化に対するHbCの保持時間が安定した。
【0042】
本発明による、イオン交換作用の温度依存性と疎水性相互作用の温度依存性の特性がつり合う条件組成となる移動相を用いることで、温度変化によって溶出挙動が変わらないイオン交換液体クロマトグラフィーの分析を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないため、厳密なカラム温度の制御を必要とせずに、精度の高い分離、定量を行うことが可能なイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を提供することができる。また、本発明によれば、該イオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】移動相1を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図2】移動相2を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図3】移動相1及び2におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図4】移動相4を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図5】移動相1、2、及び、4におけるA1c保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図6】移動相5を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図7】移動相6を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図8】移動相5及び6におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図9】移動相7を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図10】移動相5、6、及び、7におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【図11】移動相8を用いたクロマトグラムを示した図である。
【図12】移動相5、6、7、及び、8におけるHbC保持時間の対数値をグラフ化した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないことを特徴とするイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項2】
固定相と目的とする蛋白質との疎水性相互作用と、固定相と目的とする蛋白質とのイオン交換作用とがつり合うことでカラム温度変化による目的とする蛋白質の保持時間の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出し、前記移動相を用いて分離操作を行う工程を有することを特徴とする請求項1記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項3】
カラム温度が15〜45℃の範囲にあり、この温度範囲内における目的成分の保持時間が各温度における保持時間の平均から5%以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項4】
目的とする蛋白質が等電点3〜11の範囲にある蛋白質であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法。
【請求項1】
カラム温度を変えても溶出挙動が変わらないことを特徴とするイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項2】
固定相と目的とする蛋白質との疎水性相互作用と、固定相と目的とする蛋白質とのイオン交換作用とがつり合うことでカラム温度変化による目的とする蛋白質の保持時間の変化がなくなるpH及び塩濃度条件となる移動相を導出し、前記移動相を用いて分離操作を行う工程を有することを特徴とする請求項1記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項3】
カラム温度が15〜45℃の範囲にあり、この温度範囲内における目的成分の保持時間が各温度における保持時間の平均から5%以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項4】
目的とする蛋白質が等電点3〜11の範囲にある蛋白質であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のイオン交換液体クロマトグラフィーを用いた蛋白質の分析方法を用いたヘモグロビン類の分離、定量方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−85308(P2010−85308A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256235(P2008−256235)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
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