説明

イオン伝導膜

【課題】新規なイオン伝導膜を提供する。
【解決手段】本発明のイオン伝導膜は、基板上に形成されたイオン伝導膜であって、基板に結合している有機分子の単分子膜からなる。その有機分子は、酸素原子を介して基板と結合しているシリコン原子と、シリコン原子に結合している炭化水素鎖とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、プロトン伝導膜などのイオン伝導膜として、高分子材料からなるイオン伝導膜が提案されている(たとえば特許文献1)。高分子からなるイオン伝導膜はネットワーク構造を有するため、壊れにくいという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−255789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高分子材料からなるイオン伝導膜は構造が複雑であり、その作製には多段階の特殊なプロセスが必要であった。そのため、高分子材料からなるイオン伝導膜は非常に高価であった。また、従来のイオン伝導膜を用いてデバイスを作製する場合には、膜と電極との接触状態のばらつきが大きく、デバイスの信頼性や感度が低いという問題があった。
【0005】
このような状況において、本発明は、新規なイオン伝導膜を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のイオン伝導膜は、基板上に形成されたイオン伝導膜であって、前記基板に結合している有機分子の単分子膜からなり、前記有機分子は、酸素原子を介して前記基板と結合しているシリコン原子と、前記シリコン原子に結合している炭化水素鎖とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作製が容易で安価なイオン伝導膜が得られる。このイオン伝導膜を用いることによって、信頼性および感度が高く安価な電子デバイスを作製することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のイオン伝導膜を構成する有機分子の例を示す図である。
【図2】本発明のイオン伝導膜を形成するために用いられる有機分子の例を示す図である。
【図3】実施例1のイオン伝導膜のコールコールプロットを示す図である。
【図4】実施例1のイオン伝導膜について、温度の逆数と伝導度の対数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0010】
[イオン伝導膜]
本発明のイオン伝導膜は、基板上に形成されている。そのイオン伝導膜は、基板に結合している有機分子(以下、「有機分子(A)」という場合がある)の単分子膜からなる。有機分子(A)は、酸素原子を介して基板と結合しているシリコン原子と、シリコン原子に結合している炭化水素鎖とを含む。炭化水素鎖の一端にはSi原子が結合している。炭化水素鎖の他端には、官能基yが結合していてもよい。
【0011】
有機分子(A)は、有機分子(B)が、基板と結合することによって生じる分子である。有機分子(B)は、−Si−O−[基板表面の原子]という結合を生じる原子団Si−Xと、その原子団に含まれるSiに結合している炭化水素鎖Rとを含む。有機分子(B)には、以下の式(1)で表される有機分子が含まれる。
3Si−R−Y・・・(1)
[式中、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子である。Rは、炭化水素鎖である。Yは、水素原子または官能基yである]
【0012】
有機分子(B)の基Xが基板表面の原子と反応(たとえば加水分解縮合)することによって、有機分子(B)のシリコン原子が、酸素原子を介して基板と結合する。Xの例には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、および塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子が含まれる。有機分子(B)の例には、一部のシランカップリング剤が含まれる。
【0013】
炭化水素鎖Rの炭素数は、2〜20(たとえば2〜10や2〜5)の範囲にあってもよい。炭化水素鎖Rは、炭素数が2〜10(たとえば2〜5)の範囲にあるアルキレン基であってもよい。そのアルキレン基は直鎖であってもよいし、分岐していてもよい。炭化水素鎖Rは、芳香族炭化水素基(たとえばフェニレン基)を含んでもよい。
【0014】
官能基yの例には、アミノ基(−NH2)、シアノ基(−C≡N)、ビニル基(−CH=CH2)、イソシアノ基(−N≡C)、ジチオオキサミド基(−NH−CS−CS−NH2)、ヒドロキシ基(−OH)、チオール基(−SH)、ハロゲン原子(Cl,Br,I)、カルボキシ基(−CO2H)、アルデヒド基(−CHO)などが含まれる。官能基yがアミノ基である場合には、比較的高い導電性が得られる。有機分子(A)の例を、図1(a)〜(f)に示す。
【0015】
式(1)で表される有機分子が基板と結合すると、以下の式(2)で表される有機分子(A)となる。
(−O−)3Si−R−Y・・・(2)
【0016】
基板のうち、イオン伝導膜が形成される表面部分は、少なくとも絶縁性である。その表面部分には、有機分子(A)と結合する原子または官能基が存在する。換言すれば、基板には、有機分子(B)と反応して−Si−O−[基板表面の原子]という結合を形成する基板が用いられる。たとえば、水酸基などの官能基を表面に備える基板が好ましく用いられる。これらの官能基は、基板を表面処理することによって導入することも可能である。基板の例には、ガラスエポキシ樹脂基板、ガラス基板、サファイア基板、シリコン基板などの無機酸化物基板が含まれる。
【0017】
[イオン伝導膜の製造方法]
以下に、本発明のイオン伝導膜の製造方法の一例について説明する。なお、上述した事項については、重複する説明を省略する。この製造方法の例は、以下の第1の工程と第2の工程とを含む。
【0018】
第1の工程では、上記式(1)で表される有機分子(B)を含む溶液(S)を調製する。溶液(S)の溶媒は、有機分子(B)が溶解する溶媒であればよい。溶媒としては、たとえば、エタノール、メタノール、アセトニトリル、水、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられる。有機分子(B)の濃度に限定はなく、たとえば0.001mmol/L〜100mol/Lの範囲としてもよい。有機分子(B)の例を、図2(a)〜(f)に示す。図2(a)〜図2(f)に示す分子を用いることによって、図1(a)〜(f)に示す有機分子からなるイオン伝導膜が得られる。
【0019】
第2の工程では、第1の工程で調製された溶液(S)を、基板の表面に接触させる。その結果、有機分子(B)の基Xが基板表面の原子または官能基と反応し、有機分子(A)からなる単分子膜が基板上に形成される。溶液(S)を基板の表面に接触させる方法に特に限定はない。たとえば、基板を溶液(S)に浸漬してもよい。また、スピンコート法などによって溶液(S)を基板の表面に接触させてもよい。第2の工程ののち、必要に応じて基板の表面を乾燥させる。このようにして、本発明のイオン伝導膜が製造される。
【0020】
なお、第2の工程ののちに、有機分子(A)に官能基を導入する第3の工程を行うことによって、本発明のイオン伝導膜を形成してもよい。たとえば、基Yの一部または全部を他の官能基で置換してもよい。一例では、基Yであるアミノ基の水素原子を、以下の式(3)で表されるルベアン酸で置換する。
【0021】
【化1】

【0022】
上記第3の工程を行う場合、第1の工程で用いられる有機分子は、有機分子(B)に限らず他の有機分子であってもよい。すなわち、第3の工程によって得られる最終の有機分子が有機分子(A)となる限り、第1の工程で用いられる有機分子に限定はない。
【0023】
[電子デバイス]
本発明の電子デバイスは、本発明のイオン伝導膜を備える。本発明の電子デバイスの一例は、一対の電極と、その一対の電極間に配置された本発明のイオン伝導膜とを備える。電極は、金属などの導電性物質で形成され、たとえば金で形成されてもよい。本発明の電子デバイスは、電極が形成された基板を用いて上記製造方法を行うことによって形成できる。本発明の電子デバイスは、たとえば湿度センサとして用いることが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例によって詳細に説明する。以下の実施例では、図1(a)〜図1(f)の有機分子からなるイオン伝導膜を作製した。図1(b)〜図1(f)の有機分子からなるイオン伝導膜は、図2(b)〜図2(f)の有機分子を用いて作製した。また、図1(a)の有機分子からなるイオン伝導膜は、図2(f)の有機分子とルベアン酸とを用いて作製した。
【0025】
なお、用いた有機分子の基Xは、図2(a)の分子はメトキシ基(−OCH3)、図2(b)の分子はエトキシ基(−OC25)、図2(c)の分子はエトキシ基(−OC25)、図2(d)の分子はメトキシ基(−OCH3)、図2(e)の分子はエトキシ基(−OC25)、図2(f)の分子はメトキシ基(−OCH3)とした。図2(b)および2(d)の分子はアルドリッチ社(Aldrich)から入手し、図2(c)の分子は和光純薬工業株式会社(WaKo社)から入手し、図2(e)および2(f)の分子は、東京化成工業株式会社から入手した。ルベアン酸はメルク社(MERCK社)から入手した。
【0026】
[実施例1]
まず、電極間の間隔が100μmである一対の櫛形電極を、ガラスエポキシ樹脂基板上に形成した。櫛形電極は、金で形成した。また、図2(f)の有機分子のエタノール溶液(溶液(S))を調製した。有機分子の濃度は、10mmol/Lとした。
【0027】
次に、上記基板を溶液(S)に室温で15分間浸漬した。これによって、基板の表面に、図1(f)の有機分子からなる膜を形成した。次に、基板を、ルベアン酸のエタノール溶液に15分間浸漬した。これによって、図2(a)の有機分子からなる膜を作製した。ルベアン酸の濃度は、1mmol/Lとした。
【0028】
次に、基板を溶液(S)から取り出し、エタノールで洗浄した。次に、アルゴンガスを吹き付けることによって基板を乾燥させた。このようにして、図1(a)に示す有機分子によって構成されたイオン伝導膜を作製した。得られたイオン伝導膜の厚さを測定したところ、1.5nm程度であった。
【0029】
次に、2つの櫛形電極を、金ペーストと金線とを用いて交流測定装置に接続した。そして、2つの櫛形電極の間に100mVの電圧を印加し、10kHz〜1Hzまで周波数を変化させることによって、コールコールプロットを得た。このプロットの半円から、櫛形電極間の抵抗、すなわち、イオン伝導膜の抵抗を求め、さらにイオン伝導膜の伝導度ρ(Scm-1)を算出した。また、伝導度について温度を変えて測定し、伝導度と温度との関係から活性化エネルギーを算出した。
【0030】
得られたコールコールプロットを図3に示す。図3には、イオン伝導膜が形成されていない基板について測定した結果も示す。また、温度Tの逆数と伝導度の対数との関係を図4に示す。図4のデータは、25℃で相対湿度90%における測定によって得られたデータである。実施例1のイオン伝導膜の、25℃、90%RHにおける伝導度は、4.4x10-6Scm-1であった。また、図4の結果から求めた活性化エネルギーは、0.45eVであった。
【0031】
[実施例2〜6]
まず、電極間の間隔が100μmである一対の櫛形電極を、ガラスエポキシ樹脂基板上に形成した。櫛形電極は、金で形成した。また、図2(b)の有機分子のエタノール溶液(溶液(S))を調製した。有機分子の濃度は、10mmol/Lとした。
【0032】
次に、上記基板を溶液(S)に室温で15分間浸漬した。これによって、基板の表面に、図1(b)の有機分子からなる膜を形成した。次に、基板を溶液(S)から取り出し、エタノールで洗浄した。次に、アルゴンガスを吹き付けることによって基板を乾燥させた。このようにして、図1(b)に示す有機分子によって構成された実施例2のイオン伝導膜を作製した。
【0033】
図2(b)の有機分子の代わりに図2(c)〜図2(f)の有機分子を用いることを除き実施例2と同様の条件で、実施例3〜6のイオン伝導膜を作製した。得られたイオン伝導膜について、実施例1と同様の方法で評価を行った。実施例1〜6のイオン伝導膜について、評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、いずれのイオン伝導膜でも電気伝導が観測された。これらの電気伝導は、相対湿度が低い場合には低下した。このことは、本発明のイオン伝導膜における電気伝導がプロトンの移動による電気伝導であること、すなわち、本発明のイオン伝導膜がプロトン伝導膜であることを示唆している。
【0036】
表1に示すように、官能基yがアミノ基である実施例6のイオン伝導膜は、他の膜に比べて伝導度が高かった。官能基yを変えることによって、イオン伝導膜の特性を制御することが可能である。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、イオン伝導膜およびそれを用いた電子デバイスに利用できる。具体的には、湿度センサ、イオンセンサ、ガスセンサなどのセンサに利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたイオン伝導膜であって、
前記基板に結合している有機分子の単分子膜からなり、
前記有機分子は、酸素原子を介して前記基板と結合しているシリコン原子と、前記シリコン原子に結合している炭化水素鎖とを含む、イオン伝導膜。
【請求項2】
前記炭化水素鎖にアミノ基が結合している、請求項1に記載のイオン伝導膜。
【請求項3】
前記炭化水素鎖が、炭素数が2〜20の範囲にあるアルキレン基である、請求項1または2に記載のイオン伝導膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−199028(P2010−199028A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45637(P2009−45637)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】