説明

イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子との錯体を含む基材コーティング

本発明は、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤との錯体を含むコーティングと、を含む物品、a)イオン性フッ素ポリマー又はその前駆体と表面荷電ナノ粒子又はその前駆体の混合物を用意する工程と、b)前記工程a)で調製した前記混合物を基材に塗布する工程と、を含む、非導電性基材上にコーティングを形成する方法、並びに上記物品の、衣類、織物構造、積層体、フィルターエレメント、通気エレメント、センサー、診断装置、保護筺体又は分離エレメントの製造のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、前記基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子との錯体を含むコーティングと、を含む物品、上記コーティングの製造方法並びに上記コーティングの、基材の各種特性を向上させるための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
防水性、耐薬品性、難燃性等の所望の特性を基材に付与するために基材をコーティングすることが知られている。これまでに提案されているコンセプト及びコーティングの多くは特定の特性の向上に着目しており、様々な所望の特性を基材に付与し、それらを微調整並びにバランスさせることはできない。
【0003】
例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)基材にポリエステル及び/又はポリウレタンコーティングを塗布することにより、サンローション、化粧料等に含まれる薬品に対する耐汚染性を向上させることができる(米国特許第4,194,041号及び米国特許第6,074,738号)。しかしながら、難燃性、親水性、通気性等の基材のその他の重要な特性をこれらのコーティングによって最適化することはできない。また、非イオン性パーフルオロポリエーテル(non−ionic perfluoropolyethers)からなるコーティングが微孔性ポリマー基材の撥油性を調節するために使用されている(欧州特許第615 779号)。
【0004】
コーティング剤には、基材を恒久的に機能化するために基材に対する良好な密着性を有し、ポリマーの所望の特性に全く又はほとんど悪影響を与えないことが求められる。
【0005】
例えば、液体濾過に使用される微孔性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜の場合には、コーティングは容易に洗い流されてはならないと共に細孔内の流体の流れを損なってはならない。
【0006】
また、多くの基材(特にフッ素化ポリマー基材)は不活性であると共に低い表面エネルギーを有するため、イオン又は荷電種によってそれらの基材(微孔性ePTFE等)の表面をコーティングすることは非常に困難である。それらの基材はイオン又は荷電種に対する密着性が不十分なため、多くの工業的用途において問題が生じる。すなわち、エッチング、放射線照射、レーザー処理、プラズマ活性化及び/又は超臨界CO前処理等の化学表面処理を行わない場合には、それらの基材を直接かつ恒久的に導電性ポリマー、金属イオン、有機イオン、荷電粒子、塩等のポリイオンによってコーティングすることはできない。しかしながら、特にこれらの化合物は、基材にコーティングした場合に特別な特性を付与すると予想される。
【0007】
また、エッチング、プラズマ、コロナ処理又はX線照射等の表面変性処理は、密着性を向上させるために開発され、基材にダメージを与え、表面を脱フッ素化すると共にフッ素ポリマー基材の機械的強度を低下させる。基材が薄い場合には、基材の機械的強度は、基材が表面変性条件に耐えることができない程度に低い場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、様々な特性と基材に付与すると共にそれらの特性の調節を可能とし、特に、良好な通気性、難燃性及び帯電防止性を有する基材の製造を可能とする、ポリマー基材のためのコーティングを提供することにある。コーティングは、基材に対する良好な密着性を有し、容易に調製・塗布することができ、基材上に均等かつ均一に設けることができなければならない。
【0009】
また、本発明の別の目的は、通常はイオン又は荷電種によってコーティングすることが困難な基材に設けられる、イオン又は荷電種を含むコーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
予期せぬことに、本願発明者らは、上記目的は、イオン性フッ素ポリマー(イオン性基を含むフッ素化ポリマー)と、表面荷電ナノ粒子を含む、フルオロポリエーテルのイオン性基と反対のイオン電荷を有する対イオン剤(counter ionic agent)と、を錯体として含むコーティングをポリマー基材上に形成することによって達成できることを見出した。
【0011】
従って、本発明は、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤との錯体を含むコーティングと、を含む物品を提供する。
【0012】
本発明に係る物品により、改善された特性を提供することができる。予期せぬことに、本発明を適用することにより、基材の様々な特性を改良し、調整することができることが判明した。特に、表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤の性質に応じて、例えば、耐熱性及び耐火性、帯電防止性、親水性、疎水性及び/又は抗菌性を基材に与え、微調整することができる。
【0013】
また、対イオン剤とイオン性フッ素ポリマーの組み合わせ並びにこれらの成分による錯体形成により、フッ素ポリマーの表面に不溶性かつ耐久性の高いコーティングを特に薄層として形成することができる。すなわち、本発明により、長期間にわたってフッ素ポリマーの表面にイオン種を結合させることができる。
【0014】
コーティングを形成する前に基材の前処理を行う必要がないため、本発明により、基材を劣化させることなく、基材を機能化することができる。従って、機械的特性を損なうことなく、非常に薄い膜にさらなる機能性を与えることができる。
【0015】
また、本発明により、多孔性膜内における気体や液体の輸送を維持するように、多孔性膜を機能化することができる。
【0016】
また、微孔性基材を使用する場合には、物品の通気特性(air flow properties)を容易に微調整し、油等級(oil rating)と低吸水率の良好なバランスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】ポリマー多孔性基材(20)と、ポリマー多孔性基材(20)上に形成されたモノリシックコーティング(30)と、を有する物品(10)の概略断面図である。
【図1b】ポリマー多孔性基材(20)と、ポリマー多孔性基材(20)上に形成され、細孔の内表面及び外表面に存在するコーティング(30)(「内部コーティング」)と、を有する物品(10)の概略断面図である。
【図2】実施例3のコーティングされたePTFE膜の断面SEM画像である(倍率:2000)。
【図3】実施例10のコーティングされたナイロン織物の表面のSEM画像である(倍率:500)。
【図4】実施例18のコーティングされたePTFE膜の表面のSEM画像である(倍率:3500)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
PTFE及びePTFE基材の場合には、コーティングが優れた接着性と成膜性を示すことが特に有利である。
【0019】
また、(微)多孔質基材の細孔内表面のコーティングの場合には、本発明のコーティングは、細孔が閉塞しないように滑らかかつ均等に形成することが有利である。この利点は、基材の特性を変更するために小粒子を使用する従来技術のコンセプトと比較して特に重要である。本発明の利点は、多孔性材料における空気及び液体の高い通過流量によって示される。モノリシックコーティング(基材の外表面に複数の層を形成)の場合には、粒子を使用しないことによって非常に薄いコーティングを形成することができる。
【0020】
また、本発明の物品には、高い水蒸気透過率(MVTR)、水不透過性、優れた耐薬品性、優れたUV劣化耐性及び機械的安定性を付与することができる。また、物品は、透過性、MVTR値及び半透明着色性(translucent tinct)の改良されたバランスを有することができる。
【0021】
本発明に係る物品は、衣類(保護、着心地及び機能性を付与)、織物構造、積層体、フィルターエレメント(液体及び/又は気体の濾過又は精密濾過等)、通気エレメント(容器の通気等)、センサー、診断装置、保護筺体及び分離エレメントに使用することができる。
【0022】
基材は、コーティングを形成することができる任意の非電導性基材であってもよい。非電導性とは、基材が、23℃の温度及び50%の相対湿度において1010Ω/□を超える比表面積抵抗値(specific surface resistance)を有することを意味する。
【0023】
基材は、合成及び/又は天然ポリマー、及び合成及び/又は天然ポリマーの複合体等の有機又は無機材料を含むことができる。
【0024】
基材は、膜、織物又は積層体であってもよい。基材は、織布、不織布、フェルト又は編物であってもよい。また、基材は、マイクロデニール繊維及び紡績糸を含む、単繊維、多繊維又は紡績糸等の繊維であってもよい。
【0025】
基材は、誘電体基材であってもよい。
【0026】
一実施形態では、基材はポリマー基材である。この実施形態では、ポリマー基材は、合成ポリマー、天然ポリマー及び/又は合成及び/又は天然ポリマーの複合体等の任意のポリマーであることができる。
【0027】
ポリマー基材は、例えば金属又は金属酸化物と比較して低い表面エネルギーを有することが知られている。一実施形態では、本発明の物品のポリマー基材は、100mN/m以下の表面エネルギーを有し、別の実施形態では、40mN/m以下の表面エネルギーを有する。
【0028】
一実施形態では、コーティングが形成された基材は、1〜1000μmの厚みを有し、別の実施形態では、3〜500μmの厚みを有し、さらに別の実施形態では、5〜100μmの厚みを有する。
【0029】
同一又は異なる材料からなる層を、コーティングされた基材に積層することができる。
【0030】
一実施形態では、基材はフッ素ポリマー(フッ素原子を含むポリマー)であり、別の実施形態では、基材はフルオロポリオレフィンである。
【0031】
基材は充填剤を含むことができる。
【0032】
フッ素ポリマーは、部分フッ素化又は完全フッ素化(過フッ素化(perfluorinated))されていてもよい。
【0033】
一実施形態では、基材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE、熱可塑性フルオロポリマー(fluorothermoplastic)又はフルオロエラストマー又はこれらの材料の組み合わせを含む。本願明細書において使用する「変性PTFE」という用語は、テトラフルオロエチレンモノマー単位に加えて、過フッ素化、フッ素化又は非フッ素化コモノマー単位が存在するテトラフルオロエチレンコポリマーを意味する。
【0034】
第2の実施形態では、基材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE、熱可塑性フルオロポリマー(fluorothermoplastic)又はフルオロエラストマー又はこれらの材料の組み合わせからなる。
【0035】
別の実施形態では、基材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、さらに別の実施形態では、基材はPTFEからなる。
【0036】
また、基材は、多孔性PTFE等の多孔性基材であってもよい。
【0037】
本願明細書において使用する「多孔性」という用語は、1つの表面から他方の表面に相互接続された連続的な空気の流路(経路)を形成する空隙部を内部構造中に有する材料を意味する。
【0038】
基材は、微孔性基材であってもよい。微孔性基材とは、基材の空隙部が非常に小さく、通常は「微視的」と呼ばれる空隙部である基材を意味する。
【0039】
平均細孔径測定によって測定した微孔性基材の空隙部の好適な細孔径は0.01〜15μmの範囲である。
【0040】
一実施形態では、基材は、延伸PTFE(ePTFE又はEPTFE)を含むか、延伸PTFEからなる。
【0041】
PTFEは、1以上の方向に延伸させてフッ素ポリマーを多孔性にすることができる。多孔性フッ素ポリマーは、テープ、チューブ、繊維、シート又は膜状であることができる。多孔性フッ素ポリマーの微細構造は、ノード(node)及びフィブリル(fibril)、フィブリルのみ、フィブリルのストランド(strand)又は束のみ、又はフィブリルによって相互接続された延伸ノードを含むことができる。
【0042】
好適なフッ素ポリマー膜としては、一軸又は二軸延伸ポリテトラフルオロエチレン膜が挙げられる。
【0043】
好適な延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料は、例えば、Bowman(米国特許第4,598,011号)、Branca(国際公開第96/07529号)、Bacino(米国特許第5,476,589号)、Gore(米国特許第4,194,041号)、Gore(米国特許第3,953,566号)に開示されている不織ePTFEフィルムである。これらの文献の開示内容は、この参照によって本願に援用する。これらの文献に開示されているePTFEフィルムは、薄く、強く、化学的に不活性であり、空気又は液体の高い通過流量を有することができる。
【0044】
ePTFEフィルムを製造するために好適なフッ素ポリマーとしては、PTFE並びにテトラフルオロエチレンとFEP、THV PFA等のコポリマーが挙げられる。
【0045】
膜内の流量は、平均細孔径と厚みの組み合わせによって決まる。精密濾過用途では、良好な粒子保持性能を有するかなりの流量が必要である。ePTFE細孔径が小さい(狭い)場合には、高い水注入圧力が必要となる。ePTFE細孔径が大きくなると、ePTFE膜の水に対する抵抗性が減少する。これらの実際的な理由から、ePTFEの平均細孔径は0.3μm未満がよいと考えられる。
【0046】
「イオン性フッ素ポリマー」という用語は、イオン性基(電荷を有する基)を有する有機ポリマーを意味し、イオン性基は、アニオン性基又はカチオン性基(例えば、−SO、−COO、−PO2−又は−NH)であってもよい。イオン性フッ素ポリマーでは、フッ素原子はポリマー主鎖又は側鎖(分岐)中で炭素原子に共有結合している。
【0047】
イオン性フッ素ポリマーの前駆体は、簡単な化学反応によってイオン性フッ素ポリマーに転化させることができる化合物である。例えば、イオン性基として−SO基を含むイオン性フッ素ポリマーの前駆体は、非イオン性の−SOH基を有する化合物であってもよく、対イオン剤又はその前駆体との反応によって対応するアニオン性−SO基に転化させることができる。
【0048】
「有機ポリマー」という用語は、ホモポリマー、コポリマー(例えば、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ランダムコポリマー及び交互コポリマー)、ターポリマー、それらの誘導体並びにそれらの組み合わせ及び混ぜ合わせたもの(blend)を含む。また、特記しない限り、「ポリマー」という用語は、直鎖状構造、ブロック構造、グラフト構造、ランダム構造、交互構造及び分岐状構造並びにそれらの組み合わせを含む分子のあらゆる幾何学的形態を含む。
【0049】
一実施形態では、基材、特にPTFE等のフッ素化基材との適合性を向上させるために、イオン性フッ素ポリマーは、非炭素原子に対して高いフッ素含有量(例えば、>50atom%)を有する。
【0050】
一実施形態では、基材、特にフッ素化ポリマーとの適合性をさらに向上させ、水溶性を低レベルに保つために、イオン性フッ素ポリマーのフッ素/水素比(F/H比)は1を超え、別の実施形態では2を超え、さらに別の実施形態では3を超える。この場合、コーティングの耐久性も向上する。
【0051】
F/H比は、適度又は高い相対湿度における膨潤度を決定する。F/H比が高くなると、湿潤条件下における膨潤度が低くなる。
【0052】
一実施形態では、特にPTFE又はePTFE基材等のフッ素化基材と共に使用する場合には、イオン性フッ素ポリマーは過フッ素化されている。
【0053】
イオン性フッ素ポリマーの当量は、イオン性フッ素ポリマーの分子量を、イオン性フッ素ポリマー中に存在するイオン性基の数で割った値と定義される。
【0054】
一実施形態では、イオン性フッ素ポリマーの当量は400〜15,000mol/gであり、別の実施形態では、500〜10,000mol/gであり、さらに別の実施形態では、700〜8,000mol/gである。
【0055】
イオン性フッ素ポリマーの当量が低過ぎると、水溶性が高くなり過ぎる場合がある。イオン性フッ素ポリマーの当量が高過ぎると、加工性が悪化する場合がある。
【0056】
一実施形態では、イオン性フッ素ポリマーは非水溶性である。
【0057】
イオン性フッ素ポリマーのイオン性基は、アニオン性基又はカチオン性基であってもよい。
【0058】
一実施形態では、イオン性基はアニオン性基であり、別の実施形態では、イオン性基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン基及びそれらの組み合わせから選択される。
【0059】
本発明の一実施形態では、イオン性フッ素ポリマーは、フルオロアイオノマー又はイオン性フルオロポリエーテルである。
【0060】
「フルオロアイオノマー」という用語は、部分フッ素化又は過フッ素化α−オレフィン(例えば、HC=CHF(フッ化ビニル)、HC=CF(フッ化ビニリデン(VDF))、HFC=CHF、FC=CF(テトラフルオロエチレン)、FC=CFCF、ClFC=CF(塩化三フッ化エチレン)と部分フッ素化又は過フッ素化ビニルエーテルのコポリマーを意味する。コポリマーはイオン性基も含む。また、フルオロアイオノマーは、アセチレン等の非フッ素化コモノマーを含むことができる。
【0061】
フルオロアイオノマーは、エーテル基によってポリマーに結合していてもよい側鎖を含むことができる。側鎖長は、3炭素原子からエーテル結合を含む8炭素原子であることができる。イオン性基は側鎖に結合していてもよい。
【0062】
市販のアイオノマーは、DuPont社(DuPont(商標) Nafion(登録商標))、旭硝子株式会社(Flemion(登録商標))、3M−Dyneon(米国特許出願公開第2004/0121210 A1号)、旭化成株式会社(Aciplex(登録商標))、Dow Chemical社(Dow 808 EW ionomer)、Solvay Solexis社(Hyflon(登録商標)lon)、Shanghai GORE 3F社(米国特許第7,094,851号)から入手することができる。
【0063】
「イオン性フルオロポリエーテル」という用語は、酸素原子によって結合した部分フッ素化又は過フッ素化オレフィンモノマー単位及びイオン性基(電荷を有する基)を有する単位からなるポリマーを意味する。イオン性フルオロポリエーテル分子には、同一又は異なる性質の1以上のイオン性基が存在していてもよい。
【0064】
イオン性フルオロポリエーテルは、通常は熱的に安定であり、水及び最も一般的な溶媒に実質的に不溶であり、コーティング後に溶け出ることがない。
【0065】
例えば、フルオロポリエーテルオレフィンモノマー単位は、−O−(CF−CF)−及び/又は−O−(CFH−CF)−及び/又は−O−(CH−CF)−及び/又は−O−(CH−CHF)−及び/又は−O−(CF(CH)−CF)−及び/又は−O−(C(CH−CF)−及び/又は−O−(CH−CH(CH))−及び/又は−O−(CF(CF)−CF)−及び/又は−O−(C(CF−CF)−及び/又は−O−(CF−CH(CF))−を含むことができる。
【0066】
イオン性基は、アニオン性基(−SO、−COO、−OPO2−等)及び/又はアニオン性基とカチオン性基の組み合わせ(例えば、−SO、−COO又は−OPO2−と−NH、−NR又は−NR)であってもよい。
【0067】
一実施形態では、イオン性基はアニオン性基であり、別の実施形態では、イオン性基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン基及びそれらの組み合わせから選択される。
【0068】
イオン性フルオロポリエーテルの前駆体は、簡単な化学反応によってイオン基を有するフルオロポリエーテルに転化させることができる化合物である。例えば、イオン性基として−COO基を含むイオン性フルオロポリエーテルの前駆体は、非イオン性の−COOH基を有する化合物であってもよく、対イオン剤又はその前駆体との反応によって対応するアニオン性−COO基に転化させることができる。
【0069】
イオン性フルオロポリエーテルでは、フッ素原子はポリマー主鎖又は側鎖(分岐)中で炭素原子に共有結合している。「ポリマー」という用語は、コポリマー(例えば、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ランダムコポリマー及び交互コポリマー)、ターポリマー、それらの誘導体並びにそれらの組み合わせ及び混ぜ合わせたものを含む。また、特記しない限り、「ポリマー」という用語は、直鎖状構造、ブロック構造、グラフト構造、ランダム構造、交互構造及び分岐状構造並びにそれらの組み合わせを含む分子のあらゆる幾何学的形態を含む。
【0070】
通常、イオン性過フッ素化ポリエーテルは、−CF−O−、−(CFCF)−O−、−(CF(CF))−O−、−(CFCFCF)−O−、−(CFCF(CF))−O−、−(CF(CF)CF)−O−及びそれらの組み合わせから選択されるオレフィンモノマー単位を含む。新しいタイプの過フッ素化ポリエーテルは、他の繰り返し単位(例えば、(C(CF)−O−)又は3つ以上の炭素原子を含む単位(例えば、−(C)−O又は−(C12)−O−)も含む場合がある。
【0071】
一実施形態では、イオン性フルオロポリエーテルは、イオン性パーフルオロポリアルキルエーテル(1以上のイオン性基を分子内に有するパーフルオロポリアルキルエーテル(perfluoropolyalkylether))からなる群から選択される。通常、パーフルオロポリアルキルエーテルは「PFPE」と省略されている。よく使用される他の同義語として、「PFPE油」、「PFPE流体」及び「PFPAE」がある。
【0072】
PFPEは、中性の非イオン性基(特に非イオン性末端基)のみを有することが知られている。
【0073】
過フッ素化ポリエーテルの概説は、「Modern Fluoropolymers」,edited by John Scheirs,Wiley Series in Polymer Science,John Wiley & Sons(Chichester,New York,Wienheim,Brisbane,Singapore,Toronto),1997,Chapter 24:Perfluoropolyethers(Synthesis,Characterization and Applications)に記載されている。上記文献の開示内容は、この参照によって本願に援用する。
【0074】
しかしながら、本発明に使用するイオン性PFPE等のイオン性フルオロポリエーテルは、イオン性基を含む点においてそのような中性PFPEとは異なる。
【0075】
通常、イオン性フルオロポリエーテル分子は、イオン性フルオロポリエーテル構造の骨格の両端に2つの末端基を含む。
【0076】
通常、イオン性フルオロポリエーテル分子に存在するイオン性基は、これらの末端基を構成するか、これらの末端基に結合している。
【0077】
イオン性フルオロポリエーテルは、末端基反応によって非イオン性フルオロポリエーテルを変性することによって得ることができる。そのような化合物は、例えば、Fluorolink(登録商標)(Solvay Solexis社)として市販されている。
【0078】
イオン性フルオロポリエーテル又はその前駆体の実施形態を以下に記載する。
【0079】
(a)以下の基から選択される末端基を含むパーフルオロポリエーテル(PFPE):
−(O)−(CR−X
式中、
=H、F、Cl、Br又はI;
=H、F、Cl、Br又はI;
X=COOH、SOOH又はOPO(OH)
n=0又は1;
m=0〜10。
【0080】
ただし、末端基に隣接して以下の基が存在していてもよい。
−CFH−
−(CH−(n=1〜10)
−(OCH−(n=1〜10)
−(OCHCH−(n=1〜10)
イオン性フルオロポリエーテルが非イオン性末端基を含む場合、非イオン性末端基は通常は−OCF、−OC、−OC等の基である。
【0081】
ただし、非イオン性末端基は、以下の基から選択されてもよい。
−(O)−(CR−CR
式中、
=H、F、Cl、Br又はI;
=H、F、Cl、Br又はI;
=H、F、Cl、Br又はI;
=H、F、Cl、Br又はI;
=H、F、Cl、Br、I、アルキル又はアリール;
n=0又は1;
m=0〜10。
【0082】
また、H、Cl、Br又はIラジカルを含む基等の非過フッ素化末端基が存在していてもよい。
【0083】
非過フッ素化末端基の例としては、以下の構造が挙げられる。
−CF(R=H、Cl、Br又はI)
−CFR−CF(R=H、Cl、Br又はI)
−(O)−(CR−CRで表される末端基は、以下の基の組み合わせから選択されてもよい。
−OCF;−OC;−OC;−OC;−OC11;−OC13;−OC15;−OC17;−OC19;−OC1021
−OCFH;−OCH;−OCH;−OCH;−OC10H;−OC12H;−OC14H;−OC16H;−OC18H;−OC1020H;
−OCFCl;−OCCl;−OCCl;−OCCl;−OC10Cl;−OC12Cl;−OC14Cl;−OC16Cl;−OC18Cl;−OC1020Cl;
−OCFBr;−OCBr;−OCBr;−OCBr;−OC10Br;−OC12Br;−OC14Br;−OC16Br;−OC18Br;−OC1020Br;
−OCFI;−OCI;−OCI;−OCI;−OC10I;−OC12I;−OC14I;−OC16I;−OC18I;−OC1020I;
−OCF;−OC;−OC;−OC;−OC;−OC11;−OC13;−OC15;−OC17;−OC1019
−OCFCl;−OCCl;−OCCl;−OCCl;−OCCl;−OC11Cl;−OC13Cl;−OC15Cl;−OC17Cl;−OC1019Cl
−OCFBr;−OCBr;−OCBr;−OCBr;−OCBr;−OC11Br;−OC13Br;−OC15Br;−OC17Br;−OC1019Br
−OCF;−OC;−OC;−OC;−OC;−OC11;−OC13;−OC15;−OC17;−OC1019
−CF;−C;−C;−C;−C11;−C13;−C15;−C17;−C19;−C1021
−CFH;−CH;−CH;−CH;−C10H;−C12H;−C14H;−C16H;−C18H;−C1020H;
−CFCl;−CCl;−CCl;−CCl;−C10Cl;−C12Cl;−C14Cl;−C16Cl;−C18Cl;−C1020Cl;
−CFBr;−CBr;−CBr;−CBr;−C10Br;−C12Br;−C14Br;−C16Br;−C18Br;−C1020Br;
−CFI;−CI;−CI;−CI;−C10I;−C12I;−C14I;−C16I;−C18I;−C1020I;
−CF;−C;−C;−C;−C;−C11;−C13;−C15;−C17;−C1019
−CFCl;−CCl;−CCl;−CCl;−CCl;−C11Cl;−C13Cl;−C15Cl;−C17Cl;−C1019Cl
−CFBr;−CBr;−CBr;−CBr;−CBr;−C11Br;−C13Br;−C15Br;−C17Br;−C1019Br
−CF;−C;−C;−C;−C;−C11;−C13;−C15;−C17;−C1019
【0084】
本発明に好適なイオン性フルオロポリエーテルの市販品としては、例えば、Fomblin(登録商標)(Solvay Solexis社)、Fluorolink(登録商標)(Solvay Solexis社)、Krytox(登録商標)(DuPont社)、Demnum(登録商標)(ダイキン工業株式会社)が挙げられる。これらの化合物は、実質的に純粋な形態で入手することができ、水の中でマイクロエマルションとして供給されている場合もある(例えば、Fomblin(登録商標)FE 20C又はFomblin(登録商標)FE 20 EG)。
【0085】
市販されている好適なイオン性フルオロポリエーテル構造を以下に記載する。
Fluorolink(登録商標)C及びFluorolink(登録商標)C 10:
HOOC−CF−(OCFCF−(OCF−O−CF−COOH(式中、m+n=8〜45、m/n=20〜1000)
Fluorolink(登録商標)F 10:
PO(OH)3−y(EtO)−CH−CF−(OCFCF−(OCF−O−CF−CH(EtO)PO(OH)3−y(式中、m+n=8〜45、m/n=20〜1000)
Krytox(登録商標)157 FSL:
F−[CF(CF)CFO]−CF(CF)−COOH(式中、n=〜14(M=2500)
Krytox(登録商標)157 FSM(M=3500〜4000)及びKrytox(登録商標)157 FSH(M=7000〜7500)を含む。
Demnum(登録商標)SH:
CF−CF−CF−O−(CF−CF−CFO)−CF−CFCOOH(分子量:3500)
【0086】
イオン性フルオロポリエーテル又はその前駆体を含む成分は、60℃において約5mPas〜約1,000,000mPas、約10mPas〜約500,000mPas又は好ましくは約30mPas〜約50,000mPasの粘度を有する粘性の液体であってもよい。
【0087】
イオン性フッ素ポリマーは、非水溶性であってもよい。
【0088】
通常、イオン性フッ素ポリマーは、非水溶性であってもよいオリゴマー及び/又はコロイドである。レーザー散乱法(米国特許第7,094,851号)によって測定した、水中に分散したオリゴマー及び/又はコロイドの平均粒径は、通常は1〜200nmである。
【0089】
「対イオン剤」という用語は、イオン性フッ素ポリマーのイオン性基の電荷とは反対のイオン電荷を有する化合物を意味する。本発明において、対イオン剤は、表面荷電ナノ粒子を含むか、表面荷電ナノ粒子からなる。
【0090】
対イオン剤とイオン性フッ素ポリマーを混合すると、以下に詳述するように、イオン性フッ素ポリマーのイオン性基の電荷が対イオン剤の電荷によって少なくとも部分的に平衡を保たれた錯体が形成される。そのような錯体(イオン性フッ素ポリマーの電荷が対イオン剤によって平衡を保たれた錯体)は、通常は、コーティング全体に及ぶイオン性フッ素ポリマー分子と対イオン剤種のネットワークであり、コーティングは架橋されているとみなすことができる。
【0091】
本発明の対イオン剤は、導電性ポリマーのナノ粒子等の表面荷電ナノ粒子を含む。
【0092】
一実施形態では、本発明の対イオン剤は、導電性ポリマーのナノ粒子等の表面荷電ナノ粒子からなる。
【0093】
表面荷電ナノ粒子の多重荷電により、イオン性フッ素ポリマーとの複数の相互作用点を有する錯体が形成され、安定したコーティングが得られる。
【0094】
そのようなナノ粒子の例としては、コロイド有機塩、有機コロイドポリマー、ポリスチレンスルホン酸塩、染料、インク及び導電性ポリマー(IPC)のナノ粒子が挙げられる。
【0095】
荷電されていないナノ粒子には、カチオン性高分子電解質(例えば、ポリエチレンイミン(PEI))等の高分子電解質をコーティングすることによって表面電荷を付与することができる。
【0096】
カルボン酸、硫酸塩、リン酸塩、シラン、ジオール、ポリオール等の有機化合物による処理によってナノ粒子が表面官能基を含む場合には、例えば、カチオン性高分子電解質を使用してナノ粒子をアニオン性荷電フッ素ポリマーに結合させることができる。
【0097】
通常、表面荷電ナノ粒子は、単一分子、コロイド、オリゴマー及び/又はポリマーの非水溶性有機分子である。
【0098】
一実施形態では、液体中に分散した表面荷電ナノ粒子の大きさは5〜500nmであり、別の実施形態では、10〜200nmであり、さらに別の実施形態では、20〜100nmである。
【0099】
水等の液体中に分散した表面荷電ナノ粒子の粒径は、レーザードップラー法によって測定することができる。例えば、Ormecon(商標)(ポリアニリン分散液)は、レーザードップラー法によって測定した10〜50nmの粒径を有する粒子として入手することができる。
【0100】
一実施形態では、表面荷電ナノ粒子は、導電性ポリマーを含むか、導電性ポリマーからなる。
【0101】
「導電性ポリマー(intrinsically conductive polymer(ICP))」という用語は、二重結合又は三重結合等の多重共役結合系及び電子供与体又は電子受容体ドーパントでドープされた芳香環を含み、4インラインプローブ法(four−inline probe method)による少なくとも約10−6S/cmの導電率を有する電荷移動錯体を形成する有機ポリマーを意味する。
【0102】
ドーパントは、ICPに対する電荷平衡化対イオンとして機能すると共にICPを水中に分散させる。
【0103】
通常、ドーパントは、単イオン、アニオン性界面活性剤、または、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸及びそれらの誘導体又はそれらの組み合わせを含むアニオン高分子電解質、等のアニオン性水溶性材料である。
【0104】
ICPの例としては、ポリアニリン、置換ポリアニリン、ポリピロール、置換ポリピロール、ポリアセチレン、置換ポリアセチレン、ポリチオフェン、置換ポリチオフェン、ポリパラフェニレン及び置換ポリ(パラ)パラフェニレン等のポリフェニレン、ポリアジン、置換ポリアジン、ポリパラフェニレンスルフィド、置換ポリパラフェニレンスルフィド、それらの混合物及び/又はコポリマーが挙げられる。
【0105】
市販の導電性ポリマーの例としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)(H.C.Starck社、Clevios(商標)P又はPH(以前の名称はBaytron(登録商標)、Baytron(登録商標)−P又は−PH))が挙げられる。また、ポリチエノチオフェン等の置換ポリチオフェン、ポリアニリン(Covion Organic Semiconductors社(フランクフルト)及びOrmecon(商標)(Ammersbek))、ポリピロール(Sigma Aldrich社(ミズーリ州セントルイス))、ポリアセチレン及びそれらの組み合わせも例として挙げられる。ドーピング系を含む、ポリアセチレン、ポリ(N−置換ピロール)、ポリ(N−置換アニリン)、ポリ(パラフェニレン)、ポリ(フェニレンスルフィド)も導電性ポリマーとして使用することができる。
【0106】
対イオン剤として導電性ポリマーを使用することにより、優れた通気性を有するコーティングが得られ、細孔の外側及び内側表面をコーティングしたり、非常に薄いコーティングを基材(特にフッ素ポリマー基材)に形成するために特に有利である。
【0107】
また、対イオン剤として導電性ポリマーを使用することにより、帯電防止性、難燃性及び通気性のバランスが優れたコーティングを製造することができる。
【0108】
また、導電性ポリマーを使用することにより、非常に優れた密着性を有する帯電防止コーティングを得ることができる。さらに、導電性ポリマーは撥油性コーティングに使用することができる。
【0109】
導電性ポリマーは、水系分散液又は有機組成物内に安定化させた小さなナノ粒子として利用することができる。
【0110】
一実施形態では、ナノ粒子である[ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)]導電性ポリマー(例えば、Clevios(商標)P又はPH(以前の名称はBaytron(登録商標)P又はPH)))の水系分散液を使用する。
【0111】
一実施形態では、膨潤状態にある分散ナノ粒子の大きさは5〜500nmであり、別の実施形態では、10〜200nmであり、さらに別の実施形態では、20〜100nmである。
【0112】
導電性ポリマーの分散ナノ粒子の粒径は、レーザードップラー法によって測定することができる。例えば、Ormecon(商標)(ポリアニリン分散液)は、レーザードップラー法によって測定した10〜50nmの粒径を有する粒子として入手することができる。
【0113】
一実施形態では、分散ナノ粒子の平均粒径は5〜500nmであり、別の実施形態では、10〜200nmであり、さらに別の実施形態では、20〜100nmである。
【0114】
導電性ポリマーの分散ナノ粒子の平均膨潤粒径は超遠心分離法によって測定することができる。例えば、Clevios(商標)P(以前の名称はBaytron(登録商標)P)の平均膨潤粒径は超遠心分離法によって測定されており、S.Kirchmeyer,K.Reuter,J.Mater.Chem.,2005,15,2077−2088に報告されている。
【0115】
最終的なコーティング内には、イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤は錯体として存在する。
【0116】
一実施形態では、対イオン剤又はその前駆体の量は、対イオン剤の量が、最終的なコーティング内に存在するイオン性フッ素ポリマーのイオン性基の量に対して、0.05〜1.0電荷当量(charge equivalent)、別の実施形態では0.1〜0.99電荷当量、別の実施形態では0.15〜0.99電荷当量、別の実施形態では0.2〜0.99電荷当量、さらに別の実施形態では0.5超〜0.99電荷当量となるように選択される。
【0117】
すなわち、これらの実施形態では、最終的なコーティング内のイオン性フッ素ポリマーのイオン電荷のそれぞれ5〜100%、10〜99%、15〜99%、20〜99%又は50%超〜99%が、導電性ポリマーのイオン電荷によって均衡を保たれており、従って、これらの実施形態では、最終的なコーティング内のイオン性フッ素ポリマーのそれぞれ5〜100%、10〜99%、15〜99%、20〜99%又は50%超〜99%が導電性ポリマーによって架橋されており、錯体として存在する。
【0118】
対イオン剤の量が少な過ぎると、イオン性フッ素ポリマーコーティングの大部分の水膨潤性が比較的高くなる場合がある。これにより、表面が親水性になる場合がある。対イオン剤の量が多過ぎると、遊離対イオン剤が架橋に寄与することなくアイオノマーのポリマー鎖によって埋められ、コーティングが溶出性を示し、コーティングが親水性を示す場合がある。
【0119】
導電性ポリマーの量は、電荷平衡が5〜100%、10〜99%、15〜99%、20〜99%又は50%超〜99%となり、帯電防止性、難燃性、通気性、化学的耐性及び機械的特性を含む特性のバランスを有するコーティングを製造することができるように選択する。
【0120】
最終的なコーティング内のイオン性フッ素ポリマーのイオン電荷の50%超が対イオン剤のイオン電荷によって均衡を保たれ、架橋されていれば、水の取込み及び膨潤を大幅に減少させることができる。
【0121】
イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子が錯体を形成するため、コーティングは、比較的高い導電率を有すると共に比較的低いプロトン導電性を有する。
【0122】
本発明の物品におけるコーティングは、外部コーティング(実質的に連続する層として存在するコーティング(「モノリシックコーティング」)又は、例えば、基材の外表面上のドット状パターン等の非連続パターンを有するコーティング)及び/又は内部コーティング(多孔性基材の細孔の内面及び外面に存在するが、それらを閉塞しないコーティング)であってもよい。
【0123】
また、コーティングは、多孔性基材の細孔に完全に充填されていてもよい(すなわち、基材に完全に吸収され、細孔を閉塞していてもよい)。
【0124】
外部コーティング(例えば、モノリシックコーティング)は、基材の片面又は両面に設けられていてもよい。
【0125】
モノリシックコーティングは、
a)2つの基材(例えば、2つの微細孔膜又は1つの微細孔膜と1つの織物層)間の中間層、又は
b)基材の多重被覆層の一部(例えば、2つのコーティング間の層又は最外面のトップコーティング)を形成していてもよい。
【0126】
図1は、基材20の外表面上に層として設けられたモノリシックコーティング30の模式図を示す。
【0127】
モノリシックコーティングは通常気密性を有するため、多孔性基材の場合には、コーティングされた物品内の空気の流れはモノリシックコーティングによって妨げられる。「気密層」及び「空気の流れを妨げる」とは、実験部分に記載したガーレー(Gurley)試験によって測定した場合に少なくとも2分間にわたって空気の流れが観察されないことを意味する。
【0128】
一実施形態では、最終的なモノリシックコーティングの厚みは0.05〜25μmである。当業者は、上記範囲内において用途に最も適した厚みを決定することができるだろう。
【0129】
コーティングされた基材の特性(例えば、MVTRと帯電防止性、MVTRと撥油性、MVTRと難燃性)の優れたバランスを得るために、モノリシックコーティングの厚みは0.075〜25μmとすることができる。
【0130】
コーティングが0.05μmよりも薄い場合には、コーティングの耐久性が低下する場合がある。
【0131】
一実施形態では、基材上の最終的なコーティングのレイダウン(laydown)は、基材の外表面に対して0.1〜10g/mである。
【0132】
例えば、ePTFE膜上のモノリシックコーティングの最小レイダウンは通常は0.3g/mである。
【0133】
レイダウンとコーティングの厚みは耐久性と通気性(MVTR)に影響を与えるため、用途に応じて調節しなければならない。
【0134】
モノリシックコーティングが設けられた多孔性基材(ePTFEフィルム等)の通気性又は水蒸気透過率はMVTR値によって特徴付けられる。通常、多孔性膜上にモノリシックコーティングを有する基材、特にePTFE基材のMVTRは25,000g/m/24hを超える。一実施形態では、MVTRは40,000g/m/24hに調節し、別の実施形態では、MVTRは60,000g/m/24hを超える。
【0135】
本発明のコーティングされた物品のMVTRは、低い相対湿度においても高いままである。
【0136】
多孔性基材30の細孔20の内表面及び外表面に存在する内部コーティングの模式図を図1bに示す。
【0137】
そのような内部コーティングは、通気性コーティング(すなわち、コーティングは、細孔を閉塞することなく、基材の細孔の内表面及び外表面に存在する)である。
【0138】
空気の流れを妨げるモノリシックコーティングが基材にさらに設けられていない場合には、内部コーティングにより、コーティング後に通気性多孔性基材が得られる。通気性とは、後述するガーレー試験によって測定した場合の材料の所定領域を通過する空気の体積によって決定される。内部コーティングにより、薄膜等の微孔性基材上に機能性表面を有する通気性骨格を作製することができる。
【0139】
一実施形態では、内部コーティングの厚みは0.05μmよりも大きい。
【0140】
内部コーティングは、500nm未満の厚みを有するように非常に薄い基材に設けることができ、250nm未満の厚みを有するように非常に薄い基材に設けることもできる。
【0141】
また、内部コーティングは、ePTFE等の微細孔膜をコーティングするために設けることができる。内部コーティングの場合には、ePTFEの平均細孔径は0.05〜15μmであってもよく、別の実施形態では0.1〜10μmであってもよい。
【0142】
別の実施形態では、全ての細孔にコーティング材料が完全に充填され(完全に吸収され)、細孔が閉塞されるように、コーティングを多孔性基材上に形成する。
【0143】
完全に吸収されるコーティングは、主として非常に薄い基材に設けられる。従って、完全に吸収されるコーティングは、25μm以下の厚みで基材に設けるか、15μm以下の厚みで基材に設けることができる。これらの完全に吸収された物品を積層することにより、より厚い構造を作製することができる。
【0144】
なお、1以上のモノリシックコーティングと、内部コーティング又は完全に吸収されるコーティングとを、a)同時及び/又はb)段階的に基材に設けることができる。例えば、多孔性基材は、少なくとも1つの外表面にモノリシックコーティングを有し、細孔内に内部コーティングを有することができる。
【0145】
本発明に係るモノリシックコーティングにより、Z−試験によって試験を行った場合に、コーティングが、一実施形態では300N/645mmを超え、別の実施形態では500N/645mmを超える基材に対する優れた密着強度を有する物品を製造することができる。300/645mm又は500N/645mmを超える高い密着性レベルは、基材がePTFEであっても得ることができる。
【0146】
コーティングされたポリマー基材の親水性及び疎水性は、対イオン剤及びイオン性フッ素ポリマーを選択することによって容易に設定することができ、成分を単独で使用した場合とは大きく異なる。例えば、表面にコーティングされた導電性ポリマーを使用する従来技術では、水によって容易に湿潤する親水性表面が得られる。一方、本発明では、例えば、フルオロアイオノマーの対イオン剤として導電性ポリマーを使用することにより、表面の疎水性が高まる。
【0147】
本発明により、向上した油等級を有する撥油性物品を製造することができる。油等級(AATCC試験法118−2000)は、多孔性表面が油をはじく度合いを示す。油等級が高い程、油を強くはじく。通常、撥油性物品は、2以上又は4以上の油等級(すなわち、物品の表面におけるコーティングが、好ましくは30mN/m(油等級2)より高い表面張力又は25mN/m(油等級4)より高い表面張力であらゆる液体をはじく)によって特徴付けられる。
【0148】
一実施形態では、本発明に係るモノリシックコーティングは、23mN/mよりも高い表面張力であらゆる液体をはじく。
【0149】
一実施形態では、モノリシックコーティングは、Suter試験(0.2バールの水圧で60秒間)に合格する。
【0150】
錯体の形成と成膜性に加えて、イオン性フッ素ポリマーのイオン性基は、導電性ポリマーのための不揮発性・非浸出性・溶媒安定性ドーパントとして機能する。ドーパントが存在しない場合には、ICPは経時的に導電性を失う。
【0151】
本発明により、一実施形態では1011Ω/□未満、別の実施形態では10Ω/□未満、さらに別の実施形態では10〜10Ω/□未満の表面抵抗値を有するコーティングを製造することができる。
【0152】
DIN EN 1149−3に準拠して測定した電荷減衰時間(charge decay time(CDT))は、物品の帯電防止性を示す。20%の相対湿度における本発明に係る物品のCDTは、一実施形態では4秒未満、別の実施形態では1秒未満、別の実施形態では0.5秒未満、さらに別の実施形態では0.01秒未満である。
【0153】
また、本発明により、コーティングされた基材が90°以上の水接触角を有する物品を製造することができる。このような物品は疎水性であるとみなされる。イオン性フッ素ポリマー及び荷電ナノ粒子は水によって容易に湿潤することを考慮すると、これは驚くべき結果である。
【0154】
このようにして、予期せぬことに、イオン性フッ素ポリマーと導電性ポリマー等の荷電ナノ粒子の組み合わせにより、非常に低い表面エネルギーを有し、疎水性かつ撥油性を有する表面を得ることができることが判明した。この組み合わせは、錯体としてフッ素を豊富に含有する表面が形成されていることを示す。
【0155】
第1の工程においてイオン性フッ素ポリマーの前駆体で物品をコーティングし、第2の工程においてイオン交換反応を行うことにより、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤を含むコーティングと、を含む物品を提供することができる。そのようなイオン交換反応及びその条件は当業者に周知である。
【0156】
一実施形態では、以下に記載する方法に従ってコーティングを製造する。第1の工程(工程a))において、上述した実施形態のいずれかにおける、イオン性フッ素ポリマー又はその前駆体と、表面荷電ナノ粒子又はその前駆体を含む対イオン剤の混合物を調製する。混合物が均一になる(全ての成分が均等に分散される)まで成分を混合する。第2の工程において、混合物を基材に塗布する。
【0157】
第1の工程で成分の混合物を調製し、その後の第2の工程で基材に混合物を塗布することにより、混合物並びに最終的なコーティングにおいて2つの成分が完全に均一かつ均等に分散されるように成分を十分に混合することができる。これは、コーティング及び得られる物品の優れた特性に寄与する。特に、予備混合工程により、コーティングは基材上で良好な耐久性を有し、成分、特に、例えば導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子は、水との接触及び/又は機械的摩耗によって容易に浸出することはない。
【0158】
工程a)における混合物は液体であってもよい。これは、成分の混合物が元々液体であるか、1又は全ての成分を溶媒に溶解、乳化又は分散させることによるものであってもよい。
【0159】
一実施形態では、液体としての成分の混合物は、25℃において50mPasを超える粘度を有し、別の実施形態では60mPasを超える粘度を有し、さらに別の実施形態では70mPasを超える粘度を有する。
【0160】
イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤を含むコーティング混合物は、約35mN/m未満、30mN/m未満又は20mN/m未満の表面張力を有することができる。
【0161】
通常、2成分錯体組成物は約30mN/m未満の表面張力を有することができる。
【0162】
イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤の組成物がそのような低い表面張力を有することは、基材、特に、低い表面エネルギーを有するPTFE等のフッ素ポリマーをコーティングする場合に有用である。ほとんどの用途において、コーティング添加剤は必要ではない。
【0163】
イオン性フッ素ポリマー又はその前駆体は、0.1〜10重量%の濃度で混合物内に存在していてもよく、別の実施形態では、0.5〜5重量%の濃度で混合物内に存在していてもよい。
【0164】
上述したように、イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤の前駆体は、簡単な化学反応によってイオン性フッ素ポリマー及び対イオン剤にそれぞれ転化させることができる化合物である。
【0165】
通常、本発明の方法の工程a)では、イオン性フッ素ポリマー及び/又は対イオン剤の前駆体の混合物を調製する。一実施形態では、得られた混合物を、前駆体のイオン性フッ素ポリマー及び対イオン剤への反応が混合物を基材に塗布する前に生じる条件に暴露する。
【0166】
この実施形態では、工程b)で基材をコーティングする前に、混合物はイオン性フッ素ポリマー及び対イオン剤とそれらの前駆体を含む。
【0167】
例えば、−SO基を有するイオン性フッ素ポリマーの前駆体を1つの成分として使用して混合物を調製することができる。この前駆体では、これらの基は−SO基に共有結合する水素原子を有し、電荷を有していない。第2の成分として、塩であってもよい表面荷電ナノ粒子の前駆体を使用することができる。これらの成分は液体として大気温度で混合することができるが、前駆体は混合条件下で反応しない。
【0168】
この例では、前駆体間の反応が生じ、−SO基を有するイオン性フッ素ポリマー及び表面荷電ナノ粒子が形成される温度まで混合物を加熱することができる。
【0169】
ただし、イオン性フッ素ポリマー及び/又は対イオン剤の前駆体の混合物を基材に塗布することもできる。最終的なコーティングを得るためには、前駆体のイオン性フッ素ポリマー及び対イオン剤への反応が生じる条件に、混合物が塗布された基材を暴露する。
【0170】
イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤を混合すると(前駆体から生成した場合又はイオン性フッ素ポリマーと対イオン剤をそのまま混合した場合のいずれか)、イオン性フッ素ポリマーの電荷が対イオン剤の電荷によって少なくとも部分的に均衡を保たれたイオン性フッ素ポリマーと対イオン剤の錯体が形成される。これにより、混合物中におけるイオン性フッ素ポリマー分子(又は少なくともそれらのイオン性基)と対イオン剤種の転位が生じ、イオン性フッ素ポリマー分子と対イオン剤種の架橋が生じる。低い表面エネルギー及び化学安定度等のフッ素ポリマーの基本的な材料特性は影響を受けない。
【0171】
従って、最終的なコーティング内には、イオン性フッ素ポリマーと対イオン剤は上述した錯体として存在する。
【0172】
通常、特にイオン性フッ素ポリマーと対イオン剤の錯体を含む混合物が溶媒を含んでいる場合には、基材上のイオン性フッ素ポリマーと対イオン剤の錯体を含む混合物は乾燥する。乾燥工程は、減圧、加熱、それらの組み合わせ等の公知の方法によって行うことができる。
【0173】
工程b)で得られたコーティングは、100〜200℃、別の実施形態では150〜190℃、さらに別の実施形態では160〜180℃の温度に加熱することができる。
【0174】
温度が低過ぎると、製造時間が増加し、イオン性フッ素ポリマーの水和が生じる場合がある。温度が高過ぎると、分解(劣化)が開始する場合がある。
【0175】
以下、コーティングのいくつかの特定の実施形態について説明する。これらの実施形態のコーティングも本発明の一部である。特記しない場合には、混合物、成分及びコーティングの上記実施形態も以下の特定のコーティングの実施形態に当てはまる。
【0176】
第1の実施形態では、物品は、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むコーティングと、を含む。
【0177】
この実施形態では、物品の帯電防止性が向上する。特に驚くべきことに、この組み合わせにより、帯電防止性と通気性のバランスも得られる。
【0178】
第2の実施形態では、物品は、多孔質の非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むモノリシックコーティングと、を含む。
【0179】
この実施形態では、帯電防止性、防水性及び良好な通気性のバランスが得られる。従って、この実施形態は衣類等の防水物品を提供するために特に好適である。良好な通気性は、低い相対湿度においても観察される。
【0180】
非常に通気性の高いモノリシックコーティングの厚みは、0.05〜15μm又は0.75〜12μmであることができる。
【0181】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、ある程度の衣類内の水分の流れを得るために必要な温度及び湿度勾配は、コーティングの非常に小さな厚みと性質によって低下すると考えられる。
【0182】
非常に通気性の高いモノリシックコーティングの多孔性基材上のレイダウンは、0.3〜5.0g/m又は0.5〜4.0g/mであることができる。
【0183】
非常に通気性の高いモノリシックコーティングにより、20,000g/m/24hを超えるMVTR値(Hohenstein Standard Test Specification BPI 1.4)を有する防水性の多孔性基材を提供することができる。ePTFEを基材として使用する場合には、80,000g/m/24hを超えるMVTR値を得ることができる。同時に、Suter試験(0.2バールの水圧で60秒間)にも合格する。
【0184】
第3の実施形態では、物品は、多孔質の非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含む内部コーティングと、を含む。
【0185】
この実施形態では、表面荷電ナノ粒子及び任意の別のカチオンは、ポリマー基材に埋め込まれている。微細孔膜の場合には、物品は通気性及び帯電防止性を有する。表面荷電ナノ粒子はマトリックスによって保護され、電荷の蓄積を防止する。基材上の帯電防止性・通気性コーティングにより、1秒未満の電荷減衰時間(DIN EN 1149−3に準拠して測定)を有する物品が得られる。物品は、静的保護作業衣として使用するか、電荷の蓄積を防止するために空気濾過又は通気用途において使用することができる。
【0186】
第4の実施形態では、物品は、多孔質の非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含む内部コーティングと、を含み、コーティングされた基材の油等級は1以上である。
【0187】
この実施形態では、非常に高い基材への密着性及び高い撥油性の良好なバランスを有するコーティングを提供することができる。本発明の本態様により、通気性膜を汚染物から長期にわたって保護することができる。汚染物質源は、油、ガソリン、汗、ローション及びその他の液体である。第4の実施形態に係る優れた性能は、水に対する接触角が90°より高く、コーティングのF/H比が1以上であれば得ることができる。
【0188】
第5の実施形態では、物品は、多孔質の非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むモノリシックコーティングと、を含む。
【0189】
第5の実施形態における基材のモノリシックコーティングが設けられた面の撥油性表面は、30mN/m未満又は26mN/m未満の表面張力の液体をはじく。
【0190】
この実施形態では、モノリシックコーティングが設けられた物品は、水蒸気透過率が非常に高く、20,000g/m/24hを超えるMVTR値(Hohenstein Standard Test Specification BPI 1.4)を有するが、有害な有機物質及び微生物の透過を防止する選択性を有する。ePTFEを基材として使用する場合には、80,000g/m/24hを超えるMVTR値を得ることができる。
【0191】
モノリシック層は、微生物、低エネルギー液体及び薬品に対するバリアを形成する。
【0192】
第6の実施形態では、物品は、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むコーティングと、を含み、コーティングは着色されている。
【0193】
この実施形態では、半透明であって、わずかに着色されたコーティングを得ることができる。この実施形態では、イオン性フッ素ポリマーはパーフルオロポリエーテル及び/又は過フッ素化アイオノマーであり、対イオン剤は、ポリチオフェン(青)、ポリアニリン(緑)及びポリピロール(黒/グレー)であってもよい。
【0194】
第7の実施形態では、物品は、非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むコーティングと、を含み、対イオン剤は、抗菌活性を有するイオンをさらに含む。
【0195】
本願明細書において使用する「抗菌活性」という用語は、バクテリア、ウイルス、真菌類等の微生物を殺す活性を意味する。
【0196】
抗菌活性を有するイオンの例としては、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Cu、Sn、Bi、Znイオン、カチオン性高分子電解質、N−アルキル化四級アンモニウムカチオン及びその誘導体、N−アルキル化4−ビニルピリジン、四級化エチレンイミン、四級化アクリル酸誘導体のポリマー及びそれらのコポリマー等の荷電有機種、双性イオン性化合物、有機カチオン種等のポリカチオンが挙げられる。
【0197】
そのようなコーティングを使用することにより、高い撥油性と共に抗菌性を付与することができる。これらのコーティングは、バイオフィルムの蓄積の防止及び/又はバイオフィルムの除去を可能とする。バイオフィルムは、保護・接着性マトリックスの排泄を特徴とする微生物の複雑な凝集物である。
【0198】
これらの実施形態は、物品の外面及び内面を細菌及び/又はバイオフィルムから保護することができるため、内部コーティングの場合に特に好適である。そのため、通気性等のその他の性能も長期間にわたって維持される。
【0199】
帯電防止性、耐汚染性、通気性及び抗菌活性のバランスを達成するために、フルオロポリエーテルをイオン性フッ素ポリマーとして使用することができる。
【0200】
荷電有機種、双性イオン性化合物又はポリカチオンに好適なモノマーとしては、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピペリジン、4−ビニルピペリジン、ビニルアミン、ジアリルアミンの第四級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーが挙げられる。
【0201】
好ましいポリカチオンは、アルキル化ポリ(4−ビニルピリジン)等のポリ(4−ビニルピリジン)、ポリエチレンミン(PEI)、アルキル置換PEI、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)(PDADMA)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリビニルアミン並びにそれらのコポリマー及び混合物である。
【0202】
別の態様において、ポリカチオンは、少なくとも1つの第4級アミンイオンを含むことができる。
【0203】
対イオン剤としてのポリカチオンの使用は、膜、紙又は織物上のコーティングの抗菌性の向上、透過性を調整する分野並びに表面変性による活性種の結合に適している。
【0204】
一実施形態では、抗菌活性を有するイオンは、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Cu、Sn、Bi及び/又はZnイオンを含み、別の実施形態では、Ag、Cu及び/又はZnイオンを含み、さらに別の実施形態では、Agイオンを含む。
【0205】
抗菌活性を有するイオンがAgイオン(Ag)を含む実施形態では、コーティングは、酢酸銀、炭酸銀、硝酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、それらの酸化物、混合物あるいは誘導体をコーティングを形成するための混合物におけるAgの前駆体として使用して形成することができる。
【0206】
特定の用途においては、上述した抗菌活性を有するイオンの組み合わせ、例えば、銀と銅、銀と亜鉛、銀とカチオン性高分子電解質の組み合わせを使用することが有利な場合がある。
【0207】
抗菌活性を有するイオンがAg、Au、Pt、Pd、Ir、Cu、Sn、Bi及び/又はZnイオンを含む実施形態では、抗菌活性を有するイオンは、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Cu、Sn、Bi、Znイオン、カチオン性高分子電解質、N−アルキル化四級アンモニウムカチオン及びその誘導体、N−アルキル化4−ビニルピリジン、四級化エチレンイミン、四級化アクリル酸誘導体のポリマー及びそれらのコポリマー等の荷電有機種、双性イオン性化合物、有機カチオン種等のポリカチオンをさらに含むことができる。
【0208】
コーティングは、無菌包装、衣服、履き物等のコンシューマヘルスケアに有用な物品、個人用衛生用品、カテーテル、インプラント、チューブ、創縫合部材(縫合糸等)、包帯等の医療用品、エアフィルタ、水・液体フィルタ等に使用することができる。
【0209】
本発明により、24時間又は48時間以上の阻害帯試験(Zone of Inhibition test)に合格するコーティングされた物品を製造することができる。
【0210】
コーティングの形態(モノリシック及び/又は内部コーティング)に応じて、通気性も容易に調節することができる。内部コーティングの場合には、表面上及び細孔内におけるバイオフィルムの形成を防止することが特に有利である。
【0211】
第8の実施形態では、物品は、多孔質の非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと、特に導電性ポリマーの表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤と、必要に応じて別のカチオンと、を含むモノリシックコーティングと、を含み、コーティングは耐火性・難燃性を有する。
【0212】
この実施形態では、耐火性・難燃性、通気性及び高い撥油性のバランスを有するコーティングを提供することができる。同時に、コーティングは帯電防止性を有し、帯電防止性は物品がフィルム又は積層体である場合に重要である。
【実施例】
【0213】
方法及び実施例
a)撥油性
撥油性試験は、AATCC試験法118−2000に準拠して行った。等級は0〜8であり、「0」は最も低い撥油度を示す。基材を湿潤させない最小の数字が油等級である。数字が大きい程、耐油性が優れている。
0はNujol(商標)鉱油である(湿潤)。
1はNujol(商標)鉱油(31.2mN/m)である(はじく)。
2は65/35 Nujol/n−ヘキサデカン(容量、29.6mN/m)である。
3はn−ヘキサデカン(27.3mN/m)である。
4はn−テトラデカン(26.4mN/m)である。
5はn−ドデカン(24.7mN/m)である。
6はn−デカン(23.5mN/m)である。
7はn−オクタン(21.4mN/m)である。
8はn−ヘプタン(19.8mN/m)である。
【0214】
b)MVTR
Hohenstein Standard Test Specification BPI 1.4に準拠した膜及び積層体の水蒸気透過性試験
酢酸カリウム1000gと蒸留水300gを撹拌することによって酢酸カリウムパルプを製造し、少なくとも4時間にわたって沈降させた。70g±0.1gの酢酸カリウムパルプを各ビーカーに入れた。ビーカーをePTFE膜で覆い、密閉した。
【0215】
試験対象の膜/積層体から10×10cmのサンプルを採取し、ビーカーとePTFE膜で覆った水浴(23℃±0.2℃)との間に配置した。
【0216】
各ビーカーの重さを試験前(G1)と試験後(G2)に記録した。
ePTFEの試験期間:5分間
モノリシックコーティングePTFE:10分間
織物積層体:15分間
MVTRの算出
ePTFE:MVTR=((G2−G1)×433960)/5
モノリシックコーティングePTFE:MVTR=((G2−G1)×433960)/10
積層体:MVTR=((G2−G1)×433960)/15
【0217】
c)ガーレー数
ガーレー数(秒)は、ASTM D 726−58に準拠してガーレー式デンソメーターを使用して測定した。
【0218】
結果はガーレー数で示した。ガーレー数は、100cmの空気が1.215kN/mの水の圧力低下において6.54cmの試験サンプルを通過するために必要な時間(秒)である。
【0219】
d)平均細孔径(MFP)(μm)
MFPは、Porous Materials Inc.(PMI)社製のキャピラリーフローポロメータ「CFP 1500 AEXLS」を使用して測定した。膜は、Silwick(表面張力:20mN/m)によって完全に湿潤させた。十分に湿潤させたサンプルをサンプル室に入れた。サンプル室を密閉し、最大直径を有する細孔内の流体の毛管作用を克服するために十分な圧力でサンプルの後部でサンプル室にガスを流した。これはバブルポイント圧力である。圧力を徐々に増加させ、細孔内に流体がなくなるまで流れを測定した。圧力範囲は0〜8.5バールとした。平均細孔径に加えて、最大及び最小細孔径も検出した。
【0220】
e)電荷減衰時間(CDT)
電荷減衰時間(charge decay time(CDT))は、DIN EN 1149−3に準拠して測定した。
【0221】
f)表面抵抗値
表面抵抗値は、ASTM D257に準拠して、2つの平行電極間(正方形構成)で測定した。
【0222】
g)抗菌性
使用した細菌は、米国のAmerican Type Culture Collection(メリーランド州ロックビル)から入手した。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus(ATCC # 25923))及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa(ATCC # 27853))に対する材料の抗菌性を調べた。試験に使用した微生物は、血液寒天培地中で34〜37℃で24時間培養した。コロニー形態と純度についてグラム染色によって観察した。
材料準備:クリーンベンチ上においてサンプルを約2.5cmのディスクに切断し、阻害帯バイオアッセイ(Zone of Inhibition Bioassay)を使用して抗菌活性の有無を調べた。
阻害帯法(ZOI):
細菌培養物をTrypticase Soy血液寒天培地で増殖させ、Mueller−Hintonブロスに無菌状態で懸濁させた。培養物をMcFarlandの0.5塩化バリウム標準液で標準化した(standard method for disc diffusion sensitivity testing P:SC:318を参照)。標準化培養物をMueller−Hinton寒天プレートに画線し、細菌を均一にした。試験材料サンプルを、所望の試験表面側を下にして寒天に接触させた無菌状態で配置した。微生物を34〜37℃で24時間培養した。その後、プレートを観察してサンプルを囲む明確な阻害帯の有無及び試験材料の上下における増殖の有無について調べた。阻害帯はミリメートルで測定し、結果を記録した。
【0223】
h)4インラインプローブ法
導電性ポリマーの導電性を調べるために、「Laboratory Notes on Electrical Galvanometric Measurements」,H.H.Wieder,Elsevier Scientific Publishing Co. New York,New York(1979)に記載された4インラインプローブ法を使用した。
【0224】
i)難燃性
難燃性はISO 15025に準拠して測定した。ISO 15025「水平燃焼試験」に準拠してフィルムの燃焼挙動について試験を行った。サンプルは試験装置に垂直に配置し、水平方向の炎に10秒間暴露した。
【0225】
j)厚み
基材フィルムの厚みは、Heidenhain厚さ測定器を使用して測定した。
【0226】
コーティングのBET、レイダウン、密度によって決まるコーティングの厚みは、ePTFEの比表面積を使用して算出した。
【0227】
例えば、ePTFEのBET表面積は10m/gである。乾燥状態のNAFION(登録商標)(DuPont社)の密度は1.98g/mである。平面上の1.98g/mのNAFION(登録商標)の場合には、コーティングの厚みは1μmとなる。ePTFEの全細孔表面(全ての内部細孔及び外部細孔の表面)がコーティングによって覆われていると仮定すると、1.98g/mのNAFION(登録商標)の場合には、コーティングの厚みは多孔性ePTFE膜の重量で割った100nmとなる。同様に、3.96g/mのNAFION(登録商標)の場合には、コーティングの厚みは多孔性ePTFE膜の重量で割った200nmとなる。
【0228】
k)Suter試験
Suter試験は、膜サンプルをホルダに均等に固定するAATCC試験127−1989に準拠して行った。膜は、0.2バールの水圧に2分間耐えなければならない。
【0229】
l)顕微鏡法
SEM画像はLEO 1450 VPを使用して撮影した。サンプルは金でスパッタリングした。
【0230】
m)密着力−Z試験
Tappi−T541装置(Zwick社、ドイツ)を使用し、DIN 54516「ボール紙の内部接着強度(Internal bond strength of paperboard)」に準拠して試験を行った。
技術データ:
Tappi−T 541材料試験機
2500 N、加圧速度:800mm/分、試験速度:600mm/分
2つのステンレス鋼試料ホルダ、645mm(1平方インチ)の5倍のサンプル表面、両面粘着テープ410B(3M社)
【0231】
o)水接触角
蒸留水の液滴(4μl)を25℃で基材に置いた。5及び30秒後に、DSA 10装置(Kruess社)を使用して接触角を測定した。
【0232】
p)フレーザー数(Frazier number)
フレーザー数は、ASTM D 737に準拠して通気性試験機III FX3300(TEXTEST社)を使用して測定した。
【0233】
実施例1
198gのClevios(商標)P(以前の名称はBaytron(登録商標)P、固形分:1.02重量%(水に分散した導電性ポリマーPEDT/PSS([ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)]))、平均膨潤粒径d50:約80nm、製品情報小冊子、H.C.Starck社)を396gのエタノールと混合した。エタノールと混合した62gのFlemion(登録商標)F950(アイオノマー、旭硝子株式会社、AGC1、固形分:6.3%)を200gのClevios(商標)P/水/エタノール分散液に撹拌下で添加した。
【0234】
Mayer bar 70を使用し、ePTFE膜(平均細孔径:0.602μm、ガーレー:3.5秒、厚み:75μm、秤量:42.8g/m)を上記分散液によってコーティングしてモノリシックコーティングを得た。
【0235】
140℃での乾燥後のレイダウンは1.5g/mだった。モノリシックコーティングされたePTFEは通気性を有していなかった。コーティングされた面の表面抵抗値は22kΩ/□だった。
【0236】
本実施例は、厚い微孔性基材上の帯電防止コーティングである。
【0237】
比較例1
198gのClevios(商標)P(実施例1と同じ)と396gのエタノールを混合した。
【0238】
Mayer bar 70を使用し、ePTFE膜(実施例1と同じ)を上記分散液でコーティングしてモノリシックコーティングを得た。
【0239】
コーティングされたePTFE膜の性能は不十分だった。コーティングされていない領域と不均一にコーティングされた領域が隣接して観察された。コーティングはePTFEに良好に密着していなかった。コーティングが不十分な部分の表面抵抗値は約30kΩ/□であり、周囲は200kΩ/□を超える高抵抗領域だった。ePTFE上のモノリシックコーティングとしてのコーティングされたPEDT/PSS粒子の連続するネットワークは観察されなかった。
【0240】
実施例2
ePTFE膜(平均細孔径:490nm、ガーレー:7秒、厚み:74μm、秤量:36.8g/m)を、198.2gのClevios(商標)P(実施例1と同じ)、62.3gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:6.3%、アイオノマー、AGC社)及び396.2gのエタノールの混合物によってコーティングした。140℃での乾燥後のレイダウンは0.4g/mだった。
【0241】
コーティング後に、同一個所で5日間にわたってMVTRを測定した(結果は表1を参照)。
【0242】
実施例3
ePTFE膜(平均細孔径:0.195μm、ガーレー:12秒、厚み:34μm、秤量:20.6g/m)を、実施例1と同様なClevios(商標)PとFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、アイオノマー、AGC社)の分散液によってコーティングした。
【0243】
140℃での乾燥後のレイダウンは0.3g/mだった。断面SEMによって測定したコーティングの厚みは0.5〜1.0μmだった。表1にMVTRの結果を示す。5秒後及び30秒後に測定した水接触角は、それぞれ125.9°及び125.4°だった。
【0244】
【表1】

【0245】
実施例2及び3はSUTER試験(0.2バールの圧力で2分間)に合格した。コーティングされた膜は耐水性を有していた。
【0246】
膜のMVTR測定値は、MVTR値が経時的に変化しないことを示している。これらの非常に薄いモノリシック層の場合には、MVTR値はコーティングされていないePTFE膜のMVTRと同様だった。実施例2及び3は、異なるePTFE膜構造に形成した帯電防止・疎水性・防水コーティングの例を示す。
【0247】
実施例4
ePTFE膜(平均細孔径:490nm、ガーレー:7秒、厚み:74μm、秤量:36.8g/m)を、198.2gのClevios(商標)PH(以前の名称はBaytron(登録商標)PH、固形分:1.24重量%(水に分散した導電性ポリマーPEDT/PSS([ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)]))、平均膨潤粒径d50:約30nm、製品情報小冊子、H.C.Starck社)、62.3gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:6.3%、アイオノマー、AGC社)及び396.2gのエタノールの混合物によってコーティングした。
【0248】
乾燥後のレイダウンは0.35g/mだった。コーティングされた面の表面抵抗値は18〜29kΩ/□だった。
【0249】
コーティングされた表面の油等級及びガーレー数を表2に示す。
【0250】
実施例5
ePTFE膜(実施例4と同じ)を、62.3gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:6.3%、アイオノマー、AGC社)、396.2gのエタノール、198.2gのClevios(商標)PH(固形分:1.02重量%(水に分散した導電性ポリマーPEDT/PSS([ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)]))、平均膨潤粒径d50:約30nm、製品情報小冊子、H.C.Starck社)の混合物によってコーティングした。
【0251】
180℃での乾燥後のレイダウンは0.5g/mだった。コーティングされた表面の油等級及びガーレー数を表2に示す。通気性を有するコーティングされた膜の表面抵抗値は約50〜60kΩ/□だった。
【0252】
比較例2
ePTFE膜(実施例4と同じ)を、62.3gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:6.3%、アイオノマー、AGC社)、396.2gのエタノール及び198.2gの水の混合物によってコーティングした。
【0253】
180℃での乾燥後のレイダウンは0.5g/mだった。
【0254】
コーティングされた表面の油等級及びガーレー数を表2に示す。
【0255】
比較例3
ePTFE膜(平均細孔径:0.195μm、ガーレー:12秒、厚み:34μm、秤量:20.6g/m)を、1600gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:6.0%、アイオノマー、AGC社)、5428gのエタノール及び2682gの水の混合物によってコーティングした。
【0256】
120℃での乾燥後のレイダウンは3.0g/mだった。
【0257】
コーティングされた表面の油等級及びガーレー数を表2に示す。
【0258】
【表2】

【0259】
20%の相対湿度における電荷減衰時間(CDT)及び表面抵抗値の結果を表3に示す。
【0260】
【表3】

【0261】
膜の細孔の内表面及び外表面に形成されたコーティングを含むアイオノマー/ICPサンプルは0.5秒未満のCDT値を示した。アイオノマーによってコーティングされた通気性ePTFE(比較例2を参照)のCDT値は2〜7秒だった。
【0262】
表2及び3は、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤の組み合わせによってコーティングされたPTFE物品の帯電防止性と撥油性が高いことを示している。
【0263】
実施例6
超高分子量ポリエチレン膜(平均細孔径:0.470μm、ガーレー:48秒、厚み:40μm、秤量:12.0g/m、MVTR:42,000 g/m/24h)を、155.4gのClevios(商標)PH(実施例4と同じ)、43.6gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:9.0%、アイオノマー、AGC社)及び396.2gのエタノールの混合物によってディップコーティングした。膜は90℃で5分間乾燥した。
【0264】
膜の色は青に変化した。油等級は5であり、MVTRは34,200g/m/24hであり、ガーレー数は336秒(通気性)だった。表面抵抗値は8000Ω/□だった。
【0265】
実施例7
超高分子量ポリエチレン膜(実施例6と同じ)を、40.4gのドープポリアニリン(Ormecon(商標)50−D1005W−1、固形分:5.0重量%、平均粒径:35nm、製品情報小冊子、水溶液)、43.6gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:9.0%、アイオノマー、AGC社)及び396.2gのエタノールの混合物によってディップコーティングした。膜は90℃で5分間乾燥した。
【0266】
膜(0.8g/mのレイダウンで、油等級:1)の色は緑に変化した。MVTRは28,300g/m/24hであり、ガーレー測定値は通気性を有していないことを示した。表面抵抗値は6.6MΩ/□だった。
【0267】
実施例6及び7は、イオン性フッ素ポリマーと各種導電性ポリマーの組み合わせによって微孔性ポリオレフィン膜に帯電防止性を付与することができることを示すものである。
【0268】
実施例8
ePTFE膜(平均細孔径:0.858μm、厚み:75μm、ガーレー:1秒、秤量:38g/m)を、40.4gのドープポリアニリン(Ormecon(商標)50−D1005W−1、固形分:5.0重量%、水溶液)、43.6gのFlemion(登録商標)F 950(エタノール溶液、固形分:9.0%、アイオノマー、AGC社)及び396.2gのエタノールの混合物によってディップコーティングした。膜は165℃で3分間乾燥した。
【0269】
膜(0.65g/mのレイダウンで、油等級:5、水濡れ性なし)の色は緑に変化した。フレーザー数は6.2(通気性が高い)であり、MVTRは77,500g/m/24hだった。コーティングされた面の表面抵抗値は44MΩ/□であり、コーティングされていない面の表面抵抗値は85MΩ/□だった。
【0270】
実施例9
ISO 15025「水平燃焼試験」に準拠して実施例3で作製したフィルムの燃焼挙動について試験を行った。サンプルは試験装置に垂直に配置し、水平方向の炎に10秒間暴露した。
【0271】
試験後、実施例3のフィルムは穴(60mm)のみを示し、燃焼、溶解、液だれは観察されなかった。
【0272】
ポリウレタンでコーティングした比較用ePTFEフィルム(米国特許第6,261,678号と同様に作製、ePTFE膜のMFP:200nm、MVTR:19,000g/m/24h)は完全に燃焼し、溶解した材料の液だれが観察された。
【0273】
実施例10
100%ナイロン(Taslan UK red、ポリアミド)織物を、実施例4と同様な混合物によってコーティングした。
【0274】
乾燥後のレイダウンは1〜2g/mだった。
【0275】
コーティングされたポリアミド織物をePTFE膜(秤量:21g/m、平均細孔径:195nm、ガーレー:11.6秒)に積層した。積層体の電荷減衰時間は0.01秒未満だった。
【0276】
表面抵抗値は200kΩ/□より大きかった。
【0277】
100Paにおける通気性(DIN 53887)は0.62l/m/秒であり、油等級は1であり、MVTRは18,200g/m/24hだった。
【0278】
本実施例及びSEM画像(図3)は、織物繊維のモフォロジーを変化させることなく、ポリアミド織物に帯電防止性を付与することができることを示している。
【0279】
実施例11
実施例3のコーティングされた膜のePTFE側にTaslan UK red(100%ナイロン)を積層した。
【0280】
MVTRは20,160g/m/24hだった。本発明に係るコーティングは、Z−試験による823N/645mmの密着力を示した。
【0281】
実施例12
実施例3の膜のコーティングされた面にTaslan UK red(100%ナイロン)を積層した。
【0282】
MVTRは20,730g/m/24hだった。本発明に係るコーティングは、Z−試験による422N/645mmの密着力を示した。
【0283】
実施例11及び12は、モノリシックコーティングされた物品の両面に織物層を積層することができることを示すものである。ePTFE膜面の密着力の方が高く、機能性は変化しなかった。
【0284】
実施例13
実施例3のコーティングされた膜のePTFE側にフランネルライナー((Flannel liner)100%ポリエステル)を積層した。
【0285】
MVTRは23,430g/m/24hだった。本発明に係るコーティングは、Z−試験による571N/645mmの密着力を示し、CDTは0.01秒未満だった。
【0286】
実施例14
実施例3の膜のコーティングされた面にフランネルライナー(100%ポリエステル)を積層した。
【0287】
MVTRは22,370g/m/24hだった。本発明に係るコーティングは、Z−試験による260N/645mmの密着力を示し、CDTは0.01秒未満だった。
【0288】
実施例15
実施例3のコーティングされた膜のePTFE側にNomex(ポリアラミド)不織布を積層した。
【0289】
MVTRは20,400g/m/24hであり、積層後の膜の油等級は4だった。
【0290】
ISO 15025「水平燃焼試験」に準拠したFR試験の結果は3であり、保護積層体の全ての評価基準を満たした。
【0291】
実施例9(フィルム)及び実施例15(積層体)は、イオン性フッ素ポリマーと導電性ポリマー(対イオン物質)の組み合わせによってコーティングされた物品の難燃性を示す。
【0292】
実施例16
1982gのClevios(商標)PH(固形分:1.3重量%)に、撹拌下で3962gのエタノールを添加した。654gのFlemion(登録商標)F950(エタノール溶液、固形分:6.0重量%)の溶液を上記分散液に添加し、30分間撹拌した。
【0293】
ePTFE膜(平均細孔径:0.180μm、厚み:16μm、ガーレー:20秒、秤量:19.3g/m)を上記分散液によってコーティングした。乾燥後のレイダウンは0.6g/mであり、膜上には青色のモノリシック層が形成された。5秒後及び30秒後に測定した水接触角は、それぞれ126.3°及び125.8°だった。
【0294】
比較例4は米国特許第4,532,316と同様にして作製した。
【0295】
【表4】

【0296】
低い相対湿度及び高い相対湿度におけるMVTR測定は、通気性及び非通気性コーティングの大きな通気性向上を示している。
【0297】
実施例17
1200gのClevios(商標)PH(固形分:1.3重量%)を、654gのFlemion(登録商標)F950(固形分:6%)及び8600gのエタノールと混合した。ePTFE膜(厚み:34μm、秤量:21.2g/m、ガーレー:11.5秒、水注入圧力:1.24バール)を、25℃で上記混合物によってディップコーティングした(2.6m/分)。膜をオーブン内において130℃で乾燥し、165℃で処理(tempered)した。
【0298】
コーティングされた膜のレイダウンは0.6g/mであり、ガーレー数は14.4秒、水注入圧力は2.9バール、20%RHにおけるCDT測定値は0.01秒未満だった。5秒後及び30秒後に測定した水接触角は、それぞれ142.8°及び142.6°だった。
【0299】
実施例17は、膜、導電性ポリマー(Clevios(商標)PH又はClevios(商標)P)及びコーティング方法を選択することにより、140°を超える水接触角を有する帯電防止性、通気性及び防水性を有する物品が得られることを示している。
【0300】
実施例18
168gのFlemion(登録商標)F950(固形分:6.0%)、30gの水、2gの酢酸銀(99.99%)、696gのエタノール及び198gのClevios(商標)PH(実施例4と同じ)の混合物を40℃で調製した。
【0301】
ePTFE膜(実施例17と同じ)をディップコーティング(0.2m/分)し、オーブン内において100〜180℃で乾燥した。
【0302】
コーティングされた膜の厚みは19μmであり、レイダウンは4g/m、ガーレー数は4000秒より大きかった。図4は、閉じられたモノリシック表面を示すコーティングされた膜の表面のSEM画像を示す。
【0303】
実施例19
1.1gの酢酸銀(99.99%、Sigma Aldrich社)を80℃で98.9gの水に溶解した(溶液A)。65gのFlemion(登録商標)F950(エタノール溶液、固形分:3.15%)を40℃で35gの溶液Aと混合した。
【0304】
ePTFE膜(実施例3と同じ)を得られた溶液によってディップコーティングした。溶媒と水を空気加熱オーブン(オーブン1:100℃、オーブン2:180℃)によって除去した(ウェブを4m/分で通過)。
【0305】
得られた膜は通気性を有しており、レイダウンは2.0g/m、表面における銀濃度は1.3重量%だった。
【0306】
【表5】

【0307】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を培養した阻害帯バイオアッセイプレートの写真を撮影した。実施例19では明確な阻害帯が観察された。SEM画像では、イオン性フッ素ポリマー−Agでコーティングされた材料には細菌バイオフィルムは観察されなかった。
【0308】
実施例19は、銀イオンのナノ粒子とイオン性フッ素ポリマーの錯体を基材上に形成した例であり、抗菌性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性基材と、前記非導電性基材上に形成され、イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤との錯体を含むコーティングと、を含む物品。
【請求項2】
請求項1において、前記表面荷電ナノ粒子が、導電性ポリマーのナノ粒子である物品。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記対イオン剤の対イオン電荷によって前記イオン性フッ素ポリマーのイオン性基の0.1〜99%が平衡を保たれている物品。
【請求項4】
前記請求項のいずれか1項において、前記イオン性フッ素ポリマーがアニオン性基を含む物品。
【請求項5】
請求項4において、前記アニオン性基が、カルボキシル基、リン酸基、スルホン基及びそれらの組み合わせから選択される物品。
【請求項6】
前記請求項のいずれか1項において、前記イオン性フッ素ポリマーのF/H比が1以上である物品。
【請求項7】
前記請求項のいずれか1項において、10〜1011Ω/□の導電性を有する物品。
【請求項8】
前記請求項のいずれか1項において、前記イオン性フッ素ポリマーの当量が500〜2000mol/gである物品。
【請求項9】
前記請求項のいずれか1項において、前記基材がポリマー基材である物品。
【請求項10】
請求項9において、前記基材がフッ素ポリマーである物品。
【請求項11】
請求項10において、前記基材がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である物品。
【請求項12】
前記請求項のいずれか1項において、前記基材が多孔性である物品。
【請求項13】
前記請求項のいずれか1項において、前記コーティングが、モノリシック層として前記基材の表面に存在する物品。
【請求項14】
請求項13において、モノリシック層として前記基材の表面に存在する前記コーティングの厚みが0.05〜25μmである物品。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項において、前記コーティングが、細孔の内表面及び外表面に存在する物品。
【請求項16】
請求項15において、前記細孔の内表面及び外表面に存在する前記コーティングの厚みが50nmよりも大きい物品。
【請求項17】
請求項15又は16において、前記基材の細孔が前記コーティングによって完全には満たされていない物品。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか1項において、前記コーティングされた基材が通気性(ガーレー数<100秒)を有する物品。
【請求項19】
前記請求項のいずれか1項において、前記コーティングされた基材が90°以上の水接触角を有する物品。
【請求項20】
前記請求項のいずれか1項において、前記対イオン剤が、抗菌活性を有するイオンをさらに含む物品。
【請求項21】
a)イオン性フッ素ポリマー又はその前駆体と、表面荷電ナノ粒子又はその前駆体の混合物を調製する工程と、b)前記工程a)で調製した混合物を基材に塗布する工程と、を含む、非導電性基材上にコーティングを形成するための方法。
【請求項22】
イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤との錯体の、非導電性基材上にコーティングを形成するための使用。
【請求項23】
イオン性フッ素ポリマーと表面荷電ナノ粒子を含む対イオン剤とを含むコーティングの、基材の撥油性、通気性、帯電防止性、難燃性、抗菌性及び/又はそれらの組み合わせを向上させるための使用。
【請求項24】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の物品の、衣類、織物構造、積層体、フィルターエレメント、通気エレメント、センサー、診断装置、保護筺体又は分離エレメントの製造のための使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−528048(P2011−528048A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517812(P2011−517812)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005149
【国際公開番号】WO2010/006784
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511012905)ダブリュ エル ゴア アンド アソシエイツ ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES GMBH
【住所又は居所原語表記】Hermann−Oberth Str. 22,85640 Putzbrunn, Germany
【Fターム(参考)】