説明

イオン性液体中でセルロースを処理する方法、および、それによる繊維

【課題】セルロースの誘導体化を必要としない、より単純で、環境負荷がより少なく、現在の方法の短所のいくつかを伴わない、高純度パルプを始めとする広範囲の原料を用いる新たな方法を提供する。
【解決手段】イオン性液体にセルロースを溶解させ、繊維を再生し、不織布を形成する方法に関する。具体的には、イオン性溶剤に溶解させたセルロースから生産する繊維であって、メルトブロー法により押し出した繊維。接着し不織布を、該方法にて得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
分野
本出願は、イオン性液体中でセルロースを処理する方法、および、そこから得られた繊維に関する。
【0002】
説明
本出願は、イオン性液体にセルロースを溶解させ、繊維を再生し、不織布を形成する方法に関する。具体的には、イオン性溶剤に溶解させたセルロースから生産した繊維であって、メルトブロー法により押し出した繊維に関する。当然のことながら、このメルトブローとは、熱可塑性プラスチック繊維の生産に用いられる方法に類似または相似する方法であるが、セルロースを溶液中に加え、紡糸温度を穏やかにしか上昇させない。
【0003】
織物におけるセルロースに対する現在の世界での需要が高まり、低コストの原料であって、商業的方法で利用可能な原料に対する需要が増加している。加えて、これらの原料を使用する方法であって、より単純で、環境影響がより少なく、現在の方法の短所のいくつかを伴わない新たな方法を、開発する必要がある。
【0004】
ビスコース法では、セルロースを、まず、マーセル化させる強度の苛性ソーダ溶液に浸して、アルカリセルロースを形成させる。これを、二硫化炭素と反応させて、セルロースキサンテートを形成させ、次いで、これを希苛性ソーダ溶液に溶解する。ろ過および脱気した後に、キサンテート溶液を、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛およびグルコースの再生浴中に、液中に沈めたスピナレットから押し出して、連続フィラメントを形成させる。得られたビスコースレーヨンは、現在、織物に用いられ、タイヤおよび駆動ベルトのような用途に用いられている。
【0005】
セルロースはまた、酸化銅アンモニア溶液に溶解する。この特性は、キュプラアンモニウムレーヨンの生産の基礎を成す。セルロース溶液を、5%苛性ソーダもしくは希硫酸溶液中に、液中に沈めたスピナレットを通して送り込んで繊維を形成させ、次いで、これを脱銅化し、洗浄する。キュプラアンモニウムレーヨンは、非常に低デニールの繊維において利用可能であり、もっぱら不織ワイプの用途に用いられている。
【0006】
これまでのレーヨンの製造方法は、いずれも、セルロースを、溶解性にして紡糸による繊維化を可能にするために、化学的に誘導体化するか、複合体化することを必要とする。ビスコース法ではセルロースを誘導体化するが、キュプラアンモニウムレーヨン法ではセルロースを複合体化する。いずれの方法においても、誘導体化または複合体化されたセルロースを再生させなければならず、さらに、可溶化するために用いた試薬を除去しなければならない。レーヨンの生産における誘導体化および再生の工程は、この形状のセルロース繊維のコストを有意に増大させ、凝固浴中での亜鉛の使用および二硫化炭素の取り扱いに関わる環境問題も存在する。そのため、近年、非誘導体化セルロースを溶解可能な溶剤を探索し、繊維を紡糸できる非誘導体化セルロース(またはその溶液)を得ようとする試みがなされている。
【0007】
セルロースの溶解に有用なある種の有機溶剤とは、アミン−N−オキシド類、具体的には第三級アミン−Nオキシド類である。
リヨセルは、有機溶液から沈殿させたセルロースから構成される繊維の総称であり、ヒドロキシル基の置換が起こらず、化学中間体が形成されない。現在、いくつかのメーカーが、主に織物工業で使用するために、リヨセル繊維を生産している。例えば、Lenzind社は、現在、テンセル(登録商標)繊維と称されるリヨセル繊維を製造および販売している。
【0008】
現在入手可能なリヨセル繊維および高性能レーヨン繊維は、非セルロース成分(特にヘミセルロース)を除去するように強力に処理された高品質の木材パルプから生産される。これらの高度に加工されたパルプは、溶解グレードパルプまたは高α(高アルファ)パルプ(αの語は、17.5%苛性液で抽出後に残留するセルロースのパーセンテージを指す)と称される。アルファセルロースは、TAPPI 203によって測定することができる。このように、高アルファパルプは、高パーセンテージのセルロース、および、それに対応して低パーセンテージの他の成分(特にヘミセルロース)を、含有する。高アルファパルプの製造に必要な処理により、レーヨンおよびリヨセル繊維ならびにそこから製造される製品のコストが有意に増大する。典型的には、これらの高アルファパルプのセルロースは、広葉樹(hardwood)と針葉樹(softwood)の双方から得られる。一般に、針葉樹は、広葉樹よりも長い繊維を有する。
【0009】
従来のクラフト法では、残留ヘミセルロースがさらなるアルカリ攻撃に対して安定化してしまうため、許容可能な質の溶解パルプ(すなわち高アルファパルプ)を、漂白段階に続くクラフトパルプの処理を介して得ることはできない。銅価が高いと、アミンオキシド溶剤への溶解前、溶解中および/または溶解後に、セルロースおよび溶剤の分解が生じるため、セルロースの相対的カルボニル含量を反映した比較的低い銅価が、リヨセル繊維を作製するために用いられるパルプの望ましい特性である。分解された溶剤は、処分しても、再生してもよいが、そのコストのため、溶剤を処分することは一般には望ましくない。
【0010】
例えば、遷移金属は、リヨセル法においてセルロースおよびNMMOの望ましくない分解を加速するため、低い遷移金属含量が、リヨセル繊維を作製するために用いられるパルプの望ましい特性である。
【0011】
リヨセル法におけるセルロースの溶解、および溶剤の再生は、これらの再生方法が危険で、爆発する可能性のある条件を伴うという難点を抱えている。
市販用の溶解グレードパルプを生産する費用を考慮すると、レーヨンまたはリヨセルの原料として、従来の高アルファ溶解グレードパルプに代わるものがあることが望ましい。
【0012】
このように、レーヨン、リヨセル繊維または再生セルロース繊維を作製するために用いうる比較的安価な低アルファパルプ(例えば、高収率パルプ)が必要とされる。好ましくは、望ましい低アルファパルプは、銅価が低いことが望ましく、リグニン含量が低いことが望ましく、遷移金属含量が低いことが望ましいが、幅広い分子量分布を有するだろう。
【0013】
これらの要件を満たすパルプが作製され、本出願の出願人によるUS 6,797,113、US 6,686,093およびUS 6,706,876に記載されている。高純度パルプも、本出願における使用に適しているが、ピーチ(登録商標)、グランドプレイリー・ソフトウッドおよびC−パインなどの低コストのパルプが適している(いずれもWeyerhaeuser社から入手可能)。これらのパルプは、ヘミセルロース含量が高いため、より低コストで不織織物の用途に関し接着性に優れるという利点がある。表1に、選択したパルプの特性を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
しかしながら、セルロースの誘導体化を必要としない、より単純で、環境負荷がより少なく、現在の方法の短所のいくつかを伴わない、高純度パルプを始めとする広範囲の原料を用いる新たな方法を開発する必要性が、依然として存在する。
【0016】
本出願に用いるセルロース原料の種類は決定的ではない。原料は、種々の方法で作製することが可能な漂白または非漂白木材パルプであってもよく、クラフトパルプ、前加水分解クラフトパルプまたはサルファイトパルプが典型的である。精製コットンリンターなどの多くの他のセルロース原料も、同様に適している。イオン性液体に溶解する前に、セルロースを、シート状であるならば、通常は微細なフラッフに刻んで、容易な溶解を促進させる。広葉樹と針葉樹の双方から得られる広範囲の繊維特性を有する漂白パルプを用いることが可能である。一実施態様において、パルプは、約150〜3000という重合度の範囲を有する。別の実施態様では、重合度は約350〜約900であり、さらに別の実施態様では、重合度は約400〜約800である。本明細書に定義されるように、重合度(D.P.と略す)は、セルロース鎖中の無水D−グルコース単位の数を指す。D.P.は、ASTMテスト1795-96によって測定される。上記特性を有するパルプを、イオン性液体中約1重量%〜イオン性液体中約35重量%のセルロース範囲で溶解させることが可能である。一実施態様では、パルプを、約5重量%〜約30重量%の重量にてイオン性液体に溶解する。別の実施態様では、パルプを、約10重量%〜約15重量%にてイオン性液体に溶解する。
【0017】
ヘミセルロースの語は、木材中にセルロースと共に存在する低分子量の炭水化物ポリマーの不均質な群を指す。ヘミセルロースは、線状ポリマーであるセルロースとは対照的に、非晶質の分岐ポリマーである。合わさってヘミセルロースを形成する主な単糖類は、D−グルコース、D−キシロース、D−マンノース、D−アラビノース、D−ガラクトース、D−グルクロン酸およびD−ガラクツロン酸である。
【0018】
パルプ中および繊維中のヘミセルロースは、糖分析に関する以下に記載の方法によって測定され、パルプまたは繊維のキシランおよびマンナン含量の合計を表す。一実施態様において、パルプは、3.0〜18重量%のヘミセルロース(パルプのキシランおよびマンナン含量の合計により定義される)を含有する。別の実施態様において、パルプは、7〜14重量%のヘミセルロースを含有し、さらに別の実施態様において、パルプは、9〜12重量%のヘミセルロースを含有する。
【0019】
本出願で用いた、パルプ中の分解したより低分子量の成分をR18およびR10含量により測定するための一つの方法は、TAPPI 235に記載されている。R10は、10重量%の苛性液によるパルプの抽出で残る残留非溶解材料を表し、R18は、18重量%の苛性溶液によるパルプの抽出後に残る非溶解材料の残留量を表す。一般に、10%苛性溶液により、ヘミセルロースおよび化学的に分解した短鎖セルロースが、溶液中に溶解し、除去される。対照的に、18%苛性溶液中には、一般に、ヘミセルロースのみが溶解し、除去される。このように、R10値とR18値との違い(ΔR=R18−R10)は、パルプ試料中に存在する、化学的に分解した短鎖セルロースの量を表す。一実施態様において、パルプは、約2〜約10のΔRを有する。別の実施態様において、ΔRは、約4〜約6である。
【0020】
リグニンは、複合芳香族ポリマーであり、木材の約15%〜30%を構成し、木材中では非晶質のポリマーとして生じる。リグニンは、TAPPI 222に記載される方法によって測定した。本出願に用いられる非漂白パルプ中のリグニン含量は、パルプ中約0.1重量%〜25重量%である。別の実施態様では、リグニンは3重量%〜約16重量%であることが可能であり、さらに別の実施態様では、それは約7重量%〜約10重量%であることが可能である。
【0021】
イオン性液体を用いる場合、セルロース原料は、イオン性液体のより高い溶剤熱安定性のために、リヨセルに対するものよりも高い銅価および高い遷移金属含量を有することが可能である。
【0022】
本発明の方法では、セルロースをイオン性液体に溶解する。イオン性液体は、本出願に定義されるような、100℃未満の液体であるイオン性化合物である。より一般的には、イオン性液体は、室温未満の融点を有し、あるものは0℃未満である。イオン性化合物は、イオン性液体の融点から熱分解温度までの幅広い温度範囲にわたって、液体である。イオン性液体のカチオン部分の例は、環状および非環状カチオンからなる群のカチオンである。環状カチオンとしては、ピリジニウム、イミダゾリウムおよびイミダゾールが挙げられ、非環状カチオンとしては、アルキル第四級アンモニウムおよびアルキル第四級リンカチオンが挙げられる。カチオン部分の対アニオンは、ハロゲン、擬ハロゲンおよびカルボキシレートからなる群より選択される。カルボキシレートとしては、アセテート、シトレート、マレート、マレエート、ホルメートおよびオキシレートが挙げられ、ハロゲン類としては、クロリド、ブロミド、亜鉛クロリド/コリンクロリド、3−メチル−N−ブチル−ピリジニウムクロリドおよびベンジルジメチル(テトラデシル)アンモニウムクロリドが挙げられる。カチオン上の置換基(すなわち、R基)は、C、C、CおよびCであることが可能であり、これらは、飽和していても、不飽和であってもよい。イオン性液体である化合物の例としては、これに限定されないが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、亜鉛クロリド/コリンクロリド、3−メチル−N−ブチル−ピリジニウムクロリド、ベンジルジメチル(テトラデシル)アンモニウムクロリドおよび1−メチルイミダゾールヒドロクロリドが挙げられる。本研究に用いた1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートは、シグマ・アルドリッチ社(ミルウォーキー)から入手した。
【0023】
イオン性液体に溶解させたセルロースを、イオン性液体と混和可能なセルロース用の液体非溶剤を用いてイオン性溶液を沈殿させることにより、再生させることが可能である。好ましくは、液体非溶剤は水と混和可能であるが、しかし、メタノール、エタノール、アセトニトリル、フランもしくはジオキサンもしくはケトンなどのエーテルなどの他の非溶剤を用いることが可能である。水の利点は、該方法が、揮発性有機化合物の使用を回避し、再生に揮発性有機溶剤の使用を必要としないことである。このように、イオン性液体を再生後、乾燥し、再使用することが可能である。一実施態様では、水を、セルロース再生のための非溶剤として用いる。0重量%の非溶剤/溶剤〜約50重量%の非溶剤/溶剤の混合物を、イオン性溶液からセルロースを再生させるために用いることが可能である。例えば、50重量%までの水および50重量%までの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを、該再生方法において用いることが可能である。
【0024】
イオン性液体に溶解させたセルロースを、種々の方法により紡糸することが可能である。一実施態様では、これをメルトブロー法にて紡糸する。別の実施態様では、これを遠心紡糸法により紡糸し、別の実施態様では、これを乾湿(dry-jet-wet)法により紡糸し、さらに別の実施態様では、これをスパンボンド法により紡糸する。メルトブロー法により形成された繊維は、気流速度、気圧、気温、溶液の粘度、セルロースのD.P.およびそれらの組み合わせに応じて、連続的または非連続的であってよく、連続的な方法では、繊維を、リールで巻き取り、所望により伸張させてもよい。不織布を作製するための一実施態様においては、繊維を、水などの非溶剤を吹き付けることによって接触させ、続いて、動いている有孔支持体上に取り上げ、洗浄し、乾燥させる。この方法によって形成される繊維は、凝固の程度に応じて、またはスパンレースが行われるならば、接着させた不織布とすることが可能である。スパンレースは、「スパンボンド」と称され、ウォータージェットを用いた衝突を伴う。若干類似する方法は、繊維をチューブに押し込み、遠位端での吸引により生じる気流がチューブを通ることにより伸展させるものである。一般に、スパンボンド繊維は、通常は分離したより短い長さであるメルトブロー繊維よりも長い。「遠心紡糸」と称される別の方法は、急速にスピンするドラムの側壁の開口部からポリマーを排出する点において異なる。繊維は、ドラムが回転するときの空気抵抗によって、若干伸展する。しかしながら、メルトブローにあるような強い気流は、通常はない。他の技術は、乾湿式(dry jet/wet)である。この方法では、スピナレットの孔から出るフィラメントが、空隙を通った後に、液体浴中に浸漬し、凝固する。四つのすべての方法を、不織布を作製するために用いてもよい。
【0025】
溶液、パルプおよび繊維の特性を、表2に示す。
実施例1は、イオン液体に溶解したセルロースの溶液を調製および紡糸するための、代表的な方法である。
【0026】
漂白および非漂白パルプから得たセルロースを含有するメルトブローイオン溶液から得られた繊維は、幅広い範囲の特性を示す。図1は、漂白パルプから得たセルロース繊維の横断面の走査型電子顕微鏡写真であり、丸い横断面が示される。図2は、漂白パルプから得たセルロース繊維の不織布の走査型電子顕微鏡写真であり、一部のセルロース繊維間が接着している。図3は、非漂白パルプから得たセルロース繊維の横断面の走査型電子顕微鏡写真であり、同様に、丸い横断面が示される。図4は、非漂白パルプから得た繊維の不織布の走査型電子顕微鏡写真であり、一部のセルロース繊維間が接着している。
【0027】
一実施態様において、繊維のD.P.は、約150〜3000である。別の実施態様において、D.P.は約350〜約900であり、さらに別の実施態様において、D.P.は約400〜約800である。
【0028】
一実施態様において、繊維は、繊維のキシランおよびマンナン含量の合計として定義されるヘミセルロースを、約3.0〜18重量%含有する。別の実施態様において、繊維は7〜14重量%のヘミセルロースを含有し、さらに別の実施態様において、繊維は9〜12重量%のヘミセルロースを含有する。
【0029】
気流速度、気圧、気温、溶液の粘度、セルロースのD.P.およびそれらの組み合わせなどの因子の数に応じて、広範囲の繊維特性を、メルトブロー法により得ることが可能である。一実施態様において、繊維は、繊維径約3μ〜約40μである。別の実施態様において、繊維は、繊維径約10μ〜約25μであり、さらに別の実施態様において、繊維は、繊維径約15〜約20μである。繊維径の測定は、100個の無作為に選択した繊維の平均径、および光学顕微鏡での測定を表す。
【0030】
漂白繊維と非漂白繊維の双方の複屈折値は、セルロース繊維の高度の分子配向を示す。一実施態様において、繊維の複屈折値は、0.01〜約0.05である。別の実施態様において、複屈折値は0.015〜約0.035であり、さらに別の実施態様において、複屈折値は0.020〜約0.030である。複屈折値は、以下に記載の方法によって測定した。
【0031】
非漂白パルプから得た繊維中のリグニン含量は、パルプ中のものよりもわずかに低い。一実施態様において、リグニンの範囲は、繊維中約0.1重量%〜25重量%である。別の実施態様において、リグニンは約3重量%〜約16重量%であり、さらに別の実施態様においては、それは約7重量%〜約10重量%であってよい。
【0032】
【表2】

【実施例】
【0033】
(実施例1)
約760の平均重合度および約12%のヘミセルロース含量を有するクラフトパルプであるピーチ(登録商標)を、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートに105℃にて撹拌しながら溶解することにより、フィラメントを形成するための溶液を作製した。溶液中のセルロース濃度は約12重量%であった。該溶液を、457ミクロンの孔径を有する三つのノズルを持つメルトブロー・ダイから1.0g/孔/分の速度にて押し出した。孔の長さ/直径比は5であった。ノズルを95℃の温度に維持した。該溶液を、30cm長の空隙に押し出した後、水中で凝固させ、連続するフィラメントとしてスクリーン上に回収した。95℃の温度の空気および約10psiの圧力を、ヘッドに供給した。
【0034】
偏光光学顕微鏡による繊維の複屈折
理論上は、繊維を、繊維軸に平行な(軸方向の)屈折率と繊維軸に垂直な屈折率を有するものとして特徴付けることが可能である。本方法のための複屈折とは、これらの二つの屈折率の差である。換算するには、垂直方向のR.I.(屈折率)を軸方向のR.I.から引く。軸方向のR.I.は、典型的にはギリシャ文字ωによって表され、垂直方向のR.I.は文字εによって表される。複屈折は、典型的には、Δ=(ω−ε)として表される。
【0035】
屈折率油
油は、所与の励起光波長および所与の温度における公知の屈折率にて、製造される。繊維を、Cargile屈折率油と比較した。
【0036】
偏光光
光学顕微鏡における透過光により、偏光フィルターを用いて屈折率を測定する。励起光が繊維軸に平行な方向に偏光するときに、軸方向の屈折率を測定することが可能である。次いで、偏光フィルターを90度回転させ、繊維軸に垂直方向の屈折率を測定することが可能である。
【0037】
光学顕微鏡を用いた測定
繊維の屈折率が、入れられている油の屈折率と一致する場合、繊維像は消失するであろう。逆に、繊維が、屈折率の非常に異なる油に入っている場合、繊維像は、高コントラストで観察される。
【0038】
繊維のR.I.が油のR.I.に近い場合、繊維の屈折率のほうが高いかまたは低いかを測定するための技術を用いる。まず、適切に配置した偏光フィルターを用いて照射した繊維の顕微鏡焦点を、ステージ調節を用いてはっきりさせる。次いで、ステージをわずかに上方に上げる。ステージを上げるにつれて繊維像がより鮮明に見えるならば、繊維の屈折率は油よりも高い。逆に、ステージを上げるにつれて繊維がより暗く見えるならば、繊維の屈折率は油よりも低い。
【0039】
屈折率の十分な一致が得られるまで、繊維をR.I.用油に入れ、試験する。軸方向の成分と垂直方向の成分の双方を測定し、複屈折を計算する。
糖分析
本方法は、高性能アニオン交換クロマトグラフィおよびパルス・アンペロメトリック検出(HPAEC/PAD)を用いて、以下のパルプ糖類:フコース、アラビノース、ガラクトース、ラムノース、グルコース、キシロースおよびマンノースの量を測定するための、パルプおよび木材試料の分析と調製に適用可能である。
【0040】
方法の概要
パルプ糖類のポリマーを、硫酸を用いた加水分解によりモノマーに変換する。HPAEC/PADによる分析の準備として、試料を、粉砕し、重量測定し、加水分解し、200mLの最終容量となるよう希釈し、ろ過し、再び希釈する(1.0mL+8.0mL HO)。
【0041】
試料採取、試料の取扱いおよび保存
湿った試料は、空気乾燥させるか、25±5℃にてオーブン乾燥させる。
必要な機器
・オートクレーブ(Market Forge、モデル番号STM-E、シリアル番号C-1808)
・100×10 mL ポリバイアル、セプタム、キャップ(Dionex、カタログ番号55058)
・Gyrotory 水浴振とう機(モデルG76)またはいくつかの同等物
・±0.01mgまで重量測定可能な天秤(Mettler HL52分析用天秤など)
・中程度のThomas-Wiley実験室用ミル(40メッシュスクリーン)
・NAC 1506 真空オーブンまたは同等物
・0.45μ GHPフィルター、Gelman A/E型(4.7 cmガラス繊維フィルターディスク、有機バインダーなし)
・注ぎ口付き厚肉試験チューブ(2.5×20 cm)
・Comply SteriGageスチームケミカルインテグレーター
・四つの溶剤注入口付きGP 50 Dionex金属非含有グラディエントポンプ
・Dionex ED 40パルス・アンペロメトリック検出器(金作用電極および固体参照電極付)
・カラム、ED 40セルおよびインジェクターループを有するサーマルコンパートメントを伴う、DionexオートサンプラーAS 50
・1Lプラスティックボトル付き Dionex PC10空圧式溶剤添加装置
・溶剤排出口およびヘリウムガス注入口キャップ付き32L Dionexポリエチレン溶剤ボトル
・CarboPac PA1(Dionex P/N 035391)イオン交換カラム(4 mm×250 mm)
・CarboPac PA1 ガードカラム(Dionex P/N 043096)(4 mm×50 mm)
・HA型0.45uフィルター付きミリポア溶剤ろ過装置、または同等物
必要な試薬
・HOは、すべてミリポアHOを意味する。
・72%硫酸溶液(H2SO4)
水183mLを2Lエルレンマイヤーフラスコに移す。フード内で、フラスコをラバーメイド槽中の氷中に詰め、フラスコを冷やす。ゆっくりと慎重に、96.6%HSO470mLを、旋回させながらフラスコに流し入れる。溶液を冷ます。5mLディスペンサーを取り付けたボトルに注意深く移す。ディスペンサーを1mLに設定する。
・JT Baker 50%水酸化ナトリウム溶液(カタログ番号Baker 3727-01、[1310-73-2])
・Dionex 酢酸ナトリウム(無水(82.0±0.5 g/1L H2O)、カタログ番号59326、[127-09-3])
<標準品>
内部標準品
フコースを、クラフトおよび溶解パルプ試料用に用いる。2−デオキシ−D−グルコースを、木材パルプ試料用に用いる。
・フコース(内部標準品)
12.00±0.005gのフコース(シグマカタログ番号F 2252、[2438-80-4])を、200.0mLのHOに溶解して、60.00±0.005mg/mLの濃度にする。この標準品を、冷蔵庫に保管する。
・2−デオキシ−D−グルコース(内部標準品)
12.00±0.005gの2−デオキシ−D−グルコース(Flukaカタログ番号32948 g [101-77-9])を、200.0mLのHOに溶解して、60.00±0.005mg/mLの濃度にする。この標準品を、冷蔵庫に保管する。
【0042】
クラフトパルプ・ストック標準溶液
【0043】
【表3】

【0044】
クラフトパルプ・ワーキング溶液
各糖を、有効数字4桁まで、別々に重量測定し、同じ200mL容量フラスコに移す。糖を、少量の水に溶解する。水を容量まで加え、よく混合し、内容物を二つのきれいな4ozアンバーボトルに移す。ラベルを付け、冷蔵庫に保管する。以下の表のように、常用標準品を作製する。
【0045】
【表4】

【0046】
溶解パルプ・ストック標準溶液
【0047】
【表5】

【0048】
溶解パルプ・ワーキング溶液
各糖を、有効数字4桁まで、別々に重量測定し、同じ200mL容量フラスコに移す。糖を、少量の水に溶解する。水を容量まで加え、よく混合し、内容物を二つのきれいな4ozアンバーボトルに移す。ラベルを付け、冷蔵庫に保管する。以下の表のように、常用標準品を作製する。
【0049】
【表6】

【0050】
木材パルプ・ストック標準溶液
【0051】
【表7】

【0052】
1mLのフコース溶液を200mLフラスコに分注し、最終容量にする。最終濃度は0.3mg/mLとなる。
木材パルプ・ワーキング溶液
クラフトパルプ・ストック溶液、ならびに、フコースおよびラムノース・ストック溶液を用いる。以下の表のように、常用標準品を作製する。
【0053】
【表8】

【0054】
<手順>
試料の調製
40メッシュスクリーンサイズのWileyミルで、0.2±05gの試料を粉砕する。〜200mgの試料を40mLテフロン(登録商標)容器およびキャップに移す。真空オーブン中で、50℃にて一晩乾燥させる。1.0mLの72%HSOを、Brinkmanディスペンサーを用いて試験チューブに加える。1分間、撹拌し、ガラスまたはテフロン(登録商標)の撹拌棒の丸い先端で砕く。Gyrotory水浴振とう機の熱源スイッチを入れる。設定は以下のとおりである。
・熱:高
・制御サーモスタット:7℃
・安全サーモスタット:25℃
・スピード:オフ
・振とう機:オフ
試験チューブラックをgyrotory水浴振とう機に入れる。各試料を3回撹拌する(1回目は20〜40分間、次いで40〜60分間、次いで60〜80分間)。試料を、90分後に取り出す。1.00mLの内部標準品(フコース)を、クラフト試料に分注する。試料および標準品のフラスコを、アルミニウムホイルでしっかりと覆い、ホイルがオートクレーブ内で外れないことを確認する。
【0055】
Comply SteriGageスチームケミカルインテグレーターを、オートクレーブ内のラックに置く。
14〜16psi(95〜105kPa)の圧、260°F(127℃)超の温度にて、60分間、オートクレーブする。
【0056】
試料をオートクレーブから取り出す。試料を冷却する。試料を200mL容量フラスコに移す。2−デオキシ−D−グルコースを木材試料に加える。最終容量となるまで、フラスコに水を加える。
【0057】
(クラフトおよび溶解パルプ試料の場合)
試料のアリコットを、GHP 0.45μフィルターを通して16mLアンバーバイアルにろ過する。
【0058】
(木材パルプ試料の場合)
微粒子を安定させる。粒子を乱さないようにして、上部からおよそ10mLの試料を吸い出し、試料のアリコットをGHP 0.45μフィルターを通して16mLアンバーバイアルにろ過する。ラベルを、容量フラスコからバイアルへと移す。ろ過した試料の1.00mLアリコットを、Dionexバイアル中に、8.0mLの水とともに加える。試料を、Dionex AS/500システムに流す。以下のクロマトグラフィ手順を参照されたい。
【0059】
<クロマトグラフィ手順>
溶剤の調製
溶剤Aは、蒸留した脱イオン水(18メガオーム)であり、最低20分間撹拌しながらヘリウムを拡散させ、システムがオンであるかオフであるかに関わらず維持されるヘリウムの厚い層の下に置いた。
【0060】
溶剤Bは、400mM NaOHである。溶剤Bのボトルを印まで水で満たし、20分間撹拌しながらヘリウムを拡散させる。適切な量の50%NaOHを加える。
・(50.0 g NaOH/100 g溶液) * (1 mol NaOH/40.0 g NaOH) * (1.53 g溶液/1 mL溶液) * (1000 mL溶液/1 L溶液) = 50/50 w/w NaOH容器中で19.1 M NaOH
・0.400 M NaOH * (1000 mL H2O/19.1 M NaOH) = 20.8 mL NaOH
便宜上、20.8 mLの端数を切り捨てる:
・19.1 M * (20.0 mL x mL) = 0.400 M NaOH
・x mL = 956 mL
溶剤Dは、200mM酢酸ナトリウムである。18メガオームの水を用いて、およそ450mLの脱イオン水をDionexの酢酸ナトリウム容器に加える。蓋を取り換え、内容物が完全に溶解するまで振とうする。酢酸ナトリウム溶液を、1L容量フラスコに移す。500mL酢酸ナトリウム容器を、およそ100mLの水ですすぎ、すすいだ水を容量フラスコへ移す。すすぎを2回繰り返す。すすいだ後、容量フラスコの内容物を、1Lの印まで水で満たす。溶離液を徹底的に混合する。360±10mLを量り、2L目盛付きシリンダーに入れる。1800±10mLにする。0.45pmのHA型メンブレンを付けたミリポアろ過装置を用いて、これを2000mL枝付きフラスコにろ過する。これを溶剤Dのボトルに加え、20分間撹拌しながらヘリウムを拡散させる。
【0061】
カラム後に加える溶剤は、300mM NaOHである。これをポストカラムで加え、pH>12.3にてアニオンとして糖類の検出を可能にする。15±0.5mLの50%NaOHを、目盛付きシリンダーに移し、水で960±10mLにする。
・(50.0g NaOH/100g溶液) * (1 mol NaOH/40.0g NaOH) * (1.53g溶液/1 mL溶液) (1000 mL溶液/1 L溶液) = 50/50 w/w NaOH容器中で19.1 M NaOH
・0.300 M NaOH * (1000ml H20/19.1 M NaOH) = 15.7 mL NaOH
15.7 mLの端数を切り捨てる:
・19.1M * (15.0 mL/x mL) = 0.300 M NaOH
・x mL= 956 mL
(956 mLを960 mLに四捨五入する。0.300 M NaOH周辺のpH値は安定しているため、正確な956 mLの水は必要でない)
AS 50のスケジュールを設定する。
【0062】
注入容量はすべての試料について5μLであり、注入タイプは「完全」、カット容量は10μL、シリンジ速度は3であり、すべての試料および標準品は、試料タイプ「試料」である。重量および内部標準値は、すべて1と同じに設定する。
【0063】
実行開始時に、五つの標準品を以下の順序で流す:
標準品A1 DATE
標準品B1 DATE
標準品C1 DATE
標準品D1 DATE
標準品E1 DATE
最後の試料を流した後に、継続的なキャリブレーション確認として、中段階の標準品を再び流す。
【0064】
最初と最後の標準品を流す間の任意の試料スポットに対照試料を流す。
試料を流す。
<計算>
【0065】
【数1】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、漂白パルプ試料8から得たセルロース繊維の横断面の、1000倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、不織布における漂白試料8から得たセルロース繊維の、100倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、非漂白パルプ試料11から得たセルロース繊維の横断面の、1000倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、不織布における非漂白試料11から得たセルロース繊維の、100倍率での走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを提供する工程と、
イオン性液体を提供する工程、ここで、前記イオン性液体はカチオンおよびアニオンを含んでなる、と、
前記パルプを前記イオン性液体に溶解させて溶液を作製する工程と、
前記溶液を紡糸して繊維を得る工程と、
前記繊維を非溶剤中で再生する工程と、
前記繊維を洗浄および乾燥させる工程と、
を含む、パルプの処理方法であって、
ここで、前記パルプが、前記パルプ中3.0重量%以上のヘミセルロースレベルである、上記方法。
【請求項2】
動いている有孔表面上に前記繊維を堆積させて不織布を形成することをさらに含み、ここで、前記不織布における前記繊維が自己接着する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルプが漂白パルプである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パルプが非漂白パルプである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
イオン性液体に溶解させるパルプの重量パーセントが、約1〜35である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記パルプの重合度が約150〜約3000である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
パルプのΔRが約2〜約10である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カチオンが、環状カチオンおよび非環状カチオンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性液体中の環状カチオンが、ピリジニウム、イミダゾリウムおよびイミダゾールからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非環状カチオンが、アルキル第四級アンモニウムおよびアルキル第四級リンカチオンからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
アニオンが、ハロゲン、擬ハロゲンおよびカルボキシレートからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
カルボキシレートアニオンが、アセテート、シトレート、マレート、マレエート、ホルメートおよびオキシレートからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ハロゲンアニオンが、クロリド、ブロミド、亜鉛クロリド/コリンクロリド、3−メチル−N−ブチル−ピリジニウムクロリドおよびベンジルジメチル(テトラデシル)アンモニウムクロリドからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アニオンがクロリドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
環状カチオンが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
カルボキシレートアニオンがアセテートである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンであり、アニオンがアセテートである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
紡糸法が、乾湿(dry-jet-wet)紡糸、遠心紡糸、メルトブロー紡糸およびスパンボンドからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
紡糸法が、メルトブロー紡糸である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
メルトブロー紡糸により得られる繊維が、約3μ〜約40μの繊維径であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
メルトブロー紡糸により得られる繊維が、約0.01〜約0.050の複屈折であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
メルトブロー紡糸法により得られる繊維が、繊維中に乾燥重量約3%以上のヘミセルロースレベルであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
約3μ〜約40μの繊維径であることを特徴とするセルロース繊維であって、滑らかな表面を有し、イオン性液体よりメルトブローされる、前記繊維。
【請求項24】
前記繊維を形成するために用いられるパルプのヘミセルロースレベルが、前記繊維中約3.0重量%〜約18重量%である、請求項22に記載の繊維。
【請求項25】
約0.01〜約0.05の複屈折によって特徴付けられる、請求項22に記載の繊維。
【請求項26】
ヘミセルロースレベルが3.0%以上、複屈折が約0.010〜約0.050であることを特徴とするセルロース繊維であって、イオン性液体からメルトブローされる前記セルロース繊維を含んでなる、不織製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248466(P2008−248466A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79522(P2008−79522)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(302009279)ウェヤーハウザー・カンパニー (36)
【Fターム(参考)】