説明

イソシアヌル酸化合物

【課題】 本発明は、揮発性が低く、熱安定性および相溶性に優れた高分子材料用酸化防止剤として有用なイソシアヌル酸化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】 化1の一般式で示されるイソシアヌル酸化合物を提供する。
【化1】


(式中、Rはアリル基または3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化1の一般式で示される新規なイソシアヌル酸化合物に関するものである。
【0002】
【化1】

(式中、Rはアリル基または3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル基を表す。)
【背景技術】
【0003】
プラスチックや合成ゴムなどの高分子材料は、成形加工時や成形後の製品の長期使用時に酸化を受け、機械的強度の低下や変色が発生する等の問題がある。このため、ホスホナイト系、ホスファイト系のリン系化合物やフェノール系化合物が、酸化防止剤として広く使用されている。
しかしながら、従来知られたこれらの酸化防止剤は、揮発性が高いために高分子材料に添加して成形加工される場合に揮散してしまい、十分な酸化防止効果が得られず、また高分子材料との相溶性に乏しいために、酸化防止剤が成形加工品の表面に滲出する(ブリードアウト)という問題があった。
【0004】
また近年では、成形温度の高いエンジニヤリングプラスチックが使用されるに伴って、優れた熱安定性を有する酸化防止剤が求められている。
なお、本発明のイソシアヌル酸化合物に類似する酸化防止剤として、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−155868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、上記の問題点を解決し得る酸化防止剤として有用な化1の一般式で示されるイソシアヌル酸化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、化1の一般式で示される新規なイソシアヌル酸化合物を合成し得ることを認め、本発明を完成するに至ったものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のイソシアヌル酸化合物は、高分子材料の酸化防止剤として有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のイソシアヌル酸化合物は、1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート及び、1,3−ジアリル−5−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートである。
【0010】
本発明の1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートは、化2の反応式に示されるとおり、1−アリルイソシアヌレート、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール及びホルムアルデヒド類を、触媒としてトリエチルアミンを使用し、常圧下で、溶媒中で加熱反応させることにより得られる。
【0011】
【化2】

【0012】
前記の反応において、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールの使用量は、1−アリルイソシアヌレートに対して、2〜6倍モル、好ましくは2〜3倍モルである。
【0013】
この反応に使用し得るホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドを含有するか、または放出するものであればよく、ホルムアルデヒド液(ホルマリン)、パラホルムアルデヒド等が好適に使用される。パラホルムアルデヒドを使用する場合には、溶媒中に溶解させるため、必要に応じて水を併用することができる。
ホルムアルデヒド類の使用量は、ホルムアルデヒドに対して1−アリルイソシアヌレートに対して、2〜6倍モル、好ましくは2〜3倍モルである。
【0014】
トリエチルアミンは、1−アリルイソシアヌレートに対して、0.2〜8倍モル、好ましくは0.5〜5倍モルである。
【0015】
この反応に使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル等が、また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられるが、アセトニトリルやアルコール類が沸点が低く溶媒回収操作が容易であるので好ましい。
【0016】
反応温度は、60℃以上であれば構わないが、温度制御の容易な還流温度が好ましい。反応時間は通常1〜10時間である。
【0017】
加熱終了後、溶媒を留去して粗製の1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートを固体として得ることができる。得られた粗製物は再結晶法により精製することができる。
【0018】
また、本発明の1,3−ジアリル−5−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートは、化3の反応式に示されるとおり、1,3−ジアリルイソシアヌレート、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール及びホルムアルデヒド類を、触媒としてトリエチルアミンを使用し、常圧下で、溶媒中で加熱反応させることにより得られる。
【0019】
【化3】

【0020】
前記の反応において、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールの使用量は、1,3−ジアリルイソシアヌレート対して、1〜4倍モル、好ましくは1〜2倍モルである。
【0021】
この反応に使用し得るホルムアルデヒド類は、前記の1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートの場合と同様である。
ホルムアルデヒド類の使用量は、ホルムアルデヒドとして、1,3−ジアリルイソシアヌレートに対して、1〜4倍モル、好ましくは1〜2倍モルである。
【0022】
トリエチルアミンの使用量は、1,3−ジアリルイソシアヌレートに対して、0.2〜8倍モル、好ましくは0.5〜5倍モルである。
【0023】
この反応に使用し得る溶媒は、前記の1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートの場合と同様である。
【0024】
反応温度及び反応時間は、前記の1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートの場合と同様である。
【0025】
加熱終了後、溶媒を留去して粗製の1,3−ジアリル−5−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートを固体として得ることができる。得られた粗製物は再結晶法により精製することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例で使用した主原料は次のとおりである。
【0027】
[原料]
・1−アリルイソシアヌレート(四国化成工業社製)
・1,3−ジアリルイソシアヌレート(四国化成工業社製)
・2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(和光純薬工業社製、試薬)
・パラホルムアルデヒド(和光純薬工業社製、純度75%、試薬)
・アセトニトリル(和光純薬工業社製、試薬)
・トリエチルアミン(和光純薬工業社製、試薬)
【0028】
〔実施例1〕
<1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートの合成>
1−アリルイソシアヌレート8.46g(0.050mol)、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール21.05g(0.102mol)、パラホルムアルデヒド5.21g(ホルムアルデヒドとして0.130mol)及び水20.92gを84.60gのアセトニトリルに入れ、次いでトリエチルアミン20.24g(0.200mol)を加えて撹拌しながら5時間加熱還流を行った。反応終了後、溶媒を減圧下で留去し、アセトニトリル502.99gで再結晶し、析出した結晶を濾取後、乾燥して淡黄色粉末状の結晶22.54g(0.037mol)を得た(収率74.4%)。
【0029】
得られた結晶の融点、純度、NMR及びマススペクトルデータは、以下のとおりであった。
・融点:218-221℃
・純度:96.2%(液体クロマトグラフィーにて測定した)
・NMR(CDCl3):δ1.43(s,36H),4.46〜4.47(m,2H),4.95(s,4H),5.19〜5.22(m,2H),5.22(s,2H),5.82〜5.93(m,1H),7.37(s,4H)
・MS(FAB+)m/z(%):605(M+)
これらのスペクトルデータから、得られた結晶は、化4で示される1−アリル−3,5−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートであるものと同定した。
【0030】
【化4】

【0031】
〔実施例2〕
<1,3−ジアリル−5−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートの合成>
1,3−ジアリルイソシアヌレート10.46g(0.050mol)、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール10.52g(0.051mol)、パラホルムアルデヒド3.20g(ホルムアルデヒドとして0.080mol)及び水20.92gを104.60gのアセトニトリルに入れ、次いでトリエチルアミン10.10g(0.100mol)を加えて撹拌しながら5時間加熱還流を行った。反応終了後、溶媒を減圧下で留去し、メタノール82.97gで再結晶し、析出した結晶を濾取後、乾燥して淡黄色粉末状の結晶16.10g(0.038mol)を得た(収率75.3%)。
【0032】
得られた結晶の融点、純度、NMR及びマススペクトルデータは、以下のとおりであった。
・融点:140-143℃
・純度:98.6%(液体クロマトグラフィーにて測定した)
・NMR(CDCl3):δ1.43(s,18H),4.47〜4.52(m,4H),4.97(s,2H),5.21〜5.33(m,4H),5.24(s,1H),5.82〜5.93(m,2H),7.36(s,2H)
・MS(FAB+)m/z(%):427(M+)
これらのスペクトルデータから、得られた結晶は、化5で示される1,3−ジアリル−5−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートであるものと同定した。
【0033】
【化5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1の一般式で示されるイソシアヌル酸化合物。
【化1】

(式中、Rはアリル基または3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル基を表す。)


【公開番号】特開2006−1888(P2006−1888A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180481(P2004−180481)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)