説明

イソブチレン系ブロック共重合体の製造方法

【課題】 バランスの取れた物性、特に所望の硬度を有するブロック共重合体を与える製造方法を提供する。
【解決手段】 開始剤の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分及びイソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させるイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法において、イソブチレンを主成分とする単量体を重合させた後、イソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させ、イソブチレンを主成分としない単量体成分の転化率が97%以下の段階で、重合を停止させることにより上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リビングカチオン重合、特に芳香族ビニル単量体のリビングカチオン重合の場合、反応の進行に伴い、カチオン重合特有のポリマー分子同士の副反応が頻発し、その結果、期待する物性を有するブロック共重合体が得られないという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、重合が実質的に終了した段階で、重合成長末端と反応する非重合性の化合物を添加することにより、副反応が不必要に進行しないようにする試みがある(非特許文献1)。しかしながらこの方法では、添加する化合物が成長末端と完全に反応するわけではなく、依然として副反応を起こす成長末端が残存する可能性がある。また、添加する化合物の量が、成長末端の数に対して過剰量必要であり、後工程でこれらの反応残渣を取り除く手間が新たに発生していた。
【0004】
さらにカチオン重合を行う際の別の深刻な問題として、反応の進行に伴って重合溶液の粘度が異常に上昇し、重合溶液を後工程に送液するのに長時間を要し、最悪の場合反応容器内で溶液全体が固化するという問題があった。
【0005】
この問題を解決する方法として、重合終了後に溶剤を追加して、ある程度粘度を下げた上で重合体を払い出すという方法がある。しかし、この方法においては、追加する溶剤のコスト及び過剰な溶剤を除去する手間が問題となっていた。
【0006】
また、別の方法として、反応の際の重合体濃度を下げるという方法がある。しかし、重合濃度を下げると、重合溶液の粘度は低下するものの、生産性が低下するという問題があった。
【0007】
【非特許文献1】Polymer Bulletin、2000年、第44巻(5-6号)、pp.453-459
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、バランスの取れた物性、特に所望の硬度を有するブロック共重合体を与える製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ねた結果、イソブチレンを主成分としない単量体成分を重合する際に、モノマー転化率がある一定の値の段階で重合反応を停止することを特徴とするイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法により前記課題を解決できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち本発明は、下記一般式(1)で表わされる化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分及びイソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させるイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法において、イソブチレンを主成分とする単量体を重合させた後、イソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させ、当該イソブチレンを主成分としない単量体成分の転化率が97%以下の段階で、重合を停止させることを特徴とするイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法に関する。
(CR12X)n3 (1)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
【発明の効果】
【0011】
イソブチレンを主成分としない単量体の転化率がある一定値以下の段階で重合を停止させる本発明の製造方法によれば、転化率がその値より大きくなったときに重合を終了した場合と比較して、所期の物性とくに期待する硬度を有するイソブチレン系ブロック共重合体が得られる。また、得られる重合溶液の粘度が異常に高くなることが無く、後工程への移液が可能もしくは移液時間が短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態について以下に説明する。
【0013】
本発明においては、一般式(1)
(CR12X)n3 (1)
で表わされる化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体を重合させた後、イソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させ、当該イソブチレンを主成分としない単量体成分の転化率が97%以下の段階で、重合を停止させる。ここで、式(1)中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基で、R1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は一価の芳香族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素基または二価以上の芳香族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を表す。
【0014】
本発明者らは、イソブチレンを主成分としない単量体成分の転化率が97%より大きくなっても重合を継続すると、重合反応以外の副反応が起こりやすくなることを見出した。転化率が上昇してイソブチレンを主成分としない単量体の濃度が低下してくると、重合体末端の活性カチオンと重合体中のイソブチレンを主成分としない単量体成分からなる構成単位とが反応し、重合体二分子が結合した構造の重合体が新たに生成する。この副反応で得られる重合体の分子量は設定分子量の二倍以上を示す。そのため、得られるイソブチレン系共重合体の機械物性、特に硬度が高くなりすぎ、所望の物性を有する樹脂が得られないこととなると考えられる。また、これ以上の転化率になると、重合溶液の粘度が急激に上昇し、後工程への移液に時間がかかる、または不可能になる恐れがある。
【0015】
本発明において、重合の停止には、一般的なリビングカチオン重合で用いられてる重合の停止方法と同様の方法を用いることができる。すなわち、重合体を含有する反応溶液に、触媒を失活させるだけのモル当量、もしくはそれ以上のモル当量のプロトン性化合物、好適には、アルコール化合物、エーテル化合物、アミン化合物、もしくは水等を添加することにより、重合を停止することが出来る。これらの化合物を添加する際の重合溶液の温度は、重合温度のままでも、また、温度を上げて室温等としても良い。また添加する化合物の温度は、重合温度に冷却しても良いし、加熱状態としても良い。また、これらの化合物を添加する際には、短時間で失活反応を終わらせるという観点から、激しく攪拌することが好ましい。失活時の不純物の効率的な除去の観点から、重合溶液と同量もしくはそれ以下の量の40℃から100℃に加熱した状態の水を、重合温度の重合溶液に加え、激しく攪拌することが望ましい。
【0016】
本発明のイソブチレンを主成分としない単量体成分を重合する際の転化率は、重量法と呼ばれる方法で求められる。重量法により転化率を求める際は、重合途中の重合溶液を少量サンプリングし、それを大量のプロトン性溶媒、例えば水やメタノール中に滴下し、得られた沈殿物を高温真空下で乾燥する。採取した重合溶液の重量、乾燥後の沈殿物の重量、及び各原料の仕込み重量から計算される。しかし、この方法は乾燥工程を含むため、実際の重合反応においては、ある重合時間で重合溶液を採取しても重合時間内に転化率を算出することが出来ない。そこで、一般的には、同様の反応を複数回繰り返して、重合時間と転化率との関係を求めた上で、ある重合時間になったときに所望の転化率になっていると判断し、重合反応を停止させる。また、重合溶液のガスクロマトグラフィーを測定し、重合溶液中の残存モノマー量を測定することにより、上記方法の代わりとすることも出来る。しかしながらこの方法では、ガスクロマトグラフィー測定試料を作成する際に生じる誤差ひいては算出される転化率の誤差が大きくなる可能性があり、重量法で転化率を算出する方が好ましい。
【0017】
本発明のイソブチレンを主成分としない単量体成分中の、イソブチレン以外の単量体は、カチオン重合可能な単量体成分であれば特に限定されないが、脂肪族オレフィン類、芳香族ビニル類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキセン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0019】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0020】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0021】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0022】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
例えば自動車部品、土木・建築用途、家電部品、スポーツ用品等に用いられるイソブチレン系ブロック共重合体を製造する場合、イソブチレンを主成分としない単量体成分は、物性及び重合特性等のバランスから、芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体成分であることが好ましく、芳香族ビニル系単量体の含有量が60重量%以上であるのが好ましく、80重量%以上であるのがより好ましい。この場合、適度な硬度などの物性を発現させるために、イソブチレンを主成分としない単量体成分中のイソブチレンの含有量は10重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることがさらに好ましい。また、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれた1種以上の単量体を使用することが好ましく、コストの面からスチレン、α−メチルスチレン、あるいはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。
【0024】
本発明のイソブチレンを主成分とする単量体成分は、イソブチレン以外の単量体を含んでいても含んでいなくても良いが、バランスの取れた物性を有するイソブチレン系ブロック共重合体とするためには、イソブチレンを60重量%以上含有しているのが好ましく、80重量%以上含有しているのがより好ましい。イソブチレン以外の単量体としてはカチオン重合可能な単量体であれば特に制限はないが、例えば上記の単量体等が挙げられる。
【0025】
イソブチレンを主成分とする重合体ブロックとイソブチレンを主成分としない単量体成分からなる重合体ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、各種物性の面から、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックが95から40重量%、イソブチレンを主成分としない単量体成分からなる重合体ブロックが5から60重量%であることが好ましく、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックが85から50重量%、イソブチレンを主成分としない単量体成分からなる重合体ブロックが15から50重量%であることが特に好ましい。
【0026】
またイソブチレン系ブロック共重合体の数平均分子量にも特に制限はないが、流動性、加工性、物性等の面から、30000〜500000であることが好ましく、50000〜400000であることが特に好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体の数平均分子量が上記範囲より低い場合には機械的な物性が十分に発現されない傾向にある。一方、上記範囲を超える場合には流動性、加工性の面で不利である。
【0027】
本発明で使用する炭素数3〜8の1級及び2級のモノハロゲン化炭化水素としては、例えば、1−クロロプロパン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルブタン、1−クロロ−3−メチルブタン、1−クロロ−2,2−ジメチルブタン、1−クロロ−3,3−ジメチルブタン、1−クロロ−2,3−ジメチルブタン、1−クロロペンタン、1−クロロ−2−メチルペンタン、1−クロロ−3−メチルペンタン、1−クロロ−4−メチルペンタン、1−クロロヘキサン、1−クロロ−2−メチルヘキサン、1−クロロ−3−メチルヘキサン、1−クロロ−4−メチルヘキサン、1−クロロ−5−メチルヘキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、2−クロロプロパン、2−クロロブタン、2−クロロペンタン、2−クロロペンタン、2−クロロヘキサン、2−クロロヘプタン、2−クロロオクタン、クロロベンゼン等が使用でき、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも、イソブチレン系ブロック共重合体の溶解度、分解による無害化の容易さ、コスト等のバランスから、1−クロロプロパン、1−クロロブタンが好ましく、特に1−クロロブタンが好ましい。
【0028】
本発明で使用する脂肪族及び芳香族系炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ブロック共重合体の溶解度、コスト、誘電率等のバランスから、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0029】
本発明においては、重合溶媒は、反応中の副反応の抑制効果から、上記炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素と脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素を組み合わせた混合溶媒を用いるのが好ましい。混合溶媒中のモノハロゲン化炭化水素の含有量は、特に限定されず、所望の誘電率あるいはブロック共重合体の溶解度が得られるように設定すれば良いが、一般的には10〜98重量%であり、好ましくは20〜90重量%である。
【0030】
上記混合溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定する。
【0031】
上記一般式(1)で表わされる化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0032】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C65C(CH32Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH32363]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C64(C(CH32Cl)2]及び1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン〔1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63〕である[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0033】
イソブチレン系ブロック共重合体を重合する際に、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3、SnCl4が好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜60モル当量の範囲である。
【0034】
イソブチレン系ブロック共重合体の重合に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0035】
各成分の使用量は目的とする重合体の特性によって適宜設計することが可能である。まずイソブチレン系単量体及びイソブチレンとは別種のカチオン重合性単量体と一般式(1)で表わされる化合物のモル当量関係によって、得られる重合体の分子量が決定できる。通常得られるブロック共重合体の数平均分子量が20,000〜500,000程度になるように設定される。
【0036】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0037】
本発明の製造方法によって製造されるイソブチレン系ブロック体は、イソブチレンを主成分とする重合体ブロック及びイソブチレンを主成分としない単量体からなる重合体ブロックを有しているものであれば特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましいブロック共重合体としては、例えば、イソブチレンを主成分としない単量体成分が芳香族ビニル系単量体である場合には、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロック−芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロックとイソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるアームを3つ以上有する星型ブロック共重合体、又はこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0038】
本発明の方法によれば、硬度の低いイソブチレン系ブロック共重合体を製造することが可能であって、このようなブロック共重合体は、比較的低い硬度が要求される用途、例えば、自動車部品、土木・建築用途、家電部品、スポーツ用品、雑貨品、文房具をはじめとする種々の成形品やその他様々な用途に好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
尚、実施例に先立ち各種測定法、評価法、実施例について説明する。
【0040】
(分子量)
Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)。数平均分子量はポリスチレン換算で表記。
【0041】
(転化率)
重合溶液を採取して、これをメタノールに滴下することにより樹脂を沈殿させ、得られた樹脂を80℃で24時間乾燥させその重量を測定し、採取した重合溶液の重量、乾燥後の樹脂の重量及び各種原料仕込み量から計算した。
【0042】
(硬度)
JIS K 6352に準拠して測定を行った。試験片としては12.0mm厚プレスシートを用いた。
【0043】
(引張破断強度)
JIS K 6251に準拠して測定を行った。試験片は2mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
【0044】
(引張破断伸び)
JIS K 6251に準拠して測定を行った。試験片は2mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
【0045】
(実施例1)[スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)の製造]
500mLのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)97.6mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)140.5mLを加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー47.7mL(505.3mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p−ジクミルクロライド0.097g(0.42mmol)及びN、N'−ジメチルアセトアミド0.078g(0.84mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン1.66mL(15.12mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から75分撹拌を行った後、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、スチレンモノマー13.71g(131.67mmol)を重合容器内に添加した。混合溶液を添加してから60分後に、大量の水に加えて反応を終了させた。
【0046】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが118500、Mw/Mnが1.28であった。重合終了時のスチレンの転化率は、85%であった。また、得られたブロック共重合体の硬度、破断強度はそれぞれ40、16.1MPaであった。
【0047】
(実施例2)[スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)の製造]
スチレンモノマー溶液を添加してから75分後に大量の水に加える以外は、実施例1と同様の実験を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが128800、Mw/Mnが1.33であった。重合終了時のスチレンの転化率は、92%であった。また、得られたブロック共重合体の硬度、破断強度はそれぞれ47、17.0MPaであった。
【0048】
(実施例3)[スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)の製造]
スチレンモノマー溶液を添加してから90分後に大量の水に加える以外は、実施例1と同様の実験を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが147400、Mw/Mnが1.62であった。重合終了時のスチレンの転化率は、97%であった。また、得られたブロック共重合体の硬度、破断強度はそれぞれ51、15.8MPaであった。
【0049】
(比較例1)[スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)の製造]
スチレンモノマー溶液を添加してから120分後に大量の水に加える以外は、実施例1と同様の実験を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが168000、Mw/Mnが1.80であった。重合終了時のスチレンの転化率は、99%であった。また、得られたブロック共重合体の硬度、破断強度はそれぞれ59、17.2MPaであった。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1〜3では、n−ブチルクロライド及びヘキサンの混合溶剤を用い、イソブチレンを主成分としない単量体としてスチレン、p−ジクミルクロライドを開始剤として用いた場合のイソブチレン−スチレントリブロック共重合体の製造を挙げている。重合の際は、スチレン添加後の重合時間を調整して、スチレンモノマーの重合転化率を85%〜97%までの間とした。これにより、得られるブロック共重合体の硬度は、自動車部品、土木・建築用途等の成形品に用いるのに好適な硬度を有する40〜51とすることが出来た。
【0052】
一方、比較例1では、スチレン添加後の重合時間を長くしてスチレンモノマーの重合転化率が99%になった時点で反応を終了したが、得られたブロック共重合体の分子量分布は1.80と実施例に比べて高く、副反応が頻発していることが伺える。このため、得られた共重合体の硬度は高く、59となった。
【0053】
以上の実施例、比較例から分かるように、スチレンモノマーの重合転化率を97%以下とする事により、期待する物性を有するブロック共重合体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分及びイソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させるイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法において、イソブチレンを主成分とする単量体を重合させた後、イソブチレンを主成分としない単量体成分を重合させ、当該イソブチレンを主成分としない単量体成分の転化率が97%以下の段階で、重合を停止させることを特徴とするイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法。
(CR12X)n3 (1)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
【請求項2】
イソブチレン系ブロック重合体の製造時に用いる溶剤が、炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素、及び、脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素を含む溶剤である、請求項1に記載のイソブチレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素が、1−クロロプロパン、1−クロロブタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表わされる化合物が、1−クロル−1−メチルエチルベンゼン[C64C(CH32Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH32363]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63]で表わされる化合物群から選ばれたものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)で表わされる化合物が1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン及び/又は1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンである請求項4の製造方法。
【請求項6】
イソブチレンを主成分としない単量体成分が芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体成分である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
芳香族ビニル系単量体がスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、インデンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
イソブチレン系ブロック共重合体が、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロック−芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体ブロックとイソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるアームを3つ以上有する星型ブロック共重合体、又はこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−197557(P2007−197557A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17469(P2006−17469)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】