説明

イソマルトを含有する速崩壊性医薬品固形製剤

【課題】錠剤中にイソマルトを高含量で含有することにより、低圧で打錠しても実用上問題の無い錠剤硬度を保つことができ、さらには速やかな錠剤崩壊性を併せ持ち、ロータリー打錠機などの高生産性打錠設備によるスムーズな大量生産をも可能とする処方設計を提供する。
【解決手段】イソマルトを錠剤中に主成分として含有し、さらには適切な比率にて活性成分と崩壊剤を添加した混合物をロータリー打錠機により圧縮成形することにより、錠剤硬度が40N以上、20秒以内に崩壊する実用上問題のない速崩壊錠剤が提供できる。
例えば、イソマルトを88重量%とし、クロスカルメロースナトリウムを2重量%、結晶セルロースを10重量%とした処方で、崩壊時間20秒以内、錠剤硬度40N以上の硬度を得ることができる。また、乾式の打錠工程において不可欠な滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム)の割合が0.125重量%(外割)であっても、ロータリー打錠機においてスムーズな生産を行うことができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソマルトを含有することを特徴とした医薬品固形製剤の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者が服用する医薬品剤形として速崩壊錠の需要が急増し、医薬品原料の一部となる賦形剤もその需要に合わせて、高機能化が要求されている。特に老人や嚥下困難な患者の場合には、体内にて速やかに崩壊する錠剤が求められている。また、特別な機械装置を必要としなくても、一般的な生産設備を用いて、上述した特性を持つ錠剤の生産が望まれている。現在の市場が求める具体的な賦形剤の機能としては、崩壊時間が速く、包装や搬送に問題がない錠剤硬度が保持でき、さらには味、舌触り、外観が優れた錠剤を得ることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
医薬品固形製剤のうち、特に素早い崩壊性が要求される速崩壊性錠剤の製造においては、錠剤の取り扱いに問題の生じない十分な硬度でありながら、水に対して素早い崩壊性を示すことであり、物理的な性質としては相反する性質が求められている。この課題を解決するために様々な手法や製品が開発されているが、これらは各社製薬メーカーの独自の技術に依存する傾向が強く、一般的な汎用技術については、散見される程度に止まっている。
【0004】
本発明では、糖を基材とした新規な賦形剤であるイソマルト(商品名:galenIQ、Palatinit社製)を含む錠剤を調製することで、高い崩壊性を保ちつつ、十分な錠剤硬度を保持し、一般的な生産設備にても生産性に優れた速崩壊錠剤が生産できる手法を提供する。すなわち、従来から錠剤の賦形剤として用いられる乳糖やコンスターチ等と置き換えることにより、高機能で付加価値の高い錠剤を調製することができる。
【0005】
イソマルト以外にも同様な機能を持つ糖アルコールとして、例えばD−マンニトール、ソルビトール、エリスリトール等が上げられるが、イソマルトは特に低圧による打錠においても、高い硬度と速やかな崩壊特性が得られることが特徴である。そのため、錠剤硬度が低下しやすい処方である場合や、崩壊性に問題がある場合には、賦形剤をイソマルトに置き換えることで、有意な改善を見込むことができる。
【0006】
低い打錠圧力で製錠が必要な場合、たとえば打錠圧力により錠剤中有効成分の失活が懸念される場合には、イソマルトは最適であり、また高圧力による打錠装置自体への負荷を回避できるので生産上好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
イソマルトを錠剤中に主成分として含有し、さらには適切な比率にて活性成分と崩壊剤を添加した混合物をロータリー打錠機により圧縮成形することにより、実用上問題のない速崩壊性錠剤が提供できる。
【0008】
例えば、イソマルトを88重量%とし、クロスカルメロースナトリウムを2重量%、結晶セルロースを10重量%とした処方で、崩壊時間が20秒以内、錠剤硬度40N以上の硬度を得ることができる。また、乾式の打錠工程において不可欠な滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムの割合が0.125重量%(外割)であっても、ロータリー打錠機においてスムーズな生産を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜3に記載された本発明によれば、イソマルトを高含量で含有することで、低圧(例えば400kgf/杵、8mm錠)で打錠しても実用上問題の無い錠剤硬度を保つことができ、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロースを含有した処方において、常用よりも少量のステアリン酸マグネシウム、例えば0.125重量%においても連続して安定した打錠生産ができる処方を提供できる。これにより、崩壊時間20秒以内、錠剤硬度40N以上の硬度の錠剤を得ることができた。このように、イソマルトを含む口腔内速崩壊錠剤やイソマルトを含む顆粒剤などの製剤において高機能な医薬品固形製剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により製造される錠剤は速やかに崩壊し、かつ十分な硬度を有することができるが、イソマルトの含有量としては、錠剤中50〜95%が好ましく、さらに好ましくは、70〜95%である。
【0011】
活性成分の含有量としては、錠剤中0.1〜50%が好ましく、さらに好ましくは1〜30%である。
【0012】
崩壊剤の含有量としては、錠剤中1〜10%が好ましく、さらに好ましくは2〜5%である。
【実施例】
【0013】
実施例により本発明を具体的に説明する。実施例1について錠剤を製造するために用いた成分を表1に示す。
【表1】

【0014】
実施例1−1では直打用イソマルト(商品名:galenIQ721、Palatinit社製)に加えて崩壊剤であるクロスカルメロースナトリウム(商品名:クロスカルメルドン、明台化工有限公司社製)、結晶セルロース(商品名:セルドン、明台化工有限公司社製)を添加して速崩壊性錠剤の処方とした。
【0015】
実施例1−2では直打用イソマルトに崩壊剤のクロスポビドン(商品名:ポリプラスドンINF−10、ISPジャパン)を添加し速崩壊性錠剤の処方とした。実施例1の全ての処方には、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(Mallinckrodt社製)を0.5重量%添加し製錠を行った。
【0016】
さらに速やかに崩壊する速崩壊性錠剤を製造するために実施例2の処方を検討し、その成分を表2に示した。実施例2では特に崩壊を遅延させる滑沢剤の添加量を減少させ、通常、用いられる濃度の4分の1に該当する0.125重量%の滑沢剤を添加し製錠を行った。
【表2】

【0017】
製錠する打錠機には、高速ロータリー式打錠機(Clean Press Correct HUK−12AW型、菊水製作所社製)を用いた。錠剤の形状は直径8mmのR錠で平均重量180mgを目標に調製した。原料の供給方法はオープンフィードシューで、打錠速度は20rpmにて実施した。打錠する圧力は300kgf/杵、400kgf/杵、500kgf/杵の3通りにて実施した。
【0018】
実施例で得られた錠剤について、以下の試験をおこなった。
【0019】
錠剤硬度試験においては、製錠後の錠剤の内、10錠を無作為にサンプリングし、錠剤硬度計(PC−30型、岡田精工社製)を用いてその硬度の平均を算出し錠剤硬度とした。
【0020】
崩壊試験においては、日本薬局方第14改正に基づき、錠剤崩壊試験機(NH−1HM型、富山産業社製)を用いて測定した。試験では6錠の試験錠剤について、それぞれの崩壊時間を計測し、平均時間を崩壊時間とした。
【0021】
錠剤摩損度試験においては、日本薬局方第14改正参考情報に基づき、錠剤摩損度試験機(TFT−120型、富山産業社製)を用いて錠剤摩損度試験を行った。試験機に投入した重量から、試験後の錠剤重量の減少割合を錠剤摩損度(%)とした。
【0022】
錠剤の重量偏差試験については、製錠後の錠剤の内、10錠を無作為にサンプリングし、これの重量偏差を求めた。CV値(%)を算出し、打錠機の臼への充填バラツキについて検討した。
【0023】
錠剤硬度試験の実施結果を表3に示した。実施例1と実施例2−1では400kgf/杵にて打錠した場合において錠剤硬度の平均が60Nを超えており、一般的にPTPシートから錠剤を取り出す際に、割れ等の問題が発生しないとされる50N以上の錠剤硬度を確保できた。実施例2−2では高圧側で錠剤が成形されず、製錠が困難であった。
【表3】

【0024】
錠剤崩壊試験の実施結果を表4に示した。崩壊時間は、実施例2−1にて300kgf/杵にて打錠した場合に平均17.5秒と測定され十分に早い崩壊性が得られた。実施例2−1の打錠圧が400kgf/杵においても、およそ30秒の崩壊時間となった。この2つの条件については速い崩壊性が達成されているといえる。
【表4】

【0025】
錠剤摩損度試験の実施結果を表5に示した。実施例1を用いた処方において、最も良好な結果が見られた。摩損度0.1%以下と良い結果が安定して得られた。0.5%を越えない摩損度であれば特に生産で問題になるとは考えにくい。実施例1、および実施例2−1の処方においては、錠剤の摩損度に関して十分な特性を持つことが確認された。
【表5】

【0026】
錠剤重量偏差試験の実施結果を表6に示した。実施例1、2−1において、良好な結果が見られた。重量偏差が1.0%CV程度と良い結果が安定して得られた。実施例2では実施例1に比較して、やや高い結果が得られたが、この程度であれば特に生産で問題になるとは考えにくい。錠剤の重量偏差に関する特性については、十分に保持できることが確認された。
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0027】
口腔内速崩壊錠
【0028】
用時溶解製剤(ドライシロップ製剤等)
【0029】
錠剤製造時に低圧打錠が必要な錠剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−O−α−D−Glucopyranosyl−D−sorbitol(1,6−GPS)と1−O−α−D−Glucopyranosyl−D−mannitol dihydrate(1,1−GPM)の混合組成物であるイソマルトを高含量で含有することで、低圧で打錠しても高い錠剤硬度が得られ、さらには速やかな崩壊性を併せ持つ錠剤を製造する手法。
【請求項2】
6−O−α−D−Glucopyranosyl−D−sorbitol(1,6−GPS)と1−O−α−D−Glucopyranosyl−D−mannitol dihydrate(1,1−GPM)の混合組成物であるイソマルトを高含量で含有し、さらには活性成分、崩壊剤、結晶セルロース等の添加剤を適量含有することで、少量の滑沢剤、例えば0.125重量%においても連続して安定した打錠生産ができ、高い錠剤硬度が得られ、さらには速やかな崩壊性を併せ持つ錠剤を製造する手法。
【請求項3】
6−O−α−D−Glucopyranosyl−D−sorbitol(1,6−GPS)と1−O−α−D−Glucopyranosyl−D−mannitol dihydrate(1,1−GPM)の混合組成物であるイソマルトを含有する医薬品固形製剤。例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、および用時溶解して用いるドライシロップ製剤。

【公開番号】特開2008−37853(P2008−37853A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229824(P2006−229824)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(501437536)株式会社樋口商会 (3)
【Fターム(参考)】