説明

イソロイシンを利用した4−ヒドロキシイソロイシン高含有フェヌグリークスプラウトの製造方法

【課題】4−OH−Ileが従来に無い程度にまで富化されたフェヌグリークスプラウトを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、フェヌグリーク種子から水栽培により、4−ヒドロキシイソロイシン(4−OH−Ile)が富化されたフェヌグリークスプラウトを製造する方法であって、前記水栽培においてイソロイシンを供給することを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシイソロイシン高含有フェヌグリークスプラウト、及びイソロイシンを利用したその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
4−ヒドロキシイソロイシン(以下、4-OH-Ileと記す)等の分岐鎖アミノ酸は、骨格筋や肝臓におけるタンパク質の合成を促進し、分解を抑制することが従来から知られていた。また近年、分岐鎖アミノ酸は糖代謝を調節する作用を有することも解明されつつある。(非特許文献1)したがって4-OH-Ileは糖尿病等の糖代謝が関与する疾患に対して治療的な作用を有するものと期待される。
【0003】
一方、非特許文献2には、フェヌグリーク種子を暗所で水栽培したとき、個体あたりおよび乾燥重量あたりの4-OH-Ile含量が経時的に増加した(栽培期間1週間)ことが示されている。このことは、4-OH-Ileは栽培中にフェヌグリークスプラウト内で生合成されることを示す。非特許文献2では更に、水栽培開始5日目のフェヌグリークスプラウト摩砕液から高分子画分(分子量1000以上)を得、これに外部からイソロイシン及び補酵素を添加することにより、4-OH-Ileの合成されたことを確認している。このことより、4-OH-Ileの前駆体はイソロイシンであり、4-OH-Ileはイソロイシンより酵素的に合成されることを示した。
【0004】
【非特許文献1】化学と生物, Vol.45, No.3, 203−210 (2007)
【非特許文献2】Phytochemistry 44, 563−566 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2では、フェヌグリークスプラウトをペースト化した後、4-OH-Ile合成酵素の含まれる高分子画分を分離し、同画分にイソロイシンを添加して4-OH-Ileを合成する方法が記載されている。しかしこの方法は工業的応用は難しく、効率も悪い。
【0006】
従来の方法では、4-OH-Ileの含量の高い植物体を作ることはできなかった。
【0007】
そこで本発明は、4-OH-Ileが富化されたフェヌグリークスプラウトを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)フェヌグリーク種子から水栽培により、4−ヒドロキシイソロイシン(4-OH-Ile)が富化されたフェヌグリークスプラウトを製造する方法であって、前記水栽培においてイソロイシンを供給することを特徴とする方法。
(2)イソロイシンの供給が、前記水栽培における、生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点を中心とした48時間の期間を含む、72時間以上の期間行われることを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)イソロイシンの供給が、前記水栽培においてスプラウトの胚軸部分と根部分との合計長が1cmとなる時点から6cmとなる時点までの期間少なくとも行われることを特徴とする、(1)記載の方法。
(4)イソロイシンの供給が、水栽培開始24時間後の時点から96時間後の時点までの期間行われることを特徴とする、(1)記載の方法。
(5)イソロイシンが水溶液の形態で供給されることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)イソロイシン水溶液の濃度が10〜100mMであることを特徴とする(5)記載の方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の方法で作られたフェヌグリークスプラウトであって、4-OH-Ile含量が40〜70mg/g(乾燥重量基準)であるフェヌグリークスプラウト。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によって、4-OH-Ileを多量、例えば通常のフェヌグリークスプラウトが有する量の1.8倍以上の量を含んだフェヌグリークスプラウトを提供することができる(図4)。
【0010】
イソロイシンの供給時期を限定することで、使用するイソロイシン量を減らし、供給する作業工程を減らすことが可能になり、低コストで上記フェヌグリークスプラウトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.水栽培の手順
フェヌグリークスプラウトとは、フェヌグリーク種子を水栽培して得られる発芽野菜のことである。上記水栽培は、水耕栽培ともいい、土を使用せずに水単独あるいは必要な養分(窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム等)を液肥(ハイボニカ肥料等)で与えながら栽培する方法で、稲の水耕栽培では数千年前から行なわれている。
【0012】
フェヌグリークスプラウトの典型的な栽培方法は以下の通りである。
【0013】
まず、次亜塩素酸水溶液やエタノール水溶液などの殺菌剤でフェヌグリーク種子を殺菌する。
【0014】
そして殺菌後の種子を温度が一定に調節された暗所(例えば20〜30℃)で一晩水浸漬した後、温度が一定に調節された環境(例えば20〜30℃)下で、播種した後に水を供給する。その後、播種した時点を起点(0時間)(水栽培開始)として、播種直後48時間後から播種直後96〜168時間後まで、暗所のままあるいは光照射下で生育させ、フェヌグリークスプラウトを収穫する。
【0015】
上記光照射は、従来のスプラウトで通常使用される光強度 (20 μmol/m2/sec)の人工光が使用される。
【0016】
栽培時の温度は、一般に植物の発芽・成長に適している20〜30℃が望ましい。
【0017】
スプラウトの生産のための容器としては、ポットもしくはトレーなどであり、室としては、スプラウト製造装置などである。
【0018】
容器には例えばバーミュキュライトや土と一緒に水を入れて栽培を行う。
【0019】
スプラウト栽培装置は、場所を選ばず簡単にスプラウトを栽培する装置であり、スプラウトに水と空気を同時にタイマーによって自動的に散布できる。必要に応じて、容器および室は温度、光照射時間や光強度を制御できる恒温槽に入れて栽培を行う。
【0020】
イソロイシンの供給方法は、植物体にイソロイシンを供給できる方法であれば特に限定されないが、スプラウトに効率よく吸収させることを考えると、イソロイシンの水溶液の形態で供給する方法が望ましい。
【0021】
イソロイシン水溶液の供給方法は特に限定されないが、例えば(i)水溶液を植物体全体に供給する方法や、(ii)水溶液を根部から吸収させる方法などがある。イソロイシンは高価であるため、イソロイシン水溶液の供給にあたっては、イソロイシン水溶液を循環させて使用するのが望ましい。
【0022】
水栽培におけるイソロイシン水溶液の供給は連続的又は断続的に行うことが好ましい。断続的に行う場合、例えば、6時間〜12時間の時間間隔で噴霧等の方法により供給することができる。
【0023】
水溶液中のイソロイシン濃度は、10mM以上、好ましくは25mM〜100mMで、さらに好ましくは25mM〜50mMである。96時間の栽培においては、10mM以上の濃度イソロイシン溶液を使うことにより、スプラウト個体の乾燥重量あたりの4-OH-Ile量はコントロール群(水供給群)に対して有意に増加する。25〜100mMの濃度範囲では、水供給群の場合と比較してスプラウト個体の乾燥重量あたりの4-OH-Ile含量が1.6倍まで増加させることができる(図2)。
【0024】
イソロイシン濃度が25〜100mMでは、スプラウト中に観察されるイソロイシン量に差はあるが、スプラウト内に蓄積する4-OH-Ile量に差が無いことから、過剰にイソロイシンがあっても4-OH-Ile合成量は増加しないことがわかる。従って、高価なイソロイシンを無駄にすることなく4-OH-Ileを増加させるのに適したイソロイシン濃度は、25mM〜50mMである(図2)。
【0025】
2.イソロイシンの供給時期
イソロイシンは高価であることから水栽培の際に効率的に供給することができればより一層望ましい。
【0026】
本発明者らは、驚くべきことに、イソロイシンを、水栽培における、生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点を中心とした48時間の期間を含む、72時間以上の期間供給すれば、水栽培の全期間に亘りイソロイシンを供給した場合と同等の4-OH-Ileが蓄積されることを見出した。4-OH-Ileの合成が盛んになる時期にイソロイシンを多く存在させておくことで、合成酵素が誘導され、その後の4-OH-Ile合成が増加すると考えられる。そこで本発明では、4-OH-Ileの合成速度が盛んになる時期に、スプラウト中に十分量のイソロイシンを存在させるのである。ここで「生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点を中心とした48時間の期間」とは、同時点の24時間前の時点から、24時間後の時点に至る48時間の期間を意味する。本発明では、この期間を含む、連続した72時間以上の期間に亘りイソロイシンを供給することを特徴とする。また「生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点」とは次のように決定できる。まず4-OH-Ile富化フェヌグリークスプラウトの所望の水栽培条件と、イソロイシンを供給しない以外は同一の条件によりフェヌグリークスプラウトの水栽培を行う。そして、水栽培開始後の植物体を経時的にサンプリングして単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量を測定する。水栽培開始後の経過時間と4-OH-Ile量との関係から、4-OH-Ile量の増加速度が最も大きい時点(T)を知ることができる。
【0027】
より好ましくはイソロイシンを、水栽培における、生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点の24時間前から、前記時点の48時間後までの72時間の期間供給する。例えば168時間の水栽培では、栽培開始後48時間で4-OH-Ile量の増加速度が最大となり、栽培開始後96時間で4-OH-Ileの合成がほぼ終了する。そこで、イソロイシンは、スプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点の24時間前から、水栽培開始96時間後(すなわち前記時点の48時間後)までの期間供給することが好ましい。このとき栽培開始後96時間からイソロイシンを供給しても、4-OH-Ileの増加量はイソロイシン無添加条件と相違が無い。
【0028】
「水栽培開始96時間後の時点」及び後述する「水栽培開始24時間後の時点」とは、上記「1.水栽培の手順」で説明した、温度が一定に調節された暗所での殺菌種子の水浸漬後の播種を起点として、96時間後の時点、及び24時間後の時点である。
【0029】
本発明者らはまた、フェヌグリークスプラウトの水栽培において、4-OH-Ile量の増加曲線がスプラウトの成長(胚軸部+根部の長さ)曲線に相関すること、並びに、4-OH-Ile量の増加速度を測定しなくともフェヌグリーク成長具合からイソロイシンの添加時期を規定することができることを見出した。すなわち、イソロイシンを、水栽培においてスプラウトの胚軸部分と根部分との合計長が1cmとなる時点から6cmとなる時点までの期間供給すれば、水栽培の全期間に亘りイソロイシンを供給した場合と同等の4-OH-Ileが蓄積されることを見出した。
【0030】
まず、4-OH-Ile富化フェヌグリークスプラウトの所望の栽培条件と、イソロイシンを供給しない以外は同一の条件によりフェヌグリークスプラウトの水栽培を行い、スプラウトの長さの経時変化をあらかじめ確認しておくことが望ましい。実施例に示すとおり、イソロイシンの添加の有無によってフェヌグリークスプラウトの生長速度は変動しない。
【0031】
本発明者らはまた、イソロイシンを、水栽培開始24時間後の時点から96時間後の時点までの期間供給すれば、水栽培の全期間に亘りイソロイシンを供給した場合と同等の4-OH-Ileが蓄積されることを見出した。
【0032】
上述のいずれの形態においても、イソロイシンを、所定の期間のみ供給することが最も効率がよいが、当該所定の期間の前後も含めた期間、イソロイシンの供給を行うことも本発明の範囲に包含される。
【0033】
3.4-OH-Ile富化フェヌグリークスプラウト
本発明の方法により得られたフェヌグリークスプラウトは、40〜70mg/g(乾燥重量基準)の4-OH-Ileを含有する。また、本発明の方法により得られたフェヌグリークスプラウトは、通常は、水栽培の工程において供給されたイソロイシンを含んでいる。
【実施例1】
【0034】
(実験方法)
種子はインド産フェヌグリークを使用した。栽培は「スプラウト栽培専用装置」(図1)を用いた。これは排水口のあるトレイに蒔いた種子に、間欠的に空気と水を散布できる装置である。種子25 gを以下に示す5条件の3倍量水溶液:(1) 水 (コントロール)、(2) 10 mMイソロイシン水溶液、(3) 25 mMイソロイシン水溶液、(4) 50 mMイソロイシン水溶液、(5) 100 mMイソロイシン水溶液、に16時間浸漬後、トレイ (内寸33 cm x 6 cm) にじかに高密度で種子を撒き(吸水前の種子重量として0.28 g/cm2)、イソロイシン水溶液を定期的に散布しながら25℃で栽培した。1回の散布は約4.5 ml/min/1トレイで、散布と通気時間 (散布と同時に行われる) は15分間とし、6時間毎に行った。播種直後を0時間として48時間後から、1日16時間光照射した。光は、蛍光灯 (光量約25 μmol/m2/sec、照度約2500 lx) と赤色LED (660 nm、光量約25 μmol/m2/sec、照度約350 lx) が、4-OH-Ile量に及ぼす影響に差がないため、区別なく使用した。播種96時間後に収穫し、乾燥重量あたりの4-OH-Ile量を測定した。
【0035】
フェヌグリークスプラウトの乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の測定は以下の方法により行なった。
【0036】
スプラウトを50 g量り取り、蒸留水20 gを添加し、8分間ホモジナイズ(10,000 rpm)した。摩砕物約1 gを量り取り(精秤)、70 %エタノールで20 mlにメスアップし、4時間放置したものをHPLC分析の検液とした。4-OH-Ile量の測定は、HPLC(アジレント社製1100シリーズ)を用いて、アミノ酸誘導体化試薬のOPAを用いたプレカラム法により行なった。摩砕物の水分量は、別途摩砕物約1 gを量り取り (精秤)、105℃で16時間乾燥することにより測定した。4-OH-Ile標準品の濃度から、70%エタノールの抽出液の4-OH-Ile濃度を算出後、精秤サンプル中の4-OH-Ile量を算出した。そして上記摩砕物中の水分量からフェヌグリークスプラウト乾燥重量あたりの4-OH-Ile量を算出した。また、乾燥重量あたりのイソロイシン量は、イソロイシンと4-OH-Ileの構造が非常に似ているために、4-OH-Ile検量線を利用し、イソロイシンのHPLC分析の面積値を4-OH-Ileの検量線式に代入し、4-OH-Ile量として算出した。
【0037】
(結果)
10 mM以上のイソロイシン水溶液で、合成される4-OH-Ile量はコントロールである水供給区に対して有意に増加した。また、25 mM、50 mMおよび100 mMイソロイシン水溶液の間で、合成される4-OH-Ile量に変化は無かった (図2)。スプラウト中に存在するイソロイシン量については、水供給区では全く見られないのに対して、イソロイシン供給区では図2に示すようになった。これより、供給するイソロイシンがスプラウト中に吸収されて、4-OH-Ileに変換されたことにより、水供給区と比較して4-OH-Ileが増加することが確認できた。また、イソロイシン水溶液の濃度依存的にスプラウト中のイソロイシンが増加しているのは確認できたが、イソロイシン濃度が25〜100 mMの間では合成される4-OH-Ile量に変化が無かった (図2)。
【実施例2】
【0038】
(実験方法)
種子および栽培装置は実施例1と同様のものを使用した。浸漬および栽培は以下の9つの条件で行った。
条件(1):
種子25 gを3倍量の50 mMイソロイシン水溶液に16時間浸漬後、実施例1と同様な方法でトレイに種子を播種し、96時間栽培を行った。散布量および散布時間は実施例1と同じ条件で行なった。
条件(2)〜(8):
種子25 gを3倍量の水に16時間浸漬後、実施例1と同様な温度及び方法でトレイに種子を播種し、96時間栽培を行った。50 mMイソロイシン水溶液の散布期間は播種直後を0時間として、(2) 播種後0時間〜96時間、(3) 播種後0時間〜72時間、(4)播種後24時間〜96時間、(5)播種後24時間〜72時間、(6)播種後48時間〜96時間、(7)播種後24時間〜48時間、(8)播種後72時間〜96時間とし、それ以外の日は水を散布した。散布量および散布時間は実施例1と同じ条件で行なった。
条件(9):
種子25 gを3倍量の水に16時間浸漬後、実施例1と同様な方法でトレイに種子を播種し、96時間栽培を行った。散布量および散布時間は実施例1と同じ条件で行なった。
【0039】
光照射、収穫、およびフェヌグリークスプラウトの乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の測定は実施例1と同じ方法で行なった。
【0040】
(結果)
播種直後を0時間として、イソロイシン水溶液を播種後0〜96時間まで、全栽培期間供給しても又は播種後24時間から供給しても、4-OH-Ile量に有意な差は無かった(図3)。すなわち、50 mMイソロイシンを播種後0時間〜72時間あるいは24時間〜96時間まで供給すれば、0〜96時間供給するのと同じ量の4-OH-Ileが合成した。このことから、イソロイシンの使用期間を限定できることが確認できた。
【実施例3】
【0041】
(実験方法)
種子および栽培装置は実施例1と同様のものを使用した。種子25 gを3倍量の水に16時間浸漬後、実施例1と同様な方法でトレイに種子を播種し、下記の(1)〜(4)の4条件で播種直後を0時間として、168時間栽培を行った。散布量および散布時間は実施例1と同じ条件で行なった。播種後0時間〜168時間まで24時間毎に収穫し、乾燥重量あたりの4-OH-Ile量を測定した。光照射は実施例1と同じ温度及び方法で行なった。
条件(1):水を播種後0時間〜168時間まで散布
条件(2):50 mMイソロイシン水溶液を播種後24時間〜168時間に散布
条件(3):50 mMイソロイシン水溶液を播種後96時間〜168時間に散布
条件(4):50 mMイソロイシン水溶液を播種後24時間〜96時間に散布
(2)〜(4)では、イソロイシン水溶液を散布しない期間は水を散布した。
【0042】
フェヌグリークスプラウトの乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の測定は以下の方法により行なった。スプラウトを20 g量り取り、蒸留水40 gを添加し、8分間ホモジナイズ(10,000 rpm)した。摩砕物約2 gを量り取り(精秤)、70 %エタノールで20 mlにメスアップし、4時間放置したものをHPLC分析の検液とした。4-OH-Ile量の測定は、HPLC(アジレント社製1100シリーズ)を用いて、アミノ酸誘導体化試薬のOPAを用いたプレカラム法により行なった。摩砕物の水分量は、別途摩砕物約2 gを量り取り (精秤)、105℃で16時間乾燥することにより測定した。4-OH-Ile標準品の濃度から、70%エタノールの抽出液の4-OH-Ile濃度を算出後、精秤サンプル中の4-OH-Ile量を算出した。そして上記摩砕物中の水分量からフェヌグリークスプラウト乾燥重量あたりの4-OH-Ile量を算出した。また、乾燥重量あたりのイソロイシン量は、イソロイシンと4-OH-Ileの構造が非常に似ているために、4-OH-Ile検量線を利用し、イソロイシンのHPLC分析の面積値を4-OH-Ileの検量線式に代入し、4-OH-Ile量として算出した。
【0043】
スプラウトの長さは20本のスプラウトの(胚軸+根)の長さの平均値であり、生重量は10本あたり(N=5)の平均値で示してある。
【0044】
(結果)
4-OH-Ile量の結果を図4に示す。実験条件(1)では168時間後の乾燥重量あたりの4-OH-Ile量が36 mg/gであるのに対して、実験条件(2)において、96時間後の乾燥重量あたりの4-OH-Ile量は45 mg/gで、168時間後の量は63 m/gであった。(1)の水栽培区では96時間後以降、4-OH-Ile量の増加スピードが落ちた。一方、50 mMイソロイシン水溶液を用いた条件(2)および(4)の実験区では、96時間後以降も4-OH-Ile量が大きく増加した。条件(2)でも条件(4)でも、96時間後以降の4-OH-Ile量に差はほとんど無かった。4-OH-Ileの合成が止まる96時間後以降に、イソロイシンを供給しても、(1)の水栽培の場合の4-OH-Ile増加量と変わらなかった(図5)。これより、播種後24時間〜96時間までイソロイシンを供給するのと、24時間〜168時間まで供給するのと同量の4-OH-Ileが合成されることが確認できた。播種120時間後以降において、条件(3)ではイソロイシンが十分存在するが、4-OH-Ile量は(1)の水供給区とほぼ同じ量であったことより、水栽培で4-OH-Ile量の増加が止まる時期にイソロイシンを供給しても、4-OH-Ileの増加はないことが確認できた (図5)。図6では、スプラウトの長さ(胚軸+根)、図7では、生重量の経時変化を示している。図6の結果から、4-OH-Ile増加量とスプラウトの長さに相関があることが分かり、イソロイシンの添加時期はスプラウトの長さで規定できることが確認できた。即ち、スプラウトの長さが1cm〜6 cmの間に50 mMイソロイシンを供給すればよいことになる。一方、生重量と4-OH-Ileの間には相関関係はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】スプラウト栽培専用装置の写真である。
【図2】イソロイシン水溶液濃度と、スプラウト中の4-OH-Ile量及びイソロイシン(Ile)量との関係を示す図である。
【図3】イソロイシン水溶液の添加時期と、スプラウト中の4-OH-Ile量との関係を示す図である。
【図4】イソロイシン水溶液の添加時期と、スプラウト中の4-OH-Ile量の経時変化との関係を示す図である。
【図5.1】イソロイシン水溶液の添加時期と、スプラウト中の4-OH-Ile量の経時変化との関係を示す図である。
【図5.2】イソロイシン水溶液の添加時期と、スプラウト中の4-OH-Ile量の経時変化との関係を示す図である。
【図6】スプラウトの長さの経時変化を示す図である。
【図7】スプラウトの生重量の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェヌグリーク種子から水栽培により、4−ヒドロキシイソロイシン(4-OH-Ile)が富化されたフェヌグリークスプラウトを製造する方法であって、前記水栽培においてイソロイシンを供給することを特徴とする方法。
【請求項2】
イソロイシンの供給が、前記水栽培における、生長するスプラウトの単位乾燥重量あたりの4-OH-Ile量の増加速度が最大となる時点を中心とした48時間の期間を含む、72時間以上の期間行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
イソロイシンの供給が、前記水栽培においてスプラウトの胚軸部分と根部分との合計長が1cmとなる時点から6cmとなる時点までの期間少なくとも行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
イソロイシンの供給が、水栽培開始24時間後の時点から96時間後の時点までの期間行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
イソロイシンが水溶液の形態で供給されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
イソロイシン水溶液の濃度が10〜100mMであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法で作られたフェヌグリークスプラウトであって、4-OH-Ile含量が40〜70mg/g(乾燥重量基準)であるフェヌグリークスプラウト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5.1】
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【図5.2】
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【図6】
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【図7】
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