説明

イットリウム及び希土類の混合酸化物を調製する方法

イットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物を調製する方法は、a.前記のイットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物の前駆体を、ハロゲン化バリウム及びホウ素化合物を含有するフラックスと混合する工程と、b.工程(a)の前記混合物をか焼して、前記混合酸化物を得る工程と、を含む。この混合酸化物は、蛍光物質として、色物蛍光放電管、陰極線管及びプラズマ表示板の製造に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム及び少なくとも1種類の希土類の混合酸化物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化イットリウムは、セラミックス及び電子機器のような分野に用途が見出だされる。より明確に言えば、ユーロピウムで活性化された酸化イットリウム(YOX)は、紫外線励起又は陰極線励起の下では赤色発光物質であり、従って、それは、色物蛍光放電管、陰極線管(CRT)及びプラズマ表示板(PDP)の製造に用いられる。
通常、YOX蛍光物質の合成は、セラミック技術、即ち、YとEuとの混合物を直接か焼することによって行われる。Y及びEuの酸化物は、シュウ酸塩のような前駆体であって、ゾルゲル法又は均質沈降(homogenous precipitation)によって前もって調製される前駆体の第1のか焼によって得られる。フラックスの存在下、それら酸化物の第2のか焼によって、YOX蛍光物質は、非常に硬質であるブロックの形態で得られる。その場合、それらをジョークラッシャー(jaw crusher)及びローリングクラッシャー(rolling crusher)によって粉砕し、次いで、その集塊をボールミル粉砕によって分散させる必要がある。破砕及び粉砕プロセスは、得られる蛍光物質の明度のために有害であることが知られている。更に、このプロセスは、費用がかかり且つ好都合ではない2つのか焼工程を必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】フランス化学学会雑誌, No.1(1966年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、費用がかからず、できる限りか焼回数を少なくした酸化イットリウム(YOX)の調製方法であって、それ以上の粉砕プロセスを含まない調製方法を得る必要性が存在する。
本発明の主要目的は、上記の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、イットリウム及び少なくとも1種類の希土類の混合酸化物を調製する方法は、
−(a)前記のイットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物の前駆体を、ハロゲン化バリウム及びホウ素化合物を含有するフラックスと混合する工程と、
−(b)工程(a)の前記混合物をか焼して、前記混合酸化物を得る工程と、
を含む。
従来技術において、人々は通常、前記前駆体を先ずか焼して酸化物にし、次いで、得られた酸化物を、2回目にフラックスと共にか焼して、完成した酸化物蛍光物質を作る。本発明の方法は、唯1回のか焼工程を含み、前駆体をか焼し直接に酸化物蛍光物質にする。か焼回数が減少することは、酸化物を調製する方法の利便性にとって利点であり、コスト削減にもなる。更に、破砕及び粉砕工程はもはや必要でなく、そのことは、コスト削減にもなり、且つ該酸化物のルミネセンス特性にとって好都合である。実際、本発明の方法におけるか焼の後に得られるブロックは、非常に軟質である。周知であるように、破砕及び粉砕工程は、一般に、結晶粒子に損傷を与え、且つ、それら粒子の中に外来の不純物を容易に持ち込む。それら工程が省略されることは、該酸化物のルミネセンス特性(luminescent properties)にとって非常に好都合であり、且つ、コスト削減にも役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の他の特徴、詳細及び利点は、次の記述及び本発明を例示するように意図されている非限定的実施例を読めば、なおさら完全に明らかになるであろう。
用語「希土類」は、57〜71の間の原子番号を有する周期表の元素から成る群の元素を意味するものと解釈される。
言及される、元素の周期表は、フランス化学学会雑誌(the Bulletin de la Societe Chimique de France), No.1(1966年1月)の補足に開示されているものである。
【0007】
本発明の方法は、イットリウムと、一般に式(1)(Y1−XRE(式中、REは、1種類以上の希土類である)に対応する少なくとももう1種類の希土類とのあらゆる混合酸化物を調製することに関する。希土類元素は、それ自体知られている方法で、該希土類元素にルミネセンス特性を与えるために、酸化イットリウムと組み合わされた状態でドーパントとして用いられる。本記述及び残りの記述に関し、用語「希土類」又は「希土類元素」は単数形で、唯1種類の希土類が混合酸化物中に存在する態様だけでなく、混合酸化物が、組み合わされた幾種類かの希土類を含有する態様にも対応するということに注目しなければならない。
希土類は、より詳しくは、ユーロピウム又はガトリニウムであってもよい。更により詳しくは、混合酸化物は、希土類として、ランタン及び/又はサマリウムと組み合わされてユーロピウムを含有してもよい。
【0008】
式(1)中、xは、満足できるルミネセンス特性を得るのに十分な希土類の量に対応する大きな範囲で変動し得る数である。より詳しくは、xは、0.02〜0.3の間で構成されることがあり、それら限界値は包含される。(Y1−xEuに関し、xは、より好ましくは0.02〜0.15の間で変動し得る。
本発明の方法の第1の工程、工程(a)は、イットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物の前駆体を、フラックスと混合する工程を含む。本記述及び残りの記述に関し、用語「前駆体」は、イットリウムと希土類元素との両方を含有する唯1種類の化合物に関連するか、又は2種類以上の前駆体(即ち、酸化イットリウムの前駆体及び希土類酸化物の前駆体、若しくは各々の希土類酸化物の前駆体)に関連することがあるということに注目すべきである。
【0009】
これらの前駆体は、熱分解によって酸化物の生成を引き起こす化合物であり、当該技術分野では周知である。これらの前駆体は、水酸化イットリウム及び希土類水酸化物(例えば、Y(OH)若しくはEu(OH))、又は混合水酸化物(例えば、(Y,Eu)(OH))、炭酸イットリウム、希土類炭酸塩、又はイットリウム・希土類の混合炭酸塩、又はイットリウムヒドロキシ炭酸塩、希土類ヒドロキシ炭酸塩、又はイットリウム・希土類の混合ヒドロキシ炭酸塩であってもよい。しかし、好ましい前駆体は、シュウ酸イットリウム、及び希土類シュウ酸塩、及び混合シュウ酸塩、例えば、(Y,Eu)(Cである。
希土類アンモニウム二重シュウ酸塩(ammonium rare earth double oxalates)又はイットリウムアンモニウム二重シュウ酸塩(ammonium yttrium double oxalates)、例えば、(Y,Eu)NH(C、を用いてもよい。また、希土類アルカリ二重シュウ酸塩(alkaline rare earth double oxalates)又はイットリウムアルカリ二重シュウ酸塩(alkaline yttrium double oxalates)、例えば、(Y,Eu)OHC、を用いてもよい。
【0010】
これらの前駆体は、沈降法又はゾルゲル法によって調製され得る。
本発明の方法の工程(a)において、前駆体は、ハロゲン化バリウム及びホウ素化合物を含有するフラックスと一緒に混合される。
より詳しくは、該ハロゲン化バリウムは、フッ化バリウム又は塩化バリウムであってもよい。塩化バリウムが好ましい。
ホウ素化合物に関し、酸化ホウ素を用いることができるが、好ましくは、ホウ酸HBOを用いる。
フラックス中にホウ素化合物が存在することによって、得られる混合酸化物のルミネセンス特性が増大する。
【0011】
本発明の好ましい態様によると、比状態量(specific quantity)のフラックスが用いられる。本明細書において以下に記述される量は、[ハロゲン化バリウムの量]/[前駆体の量]の比の重量%、又は[ホウ素化合物の量]/[前駆体の量]の比の重量%に相当する。
従って、ハロゲン化バリウムに関して、この化合物の含有量は、フラックスと前駆体とが混合される場合、好ましくは少なくとも0.5重量%である。そのような比を用いれば、工程(b)の終わりに得られるブロックは、軟質であり、非常に容易に破砕され得る。上限値は、決定的に重要な意義を持つ訳ではなく、1つの意義に相当し、その意義を超えて本方法を実施する技術的/工業的重要性は全く存在しない。妥当であるが制限的な上限値は10重量%であろう。
【0012】
ホウ素化合物に関して、この化合物の含有量は、フラックスと前駆体とが混合される場合、多くても0.5重量%、好ましくは多くても0.3重量%である。0.5重量%よりも高い含有量は、YBOの形成を生じることがある。そのことは、YOX(酸化イットリウム)のルミネセンス特性に不利となることがある。
前記のホウ素化合物及びバリウム化合物に加えて、フッ化リチウム、フッ化アンモニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、ホウ砂Naのような他のフラックスを用いることができる。
フラックスの全含有量が少なくとも1%である場合、水溶性フラックスを用いることが好ましい。なぜなら、そのような場合、工程(b)の終わりに、フラックスの除去が容易であるからである。
【0013】
本発明の方法の第2の工程は、か焼工程(b)である。
このか焼は、前駆体を分解し且つ混合酸化物を得るのに十分である温度及び時間で行われる。一般に、この温度は、少なくとも1200℃、より詳しくは少なくとも1300℃であり、1200℃〜1500℃の間で構成される。か焼時間は、例えば、1時間〜5時間の間で構成されることがあり、か焼時間が短ければ短いほど、か焼温度は高くなる。
通常、か焼は空気中で行われる。
【0014】
工程(b)の終わりに得られる生成物は、非常に軟質であり、手で破砕され得る。
本発明の方法は、工程(b)の終わりに混合酸化物を直接得ることができる。しかし、本発明の特定の態様によると、工程(b)の終わりに得られる生成物を水中に分散させ、次いで、それを撹拌することによる1つの追加的工程を実施することが可能である。水は、脱イオン化されてもよい。撹拌工程は、熱水、即ち、約80℃の温度の熱水の中で行われることがある。
生成物は、撹拌の後、篩にかけられ、できれば水で洗浄され、次いで、例えば、100℃〜120℃の間で構成されることのある温度で乾燥されることがある。この追加的工程によって、フラックスを除去することができる。
【0015】
本発明の方法では、従来技術の方法の破砕及び粉砕工程を必要としない。本発明の方法によって得られる蛍光物質は、従来技術の方法によって得られる生成物の、明度、発光、スペクトル、カラーコーディネーションに関する特性と比べても全く遜色のない特性を提供する。従って、本発明の方法によって得られる混合酸化物は、例えば、色物蛍光放電管、陰極線管(CRT)及びプラズマ表示板(PDP)を製造するときの蛍光物質として用いられ得る。
次に、幾つかの実施例を提供する。
【実施例1】
【0016】
前駆体として、100gのシュウ酸イットリウムユーロピウム(Y0.934,Eu0.066(Cの粉末を用いる。フラックスとして、BaCl3g及びHBO0.2gを該前駆体に添加する。該混合物は、3時間より長い間回転された後、空気(非密閉系)中、1350℃で2時間か焼される。調製されたままの状態の材料は、非常に軟質であり、手で押しつぶして粉末にすることができる。該粉末は、80℃の脱イオン水中で撹拌されて、フラックスを除去し且つ集塊を分散させる。次いで、そのスラリーは、400メッシュの篩で篩い分けられ、次いで、熱脱イオン水中で洗浄される。沈降スラリー(sedimentation slurry)は、濾過された後、120℃で乾燥されて、YOX(酸化イットリウム)の赤色蛍光物質が得られる。
得られたYOX蛍光物質の明度は、市販の高品質生成物と比べて、101%のものである。PMS−50及び紫外−可視−近赤外スペクトル光熱量計(UV-VIS-Near IR Spectro photocolorimeter)(中国、エバーファイン社(Everfine))によって測定されたカラーコーディネイト(color coordinate)は、x=0.650及びy=0.347であり、市販の製品と同様である。粒度D50もまた、市販の製品と同様であり、マルバーン(Malvern)2000レーザー粒度分析器で測定されて6.5μmである。YOX蛍光物質中の塩素イオン(Cl)含有量は、20ppmより低い。高含有量のBaCl(3%)を用いたが、完成されたYOX蛍光物質中には、Cl不純物はほとんど残されていない。このことは、関心を引く。なぜなら、塩素イオン(Cl)は、YOX蛍光物質の用途には有害であるからである。
【実施例2】
【0017】
前駆体として、100gのシュウ酸イットリウムユーロピウム(Y0.88,Eu0.12(Cの粉末を用いる。フラックスとして、BaCl2g及びHBO0.2gを該前駆体に添加する。該混合物は、3時間より長い間回転された後、空気(非密閉系)中、1350℃で2時間か焼される。調製されたままの状態の材料は、非常に軟質であり、手で押しつぶして粉末にすることができる。該材料は、実施例1における方法と同様の方法で処理され、YOX(酸化イットリウム)の赤色蛍光物質を得る。
【実施例3】
【0018】
前駆体として、100gのシュウ酸イットリウムユーロピウム(Y0.934,Eu0.066(Cの粉末を用いる。フラックスとして、BaCl2g及びB0.1gを該前駆体に添加する。該混合物は、3時間より長い間回転された後、空気(非密閉系)中、1400℃で2時間か焼される。調製されたままの状態の材料は、非常に軟質であり、手で押しつぶして粉末にすることができる。該材料は、実施例1における方法と同様の方法で処理され、YOX(酸化イットリウム)の赤色蛍光物質を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物を調製する方法であって、
−(a)前記のイットリウムと少なくとも1種類の希土類との混合酸化物の前駆体を、ハロゲン化バリウム及びホウ素化合物を含有するフラックスと混合する工程と、
−(b)工程(a)の前記混合物をか焼して、前記混合酸化物を得る工程と、
を含む、上記調製方法。
【請求項2】
前記前駆体は、イットリウムと希土類とのシュウ酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホウ素化合物は、HBOである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化バリウムは、塩化バリウムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記希土類は、ガトリニウム又はユーロピウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記フラックスと前記前駆体とを混合するとき、前記ハロゲン化バリウムの含有量は、少なくとも0.5重量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記フラックスと前記前駆体とを混合するとき、前記ホウ素化合物の含有量は、多くても0.5重量%、好ましくは多くても0.3重量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)の後に得られた前記混合酸化物は、水中で撹拌され、篩にかけられ、次いで、乾燥される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−534181(P2010−534181A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517252(P2010−517252)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001341
【国際公開番号】WO2009/012651
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510019093)ロディア チャイナ カンパニー、リミテッド (6)
【Fターム(参考)】