説明

イミダゾリン配位子及びそれを用いた触媒

【課題】新規でより収率の高い触媒及びそれに用いられる配位子を提供すること。
【解決手段】
下記式(1)で示される配位子とする。


(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾリン配位子及びそれを用いた触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法とよばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、触媒的不斉合成法は様々な金属触媒を用いることにより達成されているが、これら触媒には高度に立体選択的な反応場を構築すべく緻密に設計された配位子が用いられており、例えば、従来の技術として、窒素原子で架橋されたトシル基を有するビスイミダゾリン配位子が下記非特許文献1に記載されている。
【0004】
【非特許文献1】Arai T.、Mizukami T.、Yokoyama N.、Nakazato D.、“Design and Synthesis of N−Tethered Bis(imidazoline)Ligand“、A. Synlett.、2005、2670−2672
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術においては、窒素原子でイミダゾリン配位子が架橋されており、C対称な配位子であるため、金属に配位させた際に活性種を一種類にできるという利点があるが、それでも触媒反応の収率において改良すべき余地がある。また、先のC対称な配位子が比較的剛直で狭い反応場を提供するのに対し、本発明によってもたらされる配位子は、柔軟性に富み、個々の反応に柔軟に対応する反応場を供給すると期待される。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、新規でより収率の高い触媒及びそれに用いられる配位子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題の解決につき鋭意検討を行っていたところ、イミダゾリン環上の窒素原子と3級アミンから構築されるハイブリッド型の配位様式に、さらにフェノ−ル性水酸基などの寄与を取り入れた新規な配位子を設計、合成し、更にこの配位子を金属に配位させて触媒として用いたところ、非常に高い収率を得ることができることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、上記課題を解決する一手段である配位子は、下記式(1)で示される。
【化1】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)
【0009】
またこの手段において、限定されるわけではないが、配位子は、具体的には下記式(2)で示されるものであることが好ましい。
【化2】

【0010】
またこの手段において、限定されるわけではないが、配位子は、具体的には下記式(3)で示されるものであることが好ましい。
【化3】

【0011】
またこの手段において、限定されるわけではないが、配位子は、具体的には下記式(4)で示されるものであることが好ましい。
【化4】

【0012】
またこの手段において、限定されるわけではないが、配位子は、具体的には下記式(5)で示されるものであることが好ましい。
【化5】

【0013】
また、上記課題を解決する他の一手段である触媒は、金属に下記式(1)で示される配位子が配位させてなる。
【化6】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)
【0014】
またこの手段において、限定されるわけではないが、上記式(1)の配位子の具体例としては、上記式(2)乃至(5)の配位子のいずれかであることも好ましい。
【0015】
また、上記課題を解決する他の一手段に係る配位子は、下記式(12)で示される。
【化7】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数あっても良い。Yは固相担体である。)
【0016】
また、上記課題を解決する他の一手段に係る触媒は、金属に下記式(12)で示される配位子が配位してなる。
【化8】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数あっても良い。Yは固相担体である。)
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明により、新規で収率の高い触媒及びそれに用いられる配位子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明については多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に狭く限定されるものではない。
【0019】
(実施形態1)
まず、本実施形態に係る配位子は、下記式(1)で示される。
【化9】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)
【0020】
本実施形態に係る配位子は、その構成中に窒素原子で架橋されたイミダゾリン骨格とフェニル骨格とを有しているため、上記非特許文献1に記載のビスイミダゾリン配位子に比べ反応場が広いという利点を有する。本実施形態の配位子は、イミダゾリンを構築する光学活性ジアミンの(R、R)、イミダゾリンの窒素上の置換基(R)、求核置換反応により導入するアミンを構成する置換基(R)、さらに同アミノ基上に導入するベンジル基上の置換基(R)を組み合わせることで、目的に沿った配位子の設計と合成が可能になる。
【0021】
本実施形態に係るイミダゾリン骨格において、イミダゾリン骨格を構成するSp3炭素原子の2つには、限定されるわけではないが、それぞれフェニル基、アルキル基、又はナフチル基が置換されていても良く(上記式(1)におけるR、R)、また、これら置換基は連結して環を形成していても良い。環の例としては例えばシクロヘキサン環が挙げられる。また、イミダゾリン骨格を構成する一つの窒素原子には、電子吸引性基に限定されるわけではないが、例えばトシル基、メシル基、又はアルキル基が置換されていることが好ましい(上記式(1)のR)。特にトシル基の場合はイミダゾリン環を安定化することができる点において好ましい。
【0022】
本実施形態に係るイミダゾリン骨格とフェニル骨格を架橋する窒素原子において、限定されるわけではないが、アルキル基又はフェニル基が結合していることが好ましい(上記式(1)のR)。アルキル基の場合、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基又はフェニルエチル基であることが好ましく、特にフェニルエチル基の場合、光学活性を有しているため不斉合成の観点からより好ましい。
【0023】
本実施形態に係るフェニル骨格には、金属と配位した際に高度な不斉場を構築し、不斉合成を行う観点からヒドロキシル基が置換されている。さらに、限定されるわけではないが、フェニル骨格にはアルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基及びアルコキシル基の少なくともいずれかが置換されていることが好ましい。ハロゲン基としては、限定されるわけではないが、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。
【0024】
更に、本実施形態に係る配位子は、金属に配位させることで触媒として利用することができる。配位させる金属としては限定されるものではないが、例えば、銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム又は鉄を例示することができる。金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属が銅である場合、CuCl、CuOAc、CuCl、Cu(OAc)、Cu(OTf)等を用いることができる。本実施形態により得られる触媒は、限定されるわけではないが、不斉Henry反応(別名:ニトロアルド−ル反応)、インド−ルを用いた不斉Friedel−Crafts反応に利用することができる。
【0025】
(配位子の合成)
本実施形態に係る配位子は、限定されるわけではないが、合成によって製造することができる。合成方法も、上記配位子を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば以下に示す方法により合成することができる。
【0026】
まず、下記式(6)で示されるジアミンに対し、酸存在のもと、クロロオルト酢酸トリエチルを反応させることで、下記式(7)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンを得ることができる。
【化10】

【化11】

【0027】
次に、上記式(7)で示されるハロゲン化されたメチル末端を有するイミダゾリンに対し、塩基として有機アミンのもと、スルホニルクロライド又はアルキルハライド
を反応させることで、下記式(8)で示される化合物を得ることができる。
【化12】

【0028】
次に、上記式(8)で示される化合物に対し、アルキルアミンを反応させることで下記式(9)により示される二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を得ることができる。特に、上記式(8)において、Xがクロル基の場合、ヨウ化ナトリウムの存在のもとに行うのが好ましい。
【化13】

【0029】
次に、上記式(9)で示されるイミダゾリン化合物に対し、還元剤のもと対応するアルキル基、ニトロ基、アルコキシル基またはハロゲン基を有するサリチルアルデヒド(式(10))を反応させることで上記式(1)の本実施形態に係る配位子を得ることができる。還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウムが好適である。
【化14】

【0030】
ここで、以上の実施形態1において説明した配位子につき実際に製造し、更に、それを用いた触媒としての効果を確認した。以下説明する。
【0031】
(実施例1)
本実施例では、下記式(2)で示される配位子を合成し、その配位子を不斉Henry反応に用いた。
【化15】

【0032】
(配位子の合成)
まず、(S)−(−)−1,2−ジフェニル1,2−エタンジアミンを0.764g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で9時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.780g得た。
【0033】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、パラトルエンスルホニルクロライドと0℃で30分反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.382g得た。
【0034】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリン化合物を0.106g用い、ヨウ化ナトリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミン0.159mlと室温で12時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.148g得た。
【0035】
次に、上記で得た二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.102g用い、3,5−ジブロモサリチルアルデヒド0.280gと1時間室温中で攪拌後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて0.4ml加え、その後室温にて14時間攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(2)を0.103g得た。
【0036】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(2)であることが確認できた。プロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(400 MHz, CDCl) δ 1.50(d, 3H), 2.35(s, 3H), 3.77−3.95(m, 3H), 4.08−4.11(m, 2H), 4.67(d, 1H), 5.04(m, 1H), 6.66−7.55(m, 21H), 11.26(br, 1H)。
【0037】
次に、この得られた配位子を8.5mg用い、これに酢酸銅(II)一水和物を配位させることで触媒として不斉Henry反応を行った。
【0038】
不斉Henry反応は、ベンズアルデヒド21.2mgとニトロメタン488mgとを上記触媒の存在下、室温、48時間にて行った。この結果、ニトロアルドール体を25.4mg得ることができ、収率は76%(95%ee)であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。また、4−ニトロベンズアルデヒドを基質に用いて反応を行った場合、目的物の収率は96%(92%ee)であった。さらに、2−ニトロベンズアルデヒドを基質に用いて反応を行った場合、目的物の収率は98%(94%ee)であった。
【化16】

尚、先の非特許文献1に記載されている配位子を用いて同2−ニトロベンズアルデヒドに対する不斉Henry反応を行ったところ、収率48%で目的物を得ることができたが、生成物は完全なラセミ体になってしまっていた。
【0039】
(実施例2)
本実施例では、下記式(4)で示される配位子を合成し、その配位子を不斉Henry反応に用いた。
【化17】

【0040】
まず、(S)−(−)−1,2−ジフェニル1,2−エタンジアミンを0.764g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で9時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでクロロメチル末端を有するイミダゾリン0.780g得た。
【0041】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、パラトルエンスルホニルクロライドと0℃で30分反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.382g得た。
【0042】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリン化合物を0.127g用い、ヨウ化ナトリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で12時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.148g得た。
【0043】
次に、上記で得た二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.102g用い、5−t−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド0.172mlと1時間室温中で攪拌後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて0.4ml加え、その後室温にて14時間攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(4)を0.072g得た。
【0044】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(4)であることが確認できた。プロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(400 MHz, CDCl) δ 1.28 (s, 9H), 1.50 (d, 3H, d=6.8), 2.35 (s, 3H), 3.73−3.84 (m, 2H), 3.95 (dd, 1H), 4.09 (q, 1H, J=6.7), 4.16 (d, 1H), 4.60 (d, 1H), 5.03 (m, 1H), 6.58−7.55 (m, 22H, aromatic), 10.15 (br, 1H).
【0045】
次に、この得られた配位子を7.4mg用い、これに酢酸銅(II)一水和物を配位させることで触媒として不斉Henry反応を行った。
【0046】
不斉Henry反応は、4−ニトロベンズアルデヒド30.2mgとニトロメタン0.432mlとを上記触媒の存在下、室温、48時間にて行った。この結果、ニトロアルド−ル体を31.6mg得ることができ、収率は74%(43%ee)であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。
【0047】
(実施例3)
本実施例では、下記式(3)で示される配位子を合成し、その配位子を不斉Henry反応に用いた。
【化18】

【0048】
まず、(S)−(−)−1,2−ジフェニル1,2−エタンジアミンを0.764g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で9時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.780g得た。
【0049】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、パラトルエンスルホニルクロライドと0℃で30分反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.382g得た。
【0050】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリン化合物を0.127g用い、ヨウ化ナトリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で12時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.148g得た。
【0051】
次に、上記で得た二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.102g用い、サリチルアルデヒド0.107mlと1時間室温中で攪拌後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて0.4ml加え、その後室温にて23時間攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(3)を0.107g得た。
【0052】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(3)であることが確認できた。プロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(400 MHz, CDCl) δ1.50 (d, 3H, d=6.6), 2.35 (s, 3H), 3.82 (d, 1H, d=13.1), 3.97 (dd, 1H), 4.08 (q, 1H, d=6.8), 4.19 (d, 1H, d=13.2), 4.60 (d, 1H, d=3.9), 5.01 (m, 1H), 6.60−7.54 (m, 23H, aromatic), 10.34 (br, 1H).
【0053】
次に、この得られた配位子を6.8mg用い、これに酢酸銅(II)一水和物を配位させることで触媒として不斉Henry反応を行った。
【0054】
不斉Henry反応は、4−ニトロベンズアルデヒド60.4mgとニトロメタン0.865mlとを上記触媒の存在下、室温、48時間にて行った。この結果、ニトロアルド−ル体を53.6mg得ることができ、収率は63%(46%ee)であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。
【0055】
(実施例4)
本実施例では、下記式(5)で示される配位子を合成し、その配位子を不斉Henry反応に用いた。
【化19】

【0056】
まず、(S)−(−)−1,2−ジフェニル1,2−エタンジアミンを0.764g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で9時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで黄色の油状物質を0.780g得た。
【0057】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、パラトルエンスルホニルクロライドと0℃で30分反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.382g得た。
【0058】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリン化合物を0.127g用い、ヨウ化ナトリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で12時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.148g得た。
【0059】
次に、上記で得た二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.102g用い、5−ニトロサリチルアルデヒド0.167gと1時間室温中で攪拌後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0℃にて0.4ml加え、その後室温にて14時間攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(5)を0.082g得た。
【0060】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(5)であることが確認できた。プロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(400 MHz, CDCl) δ1.55 (d, 3H, d=6.8), 2.35 (s, 3H), 3.77 (dd, 1H), 3.91 (d, 1H, d=13.5), 3.96−4.04 (m, 2H), 4.19 (d, 1H, d=13.3), 4.63 (d, 1H, d=4.1), 5.00 (m, 1H), 6.60−8.10 (m, 22H, aromatic), 12.00 (br, 1H).
【0061】
次に、この得られた配位子を7.3mg用い、これに酢酸銅(II)一水和物を配位させることで触媒として不斉Henry反応を行った。
【0062】
不斉Henry反応は、4−ニトロベンズアルデヒド30.2mgとニトロメタン0.865mlとを上記触媒の存在下、室温、48時間にて行った。この結果、ニトロアルド−ル体を16.4mg得ることができ、収率は39%(82%ee)であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。
【0063】
(実施例5)
本実施例では、下記式(11)で示される配位子を合成し、その配位子を不斉Henry反応に用いた。
【化20】

【0064】
まず、(S)−(−)−1,2−ジフェニル1,2−エタンジアミンを0.764g用意し、これに酸の存在下、クロロオルト酢酸トリエチルと室温で9時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで黄色の油状物質を0.780g得た。
【0065】
次に、上記で得たクロロメチル末端を有するイミダゾリンを0.271g用い、ジイソプロピルエチルアミンの存在下、パラトルエンスルホニルクロライドと0℃で30分反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することでトシル化されたイミダゾリンを0.382g得た。
【0066】
次に、上記で得たトシル化されたイミダゾリン化合物を0.127g用い、ヨウ化ナトリウムの存在下、(S)−1−フェニルエチルアミンと室温で12時間反応させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.148g得た。
【0067】
次に、上記で得た二級アミン部位を持つイミダゾリン化合物を0.102g用い、5−ニトロサリチルアルデヒド0.201gと1時間室温中で攪拌後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1M in THF)を0度にて0.4ml加え、その後室温にて14時間攪拌した。反応後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−を用いて精製することで上記式(11)を0.066g得た。
【0068】
なお、この結果得られた化合物について、プロトン核磁気共鳴分光法による測定を行ったところ、上記式(11)であることが確認できた。プロトン核磁気共鳴分光法による測定の結果を以下に示しておく。
H NMR(400 MHz, CDCl) δ1.50 (d, 3H, d=6.8), 2.30 (s, 3H), 3.72−3.78 (m, 1H), 3.97 (dd, 1H), 4.06 (q, 1H, d=6.8), 4.14 (d, 1H, d=13.3), 4.60 (d, 1H, d=4.2), 5.00 (m, 1H), 6.59−7.51 (m, 22H, aromatic), 10.95 (br, 1H).
【0069】
次に、この得られた配位子を7.6mg用い、これに酢酸銅(II)一水和物を配位させることで触媒として不斉Henry反応を行った。
【0070】
不斉Henry反応は、4−ニトロベンズアルデヒド30.2mgとニトロメタン0.865mlとを上記触媒の存在下、室温、48時間にて行った。この結果、ニトロアルド−ル体を26.4mg得ることができ、収率は62%(77%ee)であった。この結果、本発明に係る配位子及びこれを用いた触媒の有用性を確認することができた。
【0071】
(実施形態2)
本実施形態に係る配位子は、上記式(1)におけるRが固体担体Yに置き換わり、R及びRがそれぞれ新たなR、Rとなっている以外は実施形態1と同様である。したがって、主として異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
本実施形態に係る配位子は、下記式(12)で示されるものである。
【化21】

【0073】
ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数あっても良い。Yは固相担体である。
【0074】
本配位子において、Yは固相担体であり、固相担体は、イミダゾリン環の一方の窒素原子と、スルホニル、アルキル基またはアシル基を介して結合されている。本配位子ではここで固相担体を用いているため、触媒をろ過等により容易に回収、再利用できるという効果を有する。なお、本配位子において固相担体としては、上記効果を有する限りにおいて限定されるわけではないが、ポリスチレンまたはポリアクリルアミドで構成されていることが好ましい。特に、ポリスチレンであると種々の反応条件に安定という効果を有し更に好ましい。
【0075】
ところで、本配位子の製造方法は、限定されるわけではないが例えば合成することで製造できる。合成方法についても、限定されるわけではないが、例えば、Cl等のハロゲンに結合したスルホニル基を末端に有するポリスチレン担体と、ハロゲンが置換されたメチル基を有するイミダゾリン環を有する化合物とを反応させ、更に上記実施形態1にて説明した合成方法を利用して製造することができる。
【0076】
更に、本実施形態に係る配位子は、実施形態1と同様、金属に配位させることで触媒として利用することができる。
【0077】
以上、本実施形態によると、上記実施形態1における効果に加え、化合物がビーズに結合しているため、固相触媒となり、回収及び再利用が可能な新規なビスイミダゾリン配位子及びそれを用いた触媒を提供することができるようになる。
【0078】
(実施例5乃至12)
本実施例では、上記実施形態2における配位子の一例を具体的に作製し、その評価を行なった。以下説明する。
【0079】
まず、塩化スルホニル基が担持されたビーズを出発原料とし、末端にクロロメチル基を有する光学活性イミダゾリンを求核置換させることで固相上にイミダゾリンを担持させた。次に、クロロメチル基に対するR体及びS体の1−phenylethylamineの求核置換反応、続く二級アミン部位に対する種々のサリチルアルデヒドを用いた還元的アルキル化を行ない、イミダゾリン配位子を得た。なおここにおけるイミダゾリン配位子の合成は下記に示すスキームに基づいて行ない、複数のイミダゾリン配位子L1〜L16を得た。
【表1】

【0080】
そして、上記スキームにより製造した配位子に対し、CuCl、Cu(OAc)・HOの2種類の銅塩をそれぞれ錯形成させることで32種類の触媒を得た。なおいずれの触媒も銅−アミン錯体特有の色を呈していた。
【0081】
そして、上記32種類の触媒に対し下記式で示す不斉Henry反応に用いたところ、いずれも高い収率で目的化合物を得ることができた。
【化22】

【0082】
なお特に下記表で列挙する7種類の触媒においては、高い選択性をもって目的化合物を得ることができた。下記表中ACY(%)は以下の式で定義される触媒能の相対評価である。
【表2】

【数1】

【0083】
また、この反応を終了した後、ろ過することで本実施例に係る触媒をほぼ定量的に回収した。なお、この触媒を用い、上記と同様の反応を行ったところ、触媒として使用することが確認できた。
【0084】
以上、本実施形態によると、収率の高い触媒を得ることができるとともに、化合物がビーズに結合しているため、固相触媒となり、回収及び再利用が可能な新規なビスイミダゾリン配位子及びそれを用いた触媒を提供することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、収率の高い触媒及びそれに用いられる配位子として産業上利用可能性がある。






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される配位子。
【化1】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)
【請求項2】
下記式(2)で示される配位子。
【化2】

【請求項3】
下記式(3)で示される配位子。
【化3】

【請求項4】
下記式(4)で示される配位子。
【化4】

【請求項5】
下記式(5)で示される配位子。
【化5】

【請求項6】
金属に下記式(1)で示される配位子が配位してなる触媒。
【化6】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、トシル基、メシル基又はアルキル基である。Rは水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数置換されていても良い。)
【請求項7】
下記式(12)で示される配位子。
【化7】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数あっても良い。Yは固相担体である。)
【請求項8】
下記式(12)で示される配位子が配位してなる触媒。
【化8】

(ここでR、Rは、水素、アルキル基、フェニル基、若しくはナフチル基である(RとRは、結合を介して環を形成しても良い)。Rは、水素、アルキル基、又はフェニル基である。Rは水素、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシル基の少なくともいずれかであり、複数あっても良い。Yは固相担体である。)


【公開番号】特開2008−44928(P2008−44928A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120166(P2007−120166)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月30日 有機合成化学協会発行の「第90回 有機合成シンポジウム講演要旨集」の第18ページ、第19ページに発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】