説明

イムノクロマトグラフィーにおける多段階増感操作をワンステップにする流路設計

【課題】 多段階操作をワンステップで行うことが可能なクロマト分析用ストリップを提供する。
【解決手段】 メンブレンからなるクロマト分析用ストリップである。溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路が並列に配されている。例えば、インクジェット法によりメンブレン1に遮断パターン2を形成し、1枚のメンブレン1に流路長が異なる複数の流路3,4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマト分析用ストリップに関するものであり、多段階操作をワンステップで行い得る新規なクロマト分析用ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィーは、抗体等の生化学活性を有するタンパク質をニトロセルロース等からなるメンブレン上に固定し、これに被検物質を含むサンプル(尿、唾液、血液等)を毛細管現象により吸収させることで、分析対象をメンブレン上の抗体と反応させて検出する方法である。
【0003】
前述のイムノクロマトグラフィーは、その特異性と簡便さ、製造コストの低さ、分析所要時間の短さ等、多くの有用性から、例えばインフルエンザ検査、HCV検査、妊娠検査、アレルギー検査、食中毒検査、残留農薬検査等、医療検査の分野を中心に広く用いられており、一般ユーザにも利用可能な形態で検査キットが提供される等、その用途は拡大しつつある。
【0004】
イムノクロマトグラフィーの一般的な手順について説明すると、先ず、分析に先立って、クロマト分析用ストリップ(ニトロセルロース等からなるメンブレン)上に被検物質と特異的に結合する1次抗体(被験物質と特異的に結合する抗体である捕捉抗体)を固定化しておき、それとともに、被検物質の結合部位を可視化するための標識物質[例えば2次抗体(被験物質の1次抗体が認識する部位とは異なる部位に特異的な抗体)に金コロイド等の標識物質を結合させた標識抗体(コンジュゲート)]を吸収させたコンジュゲーションパッドを前記クロマト分析用ストリップの展開開始側の端部に接合しておく。
【0005】
分析に際しては、コンジュゲーションパッドに試験溶液(サンプル)を滴下する。試験溶液の滴下後、毛細管現象によりクロマト分析用ストリップへと吸い上げられるが、この時、試験溶液がコンジュゲーションパッドに含まれるコンジュゲートを溶解し、コンジュゲートと被検物質が特異的に結合反応を起こす。試験溶液は、さらに毛細管現象によりクロマト分析用ストリップ上で吸い上げられ、1次抗体の固定位置に到達すると、コンジュゲートが結合した被検物質が固定化された1次抗体と特異的な結合反応を起こす。この結果、被検物質が1次抗体の固定位置に局所的に結合し、被検物質を介して結合するコンジュゲートの金コロイド等が集積し発色する。
【0006】
前記イムノクロマトグラフィーでは、未反応のコンジュゲートが1次抗体の固定位置近傍に存在すると、いわゆるバックグラウンドシグナルとなって、本来の発色を識別する上で妨げとなるおそれがある。そこで、本来の分析に必要な液量以上に試験溶液を流すことで、特異的な結合を形成せずにメンブレン上に残留するコンジュゲートを洗い流す。これにより、未反応のコンジュゲートによるバックグラウンドシグナルが低下し、明瞭な発色が得られる。前記発色を測定することで、被検物質の濃度を定量的に測定することが可能である。
【0007】
先にも述べた通り、前述のイムノクロマトグラフィーは、妊娠検査やインフルエンザの簡易キット等の分野において既に実用化されているが、さらなる高感度化を図ることができれば、癌等のようなさらに重篤な疾患の早期診断や、ベッドサイドにおける適時的な診断(Point-of-care-testing;POCT)等への応用も期待される。
【0008】
このような状況から、イムノクロマトグラフィーにおけるイムノアッセイの高感度化が検討されており、蛍光標識コンジュゲートや酵素コンジュゲートを用いる増感法が報告されている。例えば、非特許文献1には、抗体と酵素とのコンジュゲートを通常通りクロマト用ストリップ(メンブレン)上の抗体と反応させ、試験溶液を十分流して未結合のコンジュゲートを洗い流した後、酵素に触媒されて発色する基質をしみ込ませたパッドをさらにメンブレンに接触させ、増感反応を実現する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Enzyme-linked immuno-strip biosensor to detect Eschenchia O157:H7,Ultramicroscopy, 108(2008) pp. 1348-1351
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、非特許文献に記載されるような増感反応を実現するためには、多段階の操作(この場合には2段階の操作)が必要になる。例えば、非特許文献1に記載される方法では、先ず、クロマト分析用ストリップに酵素コンジュゲートを含む第1のパッドを結合しておき、試験溶液をこの第1のパッドに滴下して展開を行う。そして、試験溶液を流しきった後に、別に用意した第2のパッドに基質溶液をしみ込ませ、クロマト分析用ストリップに接触させて、基質溶液をクロマト分析用ストリップに吸収させる。
【0011】
前記増感反応では、酵素コンジュゲートと基質溶液とを同時に反応させることはできず、一般的なクロマト分析用ストリップを用いた場合には、一方向に酵素コンジュゲートと試験溶液を展開させた後、余分な酵素コンジュゲートを洗い流し、これとは直交する方向に基質溶液を吸収させる等の操作が必要であり、1回の操作で分析を完結することができない。
【0012】
したがって、イムノクロマトグラフィーの最大の利点である簡便さが失われてしまい、使用範囲が制約されるおそれがある。前記簡便さの喪失は、高感度イムノクロマトグラフィーの普及の妨げになるであろうことは想像に難くない。
【0013】
また、前記多段階のイムノクロマトグラフィーでは、分析用キットの構成が複雑なものとなることも大きな問題である。例えば、クロマト分析用ストリップ(メンブレン)とは非接触に別途基質用吸収パッドを配置する必要があり、これを実現するためには分析キットの構造が複雑化し、パッドのクロマト分析用ストリップへの取り付け方にも工夫が必要である。前記分析キットの構造の複雑化は、製造コストの増大にも繋がる。
【0014】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、クロマトグラフィーにおける多段階操作をワンステップで行うことが可能で、例えばイムノクロマトグラフィーの簡便さや分析キットの簡略化を維持し得るクロマト分析用ストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の目的を達成するために、本発明のクロマト分析用ストリップは、メンブレンからなるクロマト分析用ストリップであって、溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路が並列に配されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のクロマト分析用ストリップの一端側から溶液を展開すると、吸い上げられた溶液は、並列に配される各流路へと浸透していく。ここで、流路毎に溶液の展開に要する時間が異なるため、いずれの流路を通ったかによって、例えば1次抗体等が固定化された試験ラインに溶液が到達するまでの時間に時間差が付与される。したがって、本発明のクロマト分析用ストリップでは、通常のクロマトグラフィーと同様のワンステップの展開操作のみで、多段階の操作(反応)が実現される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多段階操作をワンステップで行うことが可能なクロマト分析用ストリップを提供することが可能である。本発明のクロマト分析用ストリップを用いれば、クロマトグラフィーの利点である簡便さを維持した状態で、高感度イムノクロマトグラフィーを実施することが可能である。また、本発明のクロマト分析用ストリップは、流路形成のみで前記ワンステップ操作を実現しており、パッド等を別に用意する必要もなく、分析キットの構造を複雑化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用したクロマト分析用ストリップの一例を模式的に示す平面図である。
【図2】本発明を適用したクロマト分析用ストリップの他の例を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明を適用したクロマト分析用ストリップのさらに他の例を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明を適用したクロマト分析用ストリップのさらに他の例を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明を適用したクロマト分析用ストリップのさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図6】展開速度の確認実験に使用した流路を模式的に示す平面図である。
【図7】流路パターンと展開遅延時間の関係を示す特性図である。
【図8】イムノクロマトグラフィーの実施例における展開の様子を示す図である。
【図9】hCG濃度と発色強度の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用したクロマト分析用ストリップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本発明のクロマト分析用ストリップは、例えばニトロセルロースからなるメンブレンを主体とするものであり、これに溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路が並列に配することにより構成される。
【0021】
前記流路を形成する方法としては、種々の方法があるが、例えばメンブレンに溶液の浸透を妨げる遮断パターンを形成することで、簡単に作製することができる。具体的には、前記遮断パターンによりメンブレンの溶液浸透領域を分割し、パターン形状を工夫することで、溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路を形成することができる。
【0022】
図1は、インクジェットプリント法により長さの異なる2つの流路を形成したクロマト分析用ストリップの一例を示すものである。本例では、1枚のメンブレン1に図1に示すような溶液の浸透を妨げる遮断パターン2を形成し、直線的な流路3と、蛇行する流路4とを並列に形成している。直線的な流路3に比べて蛇行する流路4の方が流路長が長く、これら流路3,4の開始端Aから同時に溶液を展開した場合、溶液が終端Bに到達するまでの時間は、流路3の方が長時間となる。
【0023】
したがって、例えば高感度イムノクロマトグラフィーにおいて、酵素コンジュゲートと基質のテストラインまでの到達時間に差を付けることができる。すなわち、図1に示すクロマト分析用ストリップにおいて、流路3と流路4の合流点より下流側に酵素コンジュゲート等が含浸されたコンジュゲートライン5、抗体等が固定されたテストライン6、及びコントロールライン7を形成するとともに、流路4に基質8を含ませておく。コンジュゲートや基質は、予めスポッティングを行い、乾燥させておけばよく、これにより試験溶液との接触によって再溶解させることができる。
【0024】
このようなクロマト分析用ストリップを用いて試験溶液の展開を行うと、試験溶液は流路3と流路4に分岐されて各流路3,4を吸い上げられていく。この時、流路3を経た試験溶液は、流路4を経た試験溶液よりも早くコンジュゲートライン5に到達し、コンジュゲートラインに含まれる酵素コンジュゲートとともにテストライン6に到達する。一方、流路4を経た試験溶液は、流路4上の基質8とともに遅れてテストライン6に到達するが、この間にテストライン6付近の余分なコンジュゲートは既に洗い流されている。その結果、未結合酵素との反応が排除された適正な酵素基質反応が起こり、被検物質の濃度に応じた発色が生じる。
【0025】
このように、図1に示すクロマト分析用ストリップを用いることで、2段階の反応(酵素コンジュゲートの反応と基質の反応)を、通常のクロマトグラフィーと同様、ワンステップの操作で行うことが可能である。
【0026】
図1に示すクロマトグラフ分析用ストリップを作製するには、溶液の浸透を遮断する遮断パターン2を形成することが必要であるが、この遮断パターン2の形成方法としては、例えばインクジェットプリント等の印刷法を挙げることができる。メンブレンを溶解し得る溶剤をインクジェットプリントにより所定のパターンで印刷すれば、溶剤が印刷された部分のメンブレンが溶解し、メンブレンが有する微細孔が閉塞される。これにより、溶液の浸透が遮断される。
【0027】
インクジェットプリントによる遮断パターン形成においては、前記溶剤の他、ポリマー溶液等を使用することも可能である。ポリマーでメンブレンの微細孔を閉塞することで、同様に遮断パターン2を形成することができる。なお、前記遮断パターンの形成方法は、前記インクジェットプリントに限られるものではなく、スクリーン印刷等、他の汎用の印刷法を採用することも可能である。その他、フォトリソによるパターニングや、熱によりメンブレンを線状に溶融する方法、プレスによりメンブレンの微細孔を押し潰す方法等によっても、前記遮断パターン2を形成することが可能である。
【0028】
また、遮断パターン2としても、様々なパターンを挙げることができ、溶液の展開速度に差を付与することができれば、どのようなパターンであってもよい。
【0029】
例えば、図2は、メンブレン1上に直線状の分岐用パターン2aを形成して流路3と流路4に分岐するとともに、流路4に前記分岐用パターン2aと直交する櫛歯状パターン2bを形成したものである。流路4においては、展開される溶液は、前記櫛歯状パターン2bの先端を回り込むように浸透する必要があり、これを繰り返すことで流路3に比べて溶液の展開に長時間を要することになる。なお、図2に示すクロマト分析用ストリップでは、前記櫛歯状パターン2bの数を変更することで、遅延時間を変更することも可能である。
【0030】
図3に示す例では、中央に直線状の流路3を形成するとともに、その両側に溶液の展開に長時間を要する流路4を2つ形成している。流路4を形成するための遮断パターン2の形態は、先の図2に示すクロマト分析用ストリップと同様である。各流路4に例えば基質8を含浸させておけば、より確実に基質8をテストライン6に到達させることができる。
【0031】
図4に示す例は、3つの流路11,12,13を形成した例である。図4に示す例では、流路11を通った試験溶液が最初にテストライン6に到達する。次に、流路11を回り込む形で形成された流路12を通った試験溶液がテストライン6に到達する。最後に、流路12の外側を通り遮断パターン2cにより迂回させられた流路13を通った試験溶液がテストラインに到達する。したがって、例えば流路12の所定位置に酵素コンジュゲートを含浸させ、流路13の所定の位置に基質を含浸させて配置しておけば、酵素コンジュゲートと基質を時間差を持ってテストライン6に到達させることができる。なお、流路12と流路13を仕切る分岐用パターン2aの中途位置において、パターンを一部欠損させて連通部2dを形成しておけば、流路12を浸透する溶液の一部が流路13に入り込み、流路13を通った試験溶液が流路12内に入り込むことを防止することもできる。このように、流路の工夫により、3段階以上の多段階操作を実現することも可能である。
【0032】
以上の各例では、インクジェットプリントにより遮断パターンを印刷することで、1枚のメンブレンに実効的な長さの異なる複数の流路を形成するようにしたが、長さの異なるメンブレンを貼り合わせることで、溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路を形成することも可能である。
【0033】
図5は、長さの異なるメンブレンを貼り合わせることで複数流路を形成したクロマト分析用ストリップの一例を示すものである。本例の場合、主体となる第1のメンブレン21に対して、長さの長い第2のメンブレン22を貼り合わせている。第2のメンブレン22は、第1のメンブレン21に比べて長さが長いため、中途部が折り畳まれ、両端部において第1のメンブレン21に接合されている。また、第1のメンブレン21と第2のメンブレン22の間、及び折り畳まれた第2のメンブレン22の間には、溶液の浸透を防止するための遮断シート23が配されている。
【0034】
図5に示すクロマト分析用ストリップでは、一端から吸い上げられた試験溶液は、第1のメンブレン21と第2のメンブレン22に分岐されて展開される。この時、第2のメンブレン22の方が長さが長いので、展開に要する時間も長くなる。したがって、先の各例と同様、時間差を付与することができる。
【0035】
前述の本発明を適用したクロマト分析用ストリップでは、流れの時差を実現する流路構造により、試験溶液をメンブレンの一端に浸すだけのワンステップ操作で多段階の操作を実現することができる。したがって、例えば酵素増感反応等を1回の操作で行うこともでき、様々な被検物質の定量分析に応用することが可能である。
【0036】
以上、本発明のクロマト分析用ストリップの実施形態について説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、前記実施形態では、主にイムノクロマトグラフィーにおける酵素標識コンジュゲートを用いる増感法への適用について説明しているが、これに限らず、他のイムノクロマトグラフィーや、イムノクロマト以外のクロマトグラフィー等、クロマトグラフィー全般に応用することが可能であり、2液混合系、3液混合系等、多段階の操作(反応)が必要な系において、ワンステップ操作を実現し得るクロマト分析用ストリップを提供することが可能である。例えば、特開2007−68531号公報に開示されるような、多液混合系での農薬検出等にも適用可能である。
【0037】
また、イムノクロマトグラフィーに関して言えば、前述の実施形態では、被験物質に関する抗体をクロマト分析用ストリップに固定化する例を記述したが、被験物質が抗体である場合は抗原を固定化すればよい。また、例えば特開2006−37077号公報や再表2007/116811号公報、WO2007/061098号公報等にも記載があるように、この他にも被験物質を認識し、特異的に結合しうる物質の組み合わせであれば、いずれの分析にも適用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果に基づいて詳細に説明する。
【0039】
インクジェットプリントによる遮断パターンの形成
ニトロセルロースからなるメンブレンを用い、ポリマーを含む溶液をインクジェットプリントして方形状の遮断パターンを形成した。インクジェットプリントにおいて、ポリマー溶液の滴下量を調整し、線幅の異なる遮断パターンを形成して、溶液に対する遮断性能を評価した。評価に際しては、方形状の遮断パターンで囲まれた領域に色素溶液を滴下し、周囲への滲みを観察した。その結果、遮断パターンの線幅を120μm以上とすることで、溶液の漏れの無い良好な遮断パターンを形成し得ることがわかった。
【0040】
遮断パターンによる遅延時間の設定
インクジェットプリントにより櫛歯状パターンの数を変えて流路形成を行い、それによる溶液の展開時間の相違を調べた。作製した流路は図6に示す通りである。長尺形状の遮断パターン31の形成により流路を形成し、図6(a)では櫛歯状パターン32の数をゼロ、図6(b)では櫛歯状パターン32の数を3、図6(c)では櫛歯状パターン32の数を5、図6(d)では櫛歯状パターン32の数を7、図6(e)では櫛歯状パターン32の数を9とした。流路幅は、いずれも3mmである。
【0041】
これらの流路の下側端部から溶液を展開し、上端に到達するまでに要する時間を調べた。結果を図7に示す。図7は、図6(a)の流路における展開時間を基準とし、他の流路における遅延時間を示している。図7から明らかなように、櫛歯状パターン32を設けることにより、展開時間が遅延し、櫛歯状パターン32の数が多いほど遅延時間が長くなっている。この結果より、分岐された流路の一方に櫛歯状パターン32を設けることで溶液の展開時間に差(遅延)をもたらすことができること、及び櫛歯状パターン32の数を選定することで遅延時間を調節できることがわかる。
【0042】
イムノクロマトグラフィー
図8に示すイムノクロマト分析用ストリップを準備し、分析対象であるhCG(Human chorionic gonadotropin)を含む試験溶液の展開を行った。図8に示すイムノクロマト分析用ストリップは、ニトロセルロース製のメンブレン41にポリマー溶液をインクジェットプリントすることで流路形成を行ったものである。使用したポリマー溶液は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)を溶媒とし、ポリマーとして2種類の変性アクリル樹脂を20%溶解したものである。形成される流路の中間位置には、分岐用パターン42及び櫛歯状パターン43の形成により、遅延流路44が形成され、その両側に通常流路45が形成されている。
【0043】
また、前記流路44,45の下流側には、テストライン46及びコントロールライン47が形成されるとともに、遅延流路44には基質48が、通常流路45にはコンジュゲート49がスポッティングされている。
【0044】
テストライン46、コントロールライン47,基質48、コンジュゲート49は下記の通りである。
・テストライン:mAb to hCG[抗hCG(ヒト 絨毛性ゴナドトロピン αサブユニット)マウスモノクローナル抗体](medixMAB社製、商品名6601 SPR-5)
・コントロールライン:pAb to Anti-hCG-ALP(抗マウスIgGラビットポリクロナール抗体)(Dako cytomation社製、商品名Z0259)
・コンジュゲート:Anti-hCG-ALP(ALP標識抗hCGマウスモノクローナル抗体)
抗hCGマウスモノクローナル抗体(medixMAB社製、商品名5008 SP-5)に対し、アルカリホスファターゼ標識キット(Dojindo molecular technologies社製、商品名LK12)によりALPをコンジュゲートすることで調製
・基質:BCIP-NBT染色キット(Nakaraitesque社製、商品名03937-60)
【0045】
イムノクロマトグラフィーは、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン、Rohto Pharmaceutical社製、商品名R-506)を含む試験溶液50を前記イムノクロマト分析用ストリップの下端から展開するワンステップ操作で行った。hCG濃度の異なる試験溶液50をそれぞれ前記イムノクロマト分析用ストリップで展開し、展開後の各イムノクロマト分析用ストリップのテストラインにおける発色状態を画像解析し、hCG濃度と発色強度(バックグラウンドを減じたもの)の関係を調べた。結果を図9に示す。
【0046】
図9から明らかなように、テストラインにおいて被検物質の濃度に応じた発色が見られ、本実施例のイムノクロマト分析用ストリップを用いることで、酵素標識コンジュゲートを用いた増感法をワンステップで行うことができることがわかる。
【0047】
本実験においては、基質であるBCIP-NBTが酵素反応により黒紫色の不溶性物質を生成する。基質が可溶性であるのに対して、その酵素反応生成物が不溶性であるため、テストラインやコントロールラインで生成した色素が粒子となり、ニトロセルロースのポアに沈着することで明瞭なスポットが得られる。こうした系を本発明のクロマト分析用ストリップに適用することで、シグナルの強度を高めることに効果的である。
【符号の説明】
【0048】
1,21,22,41 メンブレン、2,31 遮断パターン、2a,42 分岐用パターン、2b,32,43 櫛歯状パターン、3,4,11,12,13 流路、5 コンジュゲートライン、6,46 テストライン、7,47 コントロールライン、8 基質、23 遮断シート、44 遅延流路、45 通常流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンブレンからなるクロマト分析用ストリップであって、溶液の展開に要する時間が異なる複数の流路が並列に配されていることを特徴とするクロマト分析用ストリップ。
【請求項2】
印刷法によりメンブレンに遮断パターンが形成され、1枚のメンブレンに流路長が異なる複数の流路が形成されていることを特徴とする請求項1記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項3】
前記印刷法は、インクジェットプリントであることを特徴とする請求項2記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項4】
長さの異なる複数のメンブレンが結合されていることを特徴とする請求項1記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項5】
少なくともいずれかの流路の所定位置に試薬が配されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項6】
複数の流路の所定位置に異なる試薬が配されていることを特徴とする請求項5記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項7】
抗原抗体反応で被験物を検出するイムノクロマト用のクロマト分析用ストリップであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のクロマト分析用ストリップ。
【請求項8】
少なくとも1の流路の所定位置に基質が配されるとともに、他の少なくとも1の流路の所定位置に標識試薬が配されていることを特徴とする請求項7記載のクロマト分析用ストリップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−98237(P2012−98237A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248181(P2010−248181)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)