説明

イムノクロマトグラフ装置

【課題】複数のイムノクロマトグラフ用ストリップをハウジング内に収納したイムノクロマトグラフ装置において、操作を簡略化することができ、更に、展開時に傾きが生じても正確な判定が可能なイムノクロマトグラフ装置を提供する。
【解決手段】前記イムノクロマトグラフ装置は、液体展開材料7、イムノクロマトグラフ展開膜、ならびに液体吸引材料がこの順序で連結されたイムノクロマトグラフ用ストリップと、1つの展開液収容室11及び1つの展開液導入部4を有するハウジング1とを含み、液体展開材料の展開液吸液用端部7aが、全てのイムノクロマトグラフ用ストリップに関して、展開液収容室内に配置され、展開液吸液用端部の全てと接触する展開液分配材料13が、展開液収容室内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のイムノクロマトグラフ用ストリップをハウジング内に収納したイムノクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフ装置は、イムノクロマトグラフ法、すなわち、吸水性材料からなるイムノクロマトグラフ展開膜上の試料展開開始位置に試料を接触させた後、毛管現象により所定方向に展開し、イムノクロマトグラフ展開膜の展開方向下流に設けた検出ゾーン(抗原又は抗体が固定化されている領域)における変化を観察することにより、試料中の分析対象物質を分析する方法に用いられる装置である。
【0003】
イムノクロマトグラフ法は、その検出手段の違いにより、粒子法(金コロイド法、ラテックス法など)と酵素法に大別される。粒子法は、染色ラインの明瞭さおよび検体由来共存物質(ヘモグロビン、ビリルビン)の影響を受ける点において酵素法に劣るものの、酵素基質を必要としないため、試料添加の後に展開液を添加する必要がなく、装置を簡略化することができる。一方、酵素法は、判定の明瞭さおよび検体由来共存物質の影響を受けない点で優れているものの、酵素基質を必要とするため、試料添加後の展開液を別に添加する必要がある。
【0004】
酵素法に用いることのできる、特許文献1に記載の従来公知のイムノクロマトグラフ装置を図9及び図10に示す。
図9及び図10に示すイムノクロマトグラフ装置100は、ハウジング(ハウジング上蓋101a及びハウジング基板101b)、ハウジング内に収納された、吸収性材料からなるイムノクロマトグラフ展開膜109、並びに前記イムノクロマトグラフ展開膜上でのクロマトグラフ展開の流れ方向を決定する手段としての液体展開材料107(上流側)及び液体吸引材料108(下流側)を含む。
また、イムノクロマトグラフ装置100は、試料を装置に導入するための試料供給手段102、イムノクロマトグラフ展開膜上の捕獲ゾーン195を観察することのできる判定窓103、展開液供給手段としての導入部104、及び展開液収容室111を含む。前記展開液収容室111は、最適量の展開液を収容することができる容量を有しているが、供給ミス等で最適量以上の追加液量が供給された場合の増分を吸収できるように、液体収容予備容器112が設けられている。
【0005】
イムノクロマトグラフ装置100の試料供給手段102から試料を添加すると、イムノクロマトグラフ展開膜109の試料受容領域に前記試料が供給される。続いて、試料供給手段102の上流に位置する展開液導入部104から展開液を添加すると、展開液収容室111が前記展開液で満たされると同時に、液体展開材料107による展開液の吸収が始まり、イムノクロマトグラフ展開膜109上での展開が開始される。イムノクロマトグラフ展開膜109上での展開の結果、試料中の分析対象物質の有無に基づく、捕獲ゾーン195での発色の変化を観察することができる。
【0006】
先述のとおり、酵素法を利用するイムノクロマトグラフ法では、試料添加後に、更に展開液を添加する必要があるため、試料供給用導入部に加えて、展開液供給用導入部を有することが一般的である。複数のイムノクロマトグラフ用ストリップをハウジング内に収納した酵素法イムノクロマトグラフ装置は、出願人の知る限り、これまで市販されていないが、1つのイムノクロマトグラフ用ストリップに対して、1つの展開液供給用導入部を設けた場合、展開液の添加が複数回必要であり、操作が煩雑となることが予想される。
【0007】
また、イムノクロマトグラフ装置における簡易な検査が可能であるとの特性上、設備の整った専門の検査施設だけでなく、家庭等での使用の拡大が予想され、専門の検査施設では考慮する必要のなかった環境下での使用に対する対応も必要になっている。例えば、展開中のイムノクロマトグラフ装置を載置する台が水平となっていない場合や、偶発的に軽い衝撃が加わる場合が想定され、このような状況下でも検体を正確に判定することが、新たな課題として要望されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−38600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、複数のイムノクロマトグラフ用ストリップをハウジング内に収納したイムノクロマトグラフ装置において、操作を簡略化することができ、更に、展開時に傾きが生じても正確な判定が可能なイムノクロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明による、
液体展開材料、試料受容領域および捕獲領域を有する展開膜、ならびに液体吸引材料が、展開方向に沿ってこの順序で連結されたイムノクロマトグラフ用ストリップ2つ又はそれ以上と;
展開液収容室1つと、前記展開液収容室に展開液を供給可能な展開液導入部1つとを有し、前記イムノクロマトグラフ用ストリップを、それぞれが接触することなく、間隔を設けて内部に収納可能なハウジングと;
を含むイムノクロマトグラフ装置であって、
前記液体展開材料における前記展開膜と連結する端部とは反対側の展開液吸液用端部が、全てのイムノクロマトグラフ用ストリップに関して、前記展開液収容室内に配置され;
前記展開液吸液用端部の全てと接触する展開液分配材料が、前記展開液収容室内に配置されている
ことを特徴とする、イムノクロマトグラフ装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のイムノクロマトグラフ用ストリップをハウジング内に収納することにより、ハウジングや包装単価を削減することができる。また、複数のイムノクロマトグラフ用ストリップに対して、展開液収容室および展開液導入部をそれぞれ1つだけ設けるため、製造工程の簡素化と共に、使用者の操作の簡便化を達成することができる。また、測定項目を1つのハウジングにセット化することにより、使用者の測定項目選択の間違いや展開液の入れ忘れの低減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のイムノクロマトグラフ装置について、主に添付図面に沿って説明する。
本発明のイムノクロマトグラフ装置は、従来公知のイムノクロマトグラフ装置の改良発明であって、複数のイムノクロマトグラフ用ストリップを備えていること、並びに、特定形状の展開液導入部、展開液収容室、及び展開液分配材料から主として構成される展開液分配手段を備えていることを除いて、従来公知のイムノクロマトグラフ装置と同様の構成からなることができる。
【0013】
図1〜図4は、3本のイムノクロマトグラフ用ストリップを備えた、本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様である。図1〜図4に示す、本発明のイムノクロマトグラフ装置10の一態様は、ハウジング(ハウジング上蓋1a及びハウジング基板1b)と、そのハウジング内に収納された3本のイムノクロマトグラフ用ストリップ6から主としてなる。
各イムノクロマトグラフ用ストリップ6は、吸収性材料からなるイムノクロマトグラフ展開膜9、並びに前記イムノクロマトグラフ展開膜上でのクロマトグラフ展開の流れ方向を決定する手段としての液体展開材料7(上流側)及び液体吸引材料8(下流側)を含む。
ハウジング上蓋1aには、試料をイムノクロマトグラフ展開膜上の試料受容ゾーン19に供給するための試料供給手段2、イムノクロマトグラフ展開膜上の捕獲ゾーン20を観察することのできる判定窓3、各々のイムノクロマトグラフテストストリップの上流側に展開液を供給できる展開液導入部4、蒸散窓5が設けられている。
【0014】
ハウジング基板1bは、展開液導入部4から供給される展開液を溜めることのできる展開液収容室11を有しており、更に、所望により設けることのできる液体収容予備室12を有することができる。展開液収容室11内には、展開液分配材料13が配置されており、更に、各イムノクロマトグラフ用ストリップ6に関して、液体展開材料7の上流側端部である展開液吸液用端部7aが、展開液収容室11内に配置され、且つ、前記展開液分配材料13と接触している。図1〜図4に示す態様では、展開液収容室11の底面と展開液分配材料13の下面の全領域とが接触するように配置され、展開液分配材料13の上面と展開液吸液用端部7aとが接触しているが、本発明においては、展開液吸液用端部7aが、展開液収容室11の底面と展開液分配材料13の下面とに挟まれるように配置することもできる。
【0015】
本発明のイムノクロマトグラフ装置におけるハウジングは、実施される検定に即した適当な形及びサイズを有することができる。また、ハウジングは、実施される検定に適した任意の材料から製作することができる。ハウジングの製作に使用される材料は、試料、試料媒質、又はシグナル発生系の成分を含めて検定実施に使用される全ての試薬に妨害を与えることのないものから選択することができる。好ましくは、ハウジングは熱可塑性材料等から製作される。一般に、ハウジングはイムノクロマトグラフ展開膜表面の捕獲ゾーン20(複数も可能)を目で見るための手段(例えば、判定窓3)を有しているため、そこから検定の結果を測定することができる。
【0016】
本発明のイムノクロマトグラフ装置は、あるゾーンにおいて特異的結合対の一員を捕獲し、そのゾーンから毛管現象により液体を移動させるための、ハウジングに収納された、吸収性材料からなるイムノクロマトグラフ展開膜を含む。例えば、図1〜図4に示す一態様では、前記イムノクロマトグラフ展開膜として、1個又はそれ以上の捕獲ゾーンを有する吸収性材料片、すなわち、吸収性イムノクロマトグラフ展開膜9を含む。イムノクロマトグラフ展開膜9と液体吸引材料8及び液体展開材料7は液体受容関係にあり、イムノクロマトグラフ展開膜9は上流端側で液体展開材料7と、下流端側で液体吸引材料8と重なり合っている(それぞれ、領域31、41)。必要に応じて粘着性基板51を使うことで、液体展開材料7、イムノクロマトグラフ展開膜9、及び液体吸引材料8間の連結を強化することができる。基板の材質としては紙又はプラスチック製が好ましく、粘着剤は検定実施に使用される全ての試薬に妨害を与えないものから選択することができる。これらはイムノクロマトグラフ装置10に収納され、好ましくはイムノクロマトグラフ装置10に移動不可能な状態で閉じこめることができる。本発明のイムノクロマトグラフ装置においてハウジング内に収納するイムノクロマトグラフ用ストリップの本数は、複数本である限り、特に限定されるものではないが、通常、2〜10本のストリップを収納することができる。
【0017】
本発明のイムノクロマトグラフ装置は、特定形状の展開液導入部、展開液収容室、及び展開液分配材料から主として構成される展開液分配手段を有することを特徴とする。図1〜図4に示す一態様の展開液分配手段およびその隣接領域の構造を、拡大部分断面図として、図5に示す。
本発明のイムノクロマトグラフ装置における展開液分配手段は、例えば、図1〜図5に示すように、
(a)展開液添加用の上方開口部4aと、底部に設けた排出口4bとを有する展開液導入部4を1つと、
(b)展開液を収容する展開液収容室11を1つと、
(c)排出口4bと液体展開材料7の展開液の供給を均一・安定にさせるため、展開液分配材料13
を備える。なお、本発明において、展開液収容室とは、展開液を収容可能であるだけでなく、展開液分配材料が配置されていることが必要であり、例えば、図2又は図5に示す液体収容予備室12は、展開液分配材料が配置されていないため、本発明における展開液収容室に該当しない。
なお、前記展開液には、緩衝液を含む各種試薬類(例えば、シグナル発生成分、シグナル増強成分、非特異反応抑制成分など)を添加した混合物も含まれる。
【0018】
図5に示すように、本発明のイムノクロマトグラフ装置では、展開液収容室11に展開液分配材料13を設けるため、展開液導入部4の排出口4bと液体展開材料7の展開液の供給を均一・安定にさせることができる。本発明で用いる展開液分配材料の材質としては、吸湿性材料であれば特に限定するものではないが、液体保持能力および液体リリース能力の両方を兼ね備えた材質、例えば、ガラス繊維、一般的な濾紙、スポンジ、綿など挙げることができる。より具体的には、例えば、ガラス繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維などからなる繊維シート、又は前記繊維の混合物(例えば、ガラス繊維とPVA繊維との組み合わせ、セルロースとガラスとの組み合わせ)からなる繊維シートなどを用いることができ、ガラス繊維とPVA繊維との組み合わせからなる繊維シート、セルロースとガラスとの組み合わせからなる繊維シート、レーヨンからなる繊維シートが好ましい。
【0019】
図1〜図6に示す態様では、展開液量は検定実施の最適量が供給され、展開液収容室11は最適量を収容することができる容量を有している。供給ミス等で最適量以上の展開液量が供給された場合の増分は液体収容予備室12に流れ込むように、展開液収容室11と液体収容予備室12は開口55(複数も可能)を通じて繋がっている。
【0020】
また、図1、図5に示すように、液体展開材料7又は展開液分配材料13への展開液供給に使用することのできる展開液導入部4を含むことができる。展開液導入部4(上から見た形状)は、特に限定するものではないが、例えば、図7又は図8に示すように、円筒形、円錐形、角柱形、又は角錐形であることができ、角錐形状が好ましい。
本発明における前記展開液導入部の形状(側面から見た形状)は、特に限定するものではないが、例えば、角錐形(例えば、四角錐、三角錐、多角錐)、半球形、円錐形、円筒形、又は角柱形(例えば、四角柱、三角柱、多角柱)を挙げることができ、展開液の導入部の判別し易さと供給し易さの点で、角錐形が特に好ましい。
【0021】
展開液導入部の上方開口部の位置や大きさは、その形状やテストストリップ数の増減に伴う開口の大きさの増減に応じて適宜決定することができ、展開液分配材料13に展開液を送ることができれば、特に限定されるものではないが、例えば、幅6mmのテストストリップを3本収納する場合、その開口径は、例えば、0.5cm以上×0.5cm以上、好ましくは0.5〜2cm×0.5〜5cm、より好ましくは0.5〜1cm×0.5〜3cmであることができる。
また、底部排出口の形状及び位置や大きさは、上方開口部と同様にテストストリップ数の増減と次の展開液流路の形状及び位置や大きさと一致するように決定することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
《実施例1》
(1)酵素法イムノクロマトグラフ用ストリップの作製
図3に示すイムノクロマトグラフテストストリップを、以下のような方法で作製した。
【0024】
(1−1)ダニアレルゲン固定化膜9の作製
ニトロセルロース膜(HF240:日本ミリポア社製、縦57mm×横40cm)に、ダニアレルゲン(グリア社製)を、縦方向の液体吸引材料8が貼り付けられる端(下流側)から約15mmの場所に1μL/cmの条件で線状に塗布した。
そのまま、室温下で1時間静置乾燥後、シリカゲルデシケーター内に保存し、室温下で一夜乾燥させ、ダニアレルゲン固定化膜とした。
【0025】
(1−2)吸収パッド(液体吸引材料8)の作製
ガラスパッド(A/B:日本ポール社製)を縦30mm×横40cmのサイズに切断し、吸収パッドとした。
【0026】
(1−3)展開パッド(液体展開材料7)の作製
ガラスパッド(AP25:日本ミリポア社製)を縦20mm×横40cmのサイズに切断し、5−ブロモ−4クロロ−3−インドリルホスフェート(5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate;BCIP)基質溶液(シグマ社製)を、縦方向のダニアレルゲン固定化膜9が貼り付けられる端(下流側)から約4mmの場所に2μL/cmの条件で線状に塗布した。そのまま、室温下で1時間静置乾燥後、シリカゲルデシケーター内に保存し、室温下で一夜乾燥させ、展開パッドとした。
【0027】
(1−4)イムノクロマトテストストリップの作製
粘着シート(日本ミリポア製)を縦84mm×横40cmのサイズに切断し、まず、その粘着シート51にダニアレルゲン固定化膜を貼り付け、その上に、縦方向に約8mmの重なりを持たせて、吸収パッド、展開パッドをそれぞれ貼り付けた。次いで、横4mm幅で切断し、イムノクロマトテストストリップとした。
【0028】
(2)反応カセット(イムノクロマトグラフ装置10)の作製
図1〜図4に示すイムノクロマトグラフ装置10を、以下のような方法で作製した。
【0029】
(2−1)展開液供給パッド(展開液供給吸湿性材料13)の作製
ガラス−PVA(Type A/E:日本ポール製)、セルロース−ガラス(LF1:ワットマン社製)、レーヨン(8−S:Schleicher & Schuell製)を、それぞれ、28mm×11mmのサイズに切断し、展開液供給パッドとした。厚さは全て0.3mmである。
【0030】
(2−2)反応カセット(イムノクロマトグラフ装置10)の作製
テストストリップを3本収納可能なハウジングに、テストストリップ3本を収納させ、更に、展開液収納容器11の底側に、上記で作製した展開液供給パッド1枚を収納させ、3本のテストストリップの端は、展開液供給パッドに全て接するように置いた。比較例として、展開液供給パッドを収納しない反応カセットを作製した。
【0031】
(3)酵素標識抗体反応液の作製
2%トリトンX−100、0.15mol/L NaCl、0.1mol/L HEPES緩衝液(pH8)溶液に、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgE抗体溶液(DPC社製)を添加し、酵素標識抗体反応液を作製した。
【0032】
(4)展開液の作製
0.1mol/L CHES緩衝液(pH10)、5mmol/L塩化マグネシウム溶液を作製した。
【0033】
(5)反応カセットを用いた、ヒト血清の測定
上記で作製した反応カセットを用いて、ヒト血清30μL[陽性検体(2+)あるいは陰性検体(−)]と酵素標識抗体反応液100μLとを混合し、反応カセットの試薬供給手段2の丸穴(全3箇所)のそれぞれに、それら混合液を30μLずつ添加し、その後速やかに展開液を下記の各条件に従って、四角形状の展開液導入部4の箇所に添加し、室温で、静置状態で反応させ、40分後の判定窓3に現れる線状発色度を判定した。ヒト血清中にダニアレルゲンに反応する抗体が含まれている場合には、青色の発色を示す。もっとも強い発色度を3+、次に中程度の発色度を2+、弱い発色度を+、発色が認められないものを−とした。また、発色が線上に認められないもの(ゆがんでいるもの)やバックグラウンドの上昇や非特異発色発生等が認められたものをエラーと判定した。+以上の発色を示す場合、陽性検体と判定される。
ヒト血清は、ユニキャップ特異IgE法(ファディア社製)によって、陽性検体[クラス2(2+)]あるいは陰性検体[クラス0(−)]と判定されたものを使用した。
【0034】
(5−1)イムノクロマトグラフ装置(ハウジング)の傾斜の影響と展開液供給パッドの材質の影響
(1)水平状態でサンプル及び展開液を添加し、その後15度の傾斜をつけて静置させた場合(水平→傾斜)、(2)15度の傾斜のある状態でサンプル及び展開液を添加し、その傾斜のまま静置させた場合(傾斜→傾斜)、(3)15度の傾斜のある状態でサンプル及び展開液を添加し、その後水平状態で静置させた場合(傾斜→水平)、(4)水平状態でサンプル及び展開液を添加し、そのまま静置させた場合(水平→水平)の4つの条件において、3種類の展開液供給パッド(ガラス−PVA、セルロース−ガラス、レーヨン)と展開液供給パッドが無い条件での、発色度の検討を行った。なお、傾斜は、展開方向に向かってハウジングの左側を支点とし、ハウジングの右側を持ち上げた状態に維持することにより、所定の傾斜角度を達成した。
検討に使用する展開液量は、使用する展開液供給パッドの展開液の最大保持量に、1つのイムノクロマトグラフテストストリップの展開液の保持量は200μLであることから、3つのイムノクロマトグラフテストストリップの総量600μLを加えた量を使用した。具体的には、ガラス−PVA(最大保持量=200μL)の場合は800μL、セルロース−ガラス(最大保持量=80μL)の場合は680μL、レーヨン(最大保持量=140μL)の場合は740μL、パッドなしの場合は600μLを使用した。また、展開液滴下位置として、傾斜をつけた中心点から一番右の点(すなわち、最高位点)について検討した。さらに、三回の実験を繰り返した。
結果を表1[陽性検体(2+)]及び表2[陰性検体(−)]に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
陽性検体(2+)において、ガラス−PVAを使用した場合、全ての条件において、2+の発色が認められた。セルロース−ガラス、あるいは、レーヨンを使用した場合、左側及び中央のイムノクロマトグラフテストストリップでは、全て2+の発色が認められたが、右側のものでは、発色が弱まる場合が認められた。一方、パッドを使用しない場合、条件(4)の水平状態でサンプル及び展開液を添加し、そのまま静置させた場合では、全て2+の発色が認められたが、条件(1)〜(3)の傾斜状態に置かれた場合には、発色が弱まったり、エラーが多く認められたりした。
【0038】
陰性検体(−)において、ガラス−PVA、セルロース−ガラス、レーヨンを使用した場合は、全て発色が認められなかった。パッドを使用しない場合は、条件(1)又は(4)では発色が認められないが、条件(2)又は(3)においてエラーが認められる場合もあった。
【0039】
これらの結果から、展開液供給パッドを使用することにより、イムノクロマトグラフ装置の傾きやイムノクロマトグラフ装置内に置かれる位置に影響されずに、検体を正確に評価できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のイムノクロマトグラフ装置は、抗原抗体反応を利用する分析の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様におけるハウジング上蓋の平面図である。
【図2】図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様において、ハウジング上蓋を外した状態を示す平面図である。
【図3】図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様におけるイムノクロマトグラフ用ストリップの斜視図である。
【図4】図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様におけるハウジング上蓋の裏面図である。
【図5】図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様における展開液分配手段およびその隣接領域の構造を示す拡大部分断面図である。
【図6】図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ装置の一態様におけるハウジング基板の平面図である。
【図7】本発明のイムノクロマトグラフ装置における展開液導入部の各種側面形状を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明のイムノクロマトグラフ装置における展開液導入部の各種上面形状を模式的に示す説明図である。
【図9】イムノクロマトグラフ用ストリップ1本を収納した従来公知のイムノクロマトグラフ装置の斜視図である。
【図10】図9に示す従来公知のイムノクロマトグラフ装置を、ハウジング上蓋、イムノクロマトグラフ用ストリップ、及びハウジング基板に分解した状態で示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
10・・・イムノクロマトグラフ装置;
1・・・ハウジング ;1a・・・ハウジング上蓋 ;1b・・・ハウジング基板 ;
2・・・試料供給手段 ;3・・・判定窓 ;4・・・展開液導入部;
5・・・蒸散窓;6・・・イムノクロマトグラフ用ストリップ;
7・・・液体展開材料;8・・・液体吸引材料;
9・・・イムノクロマトグラフ展開膜;
11・・・展開液収容室 ;12・・・液体収容予備室;13・・・展開液分配材料;
19・・・試料受容ゾーン;20・・・捕獲ゾーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体展開材料、試料受容領域および捕獲領域を有する展開膜、ならびに液体吸引材料が、展開方向に沿ってこの順序で連結されたイムノクロマトグラフ用ストリップ2つ又はそれ以上と;
展開液収容室1つと、前記展開液収容室に展開液を供給可能な展開液導入部1つとを有し、前記イムノクロマトグラフ用ストリップを、それぞれが接触することなく、間隔を設けて内部に収納可能なハウジングと;
を含むイムノクロマトグラフ装置であって、
前記液体展開材料における前記展開膜と連結する端部とは反対側の展開液吸液用端部が、全てのイムノクロマトグラフ用ストリップに関して、前記展開液収容室内に配置され;
前記展開液吸液用端部の全てと接触する展開液分配材料が、前記展開液収容室内に配置されている
ことを特徴とする、イムノクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−250763(P2009−250763A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98439(P2008−98439)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)