説明

イムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法

【課題】操作が簡単で高感度なイムノクロマト測定を行うことができるイムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法を提供する。
【解決手段】イムノクロマト検査片2を通電可能なように接続する手段、イムノクロマト検査片2の第2抗体固定化部を第1抗体及び酵素担持不溶性粒子と色素の混合試薬が通過したことを検知する手段、イムノクロマト検査片の電極へ電圧を印加する手段、イムノクロマト検査片2の第2抗体固定化部での免疫反応による変化を測定する手段を有し、第2抗体固定化部を第1抗体及び酵素担持不溶性粒子と色素の混合試薬が通過したことを検知し、イムノクロマト検査片2の電極へ電圧を印加することにより、電気応答性ゲルからの基質液の放出を促した後、イムノクロマト検査片2の第2抗体固定化部での免疫反応による変化を測定する操作を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取した体液中に含まれる特定物質の量を測定するためのイムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からある臨床検査分野で使用される測定機器としては、多項目の生化学検査が可能な汎用生化学分析装置などの大型自動化機器、及び診察現場なでの即時検査に用いられる比較的小型のPOCT(Point Of Care Testing)検査機器がある。
【0003】
上記の大型自動化機器は、多数の患者の検体の多項目検査を行う必要がある病院の中央臨床検査部門や臨床検査受託会社などに設置されおり、一方、POCT検査機器は、医療の診療現場や在宅医療で用いられ、検査機器としては、例えば、酵素反応を検出する血糖センサ、免疫反応を検出する妊娠診断薬、排卵検査薬などが挙げられる。POCT検査機器は、診療現場、在宅での病態のスクリーニング及びモニタリングに利用されるため、迅速測定が可能であると共に、検査の専門家でない人が操作することを想定して、操作性においても、特に専門性を必要とせず誰でも使用できる簡易さが必要である。
【0004】
広く一般に普及したPOCT検査機器の代表的なものとしては、妊娠診断薬がある。これは、イムノクロマト法を測定原理としている。
【0005】
イムノクロマト法に用いる器材の代表的な構成は以下の通りである。まず、試料液展開部として、細長い長方形状に切断したニトロセルロースメンブレンなどを用いた展開器材が用いられる。試料液展開部の長辺に沿って試料液が流れるように、試料液展開部の一端と接する位置に、試料液適下部として、セルロースなどを素材とするパッドが配置される。試料液滴下部の下流には、試料液中の抗原と特異結合する抗体であって、金コロイドなど粒子により標識された抗体を含む試薬を含浸した後乾燥した濾紙が、標識試薬部として、試料液展開部と接するように配置される。標識試薬部の下流の試料液展開部には、検出部として、上記の標識抗体とは異なる箇所で抗原に結合する抗体が固定される。検出部の下流には、試料液展開部の残りの一端と接するように、試料液吸収部として、セルロースなどを素材とするパッドが配置される。
【0006】
このようにして得られた器材の試料液滴下部に試料液を滴下することにより、試料液展開部を毛細管現象により移動した試料液が標識試薬部の金コロイドなど粒子を標識した試料液中の抗原と特異結合する抗体を含む試薬を溶解し、溶解された金コロイドなど粒子を標識した試料液中の抗原と特異結合する抗体が試料液中の抗原と反応し、抗体と抗原の結合物が生じる。この結合物は毛細管現象により、更に、試料液展開部を下流に移動し、結合物の抗原と検出部に固定化された標識抗体とは異なる箇所で抗原に結合する抗体が結合反応を生じ、検出部において、固定化された抗体、抗原、標識抗体によるサンドウィッチ様の結合物が生じ、試料液中に抗原が存在した場合には検出部において、標識物に依存した変化が検出できる。例えば、標識物が有色であった場合には、視認による色変化や分光器による吸光度変化として捉えることができる。さらに検出部より下流に移動した余分な試料液及び試薬は試料液吸収部のパッドに吸収される。
【0007】
このようなイムノクロマト法を高感度化するために、酵素を用いた増感方法が示されており、上記の器材構成の抗体の標識として、粒子の代わりに酵素を用い、酵素反応のための基質を展開液に含ませるか、または基質を試料滴下部のパッドに含浸させた構成を持つものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、上記の器材構成の試料液展開部の代わりに、酵素反応のための展開液を滴下する滴下パッドを設け、標識試薬部をなくし、前記滴下パッドの下流側に、試料液及び標識抗体の標識粒子の表面に更に酵素を固定化した液体試薬を滴下するための滴下パッドを設けたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−153600号公報
【特許文献2】特開2001−13144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示した従来の酵素反応による高感度化イムノクロマト検査片では、測定の際に、試料液を供給する工程と酵素反応のための展開液を供給する工程の2工程をユーザー求めるために、また、特許文献2では、試料液を供給する工程、標識抗体の標識粒子の表面に更に酵素を固定化した液体試薬を供給する工程、酵素反応のための展開液を供給する工程の3工程をユーザーに求めるために、操作が複雑化するという問題があった。また、液体を供給する工程を間違った場合、例えば、酵素反応のための展開液を先に供給した場合には、最終的に検出部で生じる酵素反応が不十分となるという問題があった。
【0009】
上記のような従来の問題は、専門家でない人が操作することを想定して、操作性においても特に専門性を必要とせず誰でも使用できることが求められるPOCT検査機器においては、今後の更なる普及を考慮すると、早急に解決されることが期待される。
【0010】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を解決し、操作が簡単で高感度なイムノクロマト測定を行うことができるイムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明におけるイムノクロマト検査片は、試料液中の抗原を測定するためのイムノクロマト検査片であって、絶縁性の基板、前記基板上に配置された一対の電極、前記一対の電極上に配置され、酵素に対する基質を含む溶液を保持する電気応答性ゲル、前記基板上であって、前記電気応答性ゲルと接する位置に配置された多孔性部材、前記抗原に対する第1の抗体及び前記酵素を担持する粒子と色素とを含む試薬が、前記試料液とともに移動するように、前記多孔性部材上に配置された試薬部、前記抗原に対する抗体であって、前記第1の抗体と異なる部位に結合可能な第2の抗体が前記多孔性部材上に固定化された固定化部、並びに前記多孔性部材と接する位置に配置され、前記試料液を吸収することが可能な吸水部を備え、前記多孔性部材上に供給された前記試料液が、前記試薬部、前記固定化部及び前記吸水部の順に流れるように、前記試薬部、前記固定化部及び前記吸水部が配置されている。
【0012】
また、本発明におけるイムノクロマト測定方法は、上記イムノクロマト検査片を用い、
(A)前記多孔性部材上に前記試料液を供給する工程、
(B)前記試薬を含む前記試料液が前記固定化部を通過したことを検知する工程、
(C)前記工程Bにおける検知に基づき、前記一対の電極間に自動的に電圧を印加する工程、
(D)前記固定化部における前記酵素による反応の量を検出する工程、及び
(E)前記工程Dにおける検出量に基づき前記試料液中に含まれる前記抗原の濃度を求める工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法によれば、イムノクロマト検査片に試料液を滴下する工程だけで、酵素により増感したイムノクロマト測定が可能となり、使用者の熟練に依存せずに、正しい測定を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(実施の形態)
図1〜図8は、本発明の実施の形態におけるイムノクロマト測定システムを説明するための図であり、図1はイムノクロマト測定システムの外観を示す斜視図、図2は検査片を示す斜視図、図3(a)は検査片を示す側面図、図3(b)は検査片を示す平面図、図4および図5は検査片の構成を説明するための作製工程毎の工程図、図6は一部破断して見た測定装置の構成を示す正面図、図7は図6におけるA−A線にて断面にした測定装置の構成を示す断面矢視図、図8は検査片が初期位置にある時のイムノクロマト測定システムの断面矢視図、図9は検査片が測定位置にある時のイムノクロマト測定システムの断面矢視図、図10はイムノクロマト測定システムの動作タイミング説明図、図11は測定装置における処理制御部のブロック図を示す。
【0016】
図1において、イムノクロマト測定システム1は検査片2と測定装置3からなる。測定装置3の正面には、主電源4、表示部5、測定開始ボタン6および検査片差込口7が配設されている。主電源4をONにし、表示部5の指示に従って検査片2を検査片差込口7に挿入することによって測定を開始することができる。
【0017】
先ず、検査片2の構成について、図面を用いて説明する。
【0018】
図2、図3(a)及び図3(b)に示すように、検査片2は、上カバー21と下カバー22と検査基体23を有する。上カバー21には、試料液注入口21aと、光学測定のための測定用窓21bと、吸水パッドの膨張を考慮した空気の抜け口である空気穴21cとが配設されている。上カバー21と下カバー22との間に検査基体23を装着し、上カバー21と下カバー22とを重ね合わせることによって、三方の側面は閉塞されるが、他方の端部における側面からは検査基体23の一部が突出している。
【0019】
次に、検査基体23の構成および作製工程について説明する。
【0020】
第1の工程では、図4(a)に示すように、エッチング等の周知の技術によりPTFE基板41(例えば、幅1cm×長さ10cm、厚さ3mm)上に銅箔による配線部42を作製する。
【0021】
配線部42は長さ方向の一方の端部において形成された一対の接続部43aおよび44aと、他方の端部近傍に接続部43aに対応する電極部43bおよび43cと、接続部44aに対応する電極部44bおよび44cと、接続部43aと電極部43bおよび43cを接続するリード部43dと、接続部44aと電極部44bおよび44cを接続するリード部44dとからなる。
【0022】
そして、電極部43bと電極部44b、電極部43cと電極部44cがそれぞれ対になるように対向させて配置する。配線部42として用いられる素材には、銅、金、白金などを用いることができるが、銅が比較的安価であり好ましい。
【0023】
第2の工程として、図4(b)に示すように、電極部43b、43c、44bおよび44c上にそれぞれ炭素膜を形成して被膜し、それぞれ炭素電極部45b、45c、46bおよび46cを構成する。炭素電極部45b、45c、46bおよび46cとして用いられる素材には、炭素の他に、銅、金、白金、パラジウムなどを用いることができる。
【0024】
第3の工程として、図4(c)に示すように、炭素電極部45b、45c、46bおよび46cと、接続部43aおよび44aとそれらにそれぞれ接続したリード部43dおよび44dの一部を残して、それ以外の部分の表面をポリビニール系樹脂でコーティングし、絶縁膜47を形成する。
【0025】
第4の工程として、図4(d)に示すように、PTFE基板41に形成された一対の炭素電極部45bおよび46b上に、それらを覆うようにして3,3‘−ジアミノベンジジン含有ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸ゲルからなる第1の電気応答性ゲル48をスプレー糊で接着する。また、第1の電気応答性ゲル48に隣接するように、他方の一対の炭素電極部45cおよび46c上に、それらを覆うようにしてHを含む含有ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸ゲルからなる第2の電気応答性ゲル49をスプレー糊で接着する。
【0026】
第1の電気応答性ゲル48は、0.5mg/mlの3,3‘−ジアミノベンジジンを含むTBS緩衝液(0.05MTris−HCl,0.15MNaCl,pH7.5)を加えた溶液中で、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸を用いたゾルーゲル法により、3,3‘−ジアミノベンジジン含有ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸ゲルを調製して得ることができる。また、第2の電気応答性ゲル49は、0.15%Hを含むTBS緩衝液を加えた溶液中で、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸を用いたゾル−ゲル法により、Hを含む含有ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸ゲルを調製して得られる。
【0027】
第5の工程として、図5(a)に示すように、ニトロセルロースメンブレン51(例えば、厚さ200μm)をPTFE基板41上に形成された絶縁膜47の上にスプレー糊で貼り付ける。この時、ニトロセルロースメンブレン51の一方の端部が第1の電気応答性ゲル48および第2の電気応答性ゲル49における接続部43aおよび44a側の端部に接し、その他方の端部が絶縁膜47における接続部43aおよび44a側の端部の近傍になるように形成する。ここで、ニトロセルロースメンブレン51は本発明における多孔性部材に相当する。
【0028】
尚、検査片2の検査基体23に用いられるニトロセルロースメンブレン51は後述の第2抗体を固定化した後、抗原抗体反応に関与しない物質でブロッキング処理されることが好ましい。このようにすると、ニトロセルロースメンブレン51への試薬及び試料液中の抗原を含む物質が、ニトロセルロースメンブレン51へ非特異的に吸着することを防止することができ、バックグラウウンドを低く抑えることができると同時に、ニトロセルロースメンブレン51上に担持する後述の第1抗体及び酵素担持不溶性粒子と色素の混合試薬の可動性を確保することができる。
【0029】
例えば、本実施の形態においては、ニトロセルロースメンブレン51への非特異的な蛋白質の吸着を防止するために、1重量%のウシ血清アルブミンを含むPBS緩衝液(8g/lNaCl,0.2g/lKCl,1.15g/lNaHPO・12HO,0.2g/lKHPO,pH7.4)中に15分間程度浸漬し、40℃で2時間程度乾燥することによって、表面がブロッキングされたニトロセルロースメンブレン51を用いる。
【0030】
第6の工程として、図5(b)に示すように、第1抗体、酵素担持不溶性粒子および色素であるフェナンスロリン鉄錯体によって構成された第1の試薬担持部52をブロッキング済みのニトロセルロースメンブレン51の上に形成する。ニトロセルロースメンブレン51の所定の位置(例えば、ニトロセルロースメンブレン51における第1の電気応答性ゲル48および第2の電気応答性ゲル49側の端部から1.5cm程度の位置)に、第1抗体、酵素担持不溶性粒子および色素であるフェナンスロリン鉄錯体を含む懸濁液の数μlの量をディスペンサーによってライン状に塗布し、凍結乾燥することによって、第1抗体、酵素担持不溶性粒子およびフェナンスロリン鉄錯体をニトロセルロースメンブレン51に固定させることができ、第1の試薬担持部52を形成することができる。ここで、第1の試薬担持部52は本発明における試薬部に相当する。
【0031】
第1抗体、酵素担持不溶性粒子およびフェナンスロリン鉄錯体は、調製することも可能であるが、市販されているものを利用することもできる。市販の粒径0.2μmのポリスチレンラテックス粒子での構成方法について述べる。蒸留水に懸濁された2.5重量%のポリスチレンラテックス粒子0.5mlをマイクロチューブに入れ、ここに、1mg/mlの第1抗体を含む0.02Mホウ酸、pH8.2緩衝液を0.5ml加えて、室温で2時間振とう攪拌する。
【0032】
攪拌後、12,000rpmで30分間遠心し、不溶性磁性粒子を沈査させた後上清を除き、続いてここに、0.5mg/mlのアルカリフォスファターゼを含む0.01Mホウ酸、pH8.2緩衝液を1ml加えて、ポリスチレンラテックス粒子を懸濁し、室温で2時間振とう攪拌する。攪拌後、2度12,000rpmで30分間遠心し、不溶性磁性粒子を沈査させた後上清を除き、0.01Mホウ酸、0.1mMフェナンスロリン鉄錯体、pH8.2緩衝液でポリスチレンラテックス粒子濃度が2.5重量%となるように懸濁、希釈することにより、第1抗体、酵素担持ポリスチレンラテックス粒子およびフェナンスロリン鉄錯体を得ることができる。
【0033】
第7の工程として、図5(c)に示すように、第2抗体によって構成される第2の試薬担持部53をニトロセルロースメンブレン51の上に形成する。ニトロセルロースメンブレン51上の所定の位置(例えば、ニトロセルロースメンブレン51における接続部43aおよび44a側の端部から3cm程度の位置)に、1mg/mlから数mg/mlの第2抗体を溶解した水溶液をディスペンサーによって数μlライン状に塗布し、風乾することによって、第2抗体をニトロセルロースメンブレン51に固定させることができ、第2の試薬担持部53を形成することができる。第2抗体は、抗原に対する抗体であって、第1の抗体と異なる部位に結合可能な抗体である。ここで、第2の試薬担持部53は本発明における固定化部に相当する。
【0034】
第8の工程として、ガラス繊維性の吸水性パッド54を、ニトロセルロースメンブレン51上の所定の位置(例えば、第2の試薬担持部53より接続部43aおよび44a側へ1.5cm離れた位置)にスプレー糊で貼り付ける。さらに、試料液濾紙55を第1の試薬担持部52と第1の電気応答性ゲル48及び第2の電気応答性ゲル49との間にスプレー糊でニトロセルロースメンブレン51上に貼り付けて配置し、検査基体23が完成する。ここで、吸水性パッド54は本発明における吸水部に相当する。
【0035】
以上のような工程を経て作製された検査基体23に上カバー21および下カバー22を装着することによって、検査片2を作製することができる。検査基体23に上カバー21を装着した時、検査基体23の吸水性パッド54に対応する位置に上カバー21に設けられた空気穴21cが配設され、また、検査基体23の試料液濾紙55に対応した位置に上カバー21に設けられた試料液注入口21aが配置されている。
【0036】
尚、本実施の形態に記述するように、検査片2を上カバー21と下カバー22からなるケースに収めることが望ましい。その場合は、本実施の形態において記述および図示しないが、反応の視認性を保つため、第2の試薬担持部が確認できるように確認用窓を設けることが好ましい。この確認用窓は実質的に平坦であって、光学的に実質的に透明な材料、例えば、ポリスチレン、石英ガラス等で封止することが望ましい。
【0037】
次に、測定装置3の構成について図面を用いて説明する。図1に示すように、測定装置3は、主電源4、表示部5、測定開始ボタン6および検査片差込口7をその正面部に持つ。また、測定装置3は検査片2の測定動作、結果の解析を行うために、その内部に演算部、計時部、メモリ、ROM、およびパルスカウンタを有する処理制御部60を持つ。
【0038】
測定装置3は内部に検査片2で生じた反応を検出、測定するための光学測定室を持つ。
【0039】
図6および図7において、光学測定室は、測定装置3を構成する装置筐体61に取り付けられた測定室筐体部62と、その測定室筐体部62を構成する筐体63と、その筐体63内に形成された空間を直線移動するテーブル部64およびテーブル部64を直線移動させるための駆動機構部65を有する。
【0040】
測定室筐体部62は、筐体63および光学測定部66を有する。筐体63は筐体上部63aと、筐体上部63aの両側に形成した側面部63b、および、側面部63bの下部を結ぶことによって側面部63bを補強する補強部63cとを有する。
【0041】
そして、筐体上部63aには2つの傾斜面を有し且つ光学測定部66を取り付ける光学測定取付部63dが設けられ、また、両側の側面部63bにおける対向する面に、それぞれ断面形状がコの字状の溝63eが筐体63の長手方向に平行に配設されている。
【0042】
光学測定部66は青色光源67、光学スリット68およびディテクター69からなり、青色光源67および光学スリット68が筐体上部63aの光学測定取付部63dにおける一方の傾斜面に取り付けられている。
【0043】
また、ディテクター69は光学測定取付部63dにおける他方の傾斜面に取り付けられている。そして、青色光源67から出射された光は光学スリット68により、検査測定のために所定位置に取り付けられた検査片2(図示せず)の長さ方向に対して垂直となるように透過光を調整する。
【0044】
青色光源67、光学スリット68、およびディテクター69は、青色光源67から出た光が光学スリット68を経て、検査片2の測定用窓21b内に照射され、照射された光は検査片2で反射され、反射した光をディテクター69で捉えられるように配置されている。
【0045】
また、テーブル部64はテーブル本体71、コネクタ部72および従動ネジ部73からなる。テーブル本体71には、検査片2を載置する保持面71aと、検査片2を所定の位置にガイドするために保持面71aに垂直で且つその両側に対向するガイド面71bと、保持面71aに対しガイド面71bの反対側に保持面71aに垂直な2つの側面部71cと、それぞれの側面部71cにおけるそれぞれの外郭の面に且つ保持面71aの長手方向に平行に略コの字状の突起部71dが設けられている。
【0046】
上述の検査片2における接続部43aおよび44aに対応する接触片72aをハウジング72bによってモールドして一体化されたコネクタ部72がテーブル本体71の所定の位置に固着される。また、テーブル本体71の保持面71aと突起部71dが設けられた2つの側面部71cに囲まれた凹部71eにおいて、軸受ハウジング74に雌ネジナット部75が固着された従動ネジ部73がテーブル本体71に固着される。
【0047】
また、駆動機構部65は装置筐体61に直接あるいは間接的に取り付けられたステッピングモータ65aとステッピングモータ65aの回転軸に固着された雄ネジ部65bをする。
【0048】
この雄ネジ部65bがテーブル部64における従動ネジ部73の雌ネジナット部75と螺合しており、ステッピングモータ65aの回転に伴う雄ネジ部65bの回転によって雌ネジナット部75が直線移動する。したがって、雌ネジナット部75と連結されたテーブル本体71の突起部71dが測定室筐体部62の筐体63に設けられた溝63eに摺動可能に嵌合しているため、テーブル本体71はその溝63eに沿って直線移動することができる。
【0049】
検査片2及び測定装置3からなるイムノクロマト測定システムの動作について図8〜図11を用いて説明する。
【0050】
図11に示す、測定装置3の主電源4をオンにする。主電源4をオンにすることによって、測定装置3の処理制御部60の演算部101に信号が伝わり、これに対応する演算部101からの信号により、青色光源67が点灯する。また、検査片差込口7に検査片2を差し込むように要請をするメッセージを表示するための信号が、演算部101より表示部5と表示用のIC及びドライバ回路からなる表示機構部102に送られ、検査片2の挿入を指示する表示が表示部5に表示される。
【0051】
図8に示すように、表示部5の指示に従って、検査片差込口7から検査片2をテーブル本体71の保持面71aとガイド面71bに沿わせて挿入する。そして、検査片2の検査基体23におけるPTFE基板41の接続部43aおよび44aを測定装置3のコネクタ部72の接触片72aとハウジング72bによって保持されるように差し込む。この時、検査片2は初期位置に設定され、検査片2の試料液注入口21aは測定装置3の装置筐体61よりも少なくとも外側にある。また、PTFE基板41をコネクタ部72から抜去するための引抜力即ち抜去力を数百グラムから数キログラムに設定すると良い。
【0052】
検査片2を測定装置3に挿入後、測定開始ボタン6をオンにする。
【0053】
すると、図11に示す演算部101が測定開始ボタン6からの測定開始信号を受け取り、テーブル部64を所定の測定位置に移動させるように、演算部101は駆動機構部65のステッピングモータ65aに指示する。この時、図9に示すように、青色光源67から出射され、光学スリット68を経て検査片2を照射する光が検査片2の上カバー21に設けられた測定用窓21bを通して検査片2を照射し、反射した光が測定用窓21bを通してディテクター69に到るような測定位置に、検査片2を保持する。
【0054】
テーブル部64が所定の測定位置に移動した後、演算部101は、青色光源67より出射された光が検査片2の測定用窓21bを通過して、第2の試薬担持部53付近に照射されて反射された光を検知したディテクター69からの信号を検出する。
【0055】
そして、ディテクター69からの検出信号を演算部101でAD変換し、処理制御部60に設けられた計時部103の計時によって計時をして、0.5s間隔でAD変換された検出信号を演算部101に取り込み始め、取り込まれた数値は処理制御部60のメモリ104に記憶される。
【0056】
また、取り込まれた数値は図10に示すように演算部101で、処理制御部60のROM105に予め記憶された閾値Iと比較される。取り込まれた数値が閾値Iを上回った場合には、テーブル部64に載置された検査片2を初期位置に戻すように、演算部101は駆動機構部65のステッピングモータ65aに指示する。
【0057】
図8において、検査片2を初期位置に戻した後、試料液注入口21aより試料液を注入するように指示するメッセージを表示するための信号が、演算部101より表示機構部102に送られ、試料液注入を指示する表示が表示部5に表示される。
【0058】
表示部5の指示に従って、コップ等の受容器に採取された試料液をディスペンサーに吸引し、検査片2の試料液注入口21aよりディスペンサーに吸入された試料液を所定量注入する。
【0059】
尚、本発明のイムノクロマト測定システムにおいて、試料液の対象としては、尿、血液、血漿、血清、唾液、細胞間質液、汗、涙などが挙げられる。また、試料液中の抗原としては、ハプテン、蛋白質、DNA、細菌、ウィルスなどが挙げられる。
【0060】
そして、テーブル部64に載置された検査片2を再び測定位置に戻すように、演算部101は駆動機構部65のステッピングモータ65aに指示する。
【0061】
図9において、検査片2に注入された試料液は試料液注入口21aの内部の検査片2の試料液濾紙55を経て、ニトロセルロースメンブレン51を毛細管現象によって移動し、第1の試薬担持部52に到達する。第1の試薬担持部52に到達した試料液は、第1の試薬担持部52を構成する第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子、フェナンスロリン鉄錯体を溶解する。
【0062】
溶解された第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子は試料液中に抗原が存在していた場合には、抗原とポリスチレンラテックス粒子上の第1抗体が結合反応を起こす。抗原と第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子の結合物及びフェナンスロリン鉄錯体は毛細管現象によって、更に、ニトロセルロースメンブレン51を移動し、第2の試薬担持部53に到達する。試料液中に抗原が存在した場合には、第2抗体と抗原の結合により、第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子が捕捉される。
【0063】
第2の試薬担持部53で捕捉されなかった第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子は毛細管現象により、更に、ニトロセルロースメンブレン51を移動し、吸水性パッド54で吸収される。
【0064】
上述のように、第1の試薬担持部52を通過した試料液は、試薬である第1抗体および酵素担持ポリスチレンラテックス粒子、フェナンスロリン鉄錯体を溶解して含む。そのような試薬を含む試料液が移動する際に、第2の試薬担持部53付近のニトロセルロースメンブレン51上を青色光源67から出射された光が照射するため、試薬を含む試料液が青色光源67からの光の照射部分を通過するとき、試料液中に溶解したフェナンスロリン鉄錯体による光吸収のため、青色光源67からの光を検知するディテクター69に到達する光量が変化する。
【0065】
ディテクター69からの検出信号が閾値Iを下回った場合には、演算部101の指令によって、後述の基質液放出判定処理がなされる。メモリ104に保存された最小値と比較され、より小さい値が最小値としてメモリ104に上書き保存される。メモリ104に保存された最小値がない場合は、閾値Iを下回った数値が最小値として保存される。
【0066】
基質液放出判定処理においては、検出信号がROM105に予め記憶された閾値IIとも比較され、最小値より大きく、閾値IIよりも大きい数値の場合には、演算部101からの信号により、検査片2のPTFE基板41における接続部43aおよび44aと測定装置3のコネクタ部72との接続を介して、検査片2の炭素電極部45bと46b、および炭素電極部45cと46cとの間にそれぞれ数ボルトの電圧がかけられる。これにより、酵素反応のための基質液即ち第1の電気応答性ゲルに含有される3,3‘−ジアミノベンジジンおよび第2の電気応答性ゲルに含有されるHが放出される。
【0067】
このように、青色光源67から出射された光の反射光をディテクター69によって受光するため、非接触で第2の試薬担持部53を第1の抗体及び酵素担持不溶性粒子と色素の混合試薬が通過したことを検知することによって、測定時に光学測定部66が汚染され難く、測定装置3のメンテナンスが容易となる。
【0068】
前記基質液放出判定処理により、試薬を含む試料液が第2の試薬担持部53付近を通過してから、酵素反応のための基質液即ち第1の電気応答性ゲルに含有される3,3‘−ジアミノベンジジンおよび第2の電気応答性ゲルに含有されるHを放出させることができる。
【0069】
放出のタイミングは上述の閾値IIの設定に依存するが、事前の試行によって、検査片2が正常の場合にとり得る最小値に近い数値に閾値IIを定めておけば、試薬を含む試料液が第2の試薬担持部53付近を通過してから、すぐにそれらの基質液の放出をさせることができる。
【0070】
演算部101からの信号により、検査片2のPTFE基板41における接続部43aおよび44aとテーブル部64におけるコネクタ部72との接続を介して、検査片2の炭素電極部45bと46b、45cと46cとの間にそれぞれ数ボルトの電圧がかけられ、第1の電気応答性ゲル48および第2の電気応答性ゲル49を収縮させる。第1の電気応答性ゲル48および第2の電気応答性ゲル49の収縮により、放出されたそれぞれの基質液はニトロセルロースメンブレン51を毛細管現象によって移動し、第2の試薬担持部53で捕捉されたポリスチレンラテックス粒子上の酵素と反応し、赤褐色の反応物が沈着する。
【0071】
赤褐色の反応物が沈着することにより、ディテクター69で検知される光量が変化する。この光量変化による信号変化が、演算部101での演算により10sあたり5%以下となったら、演算部101によるディテクター69からの信号取り込みを一端停止する。
【0072】
そして、演算部101からの指令により発生したパルス信号により、駆動機構部65を作動させ、予め設定された位置にテーブル部64を移動させる。
【0073】
テーブル部64の設定位置への移動後、再度、演算部101からの指令により発生したパルス信号により、駆動機構部65が作動し、検査片2の第2の試薬担持部53上を青色光源67からの出射光が横断するように、テーブル部64が移動する。駆動機構部65への指令と同時に、演算部101はディテクター69からの信号取り込みを再開する。
【0074】
取り込まれたディテクター69からの信号データは駆動機構部65へのパルス信号に対するパルスカウンタ106でのパルスのカウント結果から演算部101で算出したテーブル部64の移動距離と対応づけられて、メモリ104上の新しい記憶領域に保存される。
【0075】
以上のようにして得たテーブル部64の移動距離とディテクター69の検知光量変化についてのデータを、演算部101で距離について積分し、積分することによって得た値を測定値とし、メモリ104に記憶する。この測定値と予めROM105に記憶しておいた検量線から、演算部101での計算によって抗原濃度を求めることができる。得られた結果はメモリ104に記憶する。得られた結果を演算部101からの指令により表示機構部102によって、表示部5に表示して使用者に知らせる。
【0076】
このように、表示部5に表示することによって、使用者に操作手順を知らせたり、また、測定結果を表示したりすることができるため、イムノクロマト測定システムの操作性を増すことができる。
【0077】
以上のように本実施の形態によれば、試料液をイムノクロマト検査片に適下するだけで、酵素により増感したイムノクロマト測定が可能となり、使用者が分析技法に関する専門的知識を有さない場合、あるいは不慣れな場合でも、容易に正しい測定を行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のイムノクロマト検査片及びそれを用いたイムノクロマト測定方法は、採取した体液中に含まれる特定物質の量を測定する際などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態におけるイムノクロマト測定システムの外観を示す斜視図
【図2】同イムノクロマト測定システムを構成する検査片を示す斜視図
【図3】(a)は同イムノクロマト測定システムを構成する検査片を示す側面図、(b)は同イムノクロマト測定システムを構成する検査片を示す平面図
【図4】同イムノクロマト測定システムを構成する検査片の作製工程の一部を示す平面図
【図5】同検査片の作製工程の続きを示す平面図
【図6】同イムノクロマト測定システムを構成する測定装置の一部切欠正面図
【図7】同イムノクロマト測定システムを構成する測定装置の図6におけるA−A断面図
【図8】同イムノクロマト測定システムの断面図
【図9】同イムノクロマト測定システムの断面図
【図10】同イムノクロマト測定システムの動作タイミング説明図
【図11】同イムノクロマト測定システムの処理制御部のブロック図
【符号の説明】
【0080】
1 イムノクロマト測定システム
2 検査片
3 測定装置
4 主電源
5 表示部
6 測定開始ボタン
7 検査片差込口
21 上カバー
21a 試料液注入口
21b 測定用窓
21c 空気穴
22 下カバー
23 検査基体
41 PTFE基板
42 配線部
43a,44a 接続部
43b,43c,44b,44c 電極部
43d,44d リード部
45b,45c,46b,46c 炭素電極部
47 絶縁膜
48 第1の電気応答性ゲル
49 第2の電気応答性ゲル
51 ニトロセルロースメンブレン
52 第1の試薬担持部
53 第2の試薬担持部
54 吸水性パッド
55 試料液濾紙
60 処理制御部
61 装置筐体
62 測定室筐体部
63 筐体
63a 筐体上部
63b 側面部
63c 補強部
63d 光学測定取付部
63e 溝
64 テーブル部
65 駆動機構部
65a ステッピングモータ
65b 雄ネジ部
66 光学測定部
67 青色光源
68 光学スリット
69 ディテクター
71 テーブル本体
71a 保持面
71b ガイド面
71c 側面部
71d 突起部
71e 凹部
72 コネクタ部
72a 接触片
72b ハウジング
73 従動ネジ部
74 軸受ハウジング
75 雌ネジナット部
101 演算部
102 表示機構部
103 計時部
104 メモリ
105 ROM
106 パルスカウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中の抗原を測定するためのイムノクロマト検査片であって、
絶縁性の基板、
前記基板上に配置された一対の電極、
前記一対の電極上に配置され、酵素に対する基質を含む溶液を保持する電気応答性ゲル、
前記基板上であって、前記電気応答性ゲルと接する位置に配置された多孔性部材、
前記抗原に対する第1の抗体及び前記酵素を担持する粒子と色素とを含む試薬が、前記試料液とともに移動するように、前記多孔性部材上に配置された試薬部、
前記抗原に対する抗体であって、前記第1の抗体と異なる部位に結合可能な第2の抗体が前記多孔性部材上に固定化された固定化部、並びに
前記多孔性部材と接する位置に配置され、前記試料液を吸収することが可能な吸水部を備え、
前記多孔性部材上に供給された前記試料液が、前記試薬部、前記固定化部及び前記吸水部の順に流れるように、前記試薬部、前記固定化部及び前記吸水部が配置されたイムノクロマト検査片。
【請求項2】
請求項1記載のイムノクロマト検査片を用い、
(A)前記多孔性部材上に前記試料液を供給する工程、
(B)前記試薬を含む前記試料液が前記固定化部を通過したことを検知する工程、
(C)前記工程Bにおける検知に基づき、前記一対の電極間に自動的に電圧を印加する工程、
(D)前記固定化部における前記酵素による反応の量を検出する工程、及び
(E)前記工程Dにおける検出量に基づき前記試料液中に含まれる前記抗原の濃度を求める工程
を含むイムノクロマト測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−85813(P2009−85813A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257288(P2007−257288)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】