インキュベータ
【課題】 恒温室内において、環境変動要因となる装置の動作に起因した環境条件の変動を著しく抑制できるインキュベータを提供する。
【解決手段】 所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【解決手段】 所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の環境条件に調整された恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の微生物や細胞を培養するために恒温室を備えたインキュベータが一般に用いられている。一般にインキュベータの恒温室には、環境条件(例えば、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度、窒素濃度など)の現在値を検出するセンサと、上記の各パラメータを調整するための環境調整装置とが配置されており、恒温室の内部は所定の環境条件に調整されることとなる。
【0003】
また、特許文献1には、培養容器の搬送装置や顕微鏡ユニットを恒温室内に備え、自動扉を備えた搬出入口から培養容器を出し入れし、培養容器の搬送や試料の観察などを恒温室内で自動的に行うことが可能なインキュベータが開示されている。
【特許文献1】特開2004−180675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のインキュベータでは、恒温室内に搬送装置のモータや顕微鏡ユニットの照明光源などの熱源が配置されているため、培養容器の搬送時や試料の観察時には恒温室内の温度が上昇する。また、搬出入口から培養容器を出し入れする場合、自動扉の開閉によって恒温室内の環境条件が変動することとなる。
しかし、従来のインキュベータでは、上記装置の動作に起因して環境条件の変動が生じた場合には環境条件のパラメータに閾値以上の変化が検出されるまで環境調整装置が動作せず、恒温室内の環境条件に比較的大きなムラが生じやすい点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためのものであって、その目的は、恒温室内において、環境変動要因となる装置の動作に起因した環境条件の変動を著しく抑制できるインキュベータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置され、前記制御部は、前記モータの動作位置に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする。
第3の発明は、第2の発明において、前記モータの動作位置が前記移動機構の動作によって変化し、前記制御部は、前記モータの動作位置の変化に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、前記恒温室内で前記培養容器を照明する照明光源と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記照明光源の動作に先立って、前記照明光源の照明時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記照明光源の動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記照明光源の動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第4の発明において、前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置されており、前記照明光源の近傍領域に配置される前記温度調整部は他の位置よりも温度変化性能が高く設定されてなることを特徴とする。
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、前記推定変化量出力部は、前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする。
【0010】
第7の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、前記恒温室内から前記培養容器を出入するための搬出入口と、前記搬出入口を開閉する自動扉と、前記恒温室内において、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれかから選択される環境パラメータを調整する環境パラメータ調整部と、前記恒温室の内側で前記環境パラメータの値を取得する第1センサ部と、前記恒温室の外側で前記環境パラメータの値を取得する第2センサ部と、前記自動扉の開放動作に先立って、前記自動扉の開放時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差と前記動作情報とに基づいて、前記自動扉の開放による前記環境パラメータの推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記自動扉の動作に同期して、前記推定変化量分の前記環境パラメータの変化を相殺するように前記環境パラメータ調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0011】
第8の発明は、第7の発明において、前記推定変化量出力部は、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境条件の変動を生じさせる装置の動作に同期して、推定変化量分の変化を相殺するように温度等の環境パラメータが調整され、インキュベータ内の環境条件の変動が著しく抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態の説明)
図1および図2は第1実施形態のインキュベータの全体構成を示す概要正面図である。インキュベータは、第1筐体10と、第2筐体11とで構成されている。
第1筐体10は、第2筐体11の上側に積まれている。第1筐体10の内部には、断熱材で覆われた恒温室12が形成されている。第1筐体10の正面側は開口部10aをなしている。そして、この開口部10aは観音開きの正面扉13によって開閉可能に閉塞されている。また、第1筐体10の左側面下寄りの位置には、培養容器14(ウエルプレート、フラスコ、ディッシュ等)が通過可能な搬出入口15が形成されている。この搬出入口15は、駆動機構16によりスライドする自動扉17で開閉可能に閉塞されている。さらに、第1筐体10の底面には、後述の顕微鏡ユニット26の配置用の開口10bが正面からみて右寄りの位置に形成されている。なお、第1筐体10の外側には、恒温室12外部の環境パラメータ(例えば、温度、湿度、二酸化酸素濃度、酸素濃度、窒素濃度など)の値を検出するための外部センサ18が配置されている。
【0014】
図3は恒温室内部の構成を示す正面図である。第1筐体10の各壁面には、ペルチェ素子を備えた温度調整装置19が複数内蔵されている。温度調整装置19は、ペルチェ素子の通電極性を反転させることでペルチェ効果による加熱または冷却を行うことができる。また、各温度調整装置19はそれぞれ独立して温度制御を行うことが可能である。なお、図2において恒温室12の右下隅に位置する顕微鏡ユニット26の配置領域周辺は、顕微鏡ユニット26の発熱により他の位置と比べて熱がこもりやすい。そのため、第1実施形態では顕微鏡ユニットの配置領域の近傍の温度調整装置19は、他の位置の温度調整装置19よりも加熱性能および冷却性能が高く設定されている。
【0015】
また、恒温室12内部の左側面には湿度調整用の噴霧装置20が配置されている。また、恒温室12内部の上面にはガス導入部21が配置されている。ガス導入部21は二酸化炭素ボンベ、酸素ボンベおよび窒素ボンベ(ボンベの図示は省略する)と接続されている。そして、ガス導入部21は各ボンベから恒温室12にガスを導入して、恒温室12内の二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度を調整する。さらに、恒温室12の内側には、恒温室12内部の環境パラメータの値を検出するための内部センサ22が配置されている。
【0016】
第1筐体10の恒温室12内には、ストッカー23と、容器搬送機構24と、容器搬出入機構25と、顕微鏡ユニット26とが収納される。
ストッカー23は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の左側に配置される。図4に示すように、ストッカー23の内部は複数の棚23aで上下に区画されている。そして、ストッカー23には培養容器14を水平に収納できるようになっている。また、ストッカー23の最下段は容器搬出入機構25を配置するスペースとなっている。
【0017】
ここで、第1実施形態では、容器搬送機構24による運搬を容易にするために、培養容器14はトレー状のホルダー27に載置されて取り扱われる。なお、ホルダー27の外周部には外向きに支持片27aが形成されている(図6、図7参照)。
容器搬送機構24は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の中央に配置される。容器搬送機構24は、前後方向に長い長方形状の基台28と、上下方向に延長する垂直フレーム29と、ホルダー27を支持する搬送アーム部30とを有している。
【0018】
基台28には垂直フレーム29が前後方向(Y方向)に移動可能に取り付けられている。この垂直フレーム29のY方向位置は位置センサ31によって検出される。また、基台28の外側には垂直フレーム29をY方向に駆動させるための第1モータ32が固定されている。
垂直フレーム29は平行配置された2本のガイドレールで構成されている。垂直フレーム29の間には搬送アーム部30が上下方向(Z方向)に移動可能に取り付けられている。この搬送アーム部30は垂直フレーム39の一方に内蔵されたネジ軸(不図示)によって移動する。さらに、垂直フレーム29には、搬送アーム部30をZ方向に駆動させるための第2モータ33と、搬送アーム部30のZ方向位置を検出する位置センサ34とが固定されている。なお、第2モータ33の位置は垂直フレーム29の移動に伴ってY方向に変化することとなる。
【0019】
搬送アーム部30は、容器支持部35と、摺動機構部36と、第3モータ37と有している。容器支持部35は、支持片27aを含めたホルダー27の全体の幅よりも若干幅広に設定された本体部35aと、本体部35aの両側縁に形成された1組の引掛爪35bとを有している。引掛爪35bは本体部35aの下側に内向きに対向配置されている。そして、引掛爪35bの先端部同士の相互間隔は、支持片27aを除いたホルダー27の本体部分の幅よりもわずかに大きく設定されている。したがって、容器支持部35は、引掛爪35bと支持片27aとの係合によってホルダー27を支持できるようになっている。
【0020】
摺動機構部36は容器支持部35の上面側に配置されている。摺動機構部36は容器支持部35を左右方向(X方向)に摺動させる。かかる摺動機構部36の動作により、ストッカー23、容器搬出入機構25または顕微鏡ユニット26と容器搬送機構24との間で培養容器14を載置したホルダー27の受け渡しが可能となる。また、摺動機構部36は垂直フレーム29のネジ軸と螺合するナット部36aを有している。さらに、摺動機構36部には、容器支持部35をX方向に駆動させるための第3モータ37が固定されている。なお、第3モータ37の位置は垂直フレーム29の移動に伴ってY方向に変化し、搬送アーム部30の移動に伴ってZ方向に変化することとなる。
【0021】
容器搬出入機構25は、ストッカー23の最下段において搬出入口15の近傍に設置されている。容器搬出入機構25は、ホルダー27を載置可能な搬送テーブル25aと、搬送テーブル25aを搬出入口15の外部へ往復動させるモータユニット25bとを有している。
顕微鏡ユニット26は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の右側に配置される。顕微鏡ユニット26は、培養容器14およびホルダー27を載置する試料台38と、試料台38の上方に張り出した状態で配置される照明装置39とを有している。この顕微鏡ユニット26は第1筐体10の底面の開口10bに嵌め込まれて配置されている。そして、試料台38および照明装置39は第1筐体10の恒温室12内に配置されるが、顕微鏡ユニット26の本体部分は大半が第2筐体11側に収納される。ここで、試料台38は、ホルダー27を水平方向(X方向およびY方向)に移動可能に構成されている。また、照明装置39は培養容器14を上方から照明する。
【0022】
一方、第2筐体11には、上記の顕微鏡ユニット26の本体部分と、制御ユニット40とが格納されている。
制御ユニット40は、CPU41と、動作指示部42と、表示パネル43とを有している。ここで、図8は制御ユニット40とインキュベータ各部との関係を示すブロック図である。CPU41は、駆動機構16、外部センサ18、温度調整装置19、噴霧装置20、ガス導入部21、内部センサ22、容器搬送機構24、容器搬出入機構25、顕微鏡ユニット26と接続されている。そして、CPU41は所定のプログラムに従って上記各部を制御する。
【0023】
動作指示部42はキーボード等の入力手段を有しており、CPU41を介してインキュベータの各部を動作させる。すなわち、CPU41は、動作指示部42からの入力に基づき、恒温室12内の環境パラメータの調整、恒温室12内外への培養容器14の搬出入、培養容器14の試料の観察、恒温室12内での培養容器14の搬送などの動作を実行する。ここで、動作指示部42の指示は、ユーザーの直接入力による指示と、予めプログラムで設定された指示とのいずれもが含まれる。また、表示パネル43はCPU41から出力された恒温室12の環境条件などを出力表示する。
【0024】
以下、第1実施形態のインキュベータの動作を説明する。まず、インキュベータの各部の一般的な動作について簡単に説明する。
インキュベータの動作時には、CPU41は内部センサ22により恒温室12内の環境パラメータの値を監視する。環境パラメータの値に変動がある場合には、CPU41は温度調整装置19、噴霧装置20、ガス導入部21のいずれかを動作させて恒温室12内の環境パラメータの値を一定に調整する。
【0025】
動作指示部42から培養容器14の搬送指示がある場合、CPUは容器搬送機構24の各モータ32,33,37をそれぞれ駆動させてホルダー27上の培養容器14を搬送する。このとき、容器搬送機構24は、(1)ストッカー23内での培養容器14の入れ替え、(2)容器搬出入機構23への培養容器14の受け渡し、(3)顕微鏡ユニット26への培養容器14の受け渡し、のいずれかを実行する。
【0026】
動作指示部42から培養容器14の観察指示がある場合、CPU41は顕微鏡ユニット26を動作させて培養容器14の試料を観察する。このとき、CPU41は顕微鏡ユニット26の照明装置39で試料を照明する。そして、CPU41は動作指示部42からの指示に応じて試料台38を水平方向に移動させる。これにより、培養容器14の任意位置における試料の観察が可能となる。
【0027】
動作指示部42から培養容器14の搬出指示がある場合、CPU41は駆動機構16を動作させて自動扉17を開放する。そして、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを駆動させて搬送テーブル25aの培養容器14およびホルダー27を恒温室12外に搬出する。同様に、動作指示部42から培養容器14の搬入指示がある場合、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを駆動させて搬送テーブル25aの培養容器14およびホルダー27を恒温室12内に搬入する。そして、CPU41は駆動機構16を動作させて自動扉17を閉鎖する。
【0028】
次に、第1実施形態に特有の動作について説明する。上記のように動作指示部42の指示によって、培養容器14の搬出入、試料の観察、培養容器14の搬送などが行われると、モータ等の発熱による温度上昇や、搬出入口15からの外気の流出入による環境パラメータの変動が生じることとなる。そのため、第1実施形態のインキュベータでは、上記の場合においてCPU41が以下の制御を実行する。
【0029】
(モータが動作する場合)
図9は、容器搬送機構24のモータ32,33,37を動作させる場合の温度制御を示す流れ図である。なお、試料台38の動作時、容器搬出入機構25のモータユニット25bの動作時および自動扉17の駆動機構16の動作時にも同様の温度制御が行われるが、以下に述べる図9の場合とほぼ内容が共通するので重複説明は省略する。
【0030】
ステップS101:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して容器搬送機構24の動作指示を行う。
ステップS102:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、容器搬送機構24の各モータ32,33,37の動作情報(位置情報および動作時間の情報)を生成する。ここで、上記の位置情報には、容器搬送機構24において動作するモータの初期位置(動作開始時の位置)の情報と、容器搬送機構24の動作に伴うモータの位置変化の情報とが含まれる。また、動作時間の情報は、容器搬送機構24の動作開始から起算して、どの時点でどのモータがどれだけ作動したかを示している。
【0031】
例えば、上記の位置情報に関し、第1モータ32は移動しないので、CPU41は第1モータ32の初期位置のみを位置情報として生成する。一方、第2モータ33および第3モータ37の位置は容器搬送機構24の動作に伴って移動するので、以下のように位置情報を生成する。
CPU41は位置センサ31の出力から第2モータ33の現在位置を検出して、第2モータ33の初期位置の情報を生成する。また、CPU41は位置センサ31,34の出力から第3モータ37の現在位置を検出して、第3モータ37の初期位置の情報を生成する。
【0032】
次に、CPU41は、第2モータ33の現在位置と動作指示の内容とに基づいて、第2モータ33のY方向の位置変化を演算し、第2モータ33の位置変化の情報を生成する。また、CPU41は、第3モータ37の現在位置と動作指示の内容に基づいて、第3モータ37のY方向、Z方向の位置変化の情報を演算し、第3モータ37の位置変化の情報を生成する。なお、第2モータ33および第3モータ37の位置変化の情報は、所定秒時間隔で一連の動作に対応する複数の位置情報が生成される。
【0033】
ステップS103:CPU41は、容器搬送機構24の動作開始から動作終了までの期間における恒温室12内での温度状態の推定変化量を演算する。具体的には、CPU41は、各モータの動作情報(S102)と、予め設定されている各モータの単位時間当たりの発熱量とに基づいて、所定の状態方程式によって推定変化量を演算する。
また、この推定変化量は恒温室12内に適宜設定される複数の分割領域ごとにそれぞれ別々に演算される。なお、上記の各分割領域での推定変化量は、熱源となるモータの位置関係(初期位置およびモータの移動)やモータの動作状態(各位置でのモータのON/OFF)によって、それぞれ変動することとなる。
【0034】
ステップS104:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて容器搬送機構24の各モータを動作させる。
ステップS105:CPU41は、S104での容器搬送機構24の動作に同期して、温度状態の推定変化量(S103)を相殺するように各温度調整装置19をそれぞれ独立して制御する。これにより、モータの動作時においても、恒温室12内の温度状態はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、容器搬送機構24の動作終了とともに各温度調整装置の制御を終了し、通常の温度制御状態に復帰する。以上で図9の例の説明を終了する。
【0035】
(照明装置の動作による温度制御の場合)
図10は、顕微鏡ユニット26の照明装置39を動作させる場合の温度制御を示す流れ図である。
ステップS201:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して試料観察の動作指示を行う。
【0036】
ステップS202:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、照明装置39の動作情報(照明装置39の配置情報および照明時間の情報)を生成する。
ステップS203:CPU41は、照明装置39の動作開始から動作終了までの期間における恒温室12内での温度状態の推定変化量を演算する。具体的には、CPU41は、照明装置39の動作情報(S202)と、予め設定されている照明装置39の単位時間当たりの発熱量とに基づいて、所定の状態方程式によって推定変化量を演算する。
【0037】
また、この推定変化量は恒温室12内に適宜設定される複数の分割領域ごとにそれぞれ別々に演算される。なお、上記の各分割領域での推定変化量は、照明装置39からの距離と照明時間とによって、それぞれ変動することとなる。
ステップS204:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて照明装置39を点灯させる。そして、CPU41は顕微鏡ユニット26により試料の観察を実行する。
【0038】
ステップS205:CPU41は、S204での照明装置39の点灯に同期して、温度状態の推定変化量(S203)を相殺するように各温度調整装置19をそれぞれ独立して制御する。これにより、照明装置39の点灯時においても、恒温室12内の温度状態はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、容器搬送機構24の動作終了とともにS205での各温度調整装置19の制御を終了し、通常の温度制御状態に復帰する。以上で図10の例の説明を終了する。
【0039】
(搬出入口の開放による環境パラメータ制御の場合)
図11は、搬出入口15の開放による環境パラメータ制御の一例を示す流れ図である。図11の例では、温度、湿度および二酸化炭素濃度を調整する場合を説明する。なお、酸素濃度および窒素濃度の調整の場合は、図11の例において二酸化炭素濃度を調整する場合とほぼ内容が共通するので重複説明は省略する。
【0040】
ステップS301:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して容器搬出(または容器搬入)の動作指示を行う。
ステップS302:CPU41は、外部センサ18および内部センサ22によって、恒温室12内外での環境パラメータ(温度、湿度および二酸化炭素濃度)の値をそれぞれ取得する。そして、CPU41は、恒温室12内外での各環境パラメータの値の差に基づいて、単位時間当たりの各環境パラメータの変動量をそれぞれ演算する。
【0041】
ステップS303:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、搬出入口15の完全開放時間(搬出入口が完全に開いている時間)の情報を生成する。
ステップS304:CPU41は、搬出入口15の開放から閉鎖までの期間における恒温室12内での各環境パラメータの推定変化量をそれぞれ演算する。具体的には、CPU41は、(1)単位時間当たりの各環境パラメータの変動量(S302)、(2)搬出入口15の完全開放時間(S303)、(3)搬出入口15の開口面積、とに基づいて、所定の状態方程式によって、各環境パラメータの推定変化量を演算する。なお、CPU41は、搬出入口15の開閉時の所要時間および自動扉17の開閉速度の情報に基づいて、自動扉17の開閉時の分についても各環境パラメータの推定変化量を演算するのがより好ましい。
【0042】
ステップS305:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて自動扉17の駆動機構16を動作させて搬出入口15を開放する。そして、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを動作させて搬送テーブル25aを恒温室12外に送り出す。
ステップS306:CPU41は、S305での搬出入口15の開放動作に同期して、各環境パラメータの推定変化量(S304)を相殺するように、温度調整装置19、噴霧装置20およびガス導入部21を動作させる。これにより、搬出入口15の開放時においても、恒温室12内の温度、湿度、二酸化炭素濃度はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、自動扉の閉鎖完了ともに、温度調整装置19等の上記制御を終了し、通常の制御状態に復帰する。以上で図11の例の説明を終了する。
【0043】
なお、上記の図9から図11の説明では、説明の便宜のため各動作がそれぞれ単独で行われる場合のみ説明したが、実際には上記の複数の動作が同時進行的に行われる場合もある。例えば、顕微鏡ユニット26による試料観察時には、照明装置39の照明と試料台28の動作とが同時に行われる場合があり、この場合には照明装置39の発熱を相殺する制御と試料台38のモータの発熱を相殺する制御とがほぼ同時に行われることとなる。なお、第1実施形態では、顕微鏡ユニット26の配置領域の近傍の温度調整装置19は、他の位置の温度調整装置よりも加熱性能および冷却性能が高いので、かかる場合にも通常と同様に顕微鏡ユニット26の近傍の温度調整をすることが可能である。
【0044】
以下、第1実施形態のインキュベータの効果を説明する。
(1)第1実施形態では、容器搬送装置24の各モータ、顕微鏡ユニット26の試料台38、容器搬出入機構25のモータユニット25bまたは自動扉17の駆動機構16が動作する場合にCPU14が温度状態の推定変化量を演算する(S103)。そして、上記のモータの動作に同期して、温度調整装置19が推定変化量を相殺するように恒温室12内の温度を制御する(S105)。
【0045】
したがって、第1実施形態では、モータの動作開始と温度制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかもモータの発熱量に応じた温度制御がなされるため、恒温室12内の温度変化量は大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12内における培養容器14の自動搬送を行いつつ、かつ恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0046】
特に第1実施形態では、動作するモータの位置を考慮して、複数の温度調整装置19が恒温室12内の温度をそれぞれ独立して制御する(S103、S105)。また、モータの位置が移動する場合(第2モータ33および第3モータ37など)には、かかるモータの移動も考慮して恒温室12内の温度制御が実行される(S102、S103)。そのため、恒温室12内における温度ムラの発生が著しく抑制される。
【0047】
(2)第1実施形態では、顕微鏡ユニット26の照明装置39の照明時にCPU41が温度状態の推定変化量を演算する(S203)。そして、上記の照明装置39の動作に同期して、温度調整装置19が推定変化量を相殺するように恒温室12内の温度を制御する(S205)。
したがって、第1実施形態では、照明装置39の照明開始と温度制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかも照明装置39の発熱量に応じた温度制御がなされるため、恒温室12内の温度変化量は大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12内で試料の顕微鏡観察を行う場合において、恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0048】
(3)第1実施形態では、搬出入口15の開放時にCPU41が各環境パラメータの推定変化量を演算する(S304)。そして、上記の照明装置39の動作に同期して、温度調整装置19等が推定変化量を相殺するように恒温室内の環境パラメータを制御する(S306)。
したがって、第1実施形態では、搬出入口15の開放と各環境パラメータの制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかも搬出入口15の開放による環境パラメータの変動に応じた環境条件の制御がなされるため、恒温室12内での環境条件の変化量が大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12から培養容器14の自動搬出入を行う場合において、恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0049】
(第2実施形態の説明)
図12は第2実施形態における制御ユニット40とインキュベータ各部との関係を示すブロック図である。第2実施形態は第1実施形態の変形例であって、制御ユニット40以外の構成は第1実施形態とほぼ共通する。そのため、第2実施形態において第1実施形態と共通の構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0050】
第2実施形態の制御ユニット40では、メモリ44がCPUに接続されている。メモリ44には、(1)各モータの動作情報と温度状態の推定変化量との対応関係を示すルックアップテーブル(LUT)と、(2)照明装置39の動作情報と温度状態の推定変化量との対応関係を示すLUTと、(3)単位時間当たりの各環境パラメータの変動量および搬出入口15の完全開放時間と環境パラメータの推定変化量との対応関係を示すLUTと、が格納されている。
【0051】
ここで、上記(1)のLUTは、インキュベータの各モータに対応するLUTが用意されている。また、上記(3)のLUTは、制御する環境パラメータごとにそれぞれ対応するLUTが用意されている。
第2実施形態では、CPU41はメモリ44のLUTによって推定変化量を取得する。そのため、第2実施形態では、第1実施形態とほぼ同様の効果に加え、CPU41の演算負荷の減少や、CPU41の回路規模の簡略化などを実現することができる。なお、第2実施形態では、モータ動作時などに実際の環境パラメータの変動を内部センサ22でサンプリングし、CPU41がメモリ44のLUTのデータを実測値に基づいて修正することも可能である。
【0052】
(実施形態の補足事項)
以上、本発明を上記の実施形態によって説明してきたが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような形態であってもよい。
(1)本発明のインキュベータは、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のすべてを調整可能な構成に限定されることはない。例えば、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれか1つまたは2つを調整可能なインキュベータも本発明の技術的範囲に当然に含まれる。
【0053】
(2)本発明の各部の構成は実施形態に限定されることはない。例えば、本発明の温度調整装置は、ヒータユニットと冷媒循環システムの組み合わせ等の他の公知の装置で実現してもよい。また、本発明で湿度を調整する環境パラメータ調整部は、加湿水を貯溜する加湿皿と、加湿皿の水温を制御する温度調整装置とで構成するようにしてもよい(いずれも図示を省略する)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態のインキュベータの正面図
【図2】図1において第1筐体を正面扉を開けた状態を示す図
【図3】恒温室内部の構成を示す正面図
【図4】筐体側面方向からのストッカーの容器収納状態を示す図
【図5】(a)筐体正面方向からの容器搬送機構の概要図、(b)筐体平面方向からの容器搬送機構の概要図
【図6】搬送アーム部の構成を示す正面図
【図7】搬送アーム部の構成を示す側面図
【図8】第1実施形態での制御ユニットのブロック図
【図9】容器搬送機構のモータを動作させる場合の温度制御を示す流れ図
【図10】顕微鏡ユニットの照明装置を動作させる場合の温度制御を示す流れ図
【図11】搬出入口の開放による環境パラメータ制御の一例を示す流れ図
【図12】第2実施形態での制御ユニットのブロック図
【符号の説明】
【0055】
12…恒温室、14…培養容器、15…搬出入口、16…駆動機構、17…自動扉、18…外部センサ、19…温度調整装置、20…噴霧装置、21…ガス導入部、22…内部センサ、24…容器搬送機構、25…容器搬出入機構、25b…モータユニット、26…顕微鏡ユニット、32…第1モータ、33…第2モータ、37…第3モータ、38…試料台、39…照明装置、40…制御ユニット、41…CPU、42…動作指示部、44…メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の環境条件に調整された恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の微生物や細胞を培養するために恒温室を備えたインキュベータが一般に用いられている。一般にインキュベータの恒温室には、環境条件(例えば、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度、窒素濃度など)の現在値を検出するセンサと、上記の各パラメータを調整するための環境調整装置とが配置されており、恒温室の内部は所定の環境条件に調整されることとなる。
【0003】
また、特許文献1には、培養容器の搬送装置や顕微鏡ユニットを恒温室内に備え、自動扉を備えた搬出入口から培養容器を出し入れし、培養容器の搬送や試料の観察などを恒温室内で自動的に行うことが可能なインキュベータが開示されている。
【特許文献1】特開2004−180675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のインキュベータでは、恒温室内に搬送装置のモータや顕微鏡ユニットの照明光源などの熱源が配置されているため、培養容器の搬送時や試料の観察時には恒温室内の温度が上昇する。また、搬出入口から培養容器を出し入れする場合、自動扉の開閉によって恒温室内の環境条件が変動することとなる。
しかし、従来のインキュベータでは、上記装置の動作に起因して環境条件の変動が生じた場合には環境条件のパラメータに閾値以上の変化が検出されるまで環境調整装置が動作せず、恒温室内の環境条件に比較的大きなムラが生じやすい点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためのものであって、その目的は、恒温室内において、環境変動要因となる装置の動作に起因した環境条件の変動を著しく抑制できるインキュベータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置され、前記制御部は、前記モータの動作位置に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする。
第3の発明は、第2の発明において、前記モータの動作位置が前記移動機構の動作によって変化し、前記制御部は、前記モータの動作位置の変化に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、前記恒温室内で前記培養容器を照明する照明光源と、前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、前記照明光源の動作に先立って、前記照明光源の照明時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記動作情報に基づいて、前記照明光源の動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記照明光源の動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第4の発明において、前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置されており、前記照明光源の近傍領域に配置される前記温度調整部は他の位置よりも温度変化性能が高く設定されてなることを特徴とする。
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、前記推定変化量出力部は、前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする。
【0010】
第7の発明は、所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、前記恒温室内から前記培養容器を出入するための搬出入口と、前記搬出入口を開閉する自動扉と、前記恒温室内において、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれかから選択される環境パラメータを調整する環境パラメータ調整部と、前記恒温室の内側で前記環境パラメータの値を取得する第1センサ部と、前記恒温室の外側で前記環境パラメータの値を取得する第2センサ部と、前記自動扉の開放動作に先立って、前記自動扉の開放時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差と前記動作情報とに基づいて、前記自動扉の開放による前記環境パラメータの推定変化量を出力する推定変化量出力部と、前記自動扉の動作に同期して、前記推定変化量分の前記環境パラメータの変化を相殺するように前記環境パラメータ調整部を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0011】
第8の発明は、第7の発明において、前記推定変化量出力部は、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境条件の変動を生じさせる装置の動作に同期して、推定変化量分の変化を相殺するように温度等の環境パラメータが調整され、インキュベータ内の環境条件の変動が著しく抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態の説明)
図1および図2は第1実施形態のインキュベータの全体構成を示す概要正面図である。インキュベータは、第1筐体10と、第2筐体11とで構成されている。
第1筐体10は、第2筐体11の上側に積まれている。第1筐体10の内部には、断熱材で覆われた恒温室12が形成されている。第1筐体10の正面側は開口部10aをなしている。そして、この開口部10aは観音開きの正面扉13によって開閉可能に閉塞されている。また、第1筐体10の左側面下寄りの位置には、培養容器14(ウエルプレート、フラスコ、ディッシュ等)が通過可能な搬出入口15が形成されている。この搬出入口15は、駆動機構16によりスライドする自動扉17で開閉可能に閉塞されている。さらに、第1筐体10の底面には、後述の顕微鏡ユニット26の配置用の開口10bが正面からみて右寄りの位置に形成されている。なお、第1筐体10の外側には、恒温室12外部の環境パラメータ(例えば、温度、湿度、二酸化酸素濃度、酸素濃度、窒素濃度など)の値を検出するための外部センサ18が配置されている。
【0014】
図3は恒温室内部の構成を示す正面図である。第1筐体10の各壁面には、ペルチェ素子を備えた温度調整装置19が複数内蔵されている。温度調整装置19は、ペルチェ素子の通電極性を反転させることでペルチェ効果による加熱または冷却を行うことができる。また、各温度調整装置19はそれぞれ独立して温度制御を行うことが可能である。なお、図2において恒温室12の右下隅に位置する顕微鏡ユニット26の配置領域周辺は、顕微鏡ユニット26の発熱により他の位置と比べて熱がこもりやすい。そのため、第1実施形態では顕微鏡ユニットの配置領域の近傍の温度調整装置19は、他の位置の温度調整装置19よりも加熱性能および冷却性能が高く設定されている。
【0015】
また、恒温室12内部の左側面には湿度調整用の噴霧装置20が配置されている。また、恒温室12内部の上面にはガス導入部21が配置されている。ガス導入部21は二酸化炭素ボンベ、酸素ボンベおよび窒素ボンベ(ボンベの図示は省略する)と接続されている。そして、ガス導入部21は各ボンベから恒温室12にガスを導入して、恒温室12内の二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度を調整する。さらに、恒温室12の内側には、恒温室12内部の環境パラメータの値を検出するための内部センサ22が配置されている。
【0016】
第1筐体10の恒温室12内には、ストッカー23と、容器搬送機構24と、容器搬出入機構25と、顕微鏡ユニット26とが収納される。
ストッカー23は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の左側に配置される。図4に示すように、ストッカー23の内部は複数の棚23aで上下に区画されている。そして、ストッカー23には培養容器14を水平に収納できるようになっている。また、ストッカー23の最下段は容器搬出入機構25を配置するスペースとなっている。
【0017】
ここで、第1実施形態では、容器搬送機構24による運搬を容易にするために、培養容器14はトレー状のホルダー27に載置されて取り扱われる。なお、ホルダー27の外周部には外向きに支持片27aが形成されている(図6、図7参照)。
容器搬送機構24は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の中央に配置される。容器搬送機構24は、前後方向に長い長方形状の基台28と、上下方向に延長する垂直フレーム29と、ホルダー27を支持する搬送アーム部30とを有している。
【0018】
基台28には垂直フレーム29が前後方向(Y方向)に移動可能に取り付けられている。この垂直フレーム29のY方向位置は位置センサ31によって検出される。また、基台28の外側には垂直フレーム29をY方向に駆動させるための第1モータ32が固定されている。
垂直フレーム29は平行配置された2本のガイドレールで構成されている。垂直フレーム29の間には搬送アーム部30が上下方向(Z方向)に移動可能に取り付けられている。この搬送アーム部30は垂直フレーム39の一方に内蔵されたネジ軸(不図示)によって移動する。さらに、垂直フレーム29には、搬送アーム部30をZ方向に駆動させるための第2モータ33と、搬送アーム部30のZ方向位置を検出する位置センサ34とが固定されている。なお、第2モータ33の位置は垂直フレーム29の移動に伴ってY方向に変化することとなる。
【0019】
搬送アーム部30は、容器支持部35と、摺動機構部36と、第3モータ37と有している。容器支持部35は、支持片27aを含めたホルダー27の全体の幅よりも若干幅広に設定された本体部35aと、本体部35aの両側縁に形成された1組の引掛爪35bとを有している。引掛爪35bは本体部35aの下側に内向きに対向配置されている。そして、引掛爪35bの先端部同士の相互間隔は、支持片27aを除いたホルダー27の本体部分の幅よりもわずかに大きく設定されている。したがって、容器支持部35は、引掛爪35bと支持片27aとの係合によってホルダー27を支持できるようになっている。
【0020】
摺動機構部36は容器支持部35の上面側に配置されている。摺動機構部36は容器支持部35を左右方向(X方向)に摺動させる。かかる摺動機構部36の動作により、ストッカー23、容器搬出入機構25または顕微鏡ユニット26と容器搬送機構24との間で培養容器14を載置したホルダー27の受け渡しが可能となる。また、摺動機構部36は垂直フレーム29のネジ軸と螺合するナット部36aを有している。さらに、摺動機構36部には、容器支持部35をX方向に駆動させるための第3モータ37が固定されている。なお、第3モータ37の位置は垂直フレーム29の移動に伴ってY方向に変化し、搬送アーム部30の移動に伴ってZ方向に変化することとなる。
【0021】
容器搬出入機構25は、ストッカー23の最下段において搬出入口15の近傍に設置されている。容器搬出入機構25は、ホルダー27を載置可能な搬送テーブル25aと、搬送テーブル25aを搬出入口15の外部へ往復動させるモータユニット25bとを有している。
顕微鏡ユニット26は、第1筐体10の正面からみて恒温室12内の右側に配置される。顕微鏡ユニット26は、培養容器14およびホルダー27を載置する試料台38と、試料台38の上方に張り出した状態で配置される照明装置39とを有している。この顕微鏡ユニット26は第1筐体10の底面の開口10bに嵌め込まれて配置されている。そして、試料台38および照明装置39は第1筐体10の恒温室12内に配置されるが、顕微鏡ユニット26の本体部分は大半が第2筐体11側に収納される。ここで、試料台38は、ホルダー27を水平方向(X方向およびY方向)に移動可能に構成されている。また、照明装置39は培養容器14を上方から照明する。
【0022】
一方、第2筐体11には、上記の顕微鏡ユニット26の本体部分と、制御ユニット40とが格納されている。
制御ユニット40は、CPU41と、動作指示部42と、表示パネル43とを有している。ここで、図8は制御ユニット40とインキュベータ各部との関係を示すブロック図である。CPU41は、駆動機構16、外部センサ18、温度調整装置19、噴霧装置20、ガス導入部21、内部センサ22、容器搬送機構24、容器搬出入機構25、顕微鏡ユニット26と接続されている。そして、CPU41は所定のプログラムに従って上記各部を制御する。
【0023】
動作指示部42はキーボード等の入力手段を有しており、CPU41を介してインキュベータの各部を動作させる。すなわち、CPU41は、動作指示部42からの入力に基づき、恒温室12内の環境パラメータの調整、恒温室12内外への培養容器14の搬出入、培養容器14の試料の観察、恒温室12内での培養容器14の搬送などの動作を実行する。ここで、動作指示部42の指示は、ユーザーの直接入力による指示と、予めプログラムで設定された指示とのいずれもが含まれる。また、表示パネル43はCPU41から出力された恒温室12の環境条件などを出力表示する。
【0024】
以下、第1実施形態のインキュベータの動作を説明する。まず、インキュベータの各部の一般的な動作について簡単に説明する。
インキュベータの動作時には、CPU41は内部センサ22により恒温室12内の環境パラメータの値を監視する。環境パラメータの値に変動がある場合には、CPU41は温度調整装置19、噴霧装置20、ガス導入部21のいずれかを動作させて恒温室12内の環境パラメータの値を一定に調整する。
【0025】
動作指示部42から培養容器14の搬送指示がある場合、CPUは容器搬送機構24の各モータ32,33,37をそれぞれ駆動させてホルダー27上の培養容器14を搬送する。このとき、容器搬送機構24は、(1)ストッカー23内での培養容器14の入れ替え、(2)容器搬出入機構23への培養容器14の受け渡し、(3)顕微鏡ユニット26への培養容器14の受け渡し、のいずれかを実行する。
【0026】
動作指示部42から培養容器14の観察指示がある場合、CPU41は顕微鏡ユニット26を動作させて培養容器14の試料を観察する。このとき、CPU41は顕微鏡ユニット26の照明装置39で試料を照明する。そして、CPU41は動作指示部42からの指示に応じて試料台38を水平方向に移動させる。これにより、培養容器14の任意位置における試料の観察が可能となる。
【0027】
動作指示部42から培養容器14の搬出指示がある場合、CPU41は駆動機構16を動作させて自動扉17を開放する。そして、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを駆動させて搬送テーブル25aの培養容器14およびホルダー27を恒温室12外に搬出する。同様に、動作指示部42から培養容器14の搬入指示がある場合、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを駆動させて搬送テーブル25aの培養容器14およびホルダー27を恒温室12内に搬入する。そして、CPU41は駆動機構16を動作させて自動扉17を閉鎖する。
【0028】
次に、第1実施形態に特有の動作について説明する。上記のように動作指示部42の指示によって、培養容器14の搬出入、試料の観察、培養容器14の搬送などが行われると、モータ等の発熱による温度上昇や、搬出入口15からの外気の流出入による環境パラメータの変動が生じることとなる。そのため、第1実施形態のインキュベータでは、上記の場合においてCPU41が以下の制御を実行する。
【0029】
(モータが動作する場合)
図9は、容器搬送機構24のモータ32,33,37を動作させる場合の温度制御を示す流れ図である。なお、試料台38の動作時、容器搬出入機構25のモータユニット25bの動作時および自動扉17の駆動機構16の動作時にも同様の温度制御が行われるが、以下に述べる図9の場合とほぼ内容が共通するので重複説明は省略する。
【0030】
ステップS101:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して容器搬送機構24の動作指示を行う。
ステップS102:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、容器搬送機構24の各モータ32,33,37の動作情報(位置情報および動作時間の情報)を生成する。ここで、上記の位置情報には、容器搬送機構24において動作するモータの初期位置(動作開始時の位置)の情報と、容器搬送機構24の動作に伴うモータの位置変化の情報とが含まれる。また、動作時間の情報は、容器搬送機構24の動作開始から起算して、どの時点でどのモータがどれだけ作動したかを示している。
【0031】
例えば、上記の位置情報に関し、第1モータ32は移動しないので、CPU41は第1モータ32の初期位置のみを位置情報として生成する。一方、第2モータ33および第3モータ37の位置は容器搬送機構24の動作に伴って移動するので、以下のように位置情報を生成する。
CPU41は位置センサ31の出力から第2モータ33の現在位置を検出して、第2モータ33の初期位置の情報を生成する。また、CPU41は位置センサ31,34の出力から第3モータ37の現在位置を検出して、第3モータ37の初期位置の情報を生成する。
【0032】
次に、CPU41は、第2モータ33の現在位置と動作指示の内容とに基づいて、第2モータ33のY方向の位置変化を演算し、第2モータ33の位置変化の情報を生成する。また、CPU41は、第3モータ37の現在位置と動作指示の内容に基づいて、第3モータ37のY方向、Z方向の位置変化の情報を演算し、第3モータ37の位置変化の情報を生成する。なお、第2モータ33および第3モータ37の位置変化の情報は、所定秒時間隔で一連の動作に対応する複数の位置情報が生成される。
【0033】
ステップS103:CPU41は、容器搬送機構24の動作開始から動作終了までの期間における恒温室12内での温度状態の推定変化量を演算する。具体的には、CPU41は、各モータの動作情報(S102)と、予め設定されている各モータの単位時間当たりの発熱量とに基づいて、所定の状態方程式によって推定変化量を演算する。
また、この推定変化量は恒温室12内に適宜設定される複数の分割領域ごとにそれぞれ別々に演算される。なお、上記の各分割領域での推定変化量は、熱源となるモータの位置関係(初期位置およびモータの移動)やモータの動作状態(各位置でのモータのON/OFF)によって、それぞれ変動することとなる。
【0034】
ステップS104:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて容器搬送機構24の各モータを動作させる。
ステップS105:CPU41は、S104での容器搬送機構24の動作に同期して、温度状態の推定変化量(S103)を相殺するように各温度調整装置19をそれぞれ独立して制御する。これにより、モータの動作時においても、恒温室12内の温度状態はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、容器搬送機構24の動作終了とともに各温度調整装置の制御を終了し、通常の温度制御状態に復帰する。以上で図9の例の説明を終了する。
【0035】
(照明装置の動作による温度制御の場合)
図10は、顕微鏡ユニット26の照明装置39を動作させる場合の温度制御を示す流れ図である。
ステップS201:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して試料観察の動作指示を行う。
【0036】
ステップS202:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、照明装置39の動作情報(照明装置39の配置情報および照明時間の情報)を生成する。
ステップS203:CPU41は、照明装置39の動作開始から動作終了までの期間における恒温室12内での温度状態の推定変化量を演算する。具体的には、CPU41は、照明装置39の動作情報(S202)と、予め設定されている照明装置39の単位時間当たりの発熱量とに基づいて、所定の状態方程式によって推定変化量を演算する。
【0037】
また、この推定変化量は恒温室12内に適宜設定される複数の分割領域ごとにそれぞれ別々に演算される。なお、上記の各分割領域での推定変化量は、照明装置39からの距離と照明時間とによって、それぞれ変動することとなる。
ステップS204:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて照明装置39を点灯させる。そして、CPU41は顕微鏡ユニット26により試料の観察を実行する。
【0038】
ステップS205:CPU41は、S204での照明装置39の点灯に同期して、温度状態の推定変化量(S203)を相殺するように各温度調整装置19をそれぞれ独立して制御する。これにより、照明装置39の点灯時においても、恒温室12内の温度状態はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、容器搬送機構24の動作終了とともにS205での各温度調整装置19の制御を終了し、通常の温度制御状態に復帰する。以上で図10の例の説明を終了する。
【0039】
(搬出入口の開放による環境パラメータ制御の場合)
図11は、搬出入口15の開放による環境パラメータ制御の一例を示す流れ図である。図11の例では、温度、湿度および二酸化炭素濃度を調整する場合を説明する。なお、酸素濃度および窒素濃度の調整の場合は、図11の例において二酸化炭素濃度を調整する場合とほぼ内容が共通するので重複説明は省略する。
【0040】
ステップS301:動作指示部42は、ユーザーの入力または所定のプログラムに従って、CPU41に対して容器搬出(または容器搬入)の動作指示を行う。
ステップS302:CPU41は、外部センサ18および内部センサ22によって、恒温室12内外での環境パラメータ(温度、湿度および二酸化炭素濃度)の値をそれぞれ取得する。そして、CPU41は、恒温室12内外での各環境パラメータの値の差に基づいて、単位時間当たりの各環境パラメータの変動量をそれぞれ演算する。
【0041】
ステップS303:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて、搬出入口15の完全開放時間(搬出入口が完全に開いている時間)の情報を生成する。
ステップS304:CPU41は、搬出入口15の開放から閉鎖までの期間における恒温室12内での各環境パラメータの推定変化量をそれぞれ演算する。具体的には、CPU41は、(1)単位時間当たりの各環境パラメータの変動量(S302)、(2)搬出入口15の完全開放時間(S303)、(3)搬出入口15の開口面積、とに基づいて、所定の状態方程式によって、各環境パラメータの推定変化量を演算する。なお、CPU41は、搬出入口15の開閉時の所要時間および自動扉17の開閉速度の情報に基づいて、自動扉17の開閉時の分についても各環境パラメータの推定変化量を演算するのがより好ましい。
【0042】
ステップS305:CPU41は、動作指示部42の動作指示に基づいて自動扉17の駆動機構16を動作させて搬出入口15を開放する。そして、CPU41は容器搬出入機構25のモータユニット25bを動作させて搬送テーブル25aを恒温室12外に送り出す。
ステップS306:CPU41は、S305での搬出入口15の開放動作に同期して、各環境パラメータの推定変化量(S304)を相殺するように、温度調整装置19、噴霧装置20およびガス導入部21を動作させる。これにより、搬出入口15の開放時においても、恒温室12内の温度、湿度、二酸化炭素濃度はほぼ均一に保たれることとなる。なお、CPU41は、自動扉の閉鎖完了ともに、温度調整装置19等の上記制御を終了し、通常の制御状態に復帰する。以上で図11の例の説明を終了する。
【0043】
なお、上記の図9から図11の説明では、説明の便宜のため各動作がそれぞれ単独で行われる場合のみ説明したが、実際には上記の複数の動作が同時進行的に行われる場合もある。例えば、顕微鏡ユニット26による試料観察時には、照明装置39の照明と試料台28の動作とが同時に行われる場合があり、この場合には照明装置39の発熱を相殺する制御と試料台38のモータの発熱を相殺する制御とがほぼ同時に行われることとなる。なお、第1実施形態では、顕微鏡ユニット26の配置領域の近傍の温度調整装置19は、他の位置の温度調整装置よりも加熱性能および冷却性能が高いので、かかる場合にも通常と同様に顕微鏡ユニット26の近傍の温度調整をすることが可能である。
【0044】
以下、第1実施形態のインキュベータの効果を説明する。
(1)第1実施形態では、容器搬送装置24の各モータ、顕微鏡ユニット26の試料台38、容器搬出入機構25のモータユニット25bまたは自動扉17の駆動機構16が動作する場合にCPU14が温度状態の推定変化量を演算する(S103)。そして、上記のモータの動作に同期して、温度調整装置19が推定変化量を相殺するように恒温室12内の温度を制御する(S105)。
【0045】
したがって、第1実施形態では、モータの動作開始と温度制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかもモータの発熱量に応じた温度制御がなされるため、恒温室12内の温度変化量は大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12内における培養容器14の自動搬送を行いつつ、かつ恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0046】
特に第1実施形態では、動作するモータの位置を考慮して、複数の温度調整装置19が恒温室12内の温度をそれぞれ独立して制御する(S103、S105)。また、モータの位置が移動する場合(第2モータ33および第3モータ37など)には、かかるモータの移動も考慮して恒温室12内の温度制御が実行される(S102、S103)。そのため、恒温室12内における温度ムラの発生が著しく抑制される。
【0047】
(2)第1実施形態では、顕微鏡ユニット26の照明装置39の照明時にCPU41が温度状態の推定変化量を演算する(S203)。そして、上記の照明装置39の動作に同期して、温度調整装置19が推定変化量を相殺するように恒温室12内の温度を制御する(S205)。
したがって、第1実施形態では、照明装置39の照明開始と温度制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかも照明装置39の発熱量に応じた温度制御がなされるため、恒温室12内の温度変化量は大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12内で試料の顕微鏡観察を行う場合において、恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0048】
(3)第1実施形態では、搬出入口15の開放時にCPU41が各環境パラメータの推定変化量を演算する(S304)。そして、上記の照明装置39の動作に同期して、温度調整装置19等が推定変化量を相殺するように恒温室内の環境パラメータを制御する(S306)。
したがって、第1実施形態では、搬出入口15の開放と各環境パラメータの制御開始との時間差が極めて少なくなり、しかも搬出入口15の開放による環境パラメータの変動に応じた環境条件の制御がなされるため、恒温室12内での環境条件の変化量が大幅に低減する。すなわち、第1実施形態のインキュベータでは、恒温室12から培養容器14の自動搬出入を行う場合において、恒温室12内の温度環境をほぼ一定に保つことが比較的容易に実現できる。
【0049】
(第2実施形態の説明)
図12は第2実施形態における制御ユニット40とインキュベータ各部との関係を示すブロック図である。第2実施形態は第1実施形態の変形例であって、制御ユニット40以外の構成は第1実施形態とほぼ共通する。そのため、第2実施形態において第1実施形態と共通の構成には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0050】
第2実施形態の制御ユニット40では、メモリ44がCPUに接続されている。メモリ44には、(1)各モータの動作情報と温度状態の推定変化量との対応関係を示すルックアップテーブル(LUT)と、(2)照明装置39の動作情報と温度状態の推定変化量との対応関係を示すLUTと、(3)単位時間当たりの各環境パラメータの変動量および搬出入口15の完全開放時間と環境パラメータの推定変化量との対応関係を示すLUTと、が格納されている。
【0051】
ここで、上記(1)のLUTは、インキュベータの各モータに対応するLUTが用意されている。また、上記(3)のLUTは、制御する環境パラメータごとにそれぞれ対応するLUTが用意されている。
第2実施形態では、CPU41はメモリ44のLUTによって推定変化量を取得する。そのため、第2実施形態では、第1実施形態とほぼ同様の効果に加え、CPU41の演算負荷の減少や、CPU41の回路規模の簡略化などを実現することができる。なお、第2実施形態では、モータ動作時などに実際の環境パラメータの変動を内部センサ22でサンプリングし、CPU41がメモリ44のLUTのデータを実測値に基づいて修正することも可能である。
【0052】
(実施形態の補足事項)
以上、本発明を上記の実施形態によって説明してきたが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような形態であってもよい。
(1)本発明のインキュベータは、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のすべてを調整可能な構成に限定されることはない。例えば、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれか1つまたは2つを調整可能なインキュベータも本発明の技術的範囲に当然に含まれる。
【0053】
(2)本発明の各部の構成は実施形態に限定されることはない。例えば、本発明の温度調整装置は、ヒータユニットと冷媒循環システムの組み合わせ等の他の公知の装置で実現してもよい。また、本発明で湿度を調整する環境パラメータ調整部は、加湿水を貯溜する加湿皿と、加湿皿の水温を制御する温度調整装置とで構成するようにしてもよい(いずれも図示を省略する)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態のインキュベータの正面図
【図2】図1において第1筐体を正面扉を開けた状態を示す図
【図3】恒温室内部の構成を示す正面図
【図4】筐体側面方向からのストッカーの容器収納状態を示す図
【図5】(a)筐体正面方向からの容器搬送機構の概要図、(b)筐体平面方向からの容器搬送機構の概要図
【図6】搬送アーム部の構成を示す正面図
【図7】搬送アーム部の構成を示す側面図
【図8】第1実施形態での制御ユニットのブロック図
【図9】容器搬送機構のモータを動作させる場合の温度制御を示す流れ図
【図10】顕微鏡ユニットの照明装置を動作させる場合の温度制御を示す流れ図
【図11】搬出入口の開放による環境パラメータ制御の一例を示す流れ図
【図12】第2実施形態での制御ユニットのブロック図
【符号の説明】
【0055】
12…恒温室、14…培養容器、15…搬出入口、16…駆動機構、17…自動扉、18…外部センサ、19…温度調整装置、20…噴霧装置、21…ガス導入部、22…内部センサ、24…容器搬送機構、25…容器搬出入機構、25b…モータユニット、26…顕微鏡ユニット、32…第1モータ、33…第2モータ、37…第3モータ、38…試料台、39…照明装置、40…制御ユニット、41…CPU、42…動作指示部、44…メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、
前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、
前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置され、
前記制御部は、前記モータの動作位置に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
前記モータの動作位置が前記移動機構の動作によって変化し、
前記制御部は、前記モータの動作位置の変化に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする請求項2に記載のインキュベータ。
【請求項4】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
前記恒温室内で前記培養容器を照明する照明光源と、
前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、
前記照明光源の動作に先立って、前記照明光源の照明時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記動作情報に基づいて、前記照明光源の動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記照明光源の動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項5】
前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置されており、前記照明光源の近傍領域に配置される前記温度調整部は他の位置よりも温度変化性能が高く設定されてなることを特徴とする請求項4に記載のインキュベータ。
【請求項6】
前記推定変化量出力部は、前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインキュベータ。
【請求項7】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
前記恒温室内から前記培養容器を出入するための搬出入口と、
前記搬出入口を開閉する自動扉と、
前記恒温室内において、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれかから選択される環境パラメータを調整する環境パラメータ調整部と、
前記恒温室の内側で前記環境パラメータの値を取得する第1センサ部と、
前記恒温室の外側で前記環境パラメータの値を取得する第2センサ部と、
前記自動扉の開放動作に先立って、前記自動扉の開放時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差と前記動作情報とに基づいて、前記自動扉の開放による前記環境パラメータの推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記自動扉の動作に同期して、前記推定変化量分の前記環境パラメータの変化を相殺するように前記環境パラメータ調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項8】
前記推定変化量出力部は、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする請求項7に記載のインキュベータ。
【請求項1】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
モータによって前記恒温室内で前記培養容器の位置を移動させる移動機構と、
前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、
前記モータの動作に先立って、前記モータの動作位置および動作時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記動作情報に基づいて、前記モータの動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記モータの動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置され、
前記制御部は、前記モータの動作位置に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
前記モータの動作位置が前記移動機構の動作によって変化し、
前記制御部は、前記モータの動作位置の変化に基づいて各温度調整部の出力をそれぞれ独立して変化させることを特徴とする請求項2に記載のインキュベータ。
【請求項4】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
前記恒温室内で前記培養容器を照明する照明光源と、
前記恒温室内の温度を調整する温度調整部と、
前記照明光源の動作に先立って、前記照明光源の照明時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記動作情報に基づいて、前記照明光源の動作による温度状態の推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記照明光源の動作に同期して、前記推定変化量分の温度変化を相殺するように前記温度調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項5】
前記温度調整部は前記恒温室内でそれぞれ異なる位置に複数配置されており、前記照明光源の近傍領域に配置される前記温度調整部は他の位置よりも温度変化性能が高く設定されてなることを特徴とする請求項4に記載のインキュベータ。
【請求項6】
前記推定変化量出力部は、前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインキュベータ。
【請求項7】
所定の環境条件に調整された恒温室を備え、該恒温室内で培養容器の試料を培養するインキュベータであって、
前記恒温室内から前記培養容器を出入するための搬出入口と、
前記搬出入口を開閉する自動扉と、
前記恒温室内において、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度および窒素濃度のいずれかから選択される環境パラメータを調整する環境パラメータ調整部と、
前記恒温室の内側で前記環境パラメータの値を取得する第1センサ部と、
前記恒温室の外側で前記環境パラメータの値を取得する第2センサ部と、
前記自動扉の開放動作に先立って、前記自動扉の開放時間に関する動作情報を生成する動作情報生成部と、
前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差と前記動作情報とに基づいて、前記自動扉の開放による前記環境パラメータの推定変化量を出力する推定変化量出力部と、
前記自動扉の動作に同期して、前記推定変化量分の前記環境パラメータの変化を相殺するように前記環境パラメータ調整部を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項8】
前記推定変化量出力部は、前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報と前記推定変化量との対応関係を記録した記録手段、または前記恒温室の内外での前記環境パラメータの差および前記動作情報に基づき前記推定変化量を演算する演算手段のいずれかで構成されることを特徴とする請求項7に記載のインキュベータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−6841(P2007−6841A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194197(P2005−194197)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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