説明

インキュベータ

【課題】滅菌温度の過昇に対してだけではなく、培養温度の過昇に対しても過昇防止動作を行うことのできるインキュベータを簡単な構成により実現する。
【解決手段】庫内を加熱するヒータと、庫内の温度を検出する温度センサと、この温度センサの出力を受け庫内の温度を所定の目標温度に維持するように前記ヒータを駆動する温度調節部とを有してなるインキュベータにおいて、前記庫内の温度または前記ヒータの発熱温度を検出し、この温度が所定の動作温度に達した時に前記ヒータの駆動を停止させる過昇防止回路と、前記温度調節部に対して目標温度を設定するとともに前記過昇防止回路の動作温度を選択する制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞等を培養する際に、一定の環境を生成し、維持するインキュベータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養する環境は、主に温度、湿度、CO2の3つの指標で管理される。例えば、温度について言えば、庫内を加熱するヒータと、庫内の温度を検出する温度センサと、この温度センサの出力を受け、庫内の温度を所定の目標温度に維持するように前記ヒータを駆動する温度調節部とを有しており、設定された温度で、庫内の培養環境を維持する。
【0003】
【特許文献1】特開2006−014675号公報
【0004】
ここで、インキュベータにおいては、環境制御の他に、インキュベータ内の滅菌(殺菌)も重要な動作であり、従来は紫外線による滅菌、または、90℃前後の加熱による低温殺菌を行っている。
【0005】
一般に、細胞を培養する温度は大よそ42℃以下であり、滅菌温度は100℃前後である。温度調節部はこの2つの温度を目標温度として、適宜、庫内の温度を調節する。
また、温度センサの故障などによる庫内の温度の過昇を防止するために、サーモスタットなどを用いた過昇防止回路が設けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このサーモスタットは、通常、庫内の最も高い温度(滅菌温度)に基づく保護動作を行うものであり、培養動作中の培養温度の過昇に対する保護動作を行うことはできない。
すなわち、滅菌動作中に庫内の温度が上昇した場合には、滅菌温度を大きく超えた時点(例えば、100℃)でサーモスタットが動作して、ヒータの駆動を停止するが、培養動作中に庫内の温度が上昇した場合には、所定の培養限界温度(例えは、42℃)を超えても、サーモスタットは動作せず、培養中の細胞を死滅させてしまうことになる。
【0007】
本発明は、上記のような従来装置の欠点をなくし、滅菌温度の過昇に対してだけではなく、培養温度の過昇に対しても過昇防止動作を行うことのできるインキュベータを簡単な構成により実現することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、請求項1の発明は、庫内を加熱するヒータと、庫内の温度を検出する温度センサと、この温度センサの出力を受け庫内の温度を所定の目標温度に維持するように前記ヒータを駆動する温度調節部とを有してなるインキュベータにおいて、前記庫内の温度または前記ヒータの発熱温度を検出し、この温度が所定の動作温度に達した時に前記ヒータの駆動を停止させる過昇防止回路と、前記温度調節部に対して目標温度を設定するとともに前記過昇防止回路の動作温度を選択する制御部とを有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のインキュベータにおいて、前記過昇防止回路は、少なくとも2つの動作温度を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載のインキュベータにおいて、前記過昇防止回路は、第1の動作温度に設定された第1のサーモスタットと、この第1のサーモスタットと直列に接続され第2の動作温度に設定された第2のサーモスタットと、より低い動作温度側のサーモスタットの両端間を選択的に短絡するスイッチ回路とより構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載のインキュベータにおいて、前記制御部は、前記温度調節部に設定する目標温度に応じて、前記スイッチ回路の開閉を制御することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項2乃至4のいずれかに記載のインキュベータにおいて、前記過昇防止回路における動作温度は、それぞれ培養温度および滅菌温度を基準として設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように、過昇防止回路を、第1の動作温度に設定された第1のサーモスタットと、この第1のサーモスタットと直列に接続され第2の動作温度に設定された第2のサーモスタットと、より低い動作温度側のサーモスタットの両端間を選択的に短絡するスイッチ回路とより構成するとともに、この第1および第2の動作温度をそれぞれ培養温度および滅菌温度を基準として設定すると、滅菌動作時の温度上昇に対しては、低温側に設定されたサーモスタットの両端間を短絡することにより、高温側に設定されたサーモスタットのみを動作させ、培養動作時の温度上昇に対しては、低温側に設定されたサーモスタットを先に動作させることができ、滅菌温度の過昇に対してだけではなく、培養温度の過昇に対しても過昇防止動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明のインキュベータを説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明のインキュベータの一実施例を示す構成説明図である。図1(a)は平面図、図1(b)は縦断面図である。図に示すように、円筒形の容器1の側面には扉11が設けられている。また、容器1の上面および底面を含む外周には、ヒータ2が貼り付けられており、容器1を加熱している。ヒータ2には、例えば、シリコンラバーヒータが使用される。
【0016】
庫内(容器内)の温度は温度センサ3により検出される。また、ヒータ2には、第1のサーモスタット4および第2のサーモスタット5が取り付けられている。
なお、第1のサーモスタット4および第2のサーモスタット5は、庫内またはヒータ2の温度を感知して動作するものであり、その取付位置は図示の位置に限られるものではない。
【0017】
図2は、本発明のインキュベータにおける回路構成の一例を示す回路図である。電力源10(例えばAC100V)、温度調節部20、温度センサ3、ヒータ2により、庫内の温度を所定の目標温度に維持する温調システムを構成する。また、庫内温度の過昇を防止するために、第1のサーモスタット4、第2のサーモスタット5、およびスイッチ回路6からなる過昇防止回路30が付加されている。
【0018】
過昇防止回路30において、第1のサーモスタット4は、その動作温度が培養温度を基準として、例えば、培養限界温度の42℃に設定されている。また、第2のサーモスタット5は、その動作温度が滅菌温度を基準として、例えば、100℃に設定されている。
スイッチ回路6は、低温側のサーモスタット(第1のサーモスタット4)と並列に接続され、その両端間を選択的に短絡する。
【0019】
制御部40は、温度調節部20に対して目標温度を設定するとともに、過昇防止回路30の動作温度を選択する。
過昇防止回路30における動作温度の選択は、スイッチ回路6の開閉を制御することにより行われる。
【0020】
このように構成されたインキュベータの動作は、次の通りである。
まず、培養動作時においては、制御部40は、温度調節部20の目標温度(培養温度)を、例えば、37℃に設定する。また、過昇防止回路30におけるスイッチ回路6を開の状態とする。したがって、過昇防止回路30においては、第1のサーモスタット4と第2のサーモスタット5とが直列に挿入されることになるが、より低温側のサーモスタット(第1のサーモスタット4)の動作温度(42℃)が、過昇防止回路30の実質的な動作温度となる。
【0021】
温度調節部20は、温度センサ3の出力を受け、庫内の温度が目標温度の37℃となるように、ヒータ2を駆動(自動制御)する。
したがって、庫内は、培養に最適な温度(37℃)に維持される。
【0022】
ここで、温度センサ3の故障などにより、庫内の温度が上昇した場合には、庫内温度が42℃に達した時点で第1のサーモスタット4が動作し、ヒータ2への電力供給を遮断する。
【0023】
このため、庫内温度が培養限界の42℃を超えてしまうことがなく、培養中の細胞を死滅などから守ることができる。
なお、過昇防止回路30(第1のサーモスタット4)の動作と連動して、警報などを発生することが効果的である。
【0024】
次に、滅菌動作においては、制御部40は、温度調節部20の目標温度(滅菌温度)を、例えば、95℃に設定する。また、過昇防止回路30におけるスイッチ回路6を閉の状態とする。したがって、過昇防止回路30においては、第1のサーモスタット4が短絡され、第2のサーモスタット5のみが挿入されることになる。このため、高温側のサーモスタット(第2のサーモスタット5)の動作温度(100℃)が、過昇防止回路30の実質的な動作温度となる。
【0025】
温度調節部20は、温度センサ3の出力を受け、庫内の温度が目標温度の95℃となるように、ヒータ2を駆動(自動制御)する。
したがって、庫内は、滅菌に必要な温度(95℃)に維持される。
【0026】
ここで、温度センサ3の故障などにより、庫内の温度が上昇した場合には、庫内温度が100℃に達した時点で第2のサーモスタット5が動作し、ヒータ2への電力供給を遮断する。
【0027】
このため、庫内温度が100℃を超えてしまうことがなく、ヒータ2やインキュベータ自身を過熱による危険から守ることができる。
なお、庫内温度が42℃に達した時点で第1のサーモスタット4が動作して、その接点が開となるが、第1のサーモスタット4の両端間はスイッチ回路6により短絡されているので、第1のサーモスタット4がヒータ2への電力供給を遮断してしまうことはない。
【0028】
ここで、スイッチ回路6には、安全のためにフェードセーフ(故障時はOFF状態になる)タイプのものが用いられる。
【0029】
このように、滅菌温度の過昇に対してだけではなく、培養温度の過昇に対しても過昇防止動作を行うことのできるインキュベータを実現することができる。
【実施例2】
【0030】
図3は、過昇防止回路30の他の実施例を示す回路図である。図に示す例は、過昇防止回路30に3つの動作温度を持たせたものである。
例えば、インキュベータに滅菌温度、第1の培養温度および第2の培養温度の如き、3つの目標温度を持たせた場合、過昇防止回路30においても、これらの目標温度に応じて3つの動作温度で保護動作を行うことが望ましい。
【0031】
温度調節部20に設定される目標温度が、30℃(第1の培養温度)、37℃(第2の培養温度)、95℃(滅菌温度)であった場合、第1のサーモスタット41の動作温度T1は35℃、第2のサーモスタット42の動作温度T2は42℃、第3のサーモスタット51の動作温度T3は100℃に設定され、これら第1〜第3のサーモスタット41、42、51は直列に挿入される。
【0032】
また、スイッチ回路61、62は、それぞれ低温側のサーモスタット41、42に並列に接続され、その両端間を選択的に短絡する。
【0033】
制御部40は、前記した図2と同様に、温度調節部20に対して目標温度を設定するとともに、過昇防止回路30の動作温度(T1、T2、T3)を選択する。
【0034】
制御部40において、各動作状態に応じた動作は、次の通りである。
培養動作時において、温度調節部20の目標温度を、第1の培養温度(30℃)に設定した場合には、過昇防止回路30におけるスイッチ回路61、62を共に開の状態とする。したがって、過昇防止回路30においては、第1〜第3のサーモスタット41、42、51が直列に挿入されることになり、より低温側のサーモスタット(第1のサーモスタット41)の動作温度T1(35℃)が、過昇防止回路30の実質的な動作温度となる。
【0035】
また、培養動作時において、温度調節部20の目標温度を、第2の培養温度(37℃)に設定した場合には、過昇防止回路30におけるスイッチ回路61を閉の状態とし、スイッチ回路62を開の状態とする。したがって、過昇防止回路30においては、第1のサーモスタット41の両端間が短絡された状態となり、残りのサーモスタット42、51のうち、より低温側のサーモスタット(第2のサーモスタット42)の動作温度T2(42℃)が、過昇防止回路30の実質的な動作温度となる。
【0036】
さらに、滅菌動作において、温度調節部20の目標温度を、滅菌温度(95℃)に設定した場合には、過昇防止回路30におけるスイッチ回路61、62を共に閉の状態とする。したがって、過昇防止回路30においては、第1および第2のサーモスタット41、42が短絡され、第3のサーモスタット51のみが挿入されることになり、高温側のサーモスタット(第3のサーモスタット51)の動作温度T3(100℃)が、過昇防止回路30の実質的な動作温度となる。
【0037】
このように、サーモスタットとその両端間を選択的に短絡するスイッチ回路との組み合わせを適宜増設するように構成すると、任意の数の動作温度で、過昇防止回路30を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のインキュベータの一実施例を示す構成説明図である。
【図2】本発明のインキュベータにおける回路構成の一例を示す回路図である。
【図3】過昇防止回路30の他の実施例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0039】
1 容器
11 扉
2 ヒータ
3 温度センサ
4、41、42、5、51 サーモスタット
6、61、62 スイッチ回路
10 電力原
20 温度調節部
30 過昇防止回路
40 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
庫内を加熱するヒータと、庫内の温度を検出する温度センサと、この温度センサの出力を受け庫内の温度を所定の目標温度に維持するように前記ヒータを駆動する温度調節部とを有してなるインキュベータにおいて、
前記庫内の温度または前記ヒータの発熱温度を検出し、この温度が所定の動作温度に達した時に前記ヒータの駆動を停止させる過昇防止回路と、
前記温度調節部に対して目標温度を設定するとともに前記過昇防止回路の動作温度を選択する制御部とを有することを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
前記過昇防止回路は、少なくとも2つの動作温度を有することを特徴とする請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
前記過昇防止回路は、第1の動作温度に設定された第1のサーモスタットと、この第1のサーモスタットと直列に接続され第2の動作温度に設定された第2のサーモスタットと、より低い動作温度側のサーモスタットの両端間を選択的に短絡するスイッチ回路とより構成されたことを特徴とする請求項2に記載のインキュベータ。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度調節部に設定する目標温度に応じて、前記スイッチ回路の開閉を制御することを特徴とする請求項3に記載のインキュベータ。
【請求項5】
前記過昇防止回路における動作温度は、それぞれ培養温度および滅菌温度を基準として設定されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のインキュベータ。





























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−153502(P2009−153502A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338685(P2007−338685)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】