説明

インキング方法及び装置

【課題】 平板状の版に効率よくインキングを行う。
【解決手段】 オフセット印刷装置の架台8上の所要個所に、インク戻しブレード17と、インク充填ブレード18と、インク掻き取りブレード19を、版テーブル11に保持される版10よりも所要寸法上方となる退避高さに順に並べて配置して支持フレーム20に支持させる。各ブレード17,18,19に、個別の昇降用アクチュエータ21,22,23を備える。版10を保持した版テーブル11を一方向に走行させながら、版10上のインク溜り25のインクをインク充填ブレード18で版10に充填した後、インク掻き取りブレード19で余剰インクの掻き取りを行うことで、適正量のインキングを行った版10を印刷に供させる。その後、版テーブル11を反対方向へ走行させながら版10にインク戻しブレード17を接触させて、インク溜り25を初期位置まで戻させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版にインキングを行うために用いるインキング方法及び装置に関するもので、特に平板状の版に効率よくインキングを行うためのインキング方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の電極パターン(導電パターン)を所要の基板上に形成する手法として、金属蒸着膜のエッチング等による微細加工に代えて、導電性ペーストを印刷インクとして用いた印刷技術、たとえば、凹版オフセット印刷技術を用いて基板上に電極パターンを印刷して形成する手法が提案されてきている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
上記液晶ディスプレイ等の電極パターンを基板に形成する場合は、電極幅として、たとえば、10μm程度と微細なものが要求されることがある。更に、基板上に複数の電極パターンを重ね合わせて形成することがあり、この場合は版を代えて電極パターンの重ね刷りを行うことになるが、印刷位置がずれると電極パターンが崩れてしまうことから、精度は対象によって多少異なるが、上記電極幅を10μm程度とするような精細な電極パターンでは、重ね合わせずれを数μmに抑えることが必要とされることもある。そのため、上記基板上への電極パターンの印刷は、紙等に文字や画像を印刷する通常の凹版オフセット印刷に比して高い印刷精度が要求される。
【0004】
なお、紙への印刷を行う場合は、凹版として、ロール版(円筒凹版)が使用されることが多い。この種のロール版を用いる場合は、一般に、図9に示すように、ロール版1の外周面における周方向の1個所にブレード2を接触させた状態で、上記ロール版1を回転させるようにすることで、上記ロール版1の外周面に接するブレード2のロール回転方向上流側に臨む面部に溜められたインク溜り3のインクを、上記ブレード2によりロール版1の凹部分へ充填すると同時に、該ブレード2により不要のインク(インクの余剰分)を上記ロール版1の表面から掻き取るようにすることで、該ロール版1に対するインキングを行うようにしてある。
【0005】
この種のインキング手法では、上記ロール版1が1回転すると、インキングが完了すると同時に、次のインキングの開始が可能な状態となる。上記ロール版1の凹部分へ充填されるインクの量は微量であり、インク溜り3のインクは、数百枚のオーダーで連続印刷するまで補充する必要がないようにしてあることが多い。
【0006】
ところで、版と印刷対象は同じ形状としたほうが、オフセット印刷による転写と再転写による印刷パターンの再現性が高いため、前述したような基板へ電極パターンのような精密な印刷パターンの印刷を行う場合は、平板状の版を用いることが有利に働く。
【0007】
そこで、上記のような凹版印刷法を適用したカラーフィルタ基板の製造に関して、平板状の版の凹部分にインクを充てんするインキングの精度を高めるためのインキング手法の1つとしては、従来一枚のブレードで版へのインクの充填と、不要(余剰)インクの除去を行っていた方式に代えて、図10に示すように、インク充填専用のインク(インキ)充填ブレード4と、不要(余剰)インク除去専用のインク(インキ)掻き取りブレード5を備え、且つ上記インク充填ブレード4と、上記インク掻き取りブレード5を、一定の間隔を隔てた状態を保持したまま一体的に平板状の版6上にて同方向に移動させるようにして、インク7の版6への充填と、該版6上の不要インクの除去を同時に行うようにする手法が従来提案されている。又、上記インク充填ブレード4に代えて、図示しないインク(インキ)充填ローラを用いることも提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2797567号公報
【特許文献2】特許第3904433号公報
【特許文献3】特開2008−64996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記図10に示したインキング手法では、インキング開始時には、版6における上記インク充填ブレード4とインク掻き取りブレード5の移動方向の上流側端縁部となる一端縁部に、上記インク充填ブレード4を用いて版6の凹部分へ充填するためのインク7を予め載せておく必要がある、したがって、上記版6へのインキングを行うたびに、該版6の一端縁部にインク7を供給する必要が生じてしまう。又、インキング終了時には、上記版6における上記各ブレード4,5の移動方向の下流側端縁部となる他端縁部にインク溜りが生じるため、このインク溜りを定期的に除去する作業が必要になるというのが実状である。
【0010】
更に、電極パターンのような精密な印刷パターンを印刷するときには、精密さが要求されるため、版のサイズはできるだけ小さくすることが望ましく、又、版の製作コストの面からも、版のサイズはできるだけ小さくすることが望まれるが、上記図10に示したインキング手法では、インキングの有効範囲は、上記インク充填ブレード4とインク掻き取りブレード5の双方が版6上を移動する範囲となるため、上記版6における上記各ブレード4,5の移動方向上流側及び下流側の両端縁部には、印刷パターンが形成されている版6としての有効範囲の外側に、インク充填ブレード4とインク掻き取りブレード5との間に設けてある間隔の寸法に対応させたスペースを設ける必要があり、そのために、上記版6のサイズが大きくなるという問題もある。
【0011】
しかも、一般に、電極パターンのような印刷パターンは、直交する2方向に沿って線が配列されることが多いために、版のインキング時における該版とインクの充填や掻き取りに用いるブレードとの相対的な移動方向に沿って延びる線を多く備えた印刷パターンが設けられている版に対し、繰り返しインキングを行うと、ブレードの一部のみに摩耗が生じてしまい、部分的な充填もれや掻き取り残りが発生する可能性も懸念される。
【0012】
そこで、本発明は、平板状の版に対してインキングを行うときに、インキングを行う度ごとに毎回インクの供給を行う必要がなく、又、インク溜りの定期的な除去作業を不要にできると共に、版のサイズの縮小化を図ることができ、更には、ブレードの一部のみに摩耗が生じる虞を未然に防止できて、部分的な充填もれや掻き取り残りが発生する虞を未然に防止することが可能なインキング方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを、該版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク充填ブレードにより版の他端縁部まで移動させながら版に充填させ、次いで、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク掻き取りブレードにより上記版に充填されたインクの余剰分を掻き取って版の他端縁部まで移動させることで該版へのインキングを行うようにし、更に、印刷に供された後の上記版の他端縁部の上側に形成されているインク溜りのインクを、版の他端縁部より一端縁部へ摺動させるインク戻しブレードにより上記版の一端縁部まで移動させて次回のインキングに供させるようにするインキング方法とする。
【0014】
又、上記において、版を保持して各ブレードの下方を走行する版テーブルが一方向に走行するとき、インク充填ブレードとインク掻き取りブレードを、上記版テーブルに保持された版の一端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版にそれぞれ接触させると共に、該版の他端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版よりそれぞれ離反させるようにし、更に、上記版テーブルを逆方向へ走行させるときに、インク戻しブレードを、該版テーブルに保持された版の他端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版に接触させると共に、該版の一端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版より離反させるようにする。
【0015】
更に、上記各構成において、各ブレードを版に対する摺動方向に対して斜めに配置した状態で版と摺動させるようにする。
【0016】
更に又、上記各構成において、各ブレードを版に摺動させるときに該各ブレードを幅方向に往復移動させるようにする。
【0017】
又、請求項5に対応して、版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて該版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを版に充填するためのインク充填ブレードと、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて上記インク充填ブレードにより版に充填されたインクの余剰分を掻き取るためのインク掻き取りブレードと、上記版の他端縁部より一端縁部へ摺動させて上記各ブレードにより版の他端縁部まで移動させられたインク溜りを該版の一端縁部まで戻すためのインク戻しブレードとを、個別の昇降用アクチュエータにより上記版に接する位置から所要寸法離反する位置まで独立して昇降できるようにしてなる構成を有するインキング装置とする。
【0018】
更に、上記構成において、各昇降用アクチュエータによる各ブレードの昇降と、版を保持して上記各ブレードの下方を走行する版テーブルの移動とを同期制御するコントローラを備えるようにした構成とする。
【0019】
更に又、上記各構成において、各ブレードの平面的な配置を、該各ブレードの版に対する摺動方向に対して斜めに配置するようにした構成とする。
【0020】
上述の各構成において、各ブレードを、幅方向に往復移動させながら版に摺動させるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを、該版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク充填ブレードにより版の他端縁部まで移動させながら版に充填させ、次いで、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク掻き取りブレードにより上記版に充填されたインクの余剰分を掻き取って版の他端縁部まで移動させることで該版へのインキングを行うようにし、更に、印刷に供された後の上記版の他端縁部の上側に形成されているインク溜りのインクを、版の他端縁部より一端縁部へ摺動させるインク戻しブレードにより上記版の一端縁部まで移動させて次回のインキングに供させるようにするインキング方法、及び、版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて該版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを版に充填するためのインク充填ブレードと、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて上記インク充填ブレードにより版に充填されたインクの余剰分を掻き取るためのインク掻き取りブレードと、上記版の他端縁部より一端縁部へ摺動させて上記各ブレードにより版の他端縁部まで移動させられたインク溜りを該版の一端縁部まで戻すためのインク戻しブレードとを、個別の昇降用アクチュエータにより上記版に接する位置から所要寸法離反する位置まで独立して昇降できるようにしてなる構成を有するインキング装置としてあるので、版に形成された印刷パターンに対して適正量のインクのインキングを効率よく行うことができる。
(2)更に、各ブレード同士の配置間隔に依存することなく、上記インク充填ブレードとインク掻き取りブレードを版より離反させる位置と、インク戻しブレードを版に接触させる位置を近づけて設定できると共に、インク戻しブレードを版より離反させる位置と、インク充填ブレードとインク掻き取りブレードを版に接触させる位置を近づけて設定できるため、版上にインク溜りを形成させるために印刷パターンが形成された領域の外部に設ける余白のスペースを削減することが可能になり、よって、版のサイズの縮小化を図ることができる。
(3)しかも、版に対してインキングを行う度ごとに毎回インクの供給を行う必要がなく、又、インク溜りのインクを連続的にインキングに利用できて、インク溜りの定期的な除去作業を不要にすることができる。
(4)版を保持して各ブレードの下方を走行する版テーブルが一方向に走行するとき、インク充填ブレードとインク掻き取りブレードを、上記版テーブルに保持された版の一端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版にそれぞれ接触させると共に、該版の他端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版よりそれぞれ離反させるようにし、更に、上記版テーブルを逆方向へ走行させるときに、インク戻しブレードを、該版テーブルに保持された版の他端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版に接触させると共に、該版の一端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版より離反させるようにするインキング方法、及び、各昇降用アクチュエータによる各ブレードの昇降と、版を保持して上記各ブレードの下方を走行する版テーブルの移動とを同期制御するコントローラを備えるようにした構成を有するインキング装置とすることにより、上記版を保持した版テーブルの往復動に伴って、版へのインキングと、版上のインク溜りを当初位置へ戻す操作を行うことができるため、スムーズな連続印刷を行うことが可能になる。
(5)各ブレードを版に対する摺動方向に対して斜めに配置した状態で版と摺動させるようにすることにより、電極パターンのような印刷パターンは、直交する2方向に沿って線が配列されることが多いが、このような印刷パターンの線に対して上記各ブレードを斜めに当てることができるため、各ブレードの下端部が版の印刷パターンに設けられている線に対して乗り上げる虞を未然に防止して、該各ブレードや版の印刷パターンに損傷が生じる虞を未然に防止できる。
(6)各ブレードを版に摺動させるときに該各ブレードを幅方向に往復移動させるようにすることにより、該各ブレードに部分的な摩耗が発生する虞を未然に防止できるため、ブレード交換までの期間を延長する効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のインキング方法に用いる本発明のインキング装置の実施の一形態を示す概略側面図である。
【図2】図1のインキング装置を適用したオフセット印刷装置の全体構造を示す概略側面図である。
【図3】図1のインキング装置に備えるコントローラの制御構成を示す概要図である。
【図4】図1のインキング装置を用いた本発明のインキング方法の実施手順を示すもので、(イ)は版の所定個所にインク充填ブレードを接触させた状態を、(ロ)は版の所定個所にインク掻き取りブレードを接触させた状態をそれぞれ示す概略側面図である。
【図5】図1のインキング装置を用いた本発明のインキング方法の実施手順として、図4(ロ)に続く手順を示すもので、(イ)は版の所定個所にてインク充填ブレードを離反させた状態を、(ロ)は版の所定個所にてインク掻き取りブレードを離反させた状態をそれぞれ示す概略側面図である。
【図6】図1のインキング装置を用いた本発明のインキング方法の実施手順として、図5(ロ)に続く手順を示すもので、版の所定個所にインク戻しブレードを接触させた状態を示す概略側面図である。
【図7】図1のインキング装置を用いた本発明のインキング方法の実施手順として、図6に続く手順を示すもので、版の所定個所よりインク戻しブレードを離反させた状態を示す概略側面図である。
【図8】本発明の実施の他の形態の要部を示す概略平面図である。
【図9】ロール版に対するブレードを用いたインキング手法の一例を示す概要図である。
【図10】平板状の版に対するインキングの精度を高めるために従来提案されているインキング手法の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1乃至図7は本発明のインキング方法及び装置の実施の一形態として、たとえば、図2に示す如き形式のオフセット印刷装置に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0025】
すなわち、ここで、図2に示したオフセット印刷装置について概説すると、該オフセット印刷装置は、架台8と、該架台8上に設けたガイドレール9と、該ガイドレール9に沿って独立して往復動(走行)できるようにした版10を保持する版テーブル11及び印刷対象となる基板12を保持する基板テーブル13を備え、且つ昇降用アクチュエータ16により昇降可能なブランケットロール15を有する転写機構部14を備えてなる構成として、上記転写機構部14のブランケットロール15を上記ガイドレール9上を走行する版テーブル11に保持させた版10に上方より接触させ、次いで、上記ブランケットロール15を上記ガイドレール9上を走行する基板テーブル13に保持させた基板12に上方より接触させることで、上記版10からブランケットロール15への転写と、ブランケットロール15から印刷対象となる上記基板12への再転写を行わせるようにしてある。
【0026】
上記構成としてあるオフセット印刷装置に適用する本発明のインキング方法の実施に用いる本発明のインキング装置は、図1及び図2に符号Iで示すように、上記オフセット印刷装置における架台8上にて上記版テーブル11が走行可能となる範囲内の所要個所、たとえば、上記転写機構部14よりガイドレール9の長手方向一端部側へ所要寸法離れた個所に、インク戻しブレード17と、インク充填ブレード18と、インク掻き取りブレード19を、上記ガイドレール9に沿って移動する版テーブル11に保持された版10が移動する高さ位置よりも所要寸法上方となる退避高さにガイドレール9の長手方向一端側から順に並べて配置した状態で支持フレーム20を介して設置する。
【0027】
上記各ブレード17,18,19には、個別の昇降用アクチュエータ21,22,23をそれぞれ装備して、該各昇降用アクチュエータ21,22,23の駆動により、それぞれ対応するブレード17,18,19を、上記した退避高さ位置より、該各ブレード17,18,19の下端部が上記版テーブル11に保持された版10に接する高さ位置まで個別に下降させることができるようにする。
【0028】
更に、図3に示すように、上記架台8上に設けた図示しないリニアスケール等の版テーブル11の位置検出機構より入力される上記版テーブル11のガイドレール9の長手方向に関する位置の検出信号に基づいて、版テーブル11に対してテーブル位置制御指令C1を与えるテーブル位置制御部24aと、上記各ブレード17,18,19の各昇降用アクチュエータ21,22,23に個別のブレード作動指令C2,C3,C4を与えるためのブレード制御部24bを有し、且つ該テーブル位置制御部24aとブレード制御部24bを同期制御できるようにしたコントローラ(制御器)24を備えてなる構成とする。
【0029】
詳述すると、上記インク戻しブレード17は、上端側よりも下端側がガイドレール9の長手方向一端部寄りに位置するように傾斜させてある。
【0030】
又、上記インク充填ブレード18と上記インク掻き取りブレード19は、共に上端側よりも下端側がガイドレール9の長手方向他端部寄りに位置するように傾斜させてあり、更に、上記インク充填ブレード18の方が、上記インク掻き取りブレード19よりも、水平面からの傾斜角度が小さくなるように設定してある。これにより、インクとして導電性ペーストのような粘性の大きいインクを使用する場合であっても、水平面からの傾斜角度がより小さく設定してある上記インク充填ブレード18を用いることで、版10へのインクの充填性を高めることができるようにしてある。更に、上記インク充填ブレード18で版10の凹部分に強制的に押し込まれた後、該インク充填ブレード18の通過後に版10より盛り上がるインクの余剰分(不要分)は、水平面からの傾斜角度をより大きく設定することで掻き取り性能をより高いものとしてある上記インク掻き取りブレード19で掻き取ることができるようにしてある。これにより、上記版10の凹部分に適正量のインクをインキングすることができるようにしてある。
【0031】
次に、上記コントローラ24による制御の内容に即して、本発明のインキング装置を用いて実施する本発明のインキング方法の手順について図4(イ)(ロ)乃至図7を参照して説明する。なお、上記インク充填ブレード18とインク掻き取りブレード19により版10へのインキングを行うために、インキングの対象となる版10を保持させた版テーブル11を、図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)に矢印aで示すようにガイドレール9の長手方向一端部から、本発明のインキング装置Iの設置個所を通して転写機構部14側へ移動させるときの該版テーブル11上の版10の移動方向を、インキング用移動方向といい、逆に図6及び図7に矢印bで示すように、上記版10を保持した版テーブル11を上記転写機構部14側から、本発明のインキング装置Iの設置個所を通してガイドレール9の長手方向一端部へ移動させるときの該版テーブル11上の版10の移動方向を、版戻し用移動方向というものとする。
【0032】
すなわち、上記コントローラ24は、予め入力される版テーブル11や版10の平面形状の寸法等に関する情報を基に、版テーブル11上に保持させる版10について、図4(イ)に示すように、版テーブル11上に保持させた版10の配置と、該版10における印刷パターンの凹部分が設けられている版10としての有効範囲10aの配置を、版テーブル11の位置情報に基づいて検知(把握)できるようにしてあり、更に、上記版10における上記有効範囲10aの外側の印刷パターンが設けられていない余白部分のうち、上記インキング用移動方向に沿って上記有効範囲10aよりもインキング移動方向の前方に位置する余白10bにおいて、版10の端部よりやや内側に位置する個所(以下、A個所という)と、上記版10としての有効範囲10aよりもやや外側に位置する個所(以下、B個所という)を設定すると共に、且つ上記インキング用移動方向に沿って上記版10としての有効範囲10aよりもインキング移動方向の後方に位置する余白10cにおいて、上記版10としての有効範囲10aよりもやや外側に位置する個所(以下、C個所という)と、版10の端部よりやや内側に位置する個所(以下、D個所という)を設定して、該A,B,C,Dの各個所を、上記版テーブル11の位置情報に基づいて検知(把握)できるようにしてあるものとする。
【0033】
又、本発明のインキング装置Iによるインキングを行う前には、予め、インキング対象となる版10を保持させた版テーブル11を、上記各ブレード17,18,19の設置個所よりもガイドレール9(図1参照)の長手方向一端寄りに設定してある図示しないインキング開始位置に配置しておくと共に、図4(イ)に示すように、上記版10における有効範囲10aよりもインキング移動方向の前方に位置する余白10bのA個所とB個所との間に、図示しないインク供給機構より所要量のインクを供給して幅方向の全長に亘りインク溜り25を形成させておくようにする。
【0034】
この状態にて、上記コントローラ24は、テーブル位置制御部24aの機能により上記版10を保持した版テーブル11を、上記図示しないインキング開始位置よりインキング用移動方向に所要の速度で移動を開始させるようにする。
【0035】
その後、図4(イ)に示すように、上記インキング用移動方向へ移動させる版テーブル11の位置情報に基づいて検知される上記版10のA個所が、上記インク充填ブレード18の下端と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、該インク充填ブレード18の昇降用アクチュエータ22(図1参照)へ指令を与えて、該昇降用アクチュエータ22の駆動により上記インク充填ブレード18を、上記版テーブル11上の版10に接する位置まで下降させる。これにより、上記版10に接するインク充填ブレード18が、版テーブル11と一緒にインキング用移動方向へ移動する版10の表面に沿って相対的に摺動するようになるため、上記版10における有効範囲10aよりもインキング移動方向の前方に位置する余白10bに予め形成させてあったインク溜り25のインクが、上記版10に接するインク充填ブレード18により、版テーブル11と一緒にインキング用移動方向へ移動する版10の表面に沿って掻かれることで、該版10の凹部分へのインクの充填が開始されるようになる。
【0036】
次に、図4(ロ)に示すように、上記インキング用移動方向へ移動させる版テーブル11の位置情報に基づいて検知される上記版10のA個所が、上記インク掻き取りブレード19の下端と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、該インク掻き取りブレード19の昇降用アクチュエータ23(図1参照)へ指令を与えて、該昇降用アクチュエータ23の駆動により上記インク掻き取りブレード19を、上記版テーブル11上の版10に接する位置まで下降させる。これにより、上記版10に接するインク掻き取りブレード19が、版テーブル11と一緒にインキング用移動方向へ移動する版10の表面に沿って相対的に摺動するようになるため、上記インク充填ブレード18により版10の凹部分へ充填されたインクの余剰分が、該インク掻き取りブレード19により掻き取られるようになる。よって、上記版10における上記インク掻き取りブレード19との接触部分を通過した個所では該版10の凹部分に適正量のインクのインキングが行われるようになる。
【0037】
次いで、上記コントローラ24は、上記インキング用移動方向へ移動させる版テーブル11の位置情報に基づいて検知される上記版10のC個所が、上記インク充填ブレード18の下端部と対応する位置に達するまでの間は、該インク充填ブレード18による上記版10へのインクの充填と、上記インク掻き取りブレード19による余剰分のインクの掻き取りを継続して行わせるようにする。
【0038】
その後、図5(イ)に示すように、上記版テーブル11と一緒にインキング用移動方向へ移動する上記版10のC個所が、上記インク充填ブレード18の下端部と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、インク充填ブレード18の昇降用アクチュエータ22(図1参照)へ指令を与えて、該インク充填ブレード18を退避位置まで上昇させ、次いで、図5(ロ)に示すように、上記版10のC個所が、上記インク掻き取りブレード19の下端部と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、インク掻き取りブレード19の昇降用アクチュエータ23(図1参照)へ指令を与えて、該インク掻き取りブレード19を退避位置まで上昇させる。これにより、上記版10のA個所からC個所までの間の領域に上記インク充填ブレード18とインク掻き取りブレード19が順次相対的に摺動されることで、上記版10の印刷パターンが形成されている有効範囲10aについては、凹部分に適正量のインクが全面に亘りインキングされるようになる。この際、上記版10の凹部分に充填されなかった余剰分のインクは、上記インク充填ブレード18及びインク掻き取りブレード19により集められるため、該各ブレード18,19を上記版10より離反させた該版10のC個所よりインキング移動方向の直ぐ後側、すなわち、上記版10における有効範囲10aよりもインキング移動方向の後方に位置する余白10cのC個所とD個所との間にインク溜り25が形成されるようになる。
【0039】
上記のようにして本発明のインキング装置Iにより版10へのインキングが行われると、上記コントローラ24は、上記インキングされた版10を保持する版テーブル11を転写機構部14(図2参照)へ送って上記インキングされた版10をオフセット印刷に供するようにしてある。
【0040】
上記インキングされた版10が上記転写機構部14におけるオフセット印刷に供された後は、上記コントローラ24は、上記版テーブル11を、図6に示す如く、版戻し用移動方向へ走行させるようにしてあり、この際、上記版戻し用移動方向へ移動させる版テーブル11の位置情報に基づいて検知される上記版10のD個所が、上記インク戻しブレード17の下端と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、該インク戻しブレード17の昇降用アクチュエータ21(図1参照)へ指令を与えて、該昇降用アクチュエータ21の駆動により上記インク戻しブレード17を、上記版テーブル11上の版10に接する位置まで下降させる。これにより、上記版10に接するインク戻しブレード17が、版テーブル11と一緒に版戻し用移動方向へ移動する版10の表面に沿って相対的に摺動するようになるため、上記版10における有効範囲10aよりもインキング移動方向の後方に位置する余白10cに形成されていたインク溜り25のインクが、上記版10に接するインク戻しブレード17により掻かれることで、該版10のインキング移動方向の前方側へ移動させられるようになる。
【0041】
その後、図7に示すように、上記版戻し用移動方向へ移動させる版テーブル11の位置情報に基づいて検知される上記版10のB個所が、上記インク戻しブレード17の下端と対応する位置に達すると、上記コントローラ24は、該インク戻しブレード17の昇降用アクチュエータ21(図1参照)へ指令を与えて、該昇降用アクチュエータ21により上記インク戻しブレード17を退避位置まで上昇させる。これにより、上記版10に接していたインク戻しブレード17が、上記版10のB個所で該版10より離れることで、上記インク溜り25が、版10のB個所よりインキング移動方向の直ぐ前側、すなわち、上記版10における有効範囲10aよりもインキング移動方向の前方に位置する余白10bのA個所とB個所との間の当初位置まで戻されるようになる。
【0042】
したがって、その後は、上記図4(イ)(ロ)及び図5(イ)(ロ)に示した操作を行うことで、上記版10へ再度インキングを行って、インキングされた版10をオフセット印刷に供することができ、オフセット印刷に供された後の版10は上記図6及び図7の手順で本発明のインキング装置Iを通過させて版10上のインク溜り25の位置を当初位置へ戻す操作を行うようにすればよい。
【0043】
このように、本発明のインキング方法及び装置によれば、版10における印刷パターンが形成された有効範囲について、上記インク充填ブレード18による該版10の凹部分への効率のよい充填と、インク掻き取りブレード19によるインクの余剰分の効率のよい掻き取りを行うことができて、版10に対して適正量のインクのインキングを効率よく行うことができる。
【0044】
しかも、上記版10を保持した版テーブル11の往復動に伴って、版10へのインキングと、版10上のインク溜りを当初位置へ戻す操作を行うことができるため、該版10に対してインキングを行う度ごとに毎回インクの供給を行う必要がなく、又、インク溜りのインクを連続的にインキングに利用できて、インク溜りの定期的な除去作業を不要にすることができる。
【0045】
又、上記版テーブル11を転写機構部14側から一旦ガイドレールの長手方向一端部まで移動させた後、再び上記転写機構部14側へ戻す往復動に伴って、版10へのインキングを行うことができるため、オフセット印刷のスムーズな連続印刷を行うことが可能になる。
【0046】
更に、上記インク充填ブレード18とインク掻き取りブレード19、及び、インク戻しブレード17を個別の昇降用アクチュエータ22と23及び21で昇降できるようにしてあるため、上記インク充填ブレード18とインク掻き取りブレード19は、共に上記版10のA個所で接触させた後、C個所で離反させ、又、上記インク戻しブレード17は上記版10のD個所で接触させた後、B個所で離反させるようにして、上記各ブレード17,18,19の版10に対する接触位置と離反位置を、該各ブレード17,18,19同士の配置間隔に依存することなく自在に設定できるため、版10上にインク溜りを形成させるために該版10に有効範囲10aの外部に設ける余白10b,10cのスペースを削減することが可能になるため、版10のサイズの縮小化を図ることができる。
【0047】
次に、図8は本発明の実施の他の形態を示すもので、上記インク戻しブレード17、インク充填ブレード18、インク掻き取りブレード19の平面上の配置を、版10を保持する版テーブル11の走行(往復動)方向に直角な方向から所要角度θ傾斜させて配置する構成としたものである。
【0048】
更に、本実施の形態では、上記各ブレード17,18,19を、図示しない駆動装置により、上記版テーブル11の走行に伴う版10の移動とは非同期で、長手方向に往復動作(オシレート)させるようにした構成としてある。
【0049】
その他の構成は図1乃至図7に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0050】
本実施の形態によれば、電極パターンのような印刷パターンは、直交する2方向に沿って線が配列されることが多いが、このような印刷パターンの線に対して上記各ブレード17,18,19を斜めに当てることができるため、該各ブレード17,18,19の下端部が版10の印刷パターンに設けられている線に対し乗り上げる虞を未然に防止して、該各ブレード17,18,19が損耗したり、版10の印刷パターンに損傷が生じる虞を未然に防止できる。
【0051】
更に、上記各ブレード17,18,19を長手方向に往復動作させることで、該各ブレード17,18,19に部分的な摩耗が発生する虞を未然に防止できて、長手方向の摩耗を均一にすることができるため、ブレード交換までの期間を延長する効果が期待できる。
【0052】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記各ブレード17,18,19の幅寸法や上下寸法は図示するための便宜的なものであり、実際の寸法を反映したものではない。
【0053】
上記各ブレード17,18,19をコントローラ24からの指令に応じて退避位置より版テーブル11に保持された版10に接する位置まで昇降させることができれば、該各ブレード17,18,19の昇降用アクチュエータ21,22,23はいかなる形式のアクチュエータを用いるようにしてもよい。
【0054】
図8の実施の形態における、各ブレード17,18,19の版テーブル11の移動方向に直角な方向からの傾斜角度θは、図示した以外の角度に適宜変更してもよい。
【0055】
平板状の版10を用いるものであれば、いかなる形式のオフセット印刷装置に適用してもよく、更には、オフセット印刷装置以外のいかなる形式の印刷装置に適用してもよい。
【0056】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
I インキング装置
10 版
17 インク戻しブレード
18 インク充填ブレード
19 インク掻き取りブレード
21 昇降用アクチュエータ
22 昇降用アクチュエータ
23 昇降用アクチュエータ
24 コントローラ
25 インク溜り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを、該版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク充填ブレードにより版の他端縁部まで移動させながら版に充填させ、次いで、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させるインク掻き取りブレードにより上記版に充填されたインクの余剰分を掻き取って版の他端縁部まで移動させることで該版へのインキングを行うようにし、更に、印刷に供された後の上記版の他端縁部の上側に形成されているインク溜りのインクを、版の他端縁部より一端縁部へ摺動させるインク戻しブレードにより上記版の一端縁部まで移動させて次回のインキングに供させるようにすることを特徴とするインキング方法。
【請求項2】
版を保持して各ブレードの下方を走行する版テーブルが一方向に走行するとき、インク充填ブレードとインク掻き取りブレードを、上記版テーブルに保持された版の一端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版にそれぞれ接触させると共に、該版の他端縁部の所要個所が直下に達した時点で該版よりそれぞれ離反させるようにし、更に、上記版テーブルを逆方向へ走行させるときに、インク戻しブレードを、該版テーブルに保持された版の他端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版に接触させると共に、該版の一端縁部の別の所要個所が直下に達した時点で該版より離反させるようにする請求項1記載のインキング方法。
【請求項3】
各ブレードを版に対する摺動方向に対して斜めに配置した状態で版と摺動させるようにする請求項1又は2記載のインキング方法。
【請求項4】
各ブレードを版に摺動させるときに該各ブレードを幅方向に往復移動させるようにする請求項1、2又は3記載のインキング方法。
【請求項5】
版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて該版の一端縁部の上側に載置されたインク溜りのインクを版に充填するためのインク充填ブレードと、上記版の一端縁部より他端縁部へ摺動させて上記インク充填ブレードにより版に充填されたインクの余剰分を掻き取るためのインク掻き取りブレードと、上記版の他端縁部より一端縁部へ摺動させて上記各ブレードにより版の他端縁部まで移動させられたインク溜りを該版の一端縁部まで戻すためのインク戻しブレードとを、個別の昇降用アクチュエータにより上記版に接する位置から所要寸法離反する位置まで独立して昇降できるようにしてなる構成を有することを特徴とするインキング装置。
【請求項6】
各昇降用アクチュエータによる各ブレードの昇降と、版を保持して上記各ブレードの下方を走行する版テーブルの移動とを同期制御するコントローラを備えるようにした請求項5記載のインキング装置。
【請求項7】
各ブレードの平面的な配置を、該各ブレードの版に対する摺動方向に対して斜めに配置するようにした請求項5又は6記載のインキング装置。
【請求項8】
各ブレードを、幅方向に往復移動させながら版に摺動させるようにした請求項5、6又は7記載のインキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−280163(P2010−280163A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136244(P2009−136244)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)