説明

インクジェットクロスメディア

【課題】インクジェットプリンタによりプリントした画像が、プリント面ではもちろんのこと、その反対面においても高濃度で鮮明に視認することができるインクジェットクロスメディアを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織物の少なくとも一方の面にインク受容体を設けたインクジェットクロスメディアにおいて、該平織物の緯糸をその幅方向に広げることにより経糸と緯糸とで形成される間隙が埋められていることを特徴とするインクジェットクロスメディア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットクロスメディアに関するものであり、さらに詳しくはインクジェットプリンタによりプリントした画像が、プリント面ではもちろんのこと、その反対面においても高濃度で鮮明に視認することができるインクジェットクロスメディアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットのメディアとして織物に代表される布帛を基材としたインクジェットクロスメディアが商品化されている。基材として布帛を使用する利点としては、紙やフィルムといった従来のメディアに比べて、強度や耐久性が高いことや独特の風合いがあるといったことが挙げられる。しかしその一方で、紙やフィルムに比べて、プリントした画像の濃度が低い、鮮明性に劣る、といった欠点も有している。
【0003】
そのインクジェットクロスメディアのなかでも、その用途として、幟、のれん等を目的として開発されたものについては、布帛の片面からプリントされた画像がプリントされた面の反対の面からも視認されることが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、支持体の一方の面にインク受理層を設けたインクジェット記録シートにおいて、該支持体が織布であり、かつ該インクジェット記録シートのJIS P8138に従って測定した不透明度が60%以下であることを特徴とするインクジェット記録シートが開示されており、片面から印字した画像を印字面の反対面からも視認することができ、また支持体が織布であることから幟、のれん等に利用でき有効である、とされている。
【0005】
しかしながら、このインクジェット記録シートの場合、印字面の反対面からの視認性はある程度向上するものの、逆に、印字面の画像濃度が不足気味となってしまい、特に屋外でその画像を見たとき、全体的に濃度感が足りない、薄い、と感じられ、インパクトに欠けるものとなっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−088436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、インクジェットプリンタによりプリントした画像が、プリント面ではもちろんのこと、その反対面においても高濃度で鮮明に視認することができるインクジェットクロスメディアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に対し、以下の構成により本発明の目的を達成することができた。
【0009】
本発明のインクジェットクロスメディアは、ポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織物の少なくとも一方の面にインク受容体を設けたインクジェットクロスメディアにおいて、該平織物の緯糸をその幅方向に広げることにより経糸と緯糸とで形成される間隙が埋められているものである。
【0010】
また、前記平織物の目付が40〜80g/mであり、かつ上記ポリエステルマルチフィラメント糸のトータルデニールが50〜120dtexであり、フィラメントカウントが20〜100fであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクジェットプリンタによりプリントした画像が、プリント面ではもちろんのこと、その反対面においても高濃度で鮮明に視認することができるインクジェットクロスメディアが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のインクジェットクロスメディアは、ポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織物の少なくとも一方の面にインク受容体を設けたインクジェットクロスメディアにおいて、該平織物の緯糸をその幅方向に広げることにより経糸と緯糸とで形成される間隙が埋められているものである。
【0013】
製織されたポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織物は、通常、図1に示されるような表面をしている。つまり、経糸、緯糸、そして、経糸と緯糸とで形成される間隙の3つで構成されている。そして、製織後、精練、リラックス、プレセット、インク受容体付与、ファイナルセット、等の工程を経て、インクジェットクロスメディアが製作されるが、平織物の表面についてみると、製織時とそれ程大差はない。
【0014】
本発明においては、製織後の各工程の条件を適宜に設定することによって、緯糸のポリエステルマルチフィラメント糸を適度にばらけさせ、図2に示すように、経糸と緯糸とで形成される間隙を埋めようとするものである。
【0015】
このような表面であれば、プリント面においてはどの部分においてもインクを受け止めることができることになり、また、緯糸のポリエステルマルチフィラメント糸が適度にばらけることでどの部分においてもポリエステルマルチフィラメント糸に沿ってプリント面から反対面へ抜けるインクの通り道が確保される。更には、緯糸のポリエステルマルチフィラメント糸がばらけるということは、緯糸の断面が略円形状から略楕円形状に変化するということであり、若干ではあるが、平織物の厚みが薄くなることになる。このこともインクが裏面に浸透しやすい理由の1つになる。また、厚みが薄くなることで光が透過しやすく、プリント面の画像が非プリント面から視認しやすくなる。よって、プリント面の反対面においても高濃度で鮮明な画像が視認可能となるのである。
【0016】
ここで、緯糸のポリエステルマルチフィラメント糸を適度にばらけさせるための工程条件の設定について、一例を挙げると、精練、リラックス工程において、平織物を拡布状態で経糸に張力を加えながら加工することである。また、その他の条件設定についていえば、乾燥、熱セット時の温度、風圧、テンション、等の各種条件を適宜に設定することである。これらの条件は、平織物の設計条件や使用する加工装置の種類により適宜に設定されるものであり、一概に数値化できるものではない。また、工程条件だけでなく、平織物の設計条件も重要なファクターであり、例えば、ポリエステルマルチフィラメント糸は、強撚のものよりも甘撚または無撚のものの方が好ましい。
【0017】
本発明の目的を達成するために好ましい平織物の他の設計条件についていえば、平織物の目付については40〜80g/mであることが好ましく、ポリエステルマルチフィラメント糸についてはトータルデニール 50〜120dtexであることが好ましく、フィラメントカウント 20〜100fであることが好ましい。
【0018】
本発明のインクジェットクロスメディアの少なくとも一方の面に設けられるインク受容体は、インクジェット方式にて布帛に着色剤を付与した際に、ノズルから吐出されたインクを瞬時に受け止め、適度に保持するため、インクの滲みを防止する。
【0019】
布帛にインク受容体を付与するための処理液には、合成微粒シリカなどの無機顔料、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミン樹脂、低分子量多官能アミンとエピハロヒドリンなどのアミノ基に対して多官能性化合物との反応生成物、アクリルアミン共重合樹脂(第4級アンモニウム塩ポリマー)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、あるいはこれら樹脂の変成物などのインク定着能を有した樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、カルボキシル化スチレン/ブタジエン共重合体樹脂およびポリエステル樹脂などのバインダーを適宜含有する。
【0020】
その他に、糊剤、水溶性有機溶媒、分散剤、架橋剤、帯電防止剤、浸透剤、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、造膜剤、柔軟剤、湿潤剤、消泡剤、レベリング剤、粘度調整剤、pH調整剤、表面張力調整剤、防炎剤、防腐剤等についても使用でき、これらに限られるものではない。
【0021】
インク受容体の処理液の付与方法の例としては、ディップニップ法、ロータリースクリーン法、ナイフコーター法、キスロールコーター法およびグラビアロールコーター法などが挙げられる。中でも、布帛表面だけでなく、布帛の内部や裏面に全体的にインク受容体を付与することができる点でディップニップ法が好ましい。
【0022】
処理液を付与した後は、その布帛を乾燥する。乾燥は、水分が残存しない程度になされていればよく、条件は特に限定されない。布帛の素材や厚さ、処理液の付与量にもよるが、一般には、90〜180℃で60〜300秒の条件で行うことができる。かくして、本発明のインクジェットクロスメディアを得ることができる。
【0023】
インクジェットクロスメディアは、インクジェット方式によりインクを付与し、次いで乾燥することによって、幟、のれん等の用途として最適なプリント物を得ることができる。
【0024】
インクジェット方式としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式などの連続方式、ピエゾ方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式などのオン・デマンド方式などいずれも採用可能である。
【0025】
用いるインクは染料又は顔料の水系インク等が挙げられ、特に限定されるものではないが、屋外での使用が予想されるものの場合には、耐光性がある無機又は有機の顔料を使用するとよい。また、インクには、染料、顔料といった着色材の他に、水、水溶性有機溶剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、水溶性樹脂などを含有することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
処理剤の調製
カチオンポリマー(パルセットJK−230、明成化学工業(株)製)を5重量部、バインダー(ハイドランCP−7020、DIC(株)製)を15重量部、および純水80重量部を混合し、処理剤を調製した。
【0028】
実施例1
経糸、緯糸共に、90dtex、50fのポリエステルマルチフィラメント糸を使用して、目付け60g/mの平織物を製織した。そして平織物を拡布状態で経糸に100N/mの張力を加えながら精練をおこなった後、上記処理剤をディップニップ法にて付与し、その後、150℃で3分間熱処理し、本発明のインクジェットクロスメディアを得た。
【0029】
また処理剤を付与する前の平織物の表面について電子顕微鏡にて撮影した。その写真を図3に示す。
【0030】
比較例1
経糸、緯糸共に、90dtex、50fのポリエステルマルチフィラメント糸を使用して、目付け60g/mの平織物を製織した。そして平織物を通常の条件(特に過大なテンションをかけることなく)にて精練をおこなった後、上記処理剤をディップニップ法にて付与し、その後、150℃で3分間熱処理し、インクジェットクロスメディアを得た。
【0031】
また処理剤を付与する前の平織物の表面について電子顕微鏡にて撮影した。その写真を図4に示す。
【0032】
実施例1および比較例1にて得られたインクジェットクロスメディアについて、以下の評価方法にて評価した。
【0033】
◎プリント面及び非プリント面の濃度
インクジェットプリンタ(EPSON社製、PX−9500S)を使用し、実施例及び比較例で得られたインクジェットクロスメディアに、顔料タイプ水性インク(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各々の色)をベタで印字し、記録画像を形成した。この記録部をマクベス色濃度計にてそれぞれの色濃度をプリント面(表面)、及び非プリント面(裏面)でそれぞれ測定した。得られた色濃度データのうち、代表してブラックの色濃度を表1に示す。
【0034】
◎プリント面及び非プリント面の鮮明性
上記色濃度試験と同じプリントを行った後、プリント面及び非プリント面の鮮明性について、以下の基準にて評価した。
○ 滲みが全くない
△ 滲みが若干認められる
× 滲みがはっきり認められる
【0035】
◎非プリント面からの画像視認性
上記色濃度試験と同じプリントを行った後、非プリント面から画像を目視し、以下の基準にて評価した。
○ プリント面とほとんど変わらない濃度で画像が視認できる
△ プリント面より濃度が若干薄く感じる
× プリント面より濃度が断然薄く感じる
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、実施例1のものは、プリント面の画像濃度と画像鮮明性が確保され、さらに非プリント面への着色剤の供給が良好であることから、非プリント面の画像濃度と画像鮮明性も大きく向上している。よって、非プリント面の画像鮮明性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】通常の平織物の表面をあらわした模式図である。
【図2】本発明の平織物の表面をあらわした模式図である。
【図3】実施例1の平織物の表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1の平織物の表面の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0039】
1 経糸
2 緯糸
3 経糸と緯糸とで形成される間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織物の少なくとも一方の面にインク受容体を設けたインクジェットクロスメディアにおいて、該平織物の緯糸をその幅方向に広げることにより経糸と緯糸とで形成される間隙が埋められていることを特徴とするインクジェットクロスメディア。
【請求項2】
前記平織物の目付が40〜80g/mであり、かつ上記ポリエステルマルチフィラメント糸のトータルデニールが50〜120dtexであり、フィラメントカウントが20〜100fであることを特徴とする請求項1記載のインクジェットクロスメディア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−42600(P2010−42600A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208296(P2008−208296)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】