説明

インクジェットプリンタ用インクおよびその印字機構

【目的】 普通紙・再生紙にも容易に印字できるインクジェットプリンタ用インク及び目詰まりのないインクジェットプリンタ用インクおよびその印字機構を提供する。
【構成】 1.水系インクにおいて、紫外線硬化型樹脂プレポリマー、反応開始剤、染料を含む。2.紫外線硬化型樹脂プレポリマーと非水系染料、反応開始剤からなる。3.上記プレポリマーと反応開始剤が、別々のノズルから噴射されて用いられる。4.上記プレポリマーが、染料吸着サイトを持つ。5.100mJ/cm2以下のUV量で硬化する。6.フッ素系化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェットプリンタ用のインクおよびその印字機構に関する。
【0002】
【従来の技術】液体インクをヘッドノズルから噴射することにより印字するインクジェットプリンタは、コンパクトで比較的安価な構成要素から成るため、今後のカラープリンタの主流となり得ると目されている。
【0003】現在インクジェットプリンタ用のインクとしては、水系溶媒に色材として染料を溶解した水系インクと、常温で固化するワックス系溶剤に染料を溶解し、加熱溶融した状態でヘッドより噴射し印字するソリッドインクとがある。
【0004】また、通常の水系インクでは、ヘッドノズル部に滞留しているインクが乾燥により目詰まりを起こすため、保水作用を持つグリセリン等が添加されて用いられている。
【0005】一方、紫外線硬化型のインクジェットプリンタ用インクについては、特開昭63−235382に記載されているものの、具体的内容に乏しいものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術においては次の問題点があった。
【0007】1.水系インクをカラー印字に用いる場合、例えば第1色目を印字し第1色目が乾燥した後、第2色目を印字した場合、第1色目のドット上に第2色目のドットが重なると、第2色目のインクの水分により第1色目のドットの色材である染料が再溶解してにじんでしまい、印字品質が悪化する問題があった。このため、普通紙あるいは再生紙にはインクジェット方式によるカラー印字が困難であった。一方、ワックス系のソリッドインクは、上述のようなにじみの問題は回避できるものの、インクの性質上印字ドットが厚いもので10〜20ミクロン程度となり、かつワックスという軟らかい材質であるため、弱い摩擦力でも容易に印字ドットが削れてしまった。すなわち、耐擦性が低いため印字後の信頼性に問題があった。また、一般に有機溶剤を含むインクは、溶剤臭を発散するため好ましくなかった。
【0008】2.従来よりインクジェット用インクは、ヘッドノズル部に滞留する期間が長いと、乾燥により色材が析出することによるノズルの目詰まりが発生し問題となっていた。この対策として、様々な添加物が考えられてきたが、これらは本来乾燥を防止する作用を持つことが要求されているため、一方で印字後のインク速乾性を悪化させていた。
【0009】3.光硬化型樹脂を含むインクにおいて、光硬化の感度を増し硬化性を著しく向上させようとする場合、一般には反応開始剤あるいは反応促進剤の増量で対応できるが、一方で保存時の暗反応が進行しやすくなるため、保存安定性に問題が生じた。
【0010】4.また、光硬化型樹脂を含むインクにおいては、樹脂分が硬化する時に樹脂分と色材である染料が分離してしまい、前述1に記したにじみ防止の効果が低減する場合があった。
【0011】5.光硬化型樹脂を含むインクにおいて、紫外線照射による硬化の際に通常100mJ/cm2を越える露光がなされると、一般にアゾ基を持つ染料の退色が進行する。従って、アゾ基を持つ染料を用いる場合、100mJ/cm2以下の露光量で少なくとも最表面だけでも硬化する必要性が見いだされた。
【0012】6.従来、一般の水系インクジェットプリンタ用インクにおいて、特に色材として有機顔料を用いるインクの場合、一旦ヘッドノズル内でインクの乾燥が起こると、顔料粒子が凝集し水分が補給されても再分散することが困難であった。
【0013】本発明は、以上のような問題点を解決するためのもので、その目的とするところは、以下の内容を持つインクジェットプリンタ用インクおよびその印字機構を提供することにある。
【0014】1.カラー印字において、水系で染料を色材として含むインクでありながら、印字後、再度水分(第2色目以降の印字によるインク)が付着しても染料がにじまない効果を有するインクを提供する。
【0015】2.インクのベース溶液として、従来の水ではなく、紫外線硬化型樹脂のプレポリマーを用いることにより、乾燥防止剤を添加しなくてもヘッドノズル内で乾燥しにくいインクを提供する。
【0016】3.光硬化型樹脂を含むインクの使用において、インクの保存安定性を向上させるため、樹脂分と反応開始剤を別々に保存し、別々のヘッドノズルから噴射して印字ドットを形成する印字機構を提供する。
【0017】4.光硬化型樹脂を含むインクにおいて、樹脂分の硬化時に染料分と樹脂分が分離しないよう、染料分子が吸着しやすい樹脂を用いたインクを提供する。
【0018】5.光硬化型樹脂を含むインクにおいて、色材である染料が紫外線照射時に退色しないインクを提供する。
【0019】6.一般の水系インクジェットプリンタ用インクにおいて、特に色材として有機顔料を用いた時に、ヘッドノズル内での乾燥による顔料凝集を防止できるインクを提供する。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェットプリンタ用インクおよびその印字機構は、1.紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、少なくとも水、モノマー構造で官能基を2つ以上含む水溶性の光硬化型樹脂プレポリマー、水溶性もしくは非水溶性の光重合開始剤、及び水溶性染料を含むことを特徴とする。
【0021】2.紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、ベース溶液が光硬化型樹脂オリゴマーもしくはモノマーもしくはそれらの混合物のみからなり、該混合物の中に少なくとも非水溶性染料及び光重合開始剤を含み、粘度が30cps以下であることを特徴とする。
【0022】3.紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクでの印字において、光硬化型樹脂あるいは光重合開始剤のどちらか一方が染料を含む溶液1に含まれ、他の一方は溶液2として作成され、溶液1と2は別々のプリンタヘッドノズルから印字紙上の同一ポイントに噴射されて印字ドットを形成することを特徴とする。
【0023】4.光硬化型樹脂が、水溶性染料吸着サイトを持つことを特徴とする。
【0024】5.紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、紫外線照射量100mJ/cm2以下で、少なくとも表面硬化することを特徴とする。
【0025】6.水系であり、フッ素化合物をコロイド状態で含むことを特徴とする。
【0026】
【実施例】
(実施例1)表1に示すような、組成(重量比)のインクを作成した。なお、染料にシアン色を用いた場合とアゼンタ色を用いた場合の2種のインクを作成した。
【0027】
【表1】
光硬化型樹脂プレポリマー *1 20.0 %反応開始剤 *2 0.06%染料 *3 1.5 %水 68.44%グリセリン(乾燥防止剤) 10.0 %*1 ユニディック SI−929(水溶性,大日本インキ化学工業(株)製)
*2 ダロキュア 1173(メルク製)
*3 シアン色もしくはマゼンタ色最初に、作成したシアン色のインクを用いた。
【0028】圧電体を用いたインクジェットヘッドを用いて普通紙に印字後、ヘッド横に設置した光ファイバーから紫外線を照射した。紫外線の照射は、約5秒であり約100mJ/cm2であった。
【0029】この時点で、青色インクは指先で触って十分な硬度が感じられる硬度に硬化した。
【0030】続いて、シアン色の印字と一部が重なるように、マゼンタ色の印字を行なった。続いて、紫外線を約5秒照射し、マゼンタ色のインクの硬化を確認した。
【0031】光学顕微鏡で2種のインクの重なり部分を観察した結果、第1色目のシアン色インクの染料が第2色目の印字によって再溶解してにじみを発生している形跡は全くなく、本発明の効果が確認できた。
【0032】(実施例2)表2に示すような、組成(重量比)のインクを作成した。
【0033】
【表2】
光硬化型樹脂モノマー *1 93.5%反応開始剤と促進剤 *2 5.0%染料(青色) *3 1.5%*1 KAYARAD−TPGDAとKAYARAD−PEG400DA(いずれも日本化薬(株)製)の1:1混合物*2 KAYARAD−DTEXとEPA(いずれも日本化薬(株)製)の3:1混合物*3 油溶性染料表2の組成から明らかなように、本インクは光硬化型樹脂モノマーが溶液ベースとなっており全く水を含んでいない。この時粘度は30cps(摂氏20度)以下となり、圧電体素子を用いたヘッドでも印字が可能である。このインクをヘッド内に入れ、2ヶ月間放置した。2ヶ月後、そのままの状態で印字したが、ノズルの目詰まりは全く起こらず、揮発性の低いモノマーをインクベースに用いれば、水を用いた場合と異なりシンプルなインク組成でヘッド内での乾燥を起こりにくくすることが可能であることが確認できた。
【0034】一方、印字に関しても、硬化性も良く実施例1と同様ににじみが起こりにくいことも確認できた。
【0035】(実施例3)先に示した表1のインク組成から反応開始剤を抜いた組成のインクを作成した。一方、反応開始剤だけを水だけに溶解し、表1の組成の2倍量となる濃度に調整した。ただし、この場合反応開始剤にはダロキュア2529(メルク製)を用いた。
【0036】次に、これらを並列に並べた別々のインクジェットヘッドノズルから同一ポイントに噴射し、直ちに約60mJ/cm2の紫外線を照射した。
【0037】この機構によリ、インクは反応開始剤を増量して反応させることが可能になったため、容易に硬化した(約3秒の紫外線照射時間)。
【0038】一方、このインクは反応開始剤が樹脂分と別々にされているため、保存時に樹脂分の硬化が全く進まなかったことは自明である。
【0039】比較のため、表1の組成の2倍量の反応開始剤を最初から樹脂分と混ぜたインクを作成し、常温(暗所)で2ヶ月保存したが、反応開始剤が多い組成のため暗反応による樹脂のマイクロゲルが発生した。
【0040】以上の結果、本発明の効果が確認できた。
【0041】(実施例4)表3に示すインク組成物(重量比)を作成した。
【0042】
【表3】
光硬化型樹脂プレポリマー *1 41.0 %反応開始剤 *2 1.5 %染料(青色) *3 1.5 %水 46.0 %グリセリン(乾燥防止剤) 10.0 %*1 RW101A(積水ファインケミカル(株)製)
*2 RW101B(積水ファインケミカル(株)製)
*3 Blue5P(日本化薬(株)製)
RW101Aは、染料(アニオン性)が吸着するアミノ基を分子構造内に持つプレポリマーである。表3の組成のインクで印字した結果、染料と樹脂の硬化時の相容性が極めて良く、相分離が全く起こらず、耐にじみ性が向上した。
【0043】この結果は、上記樹脂を用いた場合に限定されるものではなく、一般の水溶性染料が吸着しやすい官能基を持つ光硬化性樹脂ならば特に限定はしない。
【0044】(実施例5)実施例1の場合と同様のインク組成であるが、染料として耐光性の弱いアゾ系染料を用いた。樹脂硬化は100mJ/cm2以内の露光で完了した。紫外線の照射前後で染料の退色はなかった。
【0045】また、同様に、実施例2の場合と同様のインク組成であるが、染料としてアゾ系油溶性染料を用いた。樹脂硬化は50mJ/cm2程度の露光で完了した。この場合も染料の退色はなかった。すなわち、実施例1及び実施例2で作成したインクは、100mJ/cm2以下の低い紫外線露光量で硬化するため、アゾ系色素も使用できる光硬化型のインクであることが確認できた。
【0046】(実施例6)非イオン性界面活性剤で黒色顔料(カーボン粒子)を分散した水性インクジェットプリンタ用インクに、フッ素系界面活性剤の水性エマルジョン(フォンブリンEM,モンテカチーニ(株)製)を3%添加した。このインクを印字ヘッドノズル内に入れたまま2ヶ月間放置し、その後そのままの状態で印字したところ、ノズルの目詰まりは全く確認されなかった。また、フッ素系水性エマルジョンの印字品質に対する影響については、特に認められなかった。
【0047】比較のため、フッ素系水性エマルジョンを全く添加しなかった同インクについて同じテストを行なったところ、ノズルの目詰まりが発生した。
【0048】
【発明の効果】以上の様に本発明により、次の効果が確認できた。
【0049】すなわち、光硬化型のインクジェットプリンタ用のインクおよびその印字機構に関し、■インク色材のにじみが起こらないため、普通紙・再生紙が印刷媒体として適用できる。(特にカラー印字に効果がある。)
■インクの目詰まりが防止できる。
【0050】■光硬化型インクであっても、光硬化型樹脂分と反応開始剤が別々に保存され、別々のノズルから吐出され印字されるので、インクの硬化性・保存安定性が向上した。。
【0051】■染料・樹脂の相分離が起こりにくい。
【0052】■染料の退色が起こらない。
【0053】また、フッ素系化合物の添加により、通常のインクジェットプリンタ用水性インク一般において、特に有機顔料を用いたインクの場合に、ヘッドノズルの目詰まり防止に効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、少なくとも水、モノマー構造で官能基を2つ以上含む水溶性の光硬化型樹脂プレポリマー、水溶性もしくは非水溶性の光重合開始剤、及び水溶性染料を含むことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項2】 紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、ベース溶液が光硬化型樹脂オリゴマーもしくはモノマーもしくはそれらの混合物のみからなり、該混合物の中に少なくとも非水溶性染料及び光重合開始剤を含み、粘度が30cps以下であることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。
【請求項3】 紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクでの印字において、光硬化型樹脂あるいは光重合開始剤のどちらか一方が染料を含む溶液1に含まれ、他の一方は溶液2として作成され、溶液1と2は別々のプリンタヘッドノズルから印字紙上の同一ポイントに噴射されて印字ドットを形成することを特徴とするインクジェットプリンタ用インクの印字機構。
【請求項4】 光硬化型樹脂が、水溶性染料吸着サイトを持つことを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項5】 紫外線を照射することにより硬化する特性を有するインクジェットプリンタ用インクにおいて、紫外線照射量100mJ/cm2以下で、少なくとも表面硬化することを特徴とする請求項1および請求項2記載のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項6】 水系であり、フッ素化合物をコロイド状態で含むことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク。