説明

インクジェット印刷方法およびインクジェットプリンター

【課題】インク滴のにじみを確実に防止することができなかった。
【解決手段】印刷面の仕事関数がWmである印刷媒体を搬送し、搬送中の前記印刷媒体に対して仕事関数W1が前記印刷面の仕事関数Wmよりも大きい第1インクを印刷し、前記印刷面に印刷された前記第1インクに対して当該第1インクを硬化させるための活性光線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから印刷媒体に対してインクを飛翔させて印刷媒体に画像を記録する印刷に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルから印刷媒体に対してインクを飛翔させて印刷媒体に画像を記録する印刷方法において、印刷媒体に印刷された個々のインク滴が印刷面上でにじむことを防止する技術が開発されている。例えば、特許文献1においては、紫外線硬化型インクによって印刷を行う場合、記録材料の種類や作業環境によって印刷面上でのインク滴の径が変化することによって画質が低下することを防止する技術が開示されている。すなわち、特許文献1においては、インク滴を吐出するヘッドの配列順を入れ替え可能に構成し、また、インクを硬化させる活性光線がインク滴に照射されるまでの時間をインク滴の着弾後1秒以内になるように構成するなどの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−237061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、インク滴のにじみを確実に防止することができなかった。例えば、活性光線がインク滴に照射されるまでの時間をインク滴の着弾後1秒以内になるように構成しても、1秒以内ににじみが発生する場合にはにじみを防止することができない。
本発明は上記課題にかんがみてなされたもので、インク滴のにじみを確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、印刷媒体の印刷面の仕事関数Wmよりも仕事関数W1が大きい第1インクを当該印刷面に対して印刷する。すなわち、仕事関数は物質表面の電子1個を無限遠まで遠ざけるために必要なエネルギーであり、2個の物質を接触させる際に仕事関数が相対的に小さい物質は正に帯電し仕事関数が相対的に大きい物質は負に帯電しやすくなる。従って、両物質の仕事関数に差があれば両物質は接触しやすくなる。そして、印刷媒体の印刷面に対して当該印刷面の仕事関数Wmよりも仕事関数W1が大きい第1インクを印刷してみたところ、第1インクは印刷面で過度ににじむことがないことが発見された。このため、印刷媒体の印刷面に対して当該印刷面の仕事関数Wmよりも仕事関数W1が大きい第1インクを印刷することにより、にじみを防止して高画質の印刷物を得ることが可能になる。
【0006】
さらに、酸化チタンを主成分とするインクによって第1インクを構成し、印刷媒体をPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムで構成するとともに、印刷媒体の印刷面をPETフィルムに蒸着されたアルミニウムまたは銀によって構成してもよい。すなわち、フィルム状の印刷媒体に対して金属光沢を与えるコーティングを施した印刷媒体においては、インクが印刷面に浸透しにくいため、紫外線等の活性光線によって第1インクを硬化させる構成とする。この構成においては、第1インクが印刷面上で硬化されるものの、一般的には、インクが印刷面に浸透しにくいためインク滴のにじみが発生しやすい。
【0007】
しかし、印刷面の仕事関数Wmと第1インクの仕事関数W1との関係がWm<W1となるように設定することで、金属光沢を与えるコーティングを施した印刷媒体においてもにじみを防止することが可能になる。また、印刷面が金属であるアルミニウムや銀で構成され、第1インクが金属元素を含む酸化チタンを主成分とするインクである構成とすることにより、容易に仕事関数を調整し、測定することが可能になる。従って、仕事関数の関係がWm<W1となるように容易に設定することが可能になる。なお、第1インクは、酸化チタンを主成分とするインクであればよく、ここでは、酸化チタンの仕事関数を調整することによって第1インク自体の仕事関数が調整できる状態となっていればよい。なお、酸化チタンを主成分とするインクは白インクとすることが好ましいが、むろん、他の色のインクであっても良い。
【0008】
さらに、第1インクの仕事関数W1の大きさを調整するための具体例として、酸化チタンに対するイオンドーピングによって不純物を導入する構成としても良い。不純物はチタンと異なる元素のイオンで構成可能であり、例えば、金属微粒子等を採用可能である。また、印刷媒体の印刷面の仕事関数Wmの大きさを調整するための具体例として、アルミニウムまたは銀をPETフィルムに蒸着させる際の雰囲気中の酸素量を調整する構成を採用しても良い。すなわち、蒸着されるアルミニウムまたは銀の酸化の程度を調整することによって仕事関数Wmを調整することができる。
【0009】
さらに、第1インクを印刷した後に、第2インクを印刷する構成において、第2インクの仕事関数W2が第1インクの仕事関数W1よりも大きくなるように構成してもよい。この構成によれば、第2インクの仕事関数W2は第1インクの仕事関数W1および印刷媒体の印刷面Wmよりも大きくなる。従って、第2インクにおいて過度のにじみが発生しない状態で第2インクを印刷することが可能になる。この結果、にじみを防止して高画質の印刷物を得ることが可能になる。
【0010】
さらに、銀の微粒子を主成分とするインクによって第2インクを構成してもよい。すなわち、金属光沢を視認させる銀の微粒子が主成分となっている第2インクは、銀の微粒子の仕事関数を調整することで容易に第2インク自体の仕事関数を調整することができる。むろん、ここでも、第2インクは銀の微粒子の仕事関数を調整することによって第2インク自体の仕事関数が調整される程度に銀の微粒子が含まれていればよい。
【0011】
さらに、第2インクの仕事関数W2の大きさを調整するための具体例として、銀の微粒子を加熱炉で熱処理する構成とするとともに、当該加熱炉での加熱時間を調整する構成としても良い。すなわち、加熱時間によって銀の酸化の程度を調整することによって仕事関数W2を調整することができる。
【0012】
さらに、本発明のように、印刷媒体の印刷面よりも仕事関数が大きいインクを印刷するためのインクジェットプリンターとしても発明は成立する。むろん、インクジェットプリンターはインクを硬化させるための活性光線を照射する手段を備えていてもよい。また、以上のようなインクジェットプリンターは、単独の装置として実現される場合もあれば、複合的な機能を有する装置において共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(1A)は本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンターの構成を模式的に示す図、(1B)(1C)(1D)は印刷媒体およびインクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)インクジェットプリンターの構成:
(2)インクのにじみ防止:
(3−1)実施例1:
(3−2)実施例2:
(3−3)実施例3:
(4)他の実施形態:
【0015】
(1)インクジェットプリンターの構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンター10の構成を模式的に示す図である。同図1Aに示すようにインクジェットプリンター10は搬送部11と印刷ヘッド12a,12bと活性光線照射部13a,13bとを備えている。本実施形態における搬送部11は印刷媒体Pを搬送方向Dに搬送することができる。印刷ヘッド12a,12bは搬送方向Dの搬送面に平行な面内で搬送方向Dに対して垂直な方向に並ぶ複数のノズルを備えており、印刷媒体Pを搬送方向Dに搬送する過程で各ノズルからインクを吐出することによって印刷媒体Pに画像を印刷することができる。
【0016】
活性光線照射部13a,13bは搬送部11の方向に向けて紫外線を照射する装置である。活性光線照射部13aは印刷ヘッド12aよりも搬送方向Dの下流側に配置され、印刷ヘッド12aから吐出されて印刷媒体Pに記録されたインクに対して紫外線を照射することができる。また、活性光線照射部13bは印刷ヘッド12bよりも搬送方向Dの下流側に配置されて、印刷ヘッド12bから吐出されて印刷媒体Pに記録されたインクに対して紫外線を照射することができる。
【0017】
本実施形態において印刷ヘッド12a,12bには図示しないインクタンクが接続されており、印刷ヘッド12a,12bはインクタンクに充填されたインクを吐出することができる。本実施形態において,印刷ヘッド12aに対しては酸化チタンを主成分とする第1インクI1が充填されたインクタンクが接続されている。当該酸化チタンは白を視認させるための顔料として機能するため、本実施形態における第1インクI1は白インクである。印刷ヘッド12bに対しては銀の微粒子を主成分とする第2インクI2が充填されたインクタンクが接続されている。当該銀の微粒子は金属光沢を視認させるための顔料として機能するため、本実施形態における第2インクI2は金属光沢インクである。
【0018】
一方、本実施形態における印刷媒体Pの基材は図1Bに示すようにPETフィルムであり、印刷面には予めアルミニウムまたは銀が蒸着されている。すなわち、印刷媒体Pの印刷面は金属光沢を有しており、本実施形態においては、金属光沢を有する印刷面に対して白い第1インクI1を印刷した後に金属光沢を有する第2インクI2を印刷して画像を形成することになる。すなわち、本実施形態においては、印刷ヘッド12aから第1インクI1を吐出してアルミニウムまたは銀の印刷面を白色の第1インクI1でコーティングし、活性光線照射部13aの照射光によって第1インクI1を硬化させた後、印刷ヘッド12bから第2インクI2を吐出して第1インクI1で形成されるコーティング面上に金属光沢の第2インクI2で画像を形成する。そして、活性光線照射部13bの照射光によって第2インクI2を硬化させることによって印刷を完了することになる。
【0019】
(2)インクのにじみ防止:
以上のように、本実施形態においては、PETフィルムを基材とした印刷媒体Pの印刷面に対して第1インクI1を印刷することになるが、PETフィルムにアルミニウムまたは銀をコーティングした印刷媒体Pにおいては、第1インクI1が印刷面に浸透しにくいため、インク滴のにじみが発生しやすい。そこで、本実施形態においては、印刷面を構成するアルミニウムまたは銀(またはアルミニウムまたは銀を含むコーティング材)の仕事関数Wmと第1インクの仕事関数W1との関係がWm<W1となるように設定される。
【0020】
具体的には、印刷面を構成するアルミニウムまたは銀はPETフィルムに対してアルミニウムまたは銀を蒸着させることによって構成され、当該蒸着を行う際に、PETフィルムおよびアルミニウムまたは銀の雰囲気中の酸素量を調整することによって仕事関数Wmが調整される。さらに、第1インクI1の主成分である酸化チタンに対してイオンドーピングによって不純物を導入することによって仕事関数W1が調整される。このような構成によって仕事関数を調整してWm<W1とすることにより、印刷媒体Pの印刷面上に印刷された第1インクI1が過度ににじむことを防止することが可能になる。従って、印刷面上で第1インクI1がにじむことを防止してインクの偏在等を生じさせることなく均一な白インクの層を形成することができる。
【0021】
さらに、本実施形態においては、第2インクの仕事関数W2と第1インクの仕事関数W1との関係がW1<W2となるように設定される。具体的には、第2インクI2の主成分である銀の微粒子は予め加熱炉で加熱処理される。すなわち、当該加熱炉での加熱時間を調整することで銀の酸化の程度を調整することによって仕事関数W2が調整される。このような構成によって仕事関数を調整してW1<W2とすることにより、第1インクI1上で第2インクI2が過度ににじむことを防止し、高画質の印刷物を得ることが可能になる。
【0022】
(3−1)実施例1:
以下の表1は、左側の列において、PETフィルム上にアルミニウムを蒸着するための真空装置内の真空度(酸素の量)を調整し、蒸着後のPETフィルムをアニールすることで作成した10個のサンプルにおける印刷面の仕事関数Wmを示している。なお、本例における真空装置内にはロールtoロール型フィルム搬送装置が備えられ、さらに、当該ロールtoロール型フィルム搬送装置の搬送経路の一部には、搬送面に対向して配置された加熱可能なタングステンの容器が備えられている。また、真空装置には真空ポンプとアルゴン(希ガス)入りのボンベと酸素入りのボンベが接続されている。
【0023】
印刷媒体を作成する際にはPETフィルムを当該ロールtoロール型フィルム搬送装置に搭載し、タングステンの容器の中にアルミニウム金属片を配置した状態で真空装置を密閉し、真空装置内を真空ポンプにより減圧する。ここでは、例えば、大気圧の約1/10000に減圧される。この場合、一般的には残留したガスはほぼ100%が酸素である。さらに、減圧された真空装置内にアルゴン入りのボンベからアルゴンを導入して真空装置内をほぼアルゴンガスが約100%の状態とする。さらに、真空ポンプにより減圧する。ここでも例えば、大気圧の約1/10000に減圧される。
【0024】
この状態においてロールtoロール型フィルム搬送装置を稼働させ、タングステン容器を加熱することでアルミニウムを蒸発させてPETフィルムにアルミニウムを蒸着させる。なお、印刷媒体の厚さは、搬送速度と加熱温度により調整することができる。本実施例では、約20nm程度の厚さとなるように調整される。
【0025】
ここで、酸素入りのボンベのバルブを開けることで酸素の量を調整し、かつ、空間内の圧力が一定になるようにすることで(大気圧の約1/10000)、アルミニウムの蒸着の際のガスの構成比率を調整することができる。すなわち、蒸着の際における真空装置内の残留ガスの構成比率において酸素量が少ない場合は、PETフィルムに蒸着されたアルミニウムは酸化量が比較的低い状態となる。一方、酸素量が多い場合は、PETフィルムに蒸着されたアルミニウムは酸化量が比較的多い状態となる。
【0026】
このように蒸着時の酸素量を適度に調整することで、印刷媒体の印刷面の仕事関数を調整することができる。本実施例においては、印刷面の仕事関数Wmが3.6 ,3.8 ,4.0 ,4.2 ,4.3 ,4.4 ,4.6 ,4.7 ,4.8 ,4.9 eVのそれぞれとなる印刷媒体Pを作成した。なお、仕事関数は、理研計器(株)製AC−2を用いて測定した。
【0027】
さらに、第1インクI1の主成分である酸化チタンに対してイオンドーピングによって金属微粒子を導入し、当該イオンドーピング後の酸化チタンと紫外線によって硬化するインク組成物とを混合して8種類の第1インクI1を作成した。それぞれの仕事関数W1は3.7 ,4.0 ,4.2 ,4.3 ,4.5 ,4.7 ,4.9 ,5.0である。なお、第1インクI1の主成分である酸化チタンは、インク内で白の顔料として機能する一般的な材料であり、例えば、真空装置内で酸化チタンのバルクをターゲットとしてCo,Ni,Cu,Ag等をスパッターすることによって形成される。
【0028】
以上のように作成した10個の印刷媒体Pの印刷面に対して以上のようにして作成した8種類の第1インクI1から選択されたインクを印刷し、目視によりにじみの程度を確認したところ、仕事関数がWm<W1の関係にある場合には、にじみの程度が許容範囲であった。表1においては、右側の列ににじみの程度が許容範囲であったことをマル、許容範囲でなかったことをバツによって示している。なお、本例においては、印刷面に記録されたインク滴が予定された大きさよりも5μm以上大きくなった場合ににじみが許容範囲でないとみなしている(他の実施例でも同様)。
【表1】

【0029】
なお、紫外線によって硬化するインク組成物は、少なくとも、(A)沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤であるモノマー、(B)重合性のオリゴマーおよび/またはポリマー、(C)光重合開始剤を含むものが好適に用いられる。
具体的には、第1インクが、少なくとも
着色剤としての酸化チタン 0.2〜10重量%と、
(A)モノマーとしてのアリルグリコール、N−ビニルフォルムアミド、(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル−)メチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、メトキシジエチレングリコールモノアクリレート、アクリロイルモルホリン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパン変性トリアクリレートトリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、グリセリンPO変性トリアクリレートからなる群から選択される単独あるいは二種類以上の有機溶剤 30〜70重量%
(B)重合性のオリゴマーおよび/またはポリマー 10〜50重量%
(C)光重合開始剤 3〜10重量%
を含むように構成可能である。
【0030】
さらに、沸点100℃以上250℃以下の中揮発性有機溶剤としてのN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ε−カプロラクタム、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、n−ブタノール,1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,3−オクタンジオール、1,2−ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルからなる群から選択される単独あるいは二種類以上の有機溶剤を含むものであっても良い。
【0031】
インクに添加する重合性のオリゴマーとして具体的には、分子量500〜20,000の範囲のポリエステル系ウレタンアクリレート、ポリエーテル系ウレタンアクリレート、ポリブタジエン系ウレタンアクリレートおよびポリオール系ウレタンアクリレート等のウレタン系オリゴマーが好ましい。さらに具体的には、U−4HA、U−15HA(いずれも新中村化学工業株式会社製)が好ましい。
【0032】
インクに添加する重合性のポリマーとして具体的には、室温で固体であって、分子量が2,000〜50,000の範囲のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラフトポリマーおよびハイパーグラフトポリマー等(「デンドリティック高分子−多分岐構造が広げる高機能化の世界−」 青井啓吾/姉本雅明監修、株式会社 エヌ・ティー・エス参照)が好ましい。
【0033】
インクに添加する光重合開始剤として具体的には、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルフォスフィンオキサイド、オキシムエステル、チオキサントン、α−ジカルボニル、アントラキノン等が挙げられる。
【0034】
また、Vicure 10、30(以上、Stauffer Chemical社製)、Irgacure 127、184、500、651、2959、907、369、379、754、1700、1800、1850、819、OXE01、Darocur 1173、TPO、ITX(以上、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、Quantacure CTX(Aceto Chemical社製)、Kayacure DETX−S(日本化薬社製)、ESCURE KIP150(Lamberti社製)の商品名で入手可能な光重合開始剤も使用可能である。
【0035】
沸点100℃以上250℃以下の中揮発性有機溶剤として具体的には、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ε−カプロラクタム、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、n−ブタノール,1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,3−オクタンジオール、1,2−ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0036】
(3−2)実施例2:
以下の表2は、左側の列において、PETフィルム上に銀を蒸着するための真空装置内の真空度(酸素の量)を調整し、蒸着後のPETフィルムをアニールすることで作成した10個のサンプルにおける印刷面の仕事関数Wmを示している。なお、本例における印刷媒体は上述の実施例1と同様の装置において、タングステンの容器に銀を配置して実施例1と同様の雰囲気調整後にタングステンを加熱することでPETフィルムに銀を蒸着させればよい。そして、真空装置内の真空度を調整することにより、印刷面の仕事関数Wmが3.4 ,3.7 ,4.0 ,4.2 ,4.3 ,4.4 ,4.6 ,4.7 ,4.8 ,5.0 eVのそれぞれとなる印刷媒体Pを作成した。なお、仕事関数は、理研計器(株)製AC−2を用いて測定した。
【0037】
さらに、第1インクI1の主成分である酸化チタンに対してイオンドーピングによって金属微粒子を導入し、当該イオンドーピング後の酸化チタンと紫外線によって硬化するインク組成物とを混合して9種類の第1インクI1を作成した。それぞれの仕事関数W1は3.2 ,3.6 ,4.1 ,4.2 ,4.3 ,4.4 ,4.8 ,4.9 ,5.1である。なお、酸化チタンのイオンドーピングについては実施例1と同様にして実施可能である。
【0038】
以上のように作成した10個の印刷媒体Pの印刷面に対して以上のようにして作成した9種類の第1インクI1から選択されたインクを印刷し、目視によりにじみの程度を確認したところ、仕事関数がWm<W1の関係にある場合には、にじみの程度が許容範囲であった。表2においては、右側の列ににじみの程度が許容範囲であったことをマル、許容範囲でなかったことをバツによって示している。なお、紫外線によって硬化するインク組成物は上述の実施例1と同様の組成物で構成可能である。
【表2】

【0039】
(3−3)実施例3:
以下の表3は、上述の実施例1と同じ8種類の第1インクI1を作成し、実施例1と同じ印刷媒体Pの印刷面に8種類の第1インクI1を印刷して白インクの層を作成後、当該白インクの層の上に第2インクI2を印刷した場合のにじみを評価した例を示している。なお、表3の最も左側の列および左から2番目の列のそれぞれには印刷面の仕事関数Wmおよび第1インクI1の仕事関数W1のそれぞれを示している。
【0040】
本例において、第2インクI2の主成分である銀の微粒子(銀100%または酸化した銀の微粒子)は、加熱炉内で加熱処理され、当該加熱炉における加熱時間を調整することによって11種類の第1インクI2を作成した。それぞれの仕事関数W2は3.6 ,3.9 ,4.1 ,4.2 ,4.3 ,4.4 ,4.6 ,4.8 ,4.9 ,5.0 ,5.1である。なお、第2インクI2における銀の微粒子の含有率は3〜5%である。
【0041】
以上のように作成した11種類の第1インクI2から選択されたインクを第1インクI1の層上に印刷し、目視によりにじみの程度を確認したところ、仕事関数がW1<W2の関係にある場合には、にじみの程度が許容範囲であった。表3においては、右から2番目の列に第2インクI2の仕事関数W2を示し、最も右側の列においては、にじみの程度が許容範囲であったことをマル、許容範囲でなかったことをバツとして示している。なお、紫外線によって硬化するインク組成物は上述の実施例1と同様の組成物で構成可能である。
【表3】

【0042】
(4)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、印刷媒体の印刷面よりも仕事関数が大きいインクを印刷する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、印刷媒体Pの基材はPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)でもよい。印刷面はアルミニウムや銀以外の金属元素を含む素材によって形成されても良い。
【0043】
また、第1インクや第2インクの顔料は上述の実施形態に挙げた例に限定されない。例えば、酸化チタンを主成分とした白インクによって第1インクを構成し、有彩色インクによって第2インクを構成し、図1Cに示すように、アルミニウムあるいは銀の印刷面に対して白インクで層を形成し、当該層の上に有彩色インク(例えば、C,M,Y,K)を記録する構成とする。この構成においても、印刷面の仕事関数Wm<第1インクの仕事関数W1<第2インクの仕事関数W2という関係になるように仕事関数を調整することにより、印刷面上での第1インクのにじみおよび第1インク層上での第2インクのにじみを防止することができる。
【0044】
さらに、有彩色インクによって第1インクを構成し、図1Dに示すように、アルミニウムあるいは銀の印刷面に対して有彩色インク(例えば、C,M,Y,K)を印刷して画像を形成する構成とする。この構成においても、印刷面の仕事関数Wm<第1インクの仕事関数W1という関係になるように仕事関数を調整することにより、印刷面上での第1インクのにじみを防止することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…インクジェットプリンター、11…搬送部、12a,12b…印刷ヘッド、13a,13b…活性光線照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体に対して第1インクを印刷するインクジェット印刷方法であって、
前記第1インクの仕事関数W1は、前記印刷媒体の印刷面の仕事関数Wmよりも大きい、
インクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記第1インクは酸化チタンを主成分とするインクであり、前記印刷媒体はPETフィルムであるとともに前記印刷媒体の印刷面は前記PETフィルムに蒸着されたアルミニウムまたは銀によって構成され、
前記印刷面に印刷された前記第1インクには、当該第1インクを硬化させるための活性光線が照射される、
請求項1に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
前記第1インクの仕事関数W1の大きさは、前記酸化チタンに対してイオンドーピングによって不純物を導入することによって調整され、
前記前記印刷媒体の印刷面の仕事関数Wmの大きさは、前記アルミニウムまたは前記銀を前記PETフィルムに蒸着させる際の雰囲気中の酸素量によって調整される、
請求項2に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項4】
前記第1インクを印刷した後に、仕事関数W2が前記第1インクの仕事関数W1よりも大きい第2インクを印刷する、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインクジェット印刷方法。
【請求項5】
前記第2インクは銀の微粒子を主成分とするインクであり、
前記第2インクの仕事関数W2の大きさは、前記銀の微粒子を加熱炉で過熱する時間によって調整される、
請求項4に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項6】
印刷面の仕事関数がWmである印刷媒体を搬送する搬送手段と、
搬送中の前記印刷媒体に対して仕事関数W1が前記印刷面の仕事関数Wmよりも大きい第1インクを印刷する印刷ヘッドと、
前記印刷面に印刷された前記第1インクに対して当該第1インクを硬化させるための活性光線を照射する活性光線照射手段と、
を備えるインクジェットプリンター。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76438(P2012−76438A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226388(P2010−226388)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】