説明

インクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法

【課題】 インクジェット印刷によって絵画や地図等の複製を作製するに際し、鮮明な図柄が得られると共に貼り付けた台紙に良好に同化し、また、複数の図柄を組み合わせて台紙に貼り付けても出来上がった図柄がずれることのないインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 インクジェット印刷用紙1を、被印刷材11と裏打材12とをでんぷん糊でなる接着層13を介して接合した構成とする。その場合、被印刷材11は比較的厚みの薄い楮製の和紙11aを有し、その表面にインクジェット印刷用定着剤11bを塗布している。そして、裏打材12は被印刷材11側にアルミニウム箔12aを配し、普通紙12bを積層して補強している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵画や地図等の複製を作製するためのインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法に関し、印刷の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、美術館や博物館では、特に貴重な文化財の古い絵画や地図等に対し、現物とは別に展示目的等のために現物を精巧に模した複製を作製することがある。その場合、このような文化財に対するものではないが、絵画の複製を作製する方法としては例えば特許文献1に開示されているものがある。すなわち、この方法は、絵画の現物を画像データとしたのち、キャンバス状の外観に加工された合成樹脂製フィルムでなる用紙に、上記画像をインクジェット印刷するもので、これにより、現物に似せた質感溢れる複製が得られるようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、写真映像を手漉き和紙でなる用紙にインクジェット印刷し、この印刷された用紙で直接掛け軸を作製する方法が開示されており、これにより、印刷後の用紙におけるインクの滲みが独特の風合いをかもし出すようになっている。
【0004】
一方、和紙に描かれた古い地図や絵画等の場合、図5に示すように、例えば和紙X1にインクジェット印刷によって所定の図柄X1′を印刷し、これを現物同様に古めかしい外観に調製された台紙X2に貼り付けて複製Xを作製することがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−293945号公報
【特許文献2】特開2004−147769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述したような印刷された和紙X1を台紙X2に貼り付けたとき、しみや汚れ等を有した台紙X2の折角の古めかしさが和紙X1によって覆い隠されると共に、矢印yで示す和紙X1と台紙X2との境界が顕在化して、違和感を与えることがある。この問題を解消するには、例えば和紙をできるだけ薄いものとして外観的に台紙X2に同化させることが望ましいが、このような薄い和紙にインクジェット印刷すると、インクが滲んで図柄が不鮮明になるという新たな問題が生じるようになる。
【0007】
また、印刷された複数の小サイズの和紙を組み合わせて大サイズのものにする場合には、薄い和紙にインクジェット印刷を施すと図柄が伸縮する可能性があり、このような和紙を組み合わせて台紙に貼り付けたときに図柄がずれて、複製としての価値を損なうという問題が生じるようになる。
【0008】
そこで、本発明は、以上の現状に鑑み、インクジェット印刷によって絵画や地図等の複製を作製するに際し、鮮明な図柄が得られると共に貼り付けた台紙に良好に同化し、また、複数の図柄を組み合わせて台紙に貼り付けても出来上がった図柄がずれることのないインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、請求項1に記載の発明は、インクジェット印刷によって印刷された状態で台紙に貼り付けられて用いられるインクジェット印刷用紙に関するもので、和紙または絵絹でなる被印刷材と裏打材とが水溶性接着剤を介して接合されていることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載のインクジェット印刷用紙において、被印刷材の表面に、インクジェット印刷用定着剤が塗布されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、上記請求項1または請求項2に記載のインクジェット印刷用紙において、裏打材はアルミニウム箔を有していることを特徴とする。
【0013】
一方、請求項4に記載の発明は、上記請求項1から請求項3のいずれかに記載のインクジェット印刷用紙を用いた複製の作製方法に関するもので、上記用紙の被印刷材にインクジェット印刷によって図柄を印刷したのち、印刷された被印刷材側から水分を付与して水溶性接着剤を溶解することによって裏打材から該被印刷材を剥離し、剥離した該被印刷材を台紙に貼り付けることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、上記請求項4に記載の複製の作製方法において、印刷された被印刷材の表面に、耐水性コーティングを施すことを特徴とする。
【0015】
そして、請求項6に記載の発明は、上記請求項4または請求項5に記載の複製の作製方法において、印刷された被印刷材の表面に、紫外線遮蔽コーティングを施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、インクジェット印刷用紙を和紙または絵絹でなる被印刷材と裏打材とで構成するので、例えば裏打材にインクの浸透と図柄の伸縮とを阻止可能なものを用いることにより、厚みが薄い被印刷材にもインクジェット印刷によって鮮明な図柄を印刷することができ、かつ、印刷された図柄の伸縮が抑制される。
【0017】
この場合、非印刷材の和紙としては、楮紙、雁皮紙、三椏紙等が好ましく適用される。また、絵絹の代わりに、絵絹の代用品となるポリエステル布等も好ましく適用される。一方、裏打材としては、金属箔、アート紙、合成樹脂製フィルム等が好ましく適用される。
【0018】
その上で、被印刷材と裏打材とを水溶性接着剤を介して接合するので、水分を付与して固化した接着剤を溶解することにより、裏打材から被印刷材を容易に剥離することができる。したがって、印刷後に剥離した厚みの薄い被印刷材を該被印刷材と同様の素材でなる例えば古めかしい外観の台紙に貼り付けた場合に、被印刷材は台紙に良好に同化すると共に、台紙の折角の古めかしさが被印刷材によって覆い隠されて阻害されることはない。
【0019】
そして、特に、印刷後に剥離した複数の被印刷材を組み合わせて台紙に貼り付けて大サイズのものにする場合に、各被印刷材同士も良好に同化して、出来上がったものが違和感を与えることはない。また、各被印刷材に印刷された図柄は伸縮が抑制されているので、組み合わせて台紙に貼り付けたときにも出来上がった図柄がずれることはない。
【0020】
次に、請求項2に記載の発明によれば、被印刷材の表面にインクジェット印刷用定着剤を塗布したので、該被印刷材に一層鮮明な図柄をインクジェット印刷することができる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、裏打材はアルミニウム箔のように金属製のものを有しているので、印刷時におけるインクの浸透と図柄の伸縮とが確実に阻止される。
【0022】
一方、請求項4に記載の発明によれば、前述した特徴を備えたインクジェット印刷用紙を用いることにより、印刷された用紙から剥離した被印刷材を台紙に貼り付けたとき、鮮明な図柄を維持しつつ被印刷材を台紙に同化させることができ、特に文化財等の古い地図や絵画等の現物に酷似した外観の複製が得られる。
【0023】
そして、請求項5または請求項6に記載の発明によれば、印刷後の被印刷材の表面に耐水性コーティングや紫外線遮蔽コーティングを施すので、各コーティングの持つ機能が被印刷材に付与され、もって複製の負荷価値が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法について説明する。
【0025】
図1に示すように、このインクジェット印刷用紙1は、インクが定着される被印刷材11とインクの浸透及び図柄の伸縮を阻止する裏打材12とを有し、両者は水溶性接着剤としてのでんぷん糊が固化してなる接着層13を介して接合されている。
【0026】
被印刷材11は、比較的厚みの薄い楮紙製の和紙11aを有している。この場合、坪量20g/mの和紙11aが使用されている。そして、和紙11aの表面に、周知のインクジェット印刷用定着剤11bが塗布されている。
【0027】
裏打材12は、アルミニウム箔12aと普通紙12bとが積層された構成とされており、アルミニウム箔12aと上記和紙11aとが接合されている。この場合、アルミニウム箔12aには厚み7μm、一方、普通紙12bには坪量20g/mのものが使用されている。なお、普通紙12bは、厚みの薄いアルミニウム箔12aを補強する効果を備えている。
【0028】
次に、このインクジェット印刷用紙1を用いた絵画や地図等の複製の作製方法の一例について説明する。
【0029】
まず、図2に示すように、ここで使用するインクジェットプリンタAは、主たる構成要素として、印刷用紙1の非印刷面である裏打材12側を支持するプラテンA1と、該プラテンA1と印刷用紙1を挟んで対向すると共にガイドロッドA2を介して印刷用紙1の幅方向つまり矢印a方向に移動自在とされて、インクの吐出口を有するヘッドA3とを有している。印刷後の印刷用紙1は矢印bで示すように排出される。
【0030】
そして、パソコンに取り込んだ画像データを図2に示したインクジェットプリンタAに出力して、図3(a)に示すように、被印刷材11と裏打材12とを接着層13を介して接合した構成のインクジェット印刷用紙1の被印刷材11に、ヘッドA3から吐出されたインクを定着させる。
【0031】
印刷が終了すると、図3(b)に示すように、適宜の方法でアクリル樹脂と紫外線遮蔽樹脂とをエチルアルコールに溶解した溶液を被印刷材11表面にコーティングしたのち乾燥させて、耐水性機能と紫外線遮蔽機能とを備えた保護層14を形成させる。
【0032】
次いで、図3(c)に示すように、被印刷材11側からから刷毛や霧吹き等によって水分を付与してでんぷん糊でなる接着層13を溶解させることにより、図3(d)に示すように、裏打材12から被印刷材11を剥離する。そして、図3(e)に示すように、剥離された被印刷材11をでんぷん糊を接着層15として、古めかしい外観に調製された楮紙製の台紙21に貼り付ける。
【0033】
図4に、このような行程によって作製された複製22を示している。この場合、古めかしさを現出させるためのしみや汚れ等を有した台紙21に、6枚の被印刷材11…11が貼り付けられており、これらの被印刷材11…11に印刷されたそれぞれの図柄11′…11′が組み合わされて総合図柄11″が構成されている。
【0034】
以上のように構成したことにより、まず、図3(a)に示したように、インクジェット印刷用紙1を和紙11aでなる被印刷材11と裏打材12とで構成するので、例えば裏打材12にインクの浸透と図柄の伸縮とを阻止可能なものを用いることにより、厚みが薄い和紙11aを有する被印刷材11にもインクジェット印刷によって鮮明な図柄を印刷することができ、かつ、印刷された図柄の伸縮が抑制される。
【0035】
その上で、被印刷材11と裏打材12とを水溶性接着剤としてのでんぷん糊でなる接着層13を介して接合するので、図3(c)に示したように、水分を付与して該接着層13を構成する固化した接着剤を溶解することにより、図3(d)に示したように、裏打材12から被印刷材11を容易に剥離することができる。したがって、図3(e)に示したように、印刷後に剥離した厚みの薄い被印刷材11を該被印刷材11つまり和紙11aと同様の素材でなる例えば古めかしい台紙21に貼り付けた場合に、図4に示すように、被印刷材11は台紙21に良好に同化して、矢印c…cで示す被印刷材11…11と台紙21との境界が違和感を与えることがなくなると共に、しみや汚れ等を有した台紙21の折角の古めかしさが被印刷材11によって覆い隠されて阻害されることはない。
【0036】
そして、特に、印刷後に剥離した複数の被印刷材11…11を組み合わせて台紙21に貼り付けて大サイズのものにする場合に、各被印刷材11…11同士も良好に同化して、出来上がったものが違和感を与えることはない。また、各被印刷材11…11に印刷された図柄11′…11′は伸縮が抑制されているので、組み合わせて台紙21に貼り付けたときにも出来上がった総合図柄11″がずれることはない。すなわち、このような特徴を備えたインクジェット印刷用紙1を用いることにより、特に文化財等の古い地図や絵画等の現物に酷似した外観の複製22が得られることになる。
【0037】
また、図3(a)に示すように、被印刷材11の表面にインクジェット印刷用定着剤11bを塗布したので、該被印刷材11に一層鮮明な図柄をインクジェット印刷することができる。
【0038】
さらに、図3(a)に示すように、裏打材12はアルミニウム箔12aのように金属製のものを有しているので、印刷時に吐出されたインクの浸透と図柄の伸縮とが確実に阻止される。
【0039】
そして、図3(b)及び図3(e)に示したように、印刷後の被印刷材11の表面に耐水性コーティングと紫外線遮蔽コーティングとを施して保護層14を形成させるので、各コーティングの持つ機能が被印刷材11に付与され、もって複製22の負荷価値が向上する。
【0040】
なお、上記実施の形態では、被印刷材11に薄い和紙11aを使用したが、これには前述した楮紙の他に雁皮紙、三椏紙等が好ましく適用される。また、和紙11aの他に薄い絵絹や絵絹の代用品となるポリエステル布等も好ましく適用される。
【0041】
また、上記実施の形態では、裏打材12にアルミニウム箔12aを使用したが、アルミニウム箔以外の金属箔であってもよく、さらにはアート紙や合成樹脂製フィルム等のインクの浸透及び図柄の伸縮を阻止可能なものが好ましく適用される。
【0042】
また、上記実施の形態では、被印刷材11と裏打材12とを接合するためでんぷん糊を使用したが、その他に水溶性のアクリル樹脂系接着剤やゴム系接着剤等が好ましく適用される。
【0043】
そして、上記実施の形態では、印刷後の被印刷材11の表面に紫外線遮蔽機能と耐水性機能とを備えた保護層14を形成させていたが、目的に応じていずれか一方の機能のみを備えたコーティングを施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、インクジェット印刷によって絵画や地図等の複製を作製するに際し、鮮明な図柄が得られると共に貼り付けた台紙に良好に同化し、また、複数の図柄を組み合わせて台紙に貼り付けても出来上がった図柄がずれることのないインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法が提供される。すなわち、本発明は、絵画や地図等の複製を作製するためのインクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法に関し、印刷の技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷用紙の構成を示す端面図であって、一部を拡大かつ破断して示す。
【図2】複製の作製に用いるインクジェットプリンタの模式的な要部斜視図である。
【図3】複製の作製工程の一例を説明するための幾分模式的な断面図であって、(a)は印刷している状態、(b)は保護層を形成した状態、(c)は水分を付与している状態、(d)は裏打材から被印刷材を剥離した状態、そして、(e)は剥離した被印刷材を台紙に貼り付けた状態を示す。
【図4】図3の工程によって得られた複製の正面図である。
【図5】従来のインクジェット印刷用紙を用いて複製を作製した場合の問題を説明するための複製の正面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 インクジェット印刷用紙
11 被印刷材
11a 和紙
11b インクジェット印刷用定着剤
12 裏打材
12a アルミニウム箔
13 接着層
14 保護層
21 台紙
22 複製

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷によって印刷された状態で台紙に貼り付けられて用いられるインクジェット印刷用紙であって、和紙または絵絹でなる被印刷材と裏打材とが水溶性接着剤を介して接合されていることを特徴とするインクジェット印刷用紙。
【請求項2】
被印刷材の表面に、インクジェット印刷用定着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷用紙。
【請求項3】
裏打材は、アルミニウム箔を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット印刷用紙。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のインクジェット印刷用紙を用いた複製の作製方法であって、上記用紙の被印刷材にインクジェット印刷によって図柄を印刷したのち、印刷された被印刷材側から水分を付与して水溶性接着剤を溶解することによって裏打材から該被印刷材を剥離し、剥離した該被印刷材を台紙に貼り付けることを特徴とする複製の作製方法。
【請求項5】
印刷された被印刷材の表面に、耐水性コーティングを施すことを特徴とする請求項4に記載の複製の作製方法。
【請求項6】
印刷された被印刷材の表面に、紫外線遮蔽コーティングを施すことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の複製の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−26971(P2006−26971A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205992(P2004−205992)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(593100499)株式会社大弘 (2)
【Fターム(参考)】