説明

インクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法

【課題】発色性を高め、滲みを減らし、且つ風合いが損なわれない捺染を、専用の布帛を用いなくても行えるようにすること。
【解決手段】本発明に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1の一方の面2にコート液3を付着させるコート液付着部4と、前記被捺染材1の他方の面5にインク6を吐出するインクジェット式第1ヘッド7と、を備えている。前記コート液付着部4は、コート液3を吐出するインクジェット式第2ヘッド9で構成され、前記インクジェット式第1ヘッド7及び前記インクジェット式第2ヘッド9の各駆動を制御する制御部10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛すなわち被捺染材に対してインクジェット方式で捺染を行うインクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被捺染材に印捺したときにインクの色材が被捺染材の組織内部へ浸透して発色性が低下するのを抑制することを目的として、或いは発色性を高め、滲みを抑制することを目的として、被捺染材内部へインクが浸透することを抑制する機能を有するコート液を該被捺染材に付着することが従来行われている(例えば、特許文献1、特許文献2)。コート液は一般的には色材を含まず無色であり、上記の機能を発揮するための樹脂が主要成分の一つとして含まれている。
【0003】
従来は、コート液を被捺染材の表面に付着させ、その上にテキスタイルインクを用いて図柄等の画像を印捺していた。これにより、コート液によるコート層にインクが吐出されるので、発色性が高まり、滲みも抑制されるが、コート液が前記画像が印捺された面と同じ被捺染材の表面を覆っているため、被捺染材が本来的に持っている風合いが損なわれる問題があった。
【0004】
これに対して、被捺染材である布帛の裏面側の組織内部に水不透性の合成樹脂含有液(コート液)によってコート層を形成したインクジェット捺染用布帛が提供されている(特許文献3)。この専用の布帛を用いれば前記風合い低下の問題は低減できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−137283号公報
【特許文献2】特開2009−30014号公報
【特許文献3】特開平10−53974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、そのような専用の布帛を用いなければ、上記従来の問題を解決できないという制約を受ける問題がある。また、専用の布帛は予め布帛にコート層を形成するため、該コート層は布帛全面に形成することになり、実際に印捺される図柄の位置との関係で不要な部分にもコート層が形成され、無駄が多い問題がある。更に、コート層の厚さやその性状等を適宜変えて捺染結果にバリエーションをつけたい場合、対応できない問題がある。
【0007】
本発明の課題は、発色性を高め、滲みを減らし、且つ風合いが損なわれない捺染を、専用の布帛を用いなくても行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るインクジェット捺染装置の第1の態様は、搬送される被捺染材の一方の面にコート液を付着させるコート液付着部と、前記被捺染材の他方の面にインクを吐出するインクジェット式第1ヘッドと、を備えている。
【0009】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」を意味し、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。更に、縫製後のハンカチ、スカーフ、タオル、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
また、ここで、「インクジェット式第1ヘッド」は、被捺染材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに搭載された構造のものと、ラインヘッド構造のもののいずれでもよい。
【0010】
本態様に係るインクジェット捺染装置を用いれば、被捺染材の一方の面にコート液付着部によってコート層を形成し、前記被捺染材の反対側の面にインクジェット式第1ヘッドによって図柄を形成することができるので、発色性を高め、滲みを減らし、且つ風合いが損なわれない捺染を、専用の布帛を用いることなく行うことができる。
【0011】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記コート液付着部は、コート液を吐出するインクジェット式第2ヘッドで構成され、前記インクジェット式第1ヘッド及び前記インクジェット式第2ヘッドの各駆動を制御する制御部を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、コート液もインクジェット式第2ヘッドのノズル列の各ノズル孔から吐出して被捺染材に付着させることができるので、図柄に対応する範囲だけにコート液を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所にコート液を付着させずに済み、コート液を無駄なく有効に使用することが可能になる。
また、制御部によってインクジェット式第1ヘッド及びインクジェット式第2ヘッドの各駆動が制御されるので、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整することが可能であり、ユーザーの要求に対応し易くなっている。
【0013】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第3の態様は、前記第2の態様において、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドを搬送方向に対して相対的に接離させる接離駆動部を備え、前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッド、前記インクジェット式第2ヘッド及び前記接離駆動部の各駆動を制御可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本態様によれば、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドは搬送方向に対して相対的に接離可能であるので、両ヘッドの搬送方向における間隔を変えることが可能となり、この間隔を変えるだけで、他の駆動条件は変えずに発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整することが可能となり、捺染結果のバリエーションを容易につけることができる。
【0015】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第4の態様は、前記第2の態様又は第3の態様において、前記インクジェット式第1ヘッドは、前記インクジェット式第2ヘッドに対して搬送方向における下流側に離間して配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、被捺染材の一方の面にコート層を形成した後に、間をおいて反対側の面に図柄を形成するためのインクを吐出することができる。従って、コート液が吐出されて形成されるコート層の安定性が進んだタイミングで前記図柄が形成されることになり、発色性を一層高め、滲みを一層減らすことができる。
【0017】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第5の態様は、前記第4において、前記インクジェット式第2ヘッドの部位を通過した被捺染材は反転部で反転されて前記インクジェット式第1ヘッドの捺染実行領域に至るように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、被捺染材にコート液が吐出された状態で、当該被捺染材は搬送経路における反転部での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材の組織の馴染んだコート層になり、図柄の発色性が一層高まり、滲みが一層低減されることになる。
【0019】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第6の態様は、前記第2の態様から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を制御可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を変えることによって、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整を細かく行うことが可能となり、捺染結果のバリエーションを一層多くつけることができる。
【0021】
本発明の第7の態様となる捺染物の製造方法は、前記第1の態様から第6の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置を用いて被記録材に捺染を実行するものである。
【0022】
本態様によれば、前記第1の態様から第6の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置の作用効果に基いて発色性の高い、滲みの少ない、且つ風合いが損なわれない捺染物を、専用の布帛を用いることなく製造することができる。
或いは、ユーザーの望む程度の発色性、滲み抑制、更に風合いの捺染物を容易に製造することができる。
【0023】
本発明に係る捺染物の製造方法の第8の態様は、前記第7の態様において、前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm以上50N/mm以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【0024】
本発明に係る捺染物の製造方法の第9の態様は、前記第7の態様において、前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図2】(A)(B)(C)は同実施例に係るインクジェット捺染装置の作用を説明する図。
【図3】実施例2に係り、インクジェット第2ヘッドが移動可能である要部概略の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施例1](図1、図2参照)
図1に示したように、本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1の一方の面2にコート液3を付着させるコート液付着部4と、前記被捺染材1の他方の面5にインク6を吐出するインクジェット式第1ヘッド7とを備えている。インクジェット式第1ヘッド7は、被捺染材1の搬送方向Aにインク6を吐出するためのノズル孔が複数並んだノズル列8を有する公知の構造のものである。
該インクジェット式第1ヘッド7は、前記搬送方向Aと交差する方向(図1の紙面と直交する方向)に往復移動するキャリッジ13に搭載されている。図1において、符号16、17はキャリッジ13のガイド軸を示し、該ガイド軸16、17は公知の構造のものであり、その両端は装置本体のサイドフレーム(図示せず)に軸支されている。尚、インクジェット式第1ヘッド7はラインヘッドであってもよい。
【0027】
コート液付着部4は、スプレー式やロールコート式等の塗布装置、インクジェット式の液体噴射ヘッドが挙げられる。本実施例では、コート液付着部4は、前記インクジェット式第1ヘッド7と同構造でコート液3を吐出するノズル列8を有するインクジェット式第2ヘッド9で構成されている。該インクジェット式第2ヘッド9も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ14に搭載されている。符号18、19はキャリッジ14のガイド軸を示す。尚、インクジェット式第2ヘッド9もラインヘッドであってもよい。
【0028】
前記インクジェット式第1ヘッド7及び前記インクジェット式第2ヘッド9の各駆動は制御部10によって制御されるようになっている。すなわち、捺染実行指令15が制御部10に送られると、該制御部10は各制御信号11、12をインクジェット式第1ヘッド7及びインクジェット式第2ヘッド9に送る。これにより、インクジェット式第2ヘッド9から被捺染材1の一方の面2にコート液3が吐出され、インクジェット式第1ヘッド7から被捺染材1の他方の面5にインク6が吐出されるようになっている。
【0029】
本実施例では、前記インクジェット式第1ヘッド7は、前記インクジェット式第2ヘッド9に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されている。
更に、前記インクジェット式第2ヘッド9の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インクジェット式第1ヘッド7の部位に至るように構成されている。符号21は反転用ローラを示す。尚、インクジェット式第2ヘッド9の上流側にも反転用ローラ22が配設されている。両反転用ローラ21、22によって、当該インクジェット式第2ヘッド9によるコート液3の吐出を上方側から下方側に向けて行えるように搬送経路が構成されている。
また、前記制御部10は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を増減調整して吐出する制御を実行可能に構成されている。
【0030】
次に、図2を用いて、上記実施例1のインクジェット捺染装置を用いて被捺染材1に捺染を実行して捺染物を製造する場合の作用効果を従来と対比しつつ説明する。
図2(A)は、被捺染材1にコート液によるコート層を形成しないで、インク6を吐出した場合を示す。コート層がないため、インク6は被捺染材1の表面から内部にまで浸透し、表面における存在量が少なく、所望の発色性が得られない状態を示している。
図2において、符号23は色材、符号24は樹脂層を示す。該樹脂層24は、捺染用のインク特性として要求される洗濯堅牢性、耐擦性、定着性等を高めるための成分としてインク中に加えられている樹脂が浸透拡散することによって作られる。
【0031】
図2(B)は、被捺染材1の表側(他方の面5)にコート液3によるコート層25が形成されているものに、同じく表側(他方の面5)からインク6を吐出した場合を示す。コート層25の存在によってインク6の内部への浸透は抑制され、色材23は表面に位置し、高い発色性が得られる。しかし、コート層25が被捺染材1の表面を被っているため、該被捺染材1が本来的に持っている表面の風合いが損なわれる。
更に、インク6中に含まれている前記樹脂が、図示のように被捺染材1の表面付近で樹脂層24を作るため、表面における樹脂量が増加し、風合いが一層悪化する問題がある。
【0032】
図2(C)は、上記実施例のインクジェット捺染装置によって、前記従来提供されている専用の布帛ではなく、通常の被捺染材に対して捺染が行われて製造された捺染物を示している。コート液3は被捺染材1の裏面(一方の面2)に吐出されるので、コート層25は裏面側に形成され、表面付近にはコート層25は存在しない。即ち、表面にはコート層25の非存在部26がある。そのため、被捺染材1の表面(他方の面5)に吐出されるインク6は、コート層25の非存在部26の内部には浸透することができるが、直ちにコート層25に接触して浸透が抑制されるため、図2(A)に示したように浸透し過ぎず、適度の浸透深さで止まる。
これにより、高い発色性と滲みの少ない捺染を実現できると共に、被捺染材1の表面(他方の面5)付近にはコート層25が存在していないので、被捺染材1の表面の本来の風合いが損なわれることがない。
【0033】
更に上記実施例によれば、以下に記す作用効果が得られる。
先ず、コート液3もインクジェット式第2ヘッド9のノズル列8の各ノズル孔から吐出して被捺染材1に付着させることができるので、図柄に対応する範囲だけにコート液3を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所にコート液3を付着させずに済み、コート液3を無駄なく有効に使用することが可能になる。
また、制御部10によってインクジェット式第1ヘッド7及びインクジェット式第2ヘッド9の各駆動が制御されるので、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整することが可能であり、ユーザーの要求に対応し易い。
【0034】
また、インクジェット式第1ヘッド7は、インクジェット式第2ヘッド9に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されているので、被捺染材1の一方の面2にコート層25を形成した後に、間をおいて反対側の面5に図柄を形成するためのインク6を吐出することができる。従って、コート液3が吐出されて形成されるコート層25の安定性が進んだタイミングで前記図柄が形成されることになり、発色性を一層高め、滲みを一層減らすことができる。
【0035】
また、前記インクジェット式第2ヘッド9の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インクジェット式第1ヘッド7の捺染実行領域(ノズル列8のカバーする領域)に至るように構成されているので、被捺染材1にコート液3が吐出された状態で、当該被捺染材1は搬送経路における反転部20での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材1の組織に馴染んだコート層25になり、図柄の発色性が一層高まり、滲みが一層低減される。
【0036】
また、前記制御部10は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を増減調整して吐出する制御を実行可能に構成されているので、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を変えることによって、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整を細かく行うことが可能となり、捺染結果のバリエーションを一層多くつけることができる。
【0037】
[実施例2](図3参照)
実施例2に係るインクジェット捺染装置は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9を搬送方向Aに対して相対的に接離させる接離駆動部30を備えている。そして、前記制御部10は、インクジェット式第1ヘッド7、インクジェット式第2ヘッド9及び前記接離駆動部30の各駆動を制御可能に構成されている。その他の構成は前記実施例1と同じであるので、その説明は省略し、相違点を詳しく説明する。
【0038】
前記接離駆動部30は、本実施例ではラック・ピニオン機構によって構成されている。すなわち、キャリッジガイド軸18、19の両端を支持する軸受部が、前記装置本体のサイドフレーム(図示せず)とは別個独立して設けられ、図3に示したように、ラック31と一体的に設けられている。ラック31と組をなすピニオン32は、制御部10からの制御信号33を受けて正転及び逆転方向に回動し、これにより、ラック31が搬送方向Aにスライドするようになっている(矢印34)。図3において、破線で示した位置はインクジェット式第2ヘッド9がインクジェット式第1ヘッド7に接近した状態を示している。
【0039】
本実施例によれば、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9は、搬送方向Aに対して相対的に接離することができるので、両ヘッド7、9の搬送方向Aにおける間隔を変えることが可能となる。この間隔を変えることによって被捺染材1の裏面(一方の面2)に吐出されたコート液3と表面(他方の面5)に吐出されたインク6とが、互いに内部に浸透して接触するタイミングが変ることになる。これにより、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度も変る。
従って、前記間隔を変えるだけで、他の駆動条件は変えずに発色性の程度や滲み抑制の程度、更に風合い維持の程度について調整することが可能となり、捺染結果のバリエーションを容易につけることができる。
【0040】
次に、本発明のインクジェット捺染装置で用いるコート液3とインク6について説明する。上記説明から容易に理解できるように、本発明において用いることができるコート液3とインク6は、特定の種類のもの、或いは特定の種類の組合せに限定されない。従って、従来公知のコート液3とインク6を全て用いることができるが、以下に具体的に示す。
【0041】
<インク>
インクは、色材と、耐擦性向上用樹脂と、少なくとも溶剤を含む他の成分によって構成されている。被捺染材の捺染に用いるインクとしては、耐光性、耐水性等の保存性に優れる顔料インクを用いることが好ましく、前記色材としては、公知の顔料、すなわち、有機顔料、無機顔料、およびカーボンブラック等が挙げられる。
【0042】
例えば、黒色インク用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0043】
また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
【0044】
インクにおける色材の含有量としては、0.5%〜30%が好ましいが、さらに1.0%〜15%が好ましい。これ以下の添加量では、印捺濃度が確保できなくなり、またこれ以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェット捺染ヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0045】
次に、耐擦性向上用樹脂について説明する。この耐擦性向上用樹脂は、インクの洗濯堅牢性、耐擦性、定着性を向上させることを目的として添加される樹脂であり、公知の樹脂、例えば、特開2006−307165号公報に記載の樹脂成分を挙げることができる。具体的には、親水性樹脂と疎水性樹脂との複合成分樹脂が挙げられる。親水性樹脂としては、カルボキシル基、スルホン基等の親水性基を有するスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。疎水性樹脂としては、疎水性を示すスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。
また、これらは公知の方法、例えば、特開2010−189626号公報に記載の方法(高分子微粒子の作成方法)によって、製造することができる。
【0046】
また、耐擦性向上用樹脂のガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましい。このことによって、布帛用インクとしての顔料の定着性が向上する。0℃を超えると顔料の定着性が徐々に低下してくる。好ましくは−5℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。更に、前記耐擦性向上用樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上で100mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が100mgKOH/gを超えると、被捺染材に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。好ましくは50mgKOH/g以下であり、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
また、耐擦性向上用樹脂の分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万以上である。10万未満では布帛に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。
【0047】
次に、前記色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分について説明する。前記他の成分は、少なくとも溶剤を含む成分であり、例えば、1、2−へキサンジオール、ブチルトリグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、トリエタノールアミン等の溶剤の他、界面活性剤、イオン交換水等である。前記界面活性剤としては、アセチレングリコール系、アセチレンアルコール系等の公知の界面活性剤を用いることができる(例えば、特開2010−189626号公報を参照)。
【0048】
また、放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出、目詰まり改善、あるいはインクの劣化防止等を目的として、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0049】
<コート液>
コート液は、前記インクにおける色材を含まず、捺染前の布帛表面、あるいは捺染後のインク表面を覆うコート層を形成するために用いることができるものである。コート液としては、前記インクの色材以外の成分、すなわち、耐擦性向上用樹脂と、前記インクについての説明における「色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分」を含む成分を用いることができる。特に、コート液における当該他の成分の組成(例えば、各成分の重量%)も、前記インクと同じであることが好ましい。
【0050】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm以上50N/mm以下のウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0051】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0052】
表1に、本発明に用いられるインクとコート液の成分組成の一例を示す。
【0053】
【表1】

【符号の説明】
【0054】
1 被捺染材、 2 一方の面(裏側の面)、 3 コート液、
4 コート液付着部、 5 他方の面(表側の面)、 6 インク、
7 インクジェット式第1ヘッド、 8 ノズル列、
9 インクジェット式第2ヘッド、 10 制御部、 11 制御信号、
12 制御信号、 13 キャリッジ、 14 キャリッジ、 15 捺染実行指令、
16 ガイド軸、 17 ガイド軸、 18 ガイド軸、 19 ガイド軸、
20 反転部、 21 反転用ローラ、 22 反転用ローラ、 23 色材、
24 樹脂層、 25 コート層、 26 非存在部、 30 接離駆動部、
31 ラック、 32 ピニオン、 33 制御信号、34 矢印、 A 搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被捺染材の一方の面にコート液を付着させるコート液付着部と、
前記被捺染材の他方の面にインクを吐出するインクジェット式第1ヘッドと、を備えているインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記コート液付着部は、コート液を吐出するインクジェット式第2ヘッドで構成され、
前記インクジェット式第1ヘッド及び前記インクジェット式第2ヘッドの各駆動を制御する制御部を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドを搬送方向に対して相対的に接離させる接離駆動部を備え、
前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッド、前記インクジェット式第2ヘッド及び前記接離駆動部の各駆動を制御可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第1ヘッドは、前記インクジェット式第2ヘッドに対して搬送方向における下流側に離間して配置されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第2ヘッドの部位を通過した被捺染材は反転部で反転されて前記インクジェット式第1ヘッドの捺染実行領域に至るように構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を制御可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置を用いて被捺染材に捺染を実行する捺染物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm以上50N/mm以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197536(P2012−197536A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62551(P2011−62551)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】