説明

インクジェット用記録媒体、及びインク受容層形成用塗工液

【課題】透明性、特に、インク受容相中のシリカ濃度が高い場合の透明性に優れたインクジェット用記録媒体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造単位を有するカルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)及び水を含有する塗工液を支持体上に塗工、乾燥して形成されたインク受容層を有する


(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Xは炭素数が4〜50のアルキレンを示し、Yは水素原子又はアルカリ金属を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)と無機微粒子を含有するインク受容層を有するインクジェット用記録媒体に関し、さらに詳しくは、透明性、特にインク受容層中のシリカ濃度を高くした時の透明性に優れるインク受容層を有するインクジェット用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの小滴をノズルより飛翔させ、記録媒体の表面に着弾、定着させて、文字、画像等の記録を行なう方法で、フルカラー印刷が容易、ランニングコストが安い、印刷時の騒音が少ないなどの多くの利点から、家庭やオフィスなどのプリンターに広く用いられている。
【0003】
かかる記録方式で用いられるインクジェット用記録媒体には、PVA系樹脂等のバインダーとシリカ等の無機微粒子を含有して、シリカの空隙にインクを吸収させる空隙型のインク受容層を持つものと、インクを吸収して膨潤する樹脂を主成分とする膨潤型のインク受容層を持つものがある。中でも、無機微粒子として非晶質シリカを用いた空隙型インク受容層をもつインクジェット用記録媒体は、インク吸収性(吸収量、吸収速度)が良好であるという利点から、好適に用いられている。しかし、この記録媒体は、シリカの粒子径が比較的大きいため光沢性に欠け、また、空隙内部に吸収されたインクも隠蔽されるため、画像鮮明度が不足しがちであり、写真等の印刷には不適当である。
【0004】
かかる課題に対し、無機微粒子としてコロイダルシリカを含有する塗工液で形成したインク受容層を持つインクジェット用記録媒体が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)コロイダルシリカは超微粒子であるため、得られる記録媒体は光沢性に優れ、インク受容層中の光の透過度が高く、鮮明性に優れた画像が得られる。また、コロイダルシリカは、予め均一に分散しているため、形成したインク受容層の均一性が高いという効果も得られる。
【0005】
しかし、近年、デジタルカメラやパソコンの解像度の技術が向上しており、また、医療分野においてもエコー写真やNMR写真などによる診断の精度を向上させたいという要望があることから、更に解像度の高い画像を鮮明に印刷するための技術及びインクジェット用記録媒体が要求されている。
【0006】
例えば、解像度の高い鮮明な画像の印刷方法として、インク濃度を下げ、多段階印刷することにより鮮明に濃淡を付けるインクジェット記録方式が実施されている。この方法では、濃い色を印刷する部分には、インクの着弾回数を増やす必要がある。この場合、インクの量が多いため、フェザリングが起こりやすく、それによって画像鮮明度が低下する場合がある。そのため、インクジェット用記録媒体は、さらに優れたインク吸収性と定着性が求められる。
【0007】
通常、インクジェット印刷に用いられる染料系インクはアニオン性であることから、その定着剤としてカチオン性化合物がインク受容層中に配合されているが、無機微粒子にも同様の機能を持たせるため、カチオン表面処理された無機微粒子の使用が提案されている。例えば、特許文献2には、無機微粒子としてカチオン性コロイダルシリカが用いられている。
【0008】
一方、印字特性(印字濃度やフェザリング)や表面紙力強度の向上を目的として、バインダーとしてカルボキシル基含有PVA系樹脂及びポリアクリル酸塩を用いたインクジェット用記録媒体が提案されている。(例えば、特許文献3参照。)
【0009】
そこで、本発明者らは、カルボキシル基含有PVA系樹脂とカチオン性コロイダルシリカの組み合わせについて検討を行ったが、塗工液中でアニオン性であるカルボキシル基含有PVA系樹脂とカチオン性コロイダルシリカが電気的引力により引き付けられて凝集してしまうため、白濁してしまい、この塗工液を用いて得られたインクジェット用記録媒体は、透明性の点で難があることが判明した。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−152778号公報
【特許文献2】特開2007−76228号公報
【特許文献3】特開2001−71622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、PVA系樹脂と無機微粒子を含有し、透明性に優れるインク受容層を有するインクジェット用記録媒体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の事情に鑑み鋭意検討した結果、一般式(1)に示される構造単位を有するカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)及び水を含有する塗工液をインク支持体上に塗工、乾燥して形成したインク受容層を有するインクジェット用記録媒体によって、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【化1】


(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Xは炭素数が4〜50のアルキレンを示し、Yは水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【0013】
すなわち本発明は、カルボキシル基含有PVA系樹脂とカチオン性コロイダルシリカを含有するインク受容層を有するインクジェット用記録媒体において、かかるカルボキシル基含有PVA系樹脂として、主鎖から炭素数4〜50の長鎖アルキレンを介してカルボキシル基が結合したPVA系樹脂を用いたことを最大の特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェット用記録媒体は、透明性、特にインク受容層中のシリカ濃度が高い時の透明性に優れるものであり、優れたインク吸収性を持ち、優れた画像鮮明度を有することが期待できるため、各種印刷用紙に適用でき、特に診察用写真など高解像度の画像を印刷するための用紙として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施様態の一例を示すものであり、この内容に特定されるものではない。
【0016】
まず、本発明のインク受容層用塗工液について詳細に説明し、その後、その塗工液を用いたインクジェット用記録媒体の製造工程を説明する。
[カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)]
本発明の塗工液に用いられるカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を有する。
【化2】

【0017】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基であるが、塗工液を調製する際の水への溶解性の点から、中でも、R1、R2、R3が全て水素原子であるものが好ましい。R1、R2、Rがアルキル基である場合は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、オクチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられ、かかるアルキル基は、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0018】
一般式(1)において、Xは通常、炭素数が4〜50の直鎖状のアルキレンであり、炭素数が6〜40の直鎖状のアルキレンが好ましく、炭素数が8〜20の直鎖状のアルキレンがさらに好ましい。炭素数が多すぎると、水への溶解性が低下する傾向があるため、塗工液の調製が困難になる場合があり好ましくなく、逆に炭素数が少なすぎると、カルボキシル基に引き付けられるカチオン性コロイダルシリカ(B)が主鎖の水酸基に引き付けられるカチオン性コロイダルシリカ(B)付近に存在しやすくなり、カチオン性コロイダルシリカ(B)同士が密集しやすいため、インクジェット用記録媒体とした時、目的の透明度が得られない場合があり好ましくない。
【0019】
また、Yは、通常、水素原子であるが、その一部又は全部がカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)製造のケン化工程に用いる触媒に由来するナトリウム、カリウム等のアルカリ金属であっても良い。
【0020】
かかるカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)を製造する方法としては、特に限定されないが、下記一般式(2)で示される化合物とビニルエステル系単量体との共重合体をケン化する方法が好ましく用いられる。なお、2種以上の一般式(2)の化合物と2種以上のビニルエステル系単量体とを共重合させても良い。
【化3】

【0021】
上記一般式(2)において、R1、R2、R3、Xは、上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。また、Yは、上記一般式(1)と同様のものが挙げられるが、さらに重合後のケン化工程により脱離されるため、エステル基であっても良い。
【0022】
一般式(2)で示される化合物としては、具体的には、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等の1−アルケン酸およびそのエステルや塩等の誘導体が挙げられ、中でもカチオン性コロイダルシリカ(B)を密集させにくく、かつ塗工液にする際に水への溶解性が良い点で、R1、R2、R3が水素である1−アルケン酸が好ましく、特にYが水素で、Xが炭素数8のアルキレンであるウンデシレン酸およびその誘導体が好ましい。
【0023】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済的な点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0024】
また、本発明においては、上記の共重合成分以外にも本発明の目的を阻害せず、又、水溶性を維持する範囲において、他の単量体を0.1〜20モル%程度共重合させることも可能で、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0025】
また、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0026】
さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体、グリセリンモノアリルエーテル、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等も挙げられる。
【0027】
上記のビニルエステル系単量体と一般式(2)で示される化合物(さらには他の単量体)を共重合する方法及び得られた共重合体をケン化する方法としては、特に制限はなく、特開2006−152206号公報等に記載されているような、公知の方法が用いられる。
【0028】
かくして得られるカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の側鎖に存在するカルボキシル基含有長鎖アルキル基の含有量(すなわち変性度)は、通常0.1〜20モル%であり、好ましくは0.5〜10モル%、特に好ましくは1〜3モル%である。かかる変性度が大きすぎると、水溶液とした時の粘度が増加し、インク受容層を形成しにくくなったり、またはインク受容層にひび割れ等の欠点が生じる場合があり好ましくない。逆に変性度が小さすぎると、カルボキシル基含有長鎖アルキル基の数が少ないため、主鎖の水酸基によるカチオン性コロイダルシリカ(B)の密集を防ぎにくく、インクジェット用記録媒体とした時、目的の透明度が得られない可能性があるため好ましくない。
【0029】
本発明におけるカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定。)は、通常100〜4000であり、好ましくは200〜2000、より好ましくは300〜1200である。平均重合度が大きすぎると、塗工液の粘度が高くなり、インク受容層を形成しにくく、また、塗工液がゲル化する場合があるため好ましくない。逆に平均重合度が小さすぎると、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)のバインダー力が低下し、インク受容層を乾燥させる際、インク受容層に亀裂が生じ易くなる場合があり好ましくない。
【0030】
また、かかるカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)のケン化度は、通常、80〜99.9モル%、好ましくは90〜99.5モル%、特に好ましくは96〜99モル%である。ケン化度が低すぎると水溶性が低下し塗工液の調製が困難になる場合があるため好ましくない。
【0031】
[カチオン性コロイダルシリカ(B)]
カチオン性コロイダルシリカ(B)は、粒子表面にカチオン性種を有するコロイダルシリカで、その製造法としては、特開2004−114459号公報に記載されているような、気相法シリカを、4級アンモニウム塩を含むカチオン性ポリマーやポリ塩化アルミニウムを含む溶媒中で高圧ホモジナイザーなどにより分散させる方法や、特開2005−162533号公報や特開2006−321978号公報に記載されているような、アルコキシシランやその誘導体などの加水分解可能なケイ素化合物を加水分解し、アルカリ触媒と反応させて得られたコロイダルシリカを酸性水溶液中で金属化合物やカチオン性シランカップリング剤などのカチオン種と反応させる方法が挙げられる。
【0032】
コロイダルシリカのカチオン種としては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合体等のカチオン性ポリマー、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマー、Na、K、Ca、Mg、Al、Zn、Ba、Sr又はSnからなる群から選択される金属の金属石鹸、水酸化物、塩または酸化物が挙げられるが、中でも、容易にカチオン性の高いコロイダルシリカを得ることができ、また、得られる記録媒体に印刷した時の画質が向上し、画像の耐水性を付与することができることからAl又はその化合物が好ましい。これらのカチオン種は少なくとも1種以上含まれていれば良く、複数のものが併用されたものでも良い。
【0033】
コロイダルシリカの一次粒子の平均粒子径は通常3〜200nm以下であり、好ましくは10〜100nmである。かかる平均粒子径が大きすぎるとかかるシリカを含有する塗工液で形成したインク受容層の平滑性と透明度が低下する場合があり好ましくなく、逆に小さすぎるとインク受容層中の空隙が小さくなり、インク吸収性が低下する場合があり好ましくない。
【0034】
分散溶媒としては、主に水が使用される。また、かかる溶媒は、カチオン性コロイダルシリカ(B)の分散性を向上させる点から、酸性溶媒であることが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が添加されていることが好ましい。
【0035】
本願で用いるカチオン性コロイダルシリカ(B)の形状は、通常、平板状、繊維状、針状、球状、棒状等のいずれでも良く、インク吸収性の観点から、インク受容層中の空隙の表面積を大きくすることができる球状が好ましい。
【0036】
上記のカチオン性コロイダルシリカ(B)の市販品の例としては、WRグレース社製LudoxCLPや日産化学社製スノーテックAKなどが挙げられる。
【0037】
本発明のインク受容層形成用塗工液は、カチオン性コロイダルシリカ(B)の他に、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、インク吸収性の向上のため、必要に応じて他の微粒子を含んでいても良く、かかる微粒子としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、ゼオライト、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム等が挙げられ、これらを単独、または2種類以上組み合せて用いても良い。
【0038】
[インク受容層形成用塗工液]
本発明の塗工液は、上述のカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)、カチオン性コロイダルシリカ(B)を含有するものである。
【0039】
塗工液中のカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比(A/B)は、インク受容層に求められる特性に応じて適宜選定され、通常5/95〜95/5である。特に、本発明のインク受容層形成用塗工液はコロイダルシリカの分散性が高く、透明性に優れる受容層が得られることから、シリカの含有量が多い範囲、例えば(A/B)が5/95〜50/50の範囲が好適に用いられ、より好ましい範囲は8/92〜30/70であり、さらに好ましい範囲は10/90〜20/80である。カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の含有量が少なすぎるとインク受容層表面にひび割れなどの欠点が生じる場合があり好ましくない。逆にカチオン性コロイダルシリカ(B)の含有量が少なすぎると、インク受容層中の空隙の量が減少し、インク吸収性が低下する場合があるため好ましくない。
【0040】
また、塗工液中の固形分全体の濃度は、通常5〜30重量%であり、好ましくは8〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%である。かかる濃度が高すぎると、塗工液の粘度が上昇し、塗工する際、作業性が悪くなる場合があり好ましくなく、逆に低すぎると、水溶性樹脂及び無機微粒子の成分が少ないため、インク受容層のインク吸収性が低下する場合があるため好ましくない。
【0041】
本発明の塗工液の粘度(JIS K7117−1に基づき、塗工液の温度23℃の条件で、B8L型粘度計(東京計器社製)を用いて、測定粘度により適宜ローターナンバー及び回転数を変更して測定。)は、通常5〜180000mPa・Sであり、特には50〜50000mPa・Sであることが好ましく、更には100〜10000mPa・Sであることが好ましい。かかる粘度が高すぎると、形成したインク受容層の表面平滑性が悪くなる場合があり好ましくなく、逆に粘度が低すぎると、乾燥の際、インク受容層に風紋などの欠点が生じる場合があり好ましくない。
【0042】
本発明の塗工液は、特にゲルコート法による塗工に好適に用いることができるものである。ゲルコート法とは、塗工膜をゲル化させた後、乾燥してインク受容層を形成する方法である。ゲルコート法を用いると乾燥時に、熱風による波紋等の欠点ができにくくなり、光沢性が良好となる。この塗工膜をゲル化させる方法としては、例えば、塗工液中にホウ酸等の架橋剤を添加する方法や、塗工膜を形成後、加熱又は冷却する方法等が用いられている。しかしながら、架橋剤を用いると塗工液の安定性が低下し、ゲル化の制御も難しくなるという問題点がある。
【0043】
一方、塗工液が高粘度であると塗工膜をわずかな温度変化でゲル化することが可能であるが、通常、例えば未変性のPVA系樹脂などをバインダーとして用いた場合、シリカ濃度を高くすると、塗工液中のPVA系樹脂の含有量が少ないため、塗工液の固形分濃度を挙げたとしても、その粘度は上がり難く、ゲルコート法に適さないものである。しかし、本発明における塗工液では、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)のカルボキシル基含有長鎖アルキル基によりカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)分子同士が絡み易く、シリカ濃度が高い場合においても塗工液の粘度が高く、さらに塗工液の固形分濃度を上げることにより、粘度を上昇させることができるため、ゲルコート法に適しているものである。
【0044】
また、この塗工液は適度に高粘度であるため、塗工液を厚塗りすることができ、乾燥工程の際、さらに欠点ができにくくなる利点がある。また、記録媒体の端面付近のインク受容層が型崩れしにくく、紙面全体の厚みが均一となり、記録媒体は、均一なインク吸収性を持つものになる。また、通常より膜を厚くすることができるためインク吸収性を向上させることも可能であるため、さらに画像鮮明度を向上させることができる。
【0045】
なお、かかる塗工液の粘度は、塗工液中の固形分濃度により粘度調整することも可能であり、例えば、塗工液の粘度が高すぎる場合、加水することにより、適度な粘度範囲まで減粘することができる。また、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の構造により調製することも可能であり、かかる場合の一例として、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の重合度を変える方法が挙げられる。
【0046】
また、本発明の塗工液は、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)を含有しているため、塗工液のpHを変更することにより、粘度調整することも可能である。カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)が側鎖に有するカルボキシル基の等電点に塗工液のpHを調整すると、カルボキシル基含有長鎖アルキル基の電荷が低下するため、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)分子同士の電気的反発が小さくなり、お互いが絡み易くなるため、塗工液の粘度が上昇する。かかるpHは、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の構造やカルボキシル基含有アルキル基の変性量に左右されるが、通常、2〜6であり、特に3〜5であることが好ましい。
【0047】
なお、本発明の塗工液は、特に架橋剤や増粘剤を添加しなくても粘度調製が容易なものであるが、必要であれば、本発明の目的が阻害されない範囲で併用しても良い。かかる架橋剤としては、例えば、ホウ素化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、グルタルジアルデヒド等のアルデヒド化合物、尿素樹脂、グアナミン樹脂、メラミン樹脂等のアミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等のエポキシ系化合物、アジピン酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等のヒドラジド系化合物、酸無水物、ポリエソシアネート、ブロックイソシアネート等のイソシアネート化合物などの有機系架橋剤、テトラアルコキシチタネート等のチタン化合物、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物、亜リン酸エステル、ビスフェノールA変性ポリリン酸等のリン化合物、アルコキシ変性シリコーン、グリシジル変性シリコーン等の変性シリコーン、クロロヒドロキシオキソジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル等のジルコニウム化合物などの無機系架橋剤が挙げられる。
【0048】
さらに、本発明のインク受容層用塗工液には、本発明の目的が阻害されない範囲で、顔料分散剤、流動性改良剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、紙力増強剤などを配合しても良い。
【0049】
塗工液の製造方法は、例えば、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)及びカチオン性コロイダルシリカ(B)を配合した後、カチオン性コロイダルシリカ(B)を分散させるため混合する方法が挙げられる。塗工液の配合方法としては、通常、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の水溶液とカチオン性コロイダルシリカ(B)の分散液を混合するか、カチオン性コロイダルシリカ(B)の分散液にカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)を加え、攪拌溶解する方法がある。また、混合方法としては、通常のプロペラ攪拌、タービン型攪拌、ホモミキサー型攪拌等で予備混練し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用して、固形成分が均一に分散するように混合する方法等がある。
【0050】
[インクジェット用記録媒体]
本発明のインクジェット用記録媒体は、支持体上に、本発明のインク受容層形成用塗工液を塗工、乾燥して、インク受容層を形成することにより製造されるものである。
【0051】
本発明の記録媒体に使用できる支持体としては、特に制限されるものではないが、例えば、紙(マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙、剥離紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、グラシン紙など)、樹脂コート紙、合成紙、不織布、布、金属箔、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)等の熱可塑性樹脂からなるフィルムやシート、ポリカーボネート系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするプラスチック板やディスクなどが使用できる。
【0052】
支持体上に塗布液を塗布してインク受容層を形成する方法としては、バーコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、カーテンコーター法などの公知の塗工方法が用いられる。
【0053】
塗工液の塗布量は、所望するインク受容層の厚さや支持体の種類などによって異なるため、一概には言えないが、通常、乾燥後のインク受容層の厚さが3〜100μm、さらには6〜50μm、特には10〜30μmとなるような塗布量で塗布することが好ましい。
また、ゲルコート法により形成する場合、乾燥後のインク受容層の厚みは、通常、20〜80μmであり、特に30〜70μmであることが好ましく、更には20〜50μmであることが好ましい。
【0054】
支持体上に塗布液を塗布した後の乾燥条件としては特に制限されないが、通常50〜100℃で1〜30分程度乾燥させればよい。
また、乾燥前の湿潤状態で、あるいは一旦乾燥させた後に再び湿潤させて湿潤状態とし、インク受容層表面をキャストドラムに圧接して乾燥させることで、表面光沢性・平滑性を付与する方法も、好ましく用いられる。
【0055】
かかるインク受容層には、本発明の目的が阻害されない範囲で、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)とは別の水溶性、水分散性樹脂を含有しても良い。例えば、デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体、ゼラチン、カゼイン、等の天然系たんぱく質類、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸塩などの水溶性樹脂、SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル系樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョンなどが挙げられる。
【0056】
また、インク受容層には、本発明の目的が阻害されない範囲で、アニオン性染料インクの定着剤としてカチオン性樹脂を併用しても良い。かかるカチオン性樹脂としては、例えば、ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム塩を有するアクリル重合体、ポリビニルアミン共重合体、ポリビニルアミジン共重合体、ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重合体、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体などが挙げられる。
【0057】
また、本発明のインクジェット用記録媒体には、公知の光沢層がインク受容層上に塗工されていても良い。インク受容層にかかる光沢層を塗工する場合、その乾燥後の膜厚は、特に制限されないが、通常2〜10μm、好ましくは3〜5μmである。
【0058】
本発明のインクジェット用記録媒体は、透明性が優れているものである。また、インク受容層中のシリカ濃度を高くすることが可能であり、インク吸収性に優れ、印字の鮮明性、発色性が良いインクジェット用記録媒体が得られる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
また、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0060】
実施例1
〔カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール300部、ウンデシレン酸42.81部(酢酸ビニルに対して2モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.2モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ重合を行った。重合を開始して3時間後に、更にアゾビスイソブチロニトリル0.1モル%(対初期の仕込み酢酸ビニル)を添加し、更に重合を続けた。その後、酢酸ビニルの重合率が70%となった時点で、重合禁止剤を仕込み、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニル単量体を系外に除去して、共重合体のメタノール溶液を得た。
【0061】
次いで、該溶液をメタノールで希釈し、濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル1モルに対して45ミリモルとなるように加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成したPVA系樹脂を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)を得た。
【0062】
得られたカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)のケン化度は、残存酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、98.9モル%であり、平均重合度は、JIS K6726に準じて測定したところ900であり、温度23℃における4%水溶液粘度はJIS K7117−1に基づき、B8L型粘度計(東京計器社製)により測定した結果、8.1mPa・sであった。また、カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)の変性量はH−NMR測定(「Unity300」Varian社製、共鳴周波数:300MHz、内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:DMSO−d6、温度:50℃)より算出したところ2モル%であった。
【0063】
得られたカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)のH−NMRのスペクトルの帰属は以下の通りであった。
[1H−NMR]
1.21〜1.23ppm:メチレンプロトン(変性種に起因)
1.35〜1.58ppm:メチレンプロトン
1.86〜1.92ppm:メチレンプロトン(変性種に起因)
3.81〜3.85ppm:メチンプロトン
4.13〜4.78ppm:水酸基
【0064】
[インク受容層形成用塗工液調製]
カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)15%水溶液及びカチオン性コロイダルシリカ(B)(商品名「LudoxCL−P」、WRグレース社製)15%水分散液を、塗工液中の含有量比(カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)/カチオン性コロイダルシリカ(B))が10/90になるように加え、ホモジナイザー(特殊機化工業社製T.K.ROBOMICS、回転数5000rpm)にて5分間混合してインク受容層用塗工液とした。得られた塗工液のpHは3.9であった。
【0065】
[粘度測定方法]
上記で得られた塗工液を室温で1日放置したものサンプルとし、JIS K7117−1に基づき、塗工液の温度23℃で、B8L型粘度計(東京計器社製)を用いて、B8L型粘度計(東京計器社製)にて測定した。測定結果を表2に記載した。
【0066】
[インクジェット用記録媒体の製造]
上記で得られた塗工液をPET上に50μmのアプリケーターにて塗工し、その後、温度60℃で5分間乾燥し、記録媒体とした。
【0067】
[ヘイズ測定方法]
上記で得られた記録媒体をヘイズメーターNDH2000(日本電飾社製)にて、測定回数n=9で測定し、その平均値を測定結果とした。測定結果を表2に記載した。
【0068】
実施例2
塗工液調製の際、塗工液中の含有量比(カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)/カチオン性コロイダルシリカ(B))を20/80とした以外は実施例1と同様にして、塗工液及び記録媒体を得た。得られた塗工液のpHは4.0であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果を表2に記載した。
【0069】
実施例3
塗工液調製の際、塗工液中の含有量比(カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)/カチオン性コロイダルシリカ(B))を25/75とした以外は実施例1と同様にして、塗工液及び記録媒体を得た。得られた塗工液のpHは4.1であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果を表2に記載した。
【0070】
実施例4
塗工液調製の際、塗工液中の含有量比(カルボキシル基含有PVA系樹脂(A)/カチオン性コロイダルシリカ(B))を30/70とした以外は実施例1と同様にして、塗工液及び記録媒体を得た。かかる塗工液のpHは4.0であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果は表2に記載した。
【0071】
比較例1
[未変性PVA系樹脂の製造]
実施例1において、ウンデシレン酸を仕込まず、酢酸ビニルのみを重合(S/M=0.5、S:メタノール、M:酢酸ビニル)し、ケン化を行った以外は同様に行い、未変性PVA系樹脂を得た。
得られた未変性PVA系樹脂のケン化度は、酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、98.1モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて測定したところ810であり、温度23℃における4%水溶液粘度は、JIS K7117−1に基づき、B8L型粘度計(東京計器社製)で測定した結果、7.6mPa・sであった。
【0072】
得られた未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例2と同様にして塗工液及び記録媒体を得た。かかる塗工液のpHは4.1であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果は表2に記載した。
【0073】
比較例2
塗工液調製の際、未変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例3と同様にして塗工液及び記録媒体を得た。かかる塗工液のpHは4.1であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果は表2に記載した。
【0074】
比較例3
[マレイン酸変性PVA系樹脂の製造]
重合缶に酢酸ビニル95部、マレイン酸1.9部(酢酸ビニルに対して2モル%)、メタノール40部を仕込んで、系内を撹拌下、窒素気流中で昇温して68℃で30分間還流後、アゾビスイソブチロニトリルを酢酸ビニルに対して0.2モル%加え、マレイン酸のメタノール溶液を仕込み変性度が2.0モル%になるように滴下して6時間重合を行って反応終了後メタノール蒸気を吹き込んで未反応のモノマーを除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。次いで、得られたメタノール溶液を40%になるようにメタノールで希釈した。更に共重合体中の酢酸ビニルに対して水酸化ナトリウムを40ミリモル%加えてケン化して、得られたケン化物を濾過し、70℃で乾燥してマレイン酸変性PVA系樹脂を得た。
得られたマレイン酸変性PVA系樹脂のケン化度は、酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.3モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて測定したところ1200であり、温度23℃における4%水溶液粘度は、JIS K7117−1に基づき、B8L型粘度計(東京計器社製)を用いて測定した結果、14.7mPa・sであった。
【0075】
塗工液調製の際、マレイン酸変性PVA系樹脂を用いた以外は実施例2と同様にして、塗工液及び記録媒体を得た。得られた塗工液のpHは4.3であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果を表2に記載した。
【0076】
比較例4
塗工液調製の際、カチオン性コロイダルシリカ(B)のかわりにアニオン性コロイダルシリカ(商品名「LudoxAS−40」、WRグレース社製)を用いた以外は実施例2と同様にして、塗工液及び記録媒体を得た。得られた塗工液のpHは9.3であった。また、塗工液の粘度及び記録媒体のヘイズの測定結果を表2に記載した。
【0077】
【表1】

【表2】

【0078】
カルボキシル基含有長鎖アルキル基を有するカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)を含有する実施例1〜4の条件で得られた記録媒体のヘイズ値は、未変性PVA系樹脂とカチオン性コロイダルシリカ(B)を用いた比較例1,2の条件で得られた記録媒体のヘイズ値、主鎖にカルボキシル基を有するマレイン酸変性PVA系樹脂とカチオン性コロイダルシリカ(B)を用いた比較例3の条件で得られた記録媒体のヘイズ値及びカルボキシル基含有PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカを用いた比較例4の条件で得られた記録媒体のヘイズ値より小さく、かかる組み合わせの記録媒体は優れた透明性を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上述した通り、本発明のインクジェット用記録媒体は、優れた透明性を有するものであり、特に、カチオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比が高いほど、優れた透明性を示すものである。また優れたインク吸収性を有することが期待できるため、優れた画像鮮明性が得られることが予想され、各種印刷用紙に適用でき、特に診察用写真などの高解像度の画像を印刷するための用紙として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有するカルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)及び水を含有する塗工液を支持体上に塗工、乾燥して形成されたインク受容層を有することを特徴とするインクジェット用記録媒体。
【化1】


(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Xは炭素数が4〜50のアルキレンを示し、Yは水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【請求項2】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比(A/B)が5/95〜50/50(重量比)であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用記録媒体。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される構造単位を有するカルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)とカチオン性コロイダルシリカ(B)及び水を含有することを特徴とするインク受容層形成用塗工液。
【化2】


(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Xは炭素数が4〜50のアルキレンを示し、Yは水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【請求項4】
塗工液のpHが2〜6であることを特徴とする請求項3に記載のインク受容層形成用塗工液。

【公開番号】特開2011−161758(P2011−161758A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26403(P2010−26403)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】