説明

インクジェット記録媒体及びその製造方法

【課題】高速風乾燥適性に優れ、画像の滲み及び重ねムラが抑制されたインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】非吸収性支持体上に、該非吸収性支持体側から順に、無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1のインク受容層と、無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2のインク受容層と、を少なくとも有し、前記第2のインク受容層が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報産業の急速な発展に伴い、種々の情報処理システムが開発され、その情報処理システムに適した記録方法および装置も開発されて、各々実用化されている。上記記録方法の中で、インクジェット記録方法は、多種の記録材料に記録可能なこと、ハード(装置)が比較的安価であること、コンパクトであること、静粛性に優れること等の点から、オフィスは勿論、いわゆるホームユースにおいても広く用いられてきている。
【0003】
また、近年のインクジェットプリンタの高解像度化やハード(装置)の発展に伴ない、インクジェット記録用の媒体も各種開発され、近年ではいわゆる写真ライクな高画質記録物を得ることも可能になってきた。
特にインクジェット記録用の媒体に要求される特性としては、一般に、(1)速乾性があること(インク吸収速度が大きいこと)、(2)インクドットの径が適正で均一であること(ニジミのないこと)、(3)粒状性が良好であること、(4)ドットの真円性が高いこと、(5)色濃度が高いこと、(6)彩度が高いこと(クスミのないこと)、(7)印画部の耐光性、耐ガス性、耐水性が良好なこと、(8)記録面の白色度が高いこと、(9)記録媒体の保存性が良好なこと(長期保存で黄変着色を起こさないこと、長期保存で画像が滲まないこと)、(10)変形し難く寸法安定性が良好であること(カールが十分小さいこと)、(11)ハード走行性が良好であること等が挙げられる。更に、いわゆる写真ライクな高画質記録物を得る目的で用いられるフォト光沢紙の用途としては、上記特性に加えて光沢性、表面平滑性、銀塩写真に類似した印画紙状の風合い等も要求される。
【0004】
上記の要求を満たす種々のインクジェット記録用の媒体が開示されている。
例えば、印画濃度、光沢が高く、インクの吸収性に優れたインクジェット記録媒体として、支持体上に、無機微粒子と水溶性アルミニウム塩とジルコニウム化合物とカチオン変性された自己乳化性高分子と鹸化度が92〜98mol%のポリビニルアルコールと架橋剤とを含むインク受容層を有するインクジェット記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−223119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、生産性向上等の観点より、高速風で乾燥させてインク受容層を形成することが求められている。このため、インク受容層又はその塗布液の性質としては、高速風で乾燥させても乾燥ムラを生じにくい性質(本発明において、「高速風乾燥適性」や「速乾性」ともいう)が求められる。
しかしながら、前記特許文献1に記載のインク受容層において高速風乾燥適性を向上させる処方とした場合、画像の滲みが悪化し、重ねムラが悪化する傾向があることが明らかとなった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、高速風乾燥適性に優れ、画像の滲み及び重ねムラが抑制されたインクジェット記録媒体及び製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 非吸収性支持体上に、該非吸収性支持体側から順に、無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1のインク受容層と、無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2のインク受容層と、を少なくとも有し、前記第2のインク受容層が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低いインクジェット記録媒体である。
【0008】
<2> 前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、0.3質量%未満である<1>に記載のインクジェット記録媒体である。
<3> 前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、1.2質量%以上である<1>又は<2>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0009】
<4> 前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、水溶性アルミニウム塩を含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<5> 前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が、3.0質量%以上である<4>に記載のインクジェット記録媒体である。
<6> 前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が、2.0質量%以上である<4>又は<5>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0010】
<7> 前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、カチオン性ポリウレタンを含む<1>〜<6>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<8> 前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率よりも低い<7>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0011】
<9> 前記鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールの重合度が3000以上である<1>〜<8>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<10> 前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、架橋剤を含有する<1>〜<9>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<11> 前記第1のインク受容層中の無機微粒子及び前記第2のインク受容層中の無機微粒子の少なくとも一方が、気相法シリカである<1>〜<10>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<12> 前記水溶性ジルコニウム塩が、酢酸ジルコニルである<1>〜<11>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
<13> 前記水溶性アルミニウム塩が、塩基性ポリ水酸化アルミニウムである<4>〜<12>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【0012】
<14> 非吸収性支持体上に、少なくとも、無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1の塗布液と、無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2の塗布液と、を該非吸収性支持体側からみて、前記第1の塗布液、前記第2の塗布液の順となる配置で塗布する工程を含み、前記第2の塗布液が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2の塗布液における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低いインクジェット記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速風乾燥適性に優れ、画像の滲み及び重ねムラが抑制されたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
≪インクジェット記録媒体≫
本発明のインクジェット記録媒体は、非吸収性支持体上に、該非吸収性支持体側から順に、無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコール(以下、「低鹸化PVA」ともいう)と水溶性ジルコニウム塩とを含む第1のインク受容層と、無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコール(以下、「高鹸化PVA」ともいう)とを含む第2のインク受容層と、を少なくとも有し、前記第2のインク受容層が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低い。
【0015】
無機微粒子とポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含むインク受容層について、高速風乾燥適性を向上させるためには、インク受容層形成用塗布液中の水溶性ジルコニウム塩の量を減らし、該塗布液の粘度を高くすることが効果的であることがわかってきた。
ところが、高速風乾燥適性の付与を目的として、水溶性ジルコニウム塩の量を減らした場合、画像の滲みが悪化し、重ねムラが悪化する傾向があることもわかってきた。
ここで、重ねムラとは、記録画像の乾燥途中における色相変化に起因して生じるムラである。詳細には、記録画像の一部に別の記録媒体等の物体を重ねて乾燥させた後に生じる、重なり部の色相と非重なり部の色相との差によるムラである。
そこで、インクジェット記録媒体を上記本発明の構成とすることにより、高速風乾燥適性が向上するとともに、画像の滲み及び重ねムラが抑制されることを見出した。
【0016】
更に、本発明のインクジェット記録媒体は、塗布故障も抑制され、写像性及び耐光性にも優れることも分かった。
本発明において、「写像性」とは、像の歪み程度に基づく像鮮明性をさし、光沢感を表す尺度である。写像性は、光学くしを用いて周波数毎に定量化されるものであり、光沢度が高くても像にゆがみやひずみがある場合には、必ずしも高い光沢感は得られない。この尺度が大きい値を示すと光沢に寄与するものであるが、本発明においては、写像性は、ある特定周波数域の光学くし(例えば2.0mmの光学くし)を用いたときの特性であってもよいし、主たる周波数域を含む低周波から高周波に至る周波数の光学くしでの値(像鮮明度)の総和、つまり像鮮明性の全体を表す特性であってもよい。後者が好ましく、後者では観察者が良好と感ずる光沢感を持つ写真風合いの画像が得られる。
【0017】
写像性を前記像鮮明度の総和で表す場合、光学くしが0.125mm,0.25mm,0.5mm,1.0mm,及び2.0mmであるときの各値(像鮮明度)の合計を100以上とすることが好ましい。写像性を上記のように広範な周波数域における複数値の総和として捉えたときには、該総和が100未満であると、観察者が写真風合いがあると感ずる光沢感までは得ることはできない。
写像性の総和は、高いほど望ましいが、好ましくは150以上であり、より好ましくは180以上である。
【0018】
写像性は、写像性測定器ICM−1(スガ試験機(株)製)により、JIS H 8686−2に規定された写像性試験方法に基づいて、特定周波数域による場合は例えば2.0mmの光学くしでの値[%]であり、総和の場合は2.0mm、1.0mm、0.5mm、0.25mm、及び0.125mmの光学くしを用いて測定した各値〔%;写像性C値〕の合計(=2.0mmでの値C+1.0mmでの値C+0.5mmでの値C+0.25mmでの値C+0.125mmでの値C)である。
このときの測定・解析条件は下記の通りである。測定は、インクジェット記録用インクを用いて記録された画像部を印字の主走査方向もしくは副走査方向で行ない、光学くし毎に下記式aにより写像性C値を求めた後、各光学くしでの写像性C値を加算して総和を求めることにより求めることができる。
〈測定・解析条件〉
・写像性C値(%)={(M−m)/(M+m)}×100 ・・・式a
〔式a中、Mは最高波高を、mは最低波高を表す。〕
・測定方法:反射
・測定角度(入射角、反射角):60°
【0019】
以下、インク受容層、インク受容層に含まれる各成分、その他の層、非吸収性支持体について説明する。
【0020】
<インク受容層>
本発明のインクジェット記録媒体は、非吸収性支持体上に、該非吸収性支持体側から順に、第1のインク受容層(非吸収性支持体に近い側)と、第2のインク受容層(非吸収性支持体から遠い側)と、を含む少なくとも2層のインク受容層を有して構成される。
ここで、第1のインク受容層及び第2のインク受容層は、それぞれ、単層構成であっても2層以上の構成であってもよい。
本明細書では、第1のインク受容層と第2のインク受容層とを含む、本発明のインクジェット記録媒体中の全てのインク受容層を、「インク受容層全体」や単に「インク受容層」と称することがある。
また、本明細書では、第1のインク受容層を「非吸収性支持体に近い側の層」や「下層」と称することがあり、第2のインク受容層を「非吸収性支持体から離れた側の層」や「上層」と称することがある。
【0021】
(無機微粒子)
本発明に係るインク受容層は、無機微粒子を少なくとも1種含有する。
第1のインク受容層に含まれる無機微粒子と、第2のインク受容層に含まれる無機微粒子と、は同一種であっても異なる種であってもよい。
上記無機微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト等を挙げることができる。中でも、シリカ微粒子が好ましい。
【0022】
上記シリカ微粒子は、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性及び保持の効率が高く、また屈折率が低いので、適切な微小粒子径まで分散を行なえばインク受容層に透明性を付与でき、高い色濃度と良好な発色性が得られるという利点がある。この様に受容層が透明であるということは、OHP等透明性が必要とされる用途のみならず、フォト光沢紙等の記録用シートに適用する場合でも、高い色濃度と良好な発色性及び光沢度を得る観点より重要である。
【0023】
無機微粒子の平均一次粒子径としては、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、特に10nm以下が好ましい。該平均一次粒子径が20nm以下であると、インク吸収特性を効果的に向上させることができ、また同時にインク受容層表面の光沢性をも高めることができる。
また、無機微粒子のBET法による比表面積は200m/g以上が好ましく、250m/g以上がさらに好ましく、300m/g以上が特に好ましい。無機微粒子の比表面積が200以上m/gであると、インク受像層の透明性が高く、印画濃度を高く保つことが可能である。
【0024】
本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0025】
特にシリカ微粒子は、その表面にシラノール基を有し、該シラノール基の水素結合により粒子同士が付着し易いため、また該シラノール基と水溶性樹脂を介した粒子同士の付着効果のため、上記の様に平均一次粒子径が20nm以下の場合にはインク受容層の空隙率が大きく、透明性の高い構造を形成することができ、インク吸収特性を効果的に向上させることができる。
【0026】
一般にシリカ微粒子は、通常その製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。上記湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流である。一方、気相法は、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流であり、上記「気相法シリカ」とは、当該気相法によって得られた無水シリカ微粒子を指す。
【0027】
気相法シリカは、上記含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があり、異なった性質を示すが、空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nmと多く、シリカ微粒子が密に凝集(アグリゲート)し易く、一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmと少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、その結果、空隙率が高い構造になるものと推定される。
本発明においては、上記乾式法で得られる気相法シリカ微粒子(無水シリカ)が好ましく、更に微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmであるシリカ微粒子が好ましい。
本発明に最も好ましく用いられる無機微粒子は、BET法による比表面積が200m/g以上の気相法シリカである。
【0028】
(ポリビニルアルコール)
本発明における第2のインク受容層(上層)は、鹸化度90%以上のポリビニルアルコール(高鹸化PVA)の少なくとも一種を含有する。これにより、塗布故障を抑制し、写像性を向上させることができる。
高鹸化PVAの鹸化度としては、塗布故障を更に低減し、写像性を更に向上する観点からは、90%以上100%未満が好ましく、95以上100%未満がより好ましい。
【0029】
本発明において、鹸化度は、ポリビニルアルコール中の残存酢酸基を既知量の水酸化ナトリウムにより反応させ、その水酸化ナトリウムの消費量からポリビニルアルコールにおける鹸化割合を求めることにより得られる。
【0030】
高鹸化PVAの平均重合度としては、高速風乾燥適性、重ねムラの観点より、1000〜4000が好ましく、2000〜3500がより好ましい
【0031】
また、本発明における第1のインク受容層(下層)は、鹸化度90%未満のポリビニルアルコール(低鹸化PVA)の少なくとも一種を含有する。これにより、高速風乾燥適性を維持しながら画像の滲みを抑制できる。
【0032】
第1のインク受容層に含まれる低鹸化PVAの平均重合度としては、高速風乾燥適性の観点等からは、3000以上が好ましく、4000以上は更に好ましい。また、前記低鹸化PVAの平均重合度の上限には特に限定はないが、塗布液粘度の経時安定性の観点からは、前記低鹸化PVAの平均重合度は5000以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の第1のインク受容層及び第2のインク受容層では、それぞれ、本発明のポリビニルアルコール(第1のインク受容層においては低鹸化PVA、第2のインク受容層においては高鹸化PVA、以下同じ。)以外の水溶性樹脂を該ポリビニルアルコールと併用することもできる。併用可能な水溶性樹脂としては、例えば、親水性構造単位としてヒドロキシル基を有する樹脂である、鹸化度が上記範囲以外のポリビニルアルコール(PVA)、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;親水性のエーテル結合を有する樹脂である、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);親水性のアミド基又はアミド結合を有する樹脂である、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。また、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等を挙げることもできる。
本発明のポリビニルアルコールと上述した水溶性樹脂とを併用する場合の本発明のポリビニルアルコールと上記水溶性樹脂との合計量に対する本発明のポリビニルアルコールの割合は1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がさらに好ましく、6〜12質量%が特に好ましい。
【0034】
本発明のポリビニルアルコールの含有量としては、該含有量の過少による、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止し、且つ、該含有量の過多によって、該空隙が樹脂によって塞がれ易くなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、インク受容層の全固形分質量に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がより好ましい。
【0035】
ポリビニルアルコールは、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ微粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成して、シリカ微粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成し易くする。この様な三次元網目構造の形成によって、空隙率の高い多孔質構造のインク受容層を形成し得ると考えられる。
インクジェット記録媒体において、上述のようにして得られた多孔質のインク受容層は、毛細管現象によって急速にインクを吸収し、インク滲みのない真円性の良好なドットを形成することができる。
【0036】
(無機微粒子と本発明のポリビニルアルコールとの含有比)
第1のインク受容層又は第2のインク受容層において、無機微粒子(好ましくはシリカ微粒子;x)と本発明のポリビニルアルコール(上記水溶性樹脂を併用する場合には本発明のポリビニルアルコールと上記水溶性樹脂との合計量)(y)との含有比〔PB比(x/y)、本発明のポリビニルアルコール1質量部に対する無機微粒子の質量〕は、インク受容層の膜構造にも大きな影響を与える。即ち、PB比が大きくなると、空隙率や細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなる。具体的には、上記PB比(x/y)としては、該PB比が大き過ぎることに起因する、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止し、且つ該PB比が小さ過ぎることによって、該空隙が樹脂によって塞がれ易くなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、1.5/1〜10/1が好ましい。
【0037】
インクジェットプリンターの搬送系を通過する場合、インクジェット記録媒体に応力が加わることがあるので、インク受容層は充分な膜強度を有していることが必要である。更にシート状に裁断加工する場合、インク受容層の割れ及び剥がれ等を防止する上でも、インク受容層には充分な膜強度が必要である。この様な観点より、上記PB比(x/y)としては5/1以下が好ましく、インクジェットプリンターで高速インク吸収性をも確保する観点からは、2/1以上であることが好ましい。
【0038】
例えば、平均一次粒子径が20nm以下の無水シリカ微粒子と本発明のポリビニルアルコールとをPB比(x/y)が2/1〜5/1で水溶液中に完全に分散した塗布液を非吸収性支持体上に塗布し、該塗布層を乾燥した場合、シリカ微粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造が形成され、平均細孔径が30nm以下、空隙率が50%〜80%、細孔比容積0.5ml/g以上、比表面積が100m2/g以上の、透光性の多孔質膜を容易に形成することができる。
【0039】
(水溶性ジルコニウム塩)
本発明において、少なくとも第1のインク受容層は、水溶性ジルコニウム塩を少なくとも1種含有する。水溶性ジルコニウム塩を用いることにより、耐水性向上効果が得られる。更に、画像の滲み及び重ねムラが抑制される。
水溶性ジルコニウム塩は、第2のインク受容層に含まれていてもよいが、この場合、該第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低いことが必要である。インク受容層全体の層厚方向についての水溶性ジルコニウム塩の分布を、上記のような分布とすることにより、第2のインク受容層を形成するための塗布液の粘度を高くすることができるので、インク受容層全体として高速風乾燥適性が向上する。また、第2のインク受容層中の水溶性ジルコニウム塩の量を相対的に減らした代わりに第1のインク受容層中の水溶性ジルコニウム塩の量を相対的に増やしているため、画像の滲み及び重ねムラを抑制できる。
【0040】
本発明に用いられる水溶性ジルコニウム塩としては、特に限定されず種々の化合物が使用できるが、例えば、酢酸ジルコニル、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム化合物等が挙げられる。 特に酢酸ジルコニルが好ましい。
【0041】
第1のインク受容層における、無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率は特に限定はないが、画像の滲み抑制、重ねムラ抑制などの観点から、1.2質量%以上が好ましく、1.4質量%以上がより好ましい。該質量比率の上限については特に限定はないが高速風乾燥適性の観点からは、3.0質量%が好ましい。
【0042】
第2のインク受容層における、無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率は特に限定はないが、高速風乾燥適性などの観点から、0.3質量%未満が好ましい。
【0043】
第1のインク受容層における水溶性ジルコニウム塩の量と、第2のインク受容層における水溶性ジルコニウム塩の量と、の組み合わせとしては、高速風乾燥適性向上、画像の滲み抑制、及び重ねムラ抑制のバランスの観点からは、前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、0.3質量%未満であり、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、1.2質量%以上であることが好ましい。
【0044】
また、高速風乾燥適性向上、画像の滲み抑制、及び重ねムラ抑制のバランスの観点からは、本発明における水溶性ジルコニウム塩の総含有量としては、第1のインク受容層及び第2のインク受容層における無機微粒子の総量に対し、0.6〜1.7質量%が好ましく、0.8〜1.4質量%がより好ましい。
【0045】
(水溶性アルミニウム塩)
本発明において、第1のインク受容層及び第2のインク受容層の少なくとも一方は、水溶性アルミニウム塩を含有することが好ましい。
水溶性アルミニウム塩を用いることにより形成画像の耐水性及び耐経時にじみの向上をより効果的に図ることができる。また、耐光性を向上させ、重ねムラを抑制できる。
水溶性アルミニウム塩としては、例えば無機塩としては塩化アルミニウムまたはその水和物、硫酸アルミニウムまたはその水和物、アンモニウムミョウバン等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム塩がある。これらの中でも、塩基性ポリ水酸化アルミニウム塩が好ましい。
【0046】
前記塩基性ポリ水酸化アルミニウム塩とは、主成分が下記の式1、2又は3で示され、例えば〔Al(OH)153+、〔Al(OH)204+、〔Al13(OH)345+、〔Al21(OH)603+、等のような塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含んでいる水溶性のポリ水酸化アルミニウム塩である。
【0047】
〔Al(OH)Cl6−n (5<m<80、1<n<5) … (式1)
〔Al(OH)AlCl (1<n<2) … (式2)
Al(OH)Cl(3n−m) (0<m<3n、5<m<8) … (式3)
【0048】
これらのものは多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名で、また、(株)理研グリーンよりピュラケムWTの名で、大明化学(株)よりアルファイン83の名でまた他のメーカーからも同様の目的を持って上市されており、各種グレードの物が容易に入手できる。本発明ではこれらの市販品をそのままでも使用できるが、pHが不適当に低い物もあり、その場合は適宜pHを調節して用いることも可能である。
【0049】
第1のインク受容層における、無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率は特に限定はないが、重ねムラをより抑制し、耐光性、耐オゾン性をより向上させる観点から、3.0質量%以上が好ましく、3.5質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。該質量比率の上限については特に限定はないが、塗布故障、印画濃度の観点からは、6.0質量%が好ましい。
【0050】
第2のインク受容層における、無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率は特に限定はないが、重ねムラをより抑制し、耐光性、耐オゾン性をより向上させる観点から、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましい。該質量比率の上限については特に限定はないが、塗布故障、印画濃度の観点からは、3.0質量%が好ましい。
【0051】
第1のインク受容層における水溶性アルミニウム塩の量と、第2のインク受容層における水溶性アルミニウム塩の量と、の組み合わせとしては、重ねムラをより抑制し、耐光性、耐オゾン性をより向上させる観点から、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が3.0質量%以上であり、前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が2.0質量%以上である組み合わせが好ましい。
【0052】
また、重ねムラ抑制、耐光性向上、耐オゾン性向上、塗布故障抑制、及び印画濃度向上のバランスの観点からは、本発明における水溶性アルミニウム塩の総含有量としては、第1のインク受容層及び第2のインク受容層における無機微粒子の総量に対し、2.0〜4.5質量%が好ましく、2.5〜4.0質量%がより好ましい。
【0053】
本発明においては、上述した水溶性アルミニウム塩及び水溶性ジルコニウム塩以外のその他の水溶性多価金属化合物を併用することもできる。その他の水溶性多価金属化合物としては、例えば、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。
具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、リン酸バリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、ギ酸マンガンニ水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)ニ水和物、硫酸銅、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、臭化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、酢酸クロム、硫酸クロム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、クエン酸マグネシウム九水和物、りんタングステン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムタングステン、12タングストりん酸n水和物、12タングストけい酸26水和物、塩化モリブデン、12モリブドりん酸n水和物等が挙げられる。
【0054】
(カチオン性ポリウレタン)
本発明において、第1のインク受容層及び第2のインク受容層の少なくとも一方は、カチオン性ポリウレタンの少なくとも1種を含有することが好ましい。これにより、画像の滲みをより効果的に抑制できる。
更に、前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率よりも低いことがより好ましい。インク受容層全体の層厚方向についてのカチオン性ポリウレタンの分布を、上記のような分布とすることにより、塗布故障を効果的に抑制し、写像性、印画濃度の低下を抑制することが可能である。
【0055】
前記カチオン性ポリウレタンは、カチオン性基を含有するポリウレタンを指す。
前記カチオン性ポリウレタンとしては、例えば、以下に挙げるジオール化合物とジイソシアネート化合物とを種々組み合わせて、重付加反応により合成されたポリウレタンが挙げられる。
上記ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量=200,300,400,600,1000,1500,4000)、ポリプロピレングリコール(平均分子量=200,400,1000)、ポリエステルポリオール、4,4'―ジヒドロキシ−ジフェニル−2,2−プロパン、4,4'―ジヒドロキシフェニルスルホン等が挙げられる。
【0056】
上記ジイソシアネート化合物としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート,1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート,m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'―ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメチルビフェニレンジイソシアネート、4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等が挙げられる。
【0057】
本発明におけるカチオン性ポリウレタンが含有するカチオン性基としては、1級〜3級アミン、4級アンモニウム塩の如きカチオン性基が挙げられる。
本発明におけるカチオン性ポリウレタンとしては、3級アミン及び4級アンモニウム塩の如きカチオン性基を有するカチオン性ポリウレタンが好ましい。
カチオン性ポリウレタンは、例えば、ポリウレタンの合成の際、前記のごときジオールにカチオン性基を導入したものを使用することによって得られる。また4級アンモニウム塩の場合は、三級アミノ基を含有するポリウレタンを四級化剤で四級化してもよい。
【0058】
上記ポリウレタンの合成に使用可能なジオール化合物、ジイソシアネート化合物は、各々1種を単独で使用していもよいし、種々の目的(例えば、ポリマーのガラス転移温度(Tg)の調整や溶解性の向上、バインダーとの相溶性付与、分散物の安定性改善等)に応じて、各々2種以上を任意の割合で使用することもできる。
【0059】
前記カチオン性ポリウレタンの分散液の市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス650」「スーパーフレックス650−5」「F−8564D」「F−8570D」、日華化学(株)製「ネオフィックスIJ−150」などを挙げることができる。
【0060】
上記カチオン性ポリウレタンにおけるカチオン性基の含有量は、0.1〜5mmol/gが好ましく、0.2〜3mmol/gがより好ましい。上記カチオン性基の含有量が0.1mmol/g以上であると、ポリマーの分散安定性をより向上させることができ、5mmol/g以下であると、バインダーとの相溶性が低下してくる。
【0061】
上記カチオン性ポリウレタンをインク受容層に用いる場合のガラス転移温度には特に限定はないが、以下の範囲であることが好ましい。
インクジェット記録により画像を形成した後の、画像の経時にじみを長期に亙り抑制するために、また、寸度安定性(カール)をより向上させるために、上記カチオン性ポリウレタンのガラス転移温度は、50℃未満であることが好ましい。更に、該カチオン性ポリウレタンのガラス転移温度は、30℃以下であることがより好ましく、15℃以下であることが特に好ましい。
尚、該ガラス転移温度の下限には特に制限はないが、水分散物を調製する際の製造適性の観点からは、通常の用途では−30℃程度である。
【0062】
上記カチオン性ポリウレタンの質量平均分子量(Mw)としては、通常1000〜200000が好ましく、2000〜50000がより好ましい。該分子量が1000以上であると、より安定な水分散物を得ることができる。また、該分子量が200000以下であると、溶解性をより向上させることができ、液粘度をより低下させることができ、水分散物の平均粒子径をより小さくする(例えば、0.05μm以下に制御する)ことができる。
【0063】
第1のインク受容層における、無機微粒子に対するカチオン性ポリウレタンの質量比率は特に限定はないが、画像の滲みをより効果的に抑制する観点から、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上が特に好ましい。該質量比率の上限については特に限定はないが、塗布故障をより抑制し、写像性、印画濃度をより向上させる観点からは、8.0質量%が好ましい。
【0064】
第2のインク受容層における、無機微粒子に対するカチオン性ポリウレタンの質量比率は特に限定はないが、画像の滲みをより効果的に抑制する観点から、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上が特に好ましい。該質量比率の上限については特に限定はないが、塗布故障をより抑制し、写像性をより向上させる観点からは、7.0質量%が好ましい。
【0065】
また、画像の滲み抑制、塗布故障抑制、及び写像性向上のバランスの観点からは、本発明におけるカチオン性ポリウレタンの総含有量としては、第1のインク受容層及び第2のインク受容層における無機微粒子の総量に対し、4〜7.5質量%が好ましく、5〜7質量%がより好ましい。
【0066】
次に、上記カチオン性ポリウレタンの水分散物の調製方法につき説明する。
上記カチオン性ポリウレタンを水系溶媒と混合して、必要に応じて添加剤を混合し、該混合液を分散機を用いて細粒化することで、平均粒子径0.05μm以下の水分散液を得ることができる。該水分散液を得るために用いる分散機としては、高速回転分散機、媒体撹拌型分散機(ボールミル、サンドミル、ビーズミルなど)、超音波分散機、コロイドミル分散機、高圧分散機等従来公知の各種の分散機を使用することができるが、形成されるダマ状微粒子の分散を効率的に行うという観点から、媒体撹拌型分散機、コロイドミル分散機又は高圧分散機が好ましい。
【0067】
高圧分散機(ホモジナイザー)は、米国特許第4533254号明細書、特開平6−47264号公報等に詳細な機構が記載されているが、市販の装置としては、ゴーリンホモジナイザー(A.P.V GAULIN INC.)、マイクロフルイダイザー(MICROFLUIDEX INC.)、アルティマイザー(株式会社スギノマシン)等が使用できる。また、近年になって、米国特許第5720551号明細書に記載されているような、超高圧ジェット流内で微粒子化する機構を備えた高圧ホモジナイザーは、本発明の乳化分散に特に有効である。この超高圧ジェット流を用いた乳化装置の例として、DeBEE2000(BEE INTERNATIONAL LTD.)が挙げられる。
【0068】
上記の分散工程における水系溶媒として水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。この分散に用いることができる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン等が挙げられる。
【0069】
上記カチオン性ポリウレタンは、それ自身で自然に安定した乳化分散物となり得るが、該乳化分散をより速やかにもしくはより安定化する為に、少量の分散化剤(界面活性剤)を用いてもよい。この様な目的に用いる界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使用することができる。
【0070】
乳化直後の安定化を図る目的で、前記界面活性剤と併用して水溶性ポリマーを添加することもできる。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドやこれらの共重合体が好ましく用いられる。また多糖類、カゼイン、ゼラチン等の天然水溶性ポリマーを用いるのも好ましい。
【0071】
上記乳化分散法により、上記カチオン性ポリウレタンを水系媒体に分散させる場合、粒子サイズをコントロールすることが好ましい。即ち、インクジェットにより画像を形成した際の、色純度や色濃度を高める為には、上記水分散物における自己乳化性高分子の平均粒子径を小さくすることが好ましい。具体的には、本発明のインク受容層には、上記カチオン性ポリウレタンの体積平均粒子径は、0.05μm以下であることが好ましく、該平均粒子径は0.04μm以下であることがより好ましく、0.03μm以下であることが特に好ましい。
【0072】
(その他のカチオン性ポリマー)
本発明のインク受容層は、上記以外のその他のカチオン性ポリマーを含有してもよい。
その他のカチオン性ポリマーとしては、無機微粒子の分散剤(凝集防止剤)として機能し得る、4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーが挙げられる。
【0073】
上記4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーとしては、水溶性、または水性エマルションタイプなどを好適に使用でき、例えば、ジメチルジアリルアンモニウム塩重合体(例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体)、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの誘導体、ポリウレタン骨格を含む4級アンモニウム塩型のカチオンポリマー、アクリルエステル、アクリルエステル誘導体の骨格を含む四級アンモニウム塩型のカチオンポリマー等が挙げられる。
中でも、ジメチルジアリルアンモニウム塩重合体(例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体)が特に好ましい。
【0074】
上記4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、1000〜50000が好ましく、より好ましくは2000〜30000である。分子量が前記範囲内であると、塗布液の安定性を付与しやすいので好ましい。
【0075】
上記4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。また、4級アンモニウム塩構造を有しないカチオン性ポリマーと併用してもよい。
【0076】
上記4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーの市販品としては、シャロールDC902P(第一工業製薬社製)、ジェットフィックス110(里田化工社製)、ユニセンスCP−101〜103(センカ社製)、PAS−H(日東紡績社製)などが挙げられる。
【0077】
本発明のインク受容層(第1のインク受容層又は第2のインク受容層)における、無機微粒子に対する上記4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーの質量比率は特に限定はないが、シリカ分散液のバインダーとの混和性の観点から、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%であることがより好ましい。
【0078】
以上、カチオン性ポリウレタン及び4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性ポリマーについて説明したが、本発明のインク受容層は、上記以外にも、例えば、特開2007−98610号公報段落番号0064〜0102に記載されているような公知のカチオン性ポリマーや、特開2007−223119号段落番号0018〜0046に記載されているカチオン変性自己乳化性高分子を併用してもよい。
【0079】
(架橋剤)
本発明に係るインク受容層は架橋剤を含んでいてもよい。
本発明に係るインク受容層は、該架橋剤による前記本発明のポリビニルアルコール及び必要に応じて用いられる水溶性樹脂の架橋反応によって硬化された多孔質層である態様が好ましい。
【0080】
上記架橋剤としては、インク受容層に含まれる本発明のポリビニルアルコール及び必要に応じて用いられる水溶性樹脂との関係で好適なものを適宜選択すればよいが、中でも、架橋反応が迅速である点でホウ素化合物が好ましく、例えば、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩(例えば、オルトホウ酸塩、InBO3、ScBO3、YBO3、LaBO3、Mg3(BO3)2、Co3(BO3)2、二ホウ酸塩(例えば、Mg225、Co225)、メタホウ酸塩(例えば、LiBO2、Ca(BO2)2、NaBO2、KBO2)、四ホウ酸塩(例えば、Na247・10H2O)、五ホウ酸塩(例えば、KB58・4H2O、Ca2611・7H2O、CsB55)等を挙げることができる。中でも、速やかに架橋反応を起こすことができる点で、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩が好ましく、特にホウ酸又はホウ酸塩が好ましく、これを水溶性樹脂であるポリビニルアルコールと組合わせて使用することが最も好ましい。
【0081】
本発明においては、上記架橋剤は、本発明のポリビニルアルコール1.0質量部に対して、0.05〜0.50質量部含有されることが好ましく、0.08〜0.30質量部含有されることがより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲であると、本発明のポリビニルアルコールを効果的に架橋してひび割れ等を防止することができる。
【0082】
前記水溶性樹脂としてゼラチンを用いる場合などには、ホウ素化合物以外の下記化合物も架橋剤として用いることができる。
例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−S−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン酸、1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール、N,N'−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;メラミン樹脂(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン);エポキシ樹脂;
【0083】
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物;米国特許明細書第3017280号、同第2983611号に記載のアジリジン系化合物;米国特許明細書第3100704号に記載のカルボキシイミド系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;1,6−ヘキサメチレン−N,N'−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物;ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物;2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物;乳酸チタン、硫酸アルミ、クロム明ばん、カリ明ばん、酢酸ジルコニル、酢酸クロム等の金属含有化合物、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、オキサゾリン基を2個以上含有する低分子又はポリマー等である。上記の架橋剤は、1種単独でも、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0084】
(その他の成分)
本発明のインク受容層は、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。
即ち、インク色材の劣化を抑制する目的で、各種の紫外線吸収剤、酸化防止剤、一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤を含んでいてもよい。
上記紫外線吸収剤としては、桂皮酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾリルフェノール誘導体等が挙げられる。例えば、α−シアノ−フェニル桂皮酸ブチル、o−ベンゾトリアゾールフェノール、o−ベンゾトリアゾール−p−クロロフェノール、o−ベンゾトリアゾール−2,4−ジ−t−ブチルフェノール、o−ベンゾトリアゾール−2,4−ジ−t−オクチルフェノール等が挙げられる。ヒンダートフェノール化合物も紫外線吸収剤として使用でき、具体的には少なくとも2位又は6位の内、1ヵ所以上が分岐アルキル基で置換されたフェノール誘導体が好ましい。
【0085】
また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤等も使用できる。例えば、特開昭47−10537号公報、同58−111942号公報、同58−212844号公報、同59−19945号公報、同59−46646号公報、同59−109055号公報、同63−53544号公報、特公昭36−10466号公報、同42−26187号公報、同48−30492号公報、同48−31255号公報、同48−41572号公報、同48−54965号公報、同50−10726号公報、米国特許第2,719,086号明細書、同3,707,375号明細書、同3,754,919号明細書、同4,220,711号明細書等に記載されている。
【0086】
蛍光増白剤も紫外線吸収剤として使用でき、例えば、クマリン系蛍光増白剤等が挙げられる。具体的には、特公昭45−4699号公報、同54−5324号公報等に記載されている。
【0087】
上記酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許第223739号公報、同309401号公報、同309402号公報、同310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−48535号公報、同60−107384号公報、同60−107383号公報、同60−125470号公報、同60−125471号公報、同60−125472号公報、同60−287485号公報、同60−287486号公報、同60−287487号公報、同60−287488号公報、同61−160287号公報、同61−185483号公報、同61−211079号公報、同62−146678号公報、同62−146680号公報、同62−146679号公報、同62−282885号公報、同62−262047号公報、同63−051174号公報、同63−89877号公報、同63−88380号公報、同66−88381号公報、同63−113536号公報;
【0088】
同63−163351号公報、同63−203372号公報、同63−224989号公報、同63−251282号公報、同63−267594号公報、同63−182484号公報、特開平1−239282号公報、特開平2−262654号公報、同2−71262号公報、同3−121449号公報、同4−291685号公報、同4−291684号公報、同5−61166号公報、同5−119449号公報、同5−188687号公報、同5−188686号公報、同5−110490号公報、同5−1108437号公報、同5−170361号公報、特公昭48−43295号公報、同48−33212号公報、米国特許第4814262号、同第4980275号公報等に記載のものが挙げられる。
【0089】
具体的には、6−エトキシ−1−フェニル−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−エトキシ−1−オクチル−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−エトキシ−1−フェニル−2,2,4−トリメチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、6−エトキシ−1−オクチル−2,2,4−トリメチル−1,2,3,4,−テトラヒドロキノリン、シクロヘキサン酸ニッケル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2−メチル−4−メトキシ−ジフェニルアミン、1−メチル−2−フェニルインドール等が挙げられる。
【0090】
これら褪色防止剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。褪色防止剤は、水溶性化、分散、エマルション化してもよく、マイクロカプセル中に含ませることもできる。褪色防止剤の添加量としては、インク受容層形成液の0.01〜10質量%が好ましい。
【0091】
本発明において、インク受容層はカール防止用に高沸点有機溶剤を含有するのが好ましい。上記高沸点有機溶剤としては、水溶性のものが好ましく、該水溶性の高沸点有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリンモノメチルエーテル、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール(重量平均分子量が400以下)等のアルコール類が挙げられる。好ましくは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)である。
【0092】
上記高沸点有機溶剤のインク受容層形成液中における含有量としては、0.05〜1質量%が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.6質量%である。
また、無機微粒子の分散性を高める目的で、各種無機塩類、pH調整剤として酸やアルカリ等を含んでいてもよい。
更に、表面の摩擦帯電や剥離帯電を抑制する目的で、電子導電性を持つ金属酸化物微粒子を、表面の摩擦特性を低減する目的で各種のマット剤を含んでいてもよい。
【0093】
以上で説明した、本発明のインク受容層の層厚については特に限定はないが、例えば、以下の層厚であることが好ましい。
第1のインク受容層の層厚は、インク吸収性の観点から、5〜30μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。
第2のインク受容層の層厚は、インク吸収性、塗布面状の観点から、3〜20μmが好ましく、6〜15μmがより好ましい。
第1のインク受容層及び第2のインク受容層を含む、インク受容層全体の層厚は、インク吸収性、ひび割れの観点から、8〜50μmが好ましく、14〜35μmがより好ましい。
【0094】
<他の層>
本発明のインクジェット記録媒体は、非吸収性支持体上にインク受容層以外の層、例えば、必要に応じて、最上層(例えば、コロイダルシリカ層等の光沢発現層)、中間層、クッション性、帯電防止性等の機能を付与した機能層、等を有していてもよい。
【0095】
(光沢発現層)
上記光沢発現層に用いられるコロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られる二酸化珪素をコロイド状に水中に分散させたものであり、平均一次粒径が数nm〜100nm程度の湿式法合成シリカである。コロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)社からスノーテックスST−20、ST−30、ST−40、ST−C、ST−N、ST−20L、ST−O、ST−OL、ST−S、ST−XS、ST−XL、ST−YL、ST−ZL、ST−OZL、ST−AK等が、市販されている。
【0096】
上記光沢発現層に用いられるコロイダルシリカは、インク吸収性及び光沢の観点から平均一次粒子径が30nm〜100nmの範囲のものが好ましい。更に平均一次粒子径の異なる2種類以上のコロイダルシリカを併用することが好ましい。この場合、平均一次粒子径が30nm以上〜60nm未満のコロイダルシリカと平均一次粒子径が60nm以上〜100nm以下のコロイダルシリカを組み合わせて用いるのがより好ましく、コロイダルシリカの合計量に対する平均一次粒子径が30nm以上〜60nm未満のコロイダルシリカの比は、60質量%以上が好ましい。
【0097】
上記のコロイダルシリカの粒子形状としては、球状、鎖状(数珠状)等があるが、耐傷性及び光沢性の点で球状のコロイダルシリカが好ましい。また、上記のコロイダルシリカは、アニオン性、ノニオン性、カチオン性があるが、光沢発現層の塗布液の安定性、特にポリビニルアルコールを有機バインダーとして含有する塗布液の安定性(塗布液の経時によるコロイダルシリカの凝集や分離)の点でアニオン性が好ましい。
【0098】
光沢発現層におけるコロイダルシリカの固形分塗布量は、0.1〜8.0g/mが好ましく、0.3〜5.0g/mの範囲がより好ましい。これによって、インク吸収性を低下させずに、光沢性及び耐傷性の一段の改良が図られる。
【0099】
光沢発現層はカチオン性化合物を含有してもよい。カチオン性化合物としてはカチオン性ポリマーあるいは水溶性多価金属化合物が好ましく用いられる。これらのカチオン性ポリマー及び水溶性多価金属化合物の詳細は、前述のインク吸収層での説明と同じである。本発明において、光沢発現層に用いられるカチオン性化合物としてはカチオン性ポリマーが好ましい。
【0100】
上記カチオン性化合物の添加量は、コロイダルシリカに対して0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8.0質量%の範囲がより好ましい。
【0101】
光沢発現層には、更に有機バインダーを含有するのが好ましい。有機バインダーはコロイダルシリカに対して10質量%以下で用いるのが好ましく、下限は0.5質量%程度である。より好ましくは、1〜7質量%の範囲で有機バインダーを用いる。有機バインダーをこの範囲で含有させることによってインク吸収性を低下させずに耐傷性を更に向上させる。
【0102】
上記有機バインダーとしては、インク吸収層に用いられる前述した有機バインダーを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい有機バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度500〜5000のポリビニルアルコールが好ましい。
【0103】
また、カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。
【0104】
光沢発現層には、有機バインダーとともに硬膜剤を用いることができる。硬膜剤としては、前述したインク吸収層に用いられる硬膜剤を挙げることができる。これらの硬膜剤の中でも特に、ほう酸あるいはほう酸塩が好ましく用いられる。光沢発現層には、他に界面活性剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤等を含有することができる。
【0105】
本発明において、光沢発現層の膜厚は0.01〜5μmが好ましく、0.02〜1μmがさらに好ましい。
【0106】
<非吸収性支持体>
非吸収性支持体としては、プラスチック等の透明材料よりなる透明支持体、紙等の不透明材料からなる不透明支持体のいずれをも使用できる。インク受容層の透明性を生かす上では、透明支持体又は高光沢性の不透明支持体を用いることが好ましい。またCD−ROM、DVD−ROM等の読み出し専用光ディスク、CD−R、DVD−R等の追記型光ディスク、更には書き換え型光ディスクを支持体として用い、レーベル面側にインク受容層を付与することもできる。
【0107】
本発明において、「非吸収性」とは、水及びインクジェット記録用インクに含まれる溶媒を吸収しない、ないし吸収量が0.3g/m以下であることをいい、特に、水を吸収しないことをいう。
【0108】
上記透明支持体に使用可能な材料としては、透明性で、OHPやバックライトディスプレイで使用される時の輻射熱に耐え得る性質を有する材料が好ましい。この様な材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類;ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド等を挙げることができる。中でも、ポリエステル類が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
上記透明支持体の厚みとしては、特に制限はないが、取り扱い易さの点で、50μm〜200μmが好ましい。
【0109】
高光沢性の不透明支持体としては、インク受容層の設けられる側の表面が40%以上の光沢度を有するものが好ましい。該光沢度は、JIS P−8142(紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法)に記載の方法に従って求められる値である。具体的には、下記の様な支持体が挙げられる。
【0110】
例えば、アート紙、コート紙、キャストコート紙、銀塩写真用支持体等に使用されるバライタ紙等の高光沢性の紙支持体;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類、ニトロセルロース,セルロースアセテート,セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル類、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックフィルムに白色顔料等を含有させて不透明にした(表面カレンダー処理が施されていてもよい。)高光沢性のフィルム;或いは、前記各種紙支持体、前記透明支持体若しくは白色顔料等を含有する高光沢性のフィルムの表面に、白色顔料を含有若しくは含有しないポリオレフィンの被覆層が設けられた支持体等が挙げられる。
白色顔料含有発泡ポリエステルフィルム(例えば、ポリオレフィン微粒子を含有させ、延伸により空隙を形成した発泡PET)も好適に挙げることができる。更に、銀塩写真用印画紙に用いられるレジンコート紙も好適である。
【0111】
上記不透明支持体の厚みについても特に制限はないが、取り扱い易さの点で、50μm〜300μmが好ましい。
また、上記支持体の表面には、濡れ特性及び接着性を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理等を施したものを使用するのが好ましい。
【0112】
次に、レジンコート紙など紙支持体に用いられる原紙について述べる。
上記原紙としては、木材パルプを主原料とし、必要に応じて木材パルプに加えてポリプロピレンなどの合成パルプ、あるいはナイロンやポリエステルなどの合成繊維を用いて抄紙される。前記木材パルプとしては、LBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP、LUKP、NUKPのいずれも用いることができるが、短繊維分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPをより多く用いることが好ましい。但し、LBSP及び/又はLDPの比率としては、10質量%〜70質量%が好ましい。
【0113】
上記パルプは、不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸パルプ)が好適に用いられ、漂白処理を行なって白色度を向上させたパルプも有用である。
原紙中には、高級脂肪酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等の白色顔料、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、蛍光増白剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、分散剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤などを適宜添加することができる。
【0114】
抄紙に使用するパルプの濾水度としては、CSFの規定で200ml〜500mlが好ましく、また、叩解後の繊維長が、JIS P−8207に規定される24メッシュ残分質量%と42メッシュ残分の質量%との和が30%〜70%が好ましい。尚、4メッシュ残分は20質量%以下であることが好ましい。
【0115】
原紙の坪量としては、30g〜250gが好ましく、特に50g〜200gが好ましい。原紙の厚さとしては、40μm〜250μmが好ましい。原紙は、抄紙段階又は抄紙後にカレンダー処理して高平滑性を与えることもできる。原紙密度は0.7g/m〜1.2g/m(JIS P−8118)が一般的である。更に、原紙剛度としては、JIS P−8143に規定される条件で20〜200gが好ましい。
【0116】
原紙表面には表面サイズ剤を塗布してもよく、表面サイズ剤としては、前記原紙中添加できるサイズと同様のサイズ剤を使用できる。
原紙のpHは、JIS P−8113で規定された熱水抽出法により測定された場合、5〜9であることが好ましい。
【0117】
原紙表面及び裏面を被覆するポリエチレンは、主として低密度のポリエチレン(LDPE)及び/又は高密度のポリエチレン(HDPE)であるが、他のLLDPEやポリプロピレン等も一部使用することができる。
【0118】
特に、インク受容層を形成する側のポリエチレン層は、写真用印画紙で広く行なわれている様に、ルチル又はアナターゼ型の酸化チタン、蛍光増白剤、群青をポリエチレン中に添加し、不透明度、白色度及び色相を改良したものが好ましい。ここで、酸化チタン含有量としては、ポリエチレンに対して、概ね3質量%〜20質量%が好ましく、4質量%〜13質量%がより好ましい。ポリエチレン層の厚みは特に限定はないが、表裏面層とも10μm〜50μmが好適である。更にポリエチレン層上にインク受容層との密着性を付与するために下塗り層を設けることもできる。該下塗り層としては、水性ポリエステル、ゼラチン、PVAが好ましい。また、該下塗り層の厚みとしては、0.01μm〜5μmが好ましい。
【0119】
ポリエチレン被覆紙は、光沢紙として用いることも、また、ポリエチレンを原紙表面上に溶融押し出してコーティングする際に、いわゆる型付け処理を行って通常の写真印画紙で得られる様なマット面や絹目面を形成したものも使用できる。
【0120】
支持体にはバックコート層を設けることもでき、このバックコート層に添加可能な成分としては、白色顔料や水性バインダー、その他の成分が挙げられる。
バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0121】
バックコート層に用いられる水性バインダーとしては、例えば、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、澱粉、カチオン化澱粉、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。
バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0122】
≪インクジェット記録媒体の製造方法≫
前述の本発明のインクジェット記録媒体を製造する方法としては特に限定はないが、例えば、下記本発明のインクジェット記録媒体の製造方法が挙げられる。
即ち、本発明のインクジェット記録媒体の製造方法は、非吸収性支持体上に、少なくとも、無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1の塗布液と、無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2の塗布液と、を該非吸収性支持体側からみて、前記第1の塗布液、前記第2の塗布液の順となる配置で塗布する工程を含み、前記第2の塗布液が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2の塗布液における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低い。
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法は、更に、必要に応じて他の工程を有していてもよい。
【0123】
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法において、インク受容層は、インク受容層形成用の塗布液である前記第1の塗布液又は前記第2の塗布液を、非吸収性支持体上又は既に形成されたインク受容層上に塗布して塗布層を形成し、これを乾燥させることにより形成することができる。
本発明のインクジェット記録媒体のインク受容層が2層構造であるとき、非吸収性支持体上に前記第1の塗布液を塗布することで、第1のインク受容層を形成することができ、形成された前記第1のインク受容層上に前記第2の塗布液を塗布することで、第2のインク受容層を形成することができる。
【0124】
また、本発明のインクジェット記録媒体の製造方法において、第1の塗布液及び第2の塗布液(及び、必要に応じて用いられる他の塗布液)を塗布する方法としては、非吸収性支持体側からみて第1の塗布液、第2の塗布液の順の配置となる塗布方法であれば特に限定はない。
例えば、1層ずつ塗布する逐次塗布方法(例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、リバースコーター等)であってもよいし、インク受容層を構成する複数の層を乾燥工程を設けずに殆ど同時に塗布する同時重層塗布方法(例えば、スライドビードコーターやスライドカーテンコーター等)であってもよい。または、例えば、特開2005−14593号公報段落番号0016〜0037に記載されている「Wet−On−Wet法」(以下、「WOW法)」であってもよい。
【0125】
上記の中でも、各層に要求される特性が効率よく得られ、生産効率に優れるという点からは、同時重層塗布方法が好ましく用いられる。すなわち、同時重層塗布では、各層を湿潤状態で積層することで、各層、例えば上層(例えば、本発明のインクジェット記録媒体における第2のインク受容層)に含有される成分が下層(例えば、本発明のインクジェット記録媒体における第1のインク受容層)へ浸透しにくくなり、乾燥後も各層の成分構成が良く保たれるためと推定される。
同時重層塗布は、公知の塗布装置を用いて行なうことができ、例えば、スライドビードコーター、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター等を挙げることができる。
【0126】
また、本発明のインクジェット記録媒体の製造方法において、前記第1の塗布液が含有する無機微粒子、鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコール、水溶性ジルコニウム塩、必要に応じて含有する各種成分の種類、及び含有量は、前記第1のインク受容層が含有する各種成分の種類、及び含有量と同じであり、好ましい範囲も同様である。
また、前記第2の塗布液が含有する無機微粒子、鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコール、必要に応じて含有する各種成分の種類、及び含有量は、前記第2のインク受容層が含有する各種成分の種類、及び含有量と同じであり、好ましい範囲も同様である。
【0127】
本発明においては、高速風乾燥適性の観点からは、前記第1の塗布液及び前記第2の塗布液の粘度を高くすることが好ましい。
具体的には、前記第1の塗布液の20℃における粘度は、0.2〜2Pa・sが好ましく、0.25〜1.4Pa・sがより好ましく、0.3〜1Pa・sが特に好ましい。
また、前記第2の塗布液の20℃における粘度は、0.2〜2Pa・sが好ましく、0.25〜1.4Pa・sがより好ましく、0.3〜1Pa・sが特に好ましい。
【0128】
第1の塗布液の塗布量としては、80〜150g/mが好ましく、100〜140g/mがより好ましく、110〜130g/mが特に好ましい。また、第2の塗布液の塗布量としては、20〜80g/mが好ましく、30〜60g/mがより好ましく、35〜55g/mが特に好ましい。
塗布量が前記範囲内であると、塗布膜の乾燥性が良好であり、クラックの発生も回避できる。
尚、本発明において単に「塗布量」というときは、特に断りのない限り、固形分塗布量ではなく塗布液塗設量(即ち、wet塗布量)を指す。
【0129】
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法においては、塗布膜の膜面温度が20℃未満になる場合を含む条件で、インク受容層の乾燥を行なうことが好ましい。すなわち、乾燥過程において、膜面温度が20℃未満となる乾燥段階が含まれていればよく、乾燥初期に膜面温度が20℃未満になるようにしてもよいし、乾燥開始から所定時間経過した後あるいは乾燥後期に膜面温度が20℃未満まで下がるように乾燥させるようにしてもよい。中でも、均一塗布面状、空隙容量の観点から、膜面温度が20℃未満となる乾燥段階を乾燥初期、特には乾燥開始直後に行なうことが好ましい。乾燥初期(特に乾燥開始直後)に膜面温度が20℃未満になるように乾燥を行なうことにより、塗布液が低粘度でも乾燥ムラを回避でき、光沢感を高めることができる。乾燥初期を高温で乾燥させると、特に塗布液の粘度が低い場合など、乾燥ムラが生じて光沢感は低下する。
【0130】
膜面温度が20℃未満となる乾燥段階を設けることで、塗布液の膜面が増粘し、より均一な塗布面状を得ることができる。また、膜面温度としては、0以上20℃未満が好ましく、5以上15℃以下が更に好ましい。膜面温度を0℃以上とすることにより、塗布液の増粘が進みすぎるのを抑え、塗布膜表面の凹凸形成を防止してより高い光沢度を得ることができる。
ここで、膜面温度は、乾燥時の塗布膜表面の温度であり、放射温度計により測定できる。
【0131】
前記乾燥初期(特に乾燥開始直後)の乾燥の具体的な条件は特に限定はないが、例えば、5〜20℃で10〜30m/sの高速風を、1〜5分間吹き当てて行うことが好ましい。
【0132】
本発明のインクジェット記録媒体に画像を記録する際に、光沢性や耐水性を与えたり、耐候性を改善する目的からポリマーラテックス化合物を併用してもよい。ラテックス化合物をインクジェット記録媒体に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても,後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特願2000−363090、同2000−315231、同2000−354380、同2000−343944、同2000−268952に記載された方法を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0133】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。また、各塗布液についての「塗布量」は、特に断りがない限り、固形分塗布量ではなく塗布液塗設量(即ち、wet塗布量)を示す。
【0134】
〔実施例1〕
<非吸収性支持体の作製>
アカシアからなるLBKP50部及びアスペンからなるLBKP50部をそれぞれディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlに叩解し、パルプスラリーを調製した。
次いで、前記で得られたパルプスラリーに、対パルプ当たり、カチオン性デンプン(日本NSC社製、CAT0304L)1.3%、アニオン性ポリアクリルアミド(星光化学社製、ポリアクロンST−13)0.15%、アルキルケテンダイマー(荒川化学社製、サイズパインK)0.29%、エポキシ化ベヘン酸アミド0.29%、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(荒川化学社製、アラフィックス100)0.32%を加えた後、消泡剤0.12%を加えた。
【0135】
前記のようにして調製したパルプスラリーを長網抄紙機で抄紙し、ウェッブのフェルト面をドラムドライヤーシリンダーにドライヤーカンバスを介して押し当てて乾燥する工程において、ドライヤーカンバスの引張り力を1.6Kg/cmに設定して乾燥を行った後、サイズプレスにて原紙の両面にポリビニルアルコール((株)クラレ製、KL−118)を1g/m塗布して乾燥し、カレンダー処理を行った。なお、原紙の坪量は166g/mで抄造し、厚さ160μmの原紙(基紙)を得た。
【0136】
得られた基紙のワイヤー面(裏面)側にコロナ放電処理を行なった後、溶融押出機を用いて高密度ポリエチレンを厚さ30μmとなる様にコーティングし、マット面からなる熱可塑性樹脂層を形成した(以下、この熱可塑性樹脂層面を「裏面」と称する。)。この裏面側の熱可塑性樹脂層に更にコロナ放電処理を施し、その後、帯電防止剤として酸化アルミニウム(日産化学工業(株)製の「アルミナゾル100」)と二酸化ケイ素(日産化学工業(株)製の「スノーテックスO」)とを1:2の質量比で水に分散した分散液を、乾燥重量が0.2g/mとなる様に塗布した。続いて、表面にコロナ処理し、10質量%の酸化チタンを有する密度0.93g/mのポリエチレンを24g/mになるように溶融押出機を用いてコーティングした。
【0137】
<上層(第2のインク受容層)用塗布液の調製>
下記組成の(1)気相法シリカ微粒子と、(2)イオン交換水と、(3)「シャロールDC−902P」と、(4)ジルコゾール「ZA−30」と、をCONTI−TDS(株式会社 ダルトン製)を用いて予め分散させた後、高圧分散機であるアルティマイザー((株)スギノマシン製)を用いて、圧力130MPaで微分散を行ない、シリカ分散液を得た。
その後、シリカ分散液を45℃に加熱し20時間保持した。次いで、シリカ分散液に下記組成の(5)ホウ酸と、(6)ポリビニルアルコール溶解液と、(7)イオン交換水と、(8)SC507と、(9)スーパーフレックス650−5、(10)エマルゲン109Pと、を30℃で加え、上層(第2のインク受容層)用塗布液を調製した。
【0138】
(1)気相法シリカ微粒子 ・・・ 207.7部
〔AEROSIL300SV、日本アエロジル(株)製〕
(2)イオン交換水 ・・・ 835部
(3)「シャロールDC−902P」(51.5%水溶液) ・・・ 18.2部
〔分散剤(凝集防止剤);第一工業製薬(株)製、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体〕
(4)ジルコゾール「ZA−30」(50%水溶液) ・・・ 4.15部
〔酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製、水溶性ジルコニウム塩〕
(5)ホウ酸(架橋剤)7.5%水溶液 ・・・ 102部
(6)ポリビニルアルコール溶解液 ・・・ 605部
(7)イオン交換水 ・・・ 272部
(8)SC507 ・・・ 1.61部
〔ポリアルキレンポリアミン・ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、
ハイモ(株)製〕
(9)スーパーフレックス650−5 ・・・ 41.0部
〔カチオン性ポリウレタン微粒子;第一工業製薬(株)製〕
(10)「エマルゲン109P」(10%水溶液) ・・・ 13.2部
〔花王(株)製、HLB値13.6〕
【0139】
上記ポリビニルアルコール溶解液の組成は以下の通りである。
〜〜ポリビニルアルコール溶解液の組成〜〜
・「JM33」(PVA) ・・・ 440部
〔日本酢ビポバール社製、鹸化度95mol%、重合度3300〕
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル〔界面活性剤〕 ・・・ 7.3部
〔花王(株)製「エマルゲン109P」10%水溶液、HLB値13.6〕
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)・・・ 134部
〔協和発酵ケミカル(株)製、ブチセノール20P、高沸点有機溶剤〕
・ヒドロキシプロピルセルロース ・・・ 20部
〔日本曹達(株)製「HPC−SSL」〕
・イオン交換水 ・・・5743部
【0140】
<下層(第1のインク受容層)用塗布液の調製>
前記上層用塗布液の調製において、「ZA−30」の量を4.15部から11.2部に変更し、かつ、JM33を同質量のPVA235〔(株)クラレ製、鹸化度88mol%、重合度3500〕に変更し、更に、イオン交換水の量を、シリカの濃度が前記上層用塗布液と同じとなるように変更した以外は、前記上層用塗布液の調製と同様にして、下層(第1のインク受容層)用塗布液を調製した。
【0141】
<インクジェット記録用シートの作製>
前記非吸収性支持体のオモテ面(インク受容層を形成する側の面)にコロナ放電処理を行った後、該オモテ面上に、前記下層用塗布液と前記上層用塗布液とを、該オモテ面側から順に、下層用塗布液、上層用塗布液となる配置で、スライドビードコーターを用いて同時重層塗布して塗布膜を形成した。
詳細には、上記同時重層塗布は、前記下層用塗布液及び前記上層用塗布液のそれぞれに、4.6%ポリ塩化アルミニウム水溶液(アルファイン83 大明化学工業(株)製)をスタティックミキサーを用いてインライン添加した後、行った。また、上記同時重層塗布における各液のwet塗布量は、それぞれ、上層用塗布液41.3g/m、上層用塗布液にインライン添加した4.6%ポリ塩化アルミニウム水溶液2.8g/m、下層用塗布液123.8g/m、下層用塗布液にインライン添加した4.6%ポリ塩化アルミニウム水溶液8.6g/mとした。
次に、上記同時重層塗布により得られた塗布膜を、20℃、10m/sの風で1分間冷却し、冷却後50℃で10分間乾燥を行い、2層構造のインク受容層を得た。
以上により、非吸収性支持体上に、層厚28μmの第1のインク受容層、層厚12μmの第2のインク受容層、がこの順に設けられたインクジェット記録用シート(インク受容層の合計の層厚は40μm)を得た。
【0142】
<測定及び評価>
得られたインクジェット記録用シートについて、下記の測定及び評価を行なった。測定及び評価の結果を下記表1に示す。
【0143】
(塗布液の粘度の測定)
前記上層用塗布液及び前記下層用塗布液を、それぞれ20℃に保温し、各塗布液の粘度をVISCOMETER BM(株式会社TOKIMEC製)を用いて測定した。
【0144】
(高速風乾燥適性)
原紙(160g/m)の両面に20g/mずつポリエチレンでラミネートした支持体上に、30℃に保温した前記上層用塗布液及び前記下層用塗布液を、スライドビードコーターを用いて、それぞれ上記インクジェット記録用シートの作製時と同様の塗布量で同時重層塗布して塗布膜を形成した。得られた塗布膜の膜面に垂直に、20℃、10m/sの高速風を1分間吹き当て、次いで、50℃で10分間乾燥させた。乾燥した塗布膜の塗布面状を下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
◎ … 塗布面に乾燥ムラ(風ムラ)がほとんど観察できない
○ … 塗布面に乾燥ムラ(風ムラ)がわずかに見られるが実用上の許容範囲内である
△ … 塗布面に乾燥ムラ(風ムラ)が見られ、実用上の許容範囲を超える
× … 塗布面の乾燥ムラ(風ムラ)が目立つ
【0145】
(写像性)
上記で得られたインクジェット記録用シートのインク受容層(生サンプル)を、写像性測定器ICM−1(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS H 8686−2に規定された写像性試験方法に基づき、下記の測定・解析条件のもと写像性C値(%)の測定を行なった。
測定は、印字の主走査方向及び副走査方向の両方で行なった。そして、下記式aにより光学くし毎に写像性C値を求め、各光学くしでの写像性C値を加算することにより、写像性の総和を求めた。下記式a中、Mは最高波高を、mは最低波高を表す。
写像性C値(%)={(M−m)/(M+m)}×100 … 式a
【0146】
〜測定・解析条件〜
・測定方法:反射
・測定角度:60°
・光学くし:2.0mm、1.0mm、0.5mm、0.25mm、0.125mm
【0147】
得られた写像性C値(%)に基づき、下記評価基準にて写像性を評価した。
〜評価基準〜
○ … 写像性C値が130%以上であった。
△ … 写像性C値が100%以上130%未満であった。
× … 写像性C値が100%未満であった。
【0148】
(塗布故障)
上記で得られたインクジェット記録シートの面積10mのサンプルを準備し、蛍光灯下でサンプル表面の目視観察を行い、小さなひび割れの個数を数え、個数により下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
○ … ひび割れは1個以下である
△ … ひび割れは1〜3個以下である(実用上の許容範囲内)
× … ひび割れは3個より多い
【0149】
(にじみ)
富士フイルム社製のインクジェットプリンター「DryMinilab400」を用い、上記で得られたインクジェット記録用シートにマゼンタとブラックのインクを隣接して格子状の線状パターン(線幅0.28mm)を印画した。
該印画サンプルを透明なPP製ファイルに挿入して、温度35℃湿度80%RHの環境下に3日間保管した後、該マゼンタとブラックよりなる格子状部の光学濃度(vis.)を測定し、この変動率を算出することにより経時にじみの評価指標とした。
前記光学濃度は、いずれもXrite938を用いて測定した。
評価基準は以下のとおりである。
〜評価基準〜
○ … 30%未満
△ … 30%以上50%未満(実用上の許容範囲内)
× … 50%以上
【0150】
(重ねムラ)
富士フイルム(株)社製のプリンタDry Minilab400を用い、上記で得られたインクジェット記録シートのインク受容層形成面側に、イエローべたのプリントを行った。その際、イエロー濃度が約1.8になるように画像データの階調を調整した。
プリント直後(プリント後3分以内)にイエロ−部分の一部をガラス板でおおい、24時間放置した。24時間後、イエロー部分のうちガラスでおおった部分の色相と、イエロー部分のうちガラスで覆わなかった部分の色相とをそれぞれ分光光度計で測定し、これらの色相同士の差を色差(ΔE)とした。ここで、色相の測定は、グレタグマクベス社のスペクトロリノを用いて、L、a*、b*を計測してΔEを算出することにより行った。
得られた色差(ΔE)から、以下の評価基準に従って重ねムラ(重ね跡)を評価した。
〜評価基準〜
○ … ΔE<9 : ムラがほとんど目立たない
△ … 9≦ΔE<13 : ムラはあるが問題となるレベルではない
× … 13≦ΔE : ムラが大きく問題となるレベル
【0151】
(耐光性)
インクジェットプリンタ 富士フイルム(株)社製のプリンタDry Minilab400を使用し、シアンインクでベタ印字を行なった。このベタ印字部に対して、アトラスフェードメータCi−35(Atlas Electric Devices Co.製)を使用し、照度0.39W/mのキセノン光を96時間照射して、耐光性試験を行なった。このとき、ベタ印字部におけるシアン濃度を試験の前後でそれぞれ測定し、下記式より耐光性試験後の濃度残存率を求め、耐光性を評価する指標とした。
耐光性(%)=(耐光性試験後の濃度/耐光性試験前の濃度)×100
【0152】
得られた耐光性(%)に基づき、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
○ … 耐光性が70%以上
△ … 耐光性が50%以上70%未満
× … 耐光性が50%未満
【0153】
〔実施例2〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、ZA−30の量を1.38部に変更し、更に、シリカ固形分量が実施例1の上層用塗布液と等しくなるようにイオン交換水の量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の上層用塗布液を調製した。
上層用塗布液として、上記で得られた実施例2の上層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0154】
〔実施例3〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、スーパーフレックス650−5の量を20.5部に変更し、更に、シリカ固形分量が実施例1の上層用塗布液と等しくなるようにイオン交換水の量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の上層用塗布液を調製した。
上層用塗布液として、上記で得られた実施例3の上層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0155】
〔実施例4〕
実施例1中、下層用塗布液の調製において、ポリ塩化アルミニウムの水溶液の濃度(4.6%)を6.5%に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の下層用塗布液を調製した。
下層用塗布液として、上記で得られた実施例4の下層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0156】
〔実施例5〕
実施例1中、下層用塗布液の調製において、PVA235を同質量のPVA245〔(株)クラレ製、鹸化度88mol%、重合度4500〕に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の下層用塗布液を調製した。
下層用塗布液として、上記で得られた実施例5の下層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0157】
〔実施例6〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、ポリ塩化アルミニウムの水溶液の濃度(4.6%)を7.7%に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6の上層用塗布液を調製した。
上層用塗布液として、上記で得られた実施例6の上層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0158】
〔実施例7〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、ZA−30を用いず、更に、シリカ固形分量が実施例1の上層用塗布液と等しくなるようにイオン交換水の量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7の上層用塗布液を調製した。
上層用塗布液として、上記で得られた実施例7の上層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0159】
〔比較例1〕
実施例1中、下層用塗布液の調製において、PVA235を同質量のJM33〔日本酢ビポバール社製、鹸化度95mol%、重合度3300〕に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の下層用塗布液を調製した。
下層用塗布液として、上記で得られた比較例1の下層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0160】
〔比較例2〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、JM33を同質量のPVA235に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の下層用塗布液を調製した。
下層用塗布液として、上記で得られた比較例2の下層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0161】
〔比較例3〕
実施例1中、上層用塗布液の調製において、ZA−30の量を12.45部に変更し、更に、シリカ固形分量が実施例1の上層用塗布液と等しくなるようにイオン交換水の量を変更した以外は実施例1と同様にして、比較例3の上層用塗布液を調製した。
上層用塗布液として、上記で得られた比較例3の上層用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0162】
〔比較例4〕
実施例1中、インクジェット記録用シートの作製において、上層用塗布液の塗布量及び上層にインライン添加するアルファイン83の塗布量をそれぞれ2倍とし、下層用塗布液を塗布しなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した(即ち、同時重層塗布ではなく単層塗布により作製した)。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0163】
〔比較例5〕
実施例1中、インクジェット記録用シートの作製において、下層用塗布液の塗布量及び下層にインライン添加するアルファイン83の塗布量をそれぞれ2倍とし、上層用塗布液を塗布しなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを作製した(即ち、同時重層塗布ではなく単層塗布により作製した)。
得られたインクジェット記録用シートを用い、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0164】
【表1】

【0165】
【表2】

【0166】
表1及び表2中、「水溶性ジルコニウム塩(対シリカ量)」とは、その層における、気相法シリカの質量に対する水溶性ジルコニウム塩の質量の比率を指す。
「水溶性アルミニウム塩(対シリカ量)」「カチオン性ポリウレタン(対シリカ量)」についても同様である。
【0167】
表1及び表2に示すように、実施例1〜実施例7では、高速風乾燥適性に優れ、画像の滲み及び重ねムラが抑制されていた。
中でも、水溶性ジルコニウム塩の対シリカ量が、上層で0.3質量%未満、下層で1.2質量%以上である実施例2及び実施例7、及び、下層のPVAの重合度が4000以上である実施例5では、ともに高速風乾燥適性が特に優れていた。
また、上層の水溶性アルミニウム塩の対シリカ量が2.0質量%以上である実施例6では、重ねムラが特に抑制されていた。
一方、下層塗布液中のPVAの鹸化度が90mol%以上である比較例1、及び、上層における水溶性ジルコニウム塩の対シリカ量が、下層における水溶性ジルコニウム塩の対シリカ量よりも高い比較例3では、ともに高速風乾燥適性が悪化した。
また、上層塗布液中のPVAの鹸化度が90mol%未満である比較例2、及びPVAの鹸化度が90mol%未満である単層構成の比較例5では、ともに写像性が低下した。
また、PVAの鹸化度が90mol%以上である単層構成の比較例4では、画像の滲み及び重ねムラが悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非吸収性支持体上に、該非吸収性支持体側から順に、
無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1のインク受容層と、
無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2のインク受容層と、
を少なくとも有し、
前記第2のインク受容層が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低いインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、0.3質量%未満である請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、1.2質量%以上である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、水溶性アルミニウム塩を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が、3.0質量%以上である請求項4に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性アルミニウム塩の質量比率が、2.0質量%以上である請求項4又は請求項5に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項7】
前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、カチオン性ポリウレタンを含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項8】
前記第2のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する前記カチオン性ポリウレタンの質量比率よりも低い請求項7に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項9】
前記第1のインク受容層に含まれる鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールの重合度が、3000以上である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項10】
前記第1のインク受容層及び前記第2のインク受容層の少なくとも一方が、更に、架橋剤を含有する請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項11】
前記第1のインク受容層中の無機微粒子及び前記第2のインク受容層中の無機微粒子の少なくとも一方が、気相法シリカである請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項12】
前記水溶性ジルコニウム塩が、酢酸ジルコニルである請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項13】
前記水溶性アルミニウム塩が、塩基性ポリ水酸化アルミニウムである請求項4〜請求項12のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項14】
非吸収性支持体上に、少なくとも、
無機微粒子と鹸化度90mol%未満のポリビニルアルコールと水溶性ジルコニウム塩とを含む第1の塗布液と、
無機微粒子と鹸化度90mol%以上のポリビニルアルコールとを含む第2の塗布液と、
を該非吸収性支持体側からみて、前記第1の塗布液、前記第2の塗布液の順となる配置で塗布する工程を含み、
前記第2の塗布液が更に水溶性ジルコニウム塩を含むときは、該第2の塗布液における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率が、前記第1のインク受容層における無機微粒子に対する水溶性ジルコニウム塩の質量比率よりも低いインクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2010−58373(P2010−58373A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226364(P2008−226364)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】