説明

インクジェット記録媒体

【課題】記録媒体に形成される画像の濃度を向上させることができない。また、記録媒体に形成される画像の印刷時間を短くすることができない。
【解決手段】インク受容層2に含有された成分によって、インク受容層2に顔料インク11の溶媒13が反応によって取り込まれるので、溶媒13がインク受容層2に吸収される吸収速度が向上し、インクジェット記録媒体1の表面に溶媒13が残ることを抑制する。すると、インクが流れ出したり、画像が滲んだりすることを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容層を備えたインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いて、顔料をノズルから噴射して紙などの記録媒体に画像を形成する場合、ノズルが詰まらないように、顔料を溶媒によって分散させた顔料インクをノズルから噴射する。溶媒には、取り扱いが容易な水が広く用いられる。一方、記録媒体に、アルミナやシリカなどの微粒子を主体としてインク受容層を形成し、高濃度な画像を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
記録媒体に噴射された顔料インクのうち、溶媒はインク受容層に吸収され、残りの顔料の粒子がインク受容層の表面に定着して、記録媒体にドットを形成している。
【0003】
【特許文献1】特開平9−66663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、形成される画像の濃度を上げるために、顔料インクの噴射量を増すと、溶媒が記録媒体の表面に残るため、記録媒体の表面に定着した顔料の粒子が流れ出す場合がある。そこで、記録媒体に形成するドット密度を低くして画像の濃度を下げたり、ノズルから噴射するタイミングを長くして画像を形成する印刷時間を長くしたりして、隣接するドットを形成する顔料の粒子が混ざって滲んでしまわないようにしている。また、隣接するドットの色が異なる場合、顔料の粒子が流れ出すと、隣接するドットを形成する顔料の粒子と混ざって滲んでしまう。更に、顔料が記録媒体の表面に凝集し、溶媒がインク受容層に吸収されるのを妨げられる場合がある。
【0005】
このように、記録媒体に形成される画像の濃度を向上させることができないという課題と、記録媒体に形成される画像の印刷時間を短くすることができないという課題がある。
また、顔料インクに限らず、染料インクをノズルから記録媒体に噴射したときにも、溶媒が記録媒体の表面に残ってしまうという、前述の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]インクを吸収するインク受容層を備えたインクジェット記録媒体であって、前記インク受容層には、前記インクに含まれる溶媒と反応する成分が含まれていることを特徴とするインクジェット記録媒体。
尚、反応には、化学反応、物理反応、溶解に伴なう反応などが含まれる。
【0008】
これによれば、インク受容層に含有された成分によって、インク受容層に溶媒が反応によって取り込まれるので、溶媒がインク受容層に吸収される吸収速度が向上し、インクジェット記録媒体の表面に溶媒が残ることを抑制する。すると、インクが流れ出したり、画像が滲んだりすることを抑制できる。従って、記録媒体に形成される画像の濃度を向上させることができる。また、更に、記録媒体に画像を形成する印刷時間を短くすることができる。
【0009】
[適用例2]上記に記載のインクジェット記録媒体において、前記反応は発熱反応であることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【0010】
これによれば、発熱反応で発生した熱によって溶媒の温度が上昇するので、溶媒の粘度が低くなる。すると、溶媒がインク受容層に吸収される吸収速度がより向上するので、インクが流れ出したり、画像が滲んだりすることを抑制できる。従って、記録媒体に形成される画像の濃度をより向上させることができる。また、更に、記録媒体に画像を形成する印刷時間をより短くすることができる。
【0011】
[適用例3]上記に記載のインクジェット記録媒体において、前記成分は、ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、ポリエチレングリコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とするインクジェット記録媒体。
【0012】
これらの成分は、発熱反応による発熱量が多いので、溶媒の粘度がより低くなり、前述の効果がより大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、各実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態では、インクに含まれる溶媒を取り込む成分が含有されたインク受容層を備えたインクジェット記録媒体の実施形態について説明する。図1は、インク受容層を備えたインクジェット記録媒体1の部分断面図である。
【0014】
図1に示すように、インクジェット記録媒体1は、基材4、耐水性支持体3,5、インク受容層2から構成されている。基材4は、耐水性支持体3,5、インク受容層2を担持することができ、記録媒体としての強度があれば特に限定されず、透明、半透明又は不透明のいずれであってもよい。不透明な基材の材料としては、布、木材、金属板、又は紙などを挙げることができる。更に透明(又は半透明)基材を不透明化処理したものを利用することができる。透明(又は半透明)基材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、若しくはセルロイドなどのフィルム又は板、更にはガラス板などを挙げることができる。
【0015】
耐水性支持体3,5は、基材4に接して設けられ、ポリオレフィン樹脂皮膜紙(ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂)やポリエステルフィルムなど耐水性がある材料で構成される。
【0016】
インク受容層2の厚さは数十μmである。インク受容層2は、ゼオライトを含む塗工液を塗布乾燥することによって形成されている。塗工液には、よく知られた例えば、アルミナ、シリカなどが含まれている。更に、塗工液には、バインダーとして例えば、ポリビニルアルコールなどが含まれている。インク受容層2には、アルミナ、シリカなどによって形成された多くの空隙が存在し、液体を吸収することができる。
【0017】
次に、本実施形態のインクジェット記録媒体1のインク受容層2に、ノズルから顔料インクを噴射したとき、溶媒がインク受容層2に吸収される様子を説明する。図2は、溶媒がインク受容層に吸収される様子を説明する概略断面図である。ノズル10から噴射された顔料インク11には、顔料の粒子12と顔料の粒子12を分散させる溶媒13が含まれている。
【0018】
図2において、インク受容層2に顔料インク11が噴射されると、顔料インク11に含まれる顔料の粒子12は、インク受容層2の表面14に残る。顔料インク11に含まれる溶媒13は、インク受容層2の空隙から、インク受容層2に吸収される。すると、インク受容層2に含有されているゼオライトが溶媒13を吸着し、インク受容層2に溶媒13が取り込まれる。そのとき、吸着による発熱がある。
【0019】
この発熱による作用について以下に、水が含まれている場合を例に説明する。
下記表1に示すように、常圧下における水の粘性率の温度依存性を示す(出展:化学便覧 改訂5版 基礎編II 7.1.2液体の粘性率 II−39)。表に記載された数値が示すように、水の温度が上昇すると水の粘性率(粘度)が低くなる。
【0020】
【表1】

【0021】
式(1)は、下記に示すように、Lucas Washburnの式である。浸透深さLを用いて、液体が浸透するときの速度の目安とすることができる。Lは浸透深さ、Rは毛管半径、γは表面張力、θは接触角、tは時間、ηは粘度を示す。式(1)が示すように、粘度ηが低くなると、浸透深さLが長くなる。すなわち、粘度が低くなると、浸透するときの速度が速くなる。
【0022】
【数1】

【0023】
このようなインク受容層2を備えたインクジェット記録媒体1であると、ゼオライトの吸着反応と吸着反応に伴なう発熱によって、溶媒13がインク受容層2に次々と取り込まれるので、溶媒13がインク受容層2に吸収される吸収速度が向上する。そのため、溶媒13がインク受容層2の表面に残らないので、顔料の粒子12が流れ出すことを抑制できる。従って、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度を向上させることが可能となり、また、更に、インクジェット記録媒体1に画像を形成する印刷時間を短くすることが可能となる。
【0024】
本実施形態では、顔料インク11がインク受容層2に噴射された場合において説明したが、染料インクが噴射された場合においても、染料インクが吸収される吸収速度が向上する。染料インクに含まれる溶媒は、インク受容層2に形成された空隙に吸収される。前述したように、溶媒がゼオライトによって吸着されることによって、溶媒がインク受容層2に吸収される吸収速度が向上する。
【0025】
(第2実施形態)
第2実施形態では、溶媒と発熱反応する成分が含有されたインク受容層2を備えたインクジェット記録媒体1の実施形態について説明する。第1実施形態とは、ゼオライトの替わりに酸化カルシウムがインク受容層2に含まれていることが異なる。尚、符号については、第1実施形態で用いた図1及び図2の符号と同じであり、図1を参照して説明する。
【0026】
本実施形態の実施例における基材4としての、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる170g/m2の原紙の表面に、本実施形態の実施例における耐水性支持体3,5としての、低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)とからなる樹脂組成物を25g/m2塗布し、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)とからなる樹脂組成物を25g/m2塗布して、総厚が235μmの樹脂被覆紙を作成する。
【0027】
上記樹脂被覆紙(基材)の原紙表面側の面の全面に、上記インク受容層用塗工液を、塗工量が固形分換算で25g/m2(厚みとしては約30μm)となるようにワイヤーバーを用いて塗工した後、これを乾燥させることによりインク受容層2を形成し、インクジェット記録媒体1としてのインクジェット光沢紙を得る。
【0028】
塗工液に含まれる酸化カルシウムは、1〜5重量%が好ましい。本実施形態では、1重量%の酸化カルシウムを含んだ塗工液を用いる。
【0029】
本実施形態の実施例における塗工液について、以下具体的に説明する。部は、特に断らない限り、水を除いた固形分であり、重量部を示す。気相法シリカとシャロールDC902Pを含む水溶液を高圧ホモジナイザーで分散し、ポリビニルアルコール等を加えて下記組成となるようなインク受容層用塗工液を調製する。
<インク受容層用塗工液の組成>
・気相法シリカ(平均一次粒子径7nm) 100部
・メチルジアリルアンモニウムクロライド重縮合物 3部
(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬(株)製)
・ポリビニルアルコール 25部
(商品名:PVA235、(株)クラレ製)
・ほう酸 4部
・塩基性ポリ水酸化アルミニウム 3部
(商品名:ピュラケムWT、理研グリーン(株)製)
・両性界面活性剤 0.3部
(商品名:SWAM AM−2150、日本サーファクタント製)
・酸化カルシウム 1.4部
【0030】
インク受容層2に含有される酸化カルシウムと噴射されたインクの溶媒に含まれる水とが化学反応すると、下記の化学反応式に示すように、発熱反応が生じる。A4サイズのインクジェット記録媒体1に形成されたインク受容層2に含有された酸化カルシウムの全部が、水と化学反応することによって発生する熱量は、下記の化学反応式に基づいて算出すると約4カロリーとなる。
CaO+H2O→Ca(OH)2+15kcal
【0031】
A4サイズのインクジェット記録媒体1に、例えば、720dpiのドット密度で、総てのドット位置にノズルからインクを噴射すると、A4サイズのインクジェット記録媒体1に形成されたインク受容層2の全表面積には、約1.4gのインクが噴射されることになる。例えばインクに水が含まれる重量%を40%とすると、インク受容層2の全表面積には、約0.56gの水が噴射されることになる。
【0032】
従って、A4サイズのインクジェット記録媒体1に噴射された顔料インク11の溶媒13に含まれる水と化学反応して発生する熱量によって、インク受容層2の全表面積に噴射された水(約0.56g)は、温度が約7°C上昇することになる。
【0033】
前述したように、溶媒の温度が上昇すると、溶媒の粘度が低くなり、インク受容層に吸収される吸収速度が増す。酸化カルシウムがインク受容層2に含有されていないときと比べて、吸収速度が1.5〜2倍になれば顔料インク11が流れ出したり、画像が滲んだりすることを抑制できる。
【0034】
以上、第2実施形態で説明したように、化学反応によって発熱する成分がインク受容層2に含有されていると、水を含む溶媒13がインク受容層2に吸収される吸収速度がより向上する。すると、溶媒13がインク受容層2の表面に残って、顔料の粒子12が流れ出すことを抑制できる。従って、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度を向上させることが可能となり、また、更に、インクジェット記録媒体1に画像を形成する印刷時間を短くすることが可能となる。
【0035】
また、塩化カルシウムが含有されたインク受容層2を備え、塩化カルシウムと溶媒13に含まれる水との化学反応による発熱量によって、溶媒13の温度を上昇させ、溶媒13の吸収速度を向上させてもよい。
【0036】
本実施形態では、化学反応によって発生する熱量によって、顔料インク11の溶媒13に含まれる水の温度が上昇する場合について説明したが、水に溶解するときの溶解熱によって、水の温度を上昇させてもよい。例えば、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、ポリエチレングリコールなどの水に溶解するときに溶解熱を発生する成分が含有されたインク受容層2を備えたインクジェット記録媒体1に、顔料インク11を噴射すると、顔料インク11の溶媒13に含まれる水の温度が上昇し、水の粘度が低くなるので、溶媒13がインク受容層2に吸収される吸収速度が向上する。
【0037】
また、本実施形態においても、インク受容層2に噴射されるインクは、水を含む染料インクでもよい。
【0038】
(第3実施形態)
第3実施形態では、溶媒と吸熱反応する成分が含有されたインク受容層を備えたインクジェット記録媒体1について説明する。尚、符号については、第1実施形態で用いた図の符号と同じである。第3実施形態のインク受容層2には、溶媒13に含まれる水と反応すると吸熱反応を生じるキシリトールが含有されている。
【0039】
インク受容層2に顔料インク11が噴射されると、顔料インク11の溶媒13に含まれる水と吸熱反応して、水の温度が下げられる。水の温度が下がると、水の表面張力が大きくなることが知られている。
【0040】
前述した、式(1)に示すように、表面張力γが大きくなると、浸透深さLは長くなる。すなわち、キシリトールが含有されたインク受容層2に顔料インク11を噴射すると、キシリトールと顔料インク11の溶媒13に含まれる水とが吸熱反応を生じ、水の温度が下がる。すると、水の表面張力が大きくなり、インク受容層2に水が吸収される吸収速度が向上する。従って、溶媒13がインク受容層2の表面に残って、顔料の粒子12が流れ出すことを抑制するので、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度を向上させることが可能となる。また、更に、インクジェット記録媒体1に画像を形成する印刷時間を短くすることが可能となる。
【0041】
以上、一つの層が形成されたインク受容層2について説明したが、複数の吸収層が形成されたインク受容層が設けられたインクジェット記録媒体であってもよい。図3は、複数の吸収層が形成されたインク受容層2aの断面図である。図に示すように、インクジェット記録媒体1aは、画像形成層21、インク定着層22、白地調整層23から構成されており、それぞれの層は顔料インク11の溶媒13を吸収することができ、インク受容層2aに溶媒13を取り込むことができる成分が含有されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】インク受容層を備えたインクジェット記録媒体の部分断面図。
【図2】溶媒がインク受容層に吸収される様子を説明する概略断面図。
【図3】複数の吸収層が形成されたインク受容層を備えたインクジェット記録媒体の断面図。
【符号の説明】
【0043】
1,1a…インクジェット記録媒体、2,2a…インク受容層、11…顔料インク、13…溶媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吸収するインク受容層を備えたインクジェット記録媒体であって、
前記インク受容層には、前記インクに含まれる溶媒と反応する成分が含まれていることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録媒体において、
前記反応は発熱反応であることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録媒体において、
前記成分は、ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、ポリエチレングリコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とするインクジェット記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18464(P2009−18464A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181783(P2007−181783)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】