説明

インクジェット記録媒体

【課題】 画像の退色を良好に抑制し、インク吸収性に優れ、マイグレーションを抑制したインクジェット記録媒体を提供すること
【解決手段】 基材と、基材の少なくとも一方の面にインク受容層を有するインクジェット記録媒体であって、該インク受容層が、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式等に用いられるインクジェット記録媒体については、従来から多様多種の形態のものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、画像退色防止剤としてインク受容層中に5価のリン酸エステル化合物を含有させた記録媒体が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、2つ以上の活性水素基を有する硫黄化合物と、イソシアネート基を2つ以上有する化合物と、2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物からなる化合物を含有する記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−123316号公報
【特許文献2】特開2005−336479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献1の記録媒体は、画像退色防止剤としてP−O結合を有するリン酸エステル化合物を用いており、水系インクによる印字の際、インク中の水分による加水分解の影響で、長期に渡る画像退色防止に課題があった。また、十分に画像の退色を防止するためには、画像退色防止剤を大量に添加する必要があり、インク受容層のヘイズによる画像鮮明性や、細孔容積の低下によるインク吸収性が低下するという課題があった。
【0007】
特許文献2の記録媒体は、マイグレーションは抑制されるが、高湿下の耐光性の点で十分ではなかった。尚、マイグレーションとは、インクを付与したインクジェット記録媒体を高温高湿下に放置しておくと、水溶性染料がインクジェット記録媒体中で移動する現象のことである。
【0008】
即ち本発明の課題は、画像の退色を良好に抑制し、インク吸収性に優れ、マイグレーションを抑制したインクジェット記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、基材と、基材の少なくとも一方の面にインク受容層を有するインクジェット記録媒体であって、該インク受容層が、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像の退色を良好に抑制し、インク吸収性に優れ、マイグレーションを抑制したインクジェット記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のインクジェット記録媒体を説明する。本発明のインクジェット記録媒体は、基材と、基材の少なくとも一方の面にインク受容層を有するインクジェット記録媒体である。インク受容層は、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有する。インク受容層は、支持体の一方の面上に設けられても、支持体の両方の面上に設けられても良い。
【0012】
5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物は、2つ以上の活性水素基を有する5価のリン化合物と、2つ以上の活性水素基を有する硫黄化合物と、2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを重合させた高分子化合物であることが好ましい。2つ以上の活性水素基を有する5価のリン化合物は、リン原子と炭素原子が直接結合していることが好ましい。
【0013】
また、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物は、2つ以上の活性水素基を有する5価のリン化合物と、2つ以上の活性水素基を有する硫黄化合物と、2つ以上のエポキシ基を有するポリグリシジル化合物とを重合させた高分子化合物であることが好ましい。
【0014】
5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物は、親水性の官能基として2つ以上の活性水素基を有するポリエーテル化合物を含有していることが好ましい。また、2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物を含有していることが好ましい。2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物は、アミン化合物中のアミンを、酸または4級化剤でカチオン化されていてもよい。
【0015】
5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物は、インクジェット記録媒体中で画像退色防止剤として働く。インク受容層にこの化合物を含有させることによって、例えば3価の亜リン酸エステルを使用した場合よりも、インクジェット記録媒体の画像の退色を抑制することができる。また、5価のリン酸エステル化合物を使用した場合よりも、インクジェット記録媒体の画像の退色を抑制することができる。5価のリン化合物は、以下の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
一般式(1)
【0017】
【化1】

【0018】
(式中のR、R、Rは、直鎖、分岐状の炭素数1〜20のアルキル基である。R、R、Rは、同一であっても異なっていても良い。R、R、Rのうち、少なくとも2種以上は、活性水素基として水酸基を有する。)
【0019】
一般式(1)で表される化合物が、画像の退色を良好に抑制可能であるメカニズムを説明する。この理由は、キセノンなどにより、インク成分の染料または顔料分子内に発生した一重項酸素に対して、一般式(1)で表される化合物が高いクエンチ能力を有しているためである。この一重項酸素クエンチのメカニズムは明らかではないが、従来の5価のリン酸エステルの酸素、硫黄化合物、エステル結合よりも、本発明の一般式(1)で表される化合物のような炭素である方が、より一重項酸素のクエンチ効果が高いと考えられる。この結果、インク受容層の顔料としてシリカを使用した場合でも、従来の5価のリン酸エステル化合物と比べて、一般式(1)で表される化合物を含有するインクジェット記録媒体の方がより高い耐候性を示すことができる。
【0020】
一般式(1)で表される化合物は、R、R、Rのうち少なくとも2種以上が活性水素基として水酸基を有するので、水溶性が高く、水系インクジェット受容層用塗工液に添加し、インク受容層に含有させやすい。従来、リン酸エステル化合物の可溶化基として、−COOM、−SOM(Mは水素原子又は金属原子を示す。)といった酸性可溶化基、塩基性物質との塩を形成した可溶化基が知られている。これらの可溶化基を有する化合物は水溶性を示し、水系インクジェット受容層用塗工液に添加することができるが、記録媒体の表面pHを下げることによるインク吸収性の劣化や、無機顔料の分散性の劣化による記録媒体の印字画像品位の劣化が課題としてある。これに対し、一般式(1)で表される化合物の、R、R、Rに置換する水酸基は中性可溶化基であるため、インク吸収性や画像品位を劣化させる影響が小さい。
【0021】
一般式(1)で表される化合物は、特開昭58−222097号公報、特開平4−39324号公報に示される、工業的に行なわれている公知の方法で製造することができる。具体的な方法としては、アゾイソブチルニトリルなどのアゾビス系ラジカル触媒の存在下で、各種オレフィンへのホスフィンのラジカル付加反応で、アルキルホスフィンを得る。その後、このアルキルホスフィンを過酸化水素で酸化することによって対応するホスフィンオキシドへ添加し、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。例えば、トリス−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイドは、アゾビス系ラジカル触媒の存在下で、アリルアルコールとホスフィンを反応させて得られるトリス−ヒドロキシプロピルホスフィンを過酸化水素にて酸化し、製造することができる。
【0022】
2つ以上の活性水素基を有する5価のリン化合物の具体例としては、例えばトリス−メチルホスフィンオキサイド、トリス−エチルホスフィンオキサイド、トリス−プロピルホスフィンオキサイド、トリス−n−ブチルホスフィンオキサイド。トリス−n−オクチルホスフィンオキサイド、ジメチルヒドロキシメチルホスフィンオキサイド、ジメチルヒドロキシエチルホスフィンオキサイド、ジエチルヒドロキシプロピルホスフィンオキサイド、エチル−ビス(3−ヒドロキシエチル)ホスフィンオキサイド。エチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシメチルホスフィンオキサイド、トリス−2−ヒドロキシエチルホスフィンオキサイド。トリス−3−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイド、トリス−4−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド。トリス−ヒドロキシペンチルホスフィンオキサイド、トリス−ヒドロキシヘキシルホスフィンオキサイド、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。中でも、化合物中のリン含有率、入手の容易さの観点から、トリス−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイド。トリス−4−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイドが好ましい。リン化合物が水溶性を示し、水系インクジェット受容層用塗工液に添加が可能であるという観点では、特にトリス−3−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイド。トリス−4−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシブチルホスフィンオキサイド、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシルプロピル)ホスフィンオキサイドが好ましい。これらの化合物は単独、もしくは2種類以上同時に使用して、本発明の化合物を合成することが可能である。
【0023】
2つ以上の活性水素基を有する硫黄化合物の具体例として、例えば3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、5−ヒドロキシ−3,7−ジチア−1,9−ノナンジオール、6−オキサ−3,9−ジチア−1,11−ウンデカンジオール。4,7−ジチア−1,2,9,10−デカンテトラオール、チオジエチレングリコール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、3,8−ジチア−1,10−デカンジオール。3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジオール、3,9−ジオキサ−6−チア−1,11−ウンデカンジオール、3,7−ジチア−1,9−ノナンジオール、3−オキサ−6−チア−1,8−オクタンジオール。2,2’−チオジグリコール酸、3,3’−チオジプロピオン酸、4,4’−チオジブタン酸、6,6’−チオジカプロン酸、8,8’−チオジカプリル酸、10,10’−チオジカプリン酸、12,12’−チオジラウリン酸。2,2’−ジチオジグリコール酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸。4,4’−ジチオジブタン酸、6,6’−ジチオジカプロン酸、8,8’−ジチオジカプリル酸、10,10’−ジチオジカプリン酸、12,12’−ジチオジラウリン酸などが挙げられる。これらの化合物は単独、もしくは2種類以上同時に使用して、本発明の化合物を合成することが可能である。
【0024】
2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート。4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート。3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジクロロ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート。1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート。ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート。キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート。4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。この中でも、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネートが好ましい。また、これらジイソシアネート化合物を単独、もしくは2種以上同時に使用して、高分子化合物を合成する。
【0025】
2つ以上のエポキシ基を有するポリグリシジル化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル。トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル。エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプレングリコールジグリシジルエーテル。ジグリシジル−o−フタレート、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタレートなどが挙げられる。また、これらポリグリシジル化合物を単独、もしくは2種以上同時に使用して、高分子化合物を合成する。
【0026】
親水性の官能基として2つ以上の活性水素基を有するポリエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量が300〜1,000であるポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン、アルキレンオキシド付加体などのグリコール成分と、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘンデカンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p′−ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物ないしエステル形成性誘導体などの酸成分とから、脱水縮合反応によって得られたポリエステル類が挙げられる。さらには、ε−カプロラクトンなどの環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル類、またはそれらの共重合ポリエステル類などが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール。1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン。トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、アコニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、燐酸。エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸。1,2,3−プロパントリチオールなどの活性水素を少なくとも2個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンなどのモノマーの1種または2種以上を用いて、常法により付加重合したものが挙げられる。また、ポリオールとして、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの1級アミノ基を少なくとも2個有する化合物を開始剤として用いて、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド。スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンなどのモノマーの1種または2種以上を常法により付加重合したものなどが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどのグリコールとジフェニルカーボネートおよびホスゲンとの反応によって得られる化合物などが挙げられる。
【0027】
2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物としては、例えばN−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−エチル−N,N−ジエタノールアミン、N−イソブチル−N,N−ジエタノールアミン。N−t−ブチル−N,N−ジエタノールアミン、N−t−ブチル−N,N−ジイソプロパノールアミン,トリエタノールアミン、ジアミン、メチルイミノビスプロピルアミン。ブチルイミノビスプロピルアミン、トリ(2−アミノエチル)アミンなどが挙げられる。これらアミン化合物は単独、または2種以上同時に使用して本発明の高分子化合物を合成する。好ましくはジオールまたはトリオール化合物であり、より好ましくはアルキル置換したジオール化合物である。これらの化合物は単独、もしくは2種類以上同時に使用して、本発明の化合物を合成することができる。
【0028】
高分子化合物の合成は、イソシアネート重付加反応において、錫系触媒および/またはアミン系触媒を用いる方法が好ましい。かかる錫系触媒としては、例えばジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエートなどが挙げられる。アミン系触媒としては、例えばトリエチレンジアミン、トリエチルアミン、テトラメチルプロパンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N−メチルモルホリンなどが挙げられる。高分子化合物の合成は、組成によっては無溶剤下で行うことも可能である。しかし、反応系の反応抑制や反応液の粘度のコントロールなどの目的で、反応系に直接関与しない親水性有機溶剤を反応溶媒として用いることが一般的である。親水性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンの如きケトン類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル。酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルといった有機酸エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンといったアミン類などが挙げられる。また、用いた親水性有機溶剤は、反応生成物(高分子化合物)から最終的に取り除かれるのが好ましい。
【0029】
2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物は、アミン化合物中のアミンを酸または4級化剤でカチオン化することが好ましい。カチオン化は、アミン化合物を高分子化する前に行っても、高分子化した後に行ってもよい。このようにすることで、高分子化合物を水中に分散または溶解しやすくなる。高分子化合物を水中で分散安定化または良好に溶解させるため、酸を用いてカチオン化することが好ましい。カチオン化に用いられる酸としては、リン酸または一価の酸が好ましい。リン酸としては、例えばリン酸、亜リン酸が挙げられる。一価の酸としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、メタンスルホン酸などの有機酸、および塩酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。これらの酸が好ましい理由については、リン酸以外の多価酸を用いて本発明の高分子化合物を水中に分散または溶解させた場合、分散液または溶液が増粘を起すことがあるためである。また、グリコール酸や乳酸などのヒドロキシ酸でカチオン化した高分子化合物は、他の酸でカチオン化した高分子化合物と比べて、記録媒体の白紙部の黄変が抑制できるため、より好ましい。
【0030】
本発明の5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物は、水分散性または水溶解性を有する。以下、本発明のカチオン化高分子化合物を水分散させて微粒子化する方法について説明する。カチオン化高分子化合物中のカチオン性基は、水系溶媒において解離し、高分子化合物と水との界面に電気二重層を形成する。高分子化合物の微粒子が水系溶媒に存在する場合、この電気二重層の作用により、微粒子間には静電的な反発力が生じ、高分子化合物の微粒子は水系内において安定して分散する。本発明のカチオン性高分子化合物の水性分散液は公知の任意の方法によって製造することができるが、プロセスが単純であるという点で水系造粒法による製造がより好ましい。即ち、高分子化合物と親水性有機溶剤との混合物を水に加え、撹拌することにより水性分散液を製造する。或いは、高分子化合物と親水性有機溶媒との混合物に水を加え、撹拌することにより水性分散液を製造してもよい。親水性有機溶媒は、カチオン性高分子化合物を水分散させた後に、共沸などにより除去することができるものが好ましく、前述した親水性有機溶媒を用いることができる。水性分散液の製造に当たり界面活性剤の使用は、本発明の高分子化合物を記録媒体に適用した場合の弊害を考慮すると好ましくないが、特に界面活性剤の使用を制限するものではない。
【0031】
また、本発明の高分子化合物の水性分散液は、高分子化合物を水中に分散した後に、分散機を用いて高分子化合物を微粒子化することもできる。このような水性分散液中の高分子化合物の粒子を細粒化する分散機としては、高速回転分散機、媒体撹拌型分散機(ボールミル、サンドミル、ビーズミルなど)、超音波分散機、コロイドミル分散機、高圧分散機など従来公知の各種の分散機を使用することができる。形成される微粒子凝集物の分散を効率的に行うという観点から、媒体撹拌型分散機、コロイドミル分散機または高圧分散機(ホモジナイザー)を使用することが好ましい。
【0032】
なお、本発明の高分子化合物は、水や有機溶剤に溶解している状態でも微分散している状態のいずれでもよいが、水に分散した状態がより好ましく、その分散粒子の平均粒子径は5nm以上、200nm以下であることが望ましい。平均粒子径が5nm未満になると、水性分散液の粘度が高くなり、扱い難くなる。一方で、200nmを超えると、高分子化合物の水性分散液の保存安定性が劣化したり、形成されるインク受容層の光沢度が低下したり、画像濃度が低下したりする可能性がある。
【0033】
なお、本発明の平均粒子径とは、動的光散乱法によって測定される。「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、あるいはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法を用いた解析から求めることができる。例えば、レーザー粒径解析装置 PARIII(大塚電子(株)製)などを用いて測定することができる。
【0034】
インク受容層中に、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有する場合、高分子化合物の含有量は、無機顔料の全固形分100質量部に対して0.1質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。より好ましくは8.0質量部以下であり、さらに好ましくは、6.0質量部以下である。0.1質量部未満では、ガスや光による画像の退色を十分に抑制することができない。また、高分子化合物の含有量が20.0質量部を超えると、インク受容層のインク吸収性が劣化したり、印字濃度が低下することがある。
【0035】
インク受容層は、例えば、基材の少なくとも一方の面に、インク受容層用塗工液を塗布し、乾燥することで形成することができる。本発明では、インク受容層用塗工液に、バインダーと無機微粒子とを水系溶媒中に分散溶解させ、さらに5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を溶解または分散させ、インク受容層を形成することが好ましい。
【0036】
本発明のインクジェット記録媒体のインク受容層は、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有する。さらに、顔料とバインダーを含有することが好ましい。顔料としては、無機顔料と有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム。合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。有機顔料としては、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン粒子、マイクロカプセル粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子などが挙げられる。顔料は、これらの中から1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。シリカ微粒子として好ましいものは、市場より入手可能なコロイダルシリカに代表されるシリカ微粒子である。また、シリカ微粒子として特に好ましいものとしては、例えば特登録2803134号公報や、特登録第2881847号公報に開示されたものが挙げられる。顔料としては、染料定着性、透明性、印字濃度、発色性、及び光沢性の点で無機顔料を用いることが好ましく、アルミナ水和物を使用することがより好ましい。酸化アルミ微粒子として好ましいものは、アルミナ微粒子であるアルミナ水和物が挙げられる。なお、アルミナ水和物は、例えば、下記一般式(2)により表されるものである。
Al3−n(OH)2n・mHO (2)
(上記式中、nは0、1、2又は3の何れかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。但し、mとnは同時に0にはならない。mHOは多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数又は整数でない値をとることができる。また、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る)。
【0037】
アルミナ水和物は、一般的には、公知の方法で製造することができる。この具体的な方法としては、アルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解を行なう方法(米国特許第4242271明細書、米国特許第4202870号明細書)を挙げることができる。また、アルミン酸ナトリウムの水溶液に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行なう方法(特公昭57−447605号公報)を挙げることができる。好適なアルミナ水和物としては、X線回折法による分析でベーマイト構造もしくは非晶質を示すものである。このアルミナ水和物としては特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載されているアルミナ水和物が好ましい。顔料の平均粒子径は1mm以下であることが好ましい。
【0038】
バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの変性体、澱粉またはその変性体、ゼラチンまたはその変性体、カゼインまたはその変性体。アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体。SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン。無水マレイン酸またはその共重合体、アクリル酸エステル共重合体等の従来公知のバインダーを使用することができる。これらのバインダーは単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。なお、バインダーとしては水溶性樹脂を用いることが好ましく、ポリビニルアルコールを使用することがより好ましい。また、この場合、ポリビニルアルコールに併用して、従来公知のバインダーを用いても良い。インク受容層中のバインダーの含有量は、顔料100質量部に対して、5.0質量部以上、20.0質量部以下であることが好ましい。
【0039】
また、インク受容層中には、架橋剤としてホウ酸化合物を1種以上含有させることが好ましい。この際、使用できるホウ酸化合物としては、オルトホウ酸(HBO)だけでなく、メタホウ酸やジホウ酸等を挙げることができる。また、ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましく、具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na・10HO、NaBO・4HO等)。カリウム塩(K・5HO、KBO等)等のアルカリ金属塩、ホウ酸のアンモニウム塩(NH・3HO、NHBO等)、ホウ酸のマグネシウム塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。これらの中でも、塗工液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点からオルトホウ酸を用いることが好ましい。
【0040】
ホウ酸化合物は、インク受容層中のバインダー100質量部に対して、1.0質量部以上、15.0質量部以下とすることが好ましい。これにより、塗工液の経時安定性を向上させることができる。すなわち、生産時に塗工液を長時間にわたって使用した場合であっても、塗工液の粘度上昇や、ゲル化物の発生が起こらない。この結果、塗工液の交換やコーターヘッドの清掃等が不要となり、生産性を向上させることができる。なお、この範囲内であっても製造条件等をさらに適切に選択することによって、クラック発生より効果的に防止することができる。
【0041】
インク受容層は、高インク吸収性、高定着性等の目的及び効果を達成する上から、その細孔物性が、下記の条件を満足するものであることが好ましい。
(1)インク受容層の細孔容積は、0.1cm/g以上1.0cm/g以下であることが好ましい。インク受容層の細孔容積が0.1cm/g以上の場合には十分なインク吸収性能が得られ、インク吸収性に優れたインク受容層とすることができる。また、インク受容層の細孔容積が1.0cm/g以下であることによって、インク溢れ・画像滲みを防止すると共に、クラックや粉落ちを生じにくくすることができる。
(2)インク受容層のBET比表面積は、20m/g以上、450m/g以下であることが好ましい。インク受容層のBET比表面積が20m/g以上の場合、十分な光沢性が得られ、ヘイズが低下する(透明性が向上する)。さらに、この場合には、インク中の染料の吸着性が向上する。また、インク受容層のBET比表面積が450m/g以下の場合、インク受容層にクラックが生じにくくなる。なお、細孔容積、BET比表面積の値は、窒素吸着脱離法により求めた値である。
【0042】
また、インク受容層中には、必要に応じてその他の添加剤を添加することもできる。その他の添加剤として、分散剤、増粘剤、PH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
【0043】
インク受容層の乾燥塗工量は、高いインク吸収性を考慮して、30g/m以上、60g/m以下とすることが好ましい。インク受容層の乾燥塗工量が30g/m以上の場合、十分なインク吸収性が得られ、インク溢れが生じてブリーディングが発生することを抑制できる。また、高温高湿環境下においても十分なインク吸収性を示すインク受容層を得やすい。特に、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクに、ブラックインクの他、複数の淡色インクを使用するプリンタに用いた場合にこの傾向が顕著となる。また、インク受容層の乾燥塗工量が60g/m以下の場合、クラックの発生を抑制することができる。さらに、インク受容層の塗工ムラが生じにくくなり、安定した厚みのインク受容層を製造することができる。
【0044】
本発明で用いる基材(支持体)としては、例えば、フィルム、キャストコート紙、バライタ紙、レジンコート紙(両面がポリオレフィンなどの樹脂で被覆された樹脂皮膜紙)などの紙類からなるものなどを好ましく使用することができる。このフィルムとしては例えば、下記の透明な熱可塑性樹脂フィルムを使用することができる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアセテート、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート。また、これら以外にも、基材としては適度なサイジングが施された紙である無サイズ紙やコート紙、無機物の充填もしくは微細な発泡により不透明化されたフィルムからなるシート状物質(合成紙など)を使用できる。あるいは、ガラス又は金属などからなるシートなどを使用しても良い。さらに、これらの支持体とインク受容層との接着強度を向上させるため、支持体の表面にコロナ放電処理や各種アンダーコート処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。尚、実施例中「部」または「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0046】
<高分子化合物の水性分散液の合成例1−1>
攪拌装置、温度計および還流冷却管を備えた反応容器に、反応溶媒としてアセトン119.02gを投入して撹拌した。攪拌下、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシルプロピル)ホスフィンオキサイドを22.44g、3,6ジチア−1,8オクタンジオールを19.9g、メチルジエタノールアミンを6.75g添加し、溶解させた。次に、イソホロンジイソシアネートを60.00g添加し、40℃まで昇温させた。その後、50℃まで昇温して錫系触媒を0.2g添加した。さらに55℃まで昇温させ、撹拌しながら4時間反応を行い、高分子化合物を合成した。合成終了後、反応溶液を室温まで冷却して蟻酸を2.61g加え、高分子化合物をカチオン化した。最後に水を335.05g加え、減圧濃縮してアセトンを除去し、さらに水で濃度調製することにより、固形分25%の高分子化合物の水性分散液1−1を製造した。
【0047】
<高分子化合物の水性分散液の合成例1−2〜1−18>
表1に記載の化合物及び投入量にした以外は、合成例1−1と同様の手順で高分子化合物の水性分散液1−2〜1−13を製造した。
【0048】
【表1】

【0049】
<高分子化合物の水性分散液の合成例2−1>
攪拌装置、温度計および還流冷却管を備えた反応容器に、反応溶媒としてアセトン119.02gを投入して撹拌した。撹拌下、トリス(3−ヒドロキシルプロピル)ホスフィンオキサイドを20.63g、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオールを25.46添加、溶解させた。その後、架橋剤としてナガセケムテック(株)製デコナールEX−313(エポキシ当量141WPE)を75.74g添加し、40℃まで昇温させた。その後、50℃まで昇温して3フッ化硼素を0.11g添加した。さらに55℃まで昇温させ、撹拌しながら4時間反応を行い、高分子化合物を合成した。合成終了後、反応溶液を室温まで冷却して水356.12gを加えた後、減圧濃縮してアセトンを除去し、水で濃度調製することにより固形分25%の高分子化合物の水性分散液2−1を製造した。
【0050】
<高分子化合物の水性分散液の合成例2−2〜2−30>
表2に記載の化合物及び投入量で、合成例2−1と同様の手順で高分子化合物の水性分散液2−2〜2−30を製造した。
【0051】
【表2】

【0052】
<インクジェット記録媒体の作製>
(基材の作製)
下記のようにして支持体を作製した。先ず、下記組成の紙料を調整した。
・パルプスラリー 100質量部
・濾水度450ML CSF(CANADIAN STANDARAD FREENESS)の、広葉樹晒しクラフトパルプ(lBKP) 80質量部
・濾水度480ML CSFの、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP) 20質量部
・カチオン化澱粉 0.60質量部
・重質炭酸カルシウム 10質量部
・軽質炭酸カルシウム 15質量部
・アルキルケテンダイマー 0.10質量部
・カチオン性ポリアクリルアミド 0.030質量部
【0053】
次に、この紙料を長網抄紙機で抄造し、3段のウエットプレスを行った後、多筒式ドライヤーで乾燥した。この後、サイズプレス装置で、固形分が1.0g/mとなるように酸化澱粉水溶液を含浸、乾燥させた。この後、マシンカレンダー仕上げをして、坪量170g/m、ステキヒトサイズ度100秒、透気度50秒、ベック平滑度30秒、ガーレー剛度11.0mNの基材Aを得た。この基材Aのインク受容層を設ける面に、低密度ポリエチレン(70質量部)、高密度ポリエチレン(20質量部)、酸化チタン(10質量部)からなる樹脂組成物を25g/m、塗布した。さらに、基材Aの反対の面に、高密度ポリエチレン(50質量部)、低密度ポリエチレン(50質量部)からなる樹脂組成物を、25g/m、塗布した。
【0054】
(微粒子の分散体1の作製)
純水中に、無機顔料としてアルミナ水和物(DISPERAL HP14(サソール社製))を23質量%添加し、アルミナ水和物水溶液を得た。次に、このアルミナ水和物水溶液に対して、固形分換算質量で(メタンスルホン酸)/(アルミナ水和物)×100が1.5質量部となるようにメタンスルホン酸を加え、攪拌して、微粒子の分散体1を得た。
【0055】
(微粒子の分散体2の作製)
純水中に、無機顔料として、シリカ微粒子である気相法シリカ(アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)を10質量%添加した。次に、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)を、固形分換算質量で(ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー)/(シリカ)×100が4.0質量部となるように加えた。この後、高圧ホモジナイザーで分散し、微粒子の分散体2を作製した。
【0056】
<実施例1>
ポリビニルアルコール(PVA235;クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分8.0質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。前記作製した微粒子の分散体1に、水性分散液1−1を固形分換算質量で(リン化合物)/(アルミナ水和物)×100が0.1質量部となるように添加した。添加後、攪拌し、ポリビニルアルコール溶液を、固形分換算質量で(ポリビニルアルコール)/(アルミナ水和物)×100が10質量部となるように混合して混合液を得た。次に、3.0質量%のホウ酸水溶液を、上記混合液に対して、固形分換算質量で(ホウ酸)/(アルミナ水和物)×100が1.0質量部となるように混合して、インク受容層用の塗工液を得た。得られた塗工液を、ダイコーターにより、上記の両面を樹脂被覆した基材上に、乾燥塗工量が35g/mとなるように塗工して、実施例1のインクジェット記録媒体を作製した。
【0057】
<実施例2〜48>
実施例1の分散体の種類及び添加量を表3のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜48のインクジェット記録媒体を作製した。
【0058】
<実施例49>
前記作製した微粒子の分散体2に、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシルプロピル)ホスフィンオキサイドを、固形分換算質量で(リン化合物)/(シリカ)×100が4.0質量部となるように添加して攪拌した。次に、実施例1のポリビニルアルコール水溶液を、固形分換算質量で(ポリビニルアルコール)/(シリカ)×100が20質量部となるように加えて混合液を得た。次に、3.0質量%のホウ酸水溶液を、上記混合液に対して、固形分換算質量で(ホウ酸)/(シリカ)×100が6.0質量部となるように混合して、インク受容層用の塗工液を得た。得られた塗工液を、実施例1と同じ基材上に、実施例1と同様の方法により、乾燥塗工量が25g/mとなるように塗工して、実施例49のインクジェット記録媒体を作製した。
【0059】
<比較例1>
実施例1の分散体及び添加量を表3に記載のホスファイト化合物及び添加量に変更した以外、同様の比率でインクジェット記録媒体を作製した。
【0060】
<比較例2>
実施例1の分散体及び添加量を表3に記載のホスファイト化合物及び添加量に変更した以外、同様の比率でインクジェット記録媒体を作製した。
【0061】
<比較例3>
実施例1の水分散体1を除いて、表3に記載のインクジェット記録媒体を作製した。
【0062】
<比較例4>
実施例1の分散体及び添加量を表3に記載のホスファイト化合物及び添加量に変更した以外、同様の比率でインクジェット記録媒体を作製しようとした。
【0063】
しかし、インク受容層の作製時、混合液を調整する際に、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが不溶化し、沈殿したため、インク受容層を作製できなかった。
【0064】
<比較例5>
実施例1の分散体及び添加量を表3に記載のホスファイト化合物及び添加量に変更した以外、同様の比率でインクジェット記録媒体を作製した。
【0065】
しかし、インク受容層の作製時、混合液を調整する際に、ジブチルホスファイトが不溶化し、沈殿したため、インク受容層を作製できなかった。
【0066】
<評価>
インクジェット記録装置として、インクジェット記録方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS IP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を使用した。上記実施例、比較例で作成したインクジェット記録媒体の記録面にブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチを、画像の光学濃度(O.D.)がそれぞれ1.0となるように印字し、記録物を作製した。
【0067】
(耐キセノン性)
上記記録物に対して、キセノンフェザーメーター(型式:XL−750、スガ試験機(株)製)を用いて、下記の条件でキセノン暴露試験を行った。
・試験条件
積算照射:40000klx
試験槽内温湿度条件:23℃、80%RH
上記記録物の試験前後の画像濃度を分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。
濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100。
【0068】
[判定基準]
5 イエロー濃度残存率が90%以上
4 イエロー濃度残存率85%以上90%未満
3 イエロー濃度残存率80%以上85%未満
2 イエロー濃度残存率70%以上80%未満
1 イエロー濃度残存率70%未満
【0069】
(耐オゾン性)
オゾンウエザオメーター(型式:OMS−HS、スガ試験機社製)を用いて、下記の条件でオゾン暴露試験を行った。
・試験条件
暴露ガス組成:オゾン10ppm
試験時間:8時間
試験槽内温湿度条件:23℃、80%RH
上記の記録物の試験前後のL値、a値およびb値を、分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次式よりΔEを求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。
ΔE={(試験前の記録物のL値−試験後の記録物のL値)+(試験前の記録物のa値−試験後の記録物のa値)+(試験前の記録物のb値−試験後の記録物のb値)1/2
【0070】
[判定基準]
5 ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチのうち、初期画像との色差ΔEが最も大きかったものの値が3未満。
4 ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチのうち、初期画像との色差ΔEが最も大きかったものの値が3以上5未満。
3 ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチのうち、初期画像との色差ΔEδeが最も大きかったものの値が5以上7未満。
2 ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチのうち、初期画像との色差ΔEδeが最も大きかったものの値が7以上10未満。
1 ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチのうち、初期画像との色差ΔEδeが最も大きかったものの値が10以上。
【0071】
(インク吸収性)
上記実施例、比較例で作製したインクジェット記録媒体の記録面に、フォト用プリンタ(商品名:PIXUS IP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を使用して印字した。シアン単色からマゼンタ単色までの中間色8階調をパッチ状にして印字し、記録物を作製した。作製した記録物の各パッチに対して、画像品位を目視により下記判定基準により判定した。
【0072】
[判定基準]
4 パッチ内の濃淡の均一性が特に優れている。
3 パッチ内で殆ど濃淡が見当たらず、均一性に優れている。
2 パッチ内で少し濃淡がある。
1 パッチ内で濃淡が認められる。
0 実使用上問題となるレベル。
【0073】
(マイグレーション)
キヤノン(株)製インクジェットプリンターiP4300を用いて、BLUEベタに20ポイントの田の文字を20白抜き印字した。印字後、30℃,90%R.H.の環境下で1週間保存した後、白抜き部のマゼンタの滲み率を、目視で以下の評価基準に基づいて評価を行った。
【0074】
[判定基準]
5:白地部へのマゼンタの滲み出しが見られない。
4:白地部へのマゼンタの滲み出しが見られるが、田の線幅は細くなっていない。
3:白地部へのマゼンタの滲み出しが見られ、田の線幅が細くなっているが、保存前の半分以上である。
2:白地部へのマゼンタの滲み出しが見られ、田の線幅が保存前の半分以下になっている。
1:白地部全面にマゼンタが滲み出し、印字した文字が認識できない。
【0075】
以上の結果を表3に示す。
【0076】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の少なくとも一方の面にインク受容層を有するインクジェット記録媒体であって、該インク受容層が、5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記5価のリン化合物と硫黄化合物とを重合させた高分子化合物が、2つ以上の活性水素基を有する5価のリン化合物と、2つ以上の活性水素基を有する硫黄化合物と、2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを重合させた高分子化合物である請求項1に記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2012−35444(P2012−35444A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175539(P2010−175539)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】