説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】静電吸引による着弾精度を維持しつつ、吐出後で記録媒体に着弾前の液滴に対して効果的に除電を行い、絶縁性記録媒体に着弾した液滴が飛翔中の液滴に与える影響をなくし、高精度な画像記録が可能な静電吸引方式のインクジェット記録方法及び装置を提供する。
【解決手段】ノズル12から吐出する液滴aを帯電させる液滴帯電手段51を有するヘッド10のノズル面11に対向配置される対向電極20を備え、ノズル12から吐出された帯電された液滴aを対向電極20によって吸引し、ノズル面11と対向電極20との間に配置される絶縁性の記録媒体Mに着弾させるインクジェット記録装置1において、ヘッド10のノズル面11と記録媒体Mの表面との間に、液滴aを表面から裏面に透過可能な除電部材30を設け、ノズル12から吐出された液滴aを除電部材30と接触させた後に該除電部材30を透過させて記録媒体Mに着弾させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから吐出される液滴を帯電させ、絶縁性の記録媒体に着弾させるようにしたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドのノズル面に対向するように対向電極を設けて記録媒体をノズル面と対向電極との間に配置し、帯電した液滴をノズルから吐出することで、液滴を静電気力によって記録媒体に向けて引っ張る静電吸引方式のインクジェット記録装置では、記録媒体に絶縁性を有するものを使用した場合、先に吐出されて着弾した液滴の電荷が逃げないため、先に着弾した液滴は次に吐出される液滴に対して次のような影響を与える。
【0003】
(1)次に吐出されて飛翔する液滴は、先に着弾した液滴の電荷(斥力)の影響によって反発力を受け、飛翔方向に曲がりが生じてしまう。
(2)次に吐出される液滴に付随する小さなサテライトは、先に着弾した液滴による反発力によって、着弾せずに空中に舞ってしまう。
(3)着弾した液滴は記録媒体の表面を広がっていくが、先に着弾した液滴による反発力によって偏って広がってしまう。その結果、先に着弾した液滴と次に着弾した液滴との間に隙間ができてしまい、画像が液滴によって埋まらない箇所が発生する。
【0004】
上記(1)(3)は画質に影響を与え、(2)は画質にはもちろん、空中に舞ったサテライトがヘッドや周辺機器に悪影響を及ぼしてしまう問題がある。
【0005】
このような液滴の電荷による問題を解決するものとしては、特許文献1において、液滴の吐出雰囲気を露点温度9℃以上であって水の飽和温度未満に調整することにより、絶縁性の記録媒体に着弾した液滴から大気中への電荷の漏洩を促す技術、絶縁性の記録媒体の液滴の吐出を受ける範囲に、表面抵抗を所定値以下とする表面処理層を設けることにより、着弾した液滴からの電荷の漏洩を更に促す技術、液滴の吐出を受ける絶縁性の記録媒体に対向して除電器を相対的に移動可能に配置し、除電器で除電された表面電位分布が一様となった状態の絶縁性の記録媒体に対して液滴を吐出することにより、吐出量を一定にして吐出不良を防止する技術等が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、絶縁性の記録媒体表面に対向するようにコロナチャージャを設け、記録媒体上でチャージアップしている電荷とは逆の電荷を供給して絶縁性の記録媒体の除電を行った後、流体吐出を行うことで吐出流体の安定化を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特再表2005−014289号公報
【特許文献2】特開2005−58811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液滴の吐出雰囲気を調整することにより着弾した液滴からの電荷の漏洩を促す方法では、安定な液滴吐出環境を保ちながら十分且つ迅速に液滴の除電を行うことは難しい。
【0008】
また、液滴の吐出を受ける範囲に表面処理層を設けた絶縁性の記録媒体に対して画像記録を行うことにより、着弾した液滴から除電を行う方法では、記録媒体によっては所望の表面処理を施すことが困難であるだけでなく、画像記録後に表面処理層を除去する必要がある場合もある。
【0009】
更に、除電器を用いて記録媒体表面に対して除電を行う方法では、液滴が着弾している近辺で使用することはできないため、十分且つ迅速に液滴の除電を行うことは難しい。
【0010】
そこで、本発明は、静電吸引による着弾精度を維持しつつ、吐出後であって記録媒体に着弾する前の液滴に対して効果的に除電を行うことにより、絶縁性の記録媒体に着弾した液滴が飛翔中の液滴に与える影響をなくし、高精度な画像記録を行うことのできる静電吸引方式のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【0011】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
請求項1記載の発明は、ノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出手段と該液滴を帯電させる液滴帯電手段とを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドのノズル面に対向配置される対向電極とを備え、前記ノズルから吐出された帯電された液滴を前記対向電極によって吸引し、前記ノズル面と前記対向電極との間に配置される絶縁性の記録媒体に着弾させるインクジェット記録方法において、
前記インクジェットヘッドのノズル面と前記記録媒体の表面との間に、液滴を表面から裏面に透過可能な除電部材を設け、前記ノズルから吐出された液滴を前記除電部材と接触させた後に該除電部材を透過させて前記記録媒体に着弾させることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記除電部材は、導電性材料により形成され、表裏に貫通する多数の開口を有するシートにより形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法である。
【0015】
請求項3記載の発明は、前記除電部材の前記開口は、開口径が前記液滴の直径以下であり、隣接する前記開口同士の最短距離が前記液滴の直径の3倍以下となるように配列されていることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録方法である。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記除電部材を前記記録媒体の表面から距離を置いて介在させることを特徴とする請求項1、2又は3記載のインクジェット記録方法である。
【0017】
請求項5記載の発明は、ノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出手段と該液滴を帯電させる液滴帯電手段とを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドのノズル面に対向配置される対向電極とを備え、前記ノズルから吐出された帯電された液滴を前記対向電極によって吸引し、前記ノズル面と前記対向電極との間に配置される絶縁性の記録媒体に着弾させるインクジェット記録装置において、
前記ノズルから吐出された液滴が前記記録媒体に着弾する前に該液滴と接触する位置に、該液滴を表面から裏面に透過可能な除電部材を設けたことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記除電部材は、導電性材料により形成され、表裏に貫通する多数の開口を有するシートにより形成されていることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置である。
【0019】
請求項7記載の発明は、前記除電部材の前記開口は、開口径が前記液滴の直径以下であり、隣接する前記開口同士の最短距離が前記液滴の直径の3倍以下となるように配列されていることを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置である。
【0020】
請求項8記載の発明は、前記記録媒体と前記除電部材との間に、距離をおくためのスペーサーを有することを特徴とする請求項5、6又は7記載のインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、静電吸引による着弾精度を維持しつつ、吐出後であって記録媒体に着弾する前の液滴に対して効果的に除電を行うことにより、絶縁性の記録媒体に着弾した液滴が飛翔中の液滴に与える影響をなくし、高精度な画像記録を行うことのできる静電吸引方式のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0023】
(インクジェット記録装置の全体構成)
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。
【0024】
このインクジェット記録装置1は、液滴aを吐出するインクジェットヘッド10と、このインクジェットヘッド10のノズル面11に対向配置される記録媒体Mと、同じくインクジェットヘッド10のノズル面11に、間に記録媒体Mを挟んで対向配置される対向電極20と、インクジェットヘッド10のノズル面11と記録媒体Mの表面との間に配置される除電部材30とを有している。
【0025】
インクジェットヘッド10と記録媒体M、対向電極20及び除電部材30とは相対的に移動可能に構成される。例えばインクジェットヘッド10を位置不動とし、記録媒体M、対向電極20及び除電部材30を一体としてインクジェットヘッド10に対してXY方向に水平移動可能としてもよく、また、記録媒体M、対向電極20及び除電部材30を位置不動とし、インクジェットヘッド10をXY方向に水平移動可能としてもよく、更に、インクジェットヘッド10を例えばX方向に水平移動させ、記録媒体M、対向電極20及び除電部材30を例えばY方向に水平移動させるようにして共に移動可能としてもよい。
【0026】
(インクジェットヘッド)
インクジェットヘッド10は、図示下方を向いているノズル面11にノズル12が形成されており、内部の液室13内に収容される液体を液滴aとしてノズル12から吐出する。ここではノズル12と液室13とを1組だけ図示したが、インクジェットヘッド10は、ノズル12と液室13の組が複数配列されたものであってもよい。液室13には液体貯留タンク40から液体が供給されるようになっている。
【0027】
このインクジェットヘッド10は、吐出制御手段によって液滴吐出手段(いずれも図示せず)が駆動制御されることによって液室13内の液体をノズル12から液滴aとして吐出し、対向配置される記録媒体Mに向けて飛翔させる。
【0028】
この液滴aを吐出させる液滴吐出手段の具体的態様は本発明において特に問わない。例えば、液室13を構成する側壁に、電気機械変換素子である圧電素子を使用し、この圧電素子に所定の電圧を印加して側壁を変形させることによって液室13内の液体に吐出圧力を付与する態様、ピエゾ素子を用いて液室13に臨む振動板を伸縮動作させることによって液室13内の液体に吐出圧力を付与する態様、静電気力を利用して液室13に臨む振動板を動作させることによって液室13内の液体に吐出圧力を付与する態様、液室13内に設けたヒーターへの通電によって液体中に発生させた気泡の破裂作用を利用して液体に吐出圧力を付与する態様等が挙げられる。
【0029】
本発明においてノズル12の出口側の直径は、5〜50μmが好ましい。
【0030】
また、本発明において使用可能な液体としては、水性染料インク、顔料溶剤インク等が挙げられる。
【0031】
更に、本発明において液滴aは、0.1〜50plが好ましい。
【0032】
インクジェットヘッド10の液室13内には、収容される液体を帯電させるための液滴帯電手段としての帯電用電極51が設けられている。帯電用電極51には帯電制御部50によって所定の電圧が印加される。
【0033】
(記録媒体M)
本発明において、記録媒体Mは絶縁性を有している。ここで絶縁性とは、抵抗率が1010(Ω・m)以上であることをいう。絶縁性は記録媒体Mの表面にあればよい。
【0034】
このような絶縁性の記録媒体Mとしては、紙、ガラス等が挙げられる。
【0035】
インクジェットヘッド10のノズル面11と記録媒体Mの表面との間の距離は、0.5〜3.0mmが好ましい。
【0036】
(対向電極)
対向電極20は、インクジェットヘッド10のノズル面11との間に記録媒体Mと除電部材30とを挟んで該ノズル面11と対向する位置に設けられており、その表面は記録媒体M全体を載置して支持し得る程度の大きさを有している。記録媒体Mはこの対向電極20の表面に直に接して支持されている。
【0037】
対向電極20には所定の電位が掛けられており、インクジェットヘッド10との間で電界を形成することで、インクジェットヘッド10のノズル12から吐出された帯電された液滴aに静電気力を作用させ、この対向電極20に向けて加速吸引する。
【0038】
(除電部材)
除電部材30は、インクジェットヘッド10のノズル12から吐出された液滴aと接触することにより、その帯電された液滴aの除電を行うための部材であり、インクジェットヘッド10のノズル12から吐出されて飛翔している液滴aが記録媒体Mの表面に着弾する前に、該液滴aと接触可能となるように、インクジェットヘッド10のノズル面11に対向させて記録媒体Mの表面に配置されている。
【0039】
この除電部材30は、導電性材料を用いて、少なくとも記録媒体Mの表面の記録領域を覆うことができる程度の大きさを有して形成されており、接地されることで、その表面に着弾して接触した液滴aの除電を行うようになっている。
【0040】
導電性材料としては、例えば、シリコン、SUS(ステンレス)、アルミニウム、ニッケル、炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等)が挙げられる。中でも導電性、強度の観点からSUSを用いることが好ましい。
【0041】
この除電部材30はインクジェットヘッド10のノズル面11と記録媒体Mとの間に介在されるため、ノズル12から記録媒体Mに向かう液滴aの飛翔に支障が生じず、この除電部材30の表面に着弾した液滴aがその裏面側の記録媒体Mまで透過して到達し得る程度の厚みとする必要がある。この観点から、除電部材30の厚みは、1〜1000μmとすることが好ましい。
【0042】
除電部材30は、その表面に接触した液滴aが裏面側の記録媒体Mに到達し得るように、表裏に貫通する多数の開口31を有しており、この開口31を通して液滴aを表面から裏面に透過可能となるように構成されている。このため、ノズル12から吐出された液滴aは、記録媒体Mの表面に着弾する前に、最初に除電部材30に接触することで除電され、重力、毛管力、付着力により開口31を通って除電部材30を透過した除電後の液滴aが記録媒体Mの表面に到達する。
【0043】
各開口31の大きさは、ノズル12から吐出される液滴aの大きさによって様々であるが、吐出された液滴aが確実に除電部材30と接触し得るようにするため、開口径は液滴aの直径以下とされる。
【0044】
なお、開口31の形状は円形状、角形状等特に問わないが、開口径は開口31の内径の最短距離である。
【0045】
また、隣接する開口31の間隔は、大きく空き過ぎると液滴aが隣接する開口31の間に着弾してしまい、開口31を通して裏面側の記録媒体Mに透過し得なくなるおそれがあるため、隣接する開口31同士の最短距離が液滴aの直径の3倍以下となるように配列される。液滴aの直径の3倍以下とするのは、着弾した液滴aは横方向に広がっていき、その直径の数倍程度の径となるためである。液滴aの直径の3倍以下であれば、除電部材31の開口31間に着弾しても、横方向に広がることによって、近接するいずれかの開口31に到達することができる。
【0046】
以下に、除電部材30のいくつかの態様を挙げる。
【0047】
図2は、多数本の導電性材料からなる線状体301を用いてメッシュ状に形成された除電部材30Aの平面図である。図中の破線は除電部材30Aの表面に接触した液滴aを表している。
【0048】
各線状体301は、1〜50μm幅(径)とされ、それが縦横に1000μm当たり20〜200本の本数となるように配置されることにより、全体としてシート状に形成されている。これにより、除電部材30Aの縦横方向に、表裏に貫通する多数の開口31が形成される。
【0049】
このような除電部材30Aは、細糸状に形成された線状体301を用いて織成又は編成したり、縦横に開口31となる所定の間隔をおいて配列した線状体301をプレスしたりすることによって作成することができる。
【0050】
図3は、導電性材料からなるシート302を用い、該シート302に多数の開口31を開設した除電部材30Bの平面図である。図中の破線は除電部材30Aの表面に接触した液滴aを表している。
【0051】
シート302は、厚みが100〜1000μmとされ、多数の開口31が表裏に貫通するように形成されている。各開口31の配列態様は特に問わないが、図示するように一つの開口31の周囲に隣接するすべての開口31との間隔が等しくなるように配列することが好ましい。また、開口31の形状も円形状、角形状等任意である。
【0052】
このような除電部材30Bは、プレート状の導電性材料を用い、そこに開口31をレーザー加工又はプレス加工することによって作成することができる。
【0053】
除電部材30は、記録媒体Mの表面に直に接触させるように配置してもよいが、記録媒体Mの表面との間に10〜100μmの間隙を形成することが好ましい。間隙を設けることで、画像記録後に記録媒体Mの表面から除電部材30を取り除き易くできると共に、除電部材30の表面に着弾した液滴aが開口31を通して表面側から裏面側に回り込み易くすることができ、記録媒体Mの表面に確実に着弾させて白抜けの発生を防止することができる。
【0054】
このような間隙は、図1に示すように、除電部材30と記録媒体Mとの間にスペーサー60を介在させることによって形成することができる。
【0055】
スペーサー60は、SUSや樹脂材料によって形成することができる。また、除電部材30の両端のみを支持するだけでなく、除電部材30を全体に撓みなく支持できるようにするために複数点で支持することが好ましく、例えば10〜100μmの直径を有する球状のスペーサーを、除電部材30と記録媒体Mとの間の複数箇所に点在させるようにすることも好ましい。
【0056】
除電部材30は、40〜80℃の温度となるように加温されていることが好ましい。これは着弾した液滴aの粘度と表面張力を下げることにより、液滴aを除電部材30の裏面側に透過させ易くする効果がある。除電部材30を加温する場合、予め上記温度となるようにヒーター等を用いて別途加温された除電部材30を、記録を行う直前に記録媒体Mの表面に配置したり、記録に先立って、記録媒体Mの表面に配置した除電部材30に対して、上記温度となるように温風を吹き付けたりすることによって行うことができる。
【0057】
また、液体が水系である場合、除電部材30には親水化処理が施されていることが好ましい。これは除電部材30に着弾した水系の液体からなる液滴aを裏面に透過させ易くする効果がある。この場合の親水化処理としては、除電部材30の表面の機械的研磨、酸洗浄等の化学的洗浄、プラズマ処理等が挙げられる。
【0058】
このようなインクジェット記録装置1によれば、インクジェットヘッド10のノズル12から吐出された帯電された液滴aは、対向電極20との間に形成される電界の作用により加速吸引され、その曲がり方向成分が相対的に小さくなった状態で記録媒体Mに向けて飛翔し、記録媒体Mに着弾する前に除電部材30と接触する。この除電部材30との接触により、液滴aが有する電荷は除去され、除電される。
【0059】
ノズル12から吐出された液滴aは、除電部材30と接触するまでは対向電極20との間に形成される電界の影響を受け、静電吸引方式によって高精度に位置精度を維持しつつ記録媒体Mに向けて飛翔するが、除電部材30と接触した後の液滴aは最早飛翔することはなく、除電部材30を表面から裏面に向けて透過し、記録媒体Mの所定の位置に着弾することになるため、記録媒体Mの着弾前に液滴aの除電を行っても、静電吸引による着弾精度を維持することができる。従って、吐出後であって記録媒体Mに着弾する前の液滴aに対して効果的に除電を行うことができ、絶縁性の記録媒体Mに着弾した液滴aが次に吐出される飛翔中の液滴aに与える影響をなくすことができ、高精度な画像記録を実現することができる。
【実施例】
【0060】
(インクジェット記録装置の構成)
それぞれ液滴帯電手段を有する同一構造の2つのインクジェットヘッド(ヘッド1、ヘッド2)を用意し、それらを図4に示すようにノズル列方向が記録方向と直交するように、ヘッド1とヘッド2の間に30mmの間隔をあけ、ヘッド1とヘッド2との間でノズルピッチが150μmずれるように平行に配置し、記録方向に沿ってワンパス方式で記録媒体上に印字を行うことができるようにインクジェット記録装置を構成した。
【0061】
インクジェットヘッドの仕様は以下の通りである。
液滴:14pl(液滴径≒φ30μm、ガラス着弾時φ200〜250μm)
ノズル径:30μm
ノズル材質:ポリイミド
ヘッド移動速度:300m/sec
使用インク:水系染料インク
帯電電圧:5kV
【0062】
(印字方法)
図4に示したインクジェットヘッドを用いて、ヘッド1の第1ノズル、ヘッド2の第1ノズル、ヘッド1の第2ノズル、ヘッド2の第2ノズル・・・というように各1ノズルずつ吐出することにより各ドットで1列となる直線の印字を行った。
【0063】
このインクジェット記録装置によって、上記の通りに導電性の記録媒体(1mm厚のSUS板)上に印字を行い、隣接する2つの着弾ドットの重心距離を測定したところ、151μmであった。
【0064】
また、同様にして絶縁性の記録媒体(1mm厚のガラス板)上に印字を行い(除電部材なし)、隣接する2つの着弾ドットの重心距離を測定したところ、183μmであった。
【0065】
(評価方法)
絶縁性の記録媒体(1mm厚のガラス板)上に、SUS(厚さ0.1mm、酸洗処理済み)の除電部材を載置して上記の通りに印字を行った。
【0066】
評価は、上記の導電性の記録媒体上の着弾ドット間の重心距離151μmと絶縁性の記録媒体上の着弾ドット間の重心距離183μmを基準とし、除電部材を使用した場合の記録媒体上の着弾ドット間の重心距離Xを求め、それが以下の式を満足していれば○、それ以外は×とした。
【0067】
|X−151μm|<|183μm−151μm|
【0068】
実施例1
隣接する開口同士の中心間隔A(図5参照)を50μmで共通とし、開口径を以下の通り異ならせて図3のように配列した各除電部材を用い、上記評価方法に従って評価した結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例2
開口径を20μmで共通とし、隣接する開口同士の最短距離である間隔B(図5参照)を以下の通り異ならせて図3のように配列した各除電部材を用い、上記評価方法に従って評価した結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
なお、開口同士の間隔Bが120μmの場合は、開口同士の最短距離が液滴径(≒30μm)の3倍を越えているため、記録媒体上のドットの一部に抜けが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図
【図2】除電部材の一例を示す平面図
【図3】除電部材の他の一例を示す平面図
【図4】実施例で用いたインクジェットヘッドの構成図
【図5】開口同士の中心間隔Aと最短距離Bの説明図
【符号の説明】
【0074】
1:インクジェット記録装置
10:インクジェットヘッド
11:ノズル面
12:ノズル
13:液室
20:対向電極
30、30A、30B:除電部材
31:開口
301:線状体
302:シート
40:貯留タンク
50:帯電制御部
51:帯電用電極
M:記録媒体
a:液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出手段と該液滴を帯電させる液滴帯電手段とを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドのノズル面に対向配置される対向電極とを備え、前記ノズルから吐出された帯電された液滴を前記対向電極によって吸引し、前記ノズル面と前記対向電極との間に配置される絶縁性の記録媒体に着弾させるインクジェット記録方法において、
前記インクジェットヘッドのノズル面と前記記録媒体の表面との間に、液滴を表面から裏面に透過可能な除電部材を設け、前記ノズルから吐出された液滴を前記除電部材と接触させた後に該除電部材を透過させて前記記録媒体に着弾させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記除電部材は、導電性材料により形成され、表裏に貫通する多数の開口を有するシートにより形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記除電部材の前記開口は、開口径が前記液滴の直径以下であり、隣接する前記開口同士の最短距離が前記液滴の直径の3倍以下となるように配列されていることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記除電部材を前記記録媒体の表面から距離を置いて介在させることを特徴とする請求項1、2又は3記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
ノズルから液滴を吐出させるための液滴吐出手段と該液滴を帯電させる液滴帯電手段とを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドのノズル面に対向配置される対向電極とを備え、前記ノズルから吐出された帯電された液滴を前記対向電極によって吸引し、前記ノズル面と前記対向電極との間に配置される絶縁性の記録媒体に着弾させるインクジェット記録装置において、
前記ノズルから吐出された液滴が前記記録媒体に着弾する前に該液滴と接触する位置に、該液滴を表面から裏面に透過可能な除電部材を設けたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記除電部材は、導電性材料により形成され、表裏に貫通する多数の開口を有するシートにより形成されていることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記除電部材の前記開口は、開口径が前記液滴の直径以下であり、隣接する前記開口同士の最短距離が前記液滴の直径の3倍以下となるように配列されていることを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記記録媒体と前記除電部材との間に、距離をおくためのスペーサーを有することを特徴とする請求項5、6又は7記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−100018(P2010−100018A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275987(P2008−275987)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】