説明

インクジェット記録材料の製造方法

【課題】気相法シリカを含むインク受容層と、アルミナまたはアルミナ水和物を含むインク受容層を支持体上にこの順で設けたインクジェット記録材料の製造方法において、特にインク吸収性を損なうことなく、塗布液安定性及び塗布欠陥の発生が改善されたインクジェット記録材料の製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、気相法シリカ、ポリビニルアルコール及び架橋剤を含む下層用インク受容層塗布液Aを塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、アルミナまたはアルミナ水和物微粒子及びポリビニルアルコールを含み、かつ、ポリビニルアルコールの架橋剤を実質的に含有しない上層用インク受容層塗布液Bを塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相法シリカを含むインク受容層と、アルミナまたはアルミナ水和物を含むインク受容層を支持体上にこの順で設けたインクジェット記録材料の製造方法に関し、特にインク吸収性を損なうことなく、塗布液安定性及び塗布欠陥の発生が改善されたインクジェット記録材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるインクジェット記録技術の向上は著しく、最近では写真等の高品位な出力にインクジェット記録方式が広く用いられている。こういった高品位な出力の際には記録材料の品質も非常に重要であり、特に写真用途の出力においては、銀塩写真並みの高い光沢、優れた色再現性を有する記録材料として、紙や樹脂フィルム等の支持体上に無機顔料微粒子と水溶性バインダー及びその架橋剤からなる多孔質のインク受容層を設けてなる記録材料が広く知られ、用いられている。
【0003】
このような記録材料としては、例えば、特公平3−56552号公報、特開平10−119423号公報、特開2000−211235号公報、特開2000−309157号公報等には無機微粒子として気相法シリカを用いた例が、特開平9−286165号公報、特開平10−181190号公報等には沈降法シリカを用いた例がそれぞれ開示されている。これらのように無機微粒子を用いた記録材料においては、顔料を微粒化することで高い光沢、優れた発色を得ながら、多孔質顔料により構成された空隙を利用して優れたインク吸収性を得ることができる。
【0004】
また、特開平10−193777号公報、特開2002−225424号公報等には無機顔料微粒子としてアルミナまたはアルミナ水和物を用いた例が開示されている。一般に、アルミナまたはアルミナ水和物は異方性を有する微結晶を構成する場合が多く、シリカ微粒子等の球状粒子よりもパッキングが密になりやすい。従って、アルミナまたはアルミナ水和物を用いたインク受容層は、より高い光沢が得やすい一方で、インク吸収容量が小さく高塗布量のインク受容層が要求される(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
これらの無機顔料が有する特性を相補的に利用した例として、特開2002−225423号公報、特開2003−237223号公報、特開2005−153504号公報等にはシリカを用いたインク受容層とアルミナまたはアルミナ水和物を用いたインク受容層を積層した例が開示されている。シリカ層の上にアルミナまたはアルミナ水和物の層を積層させることにより、優れたインク吸収性と高い発色、高い光沢を両立することができる。
【0006】
一方、これらの無機顔料微粒子及び水溶性バインダーからなるインク受容層においては、成膜性の確保、及び耐水性、インク吸収性の向上といった目的で該水溶性バインダーに作用する架橋剤が用いられる。しかしながら、塗布液中に架橋剤が存在していると経時で塗布液が増粘し、「塗布スジ」が発生して平滑な塗布面が得られないばかりか、塗布液凝集による「塗布欠陥」が多発するという問題がある。特に、アルミナまたはアルミナ水和物を用いた場合には、架橋剤添加時の塗布液増粘が顕著である。
【0007】
これら架橋剤による塗布液増粘を抑制する方法として、塗布液と架橋剤をインラインにて塗布直前に混合する方法が特開2001−80207号公報や特開2003−165269号公報に開示されており広く知られているが、この場合も架橋剤混合後の配管内及びコーターヘッド内における滞留部で同様の塗布液増粘が生じ、根本的な解決には至っていない。
【0008】
また、例えば、特開2007−38651号公報(特許文献1)にはバインダー、及び該バインダーを架橋させない架橋剤を含有する下塗り層を形成させた後に、前記架橋剤により架橋が可能な水溶性樹脂を含有するインク受容層を塗工する方法が開示されている。しかしながら、この場合の下塗り層は架橋剤供給の点にのみ主眼を置いたものであり、下塗り層とインク受容層でバインダーが異なるために下塗り層−インク受容層界面でインクの浸透が阻害され、十分なインク吸収性が得られなかった。
【0009】
また、特開平11−115308号公報(特許文献2)には無機微粒子及び水溶性樹脂を含む塗布液を塗布し、該塗布と同時に、あるいは減率乾燥速度を示すようになる前に、架橋剤を含む溶液を付与する方法が、また、特開2007−8030号公報(特許文献3)、特開2009−83299号公報(特許文献4)、特開2009−83282号公報(特許文献5)には架橋剤を含有しないインク受容層塗布液と架橋剤を含む塗布液を重層塗布する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では架橋剤を付与するための余分な工程が増えるため生産効率が劣るという問題があり、特に上記のようにインク受容層が複数の層から構成される場合には、架橋剤層としてさらにもう一層別の層を設ける必要があり生産設備が限られる、あるいは塗布欠陥がより発生しやすくなるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−38651号公報
【特許文献2】特開平11−115308号公報
【特許文献3】特開2007−8030号公報
【特許文献4】特開2009−83299号公報
【特許文献5】特開2009−83282号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】池沢秀男、「フォト光沢インクジェット用紙」、日本画像学会誌 41、185−188(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、気相法シリカを含むインク受容層と、アルミナまたはアルミナ水和物を含むインク受容層を支持体上にこの順で設けたインクジェット記録材料の製造方法に関し、特にインク吸収性を損なうことなく、塗布液安定性及び塗布欠陥の発生が改善されたインクジェット記録材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は、以下の発明によって達成された。
1)支持体上に、気相法シリカ、ポリビニルアルコール及び架橋剤を含む下層用インク受容層塗布液Aを塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、アルミナまたはアルミナ水和物微粒子及びポリビニルアルコールを含み、かつ、ポリビニルアルコールの架橋剤を実質的に含有しない上層用インク受容層塗布液Bを塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。
2)上層用インク受容層塗布液Bの塗布量が100ml/m以下である、上記1)記載のインクジェット記録材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、気相法シリカを含むインク受容層と、アルミナまたはアルミナ水和物を含むインク受容層を支持体上にこの順で設けたインクジェット記録材料を、インク吸収性を損なうことなく、塗布液安定性及び塗布欠陥の発生が改善された方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、インク受容層塗布液に含有される成分について説明する。本発明の下層用インク受容層塗布液Aが含有する気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。本発明に用いられる気相法シリカは、平均一次粒径が30nm以下のものが好ましく、15nm以下のものがより好ましい。
【0016】
本発明のインク受容層Aに用いられる気相法シリカは、後述のカチオン性化合物の存在下で、平均二次粒径が300nm以下になるまで分散したものが好ましく使用できる。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。また、本発明における気相法シリカの総固形分塗布量としては10〜28g/mが好ましく、15〜25g/mが特に好ましい。
【0017】
なお、本発明でいう平均一次粒径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の直径としてその平均値を求めたものであり、また、平均二次粒径とは希薄分散液をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定して求めたものである。
【0018】
上記のシリカ分散に使用するカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーまたは水溶性金属化合物が使用できる。カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号公報、特開昭59−33176号公報、特開昭59−33177号公報、特開昭59−155088号公報、特開昭60−11389号公報、特開昭60−49990号公報、特開昭60−83882号公報、特開昭60−109894号公報、特開昭62−198493号公報、特開昭63−49478号公報、特開昭63−115780号公報、特開昭63−280681号公報、特開平1−40371号公報、特開平6−234268号公報、特開平7−125411号公報、特開平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性及び分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は、2000〜10万程度が好ましく、特に2000〜3万程度が好ましい。
【0019】
水溶性金属化合物としては、例えば水溶性の多価金属塩が挙げられる。カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、チタン、ジルコニウム、クロム、マグネシウム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。具体的には例えば、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、りん酸バリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、ギ酸マンガン二水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸銅、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、硫酸アルミニウム、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、塩化アルミニウム六水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、臭化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、p−フェノールスルホン酸亜鉛、塩化チタン、硫酸チタン、乳酸チタン、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、酢酸クロム、硫酸クロム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、クエン酸マグネシウム九水和物、りんタングステン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムタングステン、12タングストりん酸n水和物、12タングストけい酸26水和物、塩化モリブデン、12モリブドりん酸n水和物等が挙げられる。
【0020】
上記の水溶性多価金属化合物の中でも、アルミニウムもしくは周期律表4A族金属(例えばジルコニウム、チタン)からなる化合物が好ましい。特に好ましくは水溶性アルミニウム化合物である。水溶性アルミニウム化合物としては、例えば無機塩としては塩化アルミニウムまたはその水和物、硫酸アルミニウムまたはその水和物、アンモニウムミョウバン等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーであるポリ水酸化アルミニウム化合物も知られており、好ましく用いられる。これらのものは多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名で、また、(株)理研グリーンよりピュラケムWTの名で、また他のメーカーからも同様の目的を持って上市されており、各種グレードのものが容易に入手できる。
【0021】
本発明に用いられる周期表4A族元素を含む水溶性化合物としては、チタンまたはジルコニウムを含む水溶性化合物がより好ましい。チタンを含む水溶性化合物としては、塩化チタン、硫酸チタンが挙げられる。ジルコニウムを含む水溶性化合物としては、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム化合物等が挙げられる。本発明において、水溶性とは常温常圧下で水に1質量%以上溶解することを目安とする。
【0022】
本発明の上層用インク受容層塗布液Bが含有するアルミナとしては酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。本発明に用いることのできるアルミナ水和物は、酸化アルミニウムの含水物でありAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。結晶質でも非晶質でもよく、不定形、球状、板状等の形態を有しているものが使用される。両者の何れかを使用してもよいし、併用してもよい。アルミナ水和物はアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。
【0023】
本発明に用いられるアルミナまたはアルミナ水和物は、光沢性、発色性から、平均一次粒径が5〜50nmのものが好ましく、8〜30nmのものがより好ましい。また、平均二次粒径は80〜250nmが好ましく、120〜200nmがより好ましい。さらに、アスペクト比が2以上の平板状アルミナ水和物がより良好な光沢性、発色性が得られるので好ましい。また、本発明におけるアルミナまたはアルミナ水和物の総固形分塗布量としては2〜27g/mが好ましく、5〜20g/mが特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられるインク受容層塗布液はアルミナまたはアルミナ水和物の分散液を安定化させるために、ゾルの解膠剤やアルミナまたはアルミナ水和物粉末の分散剤として、種々の酸類を添加することができる。ゾルの解膠に用いられる酸類としては、例えば、硝酸、塩酸、臭化水素酸等の無機酸の他、カルボン酸基、あるいはスルホン酸基を有する有機酸等、公知のものが使用できる。また2種以上の酸を併用してもよい。酸の添加量はアルミナ水和物のAl換算100gに対して8〜120mmolが好ましく、特に10〜50mmolがより好ましい。
【0025】
本発明のインク受容層塗布液A及びBは、水溶性バインダーとしてポリビニルアルコールを含有する。本発明においては、ポリビニルアルコールがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い完全または部分ケン化のポリビニルアルコールが好ましく、中でもケン化度が80%以上のものが特に好ましい。また、ポリビニルアルコールの平均重合度は500〜6000が好ましく、1000〜5000がより好ましい。
【0026】
前記ポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールに加え、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール及びその他ポリビニルアルコールの誘導体も含まれる。ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。また、インク受容層塗布液Aとインク受容層塗布液Bで異なる種類のポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0027】
インク受容層塗布液におけるポリビニルアルコールの含有量は、インク受容層塗布液Aについては気相法シリカに対して7〜35質量%が好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。また、インク受容層塗布液Bについてはアルミナ水和物に対して3〜30質量%が好ましく、5〜22質量%が特に好ましい。
【0028】
本発明のインク受容層塗布液Aにはインク受容層塗布液A及びBが含有するポリビニルアルコールの架橋剤を含有する。架橋剤としては公知のものが使用できるが、具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル)尿素、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号明細書記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号明細書記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号明細書記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号明細書記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号明細書、米国特許第2,983,611号明細書記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号明細書記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号明細書記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ほう酸、ほう酸塩、ほう砂の如き無機架橋剤等がある。本発明においてはほう酸またはほう酸塩が好ましい。本発明で使用されるほう酸は、オルトほう酸、メタほう酸、次ほう酸等、ほう酸塩としてはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち2種以上を併用することもできる。
【0029】
インク受容層塗布液Aにおける架橋剤の添加量はインク受容層塗布液A及びB中のポリビニルアルコールの総量に対して5〜50質量%、特に8〜25質量%が好ましく、同時にインク受容層塗布液A単独でのポリビニルアルコール量に対して10〜30質量%であることが好ましい。一方、本発明のインク受容層塗布液Bはポリビニルアルコールの架橋剤を実質的に含有しない。ここで、実質的に含有しないとは、インク受容層中のポリビニルアルコール量に対して2質量%未満であることを意味する。
【0030】
本発明におけるインク受容層の総固形分塗布量は、気相法シリカを含有する下層インク受容層Aとして好ましくは10〜32g/m、特に好ましくは15〜28g/mであり、アルミナ水和物を含有する上層インク受容層Bとして好ましくは2〜30g/m、特に好ましくは5〜20g/mである。また、上層のWET塗布量が多すぎると下層からの架橋剤拡散が追い付かずに本発明の効果が十分に得られないため、上層の塗布量は100ml/m以下であることが好ましい。
【0031】
本発明のインク受容層塗布液A及びBには、さらに、界面活性剤、蛍光増白剤、着色染料、着色顔料、インク染料の定着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、粘度安定剤、pH調整剤、シランまたはチタンカップリング剤等の公知の各種添加剤を添加することもできる。
【0032】
本発明のインクジェット記録材料には、上記のインク受容層に加え、さらに下引き層や保護層、光沢発現層等の他の機能を有する層を設けてもよい。また、インク受容層塗布液A及びBの間に別の層を設けることもできるが、架橋剤の拡散を阻害する可能性があるためインク受容層A及びBは隣接して設けることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられる支持体としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、セロファン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム、ポリオレフィン樹脂被覆紙等の非吸収性支持体、上質紙、アート紙、コート紙等の吸収性支持体等が用いられる。中でも、非吸収性支持体は高い光沢が得られる点で好ましいが、その反面、インク中の溶媒成分を吸収しない。このような非吸収性支持体上にはインク吸収性に優れる多孔質なインク受容層が好ましく用いられるが、本発明はこのような構成のインクジェット記録材料に特に有用である。これらの支持体の厚みは、約50〜300μm程度のものが好ましく使用される。
【0034】
非吸収性支持体であるフィルムやポリオレフィン樹脂被覆紙を使用する場合に、インク受容層を設ける面上には、コロナ放電処理、火炎処理等の活性化処理を施すことができる。
【0035】
支持体としてフィルムやポリオレフィン樹脂被覆紙を使用する場合には、インク受容層を設ける面上に天然高分子化合物や合成樹脂を主体とする下引き層を設けることが好ましく、特にゼラチンを主体とする下引き層が好ましい。
【0036】
下引き層の塗布量としては特に制限はないが、固形分塗布量で0.005〜2.0g/mの範囲が好ましく、0.01〜1.0g/mの範囲がより好ましく、0.02〜0.5g/mの範囲が特に好ましい。
【0037】
本発明における支持体には、帯電防止、搬送性改善、カール防止等のために各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機及び有機の帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤等を適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【0038】
本発明の製造方法は支持体上に気相法シリカを含有するインク受容層塗布液Aを塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前にアルミナまたはアルミナ水和物を含有するインク受容層塗布液Bを塗布する。かかる塗布方式としては、インク受容層塗布液Aを塗設後、塗布した層が減率乾燥を示す前にインク受容層塗布液を設ける「wet on wet」の塗布方式であってもよいし、該インク受容層塗布液Aとインク受容層塗布液Bを同時重層塗布してもよい。
【0039】
乾燥工程は、恒率乾燥領域、減率乾燥領域、乾燥終了点に大別される。乾燥の初期段階である恒率乾燥領域においては、湿潤塗膜中の水や溶剤が蒸発潜熱を奪いながら単純に蒸発していくため、湿潤塗膜の表面温度は湿球温度(湿り空気の平衡状態での水滴の温度であり、空気の湿度が小さいほど低い。)とほぼ等しくなる。減率乾燥領域においては、湿潤塗膜に含まれる物質と水とのインターラクションを乖離させるためのエネルギーが必要となったり、形成されはじめる空隙により水分移動が阻害されるため、湿潤塗膜中における水や溶媒の移動速度が湿潤塗膜表面からの水や溶媒の蒸発速度より低下し、蒸発潜熱が次第に奪われにくくなるため、塗層の表面温度は湿球温度と比較し、次第に高くなる。乾燥終了点においては、蒸発潜熱が奪われなくなるため、塗層の表面温度は乾燥空気の温度と等しくなる。従って、本発明における「湿潤塗膜が減率乾燥を示す前」とは、乾燥工程中に表面温度計を用いて、湿潤塗膜の表面温度と湿球温度を比較し、表面温度が湿球温度より高くなる領域より前の乾燥領域であることを意味する。
【0040】
本発明のインク受容層の塗布に用いる塗布方式としては、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、バーコーター、スライドビードコーター、カーテンコーター等の公知の塗布方法を利用することができる。また同時重層塗布にあたっては、スライドビード方式、カーテン方式等が好適である。スライドビード塗布方式は、特開平5−96223号公報、特開平11−290775号公報、特開2000−33314号公報等に記載の、スライド面を塗布液が流下し、塗布装置と支持体との間にビードを形成しながら塗布する方式である。カーテン塗布方式は、特開平10−277458号公報、特開2000−176344号公報、特開2001−46938号公報等に記載の、塗布液のカーテン膜を支持体上に落下させて塗布する方式である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示す。なお、部及び%は質量部、質量%を示す。
【0042】
(実施例1)
[支持体の作製]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)の1:1混合物をカナディアンスタンダードフリーネスで300mlになるまで叩解し、パルプスラリーを調製した。これにサイズ剤としてアルキルケテンダイマーを対パルプ0.5%、強度剤としてポリアクリルアミドを対パルプ1.0%、カチオン化澱粉を対パルプ2.0%、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂を対パルプ0.5%添加し、水で希釈して0.2%スラリーとした。このスラリーを長網抄紙機で坪量170g/mになるように抄造し、乾燥調湿してポリオレフィン樹脂被覆紙の基紙とした。抄造した基紙に、密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン100部の樹脂に対して、10%のアナターゼ型チタンを均一に分散したポリエチレン樹脂組成物を320℃で溶融し、厚さ35μmになるように押出コーティングし、微粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆し、表面(インク受容層塗設面)とした。もう一方の面には密度0.962g/cmの高密度ポリエチレン樹脂70部と密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂30部のブレンド樹脂組成物を同様に320℃で溶融し、厚さ30μmとなるように押出コーティングし、粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆し、裏面とした。
【0043】
上記ポリオレフィン樹脂被覆紙の表面に高周波コロナ放電処理を施した後、下記組成の下引き層をゼラチンの付着量が50mg/mとなるように塗布乾燥した。
<下引き層>
ゼラチン 100部
スルフォコハク酸−2−エチルヘキシルエステル塩 2部
クロム明ばん 8部
【0044】
[シリカ分散液の作製]
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9000、4部)と気相法シリカ(平均一次粒径7nm、比表面積300m/g、100部)を添加し予備分散液を作成した後、高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20%、平均二次粒径140nmのシリカ分散液を得た。
【0045】
[アルミナ水和物分散液の作製]
水に解膠剤として硝酸をAl換算100gに対して25mmol添加した分散媒をディゾルバ(周速10m/s)で撹拌しながら擬ベーマイトアルミナ水和物(DISPERAL HP14、Sasol社製、平均一次粒径14nm)を徐々に添加し、固形分濃度がAl換算で25%、平均二次粒径が160nmのアルミナ水和物分散液を得た。
【0046】
[インクジェット記録材料の作製]
上記支持体上に、下記組成に調整したインク受容層塗布液A−1及びインク受容層塗布液B−1を、支持体に近い側からインク受容層塗布液A−1/インク受容層塗布液B−1の順で、それぞれの1平方メートルあたりの塗布量が160ml/80mlとなるようにスライドビード塗布方式で同時塗布した後、30〜55℃の空気を順次吹き付けて乾燥し、実施例1のインクジェット記録材料を作製した。
【0047】
<インク受容層塗布液A−1>
シリカ分散液 (固形分として) 100部
ポリビニルアルコール 22部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
ほう酸 5部
塗布液の固形分濃度 12%
【0048】
<インク受容層塗布液B−1>
アルミナ水和物分散液 (固形分として) 100部
ポリビニルアルコール 10部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
塗布液の固形分濃度 18%
【0049】
(実施例2)
実施例1におけるインク受容層塗布液A−1/インク受容層塗布液B−1の塗布量を、160ml/100mlとした以外は実施例1と同様にして実施例2のインクジェット記録材料を作製した。
【0050】
(実施例3)
実施例1におけるインク受容層塗布液A−1/インク受容層塗布液B−1の塗布量を、160ml/120mlとした以外は実施例1と同様にして実施例3のインクジェット記録材料を作製した。
【0051】
(実施例4)
上記支持体上に、インク受容層塗布液A−1をスライドビードコーターで塗布量が160ml/mとなるように塗布した後、次いで40℃の空気(湿球温度18℃)を吹き付けた。湿潤塗膜の表面温度が13℃(<湿球温度)である湿潤塗膜上に、インク受容層塗布液B−1を塗布量が80ml/mとなるように、スライドビードコーターで塗布し、30〜55℃の空気を順次吹き付けて乾燥し、実施例4のインクジェット記録材料を作製した。
【0052】
(比較例1)
上記支持体上に、インク受容層塗布液A−1及び下記組成に調整したインク受容層塗布液B−2を、支持体に近い側からインク受容層塗布液A−1/インク受容層塗布液B−2の順で、それぞれの1平方メートルあたりの塗布量が160ml/80mlとなるようにスライドビード塗布方式で同時塗布した以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット記録材料を作製した。
【0053】
<インク受容層塗布液B−2>
アルミナ水和物分散液 (固形分として) 100部
ポリビニルアルコール 10部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
ほう酸 1部
塗布液の固形分濃度 18%
【0054】
(比較例2)
実施例4において、インク受容層塗布液A−1を塗布した後、表面温度が23℃(>湿球温度)である塗膜上に、インク受容層塗布液B−1をスライドビードコーターで塗布した以外は実施例4と同様にして比較例2のインクジェット記録材料を作製した。
【0055】
(比較例3)
実施例4において、インク受容層塗布液A−1を塗布した後、表面温度が40℃(=乾燥空気温度)である塗膜上に、インク受容層塗布液B−1をスライドビードコーターで塗布した以外は実施例4と同様にして比較例3のインクジェット記録材料を作製した。
【0056】
得られた各々のインクジェット記録材料について下記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
<インク吸収性>
インクジェットプリンター(キヤノン(株)製PIXUS MP980)にてグリーンのベタ印字を行い、ベタ印字部のインク吸収の程度を目視により評価した。
○;ルーペでもムラが見られない
△;ルーペで局所的にムラが見られるが、目視では問題にならないレベル
×;目視でもムラが確認できるレベル
【0058】
<塗布液安定性>
インク受容層塗布液に関して、作製直後の40℃粘度(V0)と40℃で1時間経時後の40℃粘度(V1)を、B型粘度計(No.2ロータ、60rpm)を用いて測定し、その比V1/V0を下記の基準で分類し、塗布液の粘度安定性を評価した。
○;V1/V0が1.5未満
△;V1/V0が1.5以上5.0未満
×;V1/V0が5.0以上
【0059】
<塗布欠陥(クラック)>
記録材料5m中に存在する1mm以上の塗布欠陥のうち、クラックの頻度を目視で評価し、下記の基準で評価した。
○;5個未満
△;5個以上20個未満
×;20個以上
【0060】
【表1】

【0061】
表1から、本発明の方法によって製造したインクジェット記録材料は、インク吸収性を損なうことなく、塗布液の安定性に優れ塗布欠陥の発生が改善されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、気相法シリカ、ポリビニルアルコール及び架橋剤を含む下層用インク受容層塗布液Aを塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、アルミナまたはアルミナ水和物及びポリビニルアルコールを含み、かつ、ポリビニルアルコールの架橋剤を実質的に含有しない上層用インク受容層塗布液Bを塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。
【請求項2】
上層用インク受容層塗布液Bの塗布量が100ml/m以下である、請求項1記載のインクジェット記録材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−140123(P2011−140123A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−461(P2010−461)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】