説明

インクジェット記録用インクセット及びテトラコンポジットブラック画像の作成方法

【課題】染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクからなるインクジェット記録用インクセットにおいて、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクの併用による無彩色領域が、長期の大気への暴露により大気中のオゾンによって色味がつかないようにする。
【解決手段】染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを有するインクジェット記録用インクセットであって、各インクのパッチに所定の耐オゾン性試験をした場合に、各パッチの耐オゾン性試験前後のOD値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に使用するインクセット及びテトラコンポジットブラック画像の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録において、無彩色画像は、ブラックインクで形成されるか、イエローインク、シアンインク及びマゼンタインクの併用により形成される。しかし、各インクの着色剤として染料を使用する場合、褪色に伴い無彩色画像に色味がつくことが問題となる。そこで、無彩色画像を長期保存した後にも、無彩色に色味がつかず、無彩色として維持されるように、特定構造を有した水溶性ブラック染料にC.I.ダイレクトレッド89を併用してブラックインクを調製することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、画像の無彩色領域をブラックインク単独で形成すると、その無彩色の色が薄い場合に粒状感が現れることがある。この粒状感の出現をなくすため、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクを併用して無彩色領域を形成することも行われている。また、写真などを印刷する際には、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクを併用して無彩色領域を形成することが一般的であり、こうした印字方法により高精細、高階調といった高い印字品質を実現できる。しかしながら、褪色後に色味が目立つ場合があり、無彩色領域を含む画像が不自然になることがあった。
【0004】
【特許文献1】特開2005−36164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクからなるインクジェット記録用インクセットにおいて、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用して無彩色領域を形成し、その無彩色領域を長期にわたって大気に暴露することにより無彩色領域が大気中のオゾンによって褪色した場合でも、その無彩色領域に色味がつかないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
染料ブラックインクより形成した染料ブラックインクパッチはイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分に分けることができる。本発明者らは、染料ブラックインクより形成した染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の耐オゾン性の順序と、染料イエローインクにより形成した染料イエローインクパッチのイエロー成分、染料マゼンタインクにより形成した染料マゼンタインクパッチのマゼンタ成分及び染料シアンインクにより形成した染料シアンインクパッチのシアン成分の耐オゾン性の順序とが逆順となるようにインクセットを構成すると、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用して無彩色領域を含む画像を形成し、それを長期にわたって大気に暴露することにより、無彩色領域が大気中のオゾンによって褪色した場合でも、その無彩色領域に色味がつくことを防止でき、画像全体のカラーバランスを良好に保持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを有するインクジェット記録用インクセットであって、各インクによるパッチを形成し、各パッチに所定の耐オゾン性試験をした場合の、各パッチの耐オゾン性試験前後のOD(光学濃度)値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順になっていることを特徴とするインクジェット記録用インクセットを提供する。
【0008】
また、本発明は、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクによるパッチをそれぞれ作成し、各パッチに対する所定の耐オゾン性試験前後におけるOD値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順となる染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクにより構成されるインクジェット記録用インクセットを用いて、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを併用したテトラコンポジットブラック画像を作成することを特徴とするテトラコンポジットブラック画像の作成方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクセットによれば、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクの併用による無彩色領域を含む画像を形成し、耐オゾン性試験をした場合に、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と、染料イエローインクから形成される染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクから形成される染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクから形成される染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序とが逆順になっている。このため、画像が大気中のオゾンに暴露され褪色した場合に、無彩色領域では染料ブラックインクにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率同士のばらつきと、染料イエローインクのイエロー成分、染料マゼンタインクのマゼンタ成分及び染料シアンインクのシアン成分のOD値減少率同士のばらつきとが相殺するように作用する。その結果、無彩色領域のトータルとしてのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率同士のばらつきが、ブラックインク単独で無彩色領域を形成した場合や、イエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料の併用により無彩色領域を形成した場合に比較して抑制されたものとなる。したがって、この無彩色領域に不自然に色味がつくことを防止でき、画像全体のカラーバランスが良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを備える染料系インクセットである。
【0012】
また、本発明において、イエローとは、光沢紙上でのL***表色系(CIE1976:JIS Z8729)における明度(L*)が70以上100以下、彩度(C*)が55以上90以下、色相角(h)が70°以上140°以下の範囲の色をいう。イエローインクとは単独でイエロー色を表現できるインクをいう。マゼンタとは、明度(L*)が40以上70以下、彩度(C*)が60以上100以下、色相角(h)が320°以上360°以下又は0°以上10°以下の範囲の色をいう。マゼンタインクとは単独でマゼンタ色を表現できるインクをいう。シアンとは、明度(L*)が50以上85以下、彩度(C*)が40以上80以下、色相角(h)が215°以上255°以下の範囲の色をいう。シアンインクとは単独でシアン色を表現できるインクをいう。
【0013】
また、ブラックとは、彩度(C*)が15以下の無彩色領域の色をいう。ブラックインクとは単独でブラック色を表現できるインクをいう。
【0014】
テトラコンポジットブラックとは、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクの混色又は重ね打ちによって形成されるブラック色である。混色又は重ね打ち時のインクドットの構成割合はプリンタによって異なるが、ブラックインク(b)、イエローインク(y)、マゼンタインク(m)及びシアンインク(c)が容積比で
b:y:m:c=0.2〜0.8:0.2〜0.8:0.2〜0.8:0.2〜0.8
となるように設定する。
【0015】
本発明のインクセットは、各インクによるパッチを形成し、各パッチに所定の耐オゾン性試験をした場合に、各パッチの耐オゾン性試験前後のOD値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順になっていることを特徴としている。
【0016】
この場合、各インクによるパッチとしては、印字の際にインクにじみが少なく、鮮やかな発色が得られるから、光沢紙上に形成することが好ましい。ここで、光沢紙とは、ベースペーパー(原紙ペーパー)に表面平滑性を与えるコート層を設けた紙のことをいう。具体的には、ブラザー工業(株)製写真光沢紙BP61GLA;王子製紙(株)製カラーインクジェット用紙プレミアムフォト光沢紙;コクヨ(株)製インクジェットプリンタ用紙高精細フォト出力用超光沢紙;コニカミノルタホールディングス(株)製PhotolikeQP<写真画質>シリーズ;富士写真フィルム(株)製画彩(登録商標)シリーズの写真仕上げPro、写真仕上げAdvance及びフジフィルム高級光沢紙;等が挙げられる。
【0017】
また、各インクによるパッチとしては、光沢紙に印刷した各インクのグラデーションサンプルのうち、OD値1.0の領域を使用することが好ましい。
【0018】
耐オゾン性試験としては、各パッチに共通の試験を行う限り、その条件に特に制限はなく、例えば、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、槽内湿度60%RHで40時間程度(実環境下において約1年の暴露量に相当)行う。
【0019】
耐オゾン性試験前後のOD値減少率は、耐オゾン性試験前後の各パッチにおけるOD値をそれぞれ測定し、次式により算出する。
【0020】
【数1】

【0021】
図1〜図4は、こうして測定されるインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値の耐オゾン性試験前後の変化を模式的に説明したものである。なお、図中、Bインク、Yインク、Mインク及びCインクは、それぞれ染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを表す。Bパッチ、Yパッチ、Mパッチ及びCパッチは、それぞれ染料ブラックインクパッチ、染料イエローインクパッチ、染料マゼンタインクパッチ及び染料シアンインクパッチを表す。Y成分、M成分及びC成分は、それぞれイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分を表す。
【0022】
図1に示すように、染料ブラックインクパッチは、耐オゾン性試験前にイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値が揃っていても、耐オゾン性試験後には、各成分のOD値減少率が著しく異なるために各成分のOD値にばらつきが生じ、色味を感じさせる場合がある。
【0023】
一方、染料イエローインクパッチ、染料マゼンタインクパッチ及び染料シアンインクパッチも、図2に示すように、耐オゾン性試験後前にはそれぞれのOD値が揃っていても、耐オゾン性試験後には、各パッチのOD値減少率が異なるのでOD値にばらつきが生じる。そのため、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクの併用により形成したコンポジットブラックが、耐オゾン性試験後には色味を感じさせる場合がある。
【0024】
このような染料ブラックインクによるブラックの色味及びコンポジットブラックによる色味は、染料ブラックインク又はコンポジットブラックで薄い無彩色領域を形成する場合には一層目立つものとなる。さらに、薄い無彩色領域の粒状感を解消するために、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用してテトラコンポジットブラックを形成した場合に、図3に示すように、染料ブラックインクパッチにおけるOD値減少率の大きい色成分と、染料イエローインクパッチ、染料マゼンタインクパッチ及び染料シアンインクパッチにおけるOD値減少率の大きい色成分が重なり、染料ブラックインクパッチにおけるOD値減少率の小さい色成分と、染料イエローインクパッチ、染料マゼンタインクパッチ及び染料シアンインクパッチにおけるOD値減少率の小さい色成分が重なる場合には、無彩色領域の色味はより一層目立ちやすくなる。
【0025】
これに対し、本発明によれば、図4に示すように、染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の耐オゾン性試験前後のOD値減少率の大きさにおける順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分の耐オゾン性試験前後のOD値減少率の大きさの順序と逆順になっている。したがって、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用してテトラコンポジットブラックを形成した領域では、耐オゾン性試験後の各色成分間のOD値のばらつきが、染料ブラックインク単独で無彩色領域を形成した場合や、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクによるコンポジットブラックで無彩色領域を形成した場合に比較して低減する。よって、本発明のインクセットによれば、形成された画像が大気に暴露され、大気中のオゾンによって褪色しても、その画像中の無彩色領域に不自然に色味がつくことを防止することができる。
【0026】
本発明のインクセットは、任意の染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクからそれぞれのパッチを形成し、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分、染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値、並びに染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値を耐オゾン性試験前後で測定し、それぞれのOD値減少率を算出し、上述の逆順の関係が満たされるように染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを適宜選択することにより得ることができる。
【0027】
インク選択に際しては、
染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をBy、
染料ブラックインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をBm、
染料ブラックインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をBc、
染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をCy、
染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をCm、
染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をCc、
とした場合に、(By+Cy)/2、(Bm+Cm)/2及び(Bc+Cc)/2の最大値と最小値との差が10%以下となるようにすることが好ましい。
【0028】
これにより、染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用して形成した無彩色領域が褪色により色味を帯びることをより確実に防止することができる。
【0029】
本発明のインクジェット記録用インクセットを構成する染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクは、公知の染料、水、水溶性有機溶剤及び必要に応じて使用する添加剤から調製することができる。
【0030】
染料ブラックインクに使用する染料としては、例えば、以下の一般式(Bk−0);C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118;C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168;C.I.ベーシックブラック2;C.I.フードブラック1及び2;等を好ましく使用できる。
【0031】
【化1】

【0032】
一般式(Bk−0)中、A1及びA4はそれぞれ独立に置換されていても良いフェニル基、ナフチル基を表し、A2及びA3はそれぞれ独立に置換されていても良いナフチル基を表す。またA1、A2、A3及びA4の各々の成分にはそれぞれ少なくとも1つ以上のスルホ基を含み、X、Yの一方はヒドロキシル基を、他方はアミノ基を表す。Mは水素原子、アルカリ金属、有機アミンのカチオン又はアンモニウムイオンを表す。
【0033】
また、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクに使用する染料としては、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、27、28、33、39、58、86、98、100、132、142及び169;C.I.アシッドイエロー3、11、17、19、23、25、29、38、42、49、59、61、71及び72;C.I.ベーシックイエロー40;C.I.リアクティブイエロー2;等のイエロー染料、以下一般式(M−0);一般式(M−00)、C.I.ダイレクトレッド4、17、28、37、63、75、79、80、81、83及び254;C.I.アシッドレッド1、6、8、18、32、35、37、42、52、85、88、115、133、134、154、186、249、289及び407;C.I.ベーシックレッド9、12及び13;C.I.リアクティブレッド4、23、24、31及び56;等のマゼンタ染料、C.I.ダイレクトブルー1、6、8、15、22、25、71、76、80、86、87、90、106、108、123、163、165、199及び226;C.I.アシッドブルー9、22、29、40、59、62、93、102、104、112、113、117、120、167、175、183、229及び234;C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29;C.I.リアクティブブルー7、13及び49;等のシアン染料等が挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
一般式(M−0)中、Rは、水素原子、置換されてもよいアルキル基又は置換されてもよいアリール基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。Rは、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基又は置換されてもよいヘテロ環基を表す。R、R、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、置換されてもよいヘテロ環基、置換されてもよいスルホニル基又は置換されてもよいアシル基を表す。ただし、RとRが共に水素原子であることはなく、RとRが共に水素原子であることはない。A及びAは、いずれもが置換されていてもよい炭素原子であるか、あるいはこれらの一方が置換されていてもよい炭素原子であり、他方が窒素原子である。
【0036】
【化3】

【0037】
一般式(M−00)中、R、R及びR10は、それぞれ独立的に置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、置換されてもよいカルバモイル基、置換されてもよいスルファモイル基、置換されてもよいアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステルの基、置換されてもよいアルキルスルホニル基、置換されてもよいアリールスルホニル基、カルボキシル基又はカルボン酸エステルの基を表わす。mは0、1又は2の数を表わし、R11、R12及びR13は、それぞれ独立的に水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアリール基、置換されてもよいアラルキル基、置換されてもよい脂環基又は置換されてもよいヘテロ環基を表わす。
【0038】
一方、本発明のインクジェット記録用インクセットを構成するインクに使用する水としては、脱イオン水を使用することが好ましい。
【0039】
また、本発明のインクジェット記録用インクセットを構成するインクに使用する水溶性有機溶媒は、主としてインクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥防止効果を有する湿潤剤と、紙面での乾燥速度を速くする浸透剤とを含有する。
【0040】
湿潤剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール;グリセリン;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができる。
【0041】
湿潤剤の含有量は、インクジェット記録用インクセットを構成するインクごとに、インク全量の0〜95重量%、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%である。
【0042】
浸透剤としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等のグリコール系エーテルを挙げることができる。
【0043】
浸透剤の含有量は、含有量が過剰であると、インクの紙への浸透性が高くなりすぎて滲みの原因となることがあるので、インクジェット記録用インクセットを構成するインクごとに、インク全量に対して、0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0044】
本発明のインクジェット記録用インクセットを構成するインクには、更に必要に応じて、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び水溶性樹脂等の粘度調整剤;表面張力調整剤;防黴剤;pH調整剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。
【0045】
本発明のインクジェット記録用インクセットを構成するインクは、染料、水、水溶性有機溶剤及びその他の添加成分を均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより調製することができる。
【0046】
また、本発明のインクジェット記録用インクセットを構成するインクは、従来公知のインクジェットプリンタのインクカートリッジに充填し、インクジェット記録に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1〜4、比較例1〜3
(1)インクの調製
表1に示す成分を均一に混合することにより、染料ブラックインク(Bk−1、Bk−2、Bk−3及びBk−4)、染料イエローインク(Y−1及びY−2)、染料マゼンタインク(M−1、M−2及びM−3)、染料シアンインク(C−1、C−2及びC−3)を調製した。





































【0048】
【表1】





表注
【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

【0051】
【化6】

【0052】
(*4)ポリオキシラウリル(12,13)エーテル硫酸ナトリウム(3E.O)

【0053】
(2)評価用パッチの作成
表1の各インクを所定のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;DCP−115C)に装着し、ドライバ設定を「きれいに印刷」として光沢紙(ブラザー工業(株)製;写真光沢紙BP61GLA)に各インクのグラデーションサンプルを印字し、OD値1.0付近のパッチを評価用パッチとした。
【0054】
なお、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインク(以下、カラーインクという)並びに染料ブラックインクを、各カラーインクとブラックインクの容積比が0.4〜0.6:0.4〜0.6となるように併用し、ブラックのグラデーションサンプルを印字し、そのOD値1.0付近のパッチをテトラコンポジットブラックの評価用パッチとした。
【0055】
(3)耐オゾン性評価
(3−1)耐オゾン性試験
上述の(2)の評価用パッチに対し、次のように耐オゾン性試験を行った。
耐オゾン性試験は、スガ試験機(株)製オゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、槽内湿度60%RHで40時間放置(実環境下において約1年の暴露量に相当)して行った。
【0056】
(3−2)OD値減少率
耐オゾン性試験前後におけるOD値はGretag Macbeth社製Spectrolino(光源:D65;視野:2°;Status A)により測定した。
【0057】
得られたOD値からOD値減少率を以下の式により算出した。
【0058】
【数2】

【0059】
染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率をそれぞれBy、Bm及びBcとし、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、
染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率をそれぞれCy、Cm及びCcとした場合の(By+Cy)/2、(Bm+Cm)/2及び(Bc+Cc)/2を算出し、その最大値と最小値との差を求めた。
【0060】
(3−3)カラーバランス評価
耐オゾン性試験前後のテトラコンポジットブラックの評価用パッチを目視観察し、耐オゾン性試験後にイエロー、マゼンタ、シアンの各色がバランス良く褪色しており、色味が目立たないものをG(Good)とし、カラーバランスが崩れて、色味が強くなっていると感じられるものをNG(Not Good)とした。
【0061】
以上の結果を表2に示す。
【0062】
表2から、実施例1、2、3及び4は、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順であり、耐オゾン性試験後においてもカラーバランスが良好であった。
【0063】
これに対し、比較例1では、染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序がイエロー成分<マゼンタ成分<シアン成分であるが、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分の順序がイエロー成分<マゼンタ成分<シアン成分であり、順序が逆順になっておらず、耐オゾン性試験後のカラーバランスが悪かった。
【0064】
比較例2では、染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序がイエロー成分<マゼンタ成分<シアン成分であるのに対し、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の順序もマゼンタ染料<シアン染料<イエロー染料であり、順序が逆順になっておらず、耐オゾン性試験後のカラーバランスが悪かった。
【0065】
比較例3では、染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序がマゼンタ成分<イエロー成分<シアン成分であるのに対し、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の順序はマゼンタ成分<シアン成分<イエロー成分であり、順序が逆順になっておらず、耐オゾン性試験後のカラーバランスが悪かった。




























【0066】
【表2】









【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、インクジェット記録に広く使用することができ、特に、耐オゾン性が必要とされる用途で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】染料ブラックインクで印字した染料ブラックインクパッチのイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の耐オゾン性試験前後のOD値変化の模式的説明図である。
【図2】染料イエローインクで印字した染料イエローインクパッチ、染料マゼンタインクで印字した染料マゼンタインクパッチ及び染料シアンインクで印字した染料シアンインクパッチの耐オゾン性試験前後のOD値変化の模式的説明図である。
【図3】従来のインクジェット記録用インクセットの染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用してテトラコンポジットブラック画像を形成した場合のイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の耐オゾン性試験前後のOD値変化の模式的説明図である。
【図4】本発明のインクジェット記録用インクセットの染料ブラックインク、染料イエローインク、染料マゼンタインク及び染料シアンインクを併用してテトラコンポジットブラック画像を形成した場合のイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の耐オゾン性試験前後のOD値の変化の模式的説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを有するインクジェット記録用インクセットであって、各インクによるパッチを形成し、各パッチに所定の耐オゾン性試験をした場合の、各パッチの耐オゾン性試験前後のOD値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順になっていることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をBy、
染料ブラックインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をBm、
染料ブラックインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をBc、
染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をCy、
染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をCm、
染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をCc、
とした場合に、(By+Cy)/2、(Bm+Cm)/2及び(Bc+Cc)/2の最大値と最小値との差が10%以下である請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクによるパッチをそれぞれ作成し、各パッチに対する所定の耐オゾン性試験前後におけるOD値減少率について、染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分のOD値減少率の大きさの順序が、染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分、染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分及び染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率の大きさの順序と逆順となる染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクにより構成されるインクジェット記録用インクセットを用いて、染料イエローインク、染料マゼンタインク、染料シアンインク及び染料ブラックインクを併用したテトラコンポジットブラック画像を作成することを特徴とするテトラコンポジットブラック画像の作成方法。
【請求項4】
染料ブラックインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をBy、
染料ブラックインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をBm、
染料ブラックインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をBc、
染料イエローインクパッチにおけるイエロー成分のOD値減少率(%)をCy、
染料マゼンタインクパッチにおけるマゼンタ成分のOD値減少率(%)をCm、
染料シアンインクパッチにおけるシアン成分のOD値減少率(%)をCc、
とした場合に、(By+Cy)/2、(Bm+Cm)/2及び(Bc+Cc)/2の最大値と最小値との差が10%以下である請求項3に記載のテトラコンポジットブラック画像の作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−297356(P2008−297356A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142268(P2007−142268)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】