説明

インクジェット記録用紙およびインクジェット記録用紙の製造方法

【課題】 発明の目的は、塗布液を安定化し、膜面故障がおき難い、印字濃度が高い高光沢感のインクジェット記録用紙を得ることにある。
【解決手段】 非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙において、該少なくとも2層のインク吸収層が、シリカ微粒子、塩基性塩化アルミニウム及びポリビニルアルコール誘導体を少なくとも2種含有し、少なくとも1種のポリビニルアルコール誘導体の平均重合度が1000以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布故障が少ない、印字濃度が高く、高光沢感を有するインクジェット記録用紙およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録は急速に画質が向上してきており、写真画質に迫りつつある。この様な写真画質をインクジェット記録で達成する手段として、高平滑性の非吸水性支持体上に微小な空隙を有するインク吸収層を設けた記録用紙が広く知られている。
【0003】
このインク吸収層は、主に親水性バインダーと微粒子で形成されており、微粒子としては一般的により微細な無機微粒子が用いられる。
【0004】
インクジェット記録は、一般に、水溶性染料インクを用いる場合と顔料インクを用いる場合とに分けられる。顔料インクは、画像の耐久性が高いが、画像様に光沢が変化しやすく、その結果、写真画質に近いプリントを得にくい。一方水溶性染料インクは、画像の鮮明性が高く、かつ均一な表面光沢を有する写真画質に匹敵するカラープリントが得られる。
【0005】
しかし、この水溶性染料は親水性が高いために高湿下において滲みが発生するという弱点があり、この問題を解決するためにカチオン性物質のような染料固着性物質を多孔質層中に添加しておくことは、一般的に行われている。
【0006】
例えば、カチオン性ポリマーを用いてアニオン性の染料と結合させ強固に不動化する方法が好ましく用いられている。このようなカチオン性ポリマーとしては、4級アンモニウム塩の重合物等があげられ、例えば「インクジェットプリンター材料と技術」(株式会社シーエム−シー発行 1998年7月)又は特開平9−193532号公報にその詳細が記載されている。また、特開昭60−257286号、同61−57379号、同60−67190号公報には水溶性多価金属化合物を予めインクジェット記録用紙中に添加あるいは含浸させることにより、インクジェット記録時に染料を凝集固着させて染料を不動化させることが提案されている。しかし、それだけでは水溶性多価金属化合物を最表層に固着させるには不十分であり、印字濃度については未だ不十分であった。
【0007】
一方、特許文献1および2には水溶性アルミニウム化合物及び気相法シリカを用いているが、多層構成ではなく、やはり印字濃度については不十分であった。また、高い印字濃度及び良好な色再現性を得る手段として特許文献3には最表層にアルミニウム塩を含有する塗布液の使用が記載されているが、その様な構成にすると塗布液が不安定で粘度が停滞で上昇してしまう為に塗布が難しく、塗布ができても膜面故障がおきやすく、また光沢が悪化するという問題があった。
【特許文献1】特表2002−526564号公報
【特許文献2】特開2002−320842号公報
【特許文献3】特開2001−287451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の目的は、塗布液を安定化し、膜面故障がおき難い、印字濃度が高い高光沢感のインクジェット記録用紙を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下のインクジェット記録用紙で達成された。
【0010】
(請求項1)
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙において、該少なくとも2層のインク吸収層が、シリカ微粒子、塩基性塩化アルミニウム及びポリビニルアルコール誘導体を少なくとも2種含有し、少なくとも1種のポリビニルアルコール誘導体の平均重合度が1000以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0011】
(請求項2)
前記ポリビニルアルコール誘導体がシリカ微粒子に対して0.5〜5質量%含有されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【0012】
(請求項3)
前記少なくとも2層のインク吸収層のうち最表層の乾燥膜厚は全インク吸収層の乾燥膜厚に対し2%〜20%であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用紙。
【0013】
(請求項4)
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙の製造方法であって、前記インク吸収層のうち最表層は、水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有し、飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有し、かつ、前記インク吸収層のうち、最表層における、前記シリカ微粒子および水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、前記最表層の隣接層、それ以外の層においてよりも少ないインクジェット記録用紙の製造方法において、
前記最表層は、シリカ微粒子、水溶性多価金属化合物及び低分子ポリマー又はカチオン性界面活性剤を含有する液にバインダーを添加し形成された最表層塗布液を塗布し形成されることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【0014】
(請求項5)
前記低分子ポリマーがポリビニルアルコール誘導体であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0015】
(請求項6)
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層するインクジェット記録用紙の製造方法であって、前記インク吸収層のうち最表層は、水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有し、かつ飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有し、かつ、前記インク吸収層のうち、最表層中における、前記シリカ微粒子および水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、前記最表層の隣接層、それ以外の層においてよりも少ないインクジェット記録用紙の製造方法において、
前記最表層は、最表層塗布液を塗布し形成されるものであり、かつ、前記最表層塗布液は、シリカ微粒子、水溶性多価金属化合物を含有する液にバインダーを添加し形成され、かつ、全バインダー量の50%以上を添加後に再分散されることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【0016】
(請求項7)
前記水溶性多価金属化合物の少なくとも1種がアルミニウム原子あるいはジルコニウム原子を含む化合物であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0017】
(請求項8)
前記最表層に含有されるシリカ微粒子と水溶性多価金属化合物をそれぞれ酸化物換算した質量比
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、10以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0018】
(請求項9)
前記最表層の乾燥膜厚は全インク吸収層の乾燥膜厚に対し2%〜20%であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0019】
(請求項10)
前記最表層の塗布液pHが3.5〜5の範囲内であることを特徴とする請求項4〜9いずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、膜面故障が少ない高光沢感の印字濃度が高いインクジェット記録用紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0022】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を行った結果、非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙において、塩基性塩化アルミニウム等の水溶性多価金属化合物及び平均重合度1000以下のポリビニルアルコール誘導体に代表される低分子ポリマーとそれ以外のポリビニルアルコール誘導体の少なくとも2種以上を含有させ、インク吸収層塗布液を安定化し、印字濃度の高い高光沢感のインクジェット記録用紙を得ることができた。
【0023】
本発明において、前記安定化したインク吸収層塗布液は、例えば、カチオン性ポリマーの存在下で、シリカ微粒子を、後述する分散機等を用い分散し調製されたシリカ微粒子分散液を、その後例えばポリビニルアルコール等のバインダー及び他の添加剤をこれに混合することで調製されるが、水溶性多価金属化合物は例えば、インク吸収層を形成する塗布液中の前記シリカ分散液に、また、本発明に係わる低分子量ポリマー(又はカチオン性界面活性剤)の添加は、例えば水溶性多価金属化合物と同時かあるいはこれの添加後に添加される。
【0024】
これらのシリカ微粒子の分散に用いられる分散方法としては、例えば、高速回転分散機、媒体攪拌型分散機(ボールミル、サンドミルなど)、超音波分散機、コロイドミル分散機、ロールミル分散機、高圧分散機等、従来公知の各種の分散機を用いることができる。
【0025】
本発明においては、形成される凝集状態のシリカ微粒子の分散を効率的に行うという点から、超音波分散機又は高圧分散機が好ましく用いられる。
【0026】
超音波分散機は、通常、20〜25kHzの超音波を照射することで固液界面にエネルギーを集中させることで分散するものであり、非常に効率的に分散される。一方高圧分散機は、3本又は5本のピストンをもった高圧ポンプの出口に、ねじ又は油圧によってその間隙を調整できるようになっている均質バルブが1個また2個備えられたものであり、高圧ポンプにより送液された液媒体が均質バルブによりその流れが絞られて圧力がかかりこの均質バルブを通過する瞬間に微少なダマ物質が粉砕される。この方式は連続的に多量の液を分散できるために、多量の分散液を調製する場合に好ましい方式である。均質バルブに加えられる圧力は通常5〜100Paであり、分散は1回のパスで済ますことも多数回繰り返し手行うこともできる。
【0027】
この様にして調製された少なくとも2層以上のインク吸収層が、例えば、スライドビード塗布方式等により非吸水性支持体上に、好ましくは同時重層塗布され、本発明に係わるインクジェット記録用紙は作製される。
【0028】
本発明に係わるこれらインクジェット記録用紙においては、インク吸収層の最表層に少なくとも1種の水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有されているが、該インク吸収層において、該水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値が形成されるように作製されることで、印字濃度の高いインクジェット記録用紙を得ることができるが、さらにシリカ微粒子、水溶性多価金属化合物及び低分子ポリマー(又はカチオン性界面活性剤)を含有させ調製した液にバインダーを添加して、塗布液を安定化することにより、印字濃度を劣化させることなく、高光沢感のインクジェット記録用紙を提供することができるようになった。あるいは別の手段として少なくともシリカ微粒子と水溶性多価金属化合物を含有した液に全バインダー量の50%以上添加後、更に再分散することにより塗布液を安定化することが可能となった。また、最表層の塗布液pHを3.5〜5の範囲内にすることにより、より塗布液を安定化することができるようになった。
【0029】
その理由として、本発明者らは以下のように推定している。インク吸収層の最表層に添加した水溶性多価金属化合物はシリカに強く吸着し、その状態でバインダーを添加するとカチオン性となったシリカ粒子がバインダーを介して凝集を起こしてしまう。凝集が起こるとその塗布液の濁度及び/又は粘度があがり、ゲル化が起こり易くなり、塗布不可能あるいは膜面故障が生じる原因となる。
【0030】
前記インク吸収層は、水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有しており、飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内に明確なイオン強度ピークを有し、かつ、該インク吸収層のうち、最表層中における、前記シリカおよび水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比率を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、隣接層、それ以外の層においてよりも少ない様にされるべきである。
【0031】
尚、最上層以外の層においては、水溶性多価金属化合物が含まれない場合、即ちMOx/2=0である場合があり、この値は非常に大きくなる。
【0032】
また、前記インク吸収層のうち前記最表層は、更にシリカ微粒子、水溶性多価金属化合物及び低分子ポリマー又はカチオン性界面活性剤を含有する液にバインダーを添加し形成された最表層塗布液を塗布し形成されることが、前記のように、塗布液を安定化し、印字濃度を劣化させることなく、高光沢感のインクジェット記録用紙とする上で必要である。
【0033】
本発明では、水溶性多価金属化合物(特に塩基性塩化アルミニウム)が吸着したシリカ微粒子を、低分子ポリマー(特に低重合度ポリビニルアルコール誘導体が好ましい)あるいはカチオン性界面活性剤が、その表面を覆うように吸着することにより、バインダー添加時に起こるシリカ微粒子の凝集を緩和し、そのために塗布液を安定化することができたと考えている。
【0034】
また、本発明に係わる、最表層において、飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有するとともに、該インク吸収層のうち、最表層中における、前記および水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、隣接層、それ以外の層においてよりも少ないインクジェット記録用紙において、前記最表層が形成される最表層塗布液は、シリカ微粒子、水溶性多価金属化合物を含有する液にバインダーを添加し形成されるが、全バインダー量の50質量%以上を添加後に再分散することにより、塗布液を非常に安定化することができる。
【0035】
これは、水溶性多価金属化合物添加後、バインダーを添加することにより凝集した塗布液を機械的に粉砕して分散することにより安定化するものと考えられる。
【0036】
また、本発明に係わるインク吸収層においては、前記最表層に含有される水溶性多価金属化合物とシリカの比率が、シリカ及び水溶性多価金属化合物をそれぞれ酸化物換算したときの質量比である
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
の値が、10以下であることが好ましい。
【0037】
また、最表層の塗布液pHを3.5〜5の範囲内にすることにより、水溶性多価金属化合物自体の安定性とシリカ及びバインダーとの安定性を両立しさらに塗布液を安定化することができた。
【0038】
このようにして前記課題である塗布液を安定化し、印字濃度の高い、高光沢感のインクジェット記録用紙を提供することができるようになった。
【0039】
また、前記最表層の乾燥膜厚は全インク吸収層の乾燥膜厚に対し2%〜20%であることが印字濃度の高い高光沢感のインクジェット記録用紙を得る上では好ましい。
【0040】
(イオン強度ピーク)
本発明のインクジェット記録用紙においては、水溶性多価金属化合物を高濃度にインク吸収層の表面に局在させる必要がある。具体的には飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる、水溶性多価金属化合物由来の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、図1に示される様な最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有する様に、最表層の膜厚をコントロールすることを意味する。
【0041】
また、最表層中に含まれる水溶性多価金属化合物は酸化物換算で0.2g/m2〜1.0g/m2であることが本発明の課題を解決する上で好ましい。最表層以外の層に水溶性多価金属を含有させることもできる。この場合は最表層に含有される水溶性多価金属化合物に対し、該最表層以外の層に含有される水溶性多価金属化合物が酸化物に換算した質量比で20%以下である事が好ましい。
【0042】
最表層に含有される水溶性多価金属化合物とシリカの比率は酸化物に換算した前記質量比で前記のように、以下の関係を満たす事が好ましく、より好ましくは5以下である。
【0043】
SiO2/MOx/2≦10
ここにおいて、Mは2価以上の金属カチオン、xは金属Mのカチオンの価数を表す。
【0044】
いずれにしても、本発明においては、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有することが必要である。
【0045】
インク吸収層厚さ方向の多価金属存在位置はミクロトームなどで作製したインク受容層の断面試料について、エレクトロンプローブマイクロアナライザー(EPMA)や飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を用いてインク吸収層の厚み方向に多価金属特有の元素あるいは特有の二次イオンフラグメントの分布を求めることが出来る。特に化学構造情報が得られる飛行時間型二次イオン質量分析計を用いて多価金属化合物に特有の二次イオンフラグメントの分布を測定し、多価金属存在部分の厚みを求める方法が好ましい。二次イオン質量分析法についてはJohn C.Vickerman and David Briggs編「ToF−SIMS:Surface Analysis by Mass Spectrometry(Surface Spectra社)」、日本表面科学会「二次イオン質量分析法(表面分析技術選書)」(丸善)等を参考にすることが出来る。
【0046】
測定の具体的手段としてはミクロトームなどで平滑なインク受容層断面を露出させ、このインク受容層についてTOF−SIMS測定を行う。TOF−SIMS測定時の一次イオンとして好ましいイオン種はAu+,In+,Cs+,Ga+など液体金属イオン種であるがこのうちIn+、Ga+が好ましい。検出すべき好ましい二次イオンとしては、事前に測定した多価金属の二次イオン質量スペクトルから選択する。一次イオンの加速電圧は20kV〜30kVが好ましく、ナイフエッジ法により測定されるビーム直径が0.25μm以下となるように各種の調整を実施することが好ましい。ビーム電流等照射条件および照射時間は任意である。典型的な例としては一次イオンビーム電流0.9nA、照射時間20分などが好ましく用いられる。尚、インクジェット記録用紙、インク受容層は導電性に乏しいので中和電子銃を用いるなど帯電中和を適宜施すことが好ましい。
【0047】
一次イオンビームはインク受容層全域を測定できる範囲で走査する。典型的には40μm角の領域を走査する。一次イオンビームの走査位置と検出される二次イオンから、インク受容層に存在する化学種のイメージを得ることが可能である。好ましくは上記走査領域内で256×256点での2次イオン質量スペクトルを得て、その質量スペクトルから目的の二次イオンピークの強度を記録することにより、化学種のイメージを得る。更にこのイメージから同一厚み部分のピーク強度を積分することにより、特定の二次イオンの厚さ方向のプロファイルを得ることが出来る。二次イオンのイメージの作成、プロファイルの作成は通常二次イオン質量分析計のデータ処理用のソフトウエアに付属の機能であり、本発明においても、この機能を用いることが可能である。
【0048】
本発明においては上記厚さ方向のプロファイルにおいて、インク受容層における多価金属由来の二次イオンの強度の最低値の1.5倍以上の部分を多価金属存在部分と規定する。インク受容層の位置、インク受容層の厚みは多価金属と同様、インク受容層に存在するシリカ微粒子に含有される金属イオンが検出される領域とする。尚、各層の位置は、厚さ方向のプロファイルにおける積分イオン強度の50%位置とする。本発明ではPysical Electronics社製 TRIFT−IIを使用し、上記方法でインク吸収層厚さ方向の多価金属存在位置を図1に示す様に確認される。破線で示した従来型のインク吸収層塗布液に多価金属を添加して形成したインク吸収層におけるプロファイルは、多価金属化合物由来の二次イオン強度ピークが、インク吸収層の内部(深さ約15μm)に存在しているため、最表部に着弾したインクの固定化がよりインク吸収層内部で行われることになり、高い濃度を得ることが出来ない。一方本発明に係わるインク吸収層のプロファイル(実線で示す)においては、多価金属化合物由来の二次イオン強度ピークの最大値が、最表面から10μm以内にあり、より表層近くでインクの固定化が行われるため、結果高い濃度を得ることが出来る。
【0049】
以下、本発明のインクジェット記録用紙に用いられる要素について詳細に説明する。
【0050】
(水溶性多価金属化合物)
本発明に係る水溶性多価金属化合物は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、銅、スカンジウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、錫、鉛などの金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、クロロ酢酸塩等が挙げられる。中でもアルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウムからなる水溶性塩はその金属イオンが無色の為好ましい。特に好ましくは、水溶性多価金属化合物はアルミニウム又はジルコニウムを含む化合物であり、pH及び安全性の観点より、水溶性アルミニウム化合物、水溶性ジルコニウム化合物である。
【0051】
水溶性アルミニウム化合物の具体例としては、ポリ塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム)、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ナトリウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム等を挙げることが出来る。ここで、水溶性とは25℃の水に1質量%以上、より好ましくは3質量%以上溶解することを意味する。その中でも塩基性塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウムがより好ましい。
【0052】
最も好ましい水溶性多価金属化合物は塩基度が80以上の塩基性塩化アルミニウムであり、次の分子式で表すことができる。
【0053】
〔Al2(OH)nCl6-nm (ただし、0<n<6、m≦10)
水溶性ジルコニウム化合物の具体例としては、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、酸塩化ジルコニウム、乳酸ジルコニル、クエン酸ジルコニルが好ましい。炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニルは特に好ましい。特に酸塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニルが高い印字濃度が得られる観点から好ましい。
【0054】
上記水溶性多価金属化合物を最表層または隣接層に添加する方法としては、特に限定されないが、インク吸収層を形成する塗布液に添加してから塗布乾燥してもよいし、インク吸収層を形成する塗布液中のシリカ分散液に添加してもよい。
【0055】
また、最表層中に含まれる水溶性多価金属化合物が酸化物換算値として記録用紙1m2当たり、0.2g以上であるとより高い印字濃度を得ることができ好ましい。
【0056】
(シリカ微粒子)
本発明に係る無機微粒子としてはシリカ微粒子が好ましいが、湿式シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカ等を用いることができるが、そのうち気相法で合成されたシリカ微粒子が好ましい。シリカ微粒子はその一次粒子の平均粒径は3〜100nmのものが好ましい。一次粒子の平均粒径が100nm以下であれば、記録用紙の高光沢性を達成することができ、また表面での乱反射による最高濃度の低下を防いで鮮明な画像をえることができる。上記においての微粒子の平均粒径は、粒子そのものあるいは空隙層の断面や表面を電子顕微鏡で観察し、多数個の任意の粒子の粒径を求めてその単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒径はその投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0057】
特に好ましい態様として、二次粒子以上の粒子を形成して多孔質インク吸収層を形成する場合、その平均粒子径は、20〜200nmが高インク吸収性及び高光沢を達成した記録用紙を得るという観点において好ましい。
【0058】
(塗布方法)
本発明のインクジェット記録用紙の少なくとも2層のインク吸収層を支持体上に塗布する方法としては、公知の方法から適宜選択して行うことができるが、少なくとも2層のインク吸収層を塗布する方法として例えば以下のような方法
(1)少なくとも2層のインク吸収層を塗布する方法、
(2)少なくとも1層のインク吸収層を塗布後、乾燥前に更に少なくとも1層のインク吸収層を塗布する方法、
(3)少なくとも1層のインク吸収層を塗布・乾燥後に、更に少なくとも1層のインク吸収層を塗布する方法が挙げられる。
この中でも、2層以上を同時に塗布することができ、特に全ての層を1回の塗布ですますことができる同時塗布が好ましい。塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,681,294号記載のホッパーを使用するエクストルージュンコート法が好ましく用いられる。
【0059】
(低分子ポリマー)
本発明においては、少なくとも2層のインク吸収層を中に、低分子ポリマーを添加することが必要である。
【0060】
低分子量ポリマーの添加は、前記インク吸収層塗布液の調製に於いて、水溶性多価金属化合物と同時あるいは添加後に低分子ポリマーを添加することが必要である。低分子ポリマーとしては、数平均分子量が3000〜50000の範囲にある重合体(共重合も含む)であり、公知のものを使用できるが非イオン性あるいはカチオン性であることが好ましい。好ましい例としては、
非イオン性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド等、また、カチオン性ポリマーとしては、ポリアリルアミン等が、ジシアンジアミドポリアルキレンポリアミン縮合物、エピクロルヒドリン・ジアルキルアミン付加重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物等後述するカチオン性ポリマーのうち低分子量ポリマーが挙げられる。
これらのうち、特に、低重合ポリビニルアルコールが最も好ましい。低重合ポリビニルアルコールは平均重合度1000以下が好ましく、500以下が塗布液安定化の点ではより好ましい。
【0061】
低分子ポリマーは、シリカ微粒子に対して0.5〜5質量%の量が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。0.5%以上であると、シリカ表面を覆うように充分な吸着ができ、塗布液を安定化することが容易であり、3%以上になると充分なインク吸収性が得られずひび割れ等を引き起こす。
【0062】
(カチオン性界面活性剤)
本発明において、インク吸収層最表層にはカチオン性界面活性剤を含有することが好ましく、水溶性多価金属化合物添加後バインダー添加前に添加することが好ましい。カチオン性界面活性剤の中でも、炭化水素系のカチオン性界面活性剤が好ましく、特開2003−312134号の一般式〔6〕で表されるカチオン系界面活性剤が最も好ましい。
【0063】
また、界面活性剤(カチオン性、非イオン性、両性、アニオン性)は最表層以外にも添加することができ、添加方法としては、塗布液にあらかじめ界面活性剤溶液として添加する方法、塗布液を支持体に塗布し、乾燥する前に塗布面に界面活性剤溶液として付与する方法、塗布乾燥後の多孔質層に界面活性剤溶液として含浸させる方法などが挙げられるが、塗布液にあらかじめ添加する方法、塗布液を支持体に塗布した後、乾燥する前に塗布面に界面活性剤溶液として付与する方法がより好ましい。界面活性剤の使用量はインクジェット用記録材料1m2あたり0.0001〜1.0g、製造時(塗布・乾燥)の膜面故障防止の点では好ましくは0.001〜0.5gである。
【0064】
(バインダー)
本発明のインクジェット記録用紙は、支持体上に2層以上のインク吸収層を積層し、かつ支持体から最も遠いインク吸収層(最表層)に、本発明のカチオン性シリカ複合粒子分散液と親水性バインダーを含有し、かつ非吸水性支持体から最も遠い位置にあるインク吸収層に含有される水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子をそれぞれの酸化物に換算した時の質量比A(シリカ微粒子の酸化物質量/水溶性多価金属化合物の酸化物質量)が、該支持体から最も遠い位置にあるインク吸収層を除く全てのインク吸収層に含有される水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子をそれぞれの酸化物に換算した時の総質量比B(シリカ微粒子の酸化物の総質量/水溶性多価金属化合物の酸化物の総質量)より小さいことを特徴とする。この時、総質量比Bにおいては、水溶性多価金属化合物の酸化物を全く含有しないケースも含む。
【0065】
本発明のインクジェット記録用紙において用いられバインダーとしては、従来公知の各種親水性バインダーが用いられるが、水溶性多価金属化合物やシリカ微粒子と混ぜ合わせた際に凝集や著しい増粘作用を示さない親水性バインダーが好ましい。そのような親水性バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、カゼイン、澱粉、寒天、カラギーナン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、セルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール等が挙げられる。これらの親水性バインダーは、2種以上併用することも可能である。
【0066】
本発明で好ましく用いられる親水性バインダーは、ポリビニルアルコールであり、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、紫外線架橋型変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0067】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が1000以上のものが好ましく用いられ、特に、平均重合度が1500〜5000のものが好ましく、更に、ケン化度が70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0068】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0069】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0070】
カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0071】
アニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平1−206088号に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号及び同63−307979号に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体及び特開平7−285265号に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0072】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号に記載された疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。
【0073】
紫外線架橋型変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開2004−262236号に記載されているような光反応性側鎖を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0074】
また、ポリビニルアルコールは、上記説明した重合度や変性等の種類違いのものを2種類以上併用してもよい。
【0075】
(カチオン性ポリマー)
本発明においてはまた、前記インク吸収層塗布液の調製に於いて、前記低分子ポリマーとして水溶性多価金属化合物添加後に前記の様にカチオン性ポリマーを添加することができるが、また低分子ポリマーとして以外にもカチオン性ポリマーを添加することができる。低分子ポリマーとして添加する以外にカチオン性ポリマーを塗布液に添加する場合、均一に塗布液に添加するのみならず、シリカ微粒子とともに複合粒子を形成する形でシリカ微粒子分散液に添加してもよい。シリカ微粒子とカチオン性ポリマーによって複合粒子を作製する方法としては、シリカ微粒子にカチオン性ポリマーを混合し吸着被覆させる方法、その被覆粒子を凝集させてより高次の複合粒子を得る方法、さらには混合して得られる粗大粒子を分散機によってより均一な複合粒子にする方法などが挙げられる。本発明においては、シリカ微粒子微粒子分散液に添加するのが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、ポリマー主鎖または側鎖に第1〜3級アミン、第4級アンモニウム塩基、または第4級ホスホニウム塩基などを有するポリマーであり、インクジェット記録用紙で公知の化合物が用いられ、記録用紙の製造し易さの観点からは、実質的に水溶性であるものが好ましく、具体例としてはポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ジシアンジアミドポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリアルキレンポリアミンジシアンジアミドアンモニウム塩縮合物、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、エピクロルヒドリン・ジアルキルアミン付加重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・SO2共重合物、ポリビニルイミダゾール、ビニルピロリドン・ビニルイミダゾール共重合物、ポリビニルピリジン、ポリアミジン、キトサン、カチオン化澱粉、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド重合物、(2−メタクロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロライド重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合物、などが挙げられる。
【0076】
または、化学工業時報平成10年8月15,25日に述べられているカチオン性ポリマー、三洋化成工業株式会社発行「高分子薬剤入門」に述べられている高分子染料固着剤が例として挙げられる。
【0077】
カチオン性ポリマーの数平均分子量としては2000〜50万の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、3000〜10万の範囲である。
【0078】
それ以外にカチオン性ポリマーは、多孔質層塗布乾燥後の皮膜にその水溶液を含浸させることもできる。また、多孔質層塗布後乾燥前に添加する方法も挙げられる。多孔質層塗布後乾燥前に添加する方法としては、カーテン塗布、スプレー塗布、その他の方法が考えられる。
【0079】
(硬膜剤)
本発明のインクジェット記録用紙は、製造(塗布及び乾燥)時におけるひび割れを防止するために、また、光沢性に優れ、高い空隙率を被膜の脆弱性を劣化させずに得るために、ポリビニルアルコールが硬膜剤により硬膜されていることが好ましい。
【0080】
硬膜剤は、一般的にはポリビニルアルコールと反応し得る基を有する化合物、あるいはポリビニルアルコールが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、例えば、エポキシ系硬膜剤(例えば、ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(例えば、1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ホウ酸及びその塩、硼砂、アルミ明礬、イソシアネート化合物等が挙げられる。これらの中でも、ホウ酸及びその塩、エポキシ系硬膜剤及びイソシアネート化合物が好ましい。
【0081】
ホウ酸及びその塩としては、ホウ素原子を中心原子とする酸素酸及びその塩のことを示し、具体的にはオルトほう酸、二ほう酸、メタほう酸、四ほう酸、五ほう酸、八ほう酸及びそれらの塩が含まれる。
【0082】
硬膜剤の使用量は、ポリビニルアルコールの種類、硬膜剤の種類、シリカ微粒子の種類やポリビニルアルコールに対する比率等により変化するが、通常ポリビニルアルコール1g当たり5〜500mg、好ましくは10〜300mgである。
【0083】
上記硬膜剤は、本発明に用いられるインク吸収層形成用の水溶性塗布液を塗布する際に、該塗布液中に添加してもよく、あるいはインク吸収層形成用の水溶性塗布液(硬膜剤非含有)を塗布、乾燥した後、硬膜剤を含む溶液をオーバーコートするなどして供給することができる。また、硬膜剤を使用しない場合には、バインダー自身が電離放射線(例えば、紫外線、電子線等)により架橋するバインダーが好ましく用いられる。
【0084】
(その他の添加剤)
前記の様に本発明のインクジェット記録用紙においては、最表層の乾燥膜厚が全インク吸収層の総乾燥膜厚の2〜20%であることが好ましく、更に好ましくは5〜15%である。すなわち、薄層の最表層中に上記水溶性多価金属化合物を高濃度に含有させることにより、図1に記載のようなより表面領域に多価金属化合物に由来の二次イオン強度の最大値が出現するインク吸収層を実現することができる。
【0085】
本発明に係るインク吸収層の最表層には、界面活性剤を含有することが好ましい。インク吸収層で用いることのできる界面活性剤としては、カチオン系、ベタイン系及びノニオン系の炭化水素系、フッ素系、シリコン系界面活性剤等のいずれも使用可能である。その中でも、塗布故障耐性などの塗膜品質と多層同時塗布適性の観点から、特開2003−312134号公報に記載のカチオン系、ベタイン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤の使用量は0.0001〜1.0g/m2が好ましく、より好ましくは0.001〜0.5g/m2である。
【0086】
本発明に係るインク吸収層の具体的な構成としては、例えば、特開平11−321079号、特開2000−158807号公報などに記載の方法で、シリカ微粒子と親水性バインダー及びカチオン性ポリマーを含有する多孔質のインク吸収層を用いることができる。
【0087】
本発明のインクジェト記録用紙のインク吸収層および必要に応じて設けられるその他の層には、前記した以外に各種の添加剤を添加することができるが、特に、紫外線吸剤、酸化防止剤、ニジミ防止剤等の画像保存性向上剤を含有することが好ましい。
【0088】
これら紫外線吸剤、酸化防止剤、ニジミ防止剤としては、アルキル化フェノール化合物(ヒンダードフェノール化合物を含む)、アルキルチオメチルフェノール化合物、ヒドロキノン化合物、アルキル化ヒドロキノン化合物、トコフェロール化合物、チオジフェニルエーテル化合物、2個以上のチオエーテル結合を有する化合物、ビスフェノール化合物、O−,N−,S−ベンジル化合物、ヒドロキシベンジル化合物、トリアジン化合物、ホスホネート化合物、アシルアミノフェノール化合物、エステル化合物、アミド化合物、アスコルビン酸、アミン系抗酸化剤、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール化合物、2−ヒドロキシベンゾフェノン化合物、アクリレート、水溶性又は疎水性の金属塩、有機金属化合物、金属錯体、ヒンダードアミン化合物(所謂TEMPO化合物を含む。)、2−(2−ヒドロキシフェニル)1,3,5,−トリアジン化合物、金属不活性化剤、ホスフィット化合物、ホスホナイト化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロン化合物、過酸化物スカベンジャー、ポリアミド安定剤、ポリエーテル化合物、塩基性補助安定剤、核剤、ベンゾフラノン化合物、インドリノン化合物、ホスフィン化合物、ポリアミン化合物、チオ尿素化合物、尿素化合物、ヒドラジト化合物、アミジン化合物、糖化合物、ヒドロキシ安息香酸化合物、ジヒドロキシ安息香酸化合物、トリヒドロキシ安息香酸化合物等が挙げられる。
【0089】
これらの中でも、アルキル化フェノール化合物、2個以上のチオエーテル結合を有する化合物、ビスフェノール化合物、アスコルビン酸、アミン系抗酸化剤、水溶性又は疎水性の金属塩、有機金属化合物、金属錯体、ヒンダードアミン化合物、ヒドロキシアミン化合物、ポリアミン化合物、チオ尿素化合物、尿素化合物、ヒドラジド化合物、ヒドロキシ安息香酸化合物、ジヒドロキシ安息香酸化合物、トリヒドロキシ安息香酸化合物等が好ましい。
【0090】
また、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル類、ポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの共重合体、尿素樹脂、またはメラミン樹脂等の有機ラテックス微粒子、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0091】
(支持体)
本発明の記録用紙に用いられる支持体について説明する。本発明では、プリント時のコックリングが発生しない非吸水性支持体が好ましく、非吸水性支持体としては、プラスチック樹脂フィルム支持体、あるいは紙の両面をプラスチック樹脂フィルムで被覆した支持体が挙げられる。プラスチック樹脂フィルム支持体としては、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、セルローストリアセテートフィルム、ポリスチレンフィルムあるいはこれらの積層したフィルム支持体等が挙げられる。これらのプラスチック樹脂フィルムは透明、または半透明なものも使用できる。しかしながら、最も好ましいのは紙の両面をポリオレフィン樹脂で被覆した支持体である。
【0092】
以下、本発明で特に好ましい支持体である紙の両面をポリオレフィン樹脂で被覆した支持体について説明する。
【0093】
本発明に係る支持体に用いられる紙は、木材パルプを主原料とし、必要に応じて木材パルプに加えてポリプロピレン等の合成パルプあるいはナイロンやポリエステル等の合成繊維を用いて抄紙される。木材パルプとしてはLBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP、LUKP、NUKPのいずれも用いることができるが短繊維分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPをより多く用いることが好ましい。但し、LBSPおよびまたはLDPの比率は10質量%以上、70質量%以下が好ましい。
【0094】
上記パルプは不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸塩パルプ)が好ましく用いられ、また漂白処理を行って白色度を向上させたパルプも有用である。
【0095】
紙中には、高級脂肪酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等の白色顔料、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、蛍光増白剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、分散剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤等を適宜添加することができる。
【0096】
抄紙に使用するパルプの濾水度は、CSFの規定で200〜500mlが好ましく、また、叩解後の繊維長は、JIS P 8207に規定される24メッシュ残分と42メッシュ残分の和が30〜70%が好ましい。なお、4メッシュ残分は20%以下であることが好ましい。
【0097】
紙の坪量は50〜250gが好ましく、特に70〜200gが好ましい。紙の厚さは50〜210μmが好ましい。
【0098】
紙は抄紙段階または抄紙後にカレンダー処理して高平滑性を与えることもできる。紙密度は0.7〜1.2g/m2(JIS P 8118)が一般的である。更に原紙剛度はJIS P 8143に規定される条件で20〜200gが好ましい。
【0099】
紙表面には表面サイズ剤を塗布しても良く、表面サイズ剤としては前記原紙中に添加できるのと同様のサイズ剤を使用できる。
【0100】
紙のpHは、JIS P 8113で規定された熱水抽出法により測定された場合、5〜9であることが好ましい。
【0101】
次に、この紙の両面を被覆するポリオレフィン樹脂について説明する。この目的で用いられるポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンが挙げられるが、プロピレンを主体とする共重合体等のポリオレフィン類が好ましく、ポリエチレンが特に好ましい。
【0102】
以下、特に好ましいポリエチレンについて説明する。紙表面及び裏面を被覆するポリエチレンは、主として低密度のポリエチレン(LDPE)及び/または高密度のポリエチレン(HDPE)であるが、他のLLDPEやポリプロピレン等も一部使用することができる。
【0103】
特に、塗布層側のポリオレフィン層は、ルチルまたはアナターゼ型の酸化チタンをその中に添加し、不透明度及び白色度を改良したものが好ましい。酸化チタン含有量は、ポリオレフィンに対して概ね1〜20%、好ましくは2〜15%である。
【0104】
ポリオレフィン層中には、白地の調整を行うための耐熱性の高い着色顔料や蛍光増白剤を添加することができる。
【0105】
着色顔料としては、例えば、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、マンガンブルー、セルリアン、タングステンブルー、モリブデンブルー、アンスラキノンブルー等が挙げられる。
【0106】
蛍光増白剤としては、例えば、ジアルキルアミノクマリン、ビスジメチルアミノスチルベン、ビスメチルアミノスチルベン、4−アルコキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸−N−アルキルイミド、ビスベンズオキサゾリルエチレン、ジアルキルスチルベン等が挙げられる。
【0107】
紙の表裏のポリエチレンの使用量は、インク吸収層の膜厚やバック層を設けた後で低湿及び高湿化でのカールを最適化するように選択されるが、一般にはポリエチレン層の厚さはインク吸収層側で15〜50μm、バック層側で10〜40μmの範囲である。表裏のポリエチレンの比率はインク受容層の種類や厚さ、中紙の厚み等により変化するカールを調整する様に設定されるのが好ましく、通常は表/裏のポリエチレンの比率は厚みで概ね3/1〜1/3である。
【0108】
更に上記ポリエチレンで被覆紙支持体は、以下の(1)〜(7)項の各特性を有していることが好ましい。
(1)引っ張り強さは、JIS P 8113で規定される強度で縦方向が2〜30kg、横方向が1〜20kgであることが好ましい。
(2)引き裂き強度は、JIS P 8116で規定される強度で縦方向が20〜300g、横方向が10〜250gが好ましい。
(3)圧縮弾性率は、9.8kN/cm2以上が好ましい。
(4)不透明度は、JIS P 8138に規定された方法で測定したときに80%以上、特に85〜98%が好ましい。
(5)白さは、JIS Z 8727で規定されるL*、a*、b*が、L*=80〜96、a*=−3〜+5、b*=−7〜+2であることが好ましい。
(6)クラーク剛直度は、記録用紙の搬送方向のクラーク剛直度が50〜300cm3/100である支持体が好ましい。
(7)原紙中の水分は、中紙に対して4〜10%が好ましい。
(8)インク受容層を設ける光沢度(75度鏡面光沢度)は10〜90%が好ましい。
【0109】
上記支持体のインク吸収層面側とは反対側の面には、滑り性や帯電特性を改善する目的でバック層を設けることもできる。バック層のバインダーとしては、ゼラチンやポリビニルアルコール等の親水性ポリマーやTgが−30〜60℃のラテックスポリマーなどが好ましく、またカチオン性ポリマーなどの帯電防止剤や各種の界面活性剤、更には平均粒径が0.5〜20μm程度のマット剤を添加することもできる。バック層の厚みは、概ね0.1〜1μmであるが、バック層がカール防止のために設けられる場合には、概ね1〜20μmの範囲である。また、バック層は2層以上から構成されていても良い。
【0110】
本発明のインクジェット記録用紙において、2層以上のインク吸収層を非吸水性支持体上に塗布する方法としては、公知の方法から適宜選択して行うことができるが、少なくとも2層のインク吸収層を塗布する方法として、例えば、1)少なくとも2層のインク吸収層を同時塗布する方法、2)少なくとも1層のインク吸収層を塗布した後、乾燥前に更に少なくとも1層のインク吸収層を塗布する方法、3)少なくとも1層のインク吸収層を塗布、乾燥後、更に少なくとも1層のインク吸収層を塗布する方法が挙げられる。この中でも、2層以上を同時重層塗布することが、全てのインク吸収層の形成を1回の塗布で行うことができる観点から好ましい。塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0111】
2層以上のインク吸収層を同時重層塗布を行う際の各塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
【0112】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0113】
塗布および乾燥方法としては、塗布液を30℃以上に加温して、同時重層塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましい。塗布液調製時、塗布時及び乾燥時おいて、表層に含まれる熱可塑性樹脂が製膜しないように、該熱可塑性樹脂のTg以下の温度で塗布液の調製、塗布、乾燥することが好ましい。より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0114】
また、その製造過程で35℃以上、70℃以下の条件で24時間以上、60日以下保存する工程を有することが好ましい。
【0115】
加温条件は、35℃以上、70℃以下の条件で24時間以上、60日以下保存する条件であれば特に制限はないが、好ましい例としては、例えば、36℃で3日〜4週間、40℃で2日〜2週間、あるいは55℃で1〜7日間である。この熱処理を施すことにより、水溶性バインダーの硬化反応の促進、あるいは水溶性バインダーの結晶化を促進することができ、その結果、好ましいインク吸収性を達成することができる。
【0116】
(使用インク)
本発明のインクジェット記録用紙を用いて画像記録する際には、水性インクを用いた記録方法が好ましく用いられる。
【0117】
上記水性インクとは、下記着色剤及び溶媒、その他の添加剤を有する記録液体である。着色剤としては、インクジェットで公知の直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料あるいは食品用色素等の水溶性染料あるいは水分散性顔料が使用できる。
【0118】
水性インクの溶媒としては、水及び水溶性の各種有機溶剤が使用でき、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンやグリセリン等の多価アルコール類、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの多価アルコールの低級アルキルエーテル等が好ましい。
【0119】
その他の水性インクの添加剤としては、例えば、pH調節剤、金属封鎖剤、防カビ剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、湿潤剤、界面活性剤及び防錆剤、等が挙げられる。
【0120】
水性インク液は、記録用紙に対する濡れ性を良好にするために、20℃において、通常、0.025〜0.06N/m、好ましくは0.03〜0.05N/mの範囲内の表面張力を有するのが好ましい。上記インクのpHは、好ましくは5〜10であり、特に好ましくは6〜9である。
【実施例】
【0121】
以下に、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で記載の「%」は、特に断りのない限り質量%を表す。
【0122】
《インクジェット記録用紙の作製》
(シリカ分散液Aの作製)
硝酸でpHを3に調整したエタノールを2%含有する純水に、気相法シリカ(日本アエロジル製:アエロジル300)を分散して、20%のシリカ分散液4000gを調製した。これにカチオン性ポリマー(P−1)の20%水溶液を500g、ほう酸18g及びホウ砂16gを溶解した水溶液1000mlを添加し、三和株式会社製の高圧ホモジナイザーで分散し、シリカ分散液Aを作製した。
【0123】
【化1】

【0124】
「記録用紙1の作製:(比較例)」
秤量200g/m2の原紙の両面をポリエチレンで被覆した写真用紙支持体(厚さ220μm)上の記録面側に下記の第1,2,3,4層塗布液を湿潤膜厚が50,50,50,10μmになるように塗布し、5℃で10秒間冷却した後、40℃の風で乾燥させて記録用紙1を作製した。
【0125】
(第1層(最下層)第2層、第3層塗布液)
シリカ分散液B 650g
濃度6%のポリビニルアルコール水溶液(クラレ製:PVA235) 300g
全体の液が1000mlになるように純水を加えて塗布液を作製した。
【0126】
(第4層(最表層)塗布液)
添加順は1→2→3→4の順である。
(1)シリカ分散液B 600g
(2)塩基性塩化アルミニウム 80g
(多木化学製:タキバイン#1500、Al23として23.75%)
(3)濃度6%のポリビニルアルコール水溶液 270g
(クラレ製:PVA235 重合度3500)
(4)濃度4%の両性界面活性剤水溶液(花王製:アンヒトール20N) 4ml
全体の液が1000mlになるように純水を加えて塗布液を作製した。
【0127】
「記録用紙2の作製:(比較例)」
記録用紙1の第4層(最表層)から塩基性塩化アルミニウムを除き、ポリビニルアルコール(クラレ製:PVA203、重合度300)を10%溶液で19.2g加えた以外は同様にして記録用紙2を作製した。
【0128】
「記録用紙3の作製:(本発明)」
記録用紙1から(2)塩基性塩化アルミニウムのを添加後にポリビニルアルコール(クラレ製:PVA203、重合度300)を10%溶液で19.2g加えた以外は同様にして記録用紙3を作製した。
【0129】
「記録用紙4の作製:(本発明)」
記録用紙3の塩基性塩化アルミニウムを酢酸ジルコニル(第一稀元素工業製:ジルコゾールZA−30)に置き換えて、ZrO2として19g添加した以外は同様にして記録用紙4を作製した。
【0130】
「記録用紙5の作製:(本発明)」
記録用紙3のポリビニルアルコール(PVA203)をカチオン性界面活性剤(花王製:コータミン24P)に置き換えた以外は同様にして記録用紙5を作製した。
【0131】
「記録用紙6の作製:(本発明)」
記録用紙3において、塩基性塩化アルミニウムとポリビニルアルコール(PVA203)の添加順を逆にした以外は同様にして記録用紙6を作製した。
【0132】
「記録用紙7の作製:(本発明)」
記録用紙4において、酢酸ジルコニルとポリビニルアルコール(PVA203)の添加順を逆にした以外は同様にして記録用紙7を作製した。
【0133】
「記録用紙8の作製:(本発明)」
記録用紙3において、添加順を前記(3)ポリビニルアルコール(PVA235)→(2)塩基性塩化アルミニウム→ポリビニルアルコール(PVA203)とした以外は同様にして記録用紙8を作製した。
【0134】
「記録用紙9の作製:(比較例)」
記録用紙4において、添加順を添加順を前記(3)ポリビニルアルコール(PVA235)→酢酸ジルコニル→ポリビニルアルコール(PVA203)とした以外は同様にして記録用紙9を作製した。
【0135】
「記録用紙10の作製:(比較例)」
記録用紙3において、第1,2,3,4層塗布液を湿潤膜厚が40,40,40,40μmになるようにした以外は同様にして記録用紙10を作製した。
【0136】
「記録用紙11の作製:(本発明)」
記録用紙3において第4層の塩基性塩化アルミニウムを塩化マグネシウム6水和物に変えて、MgOとして19g添加した以外は同様にして記録用紙11を作製した。
【0137】
「記録用紙12の作製(本発明)」
記録用紙3において第4層の塩基性塩化アルミニウムを塩基性乳酸アルミニウム(多木化学製:タキセラムM−160P)に変更した以外は同様にして記録用紙12を作製した。
【0138】
「記録用紙13の作製:(本発明)」
記録用紙3の第4層の塩基性塩化アルミニウムを塩化カルシウムに変更した以外は同様にして記録用紙13を作製した。
【0139】
「記録用紙14の作製:(本発明)」
記録用紙3において、塩基性塩化アルミニウムをAl23換算値として6.3gに変更した以外は同様にして記録用紙14を作製した。
【0140】
「記録用紙15の作製:(本発明)」
記録用紙3において、ポリビニルアルコール(PVA203)に変えてカチオン性ポリマー(日東紡製:PAS−H−5L)6gを使用した以外は同様にして記録用紙15を作製した。
【0141】
「記録用紙16の作製:(本発明)」
記録用紙3において、第4層の塗布液に硝酸を加え塗布液pHを3.3にした以外は同様にして記録用紙16を作製した。
【0142】
「記録用紙17の作製:(本発明)」
記録用紙3において、第4層の塗布液に酢酸ナトリウム水溶液を加え塗布液pHを5.5にした以外は同様にして記録用紙17を作製した。
【0143】
「記録用紙18の作製:(本発明)」
記録用紙1において、バインダーであるポリビニルアルコール(PVA235)を入れてから、三和株式会社製の高圧ホモジナイザーで分散して記録用紙18を作製した。
【0144】
「記録用紙19の作製:(本発明)」
記録用紙3の気相法シリカ(アエロジル300)を湿式シリカ(トクヤマ製:ファインシールX37B)に変更した以外は同様にして記録用紙19を作製した。
【0145】
「記録用紙20の作製:(本発明)」
記録用紙4において、第1層〜第4層のウエット膜厚を40,40,40,40μm
とした以外同様にして、記録用紙20を作製した。
【0146】
なお、前記記の第1,2,3,4層塗布液を湿潤膜厚が50,50,50,10μmになるように塗布し形成した記録用紙1〜19については、25℃で50%RHにて5時間調湿の後、各試料について顕微鏡にて断層写真を撮影し、断面を観察しインク吸収層及び最表層の乾燥膜厚を測定した結果、最表層膜厚は2.4〜2.7μmの範囲であり、インク吸収層全体の膜厚に対し6〜6.8%の範囲であった。それに対し記録用紙20においては、最表層膜厚9.8μm、インク吸収層全体の膜厚に対し24.5%であった。
【0147】
また、各記録用紙について、水溶性多価金属化合物由来の二次イオンフラグメントイオン強度ピークのプインク吸収層厚さ方向におけるロファイルについては、前記のようにPysical Electronics社製 TRIFT−IIを使用し測定した。
【0148】
《評価》
(膜面故障)
各記録用紙について、10×10cm2あたりの0.2mm以上の大きさのひび割れ個数をルーペを用いて観察し、また目視で筋故障を観察し、下記の通り評価を行った。筋故障とは塗布方向に平行に筋状の模様が見られることをいう。
○ ひび割れ個数は5個未満、筋故障なし
△ ひび割れ個数6〜10個、あるいは筋故障が目視でわずかに認められる
× ひび割れが11個以上、あるいは筋故障が明らかに認められる
上記ランクで、○、△であれば実用上問題はないと判断できる。
【0149】
(印字濃度)
通常環境下で、エプソン製インクジェットプリンターPMG800を用いて、黒のベタ印字を行い、2時間自然乾燥後、反射濃度を測定した。反射濃度は、分光測色計濃度計(日本平版機材株式会社:X−Rite938)で測定した。
【0150】
(光沢感)
記録面側の光沢感として、C値をスガ試験機(株)製の写像性測定器(ICM−1DP)を用いて反射60度を測定した。
【0151】
(塗布液安定性)
最表層塗布液の経時での安定性について、粘度また濁度で比較した。
【0152】
尚、粘度については、ブルックフィールド社製デジタル粘度計DV−II+(B型回転粘度計)により温度40℃において測定した。また、濁度は積分球式濁度計SEP−PT−706D(三菱化学社製)で測定した。
○ 3時間後の塗布液粘度上昇10cp以下あるいは濁度上昇10ppm以下
△ 3時間後の塗布液粘度上昇20cp以下あるいは濁度上昇20ppm以下
× 3時間後の塗布液粘度上昇20cp超あるいは濁度上昇20ppm超
【0153】
【表1】

【0154】
本発明のインクジェット記録紙は、塗布液安定性が高く、膜面故障がなく、また印字濃度も高く光沢感に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】インク吸収層厚さ方向の多価金属存在位置を示す二次イオン強度ピークを示す一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙において、該少なくとも2層のインク吸収層が、シリカ微粒子、塩基性塩化アルミニウム及びポリビニルアルコール誘導体を少なくとも2種含有し、少なくとも1種のポリビニルアルコール誘導体の平均重合度が1000以下であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール誘導体がシリカ微粒子に対して0.5〜5質量%含有されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記少なくとも2層のインク吸収層のうち最表層の乾燥膜厚は全インク吸収層の乾燥膜厚に対し2%〜20%であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層したインクジェット記録用紙の製造方法であって、前記インク吸収層のうち最表層は、水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有し、飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有し、かつ、前記インク吸収層のうち、最表層における、前記シリカ微粒子および水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、前記最表層の隣接層、それ以外の層においてよりも少ないインクジェット記録用紙の製造方法において、
前記最表層は、シリカ微粒子、水溶性多価金属化合物及び低分子ポリマー又はカチオン性界面活性剤を含有する液にバインダーを添加し形成された最表層塗布液を塗布し形成されることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項5】
前記低分子ポリマーがポリビニルアルコール誘導体であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項6】
非吸水性支持体上に少なくとも2層のインク吸収層を積層するインクジェット記録用紙の製造方法であって、前記インク吸収層のうち最表層は、水溶性多価金属化合物とシリカ微粒子を含有し、かつ飛行時間型二次イオン質量分析法で得られる前記水溶性多価金属化合物の二次イオンフラグメントのインク吸収層厚さ方向のプロファイルにおいて、最表面から10μm以内にイオン強度ピークの最大値を有し、かつ、前記インク吸収層のうち、最表層中における、前記シリカ微粒子および水溶性多価金属化合物の酸化物換算での質量比を示す
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、前記最表層の隣接層、それ以外の層においてよりも少ないインクジェット記録用紙の製造方法において、
前記最表層は、最表層塗布液を塗布し形成されるものであり、かつ、前記最表層塗布液は、シリカ微粒子、水溶性多価金属化合物を含有する液にバインダーを添加し形成され、かつ、全バインダー量の50%以上を添加後に再分散されることを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性多価金属化合物の少なくとも1種がアルミニウム原子あるいはジルコニウム原子を含む化合物であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項8】
前記最表層に含有されるシリカ微粒子と水溶性多価金属化合物をそれぞれ酸化物換算した質量比
SiO2/MOx/2
(ここにおいて、Mは水溶性多価金属化合物中の2価以上の金属を表し、xは該金属Mの価数を表す。)
で表される値が、10以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項9】
前記最表層の乾燥膜厚は全インク吸収層の乾燥膜厚に対し2%〜20%であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項10】
前記最表層の塗布液pHが3.5〜5の範囲内であることを特徴とする請求項4〜9いずれか1項に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−123299(P2006−123299A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313632(P2004−313632)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】