説明

インクジェット記録用紙

【課題】 高速インクジェットプリンターを用いて印刷した場合においても、高いインク乾燥性を有すると共に高精細バーコードが読み取り可能となる高い耐フェザーリング性を有し、かつ耐水性を有する普通紙タイプのインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 基紙の少なくとも一方の面に、カチオン性樹脂、アニオン性蛍光染料、及び結着剤を含有し、かつ顔料を含まない塗工液を塗工してなるインクジェット記録用紙において、該基紙が、疎水性基を有するとともに、カチオン性基の少なくとも一部が4級化されてなる両イオン性共重合体、好ましくは疎水性モノマー(A)、カチオン性モノマー(B)、およびアニオン性モノマー(C)を重合して得られるもので、かつ前記モノマー(C)のアニオン当量が前記モノマー(B)のカチオン当量の0.1〜90%で、かつそのカチオン性基の4級化率は40モル%以上である両イオン性共重合体を有効成分とする製紙用内添サイズ剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含むインク受容層を有さない普通紙タイプのインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、各種の方法により飛翔させたインクの微小液滴を、紙などの記録用紙に付着させて画像や文字を形成させる記録方式である。この記録方式は高速化、フルカラー化が容易であり、さらに記録時の騒音が低く、装置が低価格なことから、家庭用として広く普及している。一方、商業用途の分野において、従来はノンインパクト(NIP)印刷を用いて可変情報(公共料金やクレジットの請求書や領収書、配送用伝票、広告など)が印刷されてきたが、近年、ラインヘッドを有する高速インクジェットプリンターによる印刷に置き換えられている。
【0003】
インクジェット記録用紙として、インク受容層を設けた塗工紙タイプと顔料を含むインク受容層を設けない普通紙タイプに大別される。デジタルカメラの画像出力には高精細画像を再現できる塗工紙タイプが主に用いられ、一方、ビジネスレポートや公共料金の明細書などの印刷には安価な普通紙タイプが主に用いられる。今後、このようなインクジェット記録の用途拡大に伴い、低コストでかつ高精細画像を再現可能な普通紙タイプのインクジェット記録用紙が求められている。
【0004】
普通紙タイプのインクジェット記録用紙に求められる性能として、高白色度であることが挙げられる。高白色度な記録用紙に印刷することで、カラー印刷の映えや文字の再現性が良好となる。併せて、GS1−128に代表される高精細バーコードを読み取り可能な高い耐フェザーリング性(用紙上におけるインクのニジミを抑える)、耐水性、および高速印刷に耐えうる高いインク乾燥性などが求められる。
【0005】
耐フェザーリング性について述べると、近年コンビニエンスストアで取り扱い可能な公共料金などの振込用紙に記載されるバーコードGS1−128に統一された。GS1−128は従来主流であったJAN、CODE39などと比較して非常に高精細であり、これまで以上に高い耐フェザーリング性が求められる。
【0006】
一方、インク乾燥性について述べると、前記インクジェットプリンターにはマイクロ波乾燥、高周波乾燥、シリンダー乾燥、熱風乾燥などの補助乾燥装置が設置されているが、あくまで補助乾燥であり十分な乾燥能力は備わっていない。100m/min.以上の高速度で印刷されるため、記録用紙には印刷後に素早く浸透乾燥することが求められる。インク吸収層を有していない普通紙タイプの記録用紙においては特に重要な課題である。
【0007】
特許文献1には、パルプ繊維、填料として白色の無機鉱物粉末、内添サイズ剤としてロジン系サイズエマルジョンを含有し、基紙表面に水溶性高分子及び導電剤を含有するサイズプレス液が塗布されてなる記録用紙が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、カチオン性樹脂を0.2〜2.0g/mの範囲で付着させ、ブリストー吸収係数が1.07〜1.90(ml/m・ms1/2)である高速輪転インクジェットプリンティングシステムに用いるシートが記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、蛍光染料と、ジアリルジメチルアンモニウム塩を含むモノマーを重合して得られるポリマー、染料固着剤、特定のカチオン性ポリマーを含有した紙塗工用組成物、及びそれを塗工してなるインクジェット記録用紙が記載されている。
【0010】
また、特許文献4には、針状、柱状、紡錘状、ウィスカー状のいずれかの形状を有しアスペクト比が5以上の軽質炭酸カルシウムを紙質量当たり10質量%含有し、内添サイズ剤としてをアルケニル無水コハク酸を含有させた、カラー印刷適性を有する記録用紙が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2000−071606号公報
【特許文献2】特開平9−202042号公報
【特許文献3】特開2006−241626号公報
【特許文献4】特開2005−120510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1〜4に記載の技術では、目的とする高い耐フェザーリング性とインク乾燥性の両立ができない。インクジェット印刷品質を向上するために耐フェザーリング性を付与すると、高速インクジェットプリンターに用いた場合、ロール汚れなどの不具合が生じる。
【0013】
特に特許文献1、2に記載の技術の場合、耐フェザーリング性は不十分であり、近年の高精度なバーコードを高速インクジェットプリンターで印刷することができない。また、特許文献3の技術の場合、塗工液中に4種の異なるカチオン性ポリマーとアニオン性の蛍光染料を混合する必要があり、塗工液の安定性が悪く塗工適性が劣っていた。特許文献4に記載の技術の場合、炭酸カルシウムを填料とすることで、ある程度の白色度を得ることができるが、インクジェット記録方式で記録した場合、耐フェザーリング性および印刷部の耐水性が不十分であった。
【0014】
従って、本発明は、高いインク乾燥性を有すると共に高精細バーコードが読み取り可能となる高い耐フェザーリング性を有し、かつ耐水性を有し、高白な普通紙タイプのインクジェット記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意研究した結果、パルプ、填料、および疎水性基を有するとともに、カチオン性基の少なくとも一部が4級化されてなる両イオン性共重合体を有効成分とする製紙用内添サイズ剤を含有する基紙に、少なくともカチオン性樹脂、アニオン性蛍光染料及び結着剤を含有する塗工液を塗工して得られるインクジェット記録用紙により上記課題を解決できることを見出した。
【0016】
また、本発明は、JIS−P8251に規定された灰分が10%〜30%であることが好ましく、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いインク乾燥性を有すると共に高精細バーコードが読み取り可能となる高い耐フェザーリング性を有し、かつ耐水性を有し、高白な普通紙タイプのインクジェット記録用紙を得ることができる。また、基紙中に填料として炭酸カルシウムを比較的高い灰分量で含有し、内添サイズ剤として疎水性基を有するとともに、カチオン性基の少なくとも一部が4級化されてなる両イオン性共重合体を有効成分とする製紙用内添サイズ剤を含有することで、顔料を含むインク受理層を有さない場合であっても高い耐フェザーリング性とインク乾燥性を両立できる。さらに、ポリアミンエピハロヒドリン系樹脂と蛍光染料がスチルベン型アニオン性蛍光染料、および結着剤を含有する塗工液を塗布することで、高白で更に高い耐フェザーリング性を両立することができる。特にトランスファーロールコーターを用いることで、両面ともに高いインクジェット記録適性(耐フェザーリング性、インク乾燥性など)を有し、且つ高い表面強度を有しており印刷適性に優れたインクジェット記録用紙を高い生産性で安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のインクジェット記録用紙は、以下のパルプ、填料、サイズ剤などを含む基紙上に、カチオン性樹脂および蛍光染料を含有し、顔料を含まない塗工液を塗工してなる普通紙タイプのものである。顔料を含有するインク受容層は設けない。
【0019】
1.基紙
<パルプ>
基紙は、木材パルプおよび填料、助剤等を抄紙してなる。木材パルプとしては、公知の化学パルプ、機械パルプ、および脱墨パルプ等が挙げられる。また、これら各種パルプは必要に応じて単独で使用され、または併用される。パルプとしては、抄紙に慣用される従来公知のものを用いることができ、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;等の木材パルプや、脱墨パルプ(DIP)を挙げることができる。さらに、コットンパルプや麻、バガス、ケナフ、エスパルト、楮、三椏、雁皮等の非木材パルプも用いることができる。
【0020】
<填料>
基紙中に内添する填料は、炭酸カルシウムであることが望ましいが、特にロゼッタ(rosette)型の軽質炭酸カルシウムを使用することが好ましい。ロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムとは、紡錘形状の軽質炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集してロゼッタ型の二次粒子を形成したものであり、具体的にはSpecialty Minerals Inc.社のアルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等の製品を好ましく挙げることができる。ここで、放射状とは、例えば上記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものを指す。
【0021】
軽質炭酸カルシウムは生産コストや操業性、および低添加量で高い白色度、および不透明度が得られる点で優れ、さらにロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムはその特殊な形状のため吸油量が高い。基紙に高配合させることによりインクを吸収する能力が大きく向上し、インクジェット記録を行った際の乾燥性が大きく向上する。特に印刷速度150m/min.以上の高速インクジェットプリンターを用いた場合に効果が大きい。
【0022】
図1は、液中に分散した状態のロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(二次粒子)の形態の一例を示す電子顕微鏡像である。この図において、各一次粒子の基部同士が凝集し、各一次粒子がその先端へ向かって放射状に伸びている。また、各一次粒子は基部の幅(径)がやや大きく、先端に向かって細くなっている。なお、図中のmicronは、μmを示す。
【0023】
填料としては、ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの他、ロゼッタ型以外の軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、ゼオライト等従来から慣用されている無機微粒子を使用することができる。但し、填料全体に対する上記無機微粒子の割合は20質量%以下程度とするのが好ましい。
【0024】
<灰分>
基紙のJIS−P8251に規定された灰分は、10〜30重量%であることが好ましく、13〜25重量%であることがより好ましく、さらに好ましくは15〜20重量%である。灰分が13〜25重量%であると、インクジェット記録時のインク乾燥性が向上する。一方、灰分が13重量%未満であるとこれらの効果が得られず、25重量%を超えるとインクが記録用紙における横方向へのインクの浸透を制御できず、繊維に沿ってインクが滲み易くなり、耐フェザーリング性が低下する。
【0025】
なお、JIS−P8251に規定する灰分は、試料(紙)を525±25℃の温度で燃焼させた後の灰分残留物の量を、試料の絶乾質量に対する百分率で表したものである。
【0026】
<基紙の抄造>
基紙を抄造する抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機などの公知の装置を適宣使用することができる。このうち、ツインワイヤー抄紙機を用いて抄造することにより、原料スラリーの上下より脱水を行うために紙表裏の組成差が小さいため、特に好ましい。本発明におけるインクジェット記録用紙を得るために、抄造条件としてパルプ濾水度、ジェットワイヤー比、プロファイル、プレス、カレンダーなどの調整が行われ、また乾燥条件も抄紙機のドライヤーでの蒸気圧および通気方法など、公知の方法が利用できる。抄紙pHは、酸性領域からアルカリ性領域で行うことが可能である。好ましくは、pH6〜9の弱酸性〜弱アルカリ性領域である。また、基紙中には、本発明の効果を損なわない範囲で、紙力増強剤、消泡剤、pH調整剤、色相を調整するための染料または有色顔料、視覚的白さを向上させるための蛍光染料等の抄紙用内添薬品を内添することができる。
【0027】
<内添サイズ剤>
本発明においては、疎水性基を有するとともに、カチオン性基の少なくとも一部が4級化されてなる両イオン性共重合体を有効成分とする内添サイズ剤を使用する。これにより、填料として炭酸カルシウムを使用し、硫酸バンドを使用しないか硫酸バンド使用量の少ない中性抄造においても効率的にサイズ性を付与することできる。しかも、実際の抄造系内に存在するアニオントラッシュとの相互作用が少ない点でも、パルプ繊維に良好に自己定着し、効果的にサイズ性を発現することが期待される。また、アルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸にように多量に添加したとしてもインクジェット記録用紙の摩擦係数を極端に低下させることはない。
【0028】
前記両イオン性共重合体がこのような効果を発現するのは、前記両イオン性共重合体が、パルプに自己定着するとともに炭酸カルシウムと相互作用もする部位を一つのポリマー分子内に持ち、かつ、ポリマー内およびポリマー間でイオン的な錯体を形成しうるからである、と推測される。つまり、一分子内に前述の部位を持つことにより、パルプと炭酸カルシウムの効率的な疎水化が可能となり、また、イオン的な錯体を形成することにより、巨大化した分子の集合体の構造を持つことが可能になり、その結果、パルプ繊維への物理的な歩留まりの向上や、アニオントラッシュなどとの相互作用が緩和されることによる自己定着能の向上などが達成されて、効果的なサイズ発現が可能になっていると考えられる。
【0029】
前記両イオン性共重合体は、疎水性モノマー(A)、カチオン性モノマー(B)、およびアニオン性モノマー(C)を必須とする単量体成分を重合して得られるものであることが好ましい。この両イオン性共重合体は、疎水性モノマー(A)に由来する疎水性基と、カチオン性モノマー(B)に由来するカチオン性基と、アニオン性モノマー(C)に由来するアニオン性基とを有するものである。
【0030】
前記疎水性モノマー(A)としては、スチレン類、(メタ)アクリル酸のC1〜C14アルキルエステル(炭素数1〜14のアルキルのエステル)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではなく、例えば(メタ)アクリロニトリル等も使用することができる。疎水性モノマー(A)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
前記スチレン類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0032】
前記(メタ)アクリル酸のC1〜C14アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの脂肪族炭化水素エステルのほか、脂環系や芳香族系の炭化水素基を含有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0033】
前記カチオン性モノマー(B)としては、3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、3級アミノ基含有(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド等のカチオン性モノマーも使用することができる。カチオン性モノマー(B)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0034】
前記3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0035】
前記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
また、前記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド;メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。
【0037】
前記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレートなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリレート;メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
【0038】
前記4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミドや前記4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、前述した3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドまたは3級アミノ基含有(メタ)アクリレートを後述する4級化剤(例えば、塩化メチル、塩化ベンジル、硫酸メチル、エピクロルヒドリンなど)を用いて4級化したモノ4級塩基含有モノマーが挙げられる。具体的には、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0039】
前記アニオン性モノマー(C)としては、α,β−不飽和カルボン酸類、α,β−不飽和スルホン酸類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。アニオン性モノマー(C)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
前記α,β−不飽和カルボン酸類としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、およびこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)等が挙げられる。
【0041】
前記α,β−不飽和スルホン酸類としては、例えば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)等が挙げられる。
【0042】
前記単量体成分においては、前記アニオン性モノマー(C)のアニオン当量が前記カチオン性モノマー(B)のカチオン当量の0.1〜90%であることが好ましく、より好ましくは5〜50%、さらに好ましくは5〜20%であるのがよい。つまり、前記単量体成分を重合してなる前記両イオン性共重合体は、カチオン当量が多く、アニオン当量の少ない方がサイズ効果を発現し易いのである。カチオン当量がアニオン当量と近似した値もしくは同じ値であるか、カチオン当量がアニオン当量よりも小さい場合(具体的には、カチオン当量に対するアニオン当量の比率(百分率)が90%を超える場合)、共重合体のアニオン部位とカチオン部位とがイオン的に強く相互作用し過ぎることにより活性なイオン基が減少する。その結果、パルプ繊維へのカチオンの定着作用を低下させたり、疎水部位と親水部位の配向バランスが悪くなったりする等の要因から、効率良くサイズ性を発現し難くなる傾向がある。
【0043】
従って、前記単量体成分におけるカチオン当量に対するアニオン当量の比率と同様、単量体成分を重合してなる両イオン性共重合体におけるカチオン当量に対するアニオン当量の比率も、前記と同じ範囲であることが好ましい。例えば、単量体成分の重合がビニル結合によりなされるよう単量体成分を選択した場合など、重合にカチオン性基およびアニオン性基が関与しない場合には、両イオン性共重合体におけるカチオン当量に対するアニオン当量の比率は、単量体成分におけるカチオン当量に対するアニオン当量の比率と一致することとなる。
【0044】
前記単量体成分における各必須モノマーの含有割合は、カチオン性モノマー(B)のカチオン当量に対するアニオン性モノマー(C)のアニオン当量の比率が前述した範囲になるように設定することが望ましく、それ以外の点では、特に制限はない。例えば、単量体成分全量に対して、疎水性モノマー(A)は60〜90重量%程度、カチオン性モノマー(B)は10〜40重量%程度、アニオン性モノマー(C)は1〜10重量%程度であることが好ましい。
【0045】
前記単量体成分は、さらに必要に応じて、前述した疎水性モノマー(A)、カチオン性モノマー(B)、およびアニオン性モノマー(C)のほかに、本発明の効果を損なわない範囲において、その他のモノマーを含有させることもできる。その他のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を含有しない水酸基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、iso−プロピル(メタ)アクリルアミドのようなアミノ基を含有しないアミド基含有モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メチルビニルエーテル等が挙げられる。その他のモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0046】
前記両イオン性共重合体のカチオン性基を4級化するに際しては、前記単量体成分を重合した後に得られた共重合体を4級化剤で4級化してもよいし、前記単量体成分のカチオン性モノマー(B)として4級アンモニウム基含有モノマーを用いて重合するようにしてもよい。
【0047】
4級化に際し用いることのできる4級化剤としては、例えば、硫酸ジメチル、炭酸ジメチル、塩化メチル、塩化アリル、塩化ベンジル、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エチレンクロルヒドリン、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシドール、ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等の1種もしくは2種以上が挙げられる。これらの中でも、エピクロルヒドリン、塩化ベンジルが好ましい。
【0048】
前記両イオン性共重合体の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは30,000〜600,000である。重量平均分子量が10,000未満であると、サイズ剤の歩留まりが著しく低下してサイズ効果が得られ難くなる傾向があり、一方、1,000,000を超えると、抄紙の乾燥工程においてサイズ剤が紙中に効率よく拡散されなくなるため、サイズ剤成分が紙中で不均一に存在してサイズ効果が低下する可能性がある。
【0049】
本発明で使用する製紙用内添サイズ剤は、前記両イオン性共重合体を有効成分とするものであればよく、例えば、前記両イオン性共重合体そのものであってもよいし、該共重合体を含む溶液または分散液(例えば、前記重合および4級化により得られた反応液など)であってもよい。また、製紙用内添サイズ剤は、前記両イオン性共重合体のほかに、本発明の効果を損なわない範囲において、例えば、中性ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)等の従来公知のサイズ剤を含んでいてもよい。
【0050】
本発明において、前記両イオン性共重合体を有効成分とする製紙用内添サイズ剤の添加量は、通常、有効成分(前記両イオン性共重合体)が対パルプ0.05〜1.0重量%となるようにすることが好ましい。添加量が0.05重量%未満であるサイズ効果が不十分であり、1.0重量%を超えて添加してもサイズ度の向上は頭打ちとなる。
【0051】
<ステキヒトサイズ度>
本発明においては上記基紙中に、内添サイズ剤に前記両イオン性共重合体を、内添填料にロゼッタ(rosette)型の軽質炭酸カルシウムを含有することで、高いインク吸収性を保ちつつ、高いサイズ効果を発現させることができるが、さらにJIS−P8122にて規定されるステキヒトサイズ度が10〜25秒であることが望ましい。高いレベルでの耐フェザーリング性とインク乾燥性の両立を図るためには、ステキヒトサイズ度が12秒〜18秒であることが特に好ましい。ステキヒトサイズ度が10秒未満である場合、インクジェット記録用紙に打ち込まれたインクが横方向に広がりやすくなり、耐フェザーリング性が大きく低下する。一方、ステキヒトサイズ度が25秒を超える場合、耐フェザーリング性は良好であるが、インク乾燥性が大きく低下するため、高速インクジェットプリンターに使用することが困難である。
【0052】
ステキヒトサイズ度は基紙中の内添サイズ剤の含有量や、後述する塗工液の塗工量等で調整できる。基紙中の内添サイズ剤の含有量を増やすと、また基紙に塗工する塗工液の塗工量を増やすとステキヒトサイズ度の値は大きくなる。
【0053】
2.塗工液
<カチオン性樹脂>
本発明においては、アニオン性のインクジェット用インクに耐水性を付与するため、染料定着剤となるカチオン性樹脂がインク受容層に含まれていることが好ましい。
【0054】
カチオン性樹脂は、カチオン性の水溶性高分子であり、耐フェザーリング性およびインク耐水性を向上させる点から分子量200,000以下であることが好ましい。特に、本発明におけるインクジェット記録用紙に用いる場合、カチオン性樹脂の分子量は10,000未満であることが好ましい。この理由は次のように推測される。つまりインクジェット用インクは、インク受容層の顔料内部の微小空隙や顔料表面に吸着されると考えられる。そこでインクを耐水化するためには、インクと結合するカチオン性樹脂をインク受容層中の顔料内部の微小空隙や顔料表面に分布させる必要があるが、カチオン性樹脂の分子量が200,000を超える場合は顔料内部の空隙に分布できず、顔料内部に入り込んだインクに耐水性を付与できないことがある。また、カチオン性樹脂のアニオン要求量は5meq/g以上であることが好ましい。アニオン要求量が5meq/g未満である場合、インク定着能力が十分でない場合がある。
【0055】
なお、上記分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)で測定した重量平均分子量であり、アニオン要求量とはカチオン密度とよばれ、通常滴定薬として(1/400)Nポリビニル硫酸カリウム(PVSK)溶液および指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液を用いる一般的なコロイド滴定法によって測定し、下記の計算式により得られる。
【0056】
【数1】

【0057】
カチオン性樹脂としては、例えばポリエチレンイミン4級アンモニウム塩誘導体;アンモニア・ジアルキルアミン・エピハロヒドリン樹脂;ポリアミンエピハロヒドリン;ポリアミドエピハロヒドリン;ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、ジシアンアミド・ホルムアルデヒド樹脂;ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド樹脂;ジメチルジアリルアンモニウムクロライド樹脂等が例示される。このうち、アンモニアとアミン類とエピハロヒドリン類とを縮重合させてなるポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を用いると、後述する高速インクジェットプリンターで印刷した際の耐フェザーリング性がさらに向上するので特に好ましい。
【0058】
前記樹脂に用いられるアミン類としては、例えば第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアルキルポリアミン、およびアルカノールアミンモノアミンなどを挙げることができる。具体的には第2級アミンとして、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、メチルオクチルアミン、メチルラウリルアミン、およびジベンジルアミン等を挙げることができる。第3級アミンとして具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−sec.−ブチルアミン、トリ−tert.−ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、およびトリベンジルアミン等を挙げることができる。このうち、第2級アミンのジメチルアミンおよびジエチルアミンが特に好ましい。
【0059】
前記樹脂におけるエピハロヒドリン類として具体的には、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、メチルエピクロルヒドリン等から選ばれる1種類以上を使用できるが、特にエピクロロヒドリンを使用することが好ましい。
【0060】
前記樹脂の合成方法としては、例えば、特開平10−152544号公報、特開平10−147057号公報に記載される公知の方法を用いることができる。上記樹脂を1種単独でインク受容層塗工液に配合しても良く、また異なる重合度のものを混合して塗工液に配合しても良い。なお、上記樹脂は適宣合成したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。
【0061】
本発明においては、カチオン性樹脂の塗工量が両面で0.5〜5.0g/mであることが好ましく、1.0〜3.0g/mであることがより好ましい。両面の塗工量が1.0g/m未満である場合、十分な耐フェザーリング性および耐水性が得られない。一方、両面の塗工量が5.0g/mを超えるカチオン性樹脂を塗工してもこれ以上耐フェザーリング性および耐水性は向上せず、過剰に塗工した分、薬品コストも上昇するため好ましくない。
【0062】
<蛍光染料>
本発明においては、高い白色度を得るために、塗工液中にアニオン性蛍光染料を配合することが好ましい。アニオン性蛍光染料としては、ジアミノスチルベン型、イミダゾール型、オキサゾール型、トリアゾール型、クマリン型、ナフタルイミド型、およびピラゾリン型蛍光染料が挙げられる。一般的にアニオン性の蛍光染料はカチオン性樹脂との相溶性が悪く、混合時に凝集物が発生する。本発明においては、前述したカチオン性樹脂との相溶性が高く、高い白色度が得られるアニオン性蛍光染料として、特にジアミノスチルベン型が好ましい。
【0063】
<結着剤>
塗工液中に含有する結着剤に特に制限はなく、例えば公知の樹脂から適宣選択することができる。本発明においては、水溶性高分子接着剤、合成エマルジョン系接着剤等、水に溶解または分散可能なものが好ましい。水溶性高分子接着剤としては、デンプンまたはその変性物、ポリビニルアルコールおよびその変性物、カゼインなどを挙げることができる。また、合成エマルジョン系接着剤としては、アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、スチレンブタジエンラテックス、ウレタン樹脂系エマルジョンなどを挙げることができるが、印刷濃度の点から水溶性高分子接着剤を使用することが好ましい。結着剤として具体的には、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、酸化デンプン、ヒドロキシルエチルエーテル化デンプン、リン酸エステル化デンプンなどが挙げられる。
【0064】
<その他の成分>
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工液中にサイズ剤、染料、保水剤、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤、導電剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、などの添加剤を配合することが可能である。
【0065】
<塗工方法>
本発明においては、インク受理層はトランスファーロールコーターにより高速(300m/min.以上、1000m/min.以上も可能)で塗工形成される。これらは支持体に同時に両面塗工でき、抄紙機上に容易に設置できる塗工方式である。これにより、生産性が大幅に向上するとともに、支持体の両面同時に塗工することにより、両面印刷可能なインクジェット記録用紙を安価に製造可能となる。トランスファーロールコーターとしては、ゲートロールコーター、ロッドメータリングサイズプレス、ブレードメータリングサイズプレスなどが挙げられ、前計量方式(印刷塗工方式)で支持体に塗工液を塗布する(複数のロールやバ−やブレード等で計量した塗工液を、アプリケーションロールを用いて支持体に塗布する)コーターであり、ブレードコーターやバーコーターなどの後計量方式(支持体に付着させた塗工液を掻き取る方式)で塗工するコーターと比較して、塗工時に用紙にかかる負荷が小さいため断紙し難く、より高速で塗工できる等の利点がある。
【0066】
本発明において、トランスファーロールコーターはオンマシンコーターであってもオフマシンコーターであっても良い。オンマシンコーターとは、支持体の製造機(抄紙機等)上に設置されて支持体の製造と同一ラインで塗工するものであり、オフマシンコーターとは、支持体の製造機と別に設置され、製造された支持体を一旦巻取り、別ラインのコーターで塗工するものである。生産効率を向上させてコストダウンを図る点では、オンマシンコータートランスファーロールコーターを用いるのが好ましい。なお、従来のインクジェット記録用紙の製造における塗工方式としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、バーコーター、カーテンコーターなどが用いられているが、これらの方式で支持体に同時に両面塗工することは困難であり、両面塗工するには、製造工程数の増加、乾燥負荷の増大などの問題が生じ、実用的でない。
【0067】
3.印刷
本発明における高速インクジェットプリンターとは、印刷速度100m/min.以上のロール印刷機を指す。前記インクジェットプリンターには、インク各色毎にラインヘッドが搭載されており、高速印刷を可能としている。インクは水性染料タイプ、または水性顔料タイプに分別される。また、マイクロ波乾燥、高周波乾燥、シリンダー乾燥、熱風乾燥などの補助乾燥装置が設置されている。具体的には、Kodak versamark 社製VX5000e、イセトー社製イセトースーパージェット4000、ミヤコシ社製MJP600などが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、当然のことながら、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。また、薬品添加率については、特に指定が無い場合は、固形分の添加率を示す。有姿と指定している場合は、固形分ではなく薬品そのものの添加率を示す。例えば1%濃度の薬品を固形分で0.2%添加する場合、有姿では20%添加となる。
なお、以下の実施例および比較例において、共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより下記の条件で測定した。
【0069】
カラム:昭和電工(株)製「Asahipak GF−7M HQ」、「Asahipak GF−310 HQ」
機器:昭和電工(株)製「GPC SYSTEM−21H」
【0070】
<両イオン性共重合体の合成例>
[合成例1]
疎水性モノマーとしてスチレン30重量部、ブチルアクリレート50重量部、カチオン性モノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレート15重量部、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド3重量部、アニオン性モノマーとしてメタクリル酸1重量部、イタコン酸1重量部からなる単量体成分と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン2重量部と、溶媒としてメチルイソブチルケトン50重量部とを4つ口フラスコに入れ、85℃まで加熱した後、開始剤としてベンゾイルパーオキサイド2.5重量部を加え、次いで90℃で3時間重合させた。次に、水300重量部および90%酢酸水7.7重量部を加えて水溶化した後、加熱蒸留してメチルイソブチルケトンを留去させた。その後、85℃で4級化剤としてエピクロルヒドリン8.5重量部を添加して同温度で3時間反応させた。このとき、反応後の反応液は完全に水溶化していた。次いで、冷却し、水で希釈して、疎水性基を有する両イオン性共重合体(重量平均分子量260,000)を含む固形分20重量%の水溶液を得、これを製紙用内添サイズ剤(1)とした。
なお、単量体成分におけるアニオン性モノマーのアニオン当量をカチオン性モノマーのカチオン当量に対する比率(百分率)で示すと24%、また、得られた内添サイズ剤中の共重合体について、そのカチオン性基の4級化率は80モル%である。
【0071】
[合成例2]
疎水性モノマーとしてスチレン50重量部、ブチルメタクリレート26重量部、カチオン性モノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレート15重量部、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド6重量部、アニオン性モノマーとしてメタクリル酸1重量部、アクリル酸1重量部、無水マレイン酸1重量部からなる単量体成分と、連鎖移動剤としてチオグリコール酸1.5重量部と、溶媒としてイソプロパノール50重量部とを4つ口フラスコに入れ、85℃まで加熱した後、開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリル2.5重量部を加え、次いで90℃で3時間重合させた。次に、水300重量部および90%酢酸水9重量部を加えて水溶化した後、加熱蒸留してイソプロパノールを留去させた。その後、85℃で4級化剤としてジメチル硫酸13.5重量部を添加して同温度で3時間反応させた。このとき、反応後の反応液は完全に水溶化していた。次いで、冷却し、水で希釈して、疎水性基を有する両イオン性共重合体(重量平均分子量350,000)を含む固形分20重量%の水溶液を得、これを製紙用内添サイズ剤(2)とした。
なお、単量体成分におけるアニオン性モノマーのアニオン当量をカチオン性モノマーのカチオン当量に対する比率(百分率)で示すと34%、また、得られた内添サイズ剤中の共重合体について、そのカチオン性基の4級化率は80モル%である。
【0072】
[実施例1]
カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)を400mLに調整した原料広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を用いて1.5重量%のパルプスラリーを調製し、40℃に保持した。次いで、このパルプスラリー中に、対パルプ絶乾重量に対して0.15重量%または0.20重量%の製紙用内添サイズ剤(1)と、対パルプ30重量%のロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(商品名:アルバカー5970、SMI社製)水分散物とを順次添加した後、このスラリーを1.0重量%まで希釈した。次に、得られたパルプスラリーを均一に攪拌した後、ツインワイヤー型抄紙機を使用して坪量70±1g/mとなるように抄造した基紙に、酸化澱粉(商品名:MS#3600、日本食品化工社製)10.0%、分子量数千のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂(商品名:DK6850、星光PMC社製)4.0%、スチルベン型蛍光染料(商品名:カヤホールPASQリキッド、日本化薬社製)0.3%からなる塗工液を、オンマシン上に設置されたロッドメータリングサイズプレスを用いて両面で7g/mとなるよう塗工することにより、インクジェット記録用紙1を得た。
【0073】
[実施例2]
実施例1において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の添加量を対パルプ絶乾重量に対して0.20重量%にしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙2を得た。
【0074】
[実施例3]
実施例1において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、製紙用内添サイズ剤(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙3を得た。
【0075】
[実施例4]
実施例2において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、製紙用内添サイズ剤(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙4を得た。
【0076】
[実施例5]
実施例1において用いた分子量数千のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂の代わりに、分子量数万のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂(商品名:DK6854:星光PMC社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙5を得た。
【0077】
[比較例1]
実施例1において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、市販の中性ロジンサイズ剤(商品名:ニューサイズ738、ハリマ化成(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙6を得た。
【0078】
[比較例2]
実施例2において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、市販の中性ロジンサイズ剤(商品名:ニューサイズ738、ハリマ化成(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙7を得た。
【0079】
[比較例3]
実施例1において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、市販のアルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤(商品名:ハーサイズAK−720H、ハリマ化成(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙8を得た。
【0080】
[比較例4]
実施例2において用いた製紙用内添サイズ剤(1)の代わりに、市販のアルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤(商品名:ハーサイズAK−720H、ハリマ化成(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙9を得た。
【0081】
[比較例5]
実施例1において用いた分子量数千のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を無配合としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用紙10を得た。
【0082】
実施例1〜5および比較例1〜5で得られたインクジェット記録用紙について、以下の方法で物性を評価し、結果を表1に示した。
【0083】
<インクジェット記録用紙の物性>
<評価項目>
・ISO白色度
JIS−P8148(ISO 2470)に準拠して、各インクジェット記録用紙のISO白色度(UV−in)を測定した。
・ステキヒトサイズ度
JIS−P8122に準拠して、各インクジェット記録用紙のステキヒトサイズ度を測定した。
<走行性>
得られたインクジェット記録用紙を用いて、印刷速度150m/min.でインクジェット印刷を行い、印刷時における紙滑りやバタツキ、粉落ちなどの走行性を目視評価した。
以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:良好
△:やや良好
×:不良
【0084】
<水系インクによるインクジェット記録>
各記録用紙について,インクジェットプリンターSCITEX6240システムプリンター(SCITEX社製)に上記インクを用いて、インクジェット記録を行い、以下の評価項目に従って印刷適性を評価した。評価結果を表1に示す。
<評価項目>
・耐フェザーリング性
黒色のベタ印刷パターンを印刷した後、線のニジミ具合を目視判定した。
以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:ニジミがない
△:若干、ニジミが生じる
×:ニジミが多い
・耐水性
黒色のベタ印刷パターンを印刷した後、蒸留水に30秒浸漬して耐水性を目視判定した。
以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:インクが流れ落ちない
△:若干、インク流れ落ちている
×:ほとんどのインクが流れ出した
・インク乾燥性
黒色のベタ印刷パターンを上記インクジェットプリンターでベタ印刷した後、ベタ部を指でこすり、乾燥に要するまでの時間を測定した。
以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:乾燥に要する時間が5秒未満であった。
△:乾燥に要する時間が5秒以上を超え、10秒以下であった。
×:乾燥に要する時間が10秒を超えた。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1〜5において印刷機の走行性、インクジェット印刷性能の評価は良好であった。
一方、比較例1、2はステキヒトサイズ度が低すぎるため、耐フェザーリング性が大きく悪化した。比較例3、4はアルキルケテンダイマーを配合したが、紙滑りが発生し、印刷機走行性が低下した。比較例5はポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を無配合としたため、白色度が大きく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの二次粒子形状の電子顕微鏡像の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも一方の面に、カチオン性樹脂、アニオン性蛍光染料、及び結着剤を含有し、かつ顔料を含まない塗工液を塗工してなるインクジェット記録用紙において、該基紙が、疎水性基を有するとともに、カチオン性基の少なくとも一部が4級化されてなる両イオン性共重合体を有効成分とする製紙用内添サイズ剤を含有することを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記両イオン性共重合体は、疎水性モノマー(A)、カチオン性モノマー(B)、およびアニオン性モノマー(C)を必須とし、かつ前記モノマー(C)のアニオン当量が前記モノマー(B)のカチオン当量の0.1〜90%である単量体成分を重合して得られるものであり、そのカチオン性基の4級化率は40モル%以上である請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
紙基材が填料として炭酸カルシウムを含有し、かつJIS−P8251に規定された灰分が10〜30重量%である請求項1ないし2のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
填料として使用する炭酸カルシウムがロゼッタ型軽質炭酸カルシウムである請求項3に記載のインクジェット記録用紙。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−30083(P2010−30083A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192849(P2008−192849)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】